第3章 地域住民とともにある警察活動

1 地域の安全と平穏を守る警察活動

 外勤警察官は、休日、昼夜の別なく常に警戒体制を保ち、街頭における警戒、パトロール活動や各家庭等への巡回連絡を通じて、犯罪の予防、検挙、交通の指導取締り、少年の補導のほか、迷い子や酔っ払いの保護、困りごと相談等幅広い活動を行って、地域住民の日常生活の安全と平穏を守っている。
(1) 地域を守る派出所、駐在所
ア 「赤い門灯」は安心感のよりどころ
 外勤警察の活動拠点であるとともに、警察の窓口的役割を果たしている派出所、駐在所(以下「派出所等」という。)は、全国津々浦々に約1万5,000箇所設置されている。派出所は、主として都市部に置かれ、警察官が交替制により常時警戒に当たっており、また、駐在所は、原則として一人の警察官が家族とともにその駐在所に居住して、地域の安全を守っている。これら派出所等は、いずれも管轄する区域内において地域に密着した活動を行っているところから、市民にとって最も身近な警察活動の拠点として、地域住民や行き交う人々の安心感のよりどころとなっている。
 近年、都市化の進展に伴う地域住民の連帯感の稀薄化、核家族化等地域社会が変化している中で、警察に寄せられる住民の要望、意見等は増加の一途をたどり、中でも常に街頭にあって住民と接している外勤警察官には、様々な困りごと、要望等が寄せられている。派出所等では、住 民の期待にこたえ、地域に密着した警察活動を行うため、これら要望等の積極的な把握と的確な対応に努めるなど、地域住民とともにある警察活動を推進している。
イ 地域に密着した警戒、警ら活動
 警戒、警ら活動は、外勤警察の基本的な任務であるが、警察に対する世論調査等においても、「常時交番に警察官がいてほしい」、「パトロ-ルを強化してほしい」といった警戒、警ら活動の強化を望む声が依然として高い。警察では、これら住民の要望にこたえるため、派出所等の勤務員ができるだけ不在とならないよう人員配置の見直しを行い、隣接派出所、警ら用無線自動車(以下「パトカー」という。)等との連携活動を強化しているほか、パトロール等で警察官が不在となる場合においては直ちに派出所等から警察署への通報が可能となる緊急通報装置の設置の促進を図っている。一方、派出所等の警察官は、無線機を携帯して常にパトカー、警察署と連携を取りながら、きめ細かなパトロールや巡回連絡を行っている。また、全国の警察本部や警察署に配置された約2,600台のパトカーや駐在所に配置された約1,100台のミニパトカーは、管内のパトロールや警戒活動を行い、住民の日常生活の中で発生が予想される種々の事案に備え、あるいは発生した事件、事故の初動措置を迅速に行うなど、「動く交番」として活躍している。この結果、外勤警察官は、昭和61年には、全刑法犯検挙人員の74.1%に当たる約30万人を検挙したほか、覚せい剤事犯や交通法令違反等の特別法犯検挙人員についても、全体の53.7%を検挙している。
〔事例〕 茨城県日立警察署のパトカー勤務員は、3月20日、パトカーで警ら中、日立市内でナイフ使用の強盗事件が発生したとの無線手配を受け、同じく出動していた同署のパトカーと連絡を取りながら犯人の行方を追っていたところ、手配の人相、着衣とよく似た男を 路上で発見した。パトカー勤務員は、男がパトカーを見て路地に逃げ込んだため、2台のパトカーで追跡し、男に停止を求めて職務質問を開始したが、男は、所持していた凶器を発見されたため、犯行を自供した。
(2) 酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等の保護活動
 最近5年間に酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等を保護した状況は、表3-1のとおりで、酔っ払いが半数近くを占めている。
 昭和61年における被保護者に対する措置の状況をみると、家族、知人に引き渡された者が68.1%と最も多く、保護の必要がなくなって自ら帰宅した者が26.1%、医療機関、福祉施設等の関係機関に引き渡された者が4.1%となっている。また、保護した精神錯乱者のうち、精神障害のために自身を傷つけ、又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めて知事に通報した者は3,504人、保護した酔っ払いのうち、アルコールの慢性中毒者又はその疑いのある者であると認めて保健所長へ通報した者は1,049人である。

表3-1 酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等の保護の状況(昭和57~61年)

(3) 家出人の発見、保護活動
ア 減少した家出人捜索願の受理件数
 警察では、家出人の生命、身体の安全確保を図り、家族等の期待にこたえるため、その早期発見、保護活動に努めている。昭和61年における家出人捜索願の受理件数は、9万5,399件で、前年に比べ1,354件(1.4%)減少した。最近5年間の家出人捜索願の受理件数の推移は、表3-2のとおりである。
 また、犯罪に巻き込まれ、又は自殺するおそれ等がある家出人については、これを特異家出人として捜索願を受理し、特に迅速な発見、保護活動に努めているが、61年の件数は、全捜索願受理件数の11.7%を占めている。

表3-2 家出人捜索願の受理件数の推移(昭和57~61年)

イ 家出の原因、動機に多い職業関係、家庭関係、異性関係
 61年に捜索願が出された家出人の家出の原因、動機別状況は、表3-3のとおりで、男性では事業不振等の職業関係が、女性では夫婦間の不和、親子間の不和等の家庭関係、結婚、恋愛等が絡んだ異性関係が多い。また、10歳代では、家庭関係のほか、学校嫌い、学業不振等の学業関係が多い。

表3-3 原因、動機別にみた家出人の状況(昭和61年)

ウ 多い職務質問等による発見
 最近5年間の家出人の発見数は、60年までは毎年10万人を上回っていたが、61年は9万8,955人に減少した。このうち、特異家出人の発見数は、1万674人であった。家出人の発見の端緒は、表3-4のとおりで、自ら帰宅した家出人を除くと、警察官の職務質問等によるものが22.4%と最も多い。
 なお、家出人の大部分は、無事に帰宅し、又は発見されているが、家出中に犯罪を犯した者が2,696人(2.7%)、自殺した者が1,798人(1.8%)、犯罪の被害者となった者が355人(0.4%)いることが注目される。

表3-4 家出人の発見の端緒(昭和61年)


(4) 自殺の実態

ア 老人に多い自殺

 昭和61年の自殺者数、自殺率(注)を男女別、年齢層別にみると、表3- 5のとおりで、男性の自殺率は、女性の約1.9倍になっている。また、自殺率は、高齢になるほど高くなっており、老人問題の深刻さを示している。
(注) 自殺率とは、同年齢層の人口10万人当たりの自殺者数をいう。

表3-5 男女別、年齢層別自殺者数、自殺率の状況(昭和61年)

イ 自殺の原因、動機
 61年における自殺の原因、動機別状況は、表3-6のとおりで、「病苦等」が最も多く、次いで「精神障害、アルコール症等」、「経済生活問題」の順となっている。
ウ 自殺の未然防止
 警察では、独居高齢者等に対する訪問や困りごと相談等を通じて、自殺のおそれのある者を早期に発見し、その悩みや困りごとの解消に努めるとともに、自殺が多発する場所については、その管理者に対し、自殺防止のための立看板やフェンスの設置を働き掛けるなどして、自殺の未 然防止に努めている。

表3-6 原因、動機別にみた自殺者の状況(昭和61年)

(5) 遺失物、拾得物の取扱い
 いわゆる落とし物は、主として派出所等の警察官が窓口となって取り扱っている。昭和61年に取り扱った遺失届は約241万件で、このうち通貨は約379億円、物品は約474万点であり、拾得届は約351万件で、このうち通貨は約141億円、物品は約720万点であった。拾得届のあった金品のうち、通貨については約67%、物品については約21%がそれぞれ落と

図3-1 落とし物の取扱状況(昭和57~61年)

し主に返還されている。最近5年間における落とし物の取扱状況は、図3-1のとおりである。

2 ふれあいを深める活動

(1) 身近な相談の機会、巡回連絡
 巡回連絡は、派出所等に勤務する外勤警察官が受持ち区域内の家庭や事業所等を戸別に訪問し、地域住民の良き相談相手となって要望や意見をくみ取り警察活動に反映させるとともに、警察からも犯罪や事故の防止等について必要な連絡を行う活動である。巡回連絡の際には、家族構成や非常の場合の連絡先等も尋ねており、災害や事故の発生時における緊急連絡や地理案内等に役立てている。最近は、共稼ぎ等による昼間不在家庭や居住者の移動の激しいアパート、マンションの増加等により、警察からの連絡が困難となっているため、派出所等の勤務員は、休日や夕方に巡回連絡を実施するなどして、住民とのコミュニケーションを図っている。
(2) 困りごと相談
 最近5年間の困りごと相談の受理件数の推移は、表3-7のとおりであり、また、昭和61年に受理した困りごと相談の内容は、表3-8のとおりである。
 警察では、これらの困りごと等についてできる限りの助言を行い、その解決に努めているが、他の行政機関等にゆだねるべきものについて

表3-7 困りごと相談の受理件数の推移(昭和57~61年)

表3-8 困りごと相談の内容(昭和61年)

は、その窓口の紹介や引継ぎを行うなど、相談の内容や相手の立場に応じた処理をしている。61年における困りごと相談の処理状況は、図3-2のとおりである。

図3-2 困りごと相談の処理状況(昭和61年)

(3) 地域に密着した「派出所、駐在所連絡協議会」
 警察では、派出所等を単位として、居住者の移動の激しいアパート、マンション等がある地域や、事件、事故等が多発している歓楽街等に、「派出所、駐在所連絡協議会」の設置を進めている。この協議会は、受持ち管内の自治会役員やアパート、マンションの管理人、商店街の役員等の地域の代表者から構成され、派出所等の勤務員が管内の問題や警察に対する意見、要望を聴き、また、警察からも防犯等に関する必要な助言を行い、地域ぐるみで犯罪や事故のないまちづくりを進めていこうとするものである。協議会は、昭和61年12月末現在で3,607箇 所に設置され、それぞれ地域に密着した活動を行っている。また、協議会が設置されていない派出所等では、その管轄区域ごとに、地域の抱える問題の中から重要なものを一つずつ順に取り上げ、警察官が地域の住民とともに解決を図っていく「一所管区一事案解決運動」を推進している。
(4) 独居高齢者等に対する保護活動
 昭和61年10月末現在、外勤警察官が巡回連絡等を通じて把握している65歳以上の独居高齢者は、約65万8,000人で、このうち、事件、事故の被害者になりやすいなどの理由で、警察官が警ら等の機会を利用して努めて立ち寄ることとしている要保護独居高齢者は、約17万7,000人となっている。また、高齢者夫婦あるいは高齢の兄弟姉妹だけで暮らしており、近所に住んでいる近親者等もなく、犯罪や事故の被害に遭いやすい65歳以上の二人暮らし世帯は、約9万4,000世帯となっている。
 警察では、これらの高齢者が安心して暮らしていくための支えとなるよう、巡回連絡等の際に高齢者世帯を計画的に訪問し、必要に応じて、防犯指導、困りごと相談、緊急時における連絡方法の教示、関係機関や親族への連絡等のきめ細かな世話活動や保護活動を推進しているほか、高齢者が困りごと等について気軽に警察に相談することができるような親近感の醸成に努めている。
〔事例〕 鹿児島県串木野警察署A派出所勤務員は、6月5日、かねてから巡回連絡を通じて面識のあった管内の独居高齢者(71歳、女性)宅を訪問したところ、台所付近から異常な煙が出ており、声を掛けても返事がなかったので、煙の出ている台所の方へ回り、同女が台所の床に倒れ、ガスコンロの火が鍋に燃え移っているのを発見した。A派出所勤務員は、直ちにガス栓を閉めて消火したため大事に至らなかったが、同女は、炊事中に目まいを起こして倒れ、失神状 態にあったことから、火災による惨事を引き起こす危険性は極めて高かった。
(5) 青少年健全育成活動
 外勤警察官は、少年の非行を防止し、その健全な育成に役立てようと、地域の青少年に対し、余暇を利用して、柔剣道をはじめとする各種スポーツや、書道、絵画等の文化活動を通じた青少年の指導活動を行っている。
〔事例〕 大分県玖珠(くす)警察署A駐在所管内は、兼業農家が多い農村地帯である。管内の農家では、昼間大人が家を留守にすることが多く、子供たちの放課後の行動が父兄にとって不安の種であった。そのような折、管内の数人の子供たちが、夏祭りに家の金を持ち出して浪費するという事案が発生し、このため、父兄らが集まって対策を話し合い、「子供に善悪の判断を付けさせ、悪い誘惑に負けない忍耐力を育てるには、スポーツが一番」という意見がまとまった。そこで、父兄らは、柔道指導の経験を有するA駐在所のB巡査部長にその指導を依頼し、これを受けた同巡査部長は、子供たちを相手に熱心な指導を続けた。その結果、スポーツ少年団が結成されるまでに至り、父兄から「子供たちが礼儀正しくなった」と喜ばれている。
(6) 地域の伝言板、「交番新聞」
 全国の派出所の82.6%、駐在所の94.7%に当たる派出所等では、ミニ広報紙を発行しており、その種類は、約1万4,300に上っている。これらの広報紙は、外勤警察官の手作りによるもので、管内の事件、事故の発生状況とその防止策、善行児童の紹介、住民の声等の身近な情報を伝える「交番新聞」として、地域住民とのふれあいを深める上で大きな役割を果たしている。
(7) 住民と警察を結ぶ音のかけ橋、警察音楽隊
 警察音楽隊は、皇宮警察及び各都道府県警察に48隊が置かれ、隊員は約1,800人であるが、そのほとんどの隊に、婦人警察官や交通巡視員等の女性隊員によるカラーガード隊が編成されている。
 隊員の多くは、警察業務に従事するかたわら、勤務の合間や非番の日を利用して厳しい訓練を重ね、警察が主催する防犯運動、交通安全運動等の各種行事や県、市町村等が主催する公的行事に出演しているほか、小、中学校等で開催される音楽教室や交通安全教室での演奏、福祉施設やへき地、島部での慰問演奏等を行い、音楽を通じて国民と警察とのふれあいを深め、親しまれる警察を目指して活発な活動を続けている。昭和61年には、全国各地で約8,000回の演奏活動を実施し、聴衆の数は約2,300万人に達した。
 また、警察庁では、31年から毎年、全国の主要都市において全国警察音楽隊演奏会を開催しているが、61年は、10月に大阪市において第31回大会を開催し、30隊、約1,300人が参加して市中パレード、ステージドリル、フロアードリルを行い、地元住民との交流を深めた。

3 初動警察活動

(1) 初動警察活動の中枢、通信指令室
 通信指令室は、110番通報を受理し、派出所等の警察官やパトカーに対して指令を発するセンターとして、全国の警察本部に置かれており、初動警察活動の中枢として重要な役割を果たしている。通信指令室では、殺人や強盗等の犯罪発生の110番通報を受けると、直ちにパトカーや派出所等の勤務員を現場へ急行させ、必要に応じて緊急配備や広域緊急配備を発令し、また、全国の警察本部にも通報するなど、警察官の緊

急かつ組織的な動員によって犯人の早期検挙に努めている。
(2) リスポンス・タイム
 昭和61年の110番集中地域(注)におけるリスポンス・タイム(通信指令室で110番通報を受理してから、パトカー等が目的地に到着するまでの所要時間をいう。)の全国平均は、5分30秒であった。
 刑法犯関係の事件に関するリスポンス・タイムと現場における犯人の検挙との関係をみると、表3-9のとおりで、3分未満に到着した場合には26.0%までを現場で検挙しており、リスポンス・タイムが短ければ短いほど、現場で犯人を検挙する確率が高い。
 なお、自動車台数の増加に伴い、交通の渋滞が激しくなり、リスポンス・タイムの短縮化が難しくなってきているが、通信指令室では、地図自動現示装置等の最新鋭機器の導入や派出所等の勤務員との連携強化を図り、その短縮化に努めている。
(注) 110番集中地域とは、その地域のどこから110番をしても自動的に警察本部の通信指令室につながる地域のことで、61年4月1日現在、全国の警 察署の81.1%に当たる1,002警察署の管轄地域が110番集中地域となっている。110番集中地域外では、110番すると所轄の警察署につながる。

表3-9 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと検挙の状況(昭和61年)

(3) 「110番の日」の設定
 110番は、事件、事故等の各種事案の早期解決に大きく寄与しており、また、国民の各種相談に応ずるための相談電話等110番以外の各種警察通報制度も、国民の日常生活における身近なよりどころとなっている。
 このため、110番やその他の警察通報制度がより一層効果的かつ積極的に利用されるよう、毎年1月10日を「110番の日」とし、110番通報制度の仕組み、機能、利用実態及び相談電話等各種警察通報制度について広報することとしている。

4 安全な地域社会を形成するための施策

 昭和61年の刑法犯の認知件数は、158万余件であり、前年に比べわずかに減少したものの、依然として高水準にある。
 警察では、このような犯罪情勢の中にあって、国民の期待と信頼にこたえるために、安全な地域社会を形成し、維持するための諸施策を推進している。
(1) 侵入盗等身近な犯罪の実態
ア 「ガラス破り」による侵入盗の増加
 侵入盗は、国民の日常生活に最も身近な犯罪で、殺人、強盗等の凶悪事件に移行するおそれが強い。過去10年間の侵入盗の認知件数は、年間30万件前後で推移しているが、犯人の侵入方法別状況は、表3-10のとおりで、「開け放し」、「施錠設備なし」、「錠破り」等が減少している反面、「ガラス破り」が著しく増加している。

表3-10 犯人の侵入方法別状況(昭和52、57、61年)

イ 増加する乗物盗
 過去10年間の乗物盗の認知件数の推移は、表3-11のとおりで、増加傾向が著しい。特に、オートバイ盗については、昭和61年の認知件数は17万1,973件であり、52年に比べ約3.3倍になっている。とりわけ、最近は、ミニバイクの被害が激増している。

表3-11 乗物盗の認知件数の推移(昭和52~61年)

(2) 侵入盗等身近な犯罪の防止対策
ア 盗犯防止重点地区活動
 住民に強い不安感を与える侵入盗の発生を防止するため、侵入盗の発生が多い地域を中心に、昭和52年から「盗犯防止重点地区」を指定しており、61年は、735地区(警察庁指定85地区、都道府県警察指定650地区)を指定した。これらの地域においては、地区住民代表、民間防犯団体役員、警察署の幹部等から成る推進協議会が設置され、地域住民と警察とが一体となった盗犯防止のための活動を進めている。
イ 防犯広報、防犯診断、防犯指導
 警察では、テレビ、ラジオ等のマスメディアを利用したり、パンフレット等を配布することにより、犯罪の実態に即応した効果的な防犯広報を実施している。
 また、侵入盗等の多発が予想される地域の家庭、事業所等を訪問し、家屋等の窓や出入口について防犯診断を行って、防犯上の不備、欠陥を指摘し、改善を促すなどの防犯指導を実施している。

 さらに、科学技術を活用した新しい防犯対策を展開するため、(財)全国防犯協会連合会及び各都道府県防犯協会の協力を得て、最新の防犯機器、システムをとう載した防犯キャラバン車を配備し、地域防犯活動の活性化を図っていくこととしている。61年度には、東京、埼玉、大阪及び大分の4都府県に防犯キャラバン車を配備した。

ウ 自転車防犯登録制度

 自転車の盗難防止と被害回復の迅速化を図るため、自転車防犯登録を実施しており、61年12月末現在、全保有台数の60%に当たる約3,479万台が登録されている。
 61年の盗難被害自転車の回復状況は、表3-12のとおりで、登録車の被害回復率は、未登録車に比べ10.1ポイント高い。

表3-12 盗難被害自転車の回復状況(昭和61年)

(3) 地域、職域における防犯活動
ア 安全なまちづくり
 犯罪が行われにくいまちづくりのためには、建造物等による死角空間を減らし、住民の視線が常に道路等の公共の場所に注がれるような工夫を進める必要がある。
 警察では、犯罪が行われにくいまちづくりのために必要な研究を進めており、その成果を基に、地域開発等の場において、防犯的視点からの提言を行っている。
〔事例〕 警察庁と科学警察研究所は、愛知県に全国で初めての防犯モ デル道路が設置されてから5年目に当たる昭和61年度に、定住圏構想推進調査の一環としてそのフォローアップ調査を実施した。その結果、防犯モデル道路の設定地区では、犯罪が減少していることが明らかになった。
イ 防犯協会、防犯連絡所の活動
 地域における防犯活動の担い手である防犯協会は、全国各地におおむね警察署単位で組織されており、警察と協力して地域における犯罪の予防、社会環境の浄化等犯罪のない安全なまちづくりのための活動を展開している。
 また、防犯協会の実践的な活動の中心である防犯連絡所は、61年12月末現在で68万5,524箇所(57世帯に1箇所)設置されており、地域における防犯活動の拠点として、事件、事故の通報、防犯座談会の開催等の活動を行っているほか、警察や防犯協会が作成した資料を住民に伝達するなど、警察と住民とのパイプ役を果たしている。
 さらに、警察では、これらの民間防犯活動の高まりを一層促進し、総合的防犯対策に反映させるため、法人化の推進、事務局の整備等防犯協会の体制強化を促進しており、61年12月末現在、46の都道府県防犯協会が法人化されている。
〔事例〕 防犯協会では、少年に社会参加の精神を養成するとともに、少年の健全育成を図ることを目的として、少年防犯隊を結成し、各種防犯活動に参加させて、地域住民の連帯意識の醸成と自主防犯意識の高揚を図っている(静岡)。
ウ 職域防犯団体の活動
 警察では、犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪の場となり又は犯罪のため利用されやすい業種、防犯活動や捜査活動に対して組織的な協力を行うことのできる業種等については、それぞれ職域防犯団体の結成を呼 び掛け、これらの組織による自主防犯活動の活発化を図っている。61年12月末現在の職域防犯団体の結成状況は、表3-13のとおりである。
 警察では、これらの団体に対し、研究会の開催、資料の配布等を通じて、業種に応じた防犯対策等についての助言や協力を行い、活動の促進を図っている。
〔事例〕 アパート、マンション等が侵入盗の被害に遭ったり、極左暴力集団の潜伏場所等になることを防ぐため、警察の呼び掛けにより、不動産業者による防犯協力団体が結成されたが、警察では、必要な情報や資料の提供を行うなど、この団体の活動に対し積極的な協力を行っている(警視庁)。

表3-13 職域防犯団体の結成状況(昭和61年12月)

エ 金融機関における防犯対策
 金融機関対象強盗事件は、近年増加傾向にあったが、61年は前年に引き続き減少した。このような事件は模倣性が強く、続発するおそれがあり、また、社会的影響も大きいことから、警察では、金融機関との連絡会議のほか、防犯診断、防犯パトロール等の際に、「金融機関の防犯基準」に基づき指導を行い、防犯意識の高揚を図るとともに、(財)日本防災通信協会等と協力して、管理体制、防犯設備の充実を促進している。
 金融機関の防犯設備の設置状況は、表3-14のとおりであり、逐年設 置率が増加している。しかしながら、金融機関によっては、依然として設置率が低いところもあり、その向上が今後の課題となっている。

表3-14 金融機関の防犯設備の設置状況(昭和61年10月)

オ 全国防犯運動の実施
 全国防犯運動は、防犯対策の総合的な推進を図るため、警察及び全国の関係団体等が一斉に同一の目標に向かって防犯活動を展開するものであり、52年から毎年行われている。
 61年の全国防犯運動は、盗難自動車等が他の犯罪の用に供される事案が多いこと、身近な犯罪として国民に強い不安感を与えている侵入盗が依然として多発していること、刑法犯で補導した少年の数が25万人に上り、なお戦後第3のピーク期を形成していることなどにかんがみ、自動車盗その他の乗物盗、侵入盗及び少年非行の防止を統一運動重点として、10月11日から20日までの10日間実施された。この間、全国各地で県民大会、巡回防犯広報、防犯診断、少年補導等が展開され、地域、職域における防犯意識の高揚に大きな役割を果たした。
(4) 警備業の健全育成
ア 警備業の現況
 警備業は、原子力発電所、空港等から一般家庭に至るまでの様々な施設における施設警備、工事現場等における交通誘導警備、祭礼等におけ る雑踏警備、現金、核燃料物質等の輸送警備、ボディーガード等幅広い分野に及んでおり、国民の自主防犯防災活動を支える「安全産業」として、社会に定着している。特に、一般家庭等に侵入感知機等のセンサーを設置して、基地局において事故の発生を警戒し、防止する機械警備業は、急速な発展を遂げており、国民の多種多様な需要にこたえている。
 昭和61年12月末現在、警備業者数は4,282業者、警備員数は18万8,554人で、前年に比べ273業者、1万8,531人それぞれ増加した。最近5年間の警備業者数、警備員数の推移は、表3-15のとおりで、一貫して増加傾向にある。

表3-15 警備業者数、警備員数の推移(昭和57~61年)

イ 警備業者等に対する指導、監督
 警察では、警備業が民間における防犯システムの一環として地域防犯活動、職域防犯活動と並んで重要な役割を果たしていることから、警備業務の実施の適正を確保するため、警備業法に基づき警備業者に対する指導、監督を行うとともに、警備業協会等を通じた行政指導を行うことにより、警備業の健全育成を進めている。
 また、業界の自主的努力を促すため、各都道府県警備業協会の法人化を促進しているが、61年には、北海道、宮城、栃木、埼玉、愛知及び広島の6道県の警備業協会が法人化された。この結果、法人化された警備業協会は、全国組織のものを含め、10団体となった。
ウ 警備員等に対する検定の実施
 警備員等に対する検定制度とは、警備業法に基づき、公安委員会が警備員又は警備員になろうとする者について、その知識及び能力に関する試験を行い、合格した警備員等が一定水準以上の知識及び能力を有することを公的に認める制度であるが、この制度が社会に定着することによって、警備業者が警備員の効果的な教育に努めるとともに、警備員等が自主的にその知識及び能力の向上に努めることが期待されている。
 検定の種別は、現在、空港保安警備、交通誘導警備、核燃料物質等運搬警備及び貴重品運搬警備の4種別であり、それぞれが1級と2級に区分されている。検定は、検定を受けようとする者の知識及び能力について、学科試験及び実技試験により判定することによって行われるものであるが、国家公安委員会が指定講習として指定した講習の課程を修了した者については、学科試験及び実技試験が免除されることとなっている。
 現在のところ、(社)全国警備業協会(以下「全警協」という。)が行う講習と(財)空港保安事業センター(以下「センター」という。)が行う研修が



それぞれ指定講習として指定されており、61年には、全警協の講習を1,739人が受講して554人がその課程を修了し、センターの研修を53人が受講して43人がその課程を修了した。
 検定に合格した者は、その旨を証する標章を用いることができることとされている。
(5) 優良な防犯機器の普及、推奨活動
 警察では、侵人盗等に対する自主防犯体制の整備、充実を図るため、優良な防犯機器の普及、推奨活動を行っている。
 住宅用開き扉錠については、「優良防犯機器型式認定制度」に基づき、昭和61年12月末までに30機種を優良な型式として認定し、広く一般に推奨している。
 また、近年発展が著しい防犯警報機やホームセキュリティ・システムの性能の向上と普及に努めるため、優良な機器、システムの研究、開発を関係業界等に働き掛けるほか、防犯設備に関連する事業を行う者によって61年に設立された(社)日本防犯設備協会等と連携しつつ、その性能に関する自主基準づくりや、防犯機器、システムの設置及び整備を行う者に関する資格制度の創設を促進している。
(6) 長寿社会総合対策の推進
 現在、我が国の社会は、急速に長寿社会に移行しつつある。このため、警察庁に「長寿社会総合対策委員会」を設置し、長寿社会における警察活動の在り方について検討した結果、昭和61年7月、犯罪や事故からの「高齢者の保護」と防犯運動や交通安全運動等における「高齢者の社会参加」を二本柱とする「長寿社会総合対策要綱」を策定した。警察では、同要綱に基づき、種々の長寿社会対策を行っているところである。
ア 長寿社会対策推進のための体制の整備
 すべての都道府県警察において、「長寿社会対策委員会」を設置し、 「長寿社会総合対策要綱」等の名称による警察活動の指針を設けて、地域の実情に応じた長寿社会対策を推進している。
 また、都道府県防犯協会、地区防犯協会等では、高齢者部会を設けるなど、高齢者の保護と社会参加を高齢者自身の立場から推進するための体制の充実を図っている。
イ 長寿社会対策の推進状況
(ア) 高齢者の保護
 警察では、高齢者の実態を把握し、その保護活動に役立てるため、高齢者宅の訪問活動や高齢者の意識調査を実施している。61年には、20の都道県警察が独居高齢者宅等に対する訪問活動要綱を制定し、15の県警察がシルバーデー、独居高齢者宅訪問日等を設定して、集中的に巡回訪問等の活動を行った。
 また、警察では、高齢者が犯罪や事故の被害に遭わないよう、各種パンフレットを配布しているほか、老人クラブ、老人ホーム等における防犯教室、防犯講習会等を開催している。
〔事例〕 高齢者に楽しみながら悪質商法の手口とその対応策を学んでもらうため、警察署の係員が出す悪質商法に関する問題を解きながら、各チェックポイントを通過してゴールインする「防犯オリエンテーリング」を市内の公園で催し、修了者には「修了証書」を交付した(香川)。
(イ) 高齢者の社会参加の推進
 警察では、高齢者の社会参加を促進するため、防犯関係団体の委員等への高齢者の委嘱を推進しており、61年には、防犯協会の役職員に1万6,530人、防犯連絡所責任者に14万6,527人、少年補導員等に6,264人、その他1万3,177人の合計18万2,498人を委嘱した。
 また、警察では、世代間の交流を通じ、高齢者がその知識と経験を生 かして青少年健全育成活動に当たるための様々な行事を行っているが、61年にこれらに参加した高齢者は、57万6,230人に上った。
(ウ) 長寿社会対策パイロット地区の設定
 警察では、62年度から、高齢化が進んでいる地区90地区を「長寿社会対策パイロット地区」に指定している。これらの地区においては、関係機関、団体等と協力し、高齢者を対象とした防犯座談会等を開催し、犯罪や事故の防止について啓発を行うとともに、希望者を募り、防犯運動、交通安全運動等に対する社会参加を推進している。

5 水上警察活動

 近年における犯罪情勢の変化は、陸上のみならず海上へも広がりつつあり、高速艇を利用した夜間における養殖魚介類の大量密漁事犯や船舶を利用した覚せい剤密売事件等は、依然として跡を絶たない現状にある。また、レジャー人口の増加とレジャースポーツの多様化は、水上(海上を含む。以下同じ。)にも広がり、それに伴い、モーターボート、ボードセーリング、スキューバダイビング等に伴う事故が増加している。
 警察では、水上における警察事象に的確に対処するため、全国の水上警察署、臨港警察署をはじめ、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する137警察署に警察船舶201隻を配備して、パトロール等による警戒、警備活動や各種事件、事故の検挙、取締り等に当たるとともに、訪船等による安全指導を積極的に行っている。また、各県における「水上安全条例」の制定を促進し、海、河川、湖沼等における水上交通の安全確保に努めている。水上警察体制を更に充実、強化するため、今後は、警察船舶の大型化、高速化及び無線設備の整備を図る必要がある。
 昭和61年の水上警察活動の状況は、犯罪検挙が502人、水難救助等の

保護が508人、変死人取扱いが488体、遭難船舶救助が190隻であった。最近5年間の水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移は、表3-16

表3-16 水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移(昭和57~61年)

のとおりである。
〔事例〕 8月14日午前8時19分ころ、福岡県大牟田警察署の警察船舶「ちくご」は、福岡県柳川市地先の有明海上において、貝けた網を海中に投網して赤貝等を密漁していた高速密漁船を発見し、被疑者5名を検挙した。

6 犯罪被害者等に対する救援活動

(1) 有効に機能している犯罪被害給付制度
 犯罪被害給付制度は、通り魔殺人や爆弾事件等故意の犯罪行為により、不慮の死を遂げた者の遺族又は身体に重大な障害を負った被害者に対して、社会の連帯共助の精神に基づき、国が給付金(遺族給付金及び障害給付金をいう。以下同じ。)を支給し、その精神的、経済的打撃の緩和を図ろうとして創設されたものであり、昭和56年1月1日から実施されている。
 遺族又は犯罪被害者からの給付金の申請状況、それに対する各都道府県公安委員会の裁定状況は、表3-17のとおりで、制度創設以来6年間における支給総額は約29億3,000万円、平均裁定額は約210万円となっている。
 また、61年に裁定が行われたものについて、申請から裁定までの所要日数をみると、約71%が6箇月以内であり、遺族や犯罪被害者の迅速な救済措置が図られている。
〔事例〕 5月9日、東京都内において、小学生(6)が、無職の男(46)に身の代金目的で誘拐、殺害された事件で、その遺族に対し、220万円の給付金を支給した(東京)。

表3-17 給付金の申請、裁定の状況(昭和56~61年)

(2) 充実、拡大する犯罪被害救援基金の活動
 (財)犯罪被害救援基金は、国の犯罪被害給付制度を補完し、充実させることを目的として、昭和56年5月に設立された。
 同基金は、国民各層から寄附された浄財を基本財産(60年度末決算で約34億円)として、犯罪被害遺児に対する奨学事業等の救援事業を行っており、基金設立以来61年12月末までに、787人の奨学生に対し、約2億7,000万円の奨学金を給与している。奨学金の月額については、これまで3回にわたり引上げを行い、月額7,000円(小学生)から2万5,000円(大学生)までを給与しているほか、入学一時金として、59年4月から、大学入学時に5万円、小学校入学時には7万円を、さらに、61年4月からは、高等学校及び中学校入学時にもそれぞれ3万円を給与しており、その救援活動は、ますます充実、拡大している。
 また、同基金では、重障害を受けた犯罪被害者に対する見舞金の給付事業も行っており、61年12月末までに、23人に対し、770万円を給付している。
〔事例〕 7月10日、静岡市内の会社員(35)が、サラ金の返済に窮した 男(53)らに殺害された事件で、被害者の長男(12)と次男(10)に、それぞれ月額7,000円の奨学金を給与している(静岡)。


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