第1部 犯罪被害者等のための施策と進捗状況

第2章 犯罪被害者等のための具体的施策



 COLUMN

支援に対する被害当事者の声と民間被害者支援団体の取組

被害当事者の声

1.悪質な交通犯罪により息子を奪われた母の手記

 8年前、飲酒運転で事故を起こして逃走中の車によって、長男(20歳)は命を奪われました。

 将来の目標に向かって学校とアルバイトに追われる日々の中、久しぶりに友人たちと会い、友人の車の窓越しに話をするため車道へ出たとき、信号無視して暴走してきた車によって20m先まで飛ばされ即死しました。

 こんな悪質な加害者も当時の法律では、たった2年の判決でした。

 私たちは納得できませんでしたが、何をしても息子は戻らないとの思いで、つらいことから逃げていました。あまりにも突然のことで、私はすべての感情を閉じ込め、加害者への憎しみさえ湧いてきませんでした。息子の無念さを思い、何もできない自分を責めてつらい悶々とした日々を送っていました。

 息子の2回目の命日に、何気なく見ていたテレビで、被害者支援都民センターの活動が取り上げられていました。あまりにも偶然で、息子が導いてくれたとの思いで、被害者支援都民センターに連絡をとらせていただき、5年が経ちます。都民センターで毎月面接をしていただくことで、それまでずっと閉じ込めていた心の内を何もかも安心して話すことができて、少しずつ気持ちが楽になりました。

 当時の私は、友人たちの何気ない言葉にも傷つき、家族であっても感情のずれがあり、自分のすべての思いを話すことができませんでした。その後、自助グループに参加することで、同じ体験をした人たちと心を共有することで癒され、少しずつ前向きに考えられるようになりました。

 都民センターとの出会いがなかったら、今でも私は世間に背を向け、友人たちからも逃げるようにして、じっとつらい日々を耐えていたと思います。

 やっと前向きに考えられるようになった今でも、季節の移り変わりや何かあるたびにいつも心が動揺します。

 この悲しみや苦しみは一生変わることはないと思いますが、このような気持ちをありのままに話すことができる自助グループのメンバーや被害者支援センターに出会えたことに、心から感謝しています。

2.殺人事件で夫を殺害された妻の手記

 5年前、夫が刺殺されました。

 全身数十か所を刺され、変わり果てた夫の姿を直視したのは、妻である私だけでした。

 事件直後、病院や警察での事情聴取等で時間の感覚もなくなってしまい、事件後3日間、私は睡眠もとれず、何かすべての感覚が麻痺したような状況でした。事情聴取を担当した警察官が、私の状態を見て、犯罪被害者支援専門員を紹介してくれました。第三者から見ても、明らかに支援の必要性があったのだと思います。

 その後、すぐに刑事裁判が始まりました。裁判のことなど何も知らない私にとっては大変不安でしたが、支援員に付き添っていただき、最後まで裁判を傍聴することができました。

 被害者支援都民センターで面接を受けるとともに、自助グループにも参加させていただき、自分の気持ちを吐露できる方々に巡り会いました。現在も、精神科に通い薬を服用している状態ですが、もし、早い段階での支援を受けていなければ、今の私は存在しなかったと思います。

 ニュースや新聞を見ていますと、毎日のように犯罪による報道が流れていますが、新たな被害者が適切な支援を受けられているかどうか気になります。

 ある日突然起こる事件や事故。その後の終わりのない深い悲しみや怒り、不安を一人で受け止めるのは苦しいことです。

 今の日本では、被害後に受ける周囲の人たちからの二次的被害がつらく、世間から隠れるようにして暮らさざるを得ません。私自身もいまだにそういう気持ちです。

 必要な情報や日常生活を取り戻すための被害直後からの様々な早期支援は、本当は被害者全員に必要なのに、被害者本人も周りの人たちもその重要性に気づいていないと思われます。事件や事故の直後から数日後、あるいは数年後において、いつでも適切な支援が受けられるように制度が整うことを願っております。

提供:大久保恵美子 社団法人 被害者支援都民センター理事兼事務局長


民間被害者支援団体の取組

1.全国ネットワーク

全国被害者支援ネットワーク

 全国被害者支援ネットワークは、犯罪被害者への総合的な支援を目指す民間被害者援助団体の連合体で、警察、検察、弁護士会、犯罪被害者団体等との密接な協力関係を保っている。

 平成10年に、被害者支援・権利擁護活動の充実と連携を目指して8団体をもって設立され、加盟団体は現在(平成18年8月)40都道府県42団体を数える。平成11年に「犯罪被害者の権利宣言」を公表し、犯罪被害者等基本法制定の必要性を訴えた。

 犯罪被害者支援関係機関・関係者が集まる「全国犯罪被害者支援フォーラム」、犯罪被害者団体との共催で開く「犯罪被害者週間記念全国大会」、加盟団体のスタッフを集めての「全国研修会」を毎年定期的に開催している。

「全国犯罪被害者支援フォーラム2005」について

 全国被害者支援ネットワークの活動は、1991年10月3日に東京で開催された「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律(通称犯給法)設立10周年記念シンポジウム」における、一遺族の社会による支援を求める声に応える形で開始された。全国被害者支援ネットワークは、10月3日を「犯罪被害者支援の日」と定めて、毎年記念行事を行ってきた。写真は、2005年10月3日に東京の有楽町朝日ホールで開催した「全国犯罪被害者支援フォーラム2005」の様子である。被害者、遺族、弁護士、学者、警察及び司法関係者、被害者支援関係者が意見を交えて連帯を確認する貴重な機会となった。

全国犯罪被害者支援フォーラム2005

春期研修会について

 2006年2月18日、和歌山市において、全国被害者支援ネットワークの春期研修会が開催された。「新たな時代を迎えての被害者支援の展開」を統一テーマに、全国から40団体(当時)のメンバーが参集した。全国被害者支援ネットワークは、全国研修会を毎年秋・春の2回、秋期は東京で、春期は地方で開催しているが、会員相互の情報交換と学習、及び交流の場として貴重な機会となっている。

春期研修会

「犯罪被害者等基本法制定記念全国大会2005」について

 2005年11月27日(日)、東京丸ビルホールにおいて、「犯罪被害者等基本法制定記念全国大会」が開催された。2004年12月に制定された同法は、全国被害者支援ネットワークが組織設立以来その制定を願い、各方面に働きかけてきたものである。記念全国大会は、全国被害者支援ネットワークと犯罪被害者自助グループネットワークとの共催で開催され、前日には銀座で街頭行進を行った。

「犯罪被害者等基本法制定記念全国大会2005」 写真1

「犯罪被害者等基本法制定記念全国大会2005」 写真2

キャンペーン事業について

 全国被害者支援ネットワーク加盟団体は、全国一斉に広報・啓発活動のキャンペーン事業を行ってきている。

2.いばらき支援センター

犯罪被害者支援の日キャンペーンの一環として「大好きいばらき県民まつり」に参加  

社団法人 いばらき被害者支援センター

 平成17年11月12日(土)・13日(日)、茨城県主催の「大好きいばらき県民まつり」が、“つくばエクスプレス”「みらい平」駅前広場で開催された。

 いばらき被害者支援センターは、「犯罪被害者支援の日」のキャンペーンの一環として、「安全安心いきいきフェスティバル」のコーナーに出展。犯罪の被害に遭ったときに起こる精神的な問題、身体的な問題、経済的な問題などについて、また望ましい周囲の対応についてなどのパネル展示を行った。多くの方がブースを訪れ、被害者支援について関心を寄せてくださった。

 会場内の特設舞台では、当センター初めての試みとして、支援員がにわか女優となり、寸劇を行った。被害に遭った方にどのように接し、どのような言葉をかけたらよいのかを寸劇と解説によりPRした。当センターの支援員の熱のこもった演技を多くの方がうなずきながら見てくださり、大いに好評を得た。早速、翌日の新聞に掲載された。

大好きいばらき県民まつり

3.熊本支援センター

「心の声が聞こえますか」 ~いのちのうた・ヤングサミットの開催~

社団法人 熊本犯罪被害者支援センター

 熊本犯罪被害者支援センターでは、犯罪被害者に対するいたわりの心を育むとともに、犯罪のない地域社会の実現を目指し、「犯罪被害者支援の日」記念事業として、一行詩「いのちのうた」コンテスト及び中・高校生によるパネルディスカッション「ヤングサミット」を開催している。

 メインテーマを「心の声が聞こえますか」~未来へつなぐ ひとつのいのち~とし、特に、若い世代へ「命の尊さ」を考えるきっかけとなるように、また教育関係者や保護者、ひいては地域社会における被害者支援意識の高まりを期待し、毎年実施している。

 昨年度一行詩「いのちのうた」には、4,741編の応募があり、学校を挙げての取組も見られた。「ヤングサミット」では、熊本県内の中・高校生37人と県警本部長や熊本市長、県教育委員がコメンテーターとして参加し、少年犯罪や自殺サイトをキーワードに「命」や「生きる意味」についてフリートーク形式で討論し、それぞれの体験を基に率直な思いを語り合った。

全国被害者支援ネットワーク ロゴマーク

いのちのうた ヤングサミット

提供:NPO法人全国被害者支援ネットワーク



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