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第4章 支援等のための体制整備への取組

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1 相談及び情報の提供等(基本法第11条関係)

コラム9 今、被害者支援に求められること ~ソーシャルワークの視点から~

~平成28年度都道府県・政令指定都市犯罪被害者等施策主管課室長会議の講演より~

上智大学総合人間科学部社会福祉学科教授 伊藤 冨士江 氏
上智大学総合人間科学部社会福祉学科教授 伊藤 冨士江 氏

【ソーシャルワークについて】

一般的に、犯罪被害に遭った場合、被害者にはどのようなことが起こるのでしょうか。

命を落とす場合があり、身体的傷害、失職等による経済的困窮、精神的衝撃、コントロール感の喪失といった状態に陥ることも考えられます。他にも、社会に対する安心感や信頼感が失われること、自責感、孤立感、そして、刑事手続に関わらなくてはならない困難等が挙げられます。

このような状況に陥った被害者や家族が地域で生活を立て直していくためには、ソーシャルワーク的発想に基づく支援が必要です。ソーシャルワークは、ニーズのある人々に対応して進められる専門的な援助活動で、信頼関係を築くこと(ラポール形成)が根本にあり、被害者の状況を評価し(アセスメント)、援助計画を立て(プランニング)、援助を展開し(介入)、それを振り返る(事後評価)といった一定の過程を踏んで行われます。

ソーシャルワークにおいて、大事にしているポイントが3点あります。1点目は「人と環境との調整」で、ニーズと社会資源を調整して結び付けていくことです。社会資源とは、ニーズを充足するために動員されるあらゆる物的・人的資源を指し、機関・施設、法律、個人・集団、資金、知識、技能等の総称です。2点目は「環境の修正・開発」で、例えば、自宅に住めなくなった被害者の転居先を探すといった環境を調整することが挙げられます。3点目は「人の対処能力の強化」で、被害に遭うと物事に対処する能力が低下する場合が多いので、それをいかに強化するかということです。

【地方公共団体における総合的対応窓口の調査結果について】

犯罪被害者等の対応に当たる総合的対応窓口の実態及び体制整備の課題や方向性を明らかにすることを目的として、全ての都道府県・市区町村を対象に、平成28年2月から3月にかけてWEB調査を実施しました。調査に御協力いただいた窓口担当の方々に感謝申し上げます。

本調査により、地方公共団体の総合的対応窓口の実態の一端を把握できました。ここでは、調査結果を踏まえて、相談体制の充実に向けてどのようなことがポイントとなるかを指摘したいと思います。

ポイントの1点目は、「担当職員数は2名以上体制へ」です。

被害者家族の中に異なるニーズがあったり、家族の中に加害者側・被害者側が存在するなど複雑なケースもあったりして、その対応が1名では難しいことが予想されます。また、調査結果から、2名以上体制だと相談件数が多い傾向にあることも明らかになりました。兼務であっても複数名いれば、窓口の充実について知恵を出し合えるでしょう。

ポイントの2点目は、「相談援助業務の経験者、あるいは有資格者の配置へ」です。

有資格者や対人援助職としてのキャリアのある者を窓口担当者とすることで、相談件数の増加、多機関との連携率向上、犯罪被害者支援に関連する様々な事業の展開につながることが分かりました。

ポイントの3点目は、「出来ることから始める」です。

相談件数が多い窓口は、独自のパンフレットを作成する、挨拶回り等で顔と顔が見える関係を構築するなど、他機関との連携を図っています。また、担当者が専門的な助言・指導が受けられるスーパーバイズ体制を整え、担当者の「燃え尽き」を防ぐことも必要です。これは、保健福祉等の他の部署と連携して整備することも可能ではないかと考えます。さらに、可能であれば、専任の担当者を確保することが望まれます。ただし、専任よりも、複数名の配置や担当歴が長い方が、効果があることが示されました。

ポイントの4点目は、「各地方公共団体で、地域住民の犯罪被害相談を引き受ける意識を持つ」です。

現在、被害者相談を行う民間被害者支援団体は、各都道府県に1か所程度あるだけで、僅かな被害者にしか対応できていないのが現状です。被害者は、援助希求力(自ら援助を求める力)が低い一方で、実際には多岐にわたるニーズを持ち、支援を必要としていることが多いので、単なる情報提供だけでは不十分な場合がほとんどです。保健福祉サービス、居住サービス等の様々な生活支援は、住民に近い地方公共団体が行うのが適切であると考えます。

住民の安全・安心を確保するため、地方公共団体の総合的対応窓口における被害者支援の重要性を認識し、窓口の体制整備に向けて積極的に取り組んでいただきたいと思います。

※本コラムは、平成28年度都道府県・政令指定都市犯罪被害者等施策主管課室長会議における講演の概要をまとめたもの。講演の全文及び資料は、警察庁ウェブサイト「犯罪被害者等施策」(http://www.npa.go.jp/hanzaihigai/local/work2016.html)を参照。

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