第3節 「テロ、ゲリラ」の根絶を目指して

1 総合的な極左対策の推進

 警察は、極左暴力集団による違法行為に対して、これまでも全力を挙げて取締りを行い、社会の秩序の維持を図ってきた。
 「70年闘争」を中心とした集団武装闘争に対しては、「第1次羽田事件」等における警察活動を通じて得られた教訓を踏まえ、集団警備力の強化や装備資機材の開発整備を進めるとともに、捜査体制の整備充実を図り、現場での検挙活動を推進した。
 また、暴走する極左暴力集団の行動に対して国民の非難の声が高まったのと呼応して、広報等による警察活動への協力確保を図り、また、出撃拠点となっていた大学の封鎖解除を進めた結果、46年ころから集団武装闘争等の街頭闘争は鎮静化していった。
 一方、共産同赤軍派や日共革命左派神奈川県委、黒ヘルグループ等の小人数のグループは、革命を目指して直接行動に走り、連続企業爆破事件等の爆弾事件や猟銃強奪事件、金融機関連続強盗事件等を引き起こした。これに対して、警察は、情報収集活動の強化や徹底した被疑者の追跡捜査活動等を推進して、これらのグループ構成員を検挙し、グループそのものを解体した。
 しかし、そのような中で、極左暴力集団各派、とりわけ中核派や革労協等既成の大セクトは、46年ころから、組織構成員の大量検挙に伴う闘争力の低下、街頭闘争の行き詰まりや社会における孤立化の中で、闘争後退への危機感や焦燥感を募らせ、内ゲバや「ゲリラ」を専門とする非公然・軍事組織作りを推し進め、集団武装闘争から「テロ、ゲリラ」へと戦術を転換していった。しかし、極左暴力集団は、54年ころから新東京国際空港開港等により闘争主眼を失い、その活動は表面的には低調に推移した。
 そして、極左暴力集団は、数年にわたる組織、体制の再編、整備等の時期を経て、59年ころから再び活発な動きを示すようになり、59年以降261件に及ぶ「テロ、ゲリラ」事件を引き起こすに至った。
 特に、「テロ、ゲリラ」の攻撃対象は、民間会社、個人宅から、鉄道施設等にまで拡大し、しかも、60年からは、再び爆弾を凶器として使用するようになったことにより、その被害は大きなものとなった。
 また、これらの「テロ、ゲリラ」が、小さな組織ではなく、闘争力量の面で格段の相違がある中核派等の大セクトにより行われるようになったこと、その専門部隊である非公然・軍事組織により、極めて厳しい防衛を行いながら計画的に行われるようになったこと、発射装置を用いて爆発物等を遠距離から攻撃対象に撃ち込むなど一層巧妙となったことなどから、警戒警備や犯人の検挙等の警察活動の面で、新たな対策を講じることが必要となった。
 このため、警察では、61年5月4日の「迎賓館に向けた爆発物発射事件」を契機に、緊急対策を講じ、極左暴力集団の非公然・軍事組織を壊滅して「テロ、ゲリラ」を根絶するため、国民及び関係機関、団体の理解と協力を呼び掛けながら、総合的な極左対策を推進している。

2 捜査活動の推進

 多発する「テロ、ゲリラ」事件に対し、警察では、聞き込み捜査、遺留品捜査等の捜査活動を徹底し、犯人の割出し、検挙を図っている。特に、最近では、広域的な同時多発事件が増加していること、凶器の製造、犯行車両の窃取等が犯行地から離れた場所において行われ、又は広域にわたって行われていることなどから、広域的な捜査活動を強化している。
〔事例1〕 「自由民主党本部火炎車放火事件」の犯人検挙
 昭和59年9月19日発生した「自由民主党本部火炎車放火事件」に対し、特別捜査本部を設置して、聞き込み捜査、遺留品捜査等を徹底し、約7箇月後の60年4月28日、中核派非公然活動家1人を逮捕した(警視庁)。
〔事例2〕 「迎賓館に向けた爆発物発射事件」の犯人検挙
 61年5月4日発生した「迎賓館に向けた爆発物発射事件」に対し、特別捜査本部を設置して、聞き込み捜査、遺留品捜査、アジトにおける押収品の捜査等を徹底し、約1年5箇月後の62年10月13日、中核派非公然活動家3人を逮捕し、1人を指名手配した(警視庁)。
 極左暴力集団は、「テロ、ゲリラ」事件を引き起こした場合、組織として犯行自認の声明を出すなどしているが、この自認をした組織自体を処罰できないのは当然であり、実行行為者を特定しないで検挙することができないこと、徹底した証拠隠滅が図られていること、犯人を割り出しても、犯人が非公然活動家として潜伏しており、発見が難しいことなどから、これら事件の捜査は、困難となり長期化している現状にある。
 そこで、警察では、併せて、
○ 「テロ、ゲリラ」の事前段階や発生直後における現場での検挙
○ 非公然アジトの摘発と非公然活動家の検挙
○ 組織構成員の検挙
という3点に重点を置いて、捜査活動を推進している。
(1) 事前段階等における現場での検挙
 「テロ、ゲリラ」事件の捜査は、年々困難化、長期化し、この間にも犯人が同様の事件を引き起こしていることから、犯人を早期に検挙し、犯行を未然に防止するための活動を強化することが必要である。
 そこで、犯行予測箇所に待ち伏せるよう撃捜査を実施したり、緊急配備を実施するなどして、犯行直前や犯行後間がない時点における現場検挙活動を強化している。
 また、極左暴力集団は、「テロ、ゲリラ」事件に盗難車を使用することが多いことから、「テロ、ゲリラ」に使用されるおそれのある自動車盗難事件に対して、検問、交通指導取締り、重点警ら等あらゆる職務執行を通じて盗難車両の発見及び被疑者の検挙に努めている。
 なお、盗難車両の捜査に当たっては、携帯用コンピュータやパトカー照会指令システム等の最新の科学技術を導入した装備資機材を活用して、その強化を図っている。
〔事例1〕 “よう”撃捜査による犯人検挙
 昭和60年12月23日未明、大田区内所在の石井組(成田用水工事請負会社)駐車場付近で張り込み中の捜査員は、2人の男が同駐車場に駐車中のトラックの下に時限式発火装置を設置したところを発見し、現場で2人を、さらに、車両で逃走した見張り役の他の1人を追跡して、それぞれ火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反等で現行犯逮捕した(警視庁)。
〔事例2〕 検問による犯人検挙
 60年11月29日、全国8都府県で国鉄線に対する「ゲリラ」事件が発生したため、警視庁巣鴨警察署員が検問を実施中、不審な車両を発見し、停車を求めて乗車していた男2人に職務質問したところ、侵入用具を隠し持っていたため、軽犯罪法違反の現行犯で逮捕し、さらに、違法な無線局を開設していたことが明らかとなったため、電波法違反で逮捕した。その後、この2人は中核派非公然活動家であり、同日発生した中核派の集団による浅草橋駅への放火に対応して、妨害電波を発信し警察無線を妨害しようとしていたことが判明した。
(2) 非公然アジトの摘発と非公然活動家の検挙
 「テロ、ゲリラ」を根絶するためには、その専門部隊である非公然・軍事組織を壊滅させることが必要である。そこで、警察では、活動の拠点となり、あるいは武器製造工場となっている非公然アジトを発見、摘発するとともに、非公然活動家を検挙することに積極的に取り組んでいる。
 このため、警ら等通常の職務執行のほか、情報収集活動等の強化やアパート・ローラー(注1)、地下工場ローラー(注2)等の強化により、非公然アジトの発見、摘発や非公然活動家の発見、検挙に努めている。
(注1) アパート・ローラーとは、アパート、マンション等非公然活動家の潜伏等が予想される箇所をローラーをかけるように一軒一軒訪問し、住民の協力を得ながら彼らの潜伏場所等を発見するための方策である。
(注2) 地下工場ローラーとは、「テロ、ゲリラ」用の武器の製造場所となるような建物に対してアパート・ローラーと同様の手法を取り、武器製造アジトを発見するための方策である。
 最近5年間における非公然アジトの摘発件数及び非公然活動家の検挙人員の推移は、表1-8のとおりである。

表1-8 非公然アジトの摘発件数及び非公然活動家の検挙人員の推移(昭和58~62年)

〔事例1〕 盛岡アジトの摘発
 昭和61年10月12日、盛岡市郊外の都南村の中核派の非公然アジトを摘発し、活動家5人を公務執行妨害及び火薬類取締法違反で逮捕(23日、爆発物取締罰則違反で再逮捕)するとともに、火薬類、爆弾製造工具類等多数を押収した。このアジトは、「圧力釜爆弾」を製造する大掛かりな武器製造工場であることが判明した(岩手)。
〔事例2〕 草加アジトの摘発
 62年4月25日、埼玉県草加市の戦旗・荒派の非公然アジトを摘発し、「61.10.14東京地方検察庁及びキャピトル東急ホテル横路上火炎物発射事件」の被疑者である非公然活動家1人を逮捕するとともに、IC等電子部品や大量の工具類等多数の資料を押収した(警視庁)。
〔事例3〕 練馬アジトの摘発
 62年7月19日、練馬区の革労協狭間派の非公然アジトを摘発し、指名手配中の非公然活動家を含む2人を逮捕するとともに、時限装置の完成品、IC等時限装置の材料等多数を押収した。この非公然活動家は、時限式発火装置等に使う時限装置を製作していたほか、新たな「ゲリラ」用の武器の研究、開発を行っていた(警視庁)。
(3) 組織構成員の検挙
 大セクトによる犯行の場合、かつての爆弾闘争グループ等とは異なり、非公然活動家の検挙が直ちには組織そのものの壊滅には結び付かないことから、非公然・軍事部門を支えている組織構成員についても違法行為を看過することなく積極的に検挙活動を行い、組織全体の弱体化を推進することが必要である。
 そこで、集団武装闘争やデモ等の街頭闘争に伴う違法事犯に対しては、徹底した取締りを行い、現場検挙を図っている。
 また、組織活動に伴う潜在違法事犯の掘り起こしを推進し、その検挙に努めている。
〔事例1〕 集団武装闘争に伴う大量検挙
 昭和60年10月20日、三里塚芝山連合空港反対同盟北原グループ主催の全国総決起集会が成田市の三里塚第一公園で開催されたが、中核派をはじめとする支援極左グループは、集会終了近くに、ダンプカー等で大量の砕石、鉄パイプ、火炎びん等を会場内に搬入してこれらの凶器で武装し、三里塚交差点で警戒中の機動隊に丸太を持った先頭集団が突き当たり、続いて火炎びんや砕石を投げたり、鉄パイプで殴りかかるなど、激しい集団武装闘争を展開した。このため、警察では、241人(うち、女性46人)を公務執行妨害等で現行犯逮捕した。
 なお、この中には、国家公務員5人、地方公務員22人(うち、教員4人)が含まれていた(千葉)。
〔事例2〕 公職選挙法違反等事件の検挙
 61年2月、多数の中核派活動家が同時期に他の市町村から泉佐野市へ住所を移すという不審な動きをみせたので調査したところ、同年5月18日施行の泉佐野市議選に立候補する中核派活動家への投票を企図し、転居の事実がないのに住民登録だけを移した組織的、計画的な犯行と判明したので、徹底した捜査を行い、38人を公職選挙法違反(詐偽投票、詐偽登録)、公正証書原本不実記載、同行使で逮捕した(大阪)。

3 国民の協力による諸活動の推進

(1) 国民の理解と協力を呼び掛ける活動の推進
 極左暴力集団は、アパートやマンションの一室に平凡な市民を装ってひそかに潜伏し、そこを武器製造場所や活動の拠点等のアジトとして使用しているため、これらを発見するためには、国民一人一人の協力が不可欠である。また、「テロ、ゲリラ」の防止、検挙のためには、事前の調査活動等の不審動向について、通報等の協力を得ることが必要である。
 このため、警察では、総理府等の中央官庁や地方自冶体、防犯協会、報道機関等の協力の下に、新聞、テレビ、雑誌等による広報を行い、ポ

スター、チラシ等を多数配布するなどして、極左暴力集団の実態について知らせるとともに、警察本部等に「極左110番」を開設するなどして、捜査活動等に対する国民の理解と協力を求めている。
 また、極左暴力集団は、空港建設反対運動、基地反対運動等の地域的な反対運動に対し、その先鋭化をねらいとして活動家を送り込み、支援することが多いが、警察では、このような地域の住民に対し、極左暴力集団の実態、反対運動を支援する目的等についての理解を求める活動を行っている。これらの地域では、市町村議会が極左暴力排除の決議をするなど、極左暴力集団排除の気運が高まっている。
 また、その他の地域でも、多くの地方自治体や地域団体で、極左暴力排除の決議や呼び掛けが行われている。
〔事例1〕 極左暴力集団排除に関する決議の採択と看板の掲示
 新東京国際空港に隣接する山武郡芝山町は、極左暴力集団の現地闘争拠点である団結小屋が21箇所(14セクト)も点在するなど、空港反対闘争の最も激しい地域である。同地域において、極左暴力集団が集団武装闘争や空港に向けた爆発物発射事件等の「ゲリラ」事件等を数多く引き起こすため、極左暴力集団を地元から排除したいという住民の気運が盛り上がり、昭和62年9月の芝山町議会では、極左暴力集団排除に関する決議を採択するとともに、大型の鉄製看板「過激暴力集団排除宣言の町」を同町内8箇所に設置した(千葉)。
〔事例2〕 中核派「前進社」の立ち退き要求請願
 中核派の本拠「前進社」の所在する豊島区千早町住民は、同派が引き起こした数々の凶悪な「テロ、ゲリラ」に対して、一様に不安感を持っていた。このため、町内会役員が中心となって町民大会を開催し、「前進社の立ち退き要求決議」を採択するとともに、町内に「豊島区千早町1丁目居住の中核派『前進社』即刻立ち退き要求決議」 と記載した立看板を設置し、さらに、豊島区議会に対して「中核派『前進社』即刻立ち退き要求に関する請願」を行った結果、61年10月2日、全会一致でこれが採択された(東京)。
(2) 「テロ、ゲリラ」抑止のための社会環境の整備
 極左暴力集団は、爆発物発射事件等「ゲリラ」事件に使用するための火薬、農薬、劇物、鋼管等の材料を業者から購入し、又は窃取しているとみられる。また、過去に猟銃を強奪して「あさま山荘事件」の銃撃戦に使用したという例からも明らかなように、「テロ、ゲリラ」に使用するため、銃器の入手等に動くおそれもある。
 これらを使用した「テロ、ゲリラ」を未然に防止するためには、凶器の材料や銃器の入手等を困難にするような社会環境を作ることが必要である。
 このため、警察では、これらの取扱業者に対して、関係機関との連携の下に、火薬等の適正な保管管理の徹底と不審者の積極的な通報等の指導と要請を行い、「テロ、ゲリラ」抑止のための社会環境づくりを図っている。
 また、「ゲリラ」事件に使用されている盗難車は、夜間に管理の手薄な駐車場等から盗まれているところから、駐車場管理者等に対して、防犯設備の設置等車両盗難防止のための措置を要請している。

4 集団警備力の充実、強化

(1) 充実する機動隊
ア 機動隊の歴史
 極左暴力集団の集団武装闘争等による治安の破壊を防ぐためには、集団警備力によりこれを制圧、検挙することが必要である。このため、警察では、「60年安保闘争」、「70年闘争」等を通じ、機動隊を中心とした集団警備力の充実、強化を図り、多くの犠牲を払いながら、暴徒の鎮圧に努めてきた。
 機動隊は、昭和27年、「すぐれた指揮官に統率せられ、強固な団結、すぐれた機動性、十分な装備を有し、徹底した訓練を受けた精鋭部隊の整備強化」を目的として、20都府県に設置された。
 その後、「60年安保闘争」をはじめとして極左暴力集団等の集団不法行為がエスカレートしたことに対処するため、37年までに全国の都道府県警察に機動隊が設置され、44年には、警備事案が全国各地で発生したことなどに伴い、都道府県警察相互の部隊応援の必要性が増大したことに対応するため、管区機動隊が創設された。管区機動隊は、府県警察に設置され、当該府県の治安維持に任ずるとともに、必要に応じて、管区警察局単位に連合、編成され、第一次的に他の都道府県を応援する役割を持つ部隊である。また、道警察警備隊も、同様の性格を持つものとして、管区機動隊と同時期に創設されている。
 さらに、53年3月26日の「新東京国際空港管制塔乱入事件」を契機に、同年7月、専ら同空港に係る警備活動を実施するための部隊として、千葉県警察に新東京国際空港警備隊が創設された。
 このような機動隊の充実、強化と隊員の文字どおり生命を賭(と)した活動により、極左暴力集団による集団武装闘争は、46年以降下火となった。しかし、この間の警察官の犠牲もまた大きく、機動隊の装備等の強化が図られた43年以降だけでも、警備実施に伴う殉職者11人、負傷者約2万人を数え、今なお後遺症に悩む者も少なくない。
イ 機動隊の現況
 機動隊は、集団不法行為の制圧、検挙のほか、その特色を生かし、災害警備、雑踏警備、集団警ら等種々の活動に従事している。特に、最近 の「テロ、ゲリラ」の多発に対しては、発射弾の登場等による警戒区域の拡大等厳しい警備条件の中で、「テロ、ゲリラ」の対象とされるおそれのある重要施設の警備、「テロ、ゲリラ」発生のおそれのある地域での警戒、検問等を行い、「テロ、ゲリラ」の防圧、検挙を図っている。
 また、機動隊には、極左暴力集団等による爆発物使用事件に対応するための爆発物処理班、事件、事故発生時の生存者救出のためのレインジャー部隊、レスキュー部隊等が設置されている。

(2) 装備資機材の整備充実
 機動隊の使用している装備資機材は、いかにして機動隊員の生命、身体の安全を確保しつつ、悪質、巧妙化する極左暴力集団の不法行為を制圧、検挙するかということを主たる観点として、整備充実が図られてきた。
 機動隊の装備には、個人装備と部隊装備があるが、現在、個人装備には、出動服、ヘルメット、防護衣、防護手袋、防御盾等があり、機動隊員が警備現場に出動する場合には、全員が装備することを原則としている。部隊装備には、検問資機材、照明器具、消火器、警戒器具等の各種警備装備資機材と大型輸送車、現場指揮官車、警備兼輸送車、放水車等の各種警備活動用車両がある。また、機能別には、爆発物処理機材として、爆発物を探索認定する機材、爆発物を処理する機材及びこれら作業に従事する警察官を防護するための機材等がある。

5 国際テロ対策の推進

 最近の国際テロ情勢には、量的にも質的にも依然として厳しいものがある。こうした中で、昭和62年5月、我が国からは国家公安委員会委員長が参加して、主要国首脳会議参加国等9箇国(西独、カナダ、米国、フランス、イタリア、日本、英国、ベルギー、デンマーク)による初の「テロ対策担当閣僚会議」がパリで開催され、国際協力の必要性が確認された。また、第12回主要国首脳会議(61年5月、東京)では、「国際テロリズムに関する声明」が採択され、対テロ国際協力措置の一環として各国治安機関が緊密な協力をすることとされたが、第13回主要国首脳会議(62年6月、ベネチア)でも、同様の声明が採択され、テロリストに譲歩しないとの原則がうたわれた。さらに、東京で開催された第9回ICPOアジア地域会議(62年6~7月)においても、テロの防止、摘発に関する国際協力が勧告されるなど、各国治安機関相互の国際協力の気運が盛り上がってきている。
 警察では、日本赤軍等が我が国においてテロ活動を行うのを防止するため、関係機関とも密接に連携しつつ、国内外における日本赤軍等の動向把握を強化し、その検挙活動に努めるとともに、我が国に関連する国際テロの予防、検挙についての協力を積極的に実施している。
〔事例1〕 日本赤軍メンバーDの逮捕
 62年11月21日、他人名義の日本旅券を使って我が国に潜入したDを、東京都内において逮捕した(警視庁)。
〔事例2〕 大韓航空機事件における捜査の推進
 大韓航空機事件に関し、「李恩恵」の身元及び金勝一、金賢姫の旅券偽造事件を解明するため、警察では、韓国政府関係当局と協力し、鋭意捜査中である。

6 今後の課題

(1) 極左対策の一層の推進
 極左暴力集団は、総合的な極左対策の推進により、現在、かなりの打撃を受けているとみられる。
 しかしながら、極左暴力集団は、今後とも、組織の非公然化、軍事化を推し進めながら、様々な闘争課題を掲げ、無差別、悪質な「テロ、ゲリラ」等を多発させていくことが懸念される。
 極左暴力集団による「テロ、ゲリラ」等の違法行為を封圧するためには、警察の強力な検挙、取締り活動が必要なことはいうまでもない。
 このため、警察では、今後とも、捜査体制、情報収集体制の強化を図るとともに、集団警備力の整備充実を推進していくこととしている。
 また、「テロ、ゲリラ」等を根絶するためには、これらを絶対に許さないという社会環境を醸成することが必要である。
 そこで、警察では、「テロ、ゲリラ」対策に対する国民の理解と協力を得るための諸活動を繰り返し展開するとともに、関係機関、団体等とも連携を取りながら、きめの細かい総合的な施策を更に推進していくこととしている。
(2) 国際テロ対策の強化
 日本赤軍は、D及びFの動きや、声明の内容にみられるように、「よど号」乗っ取り犯人や他の国際テロ組織と連携して、あるいは独自に、テロ等の過激な行動に出ることが懸念されるため、警察としては、その国内外における動向把握のための活動を一層強化していく必要がある。
 これらの活動は、各国治安機関の協力を得て行う必要があり、また、国際社会における責任を果たすという意味においても、警察では、我が国に関連する国際テロの予防、検挙等のため、情報交換等の国際協力を一層強化することとしている。


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