中央イベント:パネルディスカッション

「潜在化しやすい犯罪被害への支援~こども達の心の声に耳を傾ける~」

コーディネーター:
藤森 和美(武蔵野大学人間科学部人間科学科教授、公認心理師、臨床心理士)

パネリスト:
栗原 一二三(基調講演者)
栗原 穂瑞(基調講演者)
小木曽 健(グリー株式会社 政策企画グループ シニアマネージャ、国際大学GLOCOM客員研究員)
安永 智美(福岡県警察少年課課長補佐、警察庁指定広域技能指導官、公認心理師)


(藤森) 本日このパネルディスカッションの進行を務めさせていただきます、藤森和美と申します。現職は、武蔵野大学人間科学部で大学教員をしております。専門は臨床心理学です。資格としては公認心理師とか臨床心理士と言って、心理のカウンセリングのようなことをしておりまして、今日お話しさせていただくテーマにも近いのですが、こどもたちの犯罪被害とか災害被害とか、そういうこどもたちの被害の支援を主にやっておりますし、その支援をされている方たちの支援であったりとか、スーパービジョンなども行っております。

 元々私が災害支援を始めたのは1993年です。この会場の中にはまだ生まれてないよっていう方がいらっしゃるかもしれませんが、阪神淡路大震災の前に北海道で奥尻島の大津波災害という災害が記憶にあるかもしれません。当時私は函館に住んでおりまして、北海道の出身ではないんですが、仕事の関係で函館に住んでいたので、奥尻島に通って被災したこどもたちや家族を失った大人の方たちも含めて、週末ごとに往復をしたりして、被災地の様子であるとか被災者の様子っていうのを見ること。見るというか体験することができて、当時はまだ被災者・被害者への心の支援っていうことは一般的ではありませんでした。どちらかというと、阪神淡路大震災、1995年1月の大震災のときに、一挙に被災者支援ということがクローズアップされました。そのときに、東京医科歯科大学で犯罪被害者支援を立ち上げた小西聖子さん、今は、武蔵野大学でも同じ被害者支援・被災者支援などを行っている小西聖子教授が、犯罪被害者支援ということにも大きく活動を立ち上げたところでした。ここで被害者支援と被災者支援っていう日本の歴史上の始まりが出てきました。

 専門家の間でも被災者であるとか犯罪被害者である方たちの支援っていうのは、実はまだまだ理解されていなくて、そういうことは近親者の人たちがやるべきじゃないの、とか、やっぱり被災者には救援物資で物理的な支援が大事なのであって、心の支援なんて難しいんじゃないのかっていうふうに言われておりました。北海道のときは、本当に多くの専門家からも振り向いてもらえずに支援を応援してくれる声が少なくって、むしろ物珍しく活動しているっていうような目で見られていたかなと思いましたが、北海道の活動の下地があったので、阪神淡路大震災で大きく被災された兵庫県の教育委員会などに、「こどもたちはこういう気持ちになりますよ。こういう気持ちや体の反応や不安な気持ちがあるので、保護者や学校の先生はそれをいち早くキャッチして叱ったりするんじゃなくって、温かくケアしてくださいね。」ということをお知らせすることができました。その後、先ほどの基調講演でお話していただいた栗原さんご兄妹のお話にあったように、災害も、被災地、または被災者というのは、時間経過とともに段々と皆さんの記憶から薄れていってしまうのですね。一時期は被災者支援ということは一大ブームになるのですけれども、時間とともに段々と忘れられていく。それが日常に戻ることの一つの証なのかもしれないですけれども、被災者はそこで取り残されていくっていう中で、いや、被災者支援だけじゃやっぱり駄目なのだなということで、日常の中でも事件や事故の犯罪以外にこどもたちが巻き込まれている、そのときにこどもたちを支援するためにはどうしたらいいのだろうかっていうことを考えて、学校の緊急支援。例えば事件・事故が、学校で起きたら、通学路で起きたら、家で起きたら、生徒たちをどういうふうに被害者の子を守るのか、そしてその友達たちをどういうふうに支援するのか、その保護者の方をどうサポートするのか、学校の先生と一緒に考えていきましょうというような活動に入っていきました。

 ですから、元々の犯罪被害者支援の活動も日本の歴史の中では、やはり自然災害っていうところがとても大きく横たわっていたし、それぞれの交通事故であるとか、こういう犯罪であるとか、先ほどのVTRのメッセージにあったように、性犯罪への支援、被害者への支援等も含めて。今は細分化されつつありますけれども、やはりこういう意識を広く皆さんに持っていただくためにこのような会が行われて、非常に今日の栗原さんのお話も含めて心に響いたものがありました。今日はそういう立場でこのパネルディスカッションを進めさせていただきたいと思っております。

 では続きまして今日お話していただく安永さんのご紹介、自己紹介をよろしくお願いいたします。

(安永) 私は、福岡県警察本部少年課で少年サポートセンターを統括しています、 安永智美と申します。私は元々警察官として12年間勤務をした後に、現在は、少年育成指導官という立場で勤務しています。警察の中にもそれぞれ専門性を持った職員がおりまして、この職種はこどもたちを犯罪の被害者にも加害者にもしないために専門的な知識や技能を有し、継続的に関わる警察の専門職員です。この機会に、私の自己紹介よりも、是非皆様に知っていただきたい、全国の警察に設置されている少年サポートセンターについて、ご紹介させていただきたいと思います。

 全国の警察にある少年サポートセンターは、警察の機関なのですけれども、警察のイメージにあるような検挙、取り締まりをするところではありません。一言で言うと、福祉的ケースワークを主眼とした支援機関になります。私たちが非行やいじめ、虐待等、様々な問題を抱えるこどもたちと関わるときの支援は三本の矢です。一の矢は当然、問題行動や非行などの行為に対しては指導を行います。また加害、被害を防ぐための予防教育も行っています。ただ、この一の矢である行為に対する指導や教育だけではこどもの非行を未然に防ぐことも立ち直りも厳しいです。なぜその子が盗み、薬物、売春、様々な問題を起こさなければならなかったのか。その根っこの部分に対しては、指導ではなくケアが必要です。このケアが二の矢です。そして三の矢が、その子の根っこを傷つけてしまっている問題そのものを解決する。虐待、いじめ、性被害、貧困差別などの問題を多機関連携によって解決する。これが本県のサポートセンターの支援の三本の矢です。

 そして、この三本の矢の活動の主眼について、例えば、指導は警察的に頭ごなしに駄目だよ、そんなことしたら捕まるよ、といった脅かしの指導ではなく、こどもが暴力を止められない、薬物、性加害をやめられない。そういう繰り返す依存性の高い行動については、具体的にどうしたらやめられるのか、認知行動療法に基づいた指導を行います。私達の指導は心理療法です。きちんとしたプログラムを使ったマンツーマンの心理的な関わりをしています。

 また、予防の観点からでは、特に乳幼児期の子を持つ保護者に対する啓発が大事であることから、幼稚園、保育園での出前講演を行っています。おそらく本県独自の啓発活動なのですけれども、非行の根っこを手繰り寄せていったら、乳幼児期にたどり着きました。いきなりこどもが間違ったことをするわけでは決してない、乳幼児期の忘れ物として、愛着障害、心と体のスキンシップ、このような忘れ物がわずか5年後、物を取るという形で現れたり、わずか10年後、自分の体を売るという形で現れたりしますので、こども以上に、保護者、大人への啓発を行っています。

 次に、問題行動の根っこへのケアにも特色がございまして、まずはリフレーミングですね。目の前の子が問題を起こす「困ったこども。」という目で見ている限り、その後の対応は180度変わってしまいます。対応を誤れば当然その結果が違ってきます。なので、まず目の前の子を、問題を抱えて「困っているこども。」だと、リフレーミングする、見方を変えて味方になってあげる。そして実際のケアは心理面接です。まずはこどもの話を聞く、気持ちに共感する、寄り添う。これがサポセンは警察の機関ですけれども、警察とは違った根っこへのケアになります。

 そして最後に、問題解決の特色はアウトリーチです。警察だからこそのアウトリーチというのは、潜在化している被害や加害の問題を顕在化するのを待つのではなく、こちらからあぶり出します。そして先に見つけてキャッチして動くという、アウトリーチ型の問題解決が警察の機関であるサポートセンターの活動の強みです。

 そして、今後さらに求められることは多機関連携です、個の力には限りがあります。警察は万能ではない。教育も福祉も医療も、それぞれ強みもあれば弱みもある。弱みをカバーして強みを出し合う。この力の結集が真の多機関連携です、切り目のない多機関連携で一人でも多くのこどもたちを守り、救っていくというのが、サポートセンターの大切な役割です。

 今日は、駄目絶対教育ではなく、自分を大切に想える心理教育として実践している、心を揺さぶる非行防止教室によって潜在化していた被害児がSOSを出せた、という事例をご紹介させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

(藤森) ありがとうございました。それでは小木曽さん、お願いいたします。

(小木曽) 小木曽健と申します。グリー株式会社という企業と、国際大学GLOCOMというところに所属しております。どちらも共通して行っているのが、全国でネット利用、SNSへのリテラシーですね。情報リテラシーと言われるものをお伝えする仕事もしております。もう足かけ10年位、全国で40万人以上の方にお伝えしておりまして、5年生から対応しています。5年生から上っていうのは、全年齢という意味です。ですので、警察学校とかサポートセンターもそうですね、また、変わったところだと、海上保安庁なんかにもお話をしに行きます。対象としては圧倒的にお子さんが多いですね。大学生までも含めた若者、若い方々が対象としてすごく多いのですけれども、お話をしていくと講演が終わって家に帰った後に連絡をもらうのです。悩み事があるとか、何かちょっとこれで困っているのだっていうのであれば普通にコミュニケーションを取ることもしますし、犯罪被害に遭っている子からの連絡も受けます。

 具体的に、明日会いに行かないと、こういう脅迫受けていて困ることになるのだ、みたいなことを直接連絡もらうのですね。もちろん、TwitterのDMとかで連絡をもらうので、どこの誰だかわからないのですよ。そこで、あなたは誰と、どこに住んでいるの、みたいなことを聞いてしまうと途切れてしまう。途切れてしまったらもう何もできなくなってしまうので、「近くにある駅はどこなの。」とか「一番近い警察署って何て名前なの。」とか、少しずつ聞いて、「わかった、ちょっと待っていてね。」と言って、警察に電話して、「今から匿名でこどもが電話を入れるので何番がいいですか。」と、「なんて人に今電話したらいいですか。」「じゃあ匿名で言っちゃうので、とりあえず繋ぎ止めてください。」と。またこどもに電話をかけて、「この警察の何番かけて、なんとかっていう人が今いるから、今かけて、匿名でいいから。」と最後は警察の方が実名を確認して巻き取ってくださるっていうことがほとんどなのです。

 そんな機会が年に何回かあります。もちろんそれは氷山の一角であって、助けられてないこどもがいっぱいいると思っていて、今日はそういったお話もできたらと思っております。よろしくお願いします。

(藤森) ありがとうございました。それでは栗原さん、先ほどご兄妹で基調講演をしていただいたのですけれども、一二三さん、一言だけコメントをお願いいたします。

(栗原一二三) 先ほどはご清聴ありがとうございました。SNSといったテーマで、私も妹も本当にどちらかというと疎い部分ではありますが、被害者を出さない、加害者も出さないという、そういった共通の部分では、少しでも私たち兄妹の経験が反映されますよう、役立てばと思っております。引き続きよろしくお願い致します。

(藤森) わかりました。穂瑞さんの方もよろしくお願いいたします。

 それではですね、ここからパネラーの方にお話していただく形になります。まずは最初に自己紹介していただきました、安永さんのお話の方を伺っていっていきたいと思います。よろしくお願いします。

(安永) それでは事案の概要からご説明させていただきます。被害児は小学校2年生のときに、目の前で実の父親が、当時5歳の弟を暴行し殺害したという現場を目撃しています。父親は速やかに逮捕されたのですけれども、その後、母親との2人暮らしにおいて、長年この夫からのDVによって様々な精神症状、精神疾患を抱える母親から、養育を拒否されてしまいました。また心理的虐待も受け続けていました。特に言葉ですね。この母親が、生き残った長男に対して、「死んだのがあんたやったらよかったのに。」という言葉を投げかけています。本人にしてみれば、僕が死んだ方が良かったのだという思いをずっと抱いていたと後に語ってくれました。

 この被害児が被害体験を語れたといいますか、言い出せたきっかけが、冒頭申し上げた、私達の非行防止教室です。たまたま私がこの被害児の学校の非行防止教室を行った後に、この子が感想文に、「今まで誰にも話せなかったことがあります。」と、父親が日常的に弟を暴行していたこと。そして最後に命を奪ったときの状況が詳細に書かれていました。いつものように殴った後に、引きずるようにしてお風呂場に弟を連れ込んで、命を奪ってしまったのですが、そのときの状況が書かれていましたし、母親が殴る蹴るの暴行を受けていたことも書いてありました。

 そして今度は母親から受けたネグレクトの状態について、ご飯をほとんど食べさせてもらえてなかったとか、先ほど言ったように、「死んだのがあんたやったらよかったのにね。」というような言葉の数々が、感想文にも書き記されていました。

 この感想文に書かれていたことを、被害開示として私はキャッチします。このようなケースは多く、中には感想文ではなく、講演中に涙を流す子もいますので、講演後に先生に「あの子涙流していたでしょ。この後話聞けないかな?」というようなこともあり、また、校長室でお茶をいただいてたたら「レッド隊長、ちょっと話聞いて。」とか。ただ、多くは感想文で発覚します。この感想文ですが、普通は郵送で送られてくるのですけれども、この時はその内容に驚愕した先生が、本当に胸に抱きかかえるような形で、サポートセンターに駆け込んで来られました。それを見せていただいて、「すぐにこの子に会いたい。私に対するSOSだから。」と、こどもとの面接をお願いします。

 この子は養護施設の子でした。お母さんの虐待によって施設に入所しているので、会いに行きました。まず私がこういったときにこどもにかける言葉は、「感想文読んだよ。」「よく書いてくれていたね。」そして、「今まで気付いてあげられなくてごめんね。」と声をかけます。その瞬間、その子がポロポロっと涙を流したのです。「気づいてあげられなくて悪かったね」「今日お話を聞きに来たよ。」と話します。「お話してくれる?」という形で聞きました。このケースでは、壮絶な被害体験を抱えているにもかかわらず、児相と養護施設は、この子の背景や被害体験の情報を持っているのですが、学校にはきちんと伝えられてなくて、この子がこんな深刻な被害体験を抱えているということを学校はご存知なかったです。養護施設に入っているので、何かしらの虐待を受けていたということは想像していたようですが、個人情報の問題や、いろんな先入観を持たれて、この子に過度な関わりをされてもよくないという、周囲の大人のよかれと思った配慮が、結局は良くなかったということです。なので、必要な心理的なケアですとか、日常的な支援を全くこの子は受けられないまま、3年間ぐらい放置されていたということになります。この被害児に何かしらの問題行動や不眠など身体症状があれば、周囲の大人の注意が向けられたと思いますが、全くなく、おとなしくていい子だったということです。

 ですが、この子の話の中から、実際は夜尿が続いていました。お漏らしですね。では施設の先生が気づかなかったのか、この子は気づかれないように自分で月に与えられるお小遣いを貯めてですね、大人用のオムツを自分で買って処理していたそうです。だからこの子がずっと夜尿が続いていたということは、全く施設の先生はご存知なかったです。

 あとは解離症状ですね。当然トラウマを抱えていますから、父親のような乱暴な大人のタイプ、大きな声、そういったものにはフラッシュバックを起こしてしまってフリーズし、全く思考が止まったり、動きが止まるというような解離症状がずっと続いていたことも分かりました。

 私が非行防止教室の中で必ず言うことは「苦しいのに苦しいって言えない、気づいてもらってない子が必ずここにいると思う。サポレンジャーのレッド隊長はあなたの味方だからね、話してもいいんだよ。」と。「全力で守れる大人はここにいるよ。」というようなお話をして、その言葉を信じて、彼は初めて感想文という形でSOSを出してくれました。

 サポートセンターには公認心理師として、カウンセリングができる職員が配置されています。一つのサポートセンターに2人から3人位、資格を持った職員がいるのですけれども、ここまで重篤な被害体験を抱えた子に対しては、私たちで抱え込みません。この子への最善のケアは、医療に繋ぐことですので、まずは関係者会議を開きました。ご存知なかった学校にきちんとこの子の根っこを知っていただいて、この子に必要な支援として、まずは、医療機関に繋げましょうと。児相がトラウマを抱えたお子さんをつなげる病院を確保していましたので、すぐに医療機関に繋いでいただいて、この子に対する継続的な治療は病院が主体となっていただきました。私は最初に被害開示を受けた大人として、「いつでもあなたが話したいとき、話したい相手を選んでいいんだよ。病院の先生や学校の先生。でもレッド隊長に話したいというときはいつでも連絡を頂戴。私、飛んでくるからね」と。そういった役割で5年くらい、高校に入る頃まで関わりました。

 私たちは年単位で関われるので、警察官のように異動の影響を受けることがないのです。一つのサポートセンターに5年以上とか、根付く形でずっといるので、その子が話したいというときにはすぐに面談ができるような、そういう環境が整えられています。あとは児相の先生や学校の先生を支えるという役割も担うことになりました。学校の先生が、なぜ、気付いてあげられなかったのだろうと言って、ご自分をすごく責めていらっしゃったので、「先生が当然悪いんじゃないよ。」って。むしろ「こうやってあの子がSOSをだせる機会を作ってくださったじゃないですか。これからあの子に関わる身近な大人として気をつけていきましょう。」とお話しをいたしました。

 また、病院の主治医の先生からも私たちに指示助言をいただきながら、関わるということになりました。こうやってこの子へのサポートさせていただきました。

(藤森) ありがとうございました。言語化できる年齢になって、文章にも書けて言葉で言えるようになった年齢っていうのが小学校5年生っていうことですよね。それまでなかなか思っていても言葉にすることができなかったり、相手の様子を見たりして、この子は何とか自力で繕いながら繕いながら日々を送っていたっていうことなのですね。先ほど穂瑞さんの話の中にも、なかなか大人の被害者の遺族の方でもお話ができなかったということがございました。お子さんの気持ちを聞いていかがでしたでしょうか。コメントをいただけると嬉しいです。

(栗原穂瑞) 私の場合は、当時はもちろん、今も誰かにお話することはありません。兄ともお話することはありません。2ヶ月に1回のその自助グループでのみになります。その際同席している兄もお互いにお互いの心の内を知るという状況です。

(藤森) ありがとうございます。それはやっぱり大人でもこの場では喋れるのだっていう安心感が持てているところはとても大事だと思うのですよね。この時間、この場所、この人たちの場面では共有できるっていうところが、とても安心感があるっていうところだと思うのです。

 先ほど安永さんがおっしゃっていた、話していい人、話したい人を決めていいのだよっていう、こどもへのアドバイスっていうのはすごく良かったと思うのですけれども、お子さんはどんな感じでそれを受け止めていましたか。

(安永) まずこの子は、長年、話すことがいけないことだと思い込んでいました。何故なら母親の「死んだのがあんたやったらよかったのにね。」っていう言葉ですね。やっぱり自分が死ぬべきだったし、自分がその現場にいたのに助けられなかったという自責の念を抱いていて、弟が亡くなったことは父親が命を奪っているのに、この子の中では何か自分が奪ってしまったぐらいになっていたので、話すことを自分の中で禁止していたと思います。重いものほど奥底に沈むように、この子のSOSは沈んでいたので、心を揺さぶってあげるというきっかけがあったので、この子が思わず声ではなく、感想文に書くという形でサインを出してくれたのかなと思います。

 ただ、SOSを出すということはすごく勇気とエネルギーがいりますので、きつくしんどくなかったと聞いたら、レッド隊長が「気づいてあげられなくてごめんね。」って自分に謝ってくれたのがすごく意外だったけどほっとした、そして体の中から何か塊みたいなものが流れていくような感覚を感じたということを話してくれました。

(藤森) なんか今までいろんな大人が自分に対して言ってくれなかった反応、示してくれなかった言葉っていうのが与えられて、ほっとされたのですよね。

 私も実は夫婦間暴力で父親が母親を殺してしまったところを目撃してしまったお子さん。やはり小学校2年生に上がったときだったのですけど、結局その場には住んでいられなくなって、施設には入らなかったのですけれども、母方の祖父母に引き取られた。お母さんは亡くなっている。お父さんは刑務所に入ってしまった。という案件なんかでは、その子のことを、よかれと思って、おじいちゃんもおばあちゃんもいろいろ言われるのが嫌でしょうということで、小学校には何も知らせずに普通の転校生として行かせていたら、突然、目が見えないと言い出しました。やはり身体症状に出て、実はこのお子さん、夜尿が出ていたのだけれども誰も気がつかなかったということです。すごく知恵のあるお子さんで、なんとか生き延びようとして、だからそれで気づくのが遅くなるのだけど、やはりそこは気づいてあげなくちゃいけないところではあると思います。特に養護施設のお子さんにはあるというところです。

 私が経験したケースに戻りますと、目が見えない、でも学校に歩いてきている。何か詐病じゃないかとか、うそつきじゃないかとか言われたのですけど、「とにかく病院に連れていってあげてください。」と言って病院に行ってもらい、大学病院で検診をしたのだけれど、「目には異常はありませんでした。やはり気持ちの問題でしょう。」ということで、初めておじいちゃんが、「実はこの子はこういう体験をしているのです。」と話をしたら、やはり見たくないものを見てしまったので、目が見えなくなるのは当然ですよね、という感じで、児童の精神科の方に回して治療を受けられるようになったというストーリーがありました。私の管轄するところから遠くに転居されてしまったので、なかなかフォローしづらかったのですけれども、そういうこどもさんの様々な思いが身体反応に出るっていうことですね。

 なるべく早く気づくためには、やっぱり先ほどパワーポイントの方にありました、トラウマインフォームドケアと言って、この子はもしかしたらトラウマを体験しているかもしれないねっていう視点が、施設のこどもとか事件・事故のこどもだけじゃなくて、普通のこどもたちにもあるかもしれないっていう視点を、周囲の大人たちが持つことがとても大事なのだと思います。そのことによって発見も早くなるし、二次的に傷つけるっていうことも少なくなるのだっていうところが、本当にこの事例の実体験だったというふうに思っております。

 では次は小木曽さんの方から実際のお話をお願いできればと思います。

(小木曽) これもあくまで1事例であって、派生形はいっぱいあるのですけれども、このケースでいうと、女子中学生が同年代のネット上の友達、女の子と交流をした結果、相手は実は大人の男性でしたと。いろいろな経緯があって脅迫をされ、「私はあなたのわいせつな写真を持っているから、それをばらまかれたくなかったら会いに来いと、もっと送れ。」と。そういった事例になります。ここには本当にいろいろ書いてあるのですが、それぞれの言葉が入れ替わっていて、派生形でものすごくこの事件が起きています。

 例えば、必ずしも被害者は女性や女子児童ではないです。大人の悪意のある人間から思春期の男の子が興味を持つようなコミュニケーションを持ちかけられて、それに対して反応した結果、いろいろな写真なんかを渡してしまい、手のひらを返して、みたいなこともあります。あとは半年以上、1年近くですね。交流をしていった結果、用心をしていたのにいろんな情報が少しずつ持っていかれてしまって、最終的に家まで来ちゃったとかですね。そういったケースもあるのです。

 だから皆さんよく「脇が甘いんじゃないの。」とかですね、「その子もそういった意思があったんじゃないか。」って思われるかもしれないのですけど、本当にそんなつもりはなかったし、あなた誰、私そんな人と交流したことなかったのにっていうような事件がすごく起きているのは現状です。だからこどもを責めるって元々ないのですけど、こどもにも悪意があったよねとか、意思があったよねっていうケースは、実はそんなにないのだと。

 ただこの事例ってあまり世の中に出てないのですよね。たちの悪いものだと、「あなたはSNSに顔写真載っけているよね。」ばらまかれたくなかったらわいせつな写真を送りなさい。会いに来なさい。ということを言われてわけがわからないですよね。ネットに自分の顔を載せました。それを脅しに使う。いやいいよね、別に顔なんか載せたって。普通に大人だったらあんた馬鹿じゃないのって警察に通報しておしまいなのですが、その犯罪者の狙いはそこなのですよ。自分の顔をネットに載せていることを指摘され、脅されたときに慌てるのはこどもなのですね。その犯罪者はこどもを狙っているので選別しているのですよ。そこで慌てるのが自分のターゲットであるっていうような、本当に卑劣な仕組みを回して、言うことを聞かせる、ということが非常に多いです。ですので、我々が思っている以上に、嫌なバラエティーがものすごくいっぱいある世界で、本当にこの仕組みでいろいろなパターンが発生しているっていうのが現状になります。

 例えばですね、もう六、七年前なのですけれども、急に夜連絡をもらって、助けてくださいと。今、変な人が家の前に来ているって話を聞いたら、的確にバーッと教えてくれたのですけれど、高校生ですと。東北に住んでいます。ネットの友達に、ネットでしか会ったことがない人がいて、その人とは趣味が合う、スポーツも一緒、好きな音楽も一緒。一緒に決まっているのです。プロフィールに書いてあるから、それに合わせて話を持ってきて、友達になろうと何ヶ月も何ヶ月もやり取りをして、家の隣に犬がいるのだ。隣の家は犬を飼っているのだとか、自分は何とか県だよとか、近所にグラウンドがあるみたいな話を、ほんの少しずつ、それが半年、1年たまっていて。あるとき、「今日星が綺麗だから電気消してごらんよ。」とメッセージが来て。何気なくピット消したら、ブーンとメッセージが来て。「今電気消したでしょう。」と。「家を見つけちゃった。」と。当たりをつけて家の前まで来てメッセージを送ったのですよ。「家がばれているよね。」と。「今から降りておいでよ。」その人は、犯人側ですよね。東北を何か出張でぐるぐる回るようなサラリーマンで、そういったことをあちこちでやっていたのですね。すぐに警察に電話していいよと言って警察に捕まえてもらったのです。

 そういうことを皆さんは知らないですよね。でもたくさん起きているのですよ。これを知っていただくのはすごく重要かなと思っています。なかなか詳細な手口を伝えにくい被害者もいますからね。

 そういった背景もあるのですけれども、それでもいつまでたっても他人事、起きていないことは口コミで絶対広がらないのですね。こどもに言っても、いやうちの学校でそんなことは起きていない。自分の友達にはそんな人いないからって言うのだけれど、言うわけないんですよ。自分がそんな被害に遭って脅された写真を撮られちゃったのだというのは、絶対に口コミにならないので。これは、知った大人がもっとこどもたちに伝えていくというのがすごく大事なのかなと思っています。

 どうしても最後は親なのですよ。保護者なのですけど、この話題が日常で会話しにくい部分もあるし、例えば、こどもが被害に遭いましたっていう報道を見たときに、こんなとして脇が甘い、この子も問題だよね、なんてことを言われたら、いざ自分が悪意なくそういう人間に騙されて被害者になったときに、親に言えないのですよ。私が悪いのかもしれない。そんなわけないですよね。基本的にこどもが被害に遭う犯罪でこどもが悪いってケースは、日本にはないです。そういう法律の立て付けになっているので、こどもは、親とか社会が守らなきゃいけないという仕組みなので、これはこどもが悪いケースはないです。こどもに「少し自分も悪かったよね。」というのは、後で落ち着いてからやればいい話で、最初は「あんたは悪くない、犯人が悪いのだよ、当たり前でしょ。」っていうところで巻き取らなきゃいけない。そのためには、ニュース見て、「この子もね。」って絶対言っちゃダメなのですね。「この子はきっと報道に載ってないけど、騙されたのかもしれない。」「悪くないよねこの子。」「こんなの普通の子でもありえることだ。」って。「あなたの知り合いにもいるかもしれないよね。だからもし、あなたがそんな目にあったらすぐに言ってちょうだい。私はネットも詳しくないしアプリも知らないけれども、あなたが困っているその問題を解決することができる大人を知っているのだからね。」って逃げてほしいのですよ。だから「言っていいよ。」と。

 親に言うのは面倒くさいってこどもがいるのですよ。説明するのが面倒くさい。インスタって何、シェアって何みたいなこと言われると面倒くさい。しかも、わからないと怒ったりする親には言いたくない。だからそれを排除しないと、いつまでたってもこどもから情報上がってこないし、被害が表に出てこないっていう、すごく焦りがあります。絶対にこどもが悪いっていうのは、少なくとも初期の段階でそれを絶対に言っちゃ駄目ですので、こういうものに関しては全て共通してその辺のお話を保護者の方にしています。

 大人は大人の知り合いがいるのですよ。でもこどもは親しかいなかったりするのですね。私のとこに来るなんていうのは本当にごくごく一部で、ほとんど来ないのですよ。勇気出して連絡をくれる子がたまに何十分の一いるだけなので、ぜひ親が、受け入れやすいという言動をしていただきたい。出かけるときに車に気をつけるのだよというのは、毎日言うではないですか。だからそれと同じような感覚で、ニュースを見るたびに、「こどもは悪くないんじゃないの。」「母さんはね、知ってるんだよ、知り合いを。」というようなことを、少し刷り込みじゃないですけれど、言っていただきたいと思っているようなのが、こういった事例です。

(藤森) ありがとうございました。SNSにまつわる被害っていうのは、本当に表面化しているものが非常に少ないので、氷山の一角どころではないという感じが、日々の臨床でしております。小木曽さんがお話になっていたような内容を、よく私も研修とかでお母さんたちからの相談があるのですが、そういう被害をこどもから、「すぐに伝えて欲しいのだけれど、どうしたらいいでしょうか。」というのは本当によく質問されるのですけど、普段から、「だからあなたは。」という口調でこどもに接していると、こどもは言わなくなりますよね。怒っちゃ駄目というのは本当にあって、先ほど安永さんの言葉にもありましたけど、「話してくれてありがとう。よく勇気を持って言ってくれたね。」という、そういうところを日々の子育ての中から実践していないと、おそらくカミングアウトはしてくれないのかなと思っています。

 安永さん、性被害にこのケースなってしまうのだと思いますけれど、周囲の大人が厳しく接してしまう場合が多い、やっぱり多くてそのこどもを追い詰めてしまう。なかなか自己開示、被害開示ができないっていう状況になってしまうのですけれども、現場から何か感じるところはありますか。

(安永) 小木曽さんのお話と重なる部分があるのですが、藤森先生がおっしゃったように、こどもは身近な大人にSOSを、出さないのではなく出せないのは、実際のこどもの言葉ですが、「やぶへびやん。」と言うのですよ。勇気を出して相談したら、結局説教で終わった、みたいな。結局自分が責められるからどんどん言えなくなってしまっている状態なので、私はこどもが話せるために大人が気を付けていただきたいことを、保護者対象の家庭教育学級や今日のようにこどもの被害に対してすごく関心を持ってくださっている方への市民啓発の機会を通して伝えています。それは、小木曽先生の方からは、子を叱るってありましたけど、その他に「よかれと思う口封じ。」があります。こどものために、言った言葉や配慮によって、ますますこどもが話せなくなってしまう、というのが三つあります。

 一つに、こどもの中には必ず自分が悪かったというスイッチがあります。このスイッチを押してしまうのが「あなたのために。」という、その言葉なのです。例えば、「もう二度とあなたにこういう被害に遭って欲しくないからSNSを使っちゃ駄目だよ。」とか、「夜歩きしちゃ駄目だよ。」とか、「その短いスカートが駄目だよ。」とか、そういうことを言う。よかれと思って親は言っているのですが、結局あなたが悪かったよと、あなたが原因を作ったんだよということに他ならないので、スイッチが入りますよね。そしてスイッチが入ってしまったこどもに現れる症状は二つで、自傷と加害行為です。

 こどものタイプによって、加害行為、自傷行為で現れ方は違うのですけれども、根っこは自分を罰する行為だとこどもは言うのですよ。なので、「あなたのために。」というこの助言を、被害直後はしないで欲しいと啓発しています。大人のよかれと思うその防犯指導が、こどもが自身を責めるスイッチを入れてしまい、その結果、こどもが自傷や加害行為をすることになりますよ、ということを伝えています。

 次に、ありがちな、「忘れなさい。」という言葉、これも絶対使わないでと言ってるんですね。被害に遭ったことを忘れられるはずがありません。私も6歳のときに、近所のお兄ちゃんにわいせつな行為をされましたけど、それを言うのにもやっぱり40数年。親が亡くなった後にやっと被害を語れるようになったのです。それほど言っちゃいけないこと、忘れなさいと言われると、忘れられない自分が周囲に心配かけていると思ってしまうので、忘れなさいという言葉を使わないということです。

 最後に、こどもはSOSを出すまでに勇気を貯める時間が必要だということです。その子にとって2時間かもしれないし、1日、1週間かもしれないのですね。大人は待つことが苦手です。こどもが黙ってしまうこの沈黙が、話したくないのだなとか、そっとしておかなければならないのだなっていう、大人の解釈によって、こどもがSOSを出す機会を残念ながら奪ってしまっているということにもなりますので、こどもの沈黙はこの子なりに勇気をためる時間だと思って、待ってあげる。そして先程も言いましたが、「あなたが話したいときに、話せる人に話していいのだよ。」ということを、常日頃からこどもに伝わるような空気といいますか、雰囲気を家の中で作っていただきたいなと思います。

(小木曽) 一つよろしいですか。今、言えないという話なのですけど、いじめにしても犯罪被害にしても、こどもが親に言わない場面でよく報道なんかに載るのが、親に心配をかけたくなかったからっていうのが出るじゃないですか。それは言いやすいし説明もしやすいのでその言葉がよく出てくるのですけど、実際はもっと根深くてですね。言うと家の中の平和がなくなっちゃうからっていうケースがすごくあるのですね。

 例えば、いじめられている子は家がオアシスなのですよ。いじめっ子いないですからそこに。ネットいじめはそれに侵入してくるのでもっと許しがたいものなのですが、少なくとも家の中で自分をいじめる人がいないというのは、普通の家庭だと思います。いることもありますけれども。ただいじめられている子が親に言わないときは、この空間を守りたいからというのがあるのですね。この時間だけは、僕はいじめられる前の時間がまだ続いているから、それを残したい。犯罪被害の子もそうです。自分がすごくヘビーな目に遭っている、脅されている。でもその前の時間が家の中で流れていて、それを守りたいという気持ちで言えない、というケースが結構ありまして、そこで、何で言わなかったのと責めてしまうのはよくないこと、ということを皆さんに知っておいていただけるといいなと今思ったので割り込みました。

(藤森) ありがとうございます。言えなかったこどもさんのご家族、保護者の方と家族関係が悪いかっていうと、そうとも限らないことがたくさんあって、そこで言ってもらえなかったからお母さんたちがすごく自信を失ってしまうところがあるのですけれど、そうではなく、こどもの世界のこどもの視点で、家の時間、家の空間の守り方っていうところを大事にしてあげるところは残しておきたい。でもやはり、なるべく早くSOSが発信できるようにどうしようかっていうようなことが必要なのだと思います。

 小木曽さん、SNSは今のこどもから取りのぞくことは無理じゃないかと思います。SNSの良いところもあると思うし、けれども私たち大人が語るとSNSは害みたいに語ってしまうこともあるのですけど、その辺いかがですか。どのようにこどもたちが捉えているか、どのように利用されているかみたいな現状も含めてお願いします。

(小木曽) 私たちが思っているよりももっと客観的で、そんな首までどっぷりというほどではないですね。我々も動画見ればたくさん見てしまうじゃないですか。こどもには見せたくない姿ですが、大人も動画をたくさん見てしまうとか、Twitterを一日中見てしまったみたいな話、ありますよね。それと同じように、あるいはそれよりもこどもが忙しいので、そこまでひどくないような没頭ぶりというケースの方が多いです。問題のある子はもちろんいます。昼夜逆転みたいな子はいますけど、そうじゃない普通の子は、普通にネットを道具として接していて、道具ですから、良いも悪いもないものとしてきちんと距離は持てていたりします。今の高校生ぐらいになると、そういう子も結構います。

 先ほどの話で、皆さんは不思議に思ったのかもしれないのですが、裸の写真を送ってしまったケースですけど、興味本位で送ることもありますが、そうではなくて、送るというのは完全に騙されていて、相手が女の子で同年代で仲のいい、ずっとコミュニケーションを持っていた子で、ある時、体型の悩みを相談されて、「自分はこういう体型なんだけど。」と写真を送ってきて、「あなたはどうなの。」と返して、信用しきって送ったら手のひら返しとかですね。あるいは本当にもう吐き気を覚えるような事例なのですけど、小学校4年生の子が、相手が大人だとわかっているのですけれど、自分の裸の写真を送ったと。何でかと言えば、恋人同士だから僕たちは。恋人同士は写真送り合うものなのだと言われて送ってしまった。被害に遭っているという感覚、認識もなかったりするのですね。責めちゃいけないし責めようがないのですよ。100%大人が悪いようなケースがあります。それは、先生の前で大人の恋人ができたのだと言っていたので発覚して、もう大騒ぎになって対応されたのですけれども。

 そのようなときに最後残るのは、その流出した画像ですよね。このようなご相談も受けます。こういったときにどうすればよいか。絶対に消せないのですよ。ネットは消せないというのは誤解されているので消せるでしょと言われるのですけれど、世の中に流れて拡散して飛び散ったものを、全て消し切ったことを確認するすべがないのですね。なので、消したかどうかを確認できないから消せないっていう言い方をしているのです。

 特にこのような事件で、流出した画像というのは、拡散性があるので興味本位で広がる可能性もあります。でも、わからないですよね。そういったときにどうするかと言えば、もしあなたの顔も出ているけどあなたのではないかと言われたら「私じゃない。」それだけでいい、それ以上言う必要ないよ。「こんなの合成だよ。別れた当時の恋人が捏造したのだよ。」「AIのディープフェイクであって、私じゃないよ。」って言ってくれと。それで、「そうだね。」ってそこで会話をやめる人があなたの大事な友達で、それでもニヤニヤしながら話しかけてくる人は、そもそも君の人生にいらない人だから、そんなに大事じゃないでしょう。その人はいらないからそんな人のことを気にしては駄目と。「私じゃない。」それ以上何も言わなくていいと。本当のことを言う筋合いなんかないですからね。「言わなくていいよ。」と。「私じゃないよ。」と言って、自分の大事な人がこの人なのだと見つけて、その人を大事にするのだよ。それしか言いようがないのです。本当に消せないですからね。

 その後の人生もあって、大人になっていくのです。そこでつらくても、生きていくしかないから頑張ってねって。これを親がなかなか言えないので、そのようなことを言うのが私の役目なのかなと思っています。特にお父さんになんかは絶対に言えないですよ。もう殴り込んでいって暴れちゃうような気持ちになると思います。私じゃないよ。知らないよ。大事なのはあなただね。そうやって生きていくのだよと言うふうに、もし身近にそういったこどもがいたらそのようなことを言って欲しいなというふうには思っています。

(藤森) ありがとうございます。デジタルタトゥーという、消せないものとして、目の前のデータを作業として消したのだけれど、それを誰かがコピーをして、URLとか貼り付けてしまうと本当に回収できない。世界中に広まってしまったということですよね。

 栗原さんも自分自身が傷つくようなことを周囲から言われたりして、傷ついたことがおありになるっていうふうにお話されていましたけど、その辺はいかがでしょうか。一二三さんお願いします。

(栗原一二三) 私も妹も先ほど申し上げました通り、SNSに関しては、全く疎いそんな2人なのですけれども、事件直後こんなことがありました。

 事件発生が午前中ですね。私は職場を早退しております。当然社内のものは何かあったのかなと。ただ事件発生時刻で時系列的に行くと昼ぐらいにはその報道がもうなされていたようです。そうすると、おそらくいろんな情報が巡ったのだと思うのですよね。ある人からは、私が犯人ではないかという、そういった情報もあったのだと。あとは、何か情報を得ているのだろうけども、それ以上私の前では言わなかった。いろんなあることないことが巡っていたのだなっていうことはすごく感じました。それと当時、浦和署の方にご配慮いただいて、玄関のところに報道の取材等はお控えくださいっていう掲示をしたりとか、いろいろ浦和署の方に守っていただいきました。はっきり言って事件に関する取材は、一つも受けてないのですが、いろんなニュース報道、新聞報道だったりとか、いつの間にか母親の写真も出ていました。これはいつ誰がどっから出したのかなっていう、そういった、何か不思議なこともありました。ただ中には、興味というか、そういったところを見てるというか、そういう部分では、やはり二次被害になるんだということを聞かされたことがあるのですが、それもこの事件に付随する非常に我慢せざるを得ないという、そういったことがありました。

(藤森) その事件の被害だけではなくて、次なる被害がまたやってくるみたいなことですよね。ありがとうございます。

 安永さんにお聞きしたいんですけれど、被害に遭うお子さんたちが、先ほどの事例の中でグルーミングをされてしまっている。だから被害だっていうふうに気づかなかったりするというところです。グルーミングということを、法制化しようという動きになっており、グルーミングはもう罪になりますよというふうにしようとしているのですけど、まだまだご存知ない方がいらっしゃるので、少しその辺の仕組みを教えていただけますでしょうか?

(安永) グルーミングによる性被害の事例は結構あります。例えば、教師によるグルーミングの被害というのは、何例か関わりました。学校の先生は、こどもにとって、ともすれば家族以上に身近な存在になりますので、すごく親しみを持ちやすい存在でもあります。自分は特別にこの先生に大切にされているとか、私だけ特別な愛情をかけてくれるというふうに、相手は全く違う目的で近づいてきているのですけども、本人はわかりません。こどもを手懐けて、愛情や信頼を搾取する。そういった状態にしておいて、性被害に遭うというお子さんは結構います。もちろん教師に限らずですが、こどもにとって身近で親しみやすい大人が性的行為を目的に近づき、愛情や信頼を搾取するところが共通点としてあります。それを防ぐためにどうするのかと、私はよく保護者や関係者の方に聞かれるのですけれども、実際に被害に遭った子から学んだのは、やはり、グルーミングされてしまうこどもには、本来あるべき居場所や愛着をしっかり結ぶ存在、心の拠り所がないというところに行き着きました。ですから、拠り所求めている子が、悪意を持った大人にグルーミングされて被害に遭っているため、こどもにとって安全で安心な心のよりどころになる居場所や存在を家庭やそれにかわる場所でもいいのですけれど、周囲の大人がきちんと確保することが、こどもを守ることに繋がるのかなと思います。

(藤森) はい。グルーミングは元々毛づくろいとか、優しくヨシヨシするみたいな、そういう意味で使う英語の語源なのですけれど、要するに、かわいいねとかいい子だねとか、写真を送ってくれたら大好きだよ、とかがあります。先ほどの小木曽さんの例にもありましたように、同性の友達として、本当は異性だったり大人だったりするのだけれども、友達同士だよねとか、親友だよねって。ゴールは結局友達になることではなくて、こどもを搾取する性的なものとか、時にはお金をくれとかいうのもあります。今、妹ががんで入院中で、明日手術だけどお金がないとか、大人だったら絶対に騙されないようなことでも、3000円とか5000円でも振り込ませようとしたりするケースもあって、そういうグルーミングに遭うケースもありますし、一般的に多いのは性的な搾取というのがすごく多いのですけれども、ヨーロッパの方では、国によってグルーミングだけで罪になりますし、アメリカでも州法によっては罪になるということがあります。やはりプレゼントが送られてきたりして、そういうもので報酬がある場合もありますし、いつなんどきでもSNSで一晩中付き合ってくれるとか、寂しいこどもたちのお話を聞いてくれるという形で、ものすごく時間をかけて、こどもたちを手なずけていくというようなことが行われている。そのエネルギーたるやすごい。小木曽さんの例にもありましたけれど、要するに場所も特定するぐらいエネルギーをかけているわけですよね。

(小木曽) 損得じゃないのです。その情熱がおかしなところから出ているので、1年とか時間をかけられるのです。相手からそういったものを受けてしまうと、私も何かしてあげなければ、みたいな。あるいは、何か具体的なものをもらったので返さなきゃいけないと思ってしまうのです。

 そういった経緯を外部から見たときに、「あの子も脇が甘いんだ。」みたいなことが、特にこどもは実名報道しないじゃないですか。そうすると、地元でデマとか誤情報がネットで流れるのですよ。多くは同じ学校に通っているこどもの親だったり、こどもの兄弟だったり、中途半端に事情通なので、情報が間違ったりするのですよ。

 例えば、川崎でこどもがこどもを殺めるという、本当に凄惨な事件が昔ありましたけど、あのときにも犯人グループだって名指しされた名前の羅列があったのですけれども、半分正しかったのですよ。半分間違っていた。半分間違っていた人たちは、裁判を起こして私じゃないっていう余裕なんかないし、後からだってその余裕もないわけですよね。そうすると、ああ許されるのだとか、正義の情報だったら良いのだ、みたいな誤解が生まれます。皆さんよく誤解されるのですけど、正しい情報でも、ネットに載せて相手に実害を与えたら民事で訴えることができるのです。例えば私が最低の奴だ、ということをネットに書かれて、それが実害を及ぼしたときに、僕は民事で訴えることができるのですね。そんな単純な話じゃないですけど、民事の仕組みでそうなっているのですよ。正しければ、全部許されるなんていうのは1ミリも書いてないですし、そんな仕組みもないので、ネットでそういう不確かな情報を書く人間は、そういった法的な知識を知るべきだし、私たちは伝えていくべきなのだろうなと思っています。

(藤森) 手段が一応あるのだというところでこどもを救っていく。やはり大人の知識がないと無理ですよね。そういうことを守ってあげるということはすごく大事なことだと思います。やはり何でしょうか、身近な保護者などが、毅然として、例えばお世話になっている先生や部活の顧問でも、顔見知りの場合は特にそうですよね。そういうときに泣き寝入りをしないということが大切で、その子の人生をそこで寸断しないようにする。

 例えば、推薦入学をもらえなくなるとかはよくありますよね。この顧問で部活を強くしてもらわなければ、とかいうものがあって、親の気持ちがすごく揺れてしまったりとかはあります。あとは、被害者なのにどこかファンタジーに保護者の方たちもグルーミングされてしまって、将来結婚するから、とかいうのは結構いまだにこの時代でも多いのです。そうではなくて、今ここの段階でこの年齢のこどもにこういうことしちゃ駄目でしょ、っていうのは教育者だってカウンセラーもそうですけど、絶対に駄目だってことを教わっているのに、それができない。本当に愛しているのであれば待ちなさいと私は言って、保護者のグルーミングを解く。「あなたたちは被害者なのですよ。」という心理教育をしないと、被害届が出ないみたいなことはよく現場でありませんか。

(安永) おっしゃる通りですね、こどもは、相手が知っている人の時は特に話せないブロックがかかります。自分が言うことでこの人が罰を受ける、何か自分が悪いような気がする。でもこども以上に、今おっしゃったように親が揺れてしまうので、サポートセンターが関わるときは、親とこどもも支えますけど、むしろ親に対してエンパワーメントする。「いや、お母さんお父さんは違うのですよ。こどもさんは絶対100%悪くない。」と。被害申告によって再被害を防げるのですよ「これはきっちりとけじめをつけるべきことですよ。」というような話を、親御さんにしっかりと話をしていかないと、被害を受けたこどもと自分たちの方が、何か申し訳ないような気持ちを抱きやすいというのは、現場でもすごく感じます。

(藤森) そうすると、慣れた支援者だとこれがもう親子共々グルーミングされてしまっているというふうにわかるのですけれども、「どうしよう、先生はそんなに悪い人じゃない。」とか、「魔が差したのだ。」とかということで親が揺れていると、なかなか支援まで行き着かないみたいなことがあったりするので、本当に現場の警察官であるとか、その周囲の学校の他の先生とかにも教育をしていかないといけないのだなというのを感じたりしますよね。

 SNSに関しては、学校もメディアリテラシーとかそういうことをこどもたちにも教育していますし、保護者にもいろんな勉強会をしていたりするのですけど、それがまだ浸透できていなくて、多分終わりのないことだと思うのですが、小木曽さんはお仕事として教育現場でどんなお仕事をされていますか。

(小木曽) 今おっしゃった通り、こども、保護者、先生方ともお話をしています。学校ではそういった機会が増えてきたとおっしゃられていましたけれども、まだ中身はバラバラですね。やってはいるけれども、やっている内容はただの道徳ですよね、ネットは関係ないですよねってこともあれば、すごく有名な嘘つきな情報リテラシー講師の方がいて、「これは危険です、これは駄目です、これであなたの人生は終わります。」みたいなことを延々と言う先生が人気だったりするのです。根拠はないし間違っているけれども生徒が怖がるので、「先生、助かるからお願いします。」と言われてお願いされている、悪徳なIT講師がいまして、僕らみんなでやっつけようとしているのです。本当にそういう人も存在していて、いろんなIT教育があるのです。なので、そこを整理していかないと、やっているからいいよねとか、年に1回やったから大丈夫だよね、とはならなくて、何をやったのか、効果があったのか、なかったらやめた方がいいんじゃないの、というようなこともしっかりと科学的なエビデンスも含めてやっていかなければいけないと思います。

 何よりも、最後は来てほしい親が来ないということがあります。話をしたい、伝えたい、聞いてほしい親こそ参加をしないので、そこはどうやって越えていくのか、ネットを使うのか。私はそういった親が好きそうな、かわいいワンコが出てくる啓発動画とかを作ったことがあるんです。そういった人に見てもらいたくて作ったりもしているのですが、そういった人達へのアプローチの仕方を、現在試行錯誤中です。

(藤森) まさに、聞いてもらいたい親御さんが来てくれないというのはよくある話だと思います。そうなると、こういう被害を受けたこどもたちというのは、やはり声が上げられなくて、実は傷ついているのだけれども、傷ついていないふりをしたりとか、中には何もなかったように振舞っていたりとか、むしろ再被害に遭うような形をして、やはりあの子はそういう子なのだというふうな扱いを受けたりして、何か心のケアのところまで行き着かなかったり、途中で途絶えてしまったりということがあるのですけれども、被害の影響というのは実は長く出てしまうのです。何ヶ月経ったから、何年経ったからというのではないということです。先ほど基調講演でもありました、彩のこころのように、安心できる場所というところに、穂瑞さんは通われているのですけれども、そこの運営とか、参加してどういうふうな心情になるのか、それがどう続くか、何か安心できる場所である、みたいなところをご紹介していただければと思います。

(栗原穂瑞) そうですね。埼玉県の援助センターでの彩のこころは、正直、楽しい話をする場ではありませんから、ご遺族の方のお話をみんながそれぞれ傾聴するという形で、やはり苦しくなってつらくなります。ただ、それはもう私の苦しみも聞いてもらえる場でもあって、そういった人たちみんなが寄り添って、本当にありがたい場所だなって思っています。

(藤森) ありがとうございます。先ほど、穂瑞さんがおっしゃっていたように、控え室でも穂瑞さんは、とても冗談もおっしゃるし、笑顔もあって素敵なとてもチャーミングな方ですし、お兄さんの一二三さんも、野球をずっとやっておられて、野球観戦がとても好きだということをおっしゃっていて、普通に見ると本当に健やかな、何も被害のなかったような方たちに見えてしまうというところですね。

 先ほどの繰り返しになりますが、人は、長く生きていると、いろんなつらいことや悲しいことを抱えているんだというところはもう前提にあるんじゃないかなというふうに思うので、あまりそういうステレオタイプな見方で、この人はこういう人なのだとか、こういう人だから大丈夫、というのではなくて、私たち一人一人が少し思いやりを持って話をしていくとか、距離の詰め方もそうです。決めつけないでやっていくっていうことが大事なことですし、そういう関わり合いをしていると、この人に話しても大丈夫かなと思ってもらえるのかなという気がしたりします。

 そういう活動を続けてくださっている運営のスタッフもそうですし、今日のこの会議を作ってくださることも、出会いを作ってくださった警察庁も含め、たくさんのスタッフの方たちにありがたいなというふうに思っております。

 それでは、パネルディスカッションの最後の方になって来ましたので、様々な方面から潜在化して見えにくいこどもの被害であったりとか、支援が届きにくい被害であったりということを、今日は多方面から議論をしていただきましたので、感想のコメントを1人ずつお話を伺っていきたいと思います。安永さんいかがでしたでしょうか?

(安永) 今日は貴重な機会をいただきありがとうございました。お二人のお話も聞けて、大変胸に刺さるというか心に響きました。私はこれからも、まだ声を上げられていないこどもたちと出会います。今日拝聴させていただいたお話というのは、新たなこどもたちとの出会いにきっと活かせると思います。最後に改めて一言だけ言わせていただきたいことは、こどもたちの心の声は見えません。耳では聞こえない、ということを大人に知っていただいて、やはり、身近な大人がこどもの心をきちんと揺さぶってあげて、こどもが話せるような、そういう機会というのを作ってあげていただきたいと思います。そして私たちが、そういう見えない、聞こえないこどもの心の声をキャッチできるような感性を、日々磨いていきたいなと思っています。一人でも多くのこどもたちが、声を上げられるように、そして、必要な支援をきちんと受けられるような、そういう社会を作っていきたいなと思っています。ありがとうございました。

(藤森) それでは小木曽さんお願いいたします。

(小木曽) お二人の講演を聞かせていただいて、思い出したことがあります。よく相手の気持ちを想像して、とか、相手の気持ちになって、ということを言う場面が多いと思うのですけれど、私は、人間は相手の気持ちがわからないと思っています。相手の気持ちを読み取る能力を持ってないから、すごく一生懸命想像しなければいけないし、わかる努力をすごくしないといけないと思います。SNSの攻撃的な書き込みなど、犯罪被害に遭ったこどもに対して、大人が「我々はどう接していくべきなのか。」というときに忘れてはいけないこととして、「わかった気になったらおしまいだ。」と思っています。人間は相手の気持ちが絶対わからないから、ずっと考え続けなければいけないのだなというのを、改めて思いながらお話を聞かせていただきました。

(藤森) ありがとうございました。栗原さん、基調講演も長い時間お話していただいて、このパネルディスカッションにもお付き合いいただいて、大変お疲れのところ申し訳ないのですがコメントをいただけたら幸いです。一二三さんお願いいたします。

(栗原一二三) 今日は基調講演に続きまして、パネリストということで参加させていただきまして、本当に貴重な時間をありがとうございます。正直言って安永さん、小木曽さんのいろんなお話を聞いて、本当に救ってやろうというすごいエネルギーを感じて頼もしく思ったところです。こういう方が何人もいれば、犯罪被害者は救われる、そんな世の中が来るのかなと。そういった部分では、いろんな連携でしたり、まだまだ工夫をしなければいけないところはあるかと思ますけれども、どうしても被害者が日々出てしまうこの現実。基調講演に戻りますけども、加害者も被害者もない、そんな世の中。本当に1日も早く実現するように、本当にそういう思いを強くした一日でした。本当に皆様、どうもありがとうございます。

(藤森) それでは穂瑞さんもいかがでしょうか。

(栗原穂瑞) ありがとうございました。本当にSNSには縁遠い生活をしているので、とてもびっくりする現実が私の知らないところでもあるのだというのはすごく感じました。私が何かできるかと言ったら、恐らくないと思うのですけれども、本当に誰もが安心して暮らせるそんな世の中、みんなでそういう世の中を作り上げていきたいなと思いました。ありがとうございました。

(藤森) ありがとうございました。本当に被害の種類というのは多種多様で、小さなお子さんからも高齢者に至るまで、いろんな被害があるというところですよね。

 今日、栗原さんのご兄妹のお話を伺いながら、回復途上なのだな、まだまだ先は長いんだな、ということを改めて感じさせられました。どの被害者に対しても私はよく被害者支援をしていて、この傷は消えません、なくなりませんというふうに申し上げます。傷は残ります。でも、いかにその傷を、心理的な傷を小さく浅くしていくかというのは、心を大きくしていって、全体の中で傷を小さくしていくしかないのです。心を大きくするにはその人の、回復力もあるけれども、周りの温かい支援や適切な治療、サポートが必要になってくるのだというふうに感じています。私たちのこういう活動を現場で支えてくださっているプロフェッショナルなお二人の方から、今日はご意見を頂戴して、発信することができたのはとても力になりましたし、本当に栗原さんのお話は身につまされるというか、どんなに大変だったのかなど、どんなに愛おしいお母さんだったのかということを想像させてくれるお話だったというふうに思いました。

 私たちは本当に人と人との繋がりの中で、被害者の心の傷を支えていくしかないと思いますので、今後、このパネルディスカッション並びに冒頭の基調講演が皆さんのお役に立てることをお祈りしております。どうも本日はありがとうございました。

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