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第1章 損害回復・経済的支援等への取組

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4 雇用の安定(基本法第17条関係)

コラム1 15年経った今、あらためて思うこと

公益社団法人被害者支援センターとちぎ

自助グループ「あかしの会」

小佐々 洌子

廃棄物処理業者の不正なごみ処理問題が発覚し、その不当要求をはねつけていた鹿沼市職員だった夫、小佐々守(当時57歳)は、2001年10月、帰宅途中に拉致・殺害されました。暴力団幹部ら4人が逮捕され、実行犯3人が殺害を認めました。事件発覚後、殺害を依頼した主犯の廃棄物処理業者は自殺しました。

夫は孤立無援の中で不正と闘い続け、理不尽な行政対象暴力の犠牲となりました。

夫の遺体はまだ見つかっていません。

「もう、15年も経ったのね」

「早かったですね」

「少しは元気になった?」

「15年ですか。ひとつの節目ですね」

昨年10月末に事件から15年を迎えた時分の知り合いとの会話です。

「遺体はまだ戻ってこないのに……」とつい、思ってしまいます。

15年も経つと夫のこと、事件のことが忘れられてしまいそうで不安です。しかも、いろいろな場所で私の悲しみ、悔しさは逆に増しています。

買い物に行って、夫の同級生夫妻が一緒に歩いていたり、定年後の市職員夫妻がふたりで散歩していたり、孫さんと遊んでいたりすると、私にはつらい光景です。

「私はいつもひとりなのに……」と、つい、悔しさが抑えられずその場をそっと、離れてしまいます。

こんな思いを知人に話すと逆に引いてしまう人もいます。「まだ忘れていないの?」とか、言葉は無くても戸惑いの表情をする人もいます。

一方、私は表情だけでも「元気」を発信したくて無理やり笑顔を作ったりしてしまいます。でも、疲れて心の傷も増えてしまいます。

事件後、私はそれまで付き合いをしていた友人、知人を何人も失いました。

少しばかり事件のことを知っているつもりで、市役所のことを得意になって、こと細かに批判したり、私を励ますつもりで「頑張ってね」とか、「そろそろ外に出ないとだめでしょう」と言われ続けました。気持ちはありがたいのですが逆にそれが重荷になって素直になれませんでした。そのため、自ずと私の方から遠ざかってしまったわけです。私には皆さんの励ましの言葉をすべて受け入れる度量はありませんでした。人に促されての行動はやはり無理があり、本心から「外に出てみよう」と思うようになったのは4年以上が過ぎてからです。

現在、私が心おきなく事件のことを話せる人たちは同じ被害に遭った人たちや遺族の皆さん、被害者支援センターの皆さん、被害者に理解を示してくれる人です。身構えずに素直な気持ちになれるのでありがたいです。

ただ、現状を考えると、被害者支援センターや犯罪被害者に理解を示してくださる人が多いとはまだまだ言えないと思います。自分の身の回りに被害者が出て初めて、その過酷な現実に戸惑う人がほとんどです。これでは遅すぎます。

私の家族のように生活もままならず、心身ともに健康を害し、仕事も辞めざるを得なくなる者もいるわけです。もっと被害者に対して理解が必要だと思っています。ぜひ、自分の身に置き換えて考えてみてください。

私は夫の事件からいろいろな病気に苦しみました。行きたくもない病院へ治療のために行くと、名前を呼ばれた瞬間、事件の被害者として好奇の目にさらされ続けました。自分の名前が知られるのが嫌で私の旧姓を使用したことも多々あります。被害者になると窮屈で住みにくい世の中であることを実感し、どれ程悲しくつらい思いをしたことでしょう。誰も好き好んで被害者になったわけではありません。しかも、誰にでも被害者になる可能性はあるわけです。だからこそ、温かいまなざしで被害者を見守っていただきたいと思います。事件前の状態に戻ることは難しくても、徐々に閉ざされた心は開いていくはずです。

夫は今も群馬県内の冷たい山中で眠っています。なかなか助けられず、いつも謝り続けています。しかも、突然姿を消してしまい約1年3か月後に殺害されていると告げられても、事実を受け入れることさえ容易ではありませんでした。伴侶として当たり前のはずの、夫を看取ることもできず、最期の別れも言えず、31年間連れ添ったお礼も言えずに、遺骨のない葬儀を執り行うなど、あまりにも世間とはかけ離れた別れ方です。

だからこそ私には切実な願いがあります。「もう一度会いたい」ということです。でも、不可能なことも良く分かっています。そこで、可能性が全くゼロではない願い……何としても、夫を我が家に連れ帰ることなのです。遺骨をしっかり抱きしめて「お帰りなさい。つらかったでしょう」と、再会を果たして伝えたいのです。犯罪被害者としてごく当たり前のことを望んでいるつもりでも、この願いはどんどん私から遠ざかってしまいそうです。最近では私が夫の元へ旅立つ方がむしろ早いのではないかとさえ思っています。でも、まだ私には宿題が残っています。

被害に遭ってつらい思いをする人を何としても減らしたいのです。

そして、たったひとつしかない命を大切にして欲しいと、私の体験を通してお願いしていくつもりです。簡単なようでとても難しい私の命が尽きるまで続くテーマです。

公益社団法人全国被害者支援ネットワーク発行
「犯罪被害者の声第12集」より

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