COLUMN

民間団体の取組


(1) 我が国における民間団体

犯罪被害者等が被害にあってから再び平穏な生活を取り戻すためには、被害直後から中長期にわたって、そのニーズに応じた支援を途切れなく受けられるようにすることが重要です。民間団体による支援活動は、犯罪被害者等の様々なニーズに対し、きめ細かで迅速な対応を可能にするものであり、関係機関・団体との連携による途切れのない支援を行う上で不可欠です。

現在、我が国では、犯罪被害者等の分野において多種多様な民間団体が活動しています。対象とする犯罪被害類型や活動の主体などに着目すると、

<1> 犯罪被害者等早期援助団体とその指定を目指す団体

<2> 特定非営利活動法人全国被害者支援ネットワーク(<1>の連合体)

<3> 特定の犯罪類型の被害者等を対象とする団体など<1><2>以外の支援団体

<4> 犯罪被害者等自身が主体となって活動する団体・グループ

に分類できますが、ここでは、犯罪被害全般を支援対象としており、我が国において代表的といえる<1>の団体の取組について、より詳細に紹介していきます。


(2) 犯罪被害者等早期援助団体とその指定を目指す団体

犯罪被害者等早期援助団体とは、被害にあった直後から犯罪被害者等に対しての援助を適正・確実に行うことができる民間団体として、都道府県公安委員会から指定される団体です。都道府県公安委員会からの指定を受けることによって、犯罪被害者等早期援助団体は、犯罪被害者等の同意のもとに警察から当該被害者等の情報提供を受けることができます。提供された情報に基づいて、犯罪被害者等早期援助団体は、被害直後の段階から犯罪被害者等の身の回りの世話などの日常生活の支援、病院、法廷への付添い、物品の供与や貸与、役務の提供などの直接的支援を行うことができます。

平成20年10月1日現在、犯罪被害者等早期援助団体は20都道府県20団体、その指定を目指している団体は25県25団体あります。

▼<加盟団体事務所の様子>
~(社)被害者支援都民センター~
<加盟団体事務所の様子>~(社)被害者支援都民センター~の写真
提供:特定非営利活動法人全国被害者ネットワーク

(3) 支援の実際

ここでは、犯罪被害者等早期援助団体において、具体的にどのような支援を行っているのか、事例を通してその一端を紹介します。なお、ここに紹介する事例は、実際のケースを参考にしたものです。

~事例1 殺人被害遺族への直接的支援~


ご主人を突然の殺人事件で亡くされたご遺族のケースです。

事件が起訴され公判が開始されることになりました。癒えぬ心を押して「主人を殺害した犯人(被告人)をこの目で確かめたい!事件の真実を知りたい!」との思いがあるとの情報を、ご遺族の同意のもと、警察から受けました。

これを受けて、民間被害者支援団体としてまず、ご遺族が希望している公判傍聴への付添い支援を実施しました。ただでさえ、慣れない法廷の場に身をおくことは不安なものですが、難解な法律用語や裁判がどう進むのかなど、一般にはわからないことが多く、自分だけが置き去りにされていると感じたり、不安が増大したりします。また、被告人を目の前にして、様々な感情が込み上げ、混乱に陥ってしまうこともあります。そのため、ご遺族に付き添って、裁判がどのように進むのか説明したり、被告人などとばったり会うようなことのないように待機場所に配慮するなどし、精神的な負担を少しでも減らせるよう努めました。裁判所への付添い支援については判決が出るまで、3か月にも及びました。

また、裁判が続く間、意見陳述準備や打ち合わせなどのために検察庁に出向くことは、事件を何度も思い出すこととなり、ご遺族が今まで生きてきた人生の中で予測だにしなかった重い経験でありました。そのため、検察庁へも付き添い、これから行われることやその必要性などを説明したりし、精神的なケアに努めました。

さらに、事件は精神的に大きなダメージを与え、自力で病院に行くことさえ出来ない状態でした。そこで、ご遺族の要望に添って専門医との連絡・調整、病院への付添い支援も行いました。

被害によって、経済的にも様々な負担を強いられます。支援制度はあるものの、一般の方には、どのような制度があり、どのような手続を進めればよいのか、あまり知られていないものも多くあります。そのため、まず、どんな支援制度があるか説明し、その後、犯罪被害者等給付金申請のためのお手伝い(補助)をしたり、損害賠償請求のため、被害者支援に精通した弁護士のもとへ付き添ったり、たくさんの関係機関・団体と連携しながら、ご遺族の方の意思を尊重して支援を行いました。

被害回復までには、長期間が必要です。現在もなお、犯行の現場となった住居の転居問題など、行政などと連携しながら支援が続いています。

~事例2 性被害に遭われた方への支援~


お二人のお子さんを養いながら、女手ひとつで生活をしてきた被害者の方に対する支援を実施しました。

家をピッキングされて強姦被害に遭った方でした。事件後3か月して、犯人は別件逮捕され、3名が強姦、2名が強制わいせつの被害を受けていることが判明しました。魂の殺人といわれる性被害ですが、被害者の方が打ち震えるのを目の当たりにすると、同じ女性、同じ人間として、私自身も魂がゆすぶられる思いがしました。

私はまず、センターの相談室に足を運んでいただいてお話を聞いたり、精神科医への橋渡しを行いました。警察や検察庁との連絡調整や事情聴取時の付添いも行い、起訴後は、代理傍聴を含めた公判支援も実施しました。

また、この事件の場合、犯人がなかなか捕まらず再被害の不安・恐怖が強かったため、やむなく引越しを考えました。そして、「現在市営住宅に住んでいるために、他の市営・県営住宅に申し込む資格がない。民間の住宅を借りるのに十分な収入がない。」などの理由で非常に難しかったのですが、県の住宅課と粘り強く交渉し、県営住宅に申し込む資格を取得することができました。その間にも、フラッシュバックを繰り返しながら精神的なストレスを抱え、大変な思いをしての交渉でした。

さらに、犯人は不特定多数の人と性交渉をもっていましたので、AIDSの心配もありました。しかし、血液検査をするのにもお金がかかります。また、精神的にとても大きな被害を受けた方だったので、毎月の定期的な通院も欠かせません。現状の制度では、医療機関に通うにも、1か月を超えると、その度に初診料がかかります。事件のせいで、経済的に大変な思いをしている被害者には交通費も大きな負担です。被害者に対する経済的な援助はまだまだ不十分ですが、今後はそのような制度の拡充も必要になってくると感じた支援でした。

性暴力は、人間の尊厳を踏みにじり、人権を奪い去る行為です。そして被害者に続く、怒り・葛藤・自己否定・絶望のなかで、被害者が新たに自分の価値を見出すことは、とても大変なことだと実感しております。

(4) 民間団体の重要性

行政や司法・医療機関など専門的な支援を行う組織では、どうしても、限定されたニーズへの対応となってしまいますが、民間被害者支援団体では、関係機関・団体との連携により、このように、中長期的な視点に立って、きめ細やかで、総合的な支援を行うことができます。

一方で、民間団体においては、財政面や人材面で様々な困難を抱えており、地域によって支援の内容や質がまちまちであることが指摘されています。

「支援のための連携に関する検討会」や「民間団体への援助に関する検討会」では、こうした課題についても検討しました(コラム「3つの『検討会』の最終取りまとめ」参照)。現在、両検討会の最終取りまとめを受け、政府において、民間被害者支援団体における支援者を対象とした研修カリキュラムのモデル案を作成しているところです。また、関係機関・団体が連携し、途切れない支援を行えるようにするため、連携のためのマニュアルを全国で作成することとし、現在、政府において、様々な分野の専門家が集まって、そのモデル案を作成しているところです。

また、民間団体の活動を促進するためには、広報啓発も重要です。被害者支援において先進的な取組を行っているイギリスでは、チャリティーとして民間被害者支援団体に寄付をする企業が多くありますが、我が国においては、寄付や賛助会員の募集をしても思うように集まらない、といった現状であり、その一因としては、まだまだ被害者支援が浸透していない、といった状況が考えられます。

今後は、民間団体や政府において、引き続き国民の理解の促進に努めるとともに、上記研修カリキュラム・モデル案を参考に、各団体において、より一層の研修の充実を図り、全国どこでも一定のレベル以上の支援を確保することが重要です。

▼<特定非営利活動法人全国被害者支援ネットワークの活動>
<特定非営利活動法人全国被害者支援ネットワークの活動>の写真
出典:特定非営利活動法人全国被害者支援ネットワークパンフレット

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