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第1章 損害回復・経済的支援等への取組

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4 雇用の安定(基本法第17条関係)

コラム2 弁護士による犯罪被害者支援手記

日本弁護士連合会犯罪被害者支援委員会委員

私は平成18年に弁護士登録し、以来、犯罪被害者の支援に関わっています。

なぜか、私の所属会では、全国的にも取り上げられるような痛ましい事件、大きな事件が次々と起こっていました。

そういった事件の対応をするうちに、弁護士会の犯罪被害者支援委員会のメンバー間でもノウハウが蓄積され、チーム対応、他機関と連携した早期支援もスムーズになってきたように思います。

とある事件の支援を報告します。

幼いお子さんが殺害された事件で、マスコミ報道が過熱していた件でした。事件直後から複数機関と連携して対応していましたので、特に初動対応について、日にちごとに紹介します。

【犯人逮捕の当日】

公益社団法人被害者支援センター(以下「センター」とします。)と県警被害者支援室(以下「支援室」とします。)で支援を要するかを検討され、すぐに支援室からセンターに情報提供がなされ(支援室が被害者御遺族から了承を得て、センターに被害者情報を伝え支援を開始する。)、センターから弁護士に支援要請が入りました。

その日のうちに、センター支援員と弁護士が、支援室の用意したホテルに避難されていた御遺族と面談しました。御遺族は憔悴されており、普通にお話しできるような状況ではありませんでした。そのような中、警察対応、搬送先病院との連絡、メディア対応など、怒濤のような電話・訪問などへの対応を迫られており、心身共に限界を超えている御様子でした。

メディアスクラムへの対応が急務であったため、すぐに記者クラブに通知を入れつつ、御遺族コメントを発表しました。

このような際には、できるだけ窓口を集約して御遺族に取り次ぐなどして、負担がかかる範囲・回数等を減らす役割がいると望ましいと思われます。

【犯人逮捕の翌日】

弁護士事務所にて、弁護士チーム、支援室、センター支援員、市の被害者対応課、区役所担当部署が一堂に集まり、今後の支援について打合せを行いました。

  • 被害者の送迎、一時避難先確保など:支援室
  • 住居・生活上の支援:区役所担当部
  • 被害者保護条例の運用:市の被害者対応課
  • 心理ケア:センター支援員にてカウンセリングを手配

また、被害者が通っていた学校とも、児童への説明、お葬儀の段取り(お友達がお別れできるよう)等について、電話打合せを繰り返しました。

複数機関で情報共有し打合せを一本化したのは、項目毎に被害者が出向いたり説明を繰り返したりされる負担を軽減する趣旨でした。

【お通夜~御葬儀】

御遺体の搬送につき、メディアの追跡を避けるため警察、葬儀社とタイミング・動線等の段取り確認を入念に行いました。搬送完了後には、マスメディアに対して御葬儀の時間等を告知して、学校関係者や児童にカメラを向けないよう申し入れをしました。

これは、日程等を隠しておくと、メディアの張込み等が続いてしまうため、オープンにする方が御遺族はじめ関係者の負担が少ないと判断したためです。

【その後の流れ】

大量のメディア問合せに、様々な区切りごとにコメントを出し(御葬儀の時、犯人起訴時、裁判開始時、判決時等)、不適切報道に対する申入れ等を繰り返しつつ、対応を続けました。

そして、臨床心理士とも連携しながら刑事裁判への被害者参加を行い、法廷での被害者証言(遮へい措置を講じての証言に、臨床心理士の先生も付添)、被害者の心情意見陳述、参加弁護士による被害者論告等を行いました。

この間、当初の打合せのとおり、各機関がそれぞれ、送迎支援、生活支援、心理サポート等を続けていました。また、事件現場付近住民が設置した献花台には多くのお花、菓子、玩具等が供えられたため、親交のある神主にお願いし祭事を行った上で、処分や寄付を行いました。

【まとめ】

この件では被害発生のごく初期から複数の機関が一堂に会し、情報の共有や支援の分担を行えたことから、被害者御遺族の御負担を多少なりとも軽減できたと思われます。

このような連携は、平素より関係者相互のパイプを作っておき、適材適所の割振りができてこそ可能と思われますので、今後も、重大事件が起こってしまったときにはスムーズに動けるよう、準備と土台作りを続けていきたいと思っています。

もっとも、入念に準備をしても、それが役に立たないまま月日が流れること、すなわち、そのような被害が起こらないことを、何よりも望んでいます。

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