第9章 警察活動のささえ

1 警察職員

 我が国の警察組織は、都道府県を単位とし、都道府県公安委員会の管理の下に警察職務を直接執行する都道府県警察が置かれている。また、これら都道府県警察を国家的、全国的な立場から指導監督し又は調整する国の警察機関として、国家公安委員会の管理の下に警察庁が置かれている。
 警察庁及び都道府県警察に勤務する警察職員は、警察官、皇宮護衛官、事務職員、技術職員等で構成され、これらの職員が一体となって警察職務の遂行に当たっている。
(1) 定員
 警察職員の定員は、昭和61年12月末現在、総数25万6,546人で、その内訳は、表9-1のとおりである。
 61年度には、国鉄民営化に伴う鉄道公安制度の廃止後の鉄道施設内の治安水準の維持のために、地方警察職員たる警察官が2,882人増員され、警察官1人当たりの負担人口は、全国平均で552人となった。これを欧

表9-1 警察職員の定員(昭和61年)

米諸国と比較すると、図9-1のとおりで、我が国の警察官の負担は依然として著しく重いので、今後とも警察力の整備に努める必要がある。

図9-1 警察官1人当たりの負担人口の国際比較(昭和61年)

(2) 婦人警察職員
 昭和61年4月1日現在、都道府県警察には、婦人警察官約4,100人、婦人交通巡視員約2,000人、婦人補導員約800人が勤務しており、交通指導取締り、犯罪捜査、鑑識活動、少年補導、要人警護、警察広報等の多くの分野において活躍している。また、これらのほか、一般職員として約9,700人の女性が勤務している。
 女子の深夜勤務については、労働基準法による制限があるが、61年1月に制定された女子労働基準規則によって、同法の深夜勤務の制限規定の適用が除外される業務として警察の業務(警察官以外の警察職員が行う場合は、女子の留置又は保護の業務及び少年の補導の業務に限 る。)が定められ、同規則は同年4月1日から施行された。
 このことから、警察では、婦人警察官を含めた女子警察職員の採用、配置先、勤務内容等について再検討を行い、女子警察職員の職域拡大を図っていくこととしている。

(3) 採用
 警察官の採用については、それにふさわしい能力と適性を有する優秀な人材の確保に努めている。昭和61年度に都道府県警察の警察官採用試験に応募した者は約7万5,400人で、合格した者は約6,800人(うち、大学卒業者は約2,900人)となっており、競争率は11.0倍であった。
(4) 教養
 警察官には、逮捕、武器使用等の実力行使の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に事案を処理しなければならない場合も多いので、職務執行の適正を期するため、一人一人の警察官に対して十分な教育訓練を行うことが必要である。このため、警察では、警察学校等において、新しく採用した警察官に対する採用時教養、幹部昇任者に対する幹部教養、専門分野に応じた各種の専科教養等の集合教養を実施しているほか、職場における個別指導等あらゆる機会を通じて各人の能力や職種に応じたきめ細かな教養を行っている。
 学校教養の中で特に力を入れているのは、都道府県警察学校で行う採用時教養で、昭和55年度からは、人間教育を一層充実することなどを目的として、従来の課程を再編成するとともに、教養期間を延長した新しい採用時教養を導入している。
 教養の推進に当たっては、各階級、各職種に求められる基本的な知識、技能の教養はもとより、治安情勢の変化に対応できる各種能力のかん養に努めている。
 また、職業倫理の確立と使命感の醸成を図るため、「警察職員の信条」 の実践を中心とした職業倫理教養を徹底している。
 さらに、警察官の体力、気力を養い、職務執行に必要な各種の技能を向上させるため、柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法等の術科訓練の強化を図るとともに、体育等の訓練を通じて走力、持久力等の基礎体力の充実、向上に努めている。
(5) 勤務
ア 制度
 警察の果たすべき治安維持の責務は、昼夜を分かたぬものであるので、24時間警戒体制を確保するため、外勤警察官をはじめ、全警察官の4割以上は、通常、3交替制で3日に1度の夜間勤務を行っている。交替制勤務者以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは、6日に1度程度の割合で深夜勤務に従事している。また、突発事件、事故の捜査等のため、勤務時間外に呼び出されることも少なくない。
 このため、警察官の勤務条件、給与、諸手当その他の待遇については、常に改善を検討しており、これまで、駐在所勤務員の複数化、派出所等の勤務環境の改善、階級別定員の是正、4週5休制の実施等が図られてきた。
イ 警察官の殉職、受傷及び協力援助者の殉難、受傷
 警察官は、常に身の危険を顧みず職務遂行に当たっているので、職に殉じたり、公務により受傷したりすることが少なくない。昭和61年に、職に殉じて公務死亡の認定を受けた者は12人(前年比5人減)、公務により受傷した者は5,881人(前年比864人減)となっている。これらの被災職員又はその家族に対しては、公務災害補償制度による補償をはじめ各種の援護措置が採られている。
 また、61年に、民間人で現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して災害を受けた者は、死者9人(前年比3人減)、受傷者32 人(前年比10人増)となっている。これらの被災者又はその家族に対しても、警察官の公務災害の場合とほぼ同様の給付や援護措置が採られている。
〔事例1〕 7月14日午前3時30分ころ、兵庫県生田警察署警ら第二課直轄警ら隊勤務留秀行警部補(26)は、同僚の警察官1人とともに連続して発生していた窃盗事件の捜査に従事中、不審者を発見し職務質問を行ったが、逃走したため、追跡し、停止させようとしたところ、隠し持っていた刃物で胸部を刺され、重傷を負いながらもなお捕らえようとしたが、力尽きて殉職した。
〔事例2〕 8月4日午前10時50分ころ、協力援助者(19)は、下閉伊郡沼の浜海水浴場において、波打ち際で遊んでいた少年(9)が突然台風の余波による高波にさらわれ、沖に流されるのを発見し、これを救助しようとして荒海に飛び込み、少年を抱きかかえ浜に引き返す途中、力尽きて死亡した。
 この殉難者の遺族には、遺族給付一時金及び葬祭給付約682万円が給付された(岩手)。

2 予算

 警察予算は、国の予算に計上される警察庁予算と各都道府県の予算に計上される都道府県警察予算とで構成される。警察庁予算の約7割は「国費」であり、残りは都道府県警察に対する「補助金」であるが、「国費」には、警察庁、管区警察局等国の機関に必要な経費だけでなく、都道府県警察が使用する警察車両やヘリコプターの購入費、機動隊庁舎や警察学校の増改築費、特定の重要犯罪の捜査費等都道府県警察に要する経費も含まれている。
 昭和61年度の国の予算編成においては、厳しい財政事情を反映して、「対前年度比、経常部門経費10パーセント減、投資部門経費5パーセント減」という4年連続の対前年度マイナスの概算要求基準が設定された。警察庁では、このような厳しい財政状況の下においても、現在の治安水準を維持するため、地方警察官の増員、警察活動における科学技術の活用の推進(自動車ナンバー自動読取りシステムの実用化、鑑識資料センターの新設、音声自動識別システムの導入等)、特定交通安全施設整備事業等の施策について、重点的に予算措置している。
 61年度の国の一般会計予算は、減額補正が行われ、補正後の警察庁予算は、総額1,687億5,900万円で、前年度に比べ71億4,700万円(4.42%)増加(国の一般会計予算総額は1.1%増加)し、国の一般会計予算総額の0.31%を占めている。その内容は、図9-2のとおりである。
 なお、61年度においては、主要国首脳会議の開催に伴う警備活動等に必要な経費(67億円)及び衆議院議員総選挙取締りに必要な経費(2億7,600万円)について、予備費の使用が認められた。
 また、61年度の都道府県警察予算は、各都道府県において、それぞれの財政事情、犯罪情勢等を勘案しながら作成されているが、その総額は、2兆1,232億6,200万円で、前年度に比べ1,056億9,000万円(5.2%)増加し、都道府県予算総額の6.7%を占めている。その内容は、図9-3のとおりである。
 警察庁予算と都道府県警察予算の合計額(重複する補助金額を控除した額)を国の人口で割ると、国民1人当たり1万7,900円となる。

図9-2 警察庁予算(昭和61年度補正後)

図9-3 都道府県警察予算(昭和61年度最終補正後)

3 装備

(1) 車両
 警察車両には、捜査用車、鑑識車、捜査本部用車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ、交通事故処理車等の交通警察活動用車

図9-4 警察車両の用途別構成(昭和61年度)



両、警らパトカー、移動交番車等の外勤警察活動用車両、各種の事象に出動するための輸送用車両があり、これら以外にも、それぞれの用途に応じて使用する投光車、レスキュー車、災害対策活動用車、爆発物処理車等の特殊車両がある。現有警察車両の用途別構成は、図9-4のとおりである。
 昭和61年度は、前年度に引き続き厳しい財政事情にあったことを考慮して、治安の確保と日常警察活動に支障を来さないために、老朽車両の重点的減耗補充を図ることを主眼として整備することとし、新規車両の増強整備については、60年度中に供用が開始された高速道路用の交通指導取締り車両等の整備を行った。
 厳しい財政事情の下ではあるが、警察事象の量的増大や質的変化に対応して治安水準の維持、向上を図るためには、今後とも警察機動力のかなめである警察車両の整備、充実を進めることが不可欠である。当面、現有車両中の老朽車両について、引き続き計画的に更新整備を進めるとともに、凶悪化、広域化の度を増している各種の犯罪に対処するための捜査用車、高速交通時代に対応するための交通指導取締り用車、少年非行対策のための少年補導車、地域に密着した活動を行うためのパトカー、災害等の各種事案を処理するための特殊車両について、重点的に増強整備を図っていく必要がある。
(2) 船舶
 警察船舶は、港湾、離島、河川、湖沼等に配備され、水上のパトロール、水難救助、覚せい剤等の密輸事犯や密漁あるいは公害事犯の取締り等の水上警察活動に運用されており、全長8メートル級から20メートル級の警備艇及び5メートル級の公害取締り専用艇の合計201隻を保有している。
 昭和61年度は、厳しい財政事情を考慮し、老朽艇の減耗更新のみを 行ったが、今後の整備に当たっては、水上警察事象の多様化に対応するため、増強配備に努めるとともに、大型化、高速化を図る必要がある。

(3) 航空機
 警察航空機(ヘリコプター)は、災害発生時の状況把握と被災者の救 助、交通情報の収集、伝達、犯人の追跡等の捜査活動、公害事犯の取締り、交通の指導取締り等幅広い分野で活動している。
 特に、8月5日に北関東地方を襲った台風第10号に伴う低気圧の影響による災害の発生に際しては、茨城県警察等5県警察のヘリコプターが被災者の救出等の各種活動を行った。
 昭和61年度は、各種警察活動用として、石川、島根の両県警察に小型ヘリコプター各1機を配備した。この結果、警察航空機は全国で44機となり、航空基地は32都道府県警察に置かれるに至った。
 警察航空機に対する国民の期待はますます高まっているので、全国的な配備に向けて計画的に整備を推進する必要がある。
(4) 警察装備資機材の開発
 最近の犯罪は、科学技術の急速な進歩を背景に、ますます複雑巧妙化、スピード化、広域化の様相を強めてきているが、これに的確に対処していくためには、警察活動の基盤となる警察装備資機材に先端技術を含むあらゆる科学技術を積極的に導入することにより、警察業務の効率化及び高度化を図る必要がある。このため、昭和61年度には、警察庁に新たに装備開発室を設置し、第一線警察のニーズに適応した警察装備資機材の開発、改善を一層促進することとしている。

4 警察活動とコンピュータの活用

(1) 各種警察活動におけるコンピュータの活用
 警察庁では、コンピュータによる指名手配者等の即時照会業務、運転者管理業務、指紋照合業務、各種統計業務を行っているほか、昭和61年には、広域犯罪に対処するため、各都道府県警察が収集した捜査情報を 相互に交換できる捜査情報交換業務と、膨大、多様な捜査情報を多角的に活用する多角照合システムの運用を開始した。
 また、最近、盗難車等を利用した犯罪が増加傾向にあることから、盗難車等を瞬時に判別することができる「自動車ナンバー自動読取りシステム」を開発して警視庁に導入するとともに、携帯型コンピュータによる「車両検索システム」を開発し、22都府県に整備して盗難車の発見に成果を上げている。
 さらに、61年度から5箇年計画により、目撃者から得られる被疑者の顔及び身体特徴等に関する情報を犯罪捜査において効果的に活用するため、個人特徴自動識別システムの研究開発に着手した。
 各都道府県警察においても、独自に犯罪捜査等へのコンピュータの利用を進めており、犯人検挙等に大きな効果を発揮している。
〔事例1〕 9月22日、宇都宮市内のパチンコ店駐車場で、携帯型コンピュータにより盗難車を発見し、犯人を逮捕したところ、タクシー強盗等40件、被害総額約2,000万円に上る余罪を自供した(栃木)。
〔事例2〕 被害者1万1,345人、被害総額約49億円に上った相互銀行法違反事件において、約1,200点の帳簿等を証拠資料として押収した。しかし、その整理、照合作業を人手で行うと約6箇月かかることが見込まれたので、コンピュータ処理を行った結果、約1箇月で同会社の経営実態を解明することができた。5月20日、責任者を逮捕(岡山)
(2) OA化の推進
 警察庁及び都道府県警察では、パソコン、電子ファイル等を導入して、事務の合理化、効率化を図るとともに、緊急配備、犯罪捜査、交通取締り等の警察活動に役立てている。
 また、警察庁では、警察業務のOA化をより一層推進するため、都道 府県警察が開発したプログラムの相互利用を促進しているほか、都道府県警察のコンピュータ要員に対してOA指導者としての教養を行うとともに、刑事、防犯、外勤、交通等の各分野の担当者に対して実践的な教養を行うなど、人材の育成に努めている。

5 通信

(1) 初動警察活動の中枢、通信指令システムと移動無線通信
 犯罪、災害、事故等の発生に際して、早期に犯人を検挙し、被害者を保護し、あるいは被害の拡大防止を図るためには、初動警察活動を迅速に行う必要がある。このため、警察では、110番の受理や警察官の出動指令の中枢となる通信指令システムの高度化、活動中の警察官の有力な通信手段である移動無線通信の充実、強化等を進めている。
ア 通信指令システムの高度化
 迅速な初動警察活動を行うためには、通信指令業務の効率化を図る必要がある。このため、警察では、110番の受理に始まる情報の伝達処理にコンピュータの機能を大幅に活用した新しい通信指令システムの整備を進めており、昭和62年3月末現在で11都道府県に整備を終了し、リスポンス・タイムの短縮等に効果を発揮している。
 さらに、61年度からは、最新のセンサー技術、ビデオ処理技術、情報処理技術、無線通信技術等を駆使した「自動車ナンバー自動読取りシステム」の整備を開始し、通信指令システムとの総合運用を行い、自動車利用犯罪に対する初動捜査の効率化を図っている。
 また、警察庁では、(財)保安電子通信技術協会と共同して、110番受理から通信指令までの時間を大幅に短縮するため、コンピュータ・マッピング技術を利用した「高度警察通報用電話システム」の開発を進めて いる。
イ 移動無線通信の充実、強化
 移動無線通信には、パトカー、白バイ、船舶、ヘリコプター等が相互に通話する車載通信系、街頭でパトロール活動中の警察官が携帯無線機を使っていつでも警察署や他の警察官と連絡できるように警察署ごとに構成されている署活系、小規模な警備活動等局地的な警察活動において近距離で使用する携帯通信系等がある。
 近年、無線マニアの増加等により、警察無線に対する傍受、妨害事案が多発している。このため、警察では、これを防止するとともに、音声だけでなく、データ等の多様な情報伝達が可能なデジタル移動無線通信方式を開発し、その整備を進めている。携帯通信系については、既に全国に配備を行い、また、車載通信系についても、61年度末までに、主要部分についての全国配備を行った。
ウ パトカー照会指令システムの整備
 デジタル移動無線回路を経由して、パトカー搭載のデータ端末装置から警察庁のコンピュータへ各種照会を直接行ったり、通信指令室からの指令内容をパトカー内のディスプレーに受信表示することにより、指令の迅速性、確実性を向上させ、パトカーの活動機能を一層向上させる「パトカー照会指令システム」を開発し、60年度から整備を進めている。61年度は、大阪府警察に整備したことにより、既に6都府県警察に整備を完了したが、引き続き早期に全国整備を図る予定である。

(2) 災害等の重大突発事案発生時に活躍する通信
ア 機動通信隊の活動
 災害、重大事故等の発生時には、多量の情報を迅速かつ的確に伝達するため、日常の通信手段に加えて、各種メディアによる応急的な通信手段をいち早く確保する必要がある。
 このため、警察では、応急用通信資機材等を常備し、1都道府県内にとどまらず、広域的にも素早く活動できる機動通信隊を編成している。
イ 衛星通信の拡充整備
 衛星通信は、山岳や離島等の地形的な制約を受けずに国内の任意の地点間の通信が確保でき、災害時等における警察活動に最も適した通信手段である。昭和61年11月21日に発生した伊豆大島(三原山)噴火による災害に際しては、衛星通信設備を伊豆半島に出動させ、伊豆大島の災害状況をヘリコプターの防震装置付きテレビカメラで撮影し、現場の鮮明

な映像を大島から中継して警察庁に送り、災害警備活動に多大の貢献をした。
 現在、衛星通信の固定型設備を警察庁及び沖縄県警察本部に置き、可搬型設備2台を静岡県警察本部に配備している。今後は、衛星通信設備を更に全国の要所に配置して、事案発生時における対応措置の迅速化を図る必要がある。
ウ 活動用統合通信システムの導入
 活動用統合通信システムは、警察庁、管区警察局及び都道府県警察本部を通信回線で接続し、通話をしながら文字、地図、数字等の送受信を行うとともに、集められたデータをコンピュータ処理するシステムである。災害等の発生に際しては、全国的な被災状況、現場地図、警察官の出動状況等を即時に集計、編集、表示し、警察庁における状況把握、総合的な状況分析、都道府県警察に対する指導、調整を迅速かつ的確に行うことが可能となる。このシステムは、60年度から導入を開始し、警察 庁のほか22都道府県に既に配備したが、引き続き早期に全国配備を図る必要がある。
(3) 日常の警察通信活動を支える基幹通信
ア 全国を結ぶ警察通信網
 全国の警察機関を結ぶ通信回線は、警察自営の無線多重回線と、日本電信電話株式会社との契約により使用している専用回線から成っており、独自の警察電話のほか、ファクシミリ等の画像通信、データ通信等に用いられている。このうち、警察庁、各管区警察局、北海道警察本部相互間を結ぶ管区間無線多重回線については、災害等による通信途絶と通信量の増大に備えるため、伝送路を地理的に分散した2ルート方式を採用している。
 また、将来、大幅な増加が予想されるデータ通信やファクシミリ通信に適したPCM方式(注)を採用して設備の更新を進めており、昭和61年度は、青森・札幌間を改修したことにより、福岡・札幌間の管区間第1ルートがPCM化された。
(注) PCM(Pulse Code Modulation)方式とは、電話やファクシミリ等の信号をデジタル信号に変えて、大量、多様の情報を効率的に伝送する方式である。
イ 警察電話の機能強化
 音声通話に限らず、データ通信やファクシミリ通信等多様な通信に利用できるデジタル電子交換機の整備を進めている。
ウ 高分解能写真電送装置
 指紋の微細な部分まで忠実に伝送でき、コンピュータによる遺留指紋照合業務と連係して効率的な活用を図ることのできる高分解能写真電送装置の整備を進めている。61年度には、近畿管区警察局内の5府県に各1台を整備した。

6 留置業務の管理運営

(1) 留置業務の現況
 昭和61年12月末現在、全国の留置場数は、1,250場で、年間延べ約250万人の被逮捕者、被勾留者等が留置されている。
 留置業務は、捜査を担当しない総(警)務部門において処理しており、被留置者の人権を尊重した処遇を行うとともに、適正な管理運営を図っている。
(2) 留置業務に関する改善措置等
ア 留置場施設の整備
 昭和55年4月以降に新改築された警察の留置場は、被留置者のプライバシー保護等の観点から54年11月に改正された留置場設計基準に基づいて改善されており、また、既設の留置場についても、この基準に沿った改善整備が逐次進められている。
イ 業務担当者に対する教養訓練の充実
 被留置者の人権の尊重、処遇の適正及び事故防止の徹底を図るため、留置業務を担当する警察官に対して、警察大学校、都道府県警察学校等において専門的な教養訓練を行っている。
ウ 留置場巡回視察の実施
 留置場の適正な管理運営を確保し、被留置者の処遇の全国的斉一を図るため、全国の留置場について、警察庁及び管区警察局の担当官により、計画的に巡回視察を実施している。
(3) 留置施設法案の必要性
 警察の留置場については、被留置者の処遇の内容、設置の根拠、留置される者の範囲等が法律上必ずしも明確ではないことから、留置場に関 する現行の法体系を整備するよう各方面から指摘されてきたところである。
 そこで、監獄法の改正が行われるのを機会に、法制審議会の答申の趣旨に沿って、被留置者の処遇の内容を定め、警察の留置場に留置される被勾留者等と拘置所に収容される者との処遇の平等を保障するとともに、留置場の設置の根拠等を明確にするため、刑事施設法案と一体のものとして留置施設法案を策定した。この法律案は、昭和57年4月、第96回通常国会に上程され、第100回臨時国会まで継続審議案件とされたが、58年11月、衆議院の解散に伴い審議未了となった。
 その後、この法律案は、所要の修正を加えて、62年4月、第108回通常国会に上程された。

7 警察活動の科学化のための研究

(1) 科学警察研究所における活動
 科学警察研究所では、科学捜査、少年非行の防止、犯罪の予防、交通事故の防止等に関する研究、実験と、その研究成果を応用した鑑定、検査を行っているほか、鑑定技術についての研修を実施している。
ア 昭和61年度における主な研究
 昭和61年度の研究は、前年度からの継続研究40件、新規研究49件の合計89件であるが、その主なものを挙げれば、次のとおりである。
〔研究例1〕 個人特徴自動識別システムに関する研究
 被疑者の顔や体格等の特徴をコンピュータに登録しておき、目撃者の記憶や防犯カメラ等の画像から被疑者を検索するシステムの開発を進めている。61年度には、[1]目撃者の記憶する犯人像と逮捕された被疑者の個人特徴との対応関係の分析、[2]被疑者写真の目視に よる評価値と物理的測定値との対応関係の分析の2点について研究を行った。これらの分析により、顔や頭髪の特徴、体格といった個人特徴の分類手法及び検索手法についての見通しを得ることができた。
〔研究例2〕 放射光による極微量物の非破壊分析に関する研究
 事件現場に残される極微量の遺留品に関する高度で簡便な分析法を開発するため、光速に近い高エネルギー電子が磁場で曲げられた時に発する放射光を使った分析法を研究した結果、極微量の繊維等に含まれている1千億分の1グラム程度の金属元素まで分析可能となり、有力な非破壊分析法として利用できるようになった。
〔研究例3〕 自動二輪車を運転していた者の認定に関する研究
 二人乗りの自動二輪車による事故が多発しているが、この場合、二人のうちどちらが運転者であったかが、捜査上や裁判上で問題になることがしばしばある。このため、事故後の自動二輪車の損傷状態や運転者、同乗者の負傷状態等から科学的に運転者を割り出す方法を確立することを目的として、実際の事故のデータ解析や実車の衝突実験による研究を行った結果、運転者と同乗者の事故の際に受ける傷害のメカニズムの相違が明らかになった。
〔研究例4〕 道路交通騒音防止効果の評価用シミュレータに関する研究
 交通信号制御、交通規制等の交通管理面から行う道路交通騒音防止対策の効果を事前に的確かつ容易に予測、推定するため、簡易型計算機を用いた実用型シミュレータの開発を行っている。61年度は、様々な形態の交通管理が行われた場合にどのような交通流特性、騒音特性が現れるかに関する分析を行い、騒音推定方法、データ入力方法、出力表示方法等の方法論と、シミュレータの全体構 成、機能等を明らかにした。
 61年に開催された国際会議では、交通の安全と信号設置の正当性(4月、道路交通制御に関する第2回国際会議、英国)、デジタル画像処理の法科学への応用(6月、デジタル画像処理に関する国際シンポジウム、米国)、酵素免疫測定法(ELISA)の法医鑑定への応用等(6月、国際法医免疫学シンポジウム、米国)、裁判化学における中性子放射化分析-日本における現状(6月、放射化分析の最近の動向第7回国際会議、デンマーク)、除草剤パラコート及び関連化合物のヒト血球アセチルコリンエステラーゼ活性に及ぼす阻害効果(11月、第4回アジア、オセアニア生化学者連合会議、シンガポール)等についての発表を行った。
 また、国内の学会では、前頭洞の形態に関するX線解剖学的検討-白骨死体の個人識別への活用(5月、第70次日本法医学会総会)、有機リン系農薬の系統的分析(5月、第5回日本法中毒学会)、実車実験による自動二輪車乗員(運転者と同乗者)の衝突時の運動と傷害(5月、第22回日本交通科学協議会)、日本語ワードプロセッサ文字の字形デザインによる分類(11月、第23回日本犯罪学会総会)、覚せい剤事犯の再犯防止に影響を及ぼす諸要因(11月、第23回日本犯罪学会総会)、透視図による道路の安全性評価法(11月、交通工学研究会)等についての発表を行った。
イ 鑑定、検査
 科学警察研究所では、都道府県警察をはじめ検察庁や裁判所等から嘱託を受けて、高度の技術を要する鑑定、検査を行っており、61年における処理件数は、法医学関係が66件、理化学関係が1,299件、文書、偽造通貨等が210件の計1,575件であった。
ウ 研修
 科学警察研究所では、附属の法科学研修所において、都道府県警察に勤務する鑑定技術職員を対象とした研修を実施している。法科学研修所の研修課程は、養成科、現任科、専攻科及び研究科に分かれ、61年度には、研修生約250人に対して、法医、化学、工学、文書、ポリグラフ、指紋、写真、足こん跡等に関する教育訓練を行った。そのほか、科学警察研究所では、鑑識技術職員延べ約450人の参加の下に、法医、化学、文書及び火災・爆発の4部門についてそれぞれ鑑識科学研究発表会を開催し、研究成果の発表及び質疑応答を通じて、指導、助言を行い、鑑識技術の向上に努めた。
(2) 警察通信学校研究部における研究
 警察通信学校研究部は、警察通信の研究機関として、現場の要望に即した警察独自の通信機器を研究、開発し、警察業務の効率化に寄与している。
 昭和61年度には、パトカーから警察庁のコンピュータに直接照会するパトカー照会指令システムを高度化し、より使いやすくするための研究や、聴取の困難な電話の会話を明瞭化する研究を行っている。
 また、指令業務の効率化を図るため、音声を直接コンピュータが認識する技術の利用についても研究している。


目次