COLUMN

地方公共団体の取組


平成16年に成立した基本法は、都道府県・市区町村を区別せず地方公共団体に対し、相談・情報提供、保健医療、福祉サービスの提供、居住・雇用の安定、地域住民の理解の促進など犯罪被害者等に関する広範な施策を、地域の実情に応じ総合的に推進することを求めています。

ここでは、平成19年度に実施した「地方公共団体における犯罪被害者等施策に関する調査」の概要や地方公共団体の特徴的な取組について、いくつか紹介していきます。


1 「地方公共団体における犯罪被害者等施策に関する調査」

内閣府においては、平成19年度に地方公共団体における犯罪被害者等施策の総合的な推進に関する現状や先進的な取組事例、課題などを把握するためにすべての地方公共団体(47都道府県と1,823市区町村(平成19年11月8日現在))を対象に「地方公共団体における犯罪被害者等施策に関する調査」(※1)を実施しました(http://www8.cao.go.jp/hanzai/report/h19-2/index.html)。内閣府では、これまで、主管課室長会議などを通じて、都道府県・政令指定都市と情報共有を図ってきましたが、本調査はその他の市区町村も対象とした初めての全国調査でした。


(※1)平成19年11月から同年12月にかけて調査票の配布、回収を行い、その結果を踏まえ20年1月から同年2月にかけ13団体にインタビュー調査を実施しました。


<1> 犯罪被害者等施策を担当する部局の確定状況

犯罪被害者等施策を担当する部局は、都道府県・政令指定都市では全て確定していますが、その他の市区町村では51.9%にとどまり、その大半が確定見込み時期を未定としました。

▼犯罪被害者等施策を担当する部局の確定状況
犯罪被害者等施策を担当する部局の確定状況の図

<2> 犯罪被害者等からの相談・問い合わせに対応する窓口(総合的対応窓口)の設置状況

総合的対応窓口を設置・設置予定の団体は、都道府県では78.7%、政令指定都市では47%、その他の市区町村では19.1%でした(うち、都道府県・政令指定都市では専用窓口が6割を占め、その他の市区町村では大半が他の様々な相談も受ける窓口となっています。平成20年7月現在の都道府県・政令指定都市における総合的対応窓口の設置状況については、犯罪被害者等施策に関する基礎資料7.政府・地方公共団体の犯罪被害者等施策担当窓口一覧を参照。)。

▼犯罪被害者等からの相談・問い合わせに対応する窓口の設置状況
犯罪被害者等からの相談・問い合わせに対応する窓口の設置状況の図

<3> 条例の策定

犯罪被害者等施策に関する規定を含む条例を策定済み(又は予定)の団体は、都道府県では40.4%、政令指定都市では11.8%、市区町村では4.7%でした。

▼犯罪被害者等施策に関する規定を含む条例の策定状況
犯罪被害者等施策に関する規定を含む条例の策定状況の図

本調査の結果、都道府県・政令指定都市レベルでは取組が進みつつあるものの、市区町村においては、全体的に施策についての理解・認識が十分でなく取組が低調であることが分かりました。

犯罪被害者等施策が実を伴うものとなるには、今後、犯罪被害者等にとって最も身近な市区町村が保健医療・福祉、教育、住宅などの分野における現行の各種制度を活用しながら地方公共団体として被害者支援のために何ができるかを自ら検討して実施していくことが必要になってくると考えられます。そのためには、まず、市区町村においては、施策担当窓口部局を確定し、当該部局が中心となって、基本法、国の基本計画や犯罪被害者等に対する理解を深めることなどから取組を始めることが必要となります。

広域的な自治体である都道府県などにおいては、このような市区町村の取組に対して、研修や連絡会議などを通じて情報提供を行うなど、積極的な支援を進めるとともに、今後も引き続き、自らの施策を充実させ、取組を推進していくことが重要となると考えられます。


2 地方公共団体の特徴的な取組

基本法の成立から約3年半経過し、地方公共団体の中には、地域の実情に応じて特徴的な取組を行っている団体がみられます。ここではその例をいくつか紹介していきます。


<京都府の取組>


京都府犯罪被害者サポートチーム・犯罪被害者支援コーディネーターの設置


京都府では、犯罪被害者等の総合的な支援を行うため、関係行政機関や民間の機関・団体と連携したネットワークシステムの運用を平成20年1月30日に全国で初めて開始し、その中心的な役割を果たす犯罪被害者支援コーディネーターを配置しました。

犯罪被害者サポートチームは、府や管内市町村の関係行政機関をはじめ、弁護士会、医師会、司法書士会、臨床心理士会、社会福祉協議会、犯罪被害者支援センターなど、民間機関の協力により支援を行います。事務局は、府民生活部安心・安全まちづくり推進課に置かれ、専用電話が設置されています。

犯罪被害者支援コーディネーターは、組織を横断した支援が必要な犯罪被害者等について、その状況に応じて必要な支援を判断し、支援機関との橋渡しや手助け、場合によっては付添いをするなど、サポートチームの中心的な役割を担っています。コーディネーターは、サポートチーム事務局に非常勤嘱託として所属しており、自らも傷害事件によって長男を亡くした犯罪被害者遺族である社会福祉士1名や臨床心理士2名の計3名体制で犯罪被害者等の支援に当たっています。(http://www.pref.kyoto.jp/anshin/1202255070243.html)。

京都府犯罪被害者サポートチーム・犯罪被害者支援コーディネーターの設置の写真1
提供:京都府
京都府犯罪被害者サポートチーム・犯罪被害者支援コーディネーターの設置の写真2

<福岡県、福岡市、北九州市の取組>


福岡犯罪被害者総合サポートセンターの開設


福岡県では、平成20年5月7日、県、福岡市、北九州市の3団体が共同で事業主体となり、民間被害者支援団体である特定非営利活動法人福岡犯罪被害者支援センターを運営主体とした「福岡犯罪被害者総合サポートセンター」を開設しました(http://www.pref.fukuoka.lg.jp/a02/higaisha-support.html)。

この取組によって、福岡県、福岡市、北九州市においては、総合的対応窓口が設置されるとともに、福岡犯罪被害者支援センターでは、窓口や相談日が増えたり、相談時間が延長されたりするなど、犯罪被害者等支援の体制が充実されることとなりました。

行政と民間被害者支援団体との協働事業である「福岡犯罪被害者総合サポートセンター」では、

○相談員が犯罪被害者等からの電話相談に対応

○必要に応じて本人、家族との面談を実施

○相談内容に応じた支援

・精神的なケアが必要な場合、臨床心理士、医師などによる面談やカウンセリングを実施

・病院、裁判所などへの付添いを希望する場合、付添い支援を実施

・生活保護、公営住宅への入居などの行政による支援が必要な場合、関係機関などを紹介し、必要な支援を調整

・専門的な支援が必要な場合、弁護士会、病院、DV相談窓口などの専門機関を紹介し、必要な支援を調整

するなど犯罪被害者等に対していわゆるワンストップ・サービスで総合的に対応しています。

電話相談 相談専用電話 092-477-3156
相談時間帯 月曜日~金曜日 10時~16時
土曜日 13時~16時
面接相談 福岡地区 場所 福岡犯罪被害者支援センター(博多区)
開所時間 月曜日~金曜日 10時~16時
北九州地区 場所 北九州市役所1階交通事故相談所内
開所時間 予約制
相談体制 臨床心理士、弁護士、医師、警察OB等の相談員が対応

<摂津市の取組>


「摂津市犯罪被害者等支援条例」「摂津市犯罪被害者等見舞金の支給に関する条例」の施行


基本法は、地方公共団体に犯罪被害者等施策に関する条例を制定したり、計画を策定したりする義務を課していません。しかし、条例や計画の整備は、犯罪被害者等が利用できる施策・事業を一元的に把握して住民に示すことができたり、犯罪被害者等の視点に立った横断的な取組が進めやすくなったりするなど施策を推進するための効果的な方法であると考えられます。

前述の全国調査から、条例の制定状況を見ると、都道府県・政令指定都市においては、犯罪被害者等施策に関する規定を含む条例を制定している団体がいくつかあるものの、そのほとんどがいわゆる、安全安心まちづくり条例などに犯罪被害者等施策を盛り込んだものとなっています。

一方、その他の市区町村においては、見舞金など犯罪被害者等への経済的支援に特化した条例や犯罪被害者等のための基本的施策などを規定した条例を制定している団体が秋田県内や滋賀県内で多くみられました。その他の地域においても、犯罪被害者等に特化した条例を制定している団体がいくつかみられたものの、市区町村では、安全安心まちづくり条例などに犯罪被害者等施策を盛り込んでいる団体を含めても、条例を制定している団体は全体的にはわずかでした。

そのような状況の中、大阪府摂津市では、平成20年7月1日、「摂津市犯罪被害者等支援条例」と「摂津市犯罪被害者等見舞金の支給に関する条例」を施行しました。

「摂津市犯罪被害者支援条例」には、<1>相談・情報提供(総合的対応窓口の設置)、<2>見舞金の支給、<3>日常生活の支援(介護、家事、保育が必要になった場合のホームヘルパー派遣)<4>家賃や敷金などの補助、<5>就業支援の5つの支援策が盛り込まれており、見舞金の支給以外の具体的な犯罪被害者等施策を規定した条例が施行されるのは、西日本では初めてでした。

摂津市では、既に同年5月に庁内関係各課からなる摂津市犯罪被害者等支援連絡会議を設置していましたが、支援条例の施行に合わせて総合的対応窓口も設置しました。犯罪被害者等が少しでも早く平穏な生活を回復できるよう、さらに施策の推進に取り組むこととしています。

摂津市の犯罪被害者等支援案内の写真
提供:摂津市

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