第1章 特集「第3次犯罪被害者等基本計画の策定」

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第2節 第3次犯罪被害者等基本計画の概要

(1) 第3次犯罪被害者等基本計画のポイント

第3次基本計画では、第1次基本計画及び第2次基本計画と同様、犯罪被害者等施策の実施者が目指すべき方向・視点を明らかにした「4つの基本方針」、大局的な課題を指摘した「5つの重点課題」及び犯罪被害者等施策を全体として効果的・効率的に行うための「推進体制」が示されている。

これらの下に設けられた各項目名については、第2次基本計画から大きな変更はないものの、その具体的内容について、専門委員等会議における検討の中で新たな方向性や視点が示された。

具体的には、性犯罪の被害に遭った女性は、その羞恥心や自責感から被害に遭ったことを他人に知られたくない、加害者との関係性等から被害を訴えにくいなどの理由から被害申告をしない場合もあり、この種の犯罪は被害が潜在化しやすいとされている。そこで、女性の性犯罪被害者が置かれている状況に関する広報啓発を推進するとともに、相談しやすい環境の整備に努めてきたところである。さらに、専門委員等会議における検討では、これらの女性の性犯罪被害者に加えて、男性の性犯罪被害者及び児童虐待等の被害に遭った子供も被害が潜在化しやすい類型であるということについて、専門委員等会議の構成員間で認識の共有が図られた。

また、「犯罪被害者等」は、基本法第2条第2項において、犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族とされており、自己が直接の犯罪被害者ではないものの、兄弟姉妹が被害に遭った子供も「犯罪被害者等」に含まれているため、第1次基本計画及び第2次基本計画下においてもこのような子供は支援の対象であった。しかしながら、現状においては十分に支援の手が行き届いていないということが、専門委員等会議において指摘された。

これらを踏まえて、第3次基本計画では、性犯罪や児童虐待等の被害に遭ったにもかかわらず、自ら声を上げることが困難なために被害が潜在化しやすい犯罪被害者等に対する適切な支援について、「基本方針」に明記されるとともに、これに関する具体的施策が記載されている。また、自己が直接の犯罪被害者ではないものの、兄弟姉妹が被害に遭ったこと等により、その心身に悪影響を受けるおそれがある子供等に対する適切な支援が「基本方針」に明記されている。

また、基本法では、基本理念として、犯罪被害者等が、被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援等が途切れることなく行われること(基本法第3条第3項)が規定されており、これまでも制度や担当機関等が替わっても連続性をもって犯罪被害者等に対する支援等が行われるよう、また、犯罪被害者等の誰もが、必要なときに必要な場所で適切な支援を受けられるよう、途切れることのない支援等を推進してきたところである。これに加えて、専門委員等会議における検討では、犯罪被害者等の生活の再建を支援するという観点から、犯罪被害者等に身近な公的機関である地方公共団体や個々の犯罪被害者等のニーズに応じたきめ細かな支援が可能な犯罪被害者等の援助を行う民間の団体による犯罪被害者等に対する支援の充実促進を図り、中長期にわたる支援が行われるよう、体制を整備していくことが望ましい旨の指摘がなされた。

これを踏まえて、第3次基本計画では、犯罪被害者等に対して生活全般にわたる支援を提供できるよう、地方公共団体や犯罪被害者等の援助を行う民間の団体とともに、継ぎ目のない支援体制を構築し、犯罪被害者等を中長期的に支援するという視点からの体制整備への取組が行われなければならないことが記載されている。また、このような取組が適切に行われても、国民がこれを認識していなければ、犯罪等により被害を受けた際に適切な支援にたどり着くことが困難であることから、政府による犯罪被害者等施策のほか、地方公共団体や犯罪被害者等の援助を行う民間の団体による取組を含め、適切にその周知を推進していく必要があるとされている。

さらに、第3次基本計画に盛り込まれた具体的施策が適切かつ確実に推進されることを確保するため、その進捗状況の点検においては、定量的に把握することに努め、これが困難な場合であってもできる限り定性的に把握することとされている。

図表1-6 第3次犯罪被害者等基本計画のポイント
図表1-6 第3次犯罪被害者等基本計画のポイント

(2) 重点課題に係る具体的施策

第3次基本計画では、4つの基本方針の下、具体的施策を5つの重点課題に整理し、計261の具体的施策(再掲を含む。)を掲げている。

第1次基本計画及び第2次基本計画下においては、犯罪被害給付制度の拡充、被害者参加制度及び損害賠償命令制度の創設、犯罪被害者等の精神的被害の回復・軽減等に取り組むなど、犯罪被害者等施策は着実に進展してきた。

しかしながら、第1次基本計画及び第2次基本計画の推進によって犯罪被害者等の抱える問題が全て解決したわけではなく、犯罪被害者等や犯罪被害者等の援助を行う民間の団体等からは、広範囲・多岐にわたる要望意見が寄せられた。

そこで、上述したような論点を掲げ、これらの検討を踏まえて、今後推進していく必要がある新たな具体的施策が第3次基本計画に盛り込まれるとともに、第2次基本計画に盛り込まれていた具体的施策についても、その充実を図るなど引き続き取り組んでいく必要がある施策が第3次基本計画に盛り込まれた。

以下、第3次基本計画に盛り込まれている主な施策を引用し、紹介する。

なお、【 】内は施策担当府省庁を、( )内は第3次基本計画における施策番号をそれぞれ表している。

ア 損害回復・経済的支援等への取組

(ア) 加害者の損害賠償責任の実現に向けた調査の実施

警察庁において、日本弁護士連合会等の協力を得て、債務名義を得ても犯罪被害者等が損害賠償を受けることができない状況について実態把握のための調査を行い、その結果に応じて、必要な検討を行う。【警察庁】(11)

(イ) 犯罪被害給付制度に関する検討

警察庁において、平成20年度以降拡充してきた犯罪被害給付制度の運用状況等を踏まえつつ、重傷病給付金の支給対象期間等の在り方について「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」の取りまとめに従った取組を進めるとともに、犯罪被害者に負担の少ない支給の在り方や、若年者の給付金の在り方及び親族間犯罪被害に係る給付金の在り方について、実態調査や他の公的給付制度に関する調査を1年を目途に行い、これらを踏まえた検討を速やかに行って、必要な施策を実施する。【警察庁】(12)

(ウ) カウンセリング等心理療法の費用の負担軽減

「犯罪被害者の精神的被害の回復に資する施策に関する研究会」において取りまとめられた「犯罪被害者の精神的被害の回復に資する施策に関する報告書」※1を踏まえ、警察庁において、各都道府県警察に対し、臨床心理士資格等を有する警察部内カウンセラーの確実な配置に努めるよう指導する。また、同報告書を踏まえ、警察庁及び都道府県警察において、カウンセリング費用の公費負担制度の全国展開を図るとともに、同制度の周知に努める。【警察庁】(15)

(エ) 預保納付金の活用

金融庁及び財務省において、25年度から実施している預保納付金※2事業について、犯罪被害者等の子供への奨学金を貸与制から給付制に変更するとともに、犯罪被害者等支援団体への助成対象に相談員の育成に必要な費用を追加することとし、28年度中を目途にその募集等を開始する。【金融庁、財務省、警察庁】(18)

イ 精神的・身体的被害の回復・防止への取組

(ア) 被害少年等に対する学校におけるカウンセリング体制の充実等

文部科学省において、犯罪被害者等を含む児童生徒の相談等に的確に対応できるよう、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー等の適正な配置や犯罪等の被害に関する研修等を通じた資質の向上を通じて、平成31年度までにスクールカウンセラーを全公立小中学校に配置し、スクールソーシャルワーカーも全公立中学校区に配置することにより、学校における教育相談体制を充実させる。【文部科学省】(55)

(イ) 被害児童からの事情聴取における配慮

法務省、警察庁及び厚生労働省において、検察庁、警察、児童相談所等の関係機関が被害児童の事情聴取に先立って協議を行い、関係機関の代表者が聴取を行うことについて積極的に検討するほか、被害児童から事情聴取をするに当たり、聴取の場所・回数・方法等に配慮するなど、被害児童へ配慮した取組を進める。【法務省、警察庁、厚生労働省】(110)

ウ 刑事手続への関与拡充への取組

(ア) 犯罪被害者等と検察官の意思疎通の充実

法務省において、刑事裁判の公判前整理手続等の経過及び結果に関し、犯罪被害者等の希望に応じ、適宜の時期に、検察官がその経過及び結果について必要な説明をし、また、被害者参加人等が公判前整理手続の傍聴を特に希望する場合において、検察官が相当と認めるときは、当該希望の事実を裁判所に伝えるなどの必要な配慮を行うよう努める。また、犯罪被害者等が公判傍聴を希望する場合は、その機会が可能な限り得られるよう、公判期日の指定に当たっては、検察官が犯罪被害者等と十分なコミュニケーションをとり、必要に応じて、犯罪被害者等の希望を裁判所に伝えるよう努める。【法務省】(121)

(イ) 刑事の手続等に関する情報提供の充実及び司法解剖に関する遺族への適切な説明等

警察庁及び法務省において連携し、検視及び司法解剖に関し、パンフレットの配布等の工夫も含め、遺族に対する適切な説明及び配慮に努める。また、法務省において、警察庁、法医学関係機関等の協力を得て、司法解剖実施機関等で司法解剖後の臓器等が中・長期に保管される場合があることに関して、遺族の理解と協力が得られるよう、さらに、適切な説明等が行われるよう、対応に努めるほか、警察庁及び法務省において、法医学関係機関等と調整の上、遺族に対し、死者の臓器を適切に返還するための手続等について検討する。【警察庁、法務省】(131)

エ 支援等のための体制整備への取組

(ア) 地方公共団体における総合的対応窓口等の充実の促進

警察庁において、地方公共団体に対し、都道府県・政令指定都市犯罪被害者等施策主管課室長会議の開催、地方公共団体の職員を対象にした研修、「犯罪被害者等施策メールマガジン」の発信等を通じて、犯罪被害者支援における先進的・意欲的な取組事例を始めとする有益な情報を提供するとともに、犯罪被害者等に適切な情報提供等を行う総合的対応窓口の機能の充実を要請する。また、政令指定都市の区役所における犯罪被害者等への対応については、区役所に一般的な区民相談窓口が設けられていることを踏まえて、当該相談窓口において、犯罪被害者等の心情等に配慮した適切な対応がなされるよう体制の整備を要請する。【警察庁】(151)

(イ) 地方公共団体における専門職の活用及びこれらとの更なる連携・協力の充実・強化

警察庁において、地方公共団体に対し、犯罪被害者等の生活支援を効果的に行うため、犯罪被害者支援分野における社会福祉士、精神保健福祉士及び臨床心理士等の専門職の活用を働き掛ける。また、犯罪被害者等が早期に専門職につながるよう、地方公共団体における総合的対応窓口と関係機関・団体との更なる連携・協力の充実・強化を要請する。【警察庁】(152)

(ウ) 警察における相談体制の充実等

○ 警察において、全国統一の相談専用電話「#9110番」や性犯罪相談、少年相談等の個別の相談窓口において、犯罪被害者等の住所地等にかかわらず、また、匿名であっても相談に応じるとともに、犯罪被害者等の要望に応じて、当該都道府県又は警察署の被害者支援連絡協議会等ネットワークに参画する機関・団体等の情報提供等や、他都道府県又は他警察署のネットワークの活用にも配慮する。また、被害者本人からの申告が期待しにくく潜在化しやすい犯罪を早期に認知して検挙に結び付けるため、暴力団が関与する犯罪、少年福祉犯罪、児童虐待事案、人身取引事犯等に関する通報を匿名で受け付け、事件検挙等への貢献度に応じて情報料を支払う「匿名通報ダイヤル」の適切な運用を推進する。このほか、交通事故被害者等からの相談に応じ、保険請求・損害賠償請求制度の概要の説明や各種相談窓口の紹介等を実施するとともに、死亡事故等の一定の交通事故事件の被害者等から、当該交通事故等を起こした加害者に対する意見の聴取等の期日等や行政処分の結果についての問合せがあった場合に、行政処分担当課等から回答するなど、適切な対応に努める。【警察庁】(168)

○ 警察において、性犯罪被害相談については、相談者の希望する性別の職員が対応し、また、執務時間外においては当直等が対応した上で後に担当者に引き継ぐなど、適切な運用を推進する。【警察庁】(169)

(エ) 犯罪被害者の相談窓口の周知と研修体制の充実

法務省において、人権擁護機関が実施する人権相談、人権侵犯事件の調査救済制度について、引き続き、周知を図る。また、「子どもの人権110番」、「子どもの人権SOSミニレター」、「女性の人権ホットライン」及び「インターネット人権相談受付窓口」等の人権擁護機関の取組について、その趣旨や内容を周知するため、広報活動の一層の充実を図る。加えて、人権相談に際しては、犯罪被害者からの相談に限らず、相談者の置かれた立場を十分に理解し、適切な対応をとることができるよう、より一層研修の充実に努める。また、法務大臣により委嘱された民間ボランティアである人権擁護委員に対しては、新任委員に対する委嘱時研修を始めとする各種研修を通じて、犯罪被害者を含む人権問題全般に対して適切に対応できるよう、引き続き適切かつ十分な研修等の実施に努める。【法務省】(182)

(オ) 犯罪被害者等の援助を行う民間の団体の活動への支援等

警察庁において、犯罪被害者等の援助を行う民間の団体が開催するシンポジウムや講演会について、その意義や趣旨に賛同できるものにあっては、その効果の波及性等も踏まえつつ、後援するほか、シンポジウム等の開催について、地方公共団体を始めとする公的機関に対して周知するとともに、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)等の様々な媒体を活用し、広く一般に広報するなどし、民間団体の活動を支援する。また、関係省庁及び地方公共団体向けに配信している「犯罪被害者等施策メールマガジン」を、配信を希望する犯罪被害者等の援助を行う民間の団体に対しても配信するなどし、関係省庁や民間団体等における犯罪被害者等のための新たな制度や取組について情報提供を行う。さらに、地方公共団体に対し、犯罪被害者等の援助を行う民間の団体との連携・協力の充実・強化を働き掛け、地域における途切れることのない支援の実施を促進する。【警察庁】(227)

オ 国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組

(ア) 一般国民に対する効果的な広報啓発の実施

警察庁において、犯罪被害者等に関する国民の意識について実態把握を行い、犯罪被害者支援に対する国民の関心を高めるよう、学校や民間企業等の協力を得るなどし、犯罪被害者等の置かれた状況や犯罪被害者支援の重要性等について、効果的な広報啓発を行う。また、犯罪被害者支援に関する標語を広く募集するなどし、国民が犯罪被害者支援について考える機会を提供し、その理解促進を図る。さらに、訴えかけたい対象等に応じた効果的な広報啓発ができるよう、幅広く民間企業等に協力を要請する。【警察庁】(241)

(イ) 被害が潜在化しやすい犯罪被害者等に対する相談体制の充実及び理解の促進

各府省庁において、性犯罪被害者や被害児童を始め被害が潜在化しやすい犯罪被害者等からの相談に適切に対応できるよう体制の充実に努めるとともに、研修の実施やシンポジウムの開催など様々な機会を通じて、このような犯罪被害者等が置かれている状況等を広く周知し、その理解促進を図り、社会全体で支える気運の醸成に努める。【内閣府、警察庁、総務省、法務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省】(242)

(ウ) 若年層に対する広報・啓発

内閣府において、若年層が暴力の加害者にも被害者にもならないようにするため、若年層向けのパンフレットの配布等を通じ、若年層に対する予防啓発の取組を推進する。【内閣府】(244)

図表1-7 第3次犯罪被害者等基本計画の概要
図表1-7 第3次犯罪被害者等基本計画の概要
※1 警察庁において、平成26年3月から6人の有識者による「犯罪被害者の精神的被害の回復に資する施策に関する研究会」が開催され、同研究会が27年4月に取りまとめた報告書。
※2 犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(以下「振り込め詐欺救済法」という。)に基づく被害者救済手続を経ても、被害者に返すことができなかった残金で、預金保険機構に納付された金銭のことをいう。

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