犯罪被害者等基本法の制定と犯罪被害者等基本計画の策定は、犯罪被害者等の権利利益の保護が図られる社会の実現に向けた新たな第一歩であった。

犯罪被害者等基本計画の策定後3年を経た今、依然として課題はあるものの、大きな検討課題であった犯罪被害者等が刑事裁判手続に直接関与することのできる制度の実現や犯罪被害給付制度の拡充など、犯罪被害者等施策には着実な進展が見られるところである。

本特集では、犯罪被害者等基本計画策定3年を振り返り、犯罪被害者等施策の歩みなどを紹介する。


第1節 犯罪被害者等基本法制定以前の取組

犯罪被害者等(被害者自身だけでなく、その家族や遺族も含む。以下「被害者」という。)のための施策を戦後について概観すると、昭和30年代の、刑法における証人等威迫罪(同法第105条の2)の創設や自動車損害賠償責任保険制度(「自動車損害賠償保障法」(昭和30年法律第97号))の設立が挙げられるが、これらの法制度は、被害者保護に配慮を図りつつ、国家の司法作用の保護を主たる目的としたり、自動車運送の急激な発達に対する運輸施策として位置づけられていた。

しかし、昭和49年8月30日に起きたいわゆる三菱重工ビル爆破事件で多数の死傷者が発生したことなどをきっかけとして、被害者に対する公的支援を求める声が高まり、それを受けて55年5月に、被害者の権利利益の保護を主たる目的とした最初の法律である、「犯罪被害者等給付金支給法」(昭和55年法律第36号、現在の「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」)が制定された。

その後、平成8年に警察庁が被害者対策要綱を策定し、11年には、政府に犯罪被害者対策関係省庁連絡会議が設置された。12年にはいわゆる犯罪被害者保護二法(「刑事訴訟法及び検察審査会法の一部を改正する法律」(平成12年法律第74号)及び「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」(平成12年法律第75号、現在の「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」))が制定されて刑事和解手続が導入されるなどし、さらに13年には、前記犯罪被害者等給付金支給法の改正により、犯罪被害給付制度が拡充されるとともに、犯罪被害者等早期援助団体の指定に関する規定が創設された。

このように、犯罪被害給付制度が制定された後、平成に入ってからも関係省庁ごとに被害者施策は行われてはいたものの、総合政策的な取組とまでは行かず、被害者の要望に十分対応したものとは言い難く、「犯罪被害者の多くは、十分な支援を受けられず、社会において孤立することを余儀なくされ、さらには、犯罪等による直接的被害にとどまらず、その後も副次的な被害に苦しめられることが少なくなかった」(犯罪被害者等基本計画前文より抜粋)。


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