コラム7 犯罪被害者等支援研究室及び犯罪被害者のメンタルヘルス情報ページ
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
成人精神保健研究部 犯罪被害者等支援研究室長 中島聡美
犯罪被害者等支援研究室は,独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究室 成人精神保健研究部内に平成17年10月に設置された。平成17年は犯罪被害者等基本法が施行され,第一次基本計画が策定された年であり,基本計画における重点課題「精神的・身体的被害の回復・防止への取組」を推進する上で,設置されたものである。
犯罪被害者等支援研究室では,犯罪被害者等のメンタルヘルスの実態及び支援に関する研究,PTSDや複雑性悲嘆についての治療研究を行っている。
以下に代表的な研究をあげる。
- 精神科医療機関における犯罪被害者への治療及び司法的関与の実態に関する研究
- 犯罪被害者遺族の精神健康の回復に関わる要因の分析
- 民間被害者支援団体と精神科医療機関との連携に関する研究
- 産婦人科医療現場における性暴力被害者の診療の実態についての研究
- Delphi法を用いた犯罪被害者の急性期心理社会支援ガイドラインの開発
- 検視(検死)及び司法解剖時の遺族への対応の現状と心理的影響に関する研究
- 性暴力被害者向け支援情報パンフレットの開発
- 複雑性悲嘆関連尺度の信頼性と妥当性の検討
- 日本における複雑性悲嘆の認知行動療法の適応と有効性に関する研究
*これらの研究の成果については成人精神保健研究部のホームページ(http://www.ncnp.go.jp/nimh/seijin/index.html)を参照されたい。
特に,平成17年度—19年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「犯罪被害者の精神健康の状況とその回復に関する研究」(研究代表 小西聖子,分担研究 中島聡美)においては,犯罪被害者やそのご家族及び支援者に対する情報発信として「犯罪被害者のメンタルヘルス情報ページ(http://www.ncnp.go.jp/nimh/seijin/www/shiryo.html)」(図1)を作成し,成人精神保健研究部のホームページにて公開した。このホームページの中では,被害者の心理的反応や治療・ケアについての情報を掲載しているほか,上記研究についての報告書や,支援に関するパンフレット(「被害者への心理教育用パンフレット」,「犯罪被害者等支援のための地域精神保健福祉活動の手引き」)をダウンロードすることができる。このホームページに記載された犯罪被害者への治療やケアについてのより専門的な内容は,「犯罪被害者のメンタルヘルス」(誠信書房,2008)として発表している。
また,近年,日本においても,犯罪被害者等早期援助団体や性暴力被害者支援センターなど被害後急性期に支援を行う機関が増加してきているが,これらの急性期支援の現場のニーズに応える形で,エキスパートコンセンサスによって「犯罪被害者の急性期心理社会支援ガイドライン」(図2)を開発し,Web上で自由に閲覧・ダウンロードできるようにしている(http://cocorocare.jp/c/)。
平成25年度は,性暴力被害者に対して,支援や治療に関する情報を掲載したパンフレット「一人じゃないよ」(図3)を作成した。こちらも,犯罪被害者のメンタルヘルス情報ページでダウンロードすることができる。
治療研究では,米国のコロンビア大学Shear教授の開発した複雑性悲嘆のための心理療法(Complicated Grief Treatment, CGT)の有効性についての研究(http://www.j-cgt.jp/)を実施し,複雑性悲嘆に苦しむ犯罪被害者遺族に対して治療を提供している。
今後は,他の研究機関と共同して,被害後急性期の被害者やご遺族への心理的ケアプログラムの開発等も検討しており,犯罪被害者等の精神的回復に資するような研究を推進していきたいと考えている。