第1章 国際テロ情勢と警察の取組み

 1996年(平成8年)12月17日(日本時間18日)、在ペルー日本国大使公邸内に、ペルーの左翼テロ組織「トゥパク・アマル革命運動」のメンバーが侵入し、多数の人質をとって立てこもる事件が発生した。この事件は、国際社会における我が国のプレゼンスが顕著になるのに伴い、我が国の権益や在外邦人に対するテロの脅威がますます高まっていくという厳しい現実を示したものであり、国際テロ情勢が極めて深刻な局面を迎えていることを改めて認識させるものとなった。
 近年、冷戦構造の崩壊、中東和平の進展等国際情勢の変化に伴い、世界のテロ情勢も変容し、かつて旧東側諸国や中東諸国からの支援を受けてきたテロ組織がその活動基盤を失いつつある一方、各国では、社会的不平等、貧困等の国内問題、宗教問題、民族問題等を背景とした様々なテロが頻発している。また、その形態も、一般市民を巻き込んだ自爆テロ、破壊力の大きい爆弾による大量無差別テロ等、手段の凶悪化、被害の大規模化の傾向がみられる。特に、我が国において発生した「地下鉄サリン事件」等オウム真理教関係者による一連の事件は、生物・化学物質等を使用した新たな形態のテロを現実の脅威として認識させ、このため各国は、早急な対応を迫られるに至っている。こうした諸情勢に加え、我が国としては、過去に数多くのテロ事件を引き起こした日本赤軍や北朝鮮の動向についても十分な注意を払っていく必要がある。
 一方、国際社会においては、テロ対策は地球規模で取り組むべき緊急課題であるとの認識の下、最近では「G7/P8テロ対策閣僚級会合(パリ)」(1996年7月)が開催されたほか、デンヴァー・サミット(1997年6月)においても、テロ対策が主要議題の一つに挙げられるなど、テロ対策に関する国際協力が精力的に推し進められている。我が国もまた、サミット参加国の一員として、これまでも国際協力の促進に積極的に取り組むとともに、各国治安機関と連携するなどしてテロの未然防止及び国際テロリストの検挙等に向けた諸対策を講じてきている。こうした取組みの結果、日本赤軍メンバーや「よど号」犯人グループの相次ぐ逮捕、身柄拘束等一定の成果もみられているものの、国際テロ情勢は依然として予断を許さない状況にある。
 テロ活動は、すべての国家と社会に対する重大な挑戦であり、国際社会が一致して対応することが不可欠である。我が国としても、国際的な動向を踏まえ、国内外における各種テロ対策を推進するとともに、テロ行為等我が国の平和と安全に重大な影響を与えるような事態に対応できる体制を一層充実させていく必要がある。


目次  次ページ