第5節 暴力団対策の現状と課題

1 暴力団対策の基本

 最近の暴力団情勢を踏まえて、警察庁においては、昭和61年12月、「暴力団総合対策要綱」を制定し、暴力団対策の基本を定めたが、それは以下のとおりである。
(1) 暴力団対策の対象
 暴力団を、その発生起源等に着目して、「博徒」、「的屋」、「その他の暴力団」の3種別に整理するとともに、暴力団に準ずる脅威を市民に与え、暴力団の資金源ともなっている総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロを暴力団対策の対象として加え、暴力団対策の対象を最近の社会情勢に応じたものとした。
(2) 取締りと暴力団排除活動との有機的連動による総合対策
 暴力団対策の基本を、取締りと暴力団排除活動とを有機的に連動させた総合対策の推進により暴力団の壊滅と暴力的不法行為の根絶を図ることとした。
(3) 総合対策推進のための体制の充実強化
 暴力団に対する総合対策の効果的な推進を図るために、警察庁及び各都道府県警察に「暴力団総合対策推進委員会」を設置して、体制の強化を図った。また、暴力団の広域化に対応して、広域暴力団に関する情報の収集、分析等を行う「広域暴力団等情報センター」を関係都道府県警察に設置し、都道府県警察間の広域連携体制を整備した。

2 暴力団の取締り

 暴力団に対する取締りは、従来から、「人、金、物」の3本の柱を中心に推進している。すなわち、「人」とは、暴力団員の大量反復検挙、「金」とは、資金源活動に対する取締りの徹底、また、「物」とは、銃器等の取締りの徹底を意味する。
(1) 暴力団員の大量反復検挙
 警察は、組織の中枢にあってその維持、運営を支える首領、幹部をはじめとする暴力団員の大量反復検挙を徹底し、さらに、犯行の組織性の解明、常習性、悪性の立証等による長期隔離に努めており、さらに、特に悪質かつ大規模な指定3団体に対しては各都道府県警察が連携しての

図1-13 暴力団員の検挙件数、検挙人員の推移(昭和54~63年)

集中取締りを実施している。
 過去10年間の検挙件数、検挙人員の推移は、図1-13のとおりであり、昭和63年には、6万8,942件、4万401人と、前年に比べ563件(0.8%)、144人(0.4%)増加している。また、指定3団体については、3万5,515件(総検挙件数の51.5%)、2万1,599人(総検挙人員の53.5%)を検挙している。
 暴力団はあらゆる罪種の犯罪を敢行しており、63年の罪種別検挙人員をみると、図1-14のとおりであり、覚せい剤事犯、傷害、恐喝、賭博(とばく)、窃盗及び暴行が目立っており、これら6罪種による検挙人員は、2万8,439人であり、総検挙人員の70.4%を占めている。

図1-14 暴力団員の検挙状況(昭和63年)

(2) 暴力団の資金源活動に対する取締り
 近年、暴力団は、資金源活動をますます多様化、巧妙化させたり、上納金制度を確立させたりしており、また、国民の中に暴力団を利用し資金を提供してこれを支えている者もいることなどから、暴力団の資金源を完全に封圧するのは容易ではない。
 しかし、警察は、暴力団の資金源活動に対する取締り等を一層強化するなど積極的な取組を行い、暴力団の資金の涸(こ)渇化を図っている。
 暴力団の伝統的な資金源活動は依然として活発であるが、その中核を成す覚せい剤事犯、恐喝、賭博(とばく)及びノミ行為等の公営競技4法違反により、警察は、昭和63年には、総検挙人員の47.7%に当たる1万9,288人を検挙した。
 また、暴力団は、このような伝統的な資金源活動に加えて、民事介入暴力、企業対象暴力といった新しい資金源活動を展開している。
 民事介入暴力については、54年に、警察庁に「民事介入暴力対策センター」を、各都道府県警察に民事介入暴力対策官をそれぞれ設置して、民事介入暴力に対する取組を強めるとともに、その根底にある民事問題の解決のため、日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会、各単位弁護士会の「民事介入暴力被害者救済センター」等関係機関、団体との密接な連携を図りながら、民事介入暴力に関する相談活動等を行っている。63年に、警察は、民事介入暴力に関する相談を2万308件受理したが、これに基づいて、積極的な検挙措置を講じ、3,290件の民事介入暴力事案を検挙した。また、検挙に至らない事案についても、相談者への助言、指導、関係暴力団への警告等により事案の解決を図っている。
 一方、企業対象暴力については、61年に、警察庁、各都道府県警察に企業対象暴力指導官を設置し、企業対象暴力に対する取組を強めるとともに、50年代以降、各都道府県単位に企業防衛対策協議会、特殊暴力防止対策連絡協議会等、企業対象暴力に対する企業の自衛組織の結成を図っている。
 特に最近、社会運動標ぼうゴロによる企業対象暴力(エセ同和行為)が活発化しているところから、これに政府として対処するため、62年に「えせ同和行為対策中央連絡協議会」が設置され、同会議において「えせ同和行為対策大綱」が決定された。警察においても、これを受けて、エセ同和行為に対して厳正な対応を行っている。
 63年における企業対象暴力に対する検挙状況をみると、商法違反、恐喝等により総会屋等を61件、75人検挙し、また、傷害、恐喝等により社会運動等標ぼうゴロを773件、946人検挙した。
 なお、暴力団の資金源対策のためには、彼らの膨大な収入に対する厳正な課税措置が重要であり、その強化が望まれる。捜査の過程等において暴力団員の不正な所得を発見した際には、税務当局に通報することとしており、63年には約240件、約66億円の課税通報を行った。
(3) 銃器の摘発
 近年、けん銃等の密輸手段や隠匿方法はますます巧妙化し、銃器等の摘発は困難化してきているが、警察では、組織的な情報収集活動、効果的な捜索活動、街頭における職務質問等の強化により、銃器等の摘発に努めるとともに、税関や海外の捜査機関等との連携による水際での検挙の徹底を図っている。
 過去10年間の暴力団関係者からのけん銃押収数の推移は、図1-15のとおりである。昭和63年は、対立抗争事件の発生回数が減少したことなどから、前年に比べ285丁減少しているものの、8年連続して1,000丁を超える高い水準を維持している。

図1-15 暴力団関係者からのけん銃押収数の推移(昭和54~63年)

 これを団体別にみると、指定3団体が際立って多く、53年には438丁であったのが、63年には629丁と増加の傾向にある。中でも山口組からの押収数は特に多く、53年には288丁であったのが、63年には395丁に上っている。
 暴力団が保有、使用するけん銃の多くは、海外から密輸入されている。最近5年間の密造国別の真正けん銃押収数は、表1-21のとおりであり、フィリピン2,000丁(全押収数の32.2%)、米国1,827丁(29.4%)と、両国がけん銃の重要な調達先となっていることがうかがわれる。
 また、密輸入の手段としては、航空機を利用する例が多く、テーブル、置物等の貨物の内部、キャリーバックの二重底の内部、着用の衣服の中等に巧妙に隠匿して密輸入しようとしている。

表1-21 密造国別の真正けん銃押収数(昭和59~63年)

〔事例〕 山口組系暴力団準構成員(34)は、自動車部品等の輸入会社を設立し、数回にわたって、けん銃を隠匿した中古の自動車エンジン等を輸入し、けん銃38丁を密輸入した。6月28日逮捕(静岡)
(4) 被害者等の保護措置
 暴力団犯罪の被害者又は参考人、暴力団排除活動の関係者等に対するいわゆるお礼参りは、暴力団の本性に根ざすものであり、暴力団の敢行する違法行為の中でも最も悪質なものの一つである。
 これら被害者等に対して厳重な保護措置を講じ、お礼参りの未然防止に努めることは、暴力団対策の基本であり、警察では総力を挙げて取り組んでいるところである 。

3 暴力団排除活動

 暴力団を根絶し、また、その違法行為を抑止するためには、強力な取締りとともに、暴力団の社会的基盤を掘り崩し、暴力団を社会的に孤立させるための暴力団排除活動が必要である。警察は、関係機関、団体等と密接に連携しつつ、暴力団排除活動に強力に取り組んでいる。
(1) 地域における暴力団排除活動
ア 地域における暴力団排除組織の結成
 都道府県レベルの暴力団排除組織は、昭和63年12月末現在、18道府県において結成されており、官民一体となった暴力団排除活動を展開している。中でも、「(財)暴力追放広島県民会議」及び「神奈川県暴力追放推進協議会」は、それぞれ十分な規模の財政的裏付けを持ち、専従の職員を持って強力に暴力団排除活動を推進している。
(ア) 「(財)暴力追放広島県民会議」
 60年から61年にかけて、暴力団排除活動の指導者宅に対する嫌がらせ事件が続発する中、広島県警察による徹底した検挙活動が進められる一方、61年12月の広島県議会において「県民と関係機関が一体となり、暴力団の追放運動を展開する」ことが決議された。この決議に基づき、62年8月に「(財)暴力追放広島県民会議」が設立された。
 同財団法人では、暴力団排除のための事業として、
○ 広報啓発活動
○ 暴力監視活動
○ 被害者の救済、保護活動
○ 暴力相談活動
○ 暴力追放のための各種の情報、資料の収集、交換
等を行うこととしており、暴力相談電話の開設、専従相談員や顧問弁護士による暴力相談室の開設、暴力団に対する訴訟を援助する制度の創設等の活動が推進されている。
(イ) 「神奈川県暴力追放推進協議会」
 62年、市民生活を脅かす暴力団事件の多発に対し、神奈川県警察による徹底した取締りが行われたのに加え、横浜市内のマンションの居住者による山口組系暴力団組長に対する同マンションからの立ち退きを求める訴えが最高裁で認められるなど、暴力団排除の気運が大きく盛り上がりをみせた。こうした中で、既存の暴力団排除組織等から県民総ぐるみの組織の結成を求める声が上がり、62年10月、関係機関、団体からの補

助金等をもって運営される「神奈川県暴力追放推進協議会」が設立された。
 同協議会では、暴力団排除のための事業として、広島県と同様に暴力相談活動等をはじめとする各種の活動を強力に推進している。
イ 暴力団事務所撤去活動
 暴力団事務所は、暴力団活動の拠点であって、地域住民に不安と危険を与えているが、その暴力団事務所に対する撤去活動は、地域における暴力団排除活動の中で、現在最も活発に行われている。
 警察では、地域住民と連携した暴力団事務所撤去活動を推進しており、63年には、静岡県浜松市における一力一家組事務所撤去活動をはじめとする暴力団事務所撤去のための住民運動が盛り上がりをみせ、その立ち退きを求める民事訴訟等も活発に行われたことなどから、指定3団体傘下の暴力団事務所151箇所をはじめ、全国で253箇所の暴力団事務所が撤去された。これは、前年に比べ66箇所(35.3%)の大幅な増加となった。
 これらの民事訴訟において、暴力団組長が所有するビルに開設された暴力団事務所について、付近住民の人格権を根拠に、同ビルを暴力団事務所として使用することの差止めを認める裁判例が出てきている。62年10月9日の静岡地方裁判所浜松支部は、仮処分決定により、「反社会的傾向の強い組織体として、いわゆる暴力団であるとみられてもやむを得ない…(中略)…一力一家が現状のまま、その周辺地域の住民らと円滑に共存し得るものとは到底認められない」、「一力一家の事務所として公然と使用することは…(付近住民の)…人格権を侵すことになる」として、暴力団事務所としての使用の差止めを認めている。
〔事例〕 山口組系一力一家組事務所の撤去のために粘り強い住民運動を展開した浜松市海老塚地区の住民は、警察、市及び弁護士会と連携の上、住民の人格権侵害を理由に同組長所有の建物を組事務所として使用することを差し止める仮処分決定を得、さらに、それを担保するための間接強制の決定を得た後、63年2月、裁判上の和解により、同組事務所を撤去することに成功した(静岡)。
ウ 各種の義理かけ行事の阻止
 各種の義理かけ行事は、暴力団の勢力誇示行為であるとともに資金源活動の一環でもあり、極めて反社会性の強い行事であるといえる。
 警察としては、このような義理かけ行事を、市民の安全の確保及び暴力団の資金源対策の観点から重要な問題としてとらえ、義理かけ行事の舞台となる寺院、ホテル、公共施設等の管理者に対して、暴力団の利用を拒否するよう協力を要請するなど、その阻止に努めている。
 63年には、警察は、指定3団体によるもの29件を含む55件の義理かけ行事に対し規制措置を採った。

〔事例〕 12月、全日本寄居連合会系暴力団組長の出所祝いがディナーショーに名を借りて温泉街のホテルで実施される旨の情報を入手したことから、ディナーショーへの出演予定者の所属する音楽事務所及びディナーショーが行われる予定のホテルに対して働き掛け、それぞれから協力を得て、その実施を完全に阻止した(北海道)。
エ 地域におけるその他の暴力団排除活動
 地域社会における暴力団の資金源活動の封圧と市民の安全の確保のために、関係機関、団体との連携の下に、露店市場、ゴルフ場等市民生活の場からの暴力団排除活動を積極的に推進している。
(2) 職域における暴力団排除活動
ア 各種の業界からの暴力団排除活動
(ア) 建設業からの暴力団排除活動
 暴力団は、建設業を自ら経営し、又は経営に関与することにより、下請の強要、契約仲介によるマージンの支払いの強要、融資の強要等種々の違法行為を行い、また、一般の建設業者から地域対策費や寄附金等の名目で金品等を喝取するなど、建設業界から相当の資金を違法、不当に獲得している状況にあった。
 これに対して、全国各地の建設業協会等で暴力団排除決議や暴力団排除組織の結成がなされるなど、業界内部から暴力団の排除のための自主的な努力がなされるとともに、昭和61年12月以来、警察と関係機関とが連携して、暴力団構成員が経営し、又は経営に関与する場合には、建設業の営業許可を与えず、公共工事から締め出すことなどにより、建設業からの暴力団排除を図っている。
(イ) 不動産業からの暴力団排除活動
 近年、暴力団は、都市部における地価の高騰を背景に、「地上げ」等不動産に関する各種の紛争に介入、関与し、違法、不当な資金を獲得す るなどの事案が多発した。
 これに対して、不動産業の業界団体において、暴力的行為を行うなどの悪質業者を業界から排除するなど、組織を挙げて暴力団排除のための自主的な努力がなされるとともに、62年12月以来、警察と関係機関とが連携して、暴力団構成員が経営し、又は経営に関与する場合には、宅地建物取引業の営業免許を与えないなどにより、不動産業からの暴力団排除を図っている。
イ 公営競技場からの暴力団排除活動
 公営競技の健全な実施、暴力団の資金源封圧及び市民の安全確保のために、60年11月以来、警察と公営競技施行者とが連携して、公営競技場からの暴力団、ノミ屋等の排除方策を強力に講じている。
 63年には、本方策に基づき全国の公営競技場から暴力団員約3,500人、ノミ屋等約1,400人を排除している。
ウ 職域におけるその他の暴力団排除活動
 公共施設を利用した資金源活動、公的給付の不正受給及び公共料金の不払い等を防止するために、警察と関係機関、団体等とが連携して、これらの施設及び制度からの暴力団排除活動を積極的に推進している。
 また、近年、暴力団排除のための条項を営業許可等に関する法律で定める例もみられる。例えば、警備業法及び「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(風営適正化法)においては、いずれも「集団的に、又は常習的に暴力的不法行為その他の罪に当たる違法な行為で国家公安委員会規則で定めるものを行うおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」に対しては、営業の許可等を与えないものと定めている。

4 海外の捜査機関との連携

 近年、暴力団の海外進出が活発化していることから、暴力団の海外における活動に対処するため、その実態を掌握するとともに、海外の捜査機関と緊密な連携を取ることが不可欠である。
 このため、昭和62年5月、警察庁に「暴力団海外情報センター」を設置し、暴力団の海外における活動に関する情報の収集、分析のための体制を整備するとともに、特に暴力団の進出が顕著である米国やフィリピン等東南アジア諸国との連携の強化に努めている。
 米国の捜査機関とは、55年以来5回にわたる「日米暴力団対策会議」において、組織犯罪対策、銃器、薬物の取締り等に関する各種の情報交換を行い、両国の組織犯罪に対する認識を深め、連携の基礎を築いてきており、その上で、捜査員の随時の派遣等を通じて密接な情報交換を実施してきている。
 東南アジア諸国の捜査機関とは、63年6月、組織犯罪等について協議するため、東京において、「アジア、太平洋地域治安問題担当閣僚会議」を開催し、また、平成元年1月、組織犯罪対策部門の直接の責任者を東京に招いて、「第1回アジア地域組織犯罪対策セミナー」を開催し、各国及び地域が直面する組織犯罪の現状に関する認識を深めるとともに、今後の緊密な情報交換を図ることとした。

5 今後の課題

 以上みてきたように、暴力団は、今や経済的利益を求めてその活動範囲を拡大し、正に市民生活と経済活動を食い物にする犯罪組織となっている。しかも、暴力団の大規模化、系列化はその脅威を一層深刻なものとしている。この暴力団による脅威と害悪を除去するためには、暴力団員による個々の犯罪の防圧、検挙のほか、暴力団という組織そのものの壊滅が必要である。警察は、このような観点に立って、一貫して断固たる厳しい姿勢で、取締りと暴力団排除活動を推進している。
 しかし、その壊滅へ向けての暴力団対策は、次のように、従来にも増して困難となってきている。
 第1に、暴力団の大規模化、系列化及びそれに伴う上納金制度の確立等により首領、幹部クラスが資金源犯罪を直接実行することが極めて少なくなり、また、暴力団の組織防衛が強化されたことなどによって、暴力団の壊滅のために不可欠な首領、幹部クラスの検挙といった暴力団組織の中枢への打撃を与えることが著しく困難化してきているということである(第2節2(1)、(2)、4(2)ア参照)。
 第2に、近時の民事介入暴力や企業対象暴力の増加にみられるように、暴力団の資金源活動は一層多様化、巧妙化してきており、そのため暴力団の資金源の封圧は一段と困難化してきているということである。このように、民事介入暴力や企業対象暴力が増加する原因の一つとして、暴力団の存在を容認し、さらにはこれを利用する層が存在していることが挙げられる(第1節2(2)、第2節4(1)ウ、第3節1参照)。
 第3に、暴力団の資金源となり得る合法事業分野における営業許可等について暴力団排除のための規定を置いた法令は極めて少ないが、このような状況の下で、暴力団が法的規制のない事業分野に進出し、暴力団としての威嚇力を行使するなどして、不当な利益を獲得する傾向が顕著になっており、暴力団の合法事業分野からの排除は困難化してきているということである(第2節4(1)エ、第5節3(2)ア参照)。
 第4に、新たな資金源活動を行ったり、銃器、薬物等を入手したりするために、暴力団は、海外での活動を活発化させており、警察の取締りは一層困難化してきているということがある(第1節2(4)参照)。
 このような事情の下で、暴力団の壊滅を達成することには、著しい困難性があり、これらの問題点に適切に対処していかなくてはならない。
 そのため、まず、第1の問題点に対しては、首領、幹部クラスの検挙の困難性にかんがみ、従来以上に組員の大量検挙に向け、警察の総合力が発揮できるように取締り体制を一段と充実する必要がある。さらに、暴力団構成員の検挙を組織離脱に結び付けるためには、検挙された暴力団構成員の社会からの長期隔離が不可欠であり、そのため、暴力団犯罪及びその背後に存在する暴力団の悪質性について関係当局に一層の理解を求める努力が必要である。
 また、犯罪行為で獲得した資金を暴力団の組織中枢に帰属させないために、税務当局との連携を一層緊密化していくとともに、新たな方策についても検討を進めていかなければならない。
 第2の問題点に対しては、まず、従来行ってきている警察と弁護士会、企業の自衛組織等との連携を一層強化することによって暴力団による民事介入暴力、企業対象暴力の封圧を強力に進めることが必要である。さらに、各都道府県において「(財)暴力追放広島県民会議」のような暴力団排除組織の結成を促進していくことはもちろん、将来的には国民各層を結集した全国的な暴力団排除組織の結成を図るなどして、暴力団の悪質性やこれを利用することの危険性等に関する啓発活動を強力に展開し、暴力団を利用する行為や暴力団を容認する意識を社会からなくしていくことなどによって、暴力団を支える社会的、経済的土壌を掘り崩していくことが必要である。
 第3の問題点に対しては、暴力団としての威嚇力を行使するなどして不当な利益の獲得を図るおそれのある事業分野から暴力団を排除するために、関係機関、団体等との連携をより緊密化するとともに、暴力団排除のための制度の整備を図ることが必要である。
 第4の問題点に対しては、税関、入国管理局等関係機関や海外捜査機関との連携を一層密にするとともに、海外における情報収集体制の整備を図ることが必要である。
 なお、第1及び第4の問題点に関連して、63年に「麻薬及び向精神薬不正取引防止条約(United Nations Convention against Illicit Traffic in Narcotic Drugs and Psychotropic Substances)」が採択されているが、その内容には薬物取引の収益の剥(はく)奪や薬物犯罪の取締りにおける国際協力のための法的手段の強化が含まれており、このような措置が我が国においても実施されるならば、暴力団取締りにも有効なものとなるであろう。
 以上のように、暴力団の壊滅に向け、その対策を一層強化、発展させていかなければならないが、今後は、これと併せて、外国法制等も参考としつつ、暴力団の壊滅をより効果的に実現するために必要な法制度の整備についても積極的に検討していかなければならない。


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