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犯罪被害者等施策
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地域の事業主に対する犯罪被害者等支援講演会



日時:平成21年6月29日(月)17:00~18:00
会場:ホテルクリスタルパレス(茨城県ひたちなか市大平1-22-1)


テーマ:「犯罪被害者支援の動向」
渡邉 昭氏(弁護士)
・茨城県弁護士会犯罪被害者支援委員会委員
・日弁連犯罪被害者支援委員会委員
・茨城県弁護士会民事介入暴力対策委員会委員
・財団法人茨城県暴力追放推進センター暴力追放相談委員
・日本司法支援センター茨城地方事務所副所長(民事扶助、犯罪被害者支援担当)
渡邉 昭氏 講演会の様子

○講演要旨(講演資料)
プログラム [PDF:75KB]レジュメ [PDF:226KB]配布資料 [PDF:454KB]

ただ今ご紹介頂きました弁護士の渡邉と申します。どうぞよろしくお願いします。  まず最初に、「どうして今犯罪被害者支援なのか」というようなところから話しをしなくてはいけないと思っています。といいますのは、最近新聞を賑わしている冤罪事件の問題もあり、刑事被告人の人権のほうが大事なんじゃないのというふうに思っている方もいるかもしれません。もちろんそれも当然大事なことは大事なのですけども、他方でやはり刑事事件の他方の当事者であります犯罪被害者というところにクローズアップされてきたのは、つい最近のことです。

先ほど内閣府の方の説明がありましたように、「犯罪被害者等基本法」が平成16年に制定されまして、それまでどういう形で犯罪被害者が扱われてきたのかと言いますと、語弊があるかもしれませんが、ほとんど無視されていた、と言ってもよいくらいの状況でした。それが、少しずつ犯罪被害者対策がなされてきつつあり、その積み重ねがレジュメの1番に書いてあった、例えば昭和49年三菱重工爆破事件を契機として被害者に対する補償制度が求められる議論が深まったということであります。この辺りから、いわば昭和49年頃から日本では犯罪被害者に関しての議論がなされつつあるということで、これから総合的な支援がなされるという意味では、基本法に集約されるまでに30年以上もかかっているということになります。

その間、もちろん何もやってこなかったわけではなくて、少しずつ法制度が整備されつつあるということもありますし、犯罪被害者の方が今までほとんど泣き寝入りということで、声も上げない方が大多数だったのですが、やっぱりそれじゃいけないということで、かなり被害者の方が声を上げたり、テレビに出たり、被害者の現状を訴えたりということでかなりそういう頑張りがあって、基本法が制定されたと思います。

制定法の内容に関しては後にお話しますが、まず犯罪に関する議論は、基本的には刑事被告人の人権をどう守るか、受刑者の人権をどう守るかというようなところに重点が置かれてこれまで議論されてきまして、犯罪被害者に対する観点からというのは、これまでほとんどなされなかったというのが実情です。ただ、もちろんそうは言っても被害者の置かれた現状に関しても後でお話はさせていただきますけども、そういう現状はもちろん、基本的に罪を犯した人間が国の予算で刑務所を作って、刑務所に入って、変な話、極端な話で言えばただ飯食えるというような、もちろん人権保障っていうのもありますので、手厚く保護されているのにもかかわらず、被害者に対して国は何の手だてもしていないという意味では、やっぱり片手落ちなのではないかという素朴な疑問があります。歴史的には刑事被告人なり受刑者の人権というのが中心になってきましたが、やっと被害者に対する人権がクローズアップされつつあるというのが現状です。基本法に、「被害者の権利」ということがかなり強く謳われていますので、やっと被害者の権利に対する救済がかなり現実的な性格を帯びつつあるというような状況であります。

話はそれますけども、刑事施設に関して受刑者の人権というのが叫ばれていますが、少し前に名古屋の刑務所の事件で、受刑者にホースで水をかけたとか、死亡事故も起こったとかいう事故を契機として、全国に、刑事施設視察委員会というのが作られました。茨城県ではこのひたちなか市に前の水戸少年刑務所、今は水戸刑務所というように去年の4月に改名されていますけども、そこの刑事施設で視察委員会が活動しています。

私も立ち上がった当初、視察委員会のメンバーになっていまして、刑務所の中を見学したり、実際どういう形になっているのか、皆さん方もそうでしょうけど、見たことがない人がほとんどだと思います。私自身も司法試験に受かって司法研修所で刑務所見学をしましたが、実際それ以降、弁護士になってから刑務所の中に行くというのは当然初めてでしたので、いろいろ問題点とか洗い上げて2年間活動してきました。

私の感想では、施設の中のご飯も食べさせてもらいましたが、皆さんのイメージしているように99%麦飯で冷たいご飯というのはあり得ないです。だいたい温かい、みそ汁も温かい、温めて出すというのが普通で、かなりうまいんじゃないのかと思いました。かなり甘やかされたというとちょっと語弊があるかもしれないですけど、やっぱりそういう配慮はされているんだなというふうに思います。

外国人は水戸刑務所には確かいなかったと思いますが、例えばイスラムは豚肉が食べられないというのがありますので、その辺の配慮もされていて、かなり受刑者に対する細かい配慮までされているので、その辺の観点からすると被害者に対する支援というのはかなり片手落ちかなと思います。少なくとも何十億の予算を取っているのであれば、最低限それと同じくらいの予算を取って、被害者支援をしなければならないということがかなり強い議論にはなっています。いずれにしても、そういう片手落ちみたいなところがありますので、被害者支援というのはかなり重要だということは認識していただけるのかと思います。

そこで、では今までどういうふうに被害者支援が行われてきたのかについて説明しますと、レジュメの1番目に書いたとおりですが、基本的には、昭和49年から平成16年に基本法が制定されるまで少しずつこういう法律が制定されて、制度的な改善がなされてきたというぐらいの認識を持っていただければかまいません。

ただ、民間の被害者支援団体のことに関してちょっと話をさせていただきますと、茨城県ではかなり早い段階で民間の被害者支援センターを常磐大学の先生がまず常磐大学の中で立ち上げて、「いばらき被害者支援センター」として活動しています。

これらの団体に関して、平成13年に「犯罪被害者等早期援助団体」の指定制度というのができました。これはどうしてできたかというと、民間被害者支援団体の中から、今まで一生懸命やってきた団体をセレクトして、早期に被害者支援をやってもらおうということで、警察がつかんだ情報を、もちろん被害者の方に了解をもらい、その情報を被害者支援団体のほうに提供するという観点から「早期援助団体」というのが指定されています。

ただ、民間支援団体が一番困っているのは、やっぱりお金がないということで、資金不足というのがあります。興味のある方は、申込書も置いてありますので、賛助の申し込みをしていただければありがたいと思います。

今日のお話は犯罪被害者等基本法の制定されたその内容に関して中心にお話したいと思いますので、レジュメの2番目のほうに移らせていただきます。  1番目に書いてありましたように、単発的な制度というのは個別的にできていますが、基本的にはやっぱり限界があるということで、また犯罪被害者の要望が被害回復だけじゃなく、刑事裁判に関わりたいとの思いもあります。例えば法廷の中に入りたいという要請も人によってはかなり強いというのもありますし、犯罪被害に遭ったことで生活が苦しくなったという、基本的には犯罪被害に遭った方は単なる「犯罪被害者」というよりも、被害に遭うことによって、その支援のニーズがかなり多岐にわたるという現状がありますので、その現状に応えるためには単発的な法制度というよりも、やっぱり総合的な支援が必要なのだろうというようなことが認識されて、それが「犯罪被害者等基本法」に集約されたという経緯があります。

基本法の内容ですけども、一番大事なのはこの前文のところですので、この前文の一部を読ませていただきます。  「近年、様々な犯罪等が跡を絶たず、それらに巻き込まれた犯罪被害者等の多くは、これまでその権利が尊重されてきたとは言い難いばかりか、十分な支援を受けられず、社会において孤立することを余儀なくされてきた。さらに、犯罪等による直接的な被害にとどまらず、その後も副次的な被害に苦しめられることも少なくなかった。」  これは、先ほど内閣府の方が述べられた二次被害、三次被害等の現状を言っていると思います。「もとより、犯罪等による被害について第一義的責任を負うのは、加害者である。しかしながら、犯罪等を抑止し、安全で安心して暮らせる社会の実現を図る責務を有する我々もまた、犯罪被害者等の声に耳を傾けなければならない。国民の誰もが犯罪被害者等となる可能性が高まっている今こそ、犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ、その権利利益の保護が図られる社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出さなければならない」と。ここが犯罪被害者の支援の総合的な方策の目的というか意気込みです。かなり憲法の前文に近いような力の入った前文の書きぶりかなというように思います。

ここでやはり二次被害、三次被害というのは基本的には犯罪被害が一次被害で、二次被害というのはやっぱり警察とかでいろいろ捜査の対象となって、いろいろ調べられるというのが二次被害になったり、あるいはマスコミ関係もいろいろ取材があってまたそれで聞かされるというのが三次被害とか、あるいは弁護士なり検察官なり、裁判所でもいろいろ根掘り葉掘り聞かれて、場合によっては刑事被告人の弁護人からいやな質問をされるということで被害があり、さらにその近隣住民の人から理解のない言葉で傷つけられるということで、単なる犯罪による被害だけじゃなくて、二次被害、三次被害、極端な話、六次被害まであるよという人もいます。いずれにしろそういう被害に遭っているというような現状を認識しなければならない。

もちろん我々としても当然意図的にそういう被害に遭わせようというわけではなく、知らず知らずにそういう言葉を使っているというところもあります。その辺は私もこの犯罪被害者支援に関わった最初の段階で、どこまで被害に遭わせないようにすればいいのかとか、あるいは被害者の言うことを全部聞けばいいのかと、いろいろ迷いました。基本的には、この冊子の「事業主の皆様へ」というところが重要ですのでここを読ませてもらいます。ここで注意していただきたいのは、冊子の上から4行目の「現実は雇用主や職場の知識の欠如、無理解により被害者が仕事を辞めざる得なくなる場合があります。皆さんの被害者への理解が必要です。次のことを配慮しましょう」ということでいろいろ書いてありますが、基本的には、その左側のページの一番下から2行目の「被害者を傷つけてはいけない。距離を置くというのではなく、被害者は事件のことを触れないで普段どおり接してほしいと思っている人が多いのも事実です。まずは被害者の気持ちを十分に聞き、受け止めてあげてください」と。

基本的にはあんまり深く考えない、深く考えないというと語弊がありますけども、あまり意識しないで被害者の立場に立って接するのが一番いいのかなと思います。ただやっぱり我々が注意しなければいけないのは、冊子に、適切な対応、不適切な対応というところがありますが、「気を強く持って前向きに行きましょう」というようなことを、通常やっぱり声をかけたくなるというようなところがありますので、そうするとかなりプレッシャーがかかるみたいなところがあるし、「がんばってください」とか言われても、「こんなにがんばってるのに、これ以上がんばれるわけないでしょう」みたいな受け止め方をしてしまう被害者の方もいるということで、やはり基本的には被害者の立場に立って考えるというのが一番大事であり、そのためには、被害者の考え方なり意見を聞くというのが必要だと思います。

その意味で、この冊子にある「遺族の声」というのがあります。これは、この冊子にも書いてありますように、本村さんという、平成11年4月に当時18歳の少年に奥さんと子供を殺害されるという被害に遭った方で、被害者の声という形でここに手記があります。ここで全部読むことはできませんので、この辺を見て被害者の方の気持ちというものを慮ってもらえればいいかなと思います。

私もここで今回読ませていただいて、なるほどと思ったのは、この講演会が企業関係の方の集まりですので、そこだけ少し読ませてもらいますと、6ページの右側の上のほうの間が空いてる「当時」というところなんですけども、「山口県に1人で住んでいました。同県に親族は住んでいませんでした。そんな私が辞表や遺書を綴り人生を踏み外しそうになったときに私を支えてくださったのは、会社の上司や先輩の方々、そして同僚と友人でした。現在でも私は事件当時と同じ職場で、充実した仕事をさせていただいています。会社は、事件後の私にも責任ある仕事を任せていただき、サポートして下さいました」と。ちょっと間を省略して、「今でも」緑の文字のところです。「今でも忘れられないのが、辞表を提出した時に上司が私に授けてくれた言葉です。『この職場で働くのが嫌なのであれば、辞めてもいい。ただ、君は社会人たりなさい。君は特別な経験をした。社会に対して訴えたいこともあるだろう。でも、労働も納税もしない人間がいくら社会に訴えても、それは負け犬の遠吠えだ。だから君は社会人たりなさい』私は、この言葉に何度助けられたでしょう。今になって思えば、私は仕事を通じ社会に関わることで、自尊心が回復し社会人としての自覚も芽生え、その自負心から少しずつ被害から回復できたと思います。もし、会社という媒体で社会との繋がりがなく、一人孤立していたら、今の私は居なかったと思います。私は、周りの方々に本当に恵まれたと思います」というようなことがあります。会社としては、被害に遭った方の立場を慮って、被害者の立場というのを理解してもらって対応をしていただければと思います。

この基本法の中身としてレジュメにも書きましたように、まず国と地方公共団体がやるべき基本的な施策というのが、損害賠償請求についての援助とか被害者の安全確保、あるいは刑事に関する手続きの参加の機会の拡充などの項目を挙げています。これらに関しては先ほど述べた犯罪被害者等基本法の11条以下に書いてありますので、これは短い条文ですので読んでいただき、少しでも理解してもらえればかまいません。

もちろんこの法律は、基本法と銘打っていますので、基本的な方針なり目的が書いてあるだけです。具体的にどういうことをやるのかというのが、犯罪被害者等基本計画に基づいて推進されるということが8条にも書いてあります。それを受けて、基本計画が平成17年の12月に閣議決定されて、4つの方針と5つの重点課題が定められました。

4つの方針というのは、個人の被害者に対する権利意識、個人の尊厳にふさわしい処遇を権利として保障すると。犯罪被害に遭った方は個々的に全部ニーズが違いますので、かなり細かく個々の実情において適切に対応しなければいけないと。

あと単発的じゃなくて、継続的に支援をしなければいけないとか、国民の総意の中でやっていきましょうというのが4つの方針で、5つの重点課題が、実施すべき多くのことを、その項目ごとに5つに分けたということです。

まず、損害回復とか経済的支援の取組をどうするんだと、それと、精神的、身体的被害の回復をどうするんだと。また、刑事手続きに関与する場合に、どういう形で被害者のためにやっていけばいいんだろうというのと、体制整備と国民の理解。今回も皆様方の理解を得るためにこうして内閣府なり茨城県が主催して、被害者の現状なり、被害者支援の制度なりを理解していただいて、少しでも被害者支援の取組を皆様方も理解してもらうというのが一つの今回の趣旨であります。

この基本法には国、地方公共団体の責務ということで、この基本法の4条のところに「国の責務」とあります。その次が5条で、「地方公共団体の責務」というのがあります。さらにその6条で「国民の責務」というのがあります。つまり、国民も被害者支援について配慮の必要があるということで、先ほど述べたように法律が国民の責務まで規定するというのはけっこう珍しいかなというように思いますので、やはり国民も被害者支援なり被害者の現状なりを理解して、それなりに対応しなければいけないということがあります。その意味で先ほど述べましたように、被害者の遺族の方のお話を聞くと同時に、被害者の置かれている現状も理解する必要があるのではないのかと思います。

冊子の2ページに「被害者等の置かれている現状」というのがあります。先ほど述べたように、直接的被害というのは当然犯罪に遭った被害なのですけども、もちろん殺人であれば生命だし、傷害であれば身体だし、窃盗であれば財産だしという、そういう被害があります。それ以外に二次的被害というのがあって、事件後に直面する状況というのはどういう状況なのかということで、ここに「心身の不調とか生活上の問題~」というように出ています。この辺も当然、犯罪被害に遭った方は分かると思うのですが、大多数は遭ってない。ではいきなり遭った場合どうなんだろうというと、やっぱりそのときには何もできなくなってしまう状況のようです。その意味でその直後はどうなんだ、中期的にどうなんだ、子供はどうなんだというのがここに、被害状況として一般的な話として書いてあります。多分、頭の中ではこれ読めばなるほどと思いますけど、実際なかなか分かりにくいのが実情ではないかと思います。自分で犯罪被害に遭えば当然理解できるのでしょうけど、遭おうと思って遭うわけでもないですし、その意味ではやっぱりこういう本とかを見ることで、被害者の現状を想像するというのが大切ではないかと思います。

このように基本法に則って、5つの重点課目に挙げられている「刑事手続きへの関与拡充への取組」ということの一環として、レジュメの4番目で新しい制度について書かせていただきました。これが最先端の今の犯罪被害者支援に関する制度です。

(1)まず1番目が犯罪被害者参加制度、2番目が損害賠償命令制度、これが犯罪被害に対する 支援の法制度の一番新しいものです。

お手元にクリアファイルで法テラスのケースがあると思います。この中で、一応私の肩書も「日本司法支援センター茨城地方事務所副所長」で「被害者支援担当の副所長」ということになっていますので、法テラスからも少し話をさせていただきます。

 まず「被害者参加制度」というのがどういうものかは、この犯罪被害者支援という、緑のリーフレットが入っていると思います。ここに基本的に「犯罪被害者参加制度」というのが説明してあります。これを読みますと、「犯罪被害者参加制度というのは一定の犯罪の被害者などが裁判所の決定によって、公判期日に出席し、被告人に対する質問を行うなど刑事裁判に直接参加することができる制度です」と。参加の申し出ができるのは、「誰が参加できますか?」というところで、1番から7番目。「一定の重大事件に限られます」というところです。

次に「何ができますか?」というところで、1から5番目で、「公判期日に出席することとか、検察官の権限行使に関し意見を述べ説明を受けること、証人に尋問をすること、被告人に質問をすること、事実関係や法律の適用について意見を陳述すること」と。こういうことができるようになりました。これが去年の12月からです。手続的には、検察官に、私は犯罪被害者参加制度に参加したいですという申出をして、検察官が意見を付けて裁判所に通知して、裁判所が被告人とか弁護人の意見を聞いて、いろんな事情を考えて参加を認める、認めないということを決めるという制度になっています。

私の知っている限りでは茨城県内では今まで6件、犯罪被害者参加、刑事手続きに参加しています。その中で先ほどのリーフレットの裏側に「被害者参加人のための国選弁護制度」というのがあります。これも一定の資力以下の人は弁護人を付けることができますという制度です。これを使って、弁護人が付いたのが6件中1件だけです。ですので、まだこれからどういうふうにこの制度が動くかというのは分かりませんが、我々としてはできるかぎりこういう法制度ができたので、利用してもらいたいと思っています。

もちろん先ほど述べましたように、犯罪被害者のニーズというのは、被害者によってずいぶん違うので、この制度ができる段階でも犯罪被害者団体がいくつかあるのですが、全てが、被害者が参加するというふうに賛成意見を出したというわけでもないし、被害者の中でもかなり意見は違っています。

被害者の中には法廷の中に入りたいという人もいます。傍聴席と法廷とはかなり厳然と区別されていて、今までは傍聴しかできなかった。また、遺影も傍聴席に持っていくのがいいのか悪いのかというような議論もされていましたが、やっぱり中に入りたいという意識がかなり強いということがあります。しかし、刑事事件の裁判というのは被害者のためだけじゃない。刑事被告人の権利を守るためにそういう制度ができたので、被害者が中に入ってそういう制度的なものを壊すのはいかがなものか、という議論もされまして、結局意見を言ったりすることはできますけども、検察官が設定した犯罪事実に関しては言ってはいけないとか、その辺の調整がされまして、犯罪被害者がなんでもかんでも言えるかというわけではないというところで、ある程度譲歩というか妥協の産物で制度ができました。しかし、いずれにしても被害者がその刑事裁判に参加するのは画期的なことだと思います。

6月26日の金曜日の日経新聞に載っていましたが、「去年の12月からこの制度が始まって、半年間」ということで、全国の話になりますが、「法廷に210人被害者が参加して、評価と無力感といろいろ意見が出ている」というような記事が出ています。だいたい対象事件の3%が参加しているということで、参加希望者は増加傾向にあると。法廷参加の実現を評価する声がある一方で、思いが判決に反映されず無力感を募らせる人も少なくないというような記事が出ています。これもまだ半年間ですのでわかりませんが、あんまり意味がないといえば制度的になくなってしまうし、やっぱりどんどん意見言ったほうがいいんじゃないかというような被害者の方が出てくれば、かなり充実した制度になるということで、これもこれからどうなるかというところであります。

次に「損害賠償命令制度」についてですが、これも平成20年の4月にできた制度です。今まで刑事手続きの中で、犯罪被害の損害賠償をする場合には民事でというのが基本的な建前でした。今回損害賠償制度ができる前までは刑事手続きの中で和解するという制度はできていました。でもやっぱり和解するということだと、当然和解できなければ意味がないので、刑事手続きの中で損害賠償請求まで認めたほうがいいのではないかということで、この制度ができました。ただこれもやっぱり一定の重大事件に限られています。

手続き的には、刑事事件はもちろん有罪無罪を決める手続きですので、無罪であれば当然損害賠償なんてあり得ないわけですから、有罪判決があった場合にその手続きで刑事事件の資料を基に、判決を言い渡したすぐ後に、損害賠償請求という形で手続きが移行するということになります。

もちろん被告人は、判決言い渡しの日には当然出廷していますので、そこですぐに手続きを始めて、2~3回やって終わりにします。それでだめだったら民事裁判でやりなさい、という形です。今までは民事で行う場合に刑事事件の記録を取り寄せて、コピーしてそれをまた民事事件で出さなければいけないというのがありましたけれども、この制度だと、刑事手続きのその記録を全部損害賠償で使えるというメリットはあるし、請求金額に関係なく費用は2千円ぐらいで済むというメリットがあります。ただ異議を述べられた場合には通常の民事事件になるので、その場合には印紙代もかなり高くなります。

レジュメでは「裁判員対象事件との関係」ということを書きましたけれども、今どちらかというと裁判員事件のほうが関心は当然高いと思われます。起訴された事件については裁判員の対象になる場合、全国で第何号というように報道されていますが、茨城県ではまだ上がってないようで、それもちょっとどうなのかなという感じはしています。

いずれにしろこの裁判員対象事件との絡みで言いますと、対象事件は若干違いますけれども、被害者参加制度との関係ではかぶってくるところはあります。その意味で裁判員対象事件で裁判員が関与する中に、被害者も参加してくるというような制度になります。まだ裁判員対象事件で実際審理されてないので、被害者が参加した場合に裁判員の方がどの程度量刑にぶれが出てしまうかは全然分からない状況ではあります。今年1年間で何件上がってくるかも分かりませんが、聞くところによると、東京地裁の裁判員1号事件はもう被害者が参加するということで決まったようですので、それが先行で一つの検討事例になると思います。この中で皆さんも裁判員になるかどうかは分かりませんが、裁判員になった場合には、あのとき被害者参加の話を聞いたということを思い出して下さい。基本的には裁判員というのは最高裁が言ってるように、そんなに法律を勉強しなくても大丈夫です、自分の常識で判断して、有罪無罪あるいは量刑を決めてもらえればいいと思います。

いずれにしても、裁判員制度についても被害者が参加する可能性があり、どのようになるかは今後の問題です。

それから損害賠償命令制度について、これは基本的に刑事事件ではなく民事事件なので、裁判員対象事件で仮に損害賠償命令制度が申し出られたとしても、裁判員の方は全く関係ありません。ノータッチです。賠償命令は、民事事件なので、裁判員の裁判の刑事事件で有罪無罪の判断がなされれば刑事事件の裁判はそれで終わりです。その後、損害賠償命令という別の手続きに移行しますので、基本的には裁判員は関係ないということで理解してください。

だいたい新しいもので今の2つですけども、レジュメの一番最後に「暴力団犯罪による被害の回復の支援」ということについて書かせてもらいました。これは今回の皆様方の組織が「茨城県企業防衛対策協議会」ということで、私のイメージからすれば民暴(みんぼう)事件で、弁護士がこういうところで話しするのは、民暴対策をどうするとか、暴力団が何か言ってきた場合にはこうしたほうがいいですよという話をするということを思ったのですが、それとは違う犯罪被害者の支援で今回お話ししました。ただ、基本的に民暴事件も被害者がいるということに変わりはなく、ただ対象が暴力団なのかどうかというところなので、当然オーバーラップしてくるところがあります。その意味も含めて、先ほど言った基本計画の258項目の中で暴力団犯罪による被害回復の支援についてという項目が挙げられています。その19項目にあったので、この項目をピックアップしてみました。

これによりますと、暴力団犯罪による被害者については、警察において都道府県暴力追放運動推進センターや各弁護士会の民事暴力対策委員会とも連携しつつ、暴力団犯罪による被害の回復を支援するということがその項目の一つとして基本計画の中に挙げられています。要は警察と連携して支援しましょうという計画になっているようです。

どうしてこのように規定されたのかというと、加害者が暴力団なので、被害回復を望んだとしても、報復などを恐れて民事事件になると難しいだろうというのが大前提としてあります。ただ、じゃあ泣き寝入りしてしまうのがいいのかというと、やはり暴力団犯罪を放置して不法収益を暴力団に帰属させることになるのは良くない、またそれがさらに暴力団の犯罪を生み出す結果になるのではないかというような危惧感から、当然警察と弁護士会による連携で支援活動をするというのが施策の一環になってます。

民暴事件に関して、私も民暴委員会の委員ですので、民暴事件に年1~2件は関わっていますが、基本的には弁護士から、相手が暴力団ということで委員会に上がってきたり、あるいは警察からの事件依頼というのがあって、民暴委員会がすぐに集まって、事件に対応できる人という形で2~3人集まり、それ以外も協力してくれる人がいる場合には訴状などに民暴委員等の名前全部を挙げて協力してもらいます。最初は、私も、どの程度効果あるのかなと分からなかったのですけども、自分がある人からこんな訴状が来ましたと見せられまして、弁護士名前がずらっと10人ぐらい並んでいると、それだけでもインパクトがあります。もちろん実際お金の問題になりますけども、動いてくれる人は当然、着手金という形で払わないといけないですけども、出来る限り負担の少ないような形でやっています。この5番目に関してはそういう支援をしてますという、犯罪被害者支援の一環という形で入っています。

最後になりますが、今回の講演で一番頭に置いてほしいのはここのパンフレットの一番最初にもありますように、「犯罪被害者支援にかかる各種制度などを周知して、犯罪被害者等に対する理解が広がることを目的として今回こういう講演を行います」ということです。犯罪被害者施策が、今新しく、これから制度が動きつつあるということで、犯罪被害者に対し、少しでもそういう認識なり関心を持っていただいて、今日を契機としてできるかぎり被害者のことに新聞等で関心を持っていただければありがたいと思います。例えば従業員の方が被害に遭ったときに、どこにつなげばいいのかと思った場合には、手前味噌かもしれませんが、法テラスのほうにお電話一本頂ければ、しっかりと対応できます。このリーフレットの一番最初のところで、0570-079714、これはコールセンターで東京のほうにつながりますが、これが「ナクコトナイヨ」という被害者支援専用ダイヤルになってますので、ここに電話頂ければ、どこに相談に行ったほうがいいですよというような機関紹介もしてくれます。基本的なところは法テラスで、もちろん県のほうに行っていただいても、相談窓口に行っていただいても警察のほうに行っていただいても当然対応できるとは思いますが、一番気楽に電話できるのはここなのかなと思いますので、そういう方がいらっしゃいましたら、紹介していただければありがたいなと思っています。 以上時間が来ましたので、この辺で終わりにさせていただきます。どうもありがとうございました。


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