3.犯罪被害者等基本計画 (平成17年12月27日閣議決定)

II 基本方針

基本方針は、犯罪被害者等が直面している困難な状況を打開し、権利利益の保護を図るという目的を達成するために、個々の施策の策定・実施や連携に際し、実施者が目指すべき方向・視点を示すものである。

基本法は、国及び地方公共団体が犯罪被害者等のための施策を策定・実施していく上で基本となる3つの「基本理念」を掲げている。施策の実施者が目指すべき方向・視点は、この3つの基本理念を踏まえて設定されるべきである。また、基本法は、国民の配慮と協力を責務と定めている。犯罪被害者等は、社会において理解され、配慮され、支えられることが必要であり、すべての施策の基盤として、国民の総意が犯罪被害者等のための施策に向けて形成されることも施策の実施者において目指すべき方向・視点とされるべきである。

そこで、以下の4つの基本方針を設定する。

[4つの基本方針]

《1》 尊厳にふさわしい処遇を権利として保障すること

基本法第3条第1項は、「すべて犯罪被害者等は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する。」と規定している。

犯罪被害者等は、国民の誰もが犯罪被害者等となり得る現実の中で、思いがけず犯罪被害者等となったものであり、我々の隣人であり、我々自身でもある。その尊厳は、当然のこととして尊重されなくてはならない。しかし、犯罪被害者等は、その被害の実相を理解されず、例外視され、被害の責任があるかのように誤解されるなどして、必要な支援を十分に受けられなかったり、刑事手続など様々な場面で無理解な対応をされたり、周囲の好奇の目にさらされ、中傷され、あるいは、軽視されたり無視されるなど、疎外され孤立することが少なくない。そうした疎外感・孤立感から、犯罪被害者等の中には、加害者に対する一面手厚い対応に比べ、犯罪被害者等は不公平に軽んぜられているという思いが強くある。

犯罪被害者等のための施策は、例外的な存在に対する一方的な恩恵的措置ではなく、社会のかけがえのない一員として、犯罪被害者等が当然に保障されるべき権利利益の保護を図るためのものである。施策の実施者は、犯罪被害者等はその尊厳が尊重され、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有していることを視点に据え、施策を実施していかなくてはならない。

《2》 個々の事情に応じて適切に行われること

基本法第3条第2項は、「犯罪被害者等のための施策は、被害の状況及び原因、犯罪被害者等が置かれている状況その他の事情に応じて適切に講ぜられるものとする。」と規定している。

犯罪被害者等が受ける被害の状況については、生命・身体・精神・財産に対する被害として様々な内容があり、被害の原因や犯罪被害者等が置かれている状況にも実に様々なものがある。また、時間の経過とともに、犯罪被害者等が直面する問題も種々に変化する。そうした差異に着目せず犯罪被害者等のための施策を一律に講じても、当該犯罪被害者等が直面している困難に対して意味のないものとなったり、時には、かえって負担を増す結果ともなる。

犯罪被害者等のための施策は、個々の犯罪被害者等が直面している困難を打開し、その権利利益の保護を図るために行うものである。施策の実施者は、個々の犯罪被害者等の具体的事情を正確に把握し、その変化にも十分に留意しながら、個々の事情に応じて適切に施策を実施していかなければならない。

《3》 途切れることなく行われること

基本法第3条第3項は、「犯罪被害者等が、被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援等を途切れることなく受けることができるよう、講ぜられるものとする。」と規定している。

犯罪被害者等は、犯罪等により、それまで享受していた平穏な生活が破壊され、本来有している能力も阻害され、自らの力だけでは回復困難な状況に陥る。そうであっても、犯罪被害者等は、自らが直面する様々な困難に立ち向かい、それらを乗り越えていかなければならないが、深刻な被害の影響により、平穏な生活を回復するまでには長期間を要し、また、時間の経過とともに直面する問題が様々に変化し、それに伴い、必要とされる支援内容も変化する。

こうした事情がある中で、適用される制度や担当する機関等が様々に替わることや地理的な制約等により、制度や組織の継ぎ目に陥り、必要な支援等が途切れることがある。

犯罪被害者等のための施策は、犯罪被害者等が直面するその時々の困難を打開することにだけ注目するのではなく、犯罪被害者等が再び平穏な生活を営むことができるようになることに視点を置いて行うべきものである。施策の実施者は、制度や担当機関等が替わっても連続性をもって当該犯罪被害者等に対する支援等が行われるよう、また、犯罪被害者等の誰もが、必要なときに必要な場所で適切な支援を受けられるよう、途切れることのない支援等を実施していかなければならない。

《4》 国民の総意を形成しながら展開されること

基本法第6条は、「国民は、犯罪被害者等の名誉又は生活の平穏を害することのないよう十分配慮するとともに、国及び地方公共団体が実施する犯罪被害者等のための施策に協力するよう努めなければならない。」と規定している。

犯罪被害者等は、社会において平穏な生活を享受する権利を有しており、そうした生活を回復することが犯罪被害者等のための施策の目標である。しかし、犯罪被害者等は、社会において、ともすればその被害の深刻さ、回復の困難さを十分に理解されることなく、軽視・無視され、他方で、好奇の目にさらされたり、被害の責任があるかのように誤解され、中傷されるなど、疎外され、孤立し、その苦しみを増幅させられることが少なくない。そうした状況から逃れるために、犯罪被害者等であることを隠して生活をしていかざるを得ないこともあると指摘されている。

犯罪被害者等は思いがけず犯罪被害者等となったものであり、我々の隣人であり、我々自身でもある。国民一人ひとりが犯罪被害者等のことをよく理解し、配慮し、尊厳を尊重して支えることが健全な社会の証である。犯罪被害者等の居場所は、我々の隣に、地域社会の中にあるのであって、そこで暮らし続けられるように支えなくては、犯罪被害者等の平穏な生活は還らない。また、国民の誰もが犯罪被害者等となる可能性が高まっている中、犯罪被害者等に対する社会の支援は、犯罪等に対する拒否の強いアピールとなって安全で安心な社会づくりの基盤ともなるものである。

したがって、犯罪被害者等のための施策は、犯罪被害者等がその名誉又は平穏を害されることなく、共に地域で生きていけるよう国民が総意で協力する社会を形成していくという視点を持って実施されなくてはならない。同時に、国民の総意が形成されるよう、犯罪被害者等のための施策の策定・実施は、国民からの信頼を損なわないように適切に行われる必要がある。


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