企画分析会議構成員コラム 4

国士舘大学 辰野文理

 被害者調査の必要性はどこにあるのだろうか。調査に回答すること自体が被害者にとっては苦痛を伴うことであるし、調査で明らかにされるのはごく一部のことであるとか調査では見えてこない実態もあるとの指摘もある。

 確かにそうした問題はあるものの、犯罪被害に関する実証的な調査研究の必要性は高い。それは、調査の結果が、将来に向けての政策提言を導き出し、最終的には社会を変えうると考えるからである。そのためには、実証的な調査結果が重要となる。何かを提言していく際に量や平均を根拠にすることが説得力を持ち、種々の提言へと結びつくからである。

 一口に調査と言っても、実態の把握を目的とするものから、変数間の関連を確かめるもの、原因の解明やモデルの検証を目的とするものまでいくつかのレベルがあるが、いずれの調査にしても、データの取り方や調査の設計は、その結果の信頼性を左右する。

 今回の調査においても、データ収集の方法や昨年との比較を予定した調査デザインを慎重に検討した後、パネル調査と単年度調査、さらに一部の事柄については、コントロール群を置いた調査を実施した。

 その結果、1年前のパネル調査との比較では、「警察による相談・カウンセリング」に主観的な回復傾向との関連が見られた。また、事件から1年以内の「公判記録の閲覧・コピー」や事件から1年以降の「警察による加害者に関する情報の提供」なども主観的な回復傾向との関連が見られ、被害者支援の目的で実施されている施策の効果が見受けられる。今後、いずれの時期にどのような施策を必要とし、そのことが回復にどの程度つながるのかといった点について、さらに継続した調査が必要であろう。

 一方、調査には限界がある。今回の調査においては、性犯罪被害者の未回答の割合が高く、継続した調査の難しさが表れている。また、表面には出てこないが、一般に調査は、集団としての行動パターンは一定であるということや、社会事象にも規則性があるといったことを前提に行われている。調査の性質上、集団としての特性を把握することに主眼が置かれることから、回答する側からすると、個別の意識や心情が反映されていなかったり、選択肢の表現に違和感を感じたりする。仮に、調査結果から被害者としての特性が明らかになったとしても、現在までに起きていることが将来的にもそうであると言えるのか、また、現在有効と考えられる施策も他の要因が変化することでその効果が変化しないのかといった疑問も残る。しかし、こうした疑問を解決していく手掛かりを得る手段として調査に期待する点も大きい。調査の課題や限界を認めてもなお、今後の調査で明らかにしていかなければならないことが多いと感じる。

 

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