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第2章 精神的・身体的被害の回復・防止への取組

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1 保健医療サービス及び福祉サービスの提供(基本法第14条関係)

トピックス 少年サポートセンターにおける被害少年への支援と多機関連携

福岡県警察本部少年課 課長補佐
警察庁指定広域技能指導官
安永 智美

1 はじめに

少年サポートセンターで関わる非行少年が非行に走る背景には、家族等による虐待や不適切な養育、性被害等、子供の健全育成を阻害する劣悪な環境や自身の心身への傷つき体験がある。子供達は、他者を傷つけたり、逸脱行為に走ったりする前に、自らが被害者として追い込まれている。まさに「困ったことをする子は、困っている子」であり、非行少年は逆境体験を生き抜かなければならない「不幸少年」とでもいえる存在だと感じる。

私たち支援者は、様々な理由により口を固く閉ざしているこうした子供達が真に心を開くまで、拒否や悪態という少年特有の「試し行動」に動じずに覚悟を持って向き合い、子供達が多層的・多面的に抱えている家庭や学校における悩みも含めた諸問題の解決に向け、関係機関が職域を越えて連携して、子供達の支援を適切に行っていく必要がある。

今回私が携わった、性的虐待による被害少年に対する、関係機関が連携した効果的な支援事例について、福岡県の少年サポートセンター(以下本トピックスにおいて「サポセン」という。)の活動・意義等にも触れつつ、紹介することとしたい。

2 福岡県のサポセンの活動について

(1) 法令における規定について

サポセンについては、少年警察活動規則(平成14年国家公安委員会規則第20号)第2条第14号において、「専門的な知識及び技能を必要とし、又は継続的に実施することを要する少年警察活動について中心的な役割を果たすための組織」と規定されており、現在、全国の都道府県警察に設置されている。

また、サポセンにおいては、少年警察活動規則第2条第13号に規定されている、「少年相談、継続補導、被害少年に対する継続的な支援その他の特に専門的な知識及び技能を必要とする少年警察活動」を担う少年補導職員等が中心となり、各種少年警察活動を行っている。

(2) 福岡県のサポセンの特色について ~関係機関との緊密な連携~

福岡県では、5つのサポセン全てが警察本部や警察署の庁舎外に設置されていることから、子供やその保護者等のみならず、関係機関の職員等が連絡や相談を行いやすくなっており、そうした事実は広く関係機関にも周知されているところである。

また、サポセンの活動を主として担う少年補導職員には、子供の特性を理解し、心情に寄り添う形の支援に必要な専門的知識や技能が求められることから、当県では、社会福祉士、公認心理師、臨床心理士又は教員免許のいずれかの資格を有する者を採用している。サポセンに、警察の知識等のみならず、教育、福祉等の観点を備えた職員がいることで、教育や福祉関係の他機関と警察が、双方の特質等の「違い」を理解した上で連携することが可能となっており、関係機関との連携は非常に緊密に行えている。

なお、当県のサポセンの活動主眼は、以下のとおりとなっている。

〇 カウンセリングマインド「話を聴くプロ・共感的傾聴」

〇 福祉的ケースワーク「他職種と連携したケアと問題解決」

〇 アウトリーチ型の相談・支援活動「待つ姿勢から攻めの姿勢で動く」

〇 予防教育は、被害及び加害を未然に防ぐ「先制活動」

(3) 福岡県におけるサポセンを中心とした多機関連携の具体的状況について

ア 警察、児童相談所及び教育委員会の3機関連携の取組の概要

県内5か所のサポセンのうち4か所は、児童相談所(以下本トピックスにおいて「児相」という。)と同一施設に設置され、そのうち2か所は教育委員会の出先機関も設置されている。

このうち、北九州市では、警察機関(サポセン)と福祉機関(児相・子ども総合センター)、教育機関(教育委員会・少年サポートチーム)が同一フロアに設置され、相互に人事交流も図られている。

この3機関の構成メンバーは以下のとおりとなっている。

〇 警察機関(サポセン:警察官、少年補導職員、派遣教育委員会職員(教員出身者))

〇 福祉機関(児相・子ども総合相談センター:児相職員、教員、校長OB、派遣警察官(警部)、警察官OB)

〇 教育機関(少年サポートチーム:警察官OB、校長OB)

イ 北九州市のサポセンの取組

北九州市のサポセンはアのとおり、関係機関がワンフロアに設置されているが、そのことにより、互いの顔が見えやすく、それぞれの機関の専門性や得意・苦手とする分野の把握が容易で、緊密な機関間連携に不可欠である、深い相互理解が可能であり、子供を守り、そして救うために、それぞれが持つ機能(強み)を即時かつ有機的に連動して発動させることが可能である。

また、関係機関の実務者同士の情報交換を日常的に行うことができることから、1か所に情報が入ると、ほぼ同時に3機関が当該情報を取得することができ、即日の情報共有が可能である。この情報共有は関係機関相互の連携のゴールではなく第一歩であり、共有した情報をその後どのように生かし、関係機関が連携した被害児童の安全確保やその後の支援につなげていくかということこそが重要である。北九州市においては、関係機関相互の連携が実現できていることから、情報の共有があった後に、すぐに関係機関が連携した行動に移ることが可能である。

3 被害(性的虐待)を受けた子供に対する支援事例の紹介

私が実施した非行防止教室に参加していたA子(当時小学校5年生)が、同教室の感想文に、「私ね、幽体離脱できるんだよ」と、記載していたことから、同人と面接を行った結果、実父による性的虐待の被害を打ち明けてくれた。A子は、その後、「パパに髪を触られたら体から逃げ出して、パパ(との性交)が終わるまで好きなアニメの歌を歌っていた」と話してくれた。

このA子が語った「幽体離脱」とは、性的虐待等を受けた子供に見られる症状の一つである「解離症状」(心と体を切り離して自分の精神を守ろうとする防衛本能)だと思料された。

A子が、最初に性的虐待を受けたのは5歳の時で、幼いA子には自分の身に起きている行為の意味が当然分かるはずもなく、父親が言った「将来、A子が素敵な大人なるためのお勉強だよ」との言葉を信じていたが、小学校5年生の時に小学校で受けた性教育の授業で「父親の話は事実と違うのだ」と気が付いた。しかし、「ママが悲しむ顔が浮かんだ」と、その後もずっと誰にも話せず、父親に抗うこともできないまま長期間にわたって性的虐待を受け続けた。周囲の大人に対して自ら救いを求めることができないA子にとって、性的虐待を生き抜く「術」が「幽体離脱(解離)」であった。

この性的虐待を認知した後、私は、管轄警察署と連携を図り、速やかに、サポセンに派遣されている教員、ワンフロアに設置されている児相と情報を共有し、児相の児童虐待担当者とA子に対する共同面接を行い、結果的にA子は児相により一時保護された。このようにサポセン、児相及び学校の3機関による迅速な情報共有、その後の関係機関が連携した行動により、A子の早期の安全確保が可能となった。

また、A子については、性的虐待によって受けた心身のケアが必要な状況であったことから、医療機関も含めた関係機関が相互に緊密に連携して、それぞれの機能を発揮しながら、A子の立ち直りまで途切れない被害者支援活動を行った。

なお、父親については、捜査の末に事件化されたが、当初A子は、いざ父親が検挙される状況になると、被害の内容について「話さない」ではなく「話せない」状態となった。子供の場合、加害者が「知っている人」であるほど「話せな」くなる傾向がある。本職はA子との面接において、「(被害に遭ったのは)あなたが悪いのではない」、「あなたの話を信じるよ」、「あなたを苦しめていることから全力で守るよ」などと、粘り強くA子を勇気付けた結果、最終的に被害の全容について話すことができるようになり、父親の検挙に至った。

4 おわりに

「魂の殺人」と呼ばれる性的虐待を含む性暴力の被害に遭った子供達が思春期を迎えて、自分がされた行為の意味を知り、深く傷つき、自尊心を奪われ、自他を大切にできない状況に追い込まれることがある。

その結果、「心の苦しみを薄めるためだった」などとシンナーや覚醒剤等の薬物に依存した子供や、「もっと自分を汚したかった」と不特定多数の異性との安易な性行為や売春等の性の逸脱行為を繰り返す子供もおり、被害男児の中には、被害の経験から異性に対して同意のない性行為の強要等の性加害に走る者もいた。

私たちの身近には、今回紹介したA子のように「助けて」と、言葉にできないまま、気付いてくれる大人を待っている子供が必ずいる。性的虐待等の性暴力から子供を守り、救うためには、関係機関間の「連携・つながり」こそが重要であることを広く知っていただきたいと思う。

まずは、話てみませんか?

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