第3節 刑事手続への関与拡充への取組


COLUMN 5

刑事裁判への被害者参加の制度、損害賠償命令制度などの導入
(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律について)

〈経緯〉
 基本法において、「刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備」、「損害賠償の請求についてその被害に係る刑事に関する手続との有機的な連携を図るための制度の拡充」が掲げられた。これを受け、基本計画において、刑事手続又は民事手続に関し、立法的手当てが必要なものとして、
  ・ 犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度
  ・ 損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度
などについて、法務省において、我が国にふさわしい制度を新たに導入する方向で検討し、2年以内を目途に結論を出し、その結論に従った施策を実施することとされた。
  これらについて、基本計画では2年という検討期限が示されているところ、犯罪被害者等の保護・支援を一層充実させるためには我が国にふさわしい制度を一日も早く導入することが重要であることから、新たな制度の検討が鋭意進められた。
  新たな制度の検討に当たっては犯罪被害者等からの意見・要望を聴取することが重要との考えから、平成18年2月22日、同年3月2日の2回にわたり、合計12の被害者団体から、ヒアリングが実施された。
  その上で、同年9月6日、法務大臣から法制審議会へ具体的な法整備に向けた諮問がなされ、審議会・関係部会での延べ14回の審議(法制審議会2回、刑事法(犯罪被害者関係)部会8回、民事訴訟法部会4回)・パブリックコメントを経て、19年2月7日、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための法整備に関する要綱(骨子)などが採択され、法制審議会より法務大臣へ答申がなされた。
  法制審議会の答申を受け、法務省において法律案の作成作業が進められ、「刑事訴訟法」、「民事訴訟法」、「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」、その他の法律を改正し、所要の法整備を行う、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」 *1が国会に提出され、同年5月17日、審議が開始された。同法案は、同年6月1日、若干の修正の上、衆院本会議で可決され、参議院送付後、同月20日の参議院本会議で可決、成立した。
  以下、同法に基づく被害者参加制度などの概要について、記述する。

▼犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案
犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案

(*1)法務省ホームページ:http://www.moj.go.jp/→「国会提出法案など」→「第166回国会(常会)」

〈被害者参加制度(犯罪被害者等が刑事裁判に参加する制度)〉
  被害者参加制度とは、犯罪被害者等が、一定の要件の下で、公判期日に出席し、被告人に対する質問などを行うなど、刑事裁判に直接参加することを可能とする制度である。
  本制度の導入により、裁判所が相当と認めるときは、殺人、傷害などの故意の犯罪行為により人を死傷させた罪、業務上過失致死傷などの罪に係る事件などの犯罪被害者等が、刑事裁判手続に参加することが可能となる。参加を許された犯罪被害者等は、
<1> 原則として公判期日に出席すること
<2> 被告事件についての検察官の権限行使に関し、意見を述べ、説明を受けること
<3> 情状に関する事項についての証言の証明力を争うために必要な事項について、証人を尋問すること
<4> 意見の陳述に必要があると認められる場合に、被告人に質問をすること
<5> 証拠調べが終わった後に、訴因の範囲内で、事実又は法律の適用について、意見を陳述すること
ができるようになる。
  被害者参加制度の導入は、犯罪被害者等の尊厳にふさわしい処遇を刑事裁判の場においても保障するものであり、本制度の導入により、
・ 刑事裁判が犯罪被害者等の心情や意見をも十分に踏まえたものとなり、刑事司法に対する犯罪被害者等を始めとする国民の信頼を一層確保するとともに、適正な科刑の実現にも資すること
・ 犯罪被害者等が刑事裁判に主体的に参加することにより、その名誉の回復や被害からの立ち直りにも資すること
・ 被告人においても、犯罪被害者等の意見を直接聴くことなどにより、被告人の理解や反省が深まり、その更生に資する効果を与える場合もあること
が期待されている。

▼犯罪被害者等が刑事裁判に参加する制度の概要
犯罪被害者等が刑事裁判に参加する制度の概要

〈損害賠償命令制度〉
  本制度は、刑事裁判所が、犯罪被害者等から被告人に対する損害賠償請求の申立てがあったときは、刑事事件について有罪の言い渡しをした後、当該賠償請求についての審理・決定をすることのできる制度である。
  具体的には、殺人、傷害などの故意の犯罪行為により人を死傷させた罪に係る事件などの犯罪被害者等は、刑事裁判所に対し、刑事事件の訴因を原因とする不法行為に基づく損害賠償を被告人に命ずる旨の申立てをすることが可能であり、当該申立てについての審理は、有罪の言い渡しがあった後、最初の期日に刑事訴訟記録を取り調べた上、原則として4回以内の期日において終結しなければならない。当該申立てについての裁判は、決定によるものとし、これに対して異議が申し立てられた場合には、通常の民事裁判所で審理を行うこととなる。
  本制度の導入により、損害賠償命令事件について、刑事事件を担当した裁判所が刑事訴訟記録を職権で取り調べるなど、刑事手続の成果を利用することで犯罪被害者等による被害事実の立証が容易になるとともに、申立手数料を2,000円とするなど、利用し易い制度としており、犯罪被害者等の損害賠償請求に関する労力が大幅に軽減されることになる。また、審理期日を原則として4回以内としたこと、審尋による審理もできるとしたこと、損害賠償命令についての裁判は確定判決と同一の効力を有し、仮執行宣言を付することもできるとしたことなどから、犯罪被害者等の損害賠償請求に関する簡易かつ迅速な裁判、その執行の実現に資することになる。

▼損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度の概要
損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度の概要

〈犯罪被害者等に関する情報の保護〉
  性犯罪などの被害者の氏名などについて、公開の法廷においてこれを明らかにしないこととし、証拠開示の際に相手方に対してこれが他に知られないようにすることを求めることができる制度である。
  具体的には、裁判所は、性犯罪などの被害者の氏名などについて、公開の法廷でこれを明らかにしない旨の決定をすることができ、この場合において、起訴状の朗読などの訴訟手続が、被害者の氏名などを明らかにしない方法により行われる。また、検察官が、証拠開示の際に被害者の氏名などが明らかにされることにより、その名誉が害され、あるいは危害が加えられるおそれがあると認める場合などには、弁護人に対し、被害者の氏名などがみだりに他人に知られないようにすることを求めることができる。
  本制度の導入により、犯罪被害者等の名誉が害されることを未然に防止することができるとともに、犯罪被害者等に安心感を与えることにより、被害者による被害の申告や十分な供述の確保にも資することとなると考えられる。

〈民事訴訟におけるビデオリンクなどの措置〉
  民事訴訟において、犯罪被害者等の尋問の際に、付添い、遮へい、ビデオリンクの各措置をとることを認めるものである。
  これまでの「民事訴訟法」にはビデオリンクなどに関する規定はなく、付添い、遮へいは裁判長の訴訟指揮の枠内で運用上可能であると考えられているにすぎなかった。今回の改正により、ビデオリンクについては新たにこれが可能となり、付添いなどについてもその要件・手続が法律上明らかとなった。今後、これらが活用され、尋問を受ける犯罪被害者等の精神的負担が軽減されるものと見込まれる。

〈公判記録の閲覧・謄写〉
  刑事事件の犯罪被害者等については、原則として、また、いわゆる同種余罪の被害者等についても、損害賠償請求権の行使のため必要があると認められる場合であって相当性が認められる場合には、公判記録の閲覧・謄写を認めることとされた。
  本制度の導入により、単に事件の内容を知りたいとの理由で閲覧・謄写を希望する犯罪被害者等についても、相当性がないことが積極的に認定されない限り、閲覧・謄写が認められることとなるなど、公判記録の閲覧・謄写が認められる範囲が拡大される。
  これらの制度の導入過程においては、様々な議論が行われた。特に、被害者参加制度に関しては、刑事裁判における被害者の権利を確立したとの前向きな評価がある一方、裁判員の量刑判断に悪影響を与えかねない、法廷を報復の場にしかねないといった反対の意見も表明された。
  政府においては、引き続き、当該制度の趣旨・意義などについて国民の理解の増進に努めていくとともに、裁判員制度などへの影響などを見極めながら、施行後3年での改正法見直しの際に、適切に対応していくこととしている。


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