第5節 国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組


COLUMN 9

犯罪被害者等に関する国民の意識

1 調査の概要
  犯罪被害者等が、被害から立ち直り、再び地域において平穏に過ごせるようになるためには、地域における人々の理解と配慮、そしてそれに基づく協力が重要である。
  一方、国民の犯罪被害者等に対する理解については、誤解や偏見、知識の不足などが指摘されており、基本計画においては、犯罪被害者等の置かれた状況などについての国民の理解を促進するための施策が盛り込まれている。
  内閣府においては、「犯罪被害者等に関する国民意識調査」 *1を実施し、平成19年5月、調査結果を公表した。本調査では、国民一般のもつ犯罪被害者等への意識を把握するとともに、犯罪被害者等の経験や被害後の意識などを聴取することで、国民一般の犯罪被害者等に対する「イメージ」と犯罪被害者等の実態部分とのギャップ(ずれ)を明らかにすることを目的とした。
  以下では、調査結果から見えてくる国民一般の犯罪被害者等についての意識と犯罪被害者等の求める身近な支援の在り方について述べる。

(*1)第2章第5節(13)参照のこと。平成18年12月から19年1月にかけ、調査票の配布、回収を行った。有効回答数は、国民各層5,331名、犯罪被害者等 1,098名の計6,429名であった。また、犯罪被害者等に対してのみ、自由回答の記載枠を設けた。

2 主な調査結果
(1) 国民一般の犯罪被害者等に対するイメージ

  犯罪被害者等の経験した被害後の状況に対して、国民一般のイメージで最も多かったものは「報道関係者からしつこく取材を受ける」であった。
  一方、犯罪被害者等が実際に経験したもので最も多かったものは、「友人・知人から安易な叱咤・激励を受ける」であった。

(自由回答より)
・ 友人や知り合いの安っぽい慰めや励まし・親切の押し売りなどはかなり負担を感じた。(50代女性)
・ 「がんばって」「大丈夫」という言葉を安易に使わないで下さい。被害者を責めないでください。がんばって…もう頑張ってます。これ以上どうしろと言うのです。大丈夫…何を根拠に言ってるのですか。 (50代女性)

  全般的にみて、犯罪被害者等の回答数よりも国民一般が犯罪被害者等の抱える被害を深刻と考える回答数の方が多く、被害の深刻さについては一定の理解は示されているといえる。しかし、実際に報道の対象となる事件は多くないにも関わらず、それに関する項目が国民一般においては最も高いなど、国民一般が犯罪被害者等の実際の状況を正しく理解しているとは言い難い。
  また、犯罪被害者等が実際に経験をした状況として、「友人・知人から安易な叱咤・激励を受ける」が最も多いことや自由回答から、周囲の人の接し方の犯罪被害者等への影響の大きさがうかがわれる。

▼被害後の状況
被害後の状況

(2) 犯罪被害者等に対する接し方
  国民一般は、犯罪被害者等に接する際、「事件のことはあえて触れないで普段どおりに接する」を選ぶ人が多く、「被害者を見守ろうとあえて距離を置く」を選ぶ人がそれに次いで多い。
  一方、犯罪被害者等は、精神的安定に繋がったとする言動・態度について、「事件のことはあえて触れないで普段どおり接する」が最も多いものの4割に満たない。2番目には、「この中には一つもない」が続き、「被害者を見守ろうとあえて距離を置く」については、1割に満たない。

(自由回答より)
・ 被害は自宅で受けたため、事件当日から2~3日はパトカーの巡回があり近所の好奇な目は、かなりのものでした。心無い人は何があったのかとストレートに質問してきました。精神的にダメージを受けている時に心境や内容を聞いてくる人が恨めしく感じました。人の不幸は蜜の味なんですね…慰めの言葉なんて要りません!!そっとしておいて欲しいです。(40代女性)
・ 生命保険金が入ったらつめたい目で見られた。(50代女性)
・ 腫れ物を扱うような接し方はやめてほしい。(20代以下男性)
・ 心無い一言が被害者やその家族を傷つける事になる事を理解して欲しいと思います。被害者の立場になって物事を考えれば分かる事が沢山ある事を知ってほしいです。その立場になって初めて気が付く事が多い事に!(30代女性)

  「事件のことはあえて触れないで普段どおりに接する」態度は、国民一般にとって、選びやすい態度であり、犯罪被害者等にとっても、比較的望ましい態度といえる。しかしながら、犯罪被害者等が精神的安定に繋がったとする態度について「この中には一つもない」が2番目に多いこと、同じ項目であっても、精神的安定に繋がったとする人と、精神的に傷ついたとする人が同程度のものがあることなどから、犯罪被害者等の受け止め方は多様であることが推察される。自由回答の意見を踏まえると、身近な人が犯罪被害にあった場合、「このように接するべき」というものはなく、最も重要なのは、犯罪被害者等それぞれの立場にたって考えること、行動することといえる。

▼周囲の人からの言動態度の影響
周囲の人からの言動態度の影響

(3) 犯罪被害者等が必要とする“身の回りの人ができる形での”支援
  被害直後に必要な支援として、国民一般は、「プライバシー等への配慮」を挙げる人が多いが、犯罪被害者等は、「事件についての相談相手」を挙げる人が多い。

(自由回答より)
・ 被害状況を聞いてもらえる友人がいると安心する。(50代男性)
・ 発生が夜中だったにもかかわらず、電話一本で飛んで来てくれた友人の行動に多謝。こういう事が一番有難いと感じた。(30代女性)
・ 一人にしないことがいい。(40代男性)
・ 余計な事を言わずにそっとしておいてほしい。(50代男性)
・ 「いつまでもくよくよしないで頑張れ」「もう少し頑張ればよくなる」、周囲の人は励ますつもりでいってくれるのでしょうが、本人や家族はもう十分すぎるくらいがんばり、疲れ果てているのです。正直この言葉は精神的にとても負担になりました。励ましの言葉より、「おなかがすいてるんじゃないかと思って」とたとえおにぎりの一つでも差し入れてくれるほうがうれしかった。(40代女性)
・ 事故直後は誰からも支援を受けられず、相談もできず、自分は一人なんだと思い知らされました。(30代男性)

  犯罪被害者等は、周囲の人に求める支援として、「事件についての相談相手」や「警察との応対の手助け、付き添い」などを必要としている人が最も多い。「そっとしておいてもらうこと」の需要も高いが、自由回答を踏まえると、「余計なことを言われるぐらいであれば」という前提がうかがわれる。
  被害直後は、その精神的・身体的被害により、本来有している能力が阻害され、日常生活がままならなくなることも多い。「病院への付き添い」や「生活全般の手伝い」など、身近な人のできる支援は多く、「支援団体、自助グループ等の紹介」や「周囲からの支援よりも行政主導による公的支援が重要」と回答した犯罪被害者等が1割に満たないことからも、身近な人の支援がいかに重要であるかが読みとれる。

▼被害直後に必要な支援
被害直後に必要な支援
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3 まとめ
  犯罪被害者等が置かれている状況は多様であり、複雑であるが、犯罪被害者等は、必ずしも「ひとりにしてほしい」とは思っておらず、相談相手を必要としている人も多い。積極的に支援を求めないのは、助けを必要としていないからではなく、複雑な心境の中で、声をあげることができないからともいえる。行政や民間支援団体における支援の充実はもちろんであるが、声をあげることができない犯罪被害者等がスムーズに平穏な生活を取り戻すためには、まずは、身近な人が支援の必要性に気づくことが重要といえる。
  身近な人ができる支援は、非常に多い。二次的被害を恐れて犯罪被害者等から距離を置くのではなく、犯罪被害者等の立場にたって、犯罪被害者等が何を必要としているか、自分には何ができるか、考え、犯罪被害者等を支えていくことが重要である。


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