警察庁 National Police Agency

警察庁ホーム  >  犯罪被害者等施策  >  公表資料の紹介:犯罪被害者白書  >  平成25年版 犯罪被害者白書  >  コラム5 「犯罪被害者としての私」と「犯罪被害者支援の実情と今後の課題」(平成24年度第6回犯罪被害者等施策講演会での講演概要)

[目次]  [戻る]  [次へ]

コラム5 「犯罪被害者としての私」と「犯罪被害者支援の実情と今後の課題」(平成24年度第6回犯罪被害者等施策講演会での講演概要)

認定特定非営利活動法人全国被害者支援ネットワーク理事長 平井 紀夫 氏

○ 犯罪被害者遺族としての経験

私は,1996年に長男が北京で殺害されるという事件に遭遇した,被害者遺族の一人です。自分が被害者になるということはそのときまで全く考えたこともありませんでした。

長男は中国への旅をしておりまして,日曜日の午後6時ごろ,息子からだと思って電話に出ましたら,「いや,外務省です」。確か,携帯電話の番号を教えていただいて,「何かあればここへ全て相談しなさい」と。ホットラインです。

このとき本当にいろいろなことがございました。特に,外務省からの電話の直後から翌朝の2時まで,マスコミが我が自宅へ,そして電話が鳴りやまない。家族全員がマスコミ恐怖症に陥ったぐらいでした。本当に命の綱と言いますか,この外務省のお電話で,夜中もいろいろなことを御相談し,翌朝5時には自宅を出て北京に向かったわけですが,その間,本当に救われた思いでございました。

自分自身としては,何をしているか,何をして良いかということが分からないというような状況。ただ,会社の北京事務所の人たちと外務省・領事館の御支援で,息子と面会をし,確認して,そして当局の取調べ,等を済ませることができたわけです。4日後に帰国して,会社の方でそういった準備も全てしてくれて,告別式を終えることができました。

昨日も,「今日この話をしなくてはいかん」と思いますと余り眠れない。十何年経っても被害者はそのときに戻ってしまうと言っても過言ではないと思います。

今も私が思っていますのは,「なぜこの旅行を止めなかったのか」。私は,仕事の関係で,年間40~50日ぐらいは海外へ行っておりましたので,むしろ,全く違う言葉と,ものの考えと,文化と,その背景を理解するということはこれから本当に役立つと思って,「気を付けて行ってこいよ」というぐらいの気持ちで送り出したわけですが,本当にそれが良かったのか。それが今でも残っております。

被害直後というのは混乱しておりますので,中々系統立てて御説明できませんが,例えば,1週間,10日経つと,食事も作らなければいかん,と何とかの思いで買い物に出た妻が,知り合いの方に「あ,お元気なんですね」と言われた。また,私どもの家庭で「笑い声が聞こえる」と近所の方から言われました。伏せ込んでいるだけではなくて,よかったですね,と思ってのことだと思うのですが,我々としては大変なショックでした。内閣府で調査されたもののとおり,何気ない一言が傷つくということであるわけです。

私は,2週間ぐらいは会社へ行けませんでした。もう辞めようかと。この人生,誤ってきたのではないかと思いました。いろいろ相談をして,やはり続けるべきだということで再スタートしたわけですが,2カ月ぐらいは,いくら復帰したといっても復帰にはなっていない。そこで,「経営トップであるのに」というようなことも,間接的には聞きました。しかし,職場の仲間たちのいろいろな支援のおかげで,何とか仕事を継続することができたということです。

そこで,私は,新しい人生,何を考えたか。今まで私は,率直に申し上げて,会社の仕事が全てでありました。ですけれども,これからは「息子とともに歩む人生」と思って,今もこういった活動をしているということです。

支援があるから犯罪被害者の方が被害が回復できるのだということでは決してありません。犯罪被害者自身が自分の人生を歩み始める,それを被害者支援がどう寄り添っていくのかという活動です。

犯罪被害者の方も,犯罪被害者を支援する方も,それぞれ世界で一つしかない自分の人生を歩んでこられています。その支援者がその犯罪被害者の回復のために寄り添う。これは「世界に一つしかない」支援活動です。何か答えがあるものでもない。被害者支援をされる方が創り出していく活動です。私は極めて尊い活動だと思っています。

○ (全国被害者支援)ネットワークのスタートから,今後の方向性

私たちの活動は,一人の被害者の方が「何か一歩からでも支援を始めてください」ということを訴えられたことに,当時の東京医科歯科大学の山上教授が応える形で,1992年に犯罪被害者相談室をスタートされたというのが始まりです。全国各地でそういう支援の輪が広がって,全国被害者支援ネットワークという組織が1998年にできました。ただ,各都道府県での支援センターは,全てそれぞれで組織化されているわけです。我々ネットワークがその組織作りの支援をしてできた組織ではありません。我々は傘団体です。各センターに対して指揮命令というような権限は一切ありません。ですけれども,もうそれが許されない時代。ネットワークに,我々の組織外から全国の組織の代表としての位置付けで要請されてきています。

ヨーロッパの犯罪被害者支援の歴史だけ見ても,我々は非常に遅れをとっています。しかし,国民の様々なものの考え方,その国の社会保障制度等の中で,この犯罪被害者支援というものも考えていかないと,多くの人から納得の得られる仕組みにはならないのではないか。日本は日本らしい犯罪被害者支援活動というものを創り出していかなければいけないということで,ネットワークは丁度この4月から第2期の3年計画をスタートさせます。

方向性として3つ(人材育成,中央機関としての機能,広報啓発)ございます。なぜこういうことを我々は掲げたかということですけれども,自分たちの考えだけでこの組織運営をしていれば,恐らく社会から見放されるだろうと思うからです。前の自民党政権のとき,「自助・共助・公助」ということが謳われていました。今,我々の組織は「公助・共助・自助」なのですね。これをひっくり返すと「自助・共助・公助」。

自助というのはどういうことかといえば,特にネットワークの場合,財政状況です。自分たちの組織は自ら資金を獲得し,自ら運営していくことを考えていかなくてはならないと思っています。ただ,実は共助の姿が見えないのです。あるいは公助はどうなのだと。公助はどこまであれば良いのか,私は今分かりません。

しかし,私は企業経営に関わってきて,また大学でも企業経営に関して教えてきた私の考え方で,我々の共助への努力を進めようと思っています。それは,我々の活動を可能な限りオープンにしていくことから始めたいと考えています。我々がもし間違っていたら,いろいろな意見が寄せられると思います。それを改める。これはステップアップのマネージメントなのです。

特に重要なのは人材育成です。初級,中級,上級,その上にコーディネーターというように設定し,それぞれカリキュラムを明示しました。そして,実際に裁判所に行って直接支援の勉強をするというようなことも含めて,去年の4月から研修体系をスタートしました。

人材育成体系図
人材育成体系図

○ 支援の現状

我々の団体は,年間1万7,000件ぐらいの相談に応じていて,1,300人ぐらいのボランティアと160名ぐらいの事務局員。全国各都道府県にある,センターの多くは朝10時から夕方5時まで,しかも,土曜・日曜は休んでいる。犯罪被害者からすると,本当は夜とか休みに相談したいと思うのです。これからの支援の充実を議論しているところです。

また,公安委員会から犯罪被害者等早期援助団体という指定を受けますと,警察から犯罪被害者の同意を得て,犯罪被害者の情報を提供いただくことができるので,犯罪被害者の最も重要な,できるだけ早い時期に支援をするということが可能になります。ですが,島根,愛媛,徳島,北ほっかいどうという4つの組織がまだ早期援助団体の指定を受けられておりません。何とかこれは早急にこういう状況を解消したいと思っています。

受けている相談の内容としては,35%は犯罪被害ではない。65%が犯罪被害の相談。被害者からの相談の多くは,身体犯被害と性犯罪被害。特に最近は性犯罪被害の相談が急増しています。今,所謂,ワンストップセンターということで,性犯罪被害の方が1カ所で,お医者さんも,あるいは弁護士も,警察もというような形で解決できるという取組が進められています。我々も,宮城,高知,岡山,福岡,福島などでそういう形での被害者支援というものに大変力を注ぎつつあるということです。

犯罪被害者等早期援助団体

相談対応としては,電話相談だけで一応完了するというのが過半数です。裁判所や病院に一緒に付き添って行く「直接支援」が,非常に増えてきている。

財政状況は,約42.6%が赤字です。小さな人口の所ほど地方自治体の助成に頼っている。逆に言えば,自分たちで会員を増やし,寄付金を増やすという努力が中々できない。我々としてもいろいろ資金づくりをしているのですが,一つご紹介しますと,「ホンデリング」と言いまして,古本を御寄附いただくと,その買取価格相当が私どもに寄附されるという仕組みです。御連絡いただくと,宅急便がその日中にも取りにまいりますので,非常に手軽に御協力いただけます。詳細は,「ホンデリング ~本でひろがる支援の輪~」にもありますので,是非御活用いただければ有り難いと思います。

○ 課題

以上に加えて,大きな課題は,連携の問題です。犯罪被害者が真ん中にいて,支援をする人たちがそれを取り囲んで犯罪被害者支援をするという体制にしたい,するべきだと。ワンストップは物理的には難しいと思いますけれども,お互いの連携でそれを解決できるのではないか。我々のセンターに相談に来られたら,連携はできる限りやろうとしていますけれども,県や市といったつなげた組織の中の更に関係する所までの連携というのは無理だと思いますので,是非各組織内での連携のことをお考えいただければ有り難いと思います。

また,いかに犯罪被害者の声を国民一人一人に伝えるか。100人は100人とも,「犯罪被害」のことは御存知ですが,「犯罪被害者」のことは御存知でありません。決定的に違うことです。ですから,いかに犯罪被害者の声を届けるか。これが原点です。是非直接の声をお伝えいただきたい。我々に御要請があれば,可能な範囲で協力をさせていただきたいと思います。少しでも我々の活動を知っていただければ有り難いと思いますし,被害者のことを御理解いただけると有り難いと思います。

[目次]  [戻る]  [次へ]
警察庁 National Police Agency〒100-8974 東京都千代田区霞が関2丁目1番2号
電話番号 03-3581-0141(代表)