コラム11 第1回「命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール」について
犯罪被害者やその家族・遺族が受ける被害は、犯罪行為そのものによって生じる心身の被害のみではありません。周囲の人々による心ない言動による二次的被害、職を離れざるを得なくなることによる経済的困難、社会からの孤立感など、その影響は広範囲かつ長期にわたります。したがって、犯罪被害者等が再び平穏な生活を取り戻すことができるようにするためには、犯罪被害者等に対する犯罪被害給付やカウンセリングの提供など、官・民の関係機関・団体による支援のみならず、被害者等の日常を取り巻く存在である地域社会や学校・職場、さらには将来の社会を支える子どもたちに犯罪被害者等が抱える困難や思いについて理解を深めてもらい、社会全体に犯罪被害者等を思いやり、犯罪被害者等を支える気運を醸成することが重要です。
このような観点から全国警察では、これからの社会を担う中学、高校生を対象とする犯罪被害者等による講演会である「命の大切さを学ぶ教室」の開催や、大学生等を対象とした被害者支援に関する社会活動への参加を促進するなど、「社会全体で被害者を支え、被害者も加害者も出さない街づくり」に向けた取組が、犯罪被害者等のご協力を得ながら、警察、教育委員会、民間被害者支援団体等と連携して積極的に進められています。
中でも、犯罪被害者等が長期にわたり直面する心身の苦痛やその置かれた厳しい状況を、中学、高校生に対して犯罪被害者等から直接語っていただく「命の大切さを学ぶ教室」は、受講した生徒が犯罪被害者等の思いや立場を理解するだけでなく、
- 自分自身の命はもとより、他人の命を大切にすること
- 殺人事件をはじめ、悲惨な交通事故、そして、いじめや暴力の無い安全で安心して暮らせる平和な社会を築くこと
などについて、友達や家族と一緒になって真剣に考える規範意識の醸成にもつながっています。
警察庁では、平成23年度、こうした「命の大切さを学ぶ教室」の効果を更に向上させるための新たな取組として、教室を受講した全国の生徒から作文を募集し、応募された作品の中から優秀作品を選定する第1回「命の大切さを学ぶ教室全国作文コンクール」を開催するとともに、優秀作品として選定した受賞者を一堂に集め、各賞の表彰をはじめ、作品の朗読、犯罪被害者遺族による講演等を内容とする表彰式を行いました。
1 「優秀作品」の概要
全国作文コンクールは、中学生の部、高校生の部において実施され、中学生の部には36,946点の作品が、高校生の部には13,334点の作品が応募され、それぞれの部において
- 国務大臣・国家公安委員会委員長賞 ・・・・ 1点
- 警察庁長官賞 ・・・・・・・・・・・・・・ 2点
- 警察庁長官官房長賞 ・・・・・・・・・・・ 10点
が優秀作品として選ばれました。
2 「表彰式」の概要
平成24年3月30日、文部科学省、認定特定非営利活動法人全国被害者支援ネットワーク、公益財団法人犯罪被害救援基金の後援を得て、第1回「命の大切さを学ぶ教室 全国作文コンクール表彰式」が開催されました。
(1) 「優秀作品」の表彰
中学生の部、高校生の部において、国務大臣・国家公安委員会委員長賞、警察庁長官賞及び警察庁長官官房長賞を受賞する受賞者に対して、それぞれ表彰状と副賞の楯が授与されました。
(2) 「優秀作品」の朗読
優秀作品の受賞者を代表して、国務大臣・国家公安委員会委員長賞を受賞した
- 北海道苫小牧市立光洋中学校 川 口 智 基 くん
- 岐阜県立大垣商業高等学校 森 千 晃 さん
による作品の朗読が行われました。
○ 北海道苫小牧市立光洋中学校 川口智基くんの作品
【気づいたこと】
僕は今回の命の授業を終えて、自分の今までの考え方が間違っていたと気づいたことが二つあります。
一つ目は、「自分の命の重さ。」ということです。
もちろん僕は、自分の命を軽く考えたりしたことはありません。でも、それは自分がまだ死にたくないからということが中心の考え方でした。自分の命は自分のものだから、どのような使い方をしてもいいという考えだったのです。
ところが、命の授業でのお話を聞いているうちに、自分の命は、決して自分だけのものではない。今まで、僕を支えてくれた、両親や先生方、友人などたくさんの人と共有しているんだということに気づいたのです。
もしも僕が死んでしまったら、悲しむ人がたくさんいるということに気づいたのです。そして、これからも僕は、多くの人たちと関わりながら生きていくのです。
ということは、命を共有する人が増えていくということです。
こんなことに気づいてしまったら、僕は自分の命を粗末になんかできません。
僕が死んだら、苦しいのは僕ではありません。悲しむのも僕ではありません。僕を支えてくれているたくさんの人たちなのです。
だから、僕は今後、どんなに辛いことや悲しいことがあったとしても、周りの人たちに感謝をしながら、力強く生きていこうと思います。
気づきの二つ目は、「周りの人たちへの思いやりの心」ということです。
例えば、僕たちが、つい他の人に使ってしまう「死ね!」という言葉があります。
これが良くない言葉とは、今まで思っていました。でも、なぜ良くないのかという理由について、深くは考えていませんでした。もし、「なぜ良くないのですか。」と質問されたら、「死ねというのはひどいことだから。」などということしか答えられなかったと思います。
でも、今は違います。「死ね。」という言葉は、相手の人だけではなく、その人を支えている人たちの全ての気持ちを否定することになるのです。そして多くの人たちが悲しむことに「自分は関係ない。」といっていることと同じです。
死んでしまってもいい人間なんて、この世界に一人もいないのです。どんな人にも生きる権利と周りの人に応えながら生きる義務があるのです。
こう考えると「死ね。」などという言葉を軽々しく口にできません。
もちろん、どんな人でも必ず死を迎えます。これは、逃れることはできません。だからこそ、生きている今この時を大切にしなければならないと思います。
僕は、このようなことを気づかせてくれた講師の方に、とても感謝しています。
○ 岐阜県立大垣商業高等学校 森千晃さんの作品
【「命の大切さを学ぶ教室」を受けて】
「命の大切さ」、これまで何度となく耳にしてきた言葉ですが、私にとってあまり深く意識したことはありませんでした。
何か辛いことや壁にぶつかったりした時、「いっそ死んでしまったら逃げられるのに」と、何も考えないで口にすることがあり、「命の大切さ」を理解しているようでしていない自分がそこにはいたような気がします。
きっとそれは私の身近に亡くなった人がなく、「死」を身近に経験しなかったからだと思います。
そんな私の「死」に対する考え方を大きく変えたのが、昨年秋に本校で開催された名古屋市在住の佐藤逸代さんの「命の大切さを学ぶ教室」でした。
これまで私はテレビなどのニュースで交通死亡事故の報道があっても、「気の毒に」「可哀想だな」としか思わなかったのですが、ご自分の娘さんの交通事故に遭われた生々しい様子を涙ながらに話されるのを聞き、とても胸が締め付けられる思いがしました。
一瞬の出来事が本人はもちろんのこと、残された家族の人生や生活まで大きく変えてしまい、一生涙を流さなければならない現実に私ならとても耐えられないと思いました。実際に遺族の方の絞り出すような言葉を直に聞いたのは初めてで、私にとってショッキングなものでした。
佐藤さんのお話しを聞きながら、もし私の家族がある日突然いなくなってしまったらと思い、思わず涙が頬を伝っていました。
私が今ここに生きていて私の大切な家族や仲間たちと生活できることが、とても幸せであることに気付きました。毎日のように友達と会えて、家に帰れば家族がいるという生活を当たり前のように繰り返してきた自分を「幸せだ」と思ったことはありませんでした。
しかし、今回の教室により、「この幸せを当たり前と思ってはいけない。周りのいろいろな人に感謝しながら生きていくべきだ」と思いました。
母には「産んでくれてありがとう」、友達には「一緒にいてくれてありがとう」、たった五文字の「ありがとう」がなかなか普段恥ずかしくて言えないのではないでしょうか。
しかし私たちは、いつどこで何が起きるか知れません。日頃のささいなことでも感謝の気持ちを持って、素直に「ありがとう」と言えるようにしていけたら素晴らしいと思います。
私にとって「命の大切さを学ぶ教室」は、今までのどんな授業や生活との場面、小説やテレビ番組よりも心に深く響き、心の底から受け止めることができました。
その後、昨年の12月に、本校の1年女子生徒が不慮の事故で亡くなってしまいました。私は生徒会長として、生まれて初めて告別式に参列しました。
亡くなった生徒とはあまり接点がなかったのですが、初めて人の「死」と対面したと同時に、佐藤さんのお話しを思い出し、「死」に対する恐怖を感じ、涙が止まらなくなりました。
自宅に帰ってからも、「どうしてもっと生きたい人が、命を落とさなければならないのか」、「私はこれから何をすべきなのか」など、頭の中にいろいろなことが思いめぐり、その夜はなかなか眠れませんでした。
それからもしばらくの間、その答えを出すことができずにいましたが、最近になってようやく自分なりの答えがみえてきたような気がします。
それは、「命を大切にする」ことは、「今を精一杯生きること」ではないかということです。今この一瞬はもう戻ることができない大切な時間です。
「死」は遠いようで近くにある存在で、いつかは誰もが向き合わなければなりません。「もっとこうしておけばよかった」というような後悔はしたくありません。
辛い時、ついつい思っていた「死んでしまいたい」は、本気で向き合えた今の私には必要のない言葉です。
生きていること、大切な人がいることに感謝し、今を精一杯生きていきたいと考えています。
(3) 犯罪被害者遺族による講演
表彰式の第二部では、認定特定非営利活動法人全国被害者支援ネットワーク理事である大久保惠美子さんによる講演が行われました。
大久保さんは、平成2年10月、飲酒運転者によるひき逃げ事件によって御子息を亡くされた犯罪被害者遺族ですが、平成3年に開催されました「犯罪被害者給付金制度10周年記念シンポジウム」において、自らの体験をもとに、被害者等に対する精神的援助の必要性を強く訴えられました。この大久保さんの発言を契機として、被害者支援の更なる取組が始まり、翌平成4年3月、東京医科歯科大学難治疾患研究所に「犯罪被害者相談室」が開設されました。
大久保さんは、我が国の犯罪被害者支援の発展に御尽力され共に歩んでこられた方であり、「犯罪被害者の歩み」という演題で、自らの事件の概要、事件後に体験された精神的症状や苦痛、被害者支援の概要等について講演されました。