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第5章 国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組

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1 国民の理解の増進(基本法第20条関係)

コラム18 命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール

警察においては、平成20年から、中学生及び高校生を対象に、犯罪被害者等による講演会「命の大切さを学ぶ教室」を開催しており、あわせて、受講を通じて得た命の大切さに関する自らの考えや意見等を作文に書くことを推奨している。また、各学校における作文への取組を推奨するため、23年度より、「命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール」(主催:警察庁、後援:文部科学省等)を開催している。

28年度は、全国から応募された中学生の作品4万387点、高校生の作品2万9,139点の中から、特に優秀な作品が国家公安委員会委員長賞、文部科学大臣賞又は警察庁長官賞に選出され、29年2月、受賞者に対し、松本純国家公安委員会委員長等から表彰が行われた(警察庁ウェブサイト「被害者支援への理解を深めるために」:http://www.npa.go.jp/higaisya/home.htm参照)。

これらの称揚を契機に、学校における「命の大切さを学ぶ教室」の開催が促進され、受講生の犯罪被害者等への理解と共感が深まるとともに、命を大切にする意識や規範意識の醸成が一層進むことが期待される。

命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール表彰式
命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール表彰式

≪優秀作品の紹介≫

○ 港区立三田中学校 稲垣瑠奈さんの作品

【ルールの向こう側にあるもの】

私の親戚が先月、交通事故に遭いました。スピードを出して車を運転していたらしく、急に出てきた人をよけ、壁にぶつかりました。夜、かかってきた電話で、私は病院に駆け付けました。彼は、幸い意識はあり、話すことはできたのですが、着ていた服には血が付き、耳からは多量の出血、そして、首は動かせなくなっていました。彼の母親は、心配のあまり動揺しながらも、「他人を傷つけなくて良かった」と何度も言っていました。私はそれを聞いて、息子のケガに心痛めることはもちろんですが、それ以上に、他人を傷つけたり、命を奪うことは、大変なことなのだと気付きました。

今日、「命の大切さを学ぶ教室」という授業を受けて、親戚の事故のことを鮮明に思い出し、改めて交通事故の被害者と被害者遺族、更に加害者と加害者の家族のことを考えました。

お話して下さった岩嵜さんは、飲酒運転のひき逃げ事故で息子さんを亡くされています。岩嵜さんの言葉からは、被害者遺族のやり場の無い悲しみが伝わってきました。5年という年月を経ても、涙を流しながら語られたお姿から、その悲しみが、決していやされることのないものなのだということが分かります。

元紀君のご飯を毎日用意し、誕生日のプレゼントを欠かさず、そして納骨することもできないという日々が、これからも続くということに胸がしめつけられるような悲しみを感じ、同時に、こういう事故をなんとしても無くさなければならないと強く思いました。

そのために、私には何ができるのでしょうか。まずは、自分が加害者にならないために、交通ルールを守ることはもちろん、ルールの向こう側には、必ず誰かの命があるのだということを心に留めていきたいと思います。私の乗っている自転車も、ルールを守らなければ人の命を傷つける道具になってしまいます。

次に、今日学んだ被害者遺族の苦しみを、一人でも多くの人に伝えることで、交通事故が計り知れない、大きな悲しみを生み出すものだという意識を社会全体で持てるようにしなければならないと考えます。

社会全体が悲しみを共にすることができれば、飲酒運転が後を絶たない現実も変わっていくのではないでしょうか。命の大切さを実感するということは、失われた命に対する苦しみや悲しみを知ることから始まるのだということを学びました。

○ 山口県立下松高等学校 番田彩音さんの作品

【兄が教えてくれたこと】

私が命のはかなさを知ったのは中学3年生の冬でした。私はあの日のことを今でも鮮明に覚えています。

雪が舞う寒い冬の日の夜明け前、私の兄は19歳という若さで亡くなりました。社会人1年目だった兄は、夜勤の帰り道にトラックとの衝突事故で帰らぬ人となりました。私は、両親と一緒に間違いであることを祈りながら、兄を迎えに警察署へ向かいました。

しかし、そんな私たちの願いは叶いませんでした。

警察署で兄に会ったとき、頭が真っ白になり何も言葉が出ませんでした。突然のことで、頭では分かっているはずなのに受け止められない自分がいました。ただ心の中で「これは夢だ。何かの間違いだ。」と繰り返していたことを覚えています。

命がそんなに簡単に消えてしまうとは思ってもいませんでした。当たり前の存在が当たり前でなくなる。それがどんなにつらいことか身に染みて感じました。今でも「ただいま。」と元気に帰ってきてくれるような気がします。そしてそれを打ち消さなければならない寂しさをその度に感じます。

私は兄の声が思い出せません。ずっと一緒に過ごしてきたのに、家族なのに声が思い出せないのは、兄ときちんと向き合っていなかった証拠だと思い、悩んでいました。でも、少し前に観た映画のおかげで私の考えは変わりました。私が兄の声を思い出そうとすることは、兄の事を思い出すことにもつながります。だから、これは兄からのメッセージだと思えるようになりました。「忘れないで。」という。

昨年学校でTAV交通死被害者の会の方の講演があった時、私は迷いました。兄のことを思い出して辛くなりそうで、聴くのが怖いという気持ちがありました。それでも、同じ状況にある人が、どのような気持ちで日々を過ごしているのか知りたいという気持ちもあり、思い切って聴くことにしました。

思い出すだけで辛く、泣きたくなるような経験を、「息子の死を無駄にしたくない。」という気持ちから、たくさんの人の前でお話されている姿を見てとても強い方だと思いました。また、後悔をずっと背負って過ごしてきたと聴いて共感でき、私も兄との思い出を力に変えて前に進もうと思いました。

それまで私は「交通事故」という言葉を避けていました。しかし、いつまでも逃げていてはいけません。私の将来の夢は救急救命士です。幼い頃からずっと医療系の仕事に就きたいと思っていましたが、兄が亡くなった後、更にその気持ちが強くなりました。誰よりも先に現場に行き、たくさんの人の命をつなぐ救急救命士の仕事を通して、私は命に真剣に向き合いたいと考えています。

救急救命士は、色々な現場へ駆けつけなければなりません。また、助ける事ができないことも少なくないと聞きました。辛いことの多い仕事ですが、命を救う仕事を通して、私は兄の死から逃げることなく、きちんと受け止めて成長していけるような気がします。私は全身全霊をかけて仕事に取り組む、そんな救急救命士になりたいです。

兄は、私に命について考えるきっかけをくれました。命は、私たちが考えている以上にはかなく、簡単に消えてしまうものです。だからこそ、今この一瞬を後悔しないように大切に生きていきたいと思います。与えられた命を精一杯生きること。それが私たちの努めです。

兄は、どんなに辛いことがあっても決して弱音をはかず、いつも笑顔でした。私も、そんな兄のように前を向いて歩いていきます。たくさんの大切な命を救うために・・・。

もし、もう一度だけ兄に会えるなら「ありがとう。お兄さんの妹で本当に良かった。」と心から伝えたいです。

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