4.犯罪被害者等基本計画(平成17年12月27日閣議決定)
1.保健医療サービス及び福祉サービスの提供(基本法第14条関係)
[現状認識]
平成16年において,生命・身体に被害を受けた犯罪の被害者数は,123万8,668人に及ぶ※4(道路上の交通事故に係る危険運転致死傷及び業務上過失致死傷を含む。)。このうち,生命被害の重大さはいうまでもないが,身体に被害を受けた者についても,一般的には「重傷」,「軽傷」などとして扱われるところ,実際には,それらの言葉からは想像し難いほど,長期にわたる治療を余儀なくされたり,重篤な後遺障害を負うことが少なくない。また,生命に被害を受けた事件の遺族はもとより,身体に被害を受けた者についても,多くの者が同時に精神的被害を受けていると考えられる。さらに,身体に被害(物理的外傷)はなくとも犯罪等によって直接的に精神的被害を受けた犯罪被害者等も多数に上ると考えられ,性犯罪の被害者(同年において,傷害の結果を伴う者を除き,1万196人)を始め※5,重度のPTSD(外傷後ストレス障害)等の犯罪等による被害に対する持続的な精神的後遺症に罹患している者も少なくないと考えられる。なお,性犯罪のように顕著な精神的被害を与えると考えられる犯罪については,被害申告がなされず,いわゆる暗数化している犯罪被害者等も少なくないと考えられる。
こうした精神的・身体的被害に対する保健医療サービス及び福祉サービスについては,不十分であるとの指摘があり,特に精神的被害については,近年,様々な研究成果等が発表されているが,その深刻さ,回復の困難さなどについて,精神保健関係者も含め医療関係者において,依然として理解そのものが不十分な面があるとの指摘がある。
[基本法が求める基本的施策]
基本法第14条は,国及び地方公共団体に対し,犯罪被害者等が心理的外傷その他犯罪等により心身に受けた影響から回復できるようにするための施策として,
- 心身の状況等に応じた適切な保健医療サービスの提供
- 心身の状況等に応じた適切な福祉サービスの提供
- その他の必要な施策
を講ずることとしている。
[犯罪被害者等の要望に係る施策]
犯罪被害者団体等からは,
- PTSDに関する医療・福祉サービスの充実
- 後遺障害に関する医療・福祉サービスの充実
- 女性被害者・少年被害者に対する医療・福祉サービス体制の充実
- 犯罪被害者等支援に精通した心理職・精神科医・法律家等の養成
- その他医療・福祉サービスの充実
に関する種々の要望が寄せられている。
[今後講じていく施策]
(1) 「PTSD対策に係る専門家の養成研修会」の継続的実施等
厚生労働省において,平成8年度から実施している医師,看護師,保健師,精神保健福祉士などを対象とした「PTSD対策に係る専門家の養成研修会」を継続して実施し,PTSD対策に係る専門家を養成するとともに,犯罪被害者等の精神的被害について,医療・福祉関係者に対する啓発を更に推進する。【厚生労働省】
(2) 重度のPTSD等重度ストレス反応の治療等のための高度な専門家の養成及び体制整備に資する施策の検討及び実施
厚生労働省において,犯罪被害者等の重度のPTSD等重度ストレス反応について,犯罪被害者等に特有の対応を要する面があることを踏まえ,診断・治療等を行う専門家が全国的に不足していることを前提に,実態を把握し,その上で,「PTSD対策に係る専門家の養成研修会」の在り方を含め,必要とされる高度な専門家の養成及び体制整備に資する施策を検討し,3年以内を目途に結論を出し,必要な施策を実施する。【厚生労働省】
(3) PTSDの診断及び治療に係る医療保険適用の範囲の拡大
厚生労働省において,PTSDの診断及び治療に係る医療保険適用の範囲の拡大について科学的評価を行い,これを踏まえ,平成18年度に予定している次期診療報酬改定において,必要に応じて措置を講ずる。【厚生労働省】
(4) 地域格差のない迅速かつ適切な救急医療の提供
厚生労働省において,地域格差なく迅速かつ適切な救急医療が提供されるよう,初期,二次,三次の救急医療体制の整備を図るとともに,総務省と連携し,メディカルコントロール体制※6の充実強化を図る。【厚生労働省】
(5) 救急医療に連動した精神的ケアのための体制整備
厚生労働省において,救急医療に連動した精神的ケアのための体制整備に資する施策を検討し,1年以内を目途に結論を出し,当該施策を実施する。【厚生労働省】
(6) 高次脳機能障害者への支援の充実
厚生労働省において,障害者自立支援法(平成17年法律第123号)や高次脳機能障害支援モデル事業の成果の普及等により,高次脳機能障害者の適性とニーズに応じた支援を提供できるような仕組みを構築する。【厚生労働省】
(7) 長期療養を必要とする犯罪被害者のための施策の検討及び実施
ア 厚生労働省において,犯罪被害者を含め,長期療養を必要とする患者が必要な医療や介護サービスを受けられる方策について,医療機能の分化,連携を含めた平成18年の医療提供体制の改革の中で検討して,1年以内を目途に結論を出し,必要な施策を実施する。【厚生労働省】
イ 犯罪被害者等に対する経済的支援制度に関して設置する検討のための会において,特に犯罪等の被害による後遺障害者に対する経済的支援及び福祉サービスの在り方について十分に検討する。【内閣府・警察庁・法務省・厚生労働省】
(8) 思春期精神保健の専門家の養成
厚生労働省において,平成13年度から実施している医師,看護師,保健師,精神保健福祉士,児童相談員などを対象とした思春期精神保健の専門家の養成研修を継続して実施し,思春期精神保健の専門家を養成するとともに,児童虐待や配偶者等からの暴力(DV)の被害者等の心理と治療・対応についての研修を充実させる。【厚生労働省】
(9) 少年被害者のための治療等の専門家の養成,体制整備及び施設の増強に資する施策の実施
厚生労働省において,少年被害者の被害について,犯罪被害者等に特有の対応を要する面があることを踏まえ,全国的に治療又は保護を行う専門家が不足し,そのための体制及び施設が十分ではないことを前提に,現状に関する必要な調査を行い,その上で,少年被害者が利用しやすく,地域的な隔たりなく十分な治療・配慮を受けられ,また,十分な期間保護が受けられるようにするため,児童精神科医等専門家の養成,その適正な配置その他の体制整備及び施設の増強に資する施策を実施する。【厚生労働省】
(10) 性暴力被害者のための医療体制の整備に資する施策の検討及び実施
厚生労働省において,性暴力被害者について,特有の対応を要する面があることを踏まえ,性暴力被害者が利用しやすく,十分な治療・配慮等を受けることができるような医療体制の整備に資する施策を検討し,1年以内を目途に結論を出し,当該施策を実施する。【厚生労働省】
(11) 犯罪被害者等への適切な対応に資する医学教育の促進
文部科学省において,犯罪被害者等への適切な対応に資するよう,PTSD等の精神的被害に関する知識・技能を修得させるための教育を含め,各大学の医学教育における「医学教育モデル・コア・カリキュラム」※7に基づくカリキュラム改革の取組を更に促進する。【文部科学省】
(12) 犯罪被害者等に関する専門的知識・技能を有する臨床心理士の養成等
文部科学省において,「臨床心理士の資質向上に関する調査研究」の中で,犯罪被害者等に対する支援活動についての調査研究を実施し,その結果に基づき,財団法人日本臨床心理士資格認定協会等に働きかけ,犯罪被害者等に関する専門的な知識・技能を有する臨床心理士の養成及び研修の実施を促進する。【文部科学省】(再掲:第5,1.(15)エ)
(13) 犯罪被害者に係る司法関連の医学知識と技術について精通した医療関係者の在り方及びその養成のための施策の検討及び実施
厚生労働省において,警察庁,法務省及び文部科学省の協力を得て,現状及び諸外国の状況に関する必要な調査を行い,犯罪の実情及び犯罪被害者に係る司法関連の医学知識と技術について精通し,犯罪被害者の置かれた状況を踏まえた支援,捜査・裁判を見通したケア,検査,診断書の作成等を行うことのできる医療関係者の在り方及びその養成のための施策を検討し,3年以内を目途に結論を出し,当該施策を実施する。【厚生労働省】
(14) 検察官等に対する研修の充実
法務省において,検察官等が犯罪被害者等の支援に精通するための研修等の充実を図っていく。【法務省】
(15) 法科大学院における教育による犯罪被害者等への理解の向上の促進
文部科学省において,各法科大学院が,自らの教育理念に基づき多様で特色のある教育を展開していく中で,犯罪被害者等に対する理解の向上を含め,真に国民の期待と信頼に応え得る法曹の養成に努めるよう促す。【文部科学省】
(16) 児童虐待に対する夜間・休日対応の充実等
厚生労働省において,平成16年の児童福祉法(昭和22年法律第164号)の一部改正に伴い,次の施策を実施する。
ア 児童相談所の夜間・休日における連絡や相談対応の確保,中核市規模の人口を有する市での設置の促進,分室・支所の活用による市町村支援体制の確保等を図っていく。【厚生労働省】
イ 夜間対応等の体制整備や児童虐待に対する医療ケアの重要性にかんがみ,地域の医療機関との協力,連携体制を充実する。【厚生労働省】
(17) 少年被害者の保護に関する学校及び児童相談所等の連携の充実
文部科学省及び厚生労働省において,少年被害者の保護に関し,要保護児童対策地域協議会を活用するなど,学校と児童相談所等少年被害者の保護に資する関係機関との連携を充実する。【文部科学省・厚生労働省】
(18) 少年被害者に対する学校におけるカウンセリング体制の充実等
ア 文部科学省において,少年被害者を含む児童生徒の心のケアに資するよう,スクールカウンセラーの適正な配置や資質の向上,「子どもと親の相談員」の配置など,学校におけるカウンセリング体制を充実するとともに,少年被害者を含む児童生徒に対し,個々の状況に応じた必要な学習支援を促進していく。【文部科学省】
イ 文部科学省において,スクールカウンセラーを始め学校の教職員が一体となって,関係機関や地域の人材と連携しつつ,犯罪被害者等である児童生徒の相談等に的確に対応できるよう,犯罪等の被害に関する教職員やスクールカウンセラーに対する研修を支援するとともに,各学校における取組を引き続き促進する。【文部科学省】
ウ 文部科学省において,犯罪被害者等である児童生徒に対する心のケアについても,大学の教職課程におけるカウンセリングに関する教育及び教員に対するカウンセリングに関する研修内容に含めるなどその内容の充実を図るよう促す。【文部科学省】(再掲:第5,1.(15)イ)
(19) 被害少年が受ける精神的打撃軽減のための継続的支援の推進
警察において,被害少年※8が受ける精神的打撃の軽減を図るため,保護者の同意を得た上で,カウンセリングの実施,関係者への助言等の継続的な支援を推進する。【警察庁】
(20) 里親制度の充実
厚生労働省において,少年被害者の保護に資するよう,里親養育援助事業や里親養育相互援助事業による里親の支援等により,里親制度の充実を図っていく。【厚生労働省】
(21) 少年被害者の相談・治療のための専門家・施設等の周知
厚生労働省において,少年被害者の被害に対する相談・治療等を行う専門家,医療施設その他の施設等を把握し,警察とも連携してその周知に努める。【厚生労働省】
(22) 犯罪被害者等に対する医療機関に関する情報の周知
厚生労働省において,犯罪被害者等が利用しやすいように,医療機関の情報を周知させるとともに,関係機関において,当該情報を共有し,適時適切に犯罪被害者等に提供する。【厚生労働省】
(23) 犯罪被害者等の受診情報等の適正な取扱い
ア 厚生労働省において,犯罪被害者等の受診情報が医療機関や保険者から流出しないよう,個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)に基づき,医療機関や保険者に対して適切に対応していく。【厚生労働省】
イ 金融庁において,犯罪被害者等の保健医療に関する情報を始めとする個人情報の取扱いに関し,損害保険会社に問題があると認められる場合には,保険業法(平成7年法律第105号)に基づき,保険会社に対する検査・監督において適切な対応をしていく。【金融庁】