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3.犯罪被害者等基本計画 (平成17年12月27日閣議決定)

I 犯罪被害者等基本計画策定の目的

1.犯罪被害者等の置かれている状況

治安を守り、犯罪等(注1) を撲滅するため、我が国においても様々な取組がなされているが、犯罪等は跡を絶たず、人が被害者となった刑法犯の認知件数(道路上の交通事故に係る危険運転致死傷及び業務上過失致死傷を含む。)は、平成16年で305万5,018件である (注2)。毎年これだけの認知件数があるということは、一生の間犯罪被害者等(注3) とならずに過ごすことのほうが困難であるといえよう。犯罪被害者等に係る諸問題は、国民全体が考えていくべきものであるが、犯罪被害者等が受ける被害の実相についての理解は十分ではない。犯罪被害者等は社会の例外的な存在であって、自分たちとは関係がないという誤った認識や、犯罪被害者等は、特別に公的に守られ、尊重され、加害者からの弁償に加えて十分な支援が受けられることで容易に被害から回復できているという誤解もある。こうした認識の誤りもあり、犯罪被害者等に対する支援についての社会の関心は高いとはいえない。

しかしながら、犯罪被害者等は、国民の誰もが犯罪被害者等となり得る現実の中で、思いがけず犯罪被害者等となったものであり、我々の隣人であり、我々自身でもある。犯罪被害者等は、生命を奪われ、家族を失い、傷害を負わされ、財産を奪われるといった、いわば目に見える被害に加え、それらに劣らぬ重大な精神的被害を負うとともに、再被害の不安にさいなまれる。犯罪等によってゆがめられた正義と秩序を回復するための捜査・公判等の過程で、犯罪被害者等は負担を負い、時には配慮に欠けた対応による新たな精神的被害(二次的被害)を受けたり、名誉感情を傷つけられながら、自らの正義の回復に期待してこれに耐えていく。しかし、望む限りの情報が得られるわけではなく、かけがえのないものを奪った犯罪等の真実を必ずしも知ることができず、望むような関与もできず、疎外感・無力感に苦しむことが少なくない。さらには、周囲の好奇の目、誤解に基づく中傷、無理解な対応や過剰な報道等により、その名誉や生活の平穏が害されたり、孤立感に苦しむことも少なくなく、支援を行う各機関の担当者からさえ心無い言動を受けることもある。このように、犯罪被害者等の多くは、これまでその権利が尊重されてきたとは言い難いばかりか、十分な支援を受けられず、社会において孤立することを余儀なくされ、さらには、犯罪等による直接的被害にとどまらず、その後も副次的な被害に苦しめられることが少なくなかったのである(犯罪被害者等基本法前文)。


注1 犯罪及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為をいう。(犯罪被害者等基本法第2条第1項)
注2 法務省法務総合研究所編『犯罪白書(平成17年版)』 国立印刷局、2005年による。
注3 犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族をいう。(犯罪被害者等基本法第2条第2項)

2.犯罪被害者等のための施策における犯罪被害者等基本計画の位置付け

もとより、我が国においても、犯罪被害者等のための施策は行われてきた。戦後について概観すれば、昭和20年代に、当初は、どちらかといえば治安対策や交通政策に位置付けられて始まり、その後、昭和55年の犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律の成立に見られるような、いわば純然たる犯罪被害者等のための施策が展開されるようになった。平成に入ってからは、各府省庁において、相談、情報提供、精神的ケア等の総合的な支援や刑事に関する手続への参加の機会の拡充のための施策が講じられるようになるとともに、内閣に「犯罪被害者対策関係省庁連絡会議」が設置され(平成11年)、密接な連携が図られるようになった。また、民間の支援活動については、昭和40年代に今日的な活動の嚆矢が見られ、平成に入ってから、様々な民間団体による活動が全国的に展開されるようになった。

こうした取組が、相当の成果を上げる一方で、各府省庁単位での取組は一定の壁に突き当たった感も生じる中、依然として犯罪被害者等の置かれた状況には深刻なものがあり、国民の誰もが犯罪被害者等となる可能性の高まっている今こそ、犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ、その権利利益の保護が図られる社会の実現に向けた新たな第一歩を踏み出す必要があった(犯罪被害者等基本法前文)。もとより、犯罪被害者等に係る問題の根源的な解決策は、犯罪等を撲滅することであり、犯罪等を抑止する取組を着実に実施していくことが重要であることはいうまでもないが、依然として犯罪等が跡を絶たず、多くの犯罪被害者等が困難に直面し、苦しんでいる現実に対し、犯罪被害者等の視点に立ち、一日も早くその心身が回復され、平穏な生活に戻ることができるよう、犯罪被害者等のための施策を新たな段階に進める必要があったのである。

そこで、平成16年12月、犯罪被害者等が直面している困難な状況を踏まえ、これを打開し、その権利利益の保護を図るべく、犯罪被害者等のための施策に府省庁横断的に取り組み、総合的かつ計画的に推進していく基本構想を示した「犯罪被害者等基本法」(以下「基本法」という。)が制定され、平成17年4月に施行された。そして、政府は、基本法にのっとり、総合的かつ長期的に講ずべき犯罪被害者等のための施策の大綱等を盛り込んだ犯罪被害者等基本計画(以下本文中においては「基本計画」という。)を策定することとされた。

基本法が犯罪被害者等のための施策を総合的かつ計画的に推進していくための基本構想を示すものであり、犯罪被害者等の視点に立って施策を展開していく過程の第一段階として位置付けられるならば、基本計画は、第二段階として、今後一定の期間内に構築すべき施策体系の具体的設計図と工程を示すものであり、個別具体的な施策の着実な実施を図っていくためのものである。したがって、基本計画は、犯罪被害者等及びその支援に携わる者の具体的な要望に立脚し、できる限りのことをするものでなければならないとともに、犯罪被害者等の権利利益の保護が図られる社会の未来像を結ぶことのできるものでなければならない。

3.犯罪被害者等基本計画の策定方針

犯罪被害者等のための施策を展開していく過程の第一段階である基本法は、犯罪被害者等が直面している困難な状況を打開し、その権利利益の保護を図るために必要な基本的施策を条文化したものであり、第二段階としてこれらを施策体系として具体化する基本計画は、犯罪被害者等及びその支援に携わる者からの要望を基に、これらをいかに満たしていくかという視点で検討され、策定されるべきである。

こうした考えに立ち、基本計画の検討に当たっては、まず、犯罪被害者等及びその支援に携わる者からの要望を広く把握し、それら一つひとつについて、どのような施策が可能かを検討した。検討の基本的な方針としては、犯罪被害者等のために有用でないもの、公共の福祉の理念に反するもの、あるいはより有用な代替的手段があるもの、のいずれかに該当するものでない限り、当該施策を基本計画に盛り込むこととした。また、個々の施策の中には、種々の問題点や危惧が指摘され、慎重に検討していく必要のあるものも少なくないが、柔軟な発想で、現行制度にとらわれることなく問題点や危惧に対処し、要望を可能な限り満たすとともに、幅広い支持が得られ、真の実効性を持って安定した形で運用されるよう、バランスの取れた施策体系の構築を目指すこととした。

なお、基本計画における「犯罪被害者等」とは、基本法における定義のとおり、犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族を指し、加害者の別、害を被ることとなった犯罪等の種別、故意犯・過失犯の別、事件の起訴・不起訴の別、解決・未解決の別、犯罪等を受けた場所その他による限定を一切していない。当然ながら、個別具体の施策の対象については、その施策ごとに、それぞれ適切に設定され、判断されるべきである。

4.計画期間

基本計画に盛り込まれた個々の施策については、実施可能なものは速やかに実施することとする一方、検討を要するものについては、検討の方向性を明示し、原則1年以内に、大きな制度改正又は財源の確保を必要とするものは2年以内(例外的に3年以内とするものもある。)に結論を出し、その結論に従った施策を実施することを方針とし、明確な期限の設定と方向性の明示により、できる限り迅速な施策の実施を目指した。

他方、基本計画は、犯罪被害者等のための施策の総合的かつ計画的な推進を図るために作成されるものであり、今後一定の期間内に構築すべき施策体系の具体的設計図と工程を示すものとして位置付けられるものであることにかんがみれば、基本計画全体についての明確な計画期間を設定し、個々の施策をその計画期間中に展開すべき施策体系として統合し、それらを貫く基本方針や重点課題としての意味付けを行うべきである。その期間の長さについては、施策体系ができ上がり、その目指す機能が有機的に発揮されることを担保するだけの期間を確保する必要がある一方で、一定の期間で区切ることによって、施策の進捗状況を含め、犯罪被害者等を取り巻く環境の変化等を踏まえた適切な見直しを担保する必要がある。

こうした観点から、計画期間は、本基本計画の閣議決定時から平成22年度末までの約5か年とする。

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