第3節 刑事手続への関与拡充への取組
コラム13 刑事訴訟法の一部を改正する法律案(証人を保護する方策について)
平成27年3月13日,「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され,国会に提出されました。この法律案は,刑事手続を時代に即したより機能的なものとするため,証拠収集手段を適正化・多様化するとともに,公判審理を充実化しようとするものであり,その中に,刑事手続において犯罪被害者を始めとする証人を保護するための制度が盛り込まれています。
証人を保護するための制度としては,
○ 検察官が被告人側へ証拠を開示する場面において,証人等の氏名等の情報を保護するための「証人等の氏名及び住居の開示に係る措置」
○ 公開の法廷において,証人の氏名等の情報を保護するための「公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」
○ 証人尋問において,証人に危害が加えられることを防止するとともにその負担を軽減するための「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」
の3つがあります。
以下,これら3つの制度の概要を紹介します。
<証人等の氏名及び住居の開示に係る措置>
刑事手続においては,検察官が証人等の尋問を請求する場合には,被告人側に証人等の氏名等を知る機会を与えなければならないなどとされています。これについては,これまでの法改正により,検察官は,証人等に危害が加えられるおそれがあるときは,弁護人に対して,証人等の氏名等が被告人らに知られないよう配慮することを求めることができ,また,性犯罪の被害者等の名誉が害されたり,危害が加えられるおそれがあるときは,弁護人に対して,被害者の氏名等が被告人らに知られないようにすることを求めることができることとなっています。
今回の法律案では,「証人等の氏名及び住居の開示に係る措置」として,検察官が請求する証人等に危害が加えられるおそれがある場合に,被告人の防御の利益を害しない限度で,
○ 証人の氏名等を被告人に知らせてはならない旨の条件を付して弁護人に開示する措置
○ この措置では危害を加えられることを防止できないおそれがあるときは,弁護人にも知らせず,氏名に替わる呼称等を開示する措置
をとることができるようにすることにしています。
<公開の法廷における証人の氏名等の秘匿>
平成19年の法改正により,性犯罪等の被害者の氏名等について,公開の法廷においてこれを明らかにしない旨の決定をすることができ,この決定があったときは,起訴状の朗読等の訴訟手続を,被害者の氏名等を明らかにしない方法により行うこととなっています。
今回の法律案では,「公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」として,この制度を,被害者以外の証人等についても拡充することにしています。
<ビデオリンク方式による証人尋問の拡充>
刑事裁判においては,証人は公判廷で証言するのが原則ですが,平成12年の法改正により,性犯罪の被害者等が証人となる場合には,その精神的な負担を軽減するため,被告人や傍聴人等がいない別室に在席してもらい,モニターを通じて証人尋問を行う,いわゆるビデオリンク方式の証人尋問をすることができることとなっています。
これまでの制度では,公判が行われる裁判所の構内の別室に在席する方法だけでしたが,今回の法律案では,「ビデオリンク方式の証人尋問の拡充」として,
○ 性犯罪の被害者等が証人となるときなど,公判が行われる裁判所に出頭すること自体によって,精神的負担を負うおそれがある場合
○ 組織的な犯罪等に関する証人など,公判が行われる裁判所への出頭時に危害が加えられたり,又は,出頭後に尾行されるなどして危害が加えられるおそれなどがある場合
○ 証人が遠隔地に居住し,公判が行われる裁判所に出頭することが著しく困難である場合
には,証人に,公判が行われる裁判所とは別の裁判所に出頭してもらい,ビデオリンク方式による証人尋問をできるようにすることにしています。