第4節 海外における外国人労働者問題の現状と対策

 世界の各国をみると、過去において外国人労働者を移民として、又は短期の出稼ぎ労働者として積極的に受け入れてきた国が多数存在する。これらの国の中で、西ドイツは、第二次世界大戦後、短期の出稼ぎ労働者として外国人労働者の導入を図った国であり、その外国人労働者の受入れに関する政策や受入れによって生じた社会問題等については、我が国にとって示唆するところが多いと思われる。また、フランス、英国は、比較的古くから、移民として外国人労働者を受け入れてきた国であり、オーストラリアは、近年になって、移民の出身国をヨーロッパ以外に拡大した国であるが、これらの国においても外国人労働者に係る社会問題を抱え、あるいは、我が国にとっても参考となる対策を採っている。

1 西ドイツ

(1) 外国人労働者の入国と定着の状況
 西ドイツは、1950年代後半以降、経済成長に伴う労働力不足を外国人労働者によって補うことを目的として、イタリア、トルコ、ユーゴスラビア等の国から積極的に労働力の導入を図った。
 西ドイツでは、当初、外国人労働者が国内に定着しないように、滞在期間を制限し、家族の呼び寄せも認めない政策を採っていた。しかし、せっかく仕事に慣れた外国人労働者を短期間で手放したくないという雇用主の要望から、滞在期間の延長が認められ、また、人道上の理由から家族の呼び寄せが認められるようになり、次第に外国人労働者の滞在の長期化、定住化が進んだ。
 こうした積極的な外国人労働者受入れ政策の下で、西ドイツにおける外国人労働者数(社会保険加入雇用者数)は増え続け、ピークの73年には約260万人に達し、その家族を含めた外国人滞在者数は約397万人に上った。ところが、第1次オイルショック後の不況と深刻な失業問題の下で、政府は、73年11月に外国人労働者の募集を停止し、「受入れ政策」から一転して「受入れの制限」と「帰国の促進」政策を採ることとなった。このため、外国人労働者数は、その後減少に転じたが、88年では、なお約162万人の外国人労働者が西ドイツ国内にとどまっている。
 他方、外国人労働者の家族を含めた外国人滞在者数は、73年以降逆に増加し、88年では約449万人で、総人口に占める比率は7.3%となっている。その国籍別内訳は、トルコが最も多く、外国人全体の33.9%を占め、以下、ユーゴスラビア12.9%、イタリア11.3%と続いている。
 外国人労働者の募集停止後も外国人滞在者が帰国せず、増加していることの理由としては、
○ 外国人労働者が帰国しても、母国では就職が困難であり、また、いったん帰国すると西ドイツで再び働くことは極めて困難になることから、外国人が帰国を望まなくなったこと
○ 人道上の理由から、家族の呼び寄せが認められ、西ドイツで73年以前から働いていた外国人労働者がその家族を呼び寄せたこと
などが指摘されている。
 現在では、外国人滞在者のうち約60%が滞在期間10年を超えており、滞在の長期化が進んでいる。これに伴い、外国人労働者の第二世代が増加し、16歳未満の外国人は、87年で103万人を数え、このうち69.0%が西ドイツ国内で出生している。
(2) 現在の西ドイツ政府の外国人政策
 西ドイツ政府は、1973年以降の70年代は、外国人労働者とその家族の入国制限と帰国促進によって問題の解決を図ろうとしたが、(1)で述べたように外国人滞在者は逆に増える傾向を示し、この2つの政策だけでは不十分なことが明らかとなった。そこで、現在では、従来の政策に加え、西ドイツで既に長期に生活している外国人労働者とその家族については、滞在身分の安定化を図り、ドイツ人と同等の諸権利を与えるなど、西ドイツ社会への統合政策を採っている。
 なお、連邦政府には、外国人労働者とその家族の西ドイツ社会への統合を促進し、外国人に関連する様々な問題の解決のための提案を行う機関として、外国人問題専門官(Beauftragte der Bundesregierung für Ausläanderfragen)が置かれている。
(3) 外国人労働者とその家族をめぐる社会問題
ア 低い職業上の地位と高い失業率
 西ドイツにおける外国人労働者の就業状況をみると、製造業、建設業で稼働する不熟練労働者又は半熟練労働者が多い。これは、ドイツ人労働者が低賃金の肉体的に厳しい仕事を避けるにつれ、外国人労働者がこうした職種を代わって引き受けたことによるものと言われている。
 次に、外国人労働者の失業の状況をみると、1973年以前は、おおむね1%以下とドイツ人に比べても低い水準を維持していたが、74年以降は、深刻な不況と産業構造が不熟練労働を必要としない方向に変化したことから、失業率は上昇に転じた。88年の外国人労働者の失業者数は約27万人と全体の失業者数の約12%を占め、その失業率も14.4%と全労働者の失業率8.7%を大きく上回っている。外国人労働者の中では、特にトルコ人、イタリア人の失業率が高い。
イ 居住をめぐる問題
 外国人労働者及びその家族の居住の分布をみると、大都市に集中しており、フランクフルトでは、住民の24.6%が外国人で占められている(87年)。また、外国人は、都市の中でも特定の地区に集中して居住する傾向があり、外国人が住み始めた地区では、ドイツ人が生活習慣や文化上の違いに耐えられなくなって転居していくため、一層外国人の集中居住が進み、いわゆる集中居住地域が作られていく傾向があると指摘されている。
 こうした地域では、外国人の母国の言語、文化、生活習慣が支配的となる。これは、外国人労働者とその家族にとって住みやすい環境ではあろうが、外国人のドイツ語の習得とドイツへの統合を妨げることとなっている。
ウ 学校教育及び職業訓練
 外国人労働者の子弟は、言葉等のハンディから、ほとんどの者は基礎教育を受けるにとどまっており、中等教育終了者は全体の15.9%、大学入学資格を得た者は、わずか0.5%にすぎない。
 また、外国人の子弟は、経済的な問題から職業訓練を受ける者の比率が低く、不熟練労働以外に職を得ることが困難となっている。
(4) 不法就労問題
 現在、新規に西ドイツに入国し、労働許可を得ることは、極めて困難となっている。しかし、現実には、許可を得ないで働いている不法就労が跡を絶たない状況にある。
 不法就労に従事する労働者は、低賃金の極めて劣悪な労働条件の下で働かされていると言われる。また、こうした低賃金の不法就労のまん延は、正規の労働者の雇用を脅かし、統一的な労働協約によって定められている労働条件を悪化させ、国の統一的な職業紹介の制度を根底から危うくしていることが指摘されている。
 連邦政府は、こうした事態に対処するため、85年、雇用促進法の改正により、外国人に不法就労をさせた派遣業者及び雇用主に対する罰則を強化した。
(5) 外国人による犯罪とその背景
 西ドイツでは、1960年代に外国人労働者の受入れを始めた当初は、外国人の犯罪者率はドイツ人と比べても大差なく、外国人労働者による犯罪は大きな問題ではないというのが一般的な認識であった。外国人の犯罪者率が高くないことの理由としては、外国人(その多くは外国人労働者である。)が犯罪を犯せば国外退去させられて、母国よりも高賃金を稼げる西ドイツに二度と戻れない結果となり、そのことが心理的にブレーキとなっているからだと説明された。
 ところが、70年代以降、外国人の犯罪は増加傾向を示し、現在では、全犯罪被疑者(我が国の検挙人員に当たる。)総数に対する外国人の割合は約2割を占め、看過し得ない問題となっている。
ア 外国人居住者による犯罪の現況
 88年の外国人被疑者の総数は、28万6,744人であり、これは、ドイツ人を含めた全被疑者の21.8%に当たる。77年には、外国人被疑者総数が15万1,968人で、全被疑者に占める割合が12.1%であったことに比べると、外国人被疑者総数、全被疑者に占める割合は、ともに著しく増加している。
 また、外国人被疑者のうち、旅行者、駐留軍関係者、不法滞在者を差し引いて全被疑者に占める割合を計算したのが、表1-14である。この数字は、おおむね外国人労働者を含む外国人居住者の犯罪の実態を表すものとみることができるだろう。これによれば、外国人被疑者の全被疑者数に占める割合は17.7%に低下するが、外国人居住者が全人口に占める割合(7.3%)よりもはるかに高い数字を示している。
 旅行者等を差し引いた外国人被疑者の全被疑者に占める割合を罪種別にみると、殺人、強姦(かん)、強盗、恐喝、賭博(とばく)において、外国人被疑者は特に高い比率を占めている。他方、故意による放火は、比較的低い比率となっている。

表1-14 西ドイツにおける外国人被疑者の状況(1988)

イ 外国人未成年者による犯罪の増加
 84年から88年にかけてのドイツ人及び外国人の未成年者(8~21歳)の被疑者数、犯罪者率の推移は、表1-15のとおりである。
 88年における外国人未成年者の被疑者数は、7万5,731人であり、87年における犯罪者率は、ドイツ人の2.4倍ないし2.6倍になっている。全体的な傾向として、84年以降、ドイツ人未成年者の被疑者数、犯罪者率は減少しているのに、外国人のそれは増加している。

表1-15 ドイツ人及び外国人の未成年者犯罪の推移
ア 児童(8歳以上14歳未満)


イ 少年(14歳以上18歳未満)


ウ 青年(18歳以上21歳未満)

 また、外国人未成年者の犯罪者率は、特に暴力犯罪(殺人、強姦(かん)、強盗、傷害、身代金目的誘拐、強要目的誘拐)について高く、ドイツ人未成年者の3倍以上となっている。
ウ 外国人居住者による犯罪の背景
 これまでみたとおり、西ドイツにおける外国人居住者の犯罪は、未成年者を中心に近年増加しており、犯罪者率もドイツ人よりも高くなっているが、ドイツ人と外国人居住者では、その属する社会的、経済的環境が異なるので、外国人であるがゆえに犯罪を犯しやすいといった単純な結論を導くことはできない。外国人居住者を犯罪に押しやっている背景について、西ドイツでは、次のような説明が行われている。
○ 少数民族である外国人は、母国の文化と相容れない移住国の規範や価値観との衝突のためにストレスを経験し、これが逸脱行動や犯罪の引き金になる。
○ 外国人居住者は、高い失業率、適切な住居の不足、不十分な教育及び職業訓練等にみられるように、ドイツ人が享受している生活条件を「剥(はく)奪」されており、この剥(はく)奪が欲求不満を生み、犯罪の背景となっている。
○ 少年の社会化の過程において、確固たる価値・規範の体系を内面化することが阻害され、そのため犯罪に走りやすい。
 西ドイツでは、外国人の統合政策を採り、ドイツ人と同等の権利の保障を進めているが、現在においても、文化等の相違から生ずる諸問題が存在し、また、労働条件が劣悪であることなど外国人が不利に置かれている状況は続いており、犯罪問題もこれから派生するものと考えることができる。

2 フランス

(1) 外国人労働者の入国の状況
 フランスでは、1950年代中ごろから北アフリカ諸国等の外国人労働者が増加した。石油危機後の74年7月には、EC諸国を除く外国からの労働者受入れを停止したが、その後も外国人労働者の家族の呼び寄せとフランスへの定住が進んだため、外国人人口は増加を続け、88年では、445万6,000人(内務省統計)とフランス総人口の約8%を占めている。しかし、実際には外国人の実態はまだ十分わかっておらず、人口さえ正確には把握されていないのが現状であると言われている。
 外国人を出身国別にみると、85年には、アルジェリアの出身者が、外国人全体の21.9%を占めており、アルジェリア、モロッコ、チュニジアの3国で外国人全体の41.0%を占めている。
(2) 政府による外国人統合政策
 現在のフランス政府の外国人政策は、新規入国者等に対する規制、外国人に対する帰国の奨励を行いながら、同時に、既にフランスに長年居住していて、しかも帰国できないような外国人に対しては、フランス社会への適応を促進、援助する「統合(insertion)政策」を採っている。
 統合政策の内容は、多岐にわたっており、外国人労働者を援助するためのフランス語教育を含む職業訓練の拡充、外国人の子弟がフランスの学校教育に適応できるようにするための支援、外国人の住宅状況改善のための施策、外国人の社会的、文化的適応を促進するための援助活動等が実施されている。
(3) 外国人労働者の受入れによって生じた社会問題
ア 外国人労働者の就業をめぐる問題
 フランスにおける外国人の就業者数は、1987年で約152万人であるが、その従事する職業をみると、特定の職業に集中しており、男性外国人労働者の75.4%、女性の場合でも39.6%が肉体労働に従事している。
 失業状況についてみると、第1次オイルショック以降の不況の下で、外国人労働者は、フランス人労働者よりも多く解雇されたため、外国人失業者数は増加し、その失業率は84年で16.6%とフランス人の失業率9.0%よりもはるかに高くなっている。失業者を国籍別にみると、アルジェリア、チュニジア、モロッコ3国の出身者については、特に失業率が高くなっている。他方、ヨーロッパ諸国出身の外国人労働者の失業率は、フランス人のものとそれほど変わらない。また、年齢別にみると、15歳から24歳の外国人若年労働者の失業率は、84年で35.3%と特に高くなっている。
イ 文化、生活習慣、宗教等の違いから生じる摩擦、攻撃事件
 フランスにおける外国人労働者の多くは北アフリカ系であり、文化、生活習慣、宗教等の面でフランス人住民と大きな隔たりがあり、このことが原因となってフランス人住民との間に少なからぬ摩擦が生じていることが指摘されている。
 こうした摩擦は、しばしば、フランス人による北アフリカ系住民への攻撃事件や移民排斥運動となって現れている。内務省の調査によれば、人種差別の動機により、移民及びその財産に対してなされた暴力事件は、近年増加しており、86年では54件を数えている。政府では、こうした人種差別の根絶に向けて、人種差別的な言論や行為を禁じたり、国民に対する啓発活動を行うなど様々な努力を行っている。
(4) 外国人に係る犯罪の状況
 フランスにおける1988年の犯罪検挙人員のうち外国人は、12万4,887人であり、検挙人員総数のうちの16.2%を占めている。
 88年の外国人居住者1,000人当たりの犯罪者率は28.0人であり、フランス人1,000人当たりの12.6人に比べると、外国人は犯罪者率が高い。外国人犯罪の中から、外国人に特有の犯罪である「外国人管理法令違反」を除いた場合、外国人の犯罪者率は、1,000人当たり20.7人となるが、依然としてフランス人よりも高い数値を示している。
 外国人が、フランス人に比べて犯罪者率が高いことについては、外国人がフランス人に比べて、経済的、社会的に劣った環境に置かれていることが原因であって、同程度の経済的、社会的環境にある者を比較した場合には、差異はほとんどなくなるとの指摘もある。

3 英国

(1) 移民としての労働者の流入
 英国では、国外からの労働者の流入は、出稼ぎという形態ではなく、移民という形態で現れ、第二次世界大戦後、主としてかつて植民地であった西インド諸島や南アジアからの移民の流入が増大した。労働力調査(Labour Force Survey)の結果によれば、英国(北アイルランドを除く。)の白人でない者の人口は、1983年から85年までの平均で234万7,000人で、全人口に占める割合は約4%に達している。また、白人以外の者の41.2%に相当する96万6,000人が、英国で生まれた者となっている。白人以外の者を出身別にみると、インド出身の者が76万3,000人(32.5%)と最も多く、次いで西インド諸島又はガイアナ出身の者が52万6,000人(22.4%)、パキスタン出身の者が37万8,000人(16.1%)となっている。白人以外の者の居住地をみると、ロンドン周辺地域に居住している者が多く、グレーターロンドン地域では、666万4,000人の人口の14.5%に相当する96万5,000人が白人以外の者となっている。
(2) 人種問題に起因する犯罪
 英国においては、白人以外の移民が増加したことに伴って、襲撃事件やいやがらせ事件のような人種問題に起因する犯罪の発生が社会問題となっており、例えば、1988年の英国犯罪実態調査(British Crime Survey)によれば、住居に対する破壊行為(Household vandalism)の被害者となったことのある者は、白人では4.7%であるのに対し、アジア人では7.5%となっているなど、アジア人が犯罪の被害者になりやすいことが指摘されている。また、白人以外の者が犯罪の被害者となった場合には、警察への届出に当たって、言語上の問題等があると考えられている。
(3) 暴動の発生とその背景
 1981年4月、南ロンドンのブリクストン地区で、3日間にわたり、黒人が大部分を占める数百人の群衆による暴動が発生した。この暴動により、279人の警察官と判明しただけで45人の市民が負傷したほか、多数の車両と28棟の建物が放火等により破壊された。英国政府の依頼により作成されたこの暴動に関する報告書では、人種を理由として不利益を受けることのあることが、暴動の発生原因の重要な要素であるとされている。また、暴動発生の背景には、ブリクストン地区の若者、特に人種的少数派(ethnic minorities)の若者の警察に対する不信感があったことを指摘した上で、暴動の再発を防止するには警察の役割が重要であるとし、警察と地域社会との協力関係が失われれば、不満は高まり、暴動発生の可能性が生じると述べている。
(4) 警察の対応
 人種問題に起因する犯罪や暴動の発生という事態に直面した英国の警察は、このような犯罪に適切に対応するとともに、暴動発生の背景にあった警察と地域社会との摩擦という問題を解消するため、次のような対策を講じている。
ア 人種問題に起因する犯罪への対策
 人種問題に起因する犯罪に対応するため、ロンドン警視庁は、この種の事件の捜査を専門に担当する捜査班を設けている。また、いくつかの警察本部では、英語及びアジアの5箇国の言語によるチラシを作成し、人種問題に起因する犯罪の被害者となりやすい者に対し、被害を受けないようにするための指導を行っている。
イ 警察と地域社会との連携の強化
 ブリクストン地区の暴動に関する報告書の提言に基づき、ほとんどの地域に警察と地域住民との協議会が設けられており、警察活動に関する地域住民の要望を警察が把握し、また、犯罪の予防のための警察と地域社会との協力関係を強化する上で、重要な役割を果たしている。また、警察が地域社会との連携を強化するために、警察職員が警察の役割と市民の安全に関する講話をすることなどが学校のカリキュラムに採り入れられている。
ウ 警察官に対する教育
 1980年代に入ってから、警察においても、警察官に対する人種問題に関する教育の必要性が認識されるようになった。ロンドン警視庁では、警察官の採用時において、市民への応接の方法についての教育を行っており、人種問題への配慮に関する教育がその中に採り入れられている。
エ 人種的少数派の人々の警察官への採用
 警察は、人種的少数派からの警察官の採用にも力を入れている。しかしながら、試験の合格率が低く、また、採用されても中途で退職する者が多いため、警察官の中に占める人種的少数派の割合はそれほど高くはない。88年末におけるイングランド及びウェールズの警察官のうち人種的少数派の者は約1,200人で、これは警察官全体の1%に満たない数字である。

4 オーストラリア

(1) 移民社会の現状
 オーストラリアは、第二次世界大戦以降、その安全保障と経済発展を図るという観点から、積極的に移民を受け入れてきた。当初は、ヨーロッパ系移民を優先的に受け入れるいわゆる白豪主義を採っていたが、1950年代後半から徐々に政策転換を行い、70年代の終わりまでには、移民についての人種、国籍による差別は撤廃し、個々の移民希望者について、オーストラリアに望ましい移民であるかどうかを審査するという移民の選別を行うようになった。
 現在のオーストラリアでは、人口の20%以上が外国生まれであり、その半分以上は英語を国語としない国からの移民である。また、移民とオーストラリアで生まれたその子供を合わせると、人口の約40%を構成する。
(2) 現在の移民政策
 オーストラリアの移民政策は、移民の受入れが、オーストラリアの社会、経済、文化の発展に資するものでなければならないという観点から決定されている。政府は、毎年、人口の動向、経済情勢、労働市場の動向、国際情勢等を考慮して、移民の種別ごとの受入れ数を設定し、これを厳格に管理している。
 また、オーストラリアの社会、経済の発展に資することのできる技術、能力を有する移民を確保するという観点から、原則として、移民希望者の職能、年齢等について点数評価し、移民の受入れの可否を決定するという移民の選別を行っている。さらに、オーストラリアに不足している分野の技術者、オーストラリアに資本を持ち込み事業を行おうとする者については、別枠として移民を認めている。そのほか、社会的、人道的な見地から、オーストラリア人の親族、難民等についても積極的に受け入れている。
 また、いずれの種別に属する移民申請者についても、健康状況、犯罪歴等が審査され、問題があると判定された場合は、移民が認められないこととされている。
 短期滞在者については、その雇用がオーストラリア人の雇用を妨げるものであってはならず、その入国によりオーストラリアに社会的、経済的コストが掛かるものであってはならないという観点から、トップマネージャー、技術者、特殊な技能を有する者等は入国が認められているが、いわゆる単純労働者の入国は認められていない。
(3) 移民社会の定着に向けての施策
 英語を母国語としない移民は、言語と文化の障壁のために、教育や社会福祉を受ける機会を失うことが多い。また、その失業率は、オーストラリア人よりも高く、彼らは、低賃金の単純労働に従事することが多いと言われている。
 こうした多様な文化的背景を持つ移民の受入れに伴って生じている社会問題に対処するために、政府は、移民のオーストラリア社会への定着を援助する様々なサービスを提供している。例えば、英語力が十分でない移民が支障なく日常生活を送れるように、100種類以上の言語についての年中無休の無料電話通訳サービス、就職のために必要な履歴書等の無料翻訳サービス、種々の英語教育の機会が提供されている。
 特に、難民等に対しては、到着後一時的な住居をあっせんし、英語教育、職業あっせん等を行うとともに、難民等の生活を支援するボランティア団体に対する援助を行っている。
 さらに、1989年7月、連邦政府は、「多元文化社会のオーストラリアに向けての国家計画」を発表した。これは、従来の移民の定着に向けての施策を発展させ、基本的なオーストラリア社会の構造を前提としながら、人種、民族、文化、宗教のいかんにかかわらず、それぞれの文化の独自性が認められ、社会的な公正が保たれ、経済的な効率性が確保される多元的文化社会の構築を目指したものである。
(4) 警察の対策
 警察においても、少数民族、特に母国における経験から民主的なオーストラリアの警察制度について理解が乏しい少数民族と警察の相互理解を促進し、すべての国民が等しく警察によるサービスを享受できるようにするため、次のような措置を採っている。
○ 少数民族出身の警察官、2以上の言語を話せる警察官等を積極的に採用する。
○ すべての警察官に対し、少数民族の文化について教育する。
○ 警察制度、防犯活動、少年問題、交通問題等について、多言語による広報資料を発行する。
○ 警察署に少数民族との連絡担当官(Liaison Officer)を設置し、当該少数民族出身者をこれに充て、オーストラリアの警察制度、法制度についての説明会を開催するなど少数民族と警察との相互理解を促進するための諸活動、防犯相談等を行う。


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