第4節 海外の組織犯罪の現状と対策

 暴力団のような組織が敢行する犯罪は、国際的には組織犯罪(Organized Crime)と呼ばれている。組織犯罪は、それぞれの地域の治安はもとより経済にまで多大の影響を与えている。組織犯罪が経済に与える影響について、1988年4月11日、米国上院犯罪小委員会において、セッションズ連邦捜査局(FBI)長官は、
 「『組織犯罪に関する大統領諮問委員会』は、組織犯罪活動者たち(Organized Criminal Enterprises)は年間1,000億ドル以上の収入を得ていると見積もっている。そのことは65億ドル分の租税収入と米国労働者の41万4,000人分の雇用の機会を奪っている。」
と証言している。
 そこで、組織犯罪に苦しむ国々においては、これに対抗するために、立法措置をはじめ各種の対策を講じていることが多い。これらの国々の中で、我が国と類似の犯罪組織が存在する米国、イタリア及び香港における組織犯罪の現状と対策について紹介する。

1 米国

 米国には、イタリア系移民を中心として結成されたマフィア(Mafia)という犯罪組織(イタリア語で「我々のもの」という意味のラ・コーザ・ノストラ(La Cosa Nostra)と呼ばれることもある。)がある。
 マフィアのそれぞれの組織はファミリーと呼ばれ、その組織構成は、図1-12のようになっている。ファミリーの首領はボスと呼ばれ、その

図1-12 ファミリーの組織構成

下にアンダーボスがおり、さらに、その下にカポと呼ばれる幹部、その下にソルジャーと呼ばれる構成員がおり、組織全体としてピラミッド型の構成となっている。また、ボスには、コンシグリエーレと呼ばれる顧問役がおり、弁護士又は高齢により引退したボスをこれに充てている。
 このほかに、マフィアの構成員ではないが、アソシエート(Associate)と呼ばれるマフィアの組織を支える者がいる。
 マフィアが敢行する犯罪は、実に多様であるが、その主なものは、労働組合搾取(Labor Racketeering)、麻薬密売、賭博(とばく)、高利貸し、殺人、誘拐、売春、恐喝、密輸等であり、これらを主要資金源としている。
 マフィアの組織を特徴付けるものとして、服従の掟(おきて)と沈黙の掟(おきて)とを挙げることができる。服従の掟(おきて)とは、文字どおり、上位構成員には完全に従うということを意味し、また、沈黙の掟(おきて)とは、組織内部のことを決して外部に漏らしてはならないということを意味するものである。もし、上位構成員の命令に従わなかったり、また、警察等に情報を提供したりするなどして、これらの掟(おきて)に背いた場合には、リンチ等の厳しい制裁が加えられる。これらの掟(おきて)の存在により、マフィアの組織の全容解明は非常に困難なものとなっている。
 このような組織犯罪に対しては、従来から様々な法令を駆使した強力な取締りが推進されてきた(注)が、これと併せて各種の対策法制の整備が図られてきている。
(注) シカゴのマフィアのボスであるアル・カポネは、1931年、脱税により懲役11年、罰金5万ドルに処された。
各種の対策法制のうち、主なものは次のとおりである。
○ 組織犯罪構成員間の共謀等について立証するために、1968年の「総合犯罪防止・安全市街地法(Omnibus Crime Control and Safe Streets Act)」によってエレクトロニック・サベーランス(令状に基づく電話傍受等)という捜査方法が認められた。
○ 個々の犯罪行為ではなく、犯罪組織そのものに対して必要な措置を採れるようにするために、1970年に「RICO法」(注1)によって犯罪組織による企業支配等が禁止され、広範な没収制度が設けられた。
○ RICO法等による没収を避けるため一層巧妙となった資金浄化活動(注2)に対処するため、1986年の「資金浄化規制法(Money Laundering Control Act)」によって資金浄化活動の規制を強化した。
○ 組織犯罪を立証するための証人が殺害される事例が多く発生したので、証人の安全を確保するため、「証人保護プログラム(Witness Safety Program)」が設けられ、証人になった者に対して、本人の希望によって新たな身分や住居を与えるなどの措置が講じられることとなった。
(注1) RICO法(Racketeer Innuenced and Corrupt Organizations Statute)は、一定の犯罪行為によって得た利益を用いて犯罪組織(Enterprises)を維持すること、また、それによって得た利益を用いて企業を支配することなどを禁じており、違反者は20年以下の懲役又は2万5,000ドル以下の罰金若しくはその併科に処せられる。また、一定の犯罪行為によって獲得した利益及び犯罪組織による企業支配の基盤となる財産や財産上の権利等も広く没収の対象となる。
(注2) 資金浄化活動(Money Laundering)とは、犯罪者が、麻薬取引等によって得た不正資金を他の金融機関へ預金、投資することにより、その分別を不能にし、捜査、税務当局の追及を困難にすることをいう。
〔事例〕 ピザ・コネクション事件
 マフィアのファミリーのボスであるカタラーノは、シチリアのマフィアと組んで、シチリアから2トンのヘロイン及び4,000ポンドのモルヒネを密輸し、支配下のピザ・パーラーを通じて密売した。本事件により、1984年、米国で27人が検挙され、また、イタリアでは、この事件の捜査に基づいて175人が検挙された。

2 イタリア

 古くからイタリアには、シチリアを発祥地とするマフィア、ナポリを発祥地とするカモッラ(Camorra)等の犯罪組織が存在しており、国内治安上最大の問題とされてきている。
 これらイタリアの犯罪組織にも、服従の掟(おきて)と沈黙の掟(おきて)があり、容易にはその実態の解明ができないが、その組織構成は、米国のマフィアと同様の形態を取っている。また、その資金源活動は、薬物、売春、恐喝、密輸等が主なものである。
 イタリアでは、これら犯罪組織に対処するため、1982年9月13日法律第646号によって、マフィア等の犯罪組織を非合法化した。すなわち、この法律においては、「マフィア型の結社」を、「その構成員が罪を犯すため、また、経済活動、許認可、払下げ、公の請負等を管理、支配するため、結社の威嚇力、服従の掟(おきて)と沈黙の掟(おきて)を利用したときの組織、団体をいう」と定義し、3人以上で構成されるマフィア型の結社に加入した者については、3年以上6年以下の懲役、この結社を発起し、指導し、又は組織した者については、4年以上9年以下の懲役に処するなどの規定を置いている。
 また、1988年には、法律で国会に組織犯罪の実態を調査するための委員会が設置され、現在、活動が継続されている。

3 香港

 香港には、三合会と総称される犯罪組織が存在しているといわれる。元来、三合会とは、清朝打倒を目的として中国で結成された秘密結社であったが、徐々に犯罪組織へと変質し、現在では香港の犯罪組織の代名詞とされるほどになった。近年、三合会は、ストリート・ギャング等と呼ばれる不良青少年の集団への影響力を強め、また、それらの集団から三合会の構成員となる者が目立ち、三合会の青少年層への浸透が社会問題化している。
 三合会の資金源活動は、賭博(とばく)、売春、恐喝、みかじめ料、高利貸し、薬物の密売、ポルノ販売といった伝統的なものから、ダフ屋、まあじゃん教室の経営等といったものまで様々である。
 香港には、三合会を含む犯罪組織を規制する法律として、香港法第151章の規定がある。ここでは、三合会の組織そのものを違法なものとして禁止している。すなわち、三合会を形式的にとらえ、三合会の儀式を行い、また、その名称を使用する組織等を三合会であるとみなし、三合会を組織し、また、参加するだけでも犯罪としている。


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