新潟大会:パネルディスカッション

「社会全体で支える犯罪被害者等支援~私たちにできること~」

コーディネーター:
丹羽 正夫(新潟大学法学部教授、新潟県被害者支援連絡協議会顧問)

パネリスト:
中曽根 えり子(基調講演者)
大花 真人(弁護士、新潟県弁護士会犯罪被害者支援対策委員会委員長)
伊勢 みずほ(フリーアナウンサー)
白沢 知美(新潟県県民生活・環境部県民生活課消費とくらしの安全室長)

(丹羽) 皆さん、こんにちは。これからパネルディスカッションを始めたいと存じます。私は、本日のコーディネーターを務めます新潟大学の丹羽と申します。私の専門は刑事法学で、被害者支援には研究者の立場から様々な形で関わっております。

 最初に、議題の1つ目といたしまして、パネリストの皆様から、「いま、被害者支援に何が求められているか」というテーマについて、自己紹介も兼ねてお話しいただければと存じます。初めに、中曽根さんからお願いいたします。

【議題1 いま、被害者支援に何が求められているか】

(中曽根) 中曽根と申します。私の活動しております「にいがた被害者支援センター」は、犯罪や交通事件等の被害者及びその御家族や御遺族に対する支援を行う民間の被害者支援団体です。全国では42番目とスタートは遅かったのですけれども、平成18年6月から活動を開始し、平成21年には公益社団法人、平成23年には公安委員会指定の犯罪被害者等早期援助団体となりました。また、平成28年12月からは県の委託を受けまして、「性暴力被害者支援センターにいがた」として、性暴力・性被害者の方のためのワンストップ支援事業も行っています。もちろん、秘密は固く守られ、相談支援は無料です。

 活動内容といたしましては、まずは「電話相談」です。

 電話相談は当センターの開設時間はもちろんのこと、「全国共通ナビダイヤル」にかけていただきますと、朝7時半から夜10時まで相談を受けております。また、「性暴力被害者支援センターにいがた」は、24時間、365日、相談を受けております。

 「面接相談」は、原則、当センターの開設時間内ではありますが、被害者の方の御都合によっては時間外の面接も行っております。また、地元の警察署、行政の相談室をお借りしたり、御自宅に伺って面接をさせていただくこともあります。

 「直接的支援」と申しますのは、裁判傍聴に付き添わせていただいたり、代理で傍聴したり、病院や弁護士事務所等に付き添わせていただいたり、短期の生活支援をしたりすることを言います。県の委託を受けたことによりまして、性暴力・性犯罪被害に遭われた方の72時間以内の緊急避妊対応時の付き添い等も行っております。

 また、「自助グループ」は、現在は交通事故被害者遺族のグループですが、2カ月に1回、日曜日に活動を行っております。

 令和2年度の支援活動実績は、電話相談1,035件、面接相談59件、直接的支援122件となりました。

 被害状況の内訳としましては、グラフを見ていただきますとお分かりのとおり、性被害・性暴力が38%と最も多く、それから交通事故・交通犯罪の30%と続きます。

 また、直接的支援の具体的内容は、弁護士相談への付き添い支援等が最も多く、その次に裁判関連支援が多くなっています。

 被害者の方に情報提供し、被害者の方の意思決定に基づき、専門家の方々につなげていくコーディネーター的な役割と、中長期的な支援が行えることも当センターの役割と言えると思うのですが、当然、関連機関との連携が被害者支援にとっては不可欠となります。

 当センターは平成23年1月に弁護士会、同年12月には臨床心理士会と協定を結んでいます。その後、平成28年3月に産婦人科医会と協定を結び、現在、57病院が協力してくださっています。

 その他、犯罪被害者支援室を含む警察の方との連携はもちろんのこと、検察庁、裁判所の職員の方々等、各関係機関との連携はスムーズにできてきているように感じます。

 また、今年度、県において、犯罪被害者支援に特化した条例が施行されたことによりまして、「新潟県犯罪被害者等支援調整会議」を設置していただき、県と県警と当センターの一層の連携が図られてきています。

 広報・啓発活動につきましては、今までにもいろいろ行ってきましたが、それでも被害者支援活動が認知されているとは、まだまだ言い難いと思います。

 毎年、「犯罪被害者週間」のころに合わせまして、「犯罪被害者支援フォーラム」を県・県警との共催で開催したり、御遺族の方の手記集を発行したりしています。また、各種イベント・会議等に行ったり、街頭キャンペーンをしたり、チラシやリーフレットを配り、県民の皆様に民間の犯罪被害者支援団体の存在を知ってもらい、広く理解を求めています。以上です。

(丹羽) ありがとうございました。センターの活動も含めまして被害者支援というものが、まだ世の中にあまり知られていない、といったことをお話しいただけたかと存じます。

 続きまして、弁護士の御立場から大花先生、よろしくお願いいたします。

(大花) 弁護士の大花です。よろしくお願いします。

 私は、新潟県弁護士会で犯罪被害者の方の支援をしております弁護士が集まっている「犯罪被害者支援対策委員会」の委員長をしております。

 私の犯罪被害者の方達との関わりについて、お話しさせていただきます。

 私は社会人としての振り出しが取材記者でした。なかでも、事件取材で犯罪被害に遭った方のお話を聞く機会がありまして、それが被害者の方と関わる、一番最初のことでした。その後、司法試験に合格した後は、まず検事に任官しました。検事に任官し、ここで初めて犯罪被害者の方と本格的に関わるようになりました。

 検事というのは、皆さん、ちょっと、なかなかなじみはないかもしれませんけれども、警察と一緒に捜査をして、刑事裁判を行うという役目をしているのが検察官になります。そういった検事として仕事をしていく中で、捜査の一環として犯罪被害者の方の話を聞いたりだとか、あるいは刑事裁判の場に被害者の方に出ていただいて、そこで被害者の方のお気持ちだとか、やり切れない思いといったものに接する機会が多くありました。そして、検事のときには、加害者に適正な刑罰を課すということで、それがひいては被害者支援につながるんじゃないか、という気持ちで活動していたということでございます。

 そして現在、弁護士として活動して被害者支援を行っているわけですけれども、まず弁護士としては、犯罪被害に遭った方の相談に乗るというのが入り口になります。そこで法律を使って、今後どういう流れになるのか、どういうお手伝いができるのか、ということを説明させていただいて、場合によっては、被害者の方の代理人として活動を行います。犯罪被害の回復のために加害者に対して損害賠償請求をしたり、あるいは刑事事件、刑事裁判に被害者の方と一緒に出席して、被害者のお気持ちを伝えるというような制度ができましたので、どういったことを伝えるのかということを打ち合わせ等したりして、支援をしていくということをしております。

 支援活動を通じて、「今後、何が求められているのか」日々考えているかというと、まだ十分な支援が被害者の方に届いていない、ということを考えております。そして、今後、より良い支援にするために、一般の力をぜひお貸しいただきたい、ということを考えています。というのも、我々専門家というのは、私は弁護士ですけれども、法律の分野でしか被害者の方と関わることがありません。ただ、もちろん、必要な支援というのはそういった特定な分野だけで足りるものではない、ということです。なので、専門家が関与できる部分だけではなくて、一般の方の力が必要となってくるというふうに考えております。

 そして、その上で皆様に御協力いただくためには、まず皆様に犯罪被害者という御立場の方が近くにいらっしゃるということを知っていただきたい、と考えています。そして、被害者の方の実情を、 どういったことがお困りなのかとか、どういう支援が必要なのかということをしっかりと理解して いただいて、被害者支援にお力を添えていただけると非常にありがたいというふうに考えております。以上です。

(丹羽) はい、ありがとうございました。被害者支援の必要性というものが、やはりまだ世の中に 十分知られていない、ということをお話しいただけたかと思います。

 続きまして、行政の立場から白沢さん、お願いいたします。

(白沢) 新潟県県民生活課消費とくらしの安全室の白沢と申します。

 私どもの室では、犯罪被害者支援をはじめといたしまして、地域防犯の推進や消費者被害の防止など、くらしの安全・安心に関わる業務を担当しております。犯罪被害者支援につきましては、条例制定に向けた検討段階から携わらせていただきました。

 本日は、県の取組状況につきまして行政の立場からお話しさせていただければと思います。

 まず、支援の必要性、条例制定の背景といたしまして、こちらのスライドを御覧ください。

 これまでのお話にもございましたとおり、犯罪被害に遭われた方は、「直接的な被害」だけでなく、「心ない言動や過剰な報道」「精神的・身体的な不調」「経済的な困窮」、さらには、「捜査や裁判への対応」や「再被害への不安・恐怖」など、様々な「二次的被害」に苦しんでおられます。

 全国的に凶悪犯罪、痛ましい事件が発生し、本県におきましても犯罪被害者支援の重要性がますます高まる中、県では昨年12月に「新潟県犯罪被害者等支援条例」を制定し、今年度より施行いたしました。

 詳しくは、条例制定のパンフレットを御覧ください。なお、本日の映写スライド一覧も同封いたしておりますので、併せて御参照いただければと思います。

 こちらのパンフレットにございますとおり、条例では、犯罪被害に遭われた方々の置かれている状況を理解し、寄り添い、地域全体で支えていく、このための基本となる考え方や支援体制をはじめといたしまして、第2章では12の基本的な支援施策を定めたところでございます。

 また、この条例に基づきまして、今年7月に「推進計画」を策定いたしました。

 こちらのスクリーンを御覧ください。

 この計画では、4つの「施策の柱」ごとに、12の「基本的施策」を体系的に位置付けまして、県が行う105の支援事業を具体的に記載いたしております。この計画の策定により、様々な分野に及ぶ支援施策をより総合的・計画的に推進していくこととしております。

 こうした中、今後、求められることといたしましては、まずは、この計画に定められた様々な支援施策をいかに利用していただけるか、ということが重要になるものと考えております。

 こちらのスライドを御覧ください。

 これは上智大学の伊藤先生による調査結果ですが、被害に遭われた全ての方々が「精神的な不調」に陥り、8割近い方々が「手続が分からない」「情報がない」といったことに困難を感じていらっしゃいます。さらに、被害に遭われた方の声といたしまして、「生活が一変してしまう」「日常生活が破壊され、何もできなくなってしまった」「生活支援が必要」「情報が不足している」といったお声もいただいたところでございます。

 また、このような極めて困難な状況におられる被害者の方々に対する、近年のSNS等による誹謗中傷や一部の報道による過剰な取材等、これらは支援の理解や認識が十分ではないことが背景にあるものと考えられます。こうしたことから、今後は支援内容を知っていただくということ、また県民全体が被害者の困難な状況について理解を深めるという、この2点が重要になってくるものと考えております。以上です。

(丹羽) はい、ありがとうございました。

 続きまして、一般市民の御立場からの御発言を、伊勢さん、よろしくお願いいたします。

(伊勢) 皆さん、こんにちは。フリーアナウンサーの伊勢みずほと申します。

 私は、宮城県から新潟に来まして20年間、放送のお仕事に携わってまいりました。今担当している番組は、「水曜見ナイト」という番組です。

 今日は、こちらにいらっしゃる全ての皆様に、ぜひ知っておいていただきたいプロジェクトを御紹介させてください。

 今、映し出されています、この大きな画面、すごく可愛らしいイラストもあるのですが、「The same boat project」、みんな同じ船の上に乗っているんだよ、 運命共同体なんだよ、という思いを込めたプロジェクトです。

 話すことは、あなたの悩みを手放すこと、「話すことは放すこと」という企画ですね。

 これは今年、「新潟いのちの電話」さんの主催で立ち上げられた企画です。

 最近もテレビやラジオ等でコマーシャルも打っていますので、もしかしたら「話すことは放すこと」、御覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれません。どんなプロジェクトなのかと言いますと、皆さんに覚えておいていただきたいのは、ある1つのホームページが立ち上がったということです。

 これ、どんなホームページかと言いますと、私のメッセージも3分の動画でそのサイトの中に入っているので、もしお時間がありましたら、お家に帰られて見ていただけるとありがたいと思うのですけれども、そうですね、「話すことは放すこと 新潟」で検索していただくと出てまいります。

 これは、悩み別に相談できる窓口がバーッと90カ所くらい、ワンストップで調べることができる、知ることができるホームページになっています。

 例えば、家族の悩み、子育ての悩み、病気の悩み、心の悩み、お友達関係、学校のこと、経済のこと。本当に多岐にわたるいろいろなお悩みがあると思うのですが、迷ったとき、困ったときに、どこに相談したらいいか、というのをぜひここを覗いて発見していただければなと思っています。

 地域別にもあるのですけれども、悩み別にも載っていますので、とても見やすいサイトになっています。これは今年、新潟発で立ち上がりました。ぜひ覗いてみてください。

 困った方を応援したいという点では、この「The same boat project」も犯罪被害者支援と共通しているところがあって、世の中にはこういう活動があるのだ、助けたいと思っている人がたくさんいるんだ、ということを知ってもらうことが大切であり、課題であると思っています。

 今回のパネルディスカッションでは、一般市民として知りたいことや素朴な疑問等を中心にお話しさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

(丹羽) はい、皆さん、ありがとうございました。

 以上のパネリストの皆様のお話をまとめますと、2つの問題点が浮かび上がってくるように思われます。まず1点目としまして、被害者支援というものが、そもそも「知られていない」ということ。

 そして2点目としまして、犯罪の被害に遭うということは、一般市民の方にとって「人ごと」に感じられてしまい、被害者支援についての「理解が進まない」ため、支援の輪がなかなか広がらない、という点です。

【議題2 社会全体で被害者支援の理解を深めるためには】

(丹羽) そうしますと、課題となってきますのは2つございますが、1点目として、被害者支援というものを「知らせる」こと、そして2点目として、被害者支援に関する「県民の皆様の理解」という2つの点だと考えられます。

 そこで、次に2番目の議題「社会全体で被害者支援の理解を深めるためには」といたしまして、被害者支援を「知らせる」、そして「県民の理解」という2点について、議論を進めたていきたいと存じます。

 課題の1つ目は、被害者支援を「知らせる」というものです。犯罪被害者が必要な支援を受けられるよう、世の中には支援を必要としている被害者がいて、支援してくれる人や団体も存在するのだ、ということを一般市民の方にどう知っていただくか、これが課題となります。

 課題の2つ目は、「県民の理解」です。犯罪被害者支援について、県民の皆様の理解をどう深めるか、また、より多くの県民が支援の必要性を理解し、県全体に支援の輪が広がるようどうすればよいか、これが課題となります。

< 課題1「知らせる」 >

(丹羽) 最初は1点目の「知らせる」という問題から考えたいと思います。

 先ほどパネリストの皆様は、世の中には犯罪被害者支援というものがあることが知られていない、と共通してお話しされていましたが、伊勢さん、これまで一市民として犯罪被害者支援というものに触れたり、あるいは自分達が犯罪の被害に遭うかもしれない、といったことを考えたりしたことはおありですか。

(伊勢) そうですね、今、本当に物騒な世の中になっていると思うので、もしかしたら自分も犯罪に巻き込まれることはあるかもしれないな、というのは漠然と感じてはいるのですけれども、この犯罪被害者支援というものに私が直接関わらせていただいたのは、実は今回が初めてでした。

(丹羽) これまであまり触れる機会がなかった、というお返事でしたけれども、それはどうしてでしょう。

(伊勢) やっぱり、今まで40年以上生きていて、自分の身近にそういうことが起きてこなかったということで、まだまだ、どこか自分事ではなく、ちょっと離れたところの出来事という意識があるのかなと思います。

(丹羽) はい、ありがとうございます。犯罪の被害に遭うというのは、やはり身近な出来事ではない、特別な世界のことだ、といったことですね。

 そうしますと、最初に考えてみたい問題としまして、犯罪被害者というのは特別な人なのだろうか、という点が出てくると思いますが、実際に御遺族の立場でもある中曽根さんはどうお考えですか。

~ 「犯罪被害者」は特別な人か ~

(中曽根) はい、私も自分が被害に遭う前は、正直言って他人事といいますか、自分の周りにも誰もいない、あるいは知らなかったのかもしれないのですけれど、テレビのニュースを見たりしながら、 なんていうか、別世界の出来事のように、ほんとにお気の毒ね、みたいな感じでテレビを見ていて、 その被害に遭われた方のその後の生き方、その後の生活について想像したことはちょっとありませんでした。でも、自分が被害に遭ってみて、被害者は決して特別な人達ではなく、被害に遭う直前まで、普通に生活をしていた人間だということです。

(丹羽) はい、ありがとうございました。同じ点について、日ごろから被害者支援に携わっていらっしゃる弁護士の大花先生はいかがでしょう。

(大花) 犯罪被害者の中では、何も落ち度がないのに不幸にして被害に遭われるという方が多くいらっしゃいます。被害に遭うということは、何も前触れがなく、突然、急に起こってしまう、被害に遭ってしまうというものです。

 例えば、自宅で寝ていたところ、急に犯人が自宅に入ってきて暴力を振るわれる、といった被害に遭うというようなケースがあります。全く、落ち度、ないですね。寝ているだけ。それなのに被害に遭ってしまうというようなケースもあります。なので、犯罪被害に遭うということは、特別なこと、特別な人が遭う、ということではありません。誰もが犯罪被害者という立場になり得るというふうに考えております。

 被害者の問題は、何か自分から遠いことのように思われることが多いかもしれませんけれども、遠い世界で起こっていることでは実はないのですね。誰もがなり得るということで考えますと、まさに自分のこと、将来の自分のことと言えると思います。

(丹羽) はい、ありがとうございました。

 お二人のご意見をまとめますと、最初の「犯罪被害者は特別な人か」という問題の答えは、決してそうではない、ある日突然、誰もが被害者になるかもしれない、ということですね。この点を世の中の人に知らせるということが重要だと言えるように思います。

 そうしたときに、犯罪被害は自分とは無縁な別世界の出来事だと思っていますと、日ごろから心の準備もできませんので、いざ自分が被害に遭ったときにどうすればよいか、また、今後自分にはどんな援助が必要なのか、といったことも分からなくなってしまいます。

~ 犯罪被害に遭うとどのような状態になり、どのような支援が必要となるのか ~

(丹羽) では、実際に犯罪の被害に遭うと、どうなってしまうのでしょうか。

 ここからは2番目の話題として、「犯罪の被害に遭うとどのような状態になり、どのような支援が必要となるのか」ということを見ていきたいと存じます。

 ここでもう一度、先ほどの白沢さんのスライドの4番目を御覧いただけますでしょうか。

 はい、こちらです。こちらに出ておりますけれども、「精神的な不調」から始まり、「情報がない」「手続が分からない」。右側も、「生活が一変して真っ暗な荒れ狂う海に突然放り込まれる」「何もできなくなる」といったことが書かれております。

 一言で言うと、「どうしたら良いか分からない。途方に暮れてしまう」ということがお分かりいただけるかと思います。

(丹羽) ここで再び、伊勢さんに一般市民の視点でお答えいただければと思うのですが、御自分が実際に犯罪の被害に遭った場合、どのようなことに困ったり、どのような援助が必要になったりすると思われますか。

(伊勢) そうですね。先ほどの中曽根さんの御講演を拝聴して、現実的にそういうことを直接聞いたのは初めてだったのですけれども、本当にお話を聞かせていただけてありがたかったなと思っております。

 やっぱり何よりも、もし私が犯罪に巻き込まれたときに、精神的ショックを受けるのは間違いないので、メンタルのケアももちろんしてもらえたらなと思うでしょうし、あとは経済的な支援とか、また、今この時代ですと、ほんとにあることないこと書き込まれてしまうネット上、SNS上等からも守ってもらいたいなと思うと思います。

(丹羽) 伊勢さん、ありがとうございます。

 ただいまの点ですが、弁護士の大花先生、実際に被害者の方々と接していていかがでしょうか。

(大花) 実際に被害者の方と接していて思うのは、その被害者の方によって必要とされる支援、これは全く異なるということが言えると思います。これをやっておけば正解だ、ということはないということです。というのも、被害者の方は千差万別です。どのような被害に遭ったのか、というのもそれぞれ異なりますし、その被害者の方が置かれている状況、これについても全く異なります。近くに手伝ってくれる家族がいらっしゃる方、いらっしゃらない方、いろいろいらっしゃると思います。

 なので、そういった点を踏まえると、何が正解でどういう支援が必要か、というのも千差万別だということが言えると思います。例えば、犯罪被害に遭って、警察の捜査が始まるわけですけれども、長期間、その捜査に協力しなければいけないというようなケースを想像してみてください。ここで手のかかる小さいお子さんがその被害者の方にいらっしゃる場合、例えば身近に協力してくれるようなおじいちゃん、おばあちゃんがいらっしゃるというような状況と、そういった方がいらっしゃらないというのでは全く違うというふうに考えております。もし、そういった場合で手伝ってくれる方がいらっしゃらないというようなケースでは、場合によってはヘルパーさんを頼んだりといったニーズがあって、そういった支援が必要になるということになります。

 ですから、これをやっておけばこういったことが必要になってくる、というようなパターン化されたものはないと考えております。このため、そうですね、社会全体がそれぞれの持ち場でできることをやっていく。その方がどういう支援が必要なのかというのを考えて、その人に寄り添って、その方が本当に必要な支援をやっていく、というふうにしなければいけないのかなと思っています。

 弁護士の私からは以上ですけれども、この点について、被害者支援センターの立場から中曽根さんはいかがお考えでしょうか。

(中曽根) そうですね、先生がおっしゃったように、被害の状況によって、また、家庭環境、性別、年齢、被害前からの心身の状況もありますので、被害が及ぼす状況はそれぞれ異なり、支援ニーズもその方の状況によって違ってきます。

 突然の理不尽な被害に遭うことによって、現実を受け入れられないままに事情聴取を受けることになったり、マスコミ対応もしなければならなくなったり、怪我をすれば治療、性犯罪被害者の方ですと妊娠、性感染症の心配とかもありますので、そういう検査の必要も出てきます。

 裁判になれば、傍聴したり、証人になったり、意見陳述をしたり、出廷しなければならない。そういう中で、やっぱり専門家の方とか、それから周りの方から二次的な被害、心ない言葉を受けてしまう こともあります。

 心身の状態があまりよくないという状況が続いたり、それから 不登校気味、職場に行けなくなってしまうというようなこととか、被害現場が自宅だったりすれば引っ越しをしなければならなくなったりします。

 センターでは、そのように被害に遭われた方、大変困っておられる方達に対しまして、先ほど早期援助団体ということもお話ししましたが、被害者、御家族、御遺族の同意を得て、事件直後、警察がセンターへその方の情報を提供することができますので、それによって当センターから連絡をとらせていただいて、アウトリーチの形ですが、支援を開始するという形もとらせていただいております。一方、電話相談をいただいたり、他機関からの紹介等で被害者の方から連絡をいただくということもあるわけですけれど、支援の必要性を感じた場合、センターでは面接を促します。

 当然ですが、センターが信頼していただけるように、センターの役割、守秘義務等、守られていることをお伝えし、お話をじっくりとお聞きいたしまして、その方のニーズを理解し、センターとして情報提供し、被害者の方の意思決定を確認しながら支援を進めていく、そういう形をとっています。

(伊勢) お話をもうちょっとお伺いしたいのですけれども、皆さんにお尋ねしたいのですが、そうしたいろいろな困り事に対して、実際には具体的にどのような支援を受けることができるのでしょうか。それっていうのは、お金はかからないのでしょうか、無償で受けられる体制があるのでしょうか。

~ 実際にどのような支援を受けることができるのか ~

(中曽根) はい。センターの相談支援は無料ですね。いろいろな、県や県警察からの委託とか寄附などによって賄っています。

 今、漠然と言ったのですけれど、刑事的な支援と言いまして、隣に大花先生がいらっしゃいますけれども、弁護士会からの弁護士紹介を含め、計3回までセンターでの弁護士相談を無料でできるとか、臨床心理士の先生から心理相談を3回まで無料で行う、ということもやっております。

 それから、弁護士事務所に付き添わせていただくとか、検察に付き添わせていただく、それから裁判になったら裁判所の職員の方、検察の方、それから弁護士さんをつけておられれば弁護士の先生と一緒に連携をしながら裁判支援を行ったりいたします。例えば、代理傍聴と言いまして、性犯罪被害の方で「同じ空気を吸いたくない。加害者の顔も見たくない」という場合は、代理傍聴等をさせていただいたりということもしています。

(伊勢) 細やかに支援していただけるんですね。

(中曽根) はい。また、経済的な支援といいますと、センター独自なのですが、遠方からセンターに面接に来ていただく際など交通費がかかる場合の交通費の支給制度がありましたり、各県の支援センターが加盟しております「全国被害者支援ネットワーク」という団体がありますが、そちらで、緊急支援金という、犯罪被害に遭ったことにより生活が困窮された方に対して支給する制度などもあります。

(伊勢) ありがとうございます。

(中曽根) 私からは以上ですけれども、県ではこのたび支援条例が制定されて、本格的な支援が始まっているのですけれど、白沢さん、県による支援の内容はどのようになっていますか。

(白沢) はい。県の支援内容についてですが、先ほど御紹介しましたこの「推進計画」、ここに100を超える具体的な支援事業を掲載しております。

 この中には、警察による「被害者支援センターの相談業務の委託」、県では「性暴力被害者支援センターの相談業務の委託」、これらを大きな柱としているところでありますけれども、個別の支援施策といたしましては、例えば、被害に遭った方々の「医療費の公費負担」ですとか、「専門のカウンセラーによる心のケア」。経済的支援といたしましては、「高等学校等の授業料の減免」や「一人親家庭への手当や貸付」、仕事ができなくなった方へは「就労相談や職業訓練」、再被害の危険がある方には「一時避難所の確保」、引っ越しを余儀なくされた方には「県営住宅の優先入居」など、こういったものは、犯罪被害者に特化したものだけではなく、利用可能な施策も含まれておりますが、大変幅広い内容となっております。

 併せまして、こうした事業を推進する体制といたしまして、御覧のとおり、様々な団体と連携した取組を推進いたしております。

 具体的には、民間支援団体、弁護士会、医師会、臨床心理士会等の関係団体をはじめ、国・市町村と連携を強化しているところでございます。

 また、県と県警察では、今年度から新たに、関係する30の所属からなる「庁内推進会議」を設置いたしました。併せまして、先ほど、中曽根さんからも御紹介いただきましたが、にいがた被害者支援センターと県と県警察の三者による「調整会議」も立ち上げ、広範・多岐にわたる犯罪被害者の方々のニーズへの対応に努めております。

 最後になりますが、県では、最も身近な行政窓口であります市町村の取組の促進にも努めているところでございます。

 具体的には、1点目として、「総合的対応窓口」というのが全市町村に設置されておりますが、犯罪被害で生じた生活上の困り事に対する総合的な対応窓口の周知に努めております。

 また、2点目といたしましては、このほど県で制定しました「犯罪被害者等支援に特化した条例」を市町村でも制定していただけるよう、促進いたしております。

 やはり、条例というのは、行政において施策推進の根拠となるものでございます。また、地域住民に対する力強いメッセージとなるものであり、総合的・計画的な取組の推進にもつながりますことから、市町村の皆様に対しまして、条例制定に向けて必要となる情報の提供や働きかけなどを行っているところです。

 3点目といたしまして、「見舞金支給補助事業」を新たに開始いたしました。これは御遺族や重傷病を負った方へ市町村が支給した見舞金に対して、県がその一部を補助するというものです。県の条例が施行された4月の段階で、新潟県ではまだこの見舞金事業を実施している市町村がどこにもありませんでしたので、県がその費用の一部を補助することにより、市町村の取組を後押しすることとしたものです。このように、様々な形で市町村への支援・協力に努めているところでございます。

 県における具体的な取組状況は以上ですが、大花先生、弁護士のお立場からの御支援の状況というのはいかがでしょうか。

(大花) はい。弁護士は法律の専門家ですので、法律を使って被害者の方の支援を行っていくということになります。

 刑事事件と民事事件、皆さん、御存知でしょうか。聞いたことはあるかと思います。ものすごく簡単に言いますと、「刑事事件」というのは、犯人にどういった刑罰を科すか、という手続です。一方で、「民事事件」は、被害回復のために損害賠償請求、お金の請求をする、というのが  主な手続というふうにざっくりと理解していただければ結構です。この刑事・民事の両面で法的な支援をしていくということになります。

 通常、弁護士に支援を要請される場合の流れというのは、大体、次のとおりになっております。まず、被害者の法律相談に乗らせていただきます。通常、被害者の方というのは、もう何が何だか分からないという状態で来られる方が多いです。それこそ、さっき説明した刑事事件、民事事件も分からない、その状態からスタートです。

 ですから、まず弁護士としては、今後、刑事事件がこういうふうに進むんですよ、というような説明をさせていただいて、併せて、今回の事件ではこういった結論になる可能性が高いですよ、というような見通しを話させていただくことになります。そして、民事の面ではこういった損害賠償請求がこういった手段でできるので、こういった被害回復手段がとれる可能性がある、というような説明をさせていただくことが多いです。

 そして、行ったり来たりで申し訳ないのですけれども、刑事事件では、最近、被害者参加という制度ができました。刑事事件に犯罪被害者の方が参加して、被害者の方がその犯人の刑罰、どういうふうな刑罰にすべきか、というような意見を言えるという制度がありますので、そういった場に私も一緒に参加し、こういった意見を言うというような内容の打ち合わせをして、裁判に臨んだりすることもあります。

 また、被害直後なのですけれども、いわゆる「メディアスクラム」というのを御存知でしょうか。 被害直後に被害者の方の御自宅などにメディアの記者の方等が駆けつけて、そこから生中継をするような状況が今の時代でもあります。そういった場合、弁護士としては被害者の方の代理人となって、そういう報道機関との間の対応窓口として、「被害者の方の代理人に弁護士がなったので、被害者の方に直接連絡をせず、全て弁護士を通すように」というようなことを要請して、対応窓口として活動するといったこともあります。

 このように、弁護士の法的支援は、被害が発生した後から、民事事件が終了して損害賠償請求の賠償金を受け取るまでの一時期なものに限られるのが通常です。

 そして、伊勢さんがおっしゃっていた有償か無償かというところですけれども、基本的には、弁護士は個人事業主なので有償になります。ただ、様々な制度を使って無償で対応させていただくことも多くあります。例えば、新潟県弁護士会では、犯罪被害者の方の法律相談は必ず1回は無料、ただで相談に乗るということをさせていただいております。公的な制度を使ったり、弁護士会の基金を使って対応させていただいているところです。なので、仮に、費用面が不安だということで法律相談をためらっているような方がいらっしゃいましたら、そういった無償で行うという制度がありますので、気軽にというか、ためらわずに相談していただければと思います。以上です。

(丹羽) 皆さん、どうもありがとうございました。

 そうしますと、課題1として、今、バックにも写っております、この「知らせる」という点についてまとめますと、実際に支援を必要としている被害者の方がいて、支援もいろいろ提供されているのに、それが必ずしも一般市民の方に知られていない、という現状が浮き彫りになったかと思います。

~ 「知らせる」ための広報の強化 ~

(丹羽) この現状を打開するには、広報をより強化して、必要な情報を広く知らせることが何より重要だと思いますが、一般の方に広くアピールすることは容易なことではない面もあるかと思います。

 この点につきまして、例えば、伊勢さんは御自身が関わっていらっしゃいます、「The same boat project」の活動等で、広報の重要性や難しさといった点は、どのように感じていらっしゃいますか。

(伊勢) そうですね。本当に、いつ誰が当事者になるか分からない。これを言い換えると、明日、自分が、または最愛の人が当事者になるかもしれない。だからこそ、こういう助けてくれる機関があること、応援してくれる人達が、全力で助けようとしてくださる方が、身近に新潟にもいらっしゃるんだ、ということを知っているのと知らないのとでは、そのときの自分自身や最愛の人を助けてあげられるかどうか、また、その後の人生、立ち直っていけるのかどうかという上で、知っているか知らないのかということが、大きな分かれ道にもなるんじゃないかなと感じています。

 ですので、今、「The same boat project」というのは、ぜひ多くの方に知ってもらいたいなということで、テレビやラジオ、新聞等で、みんなで必死になってPRをしているところです。できれば、新潟県中の小・中・高校、大学等のホームページにもバナーを貼ってもらいたいな、とか、いろいろな企業さんも、うちのホームページにバナー貼ってもいいよと言ってくださる方がいらっしゃったら、どんどん広めていけるといいんじゃないかなと思っています。とにかく「必要な方に、必要なタイミングで、その情報が届く」ということがいかに大切か、ということを感じています。

 でも、やっぱり難しさとしては、どうしても自分事になってからじゃないと踏み込む人というのは少ないな、というのも現実的に感じています。私もがんになったのですけれども、がんのイベントを開催するんですね。例えば、ピンクリボンのイベント、乳がんのイベントですけれども、本当はまだがんになっていない人達に届けたい情報があるから開いたイベントなのですけれども、やっぱり開いてみると、皆さん、がんサバイバーの方が大勢いらっしゃっているということが非常に多いのですね。ですから、やっぱり今日この場で、私、本当にたくさんのことを学ばせていただいて、実際に自分の身には起きていないのですけれども、すごく自分に近いこととして感じることができたので、こういう機会を増やしていく、というのもすごく意義があるかなと感じました。

(丹羽) はい、ありがとうございます。

 自分の事として受け止められるには、やはり自分がその立場にならないといけない、そのためなかなか伝わらないことがある、ということですが、犯罪被害者支援の広報に関しては、皆さん、いかがでしょう。工夫されていることなどおありでしょうか。中曽根さん、いかがですか。

(中曽根) 先ほども言いましたが、紙媒体とかいろいろなことをやってきています。

 最近は、被害に遭う子供達が電話というツールをすぐに使おうと思わないでしょうから、SNSを使った広報というものをセンターとしては展開しています。令和2年8月から、ツイッターからホームページの閲覧ができるように、ツイッターによる広告配信を行いましたところ、令和2年度のホームページのトップページの閲覧回数が18万3,633 回と、前年の4万1,840 回を大きく上回り、被害者支援センターの存在をそれで知ってもらっているんじゃないかな、というふうに考えています。

 また、今年度、8月に2週間、LINEによる広告配信を実施しましたところ、10代の閲覧が一番多い結果となりまして、やはり、若年層には、紙ベースの広報より、SNSを活用した広報が効果的だったんだな、ということが分かっています。

 それから、県内の全小・中学校の児童・生徒及び先生方に向けた「性暴力被害者支援カード」を配布したり、保護者の方には性暴力被害防止のチラシを配布したりして広報活動を展開しています。

(丹羽) はい、ありがとうございます。

 では、県ではいかがでしょうか。白沢さん、お願いいたします。

(白沢) はい。新潟県では、今年度から新たに2つの事業を開始しました。

 こちらのスクリーンにございますけれども、1つ目は、「被害者支援を考える月間」です。県では、毎年11月を集中月間として、市町村の御協力のもと、パネル展を開催するなど、県内全域で重点的な広報・啓発事業を実施しております。なお、このような「月間」の創設は、全国で初めての取組ということでございます。

 2つ目は、「犯罪被害者等支援功労知事表彰」です。本日、知事より表彰状を贈呈させていただきましたとおり、長年にわたり犯罪被害者支援に御尽力いただいた御功績に対して心からの敬意を表し、支援への理解及び支援の輪が県全体に広がることを目指しております。

 このような事業を通じまして、 犯罪被害者等支援の取組を広く県民の皆様に知っていただけるよう努めているところでございます。以上です。

< 課題2「県民の理解」>

(丹羽) はい、ありがとうございました。今後も、広報のより一層の強化が必要ですね。

 次に今後の課題としての2点目、「県民の理解」という点に移りたいと存じます。

 より多くの県民の皆様が支援の必要性を理解し、新潟県全体に支援の輪を広げていくには、どのようにすれば良いでしょうか。

 まず、最初の話題として、「犯罪被害者支援というものは特別なものではなく、一般の方でもできるのだ」ということからお話ししたいと思うのですが、大花先生、それから中曽根さんの順にいかがでしょう。

~ 犯罪被害者支援は、一般の方でもできる ~

(大花) はい。まず、犯罪被害者支援というのは、一般の方でももちろんできることが多くあるというふうに考えております。

 我々弁護士の支援というのは、先ほど来、御説明させていただいていますけれども、一定の時期に限られますし、その分野も法的な支援という分野に限られます。また、医療従事者の方については、その方々が専門としている医療の分野で支援を行うというところに、基本的には限られるはずです。ただ、我々専門職が賄えない部分、これは絶対あるのですね。これについては、一般の方々でぜひ犯罪被害者の方を助けていただきたい、支援に携わっていただきたい、というふうに考えております。

 例えば、被害に遭った方は、体調を崩されて、仕事を休まざるを得なくなるといったケースが多くあると思います。そういったときに、同僚の方が快くシフトを代わってあげる、ということも立派な犯罪被害者支援なんじゃないかな、というふうに私は考えています。また、家事ができなくなるといったケースもありますので、そういったときも身近な人がサポートして、家事を代わりにやってあげたりだとか、そういったことも被害者支援になるんじゃないかな、というふうに思います。また、普段どおり接してあげるということ、そのこと自体が被害者支援になる可能性もあると思います。

 ですから、支援というのは、専門職、専門家だけができる、するものではないというふうに考えております。大切なことは、その方の立場に立って、その人のために、その人が本当に困っていること、 その手助けをしてあげるということが大事なことなんじゃないかなというふうに思います。

(中曽根) 今、私がお話ししようと思ったことを、大花先生が言ってくださいました。

 私もさっき講演でお話ししましたが、さり気ない心遣い、「おかずを多く作り過ぎたから食べてね」とか「買い物に行くついでだから、何か必要なものがあったら買ってくるけど、どう?」とか、そういう、普通に接してくださって見守っていてくださったのが、とてもありがたいと思います。

 興味本位に聞かれる、というのは切ないものなのですけれども、誠心誠意対応してくださっているというのが分かると、被害者の側も話そうという気持ちになってくるわけです。そのときに、否定したり、急にそういうことを聞いてもいいのかしら、みたいになって話題をそらすとかいうことはやめてほしい。被害者の方が話し始めたら、きちんと向き合って話を聞いてもらいたい、というふうに思います。

 それから、親である遺族は、亡くなった子供の兄弟姉妹といいますか、残された子供に対する負い目も感じています。ですので、学校の先生方には、いろいろな問題を抱えている子供達が多いとは思うのですけれども、見守る姿勢と、遺族である親が安心できるよう、学校での様子をこまめに伝えてもらう、そういうふうなことも必要になってくるのではないかと思います。

(丹羽) ありがとうございました。

 身近な支援が本当にありがたい、といったお話をしていただけたのではないかと思います。支援は誰にでもできるし、できることから手を差し伸べてほしい、ということが言えるかと思います。

~ 犯罪被害者に対する偏見をなくし、誰もが声を上げられる社会に ~

(丹羽) 次に、「県民の理解」に関する2番目の話題といたしまして、「被害者に対する偏見や誤解」といった点に触れたいと思います。

 残念なことに、現在の日本では、犯罪被害者に対する偏見や誤解といったものが根強く見られます。被害者は何の落ち度もないのに、被害に遭った側が悪い、被害に遭ったことは恥ずかしいことだから伏せておこう、といったような風潮がなくならなければ、自分が被害に遭っても安心して周りに助けを求めることができません。

 この点につきまして、皆さんはどのようにお考えでしょうか。中曽根さん、いかがですか。

(中曽根) 先生がおっしゃるように、やっぱり社会の偏見って根強く残っているように思います。

 被害者に落ち度があったから事件が起きたのではないかとか、トラブルを起こすようなことをしていたんじゃないかとか。でも、それはあくまで噂とか思い込みとか興味本位とか、自分の価値観で被害者や遺族を見てしまうということになっていないか、ということなのですね。

 また、哀れみの視線と遠巻きにされるということもありまして、被害者とか御遺族が、事件前のように周囲の人と対等に接することができなくなってしまう。そのために気持ちを押し隠して、表面的に元気なふりをしたり、あるいは人間不信や孤立感を深めていってしまう、ということも多々あると思います。

 犯罪被害に遭って、理不尽な形で自分の体を傷つけられたり、大切な家族を亡くすというダメージは想像を絶するもので、そういう意味では、これからは、学校教育とか、家庭教育とか、社会教育とか、企業内教育の場で、被害者支援の必要性を学んで浸透させていく、ということが必要なのではないかと思っています。また、その偏見とか誤解は、マスコミによっても、正直、もたらされることもありますので、表現の自由とは言え、被害者に配慮した報道をお願いしたいな、というふうに思っています。

(丹羽) もうお一人、伊勢さんはいかがでしょう。

(伊勢) 今、「マスコミによって傷つけられることがある」というお話があったのですけれども、今おっしゃられた想像を絶するつらさを、なぜマスメディアは想像できないんだろう、というのをすごく私も悔しく感じているところです。

 皆様も御覧になったことがある方がいらっしゃるかもしれませんが、先日、『空白』という映画と、『護られなかった者たちへ』という映画を立て続けに観たのですけれども、その映画の中で、犯罪被害者の方に、執拗な、本当に悪質な押しかけの取材をするマスメディアのシーンというのが、どちらの映画にも描かれていて、私はすごくショックを受けたのですね。加害者も被害者も、家の在り処がばれて、その後、嫌がらせをずっと受け続ける。絶対にあってはならないことだと思っています。

 今日、このような機会を私もいただきましたので、マスコミがみんな悪いわけではもちろんないので、心ある記者さんとか、心あるマスメディアの人間というのは大勢います。新潟の暮らし、皆さんの暮らし、生活、人生を良くしたいと思ってやっている者がほとんどではありますので、本日、こういう機会をいただいたので、心ある記者にこれを議題にして話をしてみたいなと感じました。

(丹羽) ありがとうございました。

 ぜひ、被害者に対する偏見をなくして、誰もが被害に遭ったときに声を上げられる社会になっていけばいいな、と私も心を強くいたしました。

 ~ 今後に向けて ~

(丹羽) 最後に、時間の関係で、本日の議論のまとめに入りたいと思います。

 本日の議論では、様々な問題点が浮き彫りになりましたが、改めてお一人ずつ座席順に、今後に向けてのコメントを一言ずつお願いしたいと存じます。まず、中曽根さんからお願いいたします。

(中曽根) 先ほどもお話ししましたが、被害者は、被害に遭うまで社会で普通の生活をしてきた普通の人です。事件で受けた衝撃が大きすぎて、自分で対応する力をはるかに超えているために、一時的に自分で考える力、行動する気力をなくしています。ですので、適切な時期に、適切な支援を受けることができれば、もともと持っている自分の力を回復することができていきます。

 そのためにも、県の「犯罪被害者等支援に特化した条例」に続き、全市町村にも条例ができて、地域の中で、犯罪被害者の方が当たり前に安心して暮らせるようになってほしいと考えています。

 そして、当センターは、いろいろな関係機関との顔の見える関係を築いていき、被害者の方に寄り添いながら、これからもセンターのできる支援を地道に行っていかなければならないと考えています。

(大花) 私が最後に申し上げたいのは、「一般の方ができる犯罪被害者支援というのは、たくさんある」ということを、重ねて申し上げたいと思います。犯罪被害者の問題は、いつ何時、自分の身に降りかかるかもしれない、将来の自分のことなんですね。だから、そのことについて、まさに自分のこととして考えていただいて、支援に御協力いただければ、というふうに考えております。以上です。

(伊勢) 今日はどうもありがとうございました。大花先生がおっしゃったとおり、私にもできることがあるんだ、ということを今日教わったので、そういったことをきちんと発信していきたいな、ということを改めて感じました。そして、ぜひ皆さん、「The same boat project」を心の中に留めて、必要なときに必要な方へお伝えいただいて、助けられるときがきっとあると思いますので、ぜひ広めていただければと思います。本当にどうもありがとうございました。

(白沢) 県では、特化条例を制定し、推進計画を策定し、新規事業も開始したところでございますが、今後は、こうした支援施策をいかに必要な方々へ確実に届けるか、そして、支援の輪がいかに県内全域に広がっていくか、ということがますます重要になってくるものと考えております。引き続き、被害に遭われた方々に寄り添い、様々な関係の皆様方と一層の連携・協力を図りながら、本県の犯罪被害者支援の更なる推進に努めてまいりたいと考えております。本日はありがとうございました。

(丹羽) パネリストの皆様、ありがとうございました。

 本日の議論では、「犯罪被害者支援は決して特別なことではなく、誰でも支援ができるのだ」ということをお分かりいただけたかと存じます。

 新潟県民全てが社会全体で被害者を支えていけるよう、今後も、犯罪被害者支援を推進していければと思っております。ぜひ、私達一人一人にできることを見つけ、支援を進めてまいりましょう。

 これにてパネルディスカッションを終了いたします。

 御清聴、どうもありがとうございました。

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