第4章 少年非行の防止と少年の健全な育成

1 少年非行の現状

(1) 少年非行の概要
ア 依然として高水準で推移する少年非行
 戦後における少年非行の推移を主要刑法犯で補導した少年の人員、人口比(注)でみると、図4-1のとおりで、現在は、昭和40年代後半から始まる戦後第3の波の形成過程にあることが分かる。
(注) 人口比とは、同年齢層の人口1,000人当たりの補導人員をいう。

図4-1 主要刑法犯で補導した少年の人員、人口比の推移(昭和24~60年)

 警察が補導した非行少年等の数は、表4-1のとおりで、60年に刑法犯で補導した少年の数は、25万132人と前年に比べ1,592人(0.6%)増加した。また、不良行為少年は、ここ数年増加を続けていたが、60年は、147万7,134人と前年に比べ3万5,643人減少した。

表4-1 警察が補導した非行少年等の数(昭和59、60年)

イ 凶悪犯と粗暴犯は減少
 刑法犯で補導した少年の包括罪種別状況は、表4-2のとおりで、60

表4-2 刑法犯で補導した少年の包括罪種別状況(昭和59、60年)

年は、占有離脱物横領が増加したものの、凶悪犯、粗暴犯はいずれも減少し、特に、凶悪犯は、前年を189人下回って、戦後最低を記録した。
 凶悪犯の罪種別状況は、表4-3のとおりで、他の罪種がすべて減少した中で、殺人が激増し、前年に比べ24人(31.6%)増加した。
〔事例〕 児童福祉センターに入所中の女子中学生(14)ら2人は、脱走を企て、同センターのかぎを保管している保母(36)を睡眠中に絞め殺した上、現金等を強取した(愛知)。

表4-3 凶悪犯で補導した少年の罪種別状況(昭和59、60年)

 粗暴犯の罪種別状況は、表4-4のとおりで、60年は、前年に比べ、傷害が8.2%、暴行が6.0%それぞれ減少したのに対し、脅迫が93.0%大幅に増加した。

表4-4 粗暴犯で補導した少年の罪種別状況(昭和59、60年)

 窃盗犯の手口別状況は、表4-5のとおりで、60年は、万引きが35.9%を占めて最も多く、前年に比べ2,394人(3.6%)増加したのが目立つ。

表4-5 窃盗犯で補導した少年の手口別状況(昭和59、60年)

ウ 3分の2を占める初発型非行
 万引き、オートバイ盗、自転車盗、占有離脱物横領の初発型非行は、動機が単純であり、問題性も比較的小さいが、暴力非行、性非行、薬物乱用等の本格的な非行へ移行する危険性が高い非行形態である。
 60年に初発型非行で補導した少年の数は、16万1,310人で、前年に比べ2,564人(1.6%)増加した。これは、刑法犯で補導した少年全体の64.5%を占めており、これまで最高であった58年の64.4%を0.1ポイント上回っている。過去10年間の初発型非行で補導した少年の数の推移は、表4-6のとおりで、ここ数年横ばい状態にある。
エ 非行の主役は中学生
 60年に刑法犯で補導した少年の学職別状況は、図4-2のとおりで、中学生が11万9,736人と最も多く、刑法犯で補導した少年全体の47.9%

表4-6 初発型非行で補導した少年の数の推移(昭和51~60年)

を占めている。
 60年に刑法犯で補導した少年の年齢別状況は、図4-3のとおりで、14歳が5万2,979人(21.1%)と最も多く、次いで15歳(20.3%)、16歳(16.4%)の順となっている。

図4-2 刑法犯で補導した少年の学職別状況(昭和60年)

図4-3 刑法犯で補導した少年の年齢別状況(昭和60年)

オ 増加を続ける無職少年
 60年に刑法犯で補導した無職少年は、2万3,838人で、前年に比べ706人(3.1%)増加した。過去10年間の刑法犯で補導した無職少年の数の推移は、表4-7のとおりで、55年以降一貫して増加を続け、60年は、51年の約2倍となっている。また、60年に殺人で補導した少年100人のうち、45人が無職少年であり、無職少年の凶悪、粗暴な事件が目立っている。

表4-7 刑法犯で補導した無職少年の数の推移(昭和51~60年)

(2) いじめ問題
ア いじめに起因する事件、自殺
(ア) いじめに起因する事件
 警察が処理したいじめに起因する事件の罪種別認知状況は、表4-8のとおりである。昭和60年の処理件数は、638件で、傷害が224件(35.1%)と最も多く、次いで恐喝が165件(25.9%)、暴行が92件(14.4%)となっている。このうち、いじめの仕返しによる事件は、49件で、放火が5件、殺人未遂が3件発生している。
 いじめに起因する事件で補導した少年の生徒別状況は、表4-9のとおりで、60年は、1,950人と前年に比べ30人(1.6%)増加しており、特に、小学生が45人(112.5%)大幅に増加している。1,950人のうち、いじめの仕返しによる事件で補導した少年は、157人で、前年に比べ87人(124.3%)大幅に増加している。

表4-8 いじめに起因する事件の罪種別認知状況(昭和59、60年)

表4-9 いじめに起因する事件で補導した少年の生徒別状況(昭和59、60年)

(イ) いじめが原因とみられる自殺
 いじめが原因で自殺した少年の状況は、表4-10のとおりである。60年は、少年の自殺が戦後最低を記録したが、いじめが原因で9人が自殺し、前年に比べ2人増加した。これらの事案の中には、いじめられているのを知りながら、教師等少年の周囲の者が適切な措置を採らなかった ものもみられる。

表4-10 いじめが原因で自殺した少年の状況(昭和59、60年)

〔事例〕 中学2年生の男子(14)は、約1年間にわたって、同級生や同校の卒業生らに殴るけるの暴行を受けたり、金を脅し取られたりしていじめられたため、耐えきれなくなって自殺した(青森)。
イ いじめの原因、動機
 60年のいじめに起因する事件(638件)のいじめの原因、動機別状況は、表4-11のとおりで、「腹いせ」が307件と最も多く、次いで「面白半分、からかい」が286件、「異和感」が34件となっている。

表4-11 いじめの原因、動機別状況(昭和60年)

ウ いじめられた少年の行動
 60年のいじめられた少年(1,258人)の行動は、表4-12のとおりで、「保護者等に話した」が456人と最も多く、次いで「だれにも話さずじっと我慢していた」が451人、「学校の教師に話した」が269人となっている。

表4-12 いじめられた少年の行動(昭和60年)

 相談を受けた教師や保護者等の対応は、図4-4及び図4-5のとおりで、警察に連絡したものがそれぞれ過半数を占めている。

図4-4 相談を受けた教師の対応(昭和60年)

図4-5 相談を受けた保護者等の対応(昭和60年)

 また、いじめられて仕返しをしたり、いじめが原因で非行を誘発された少年(115人)のいじめられていたときの感想に関する科学警察研究所の調査結果は、表4-13のとおりである。これによると、死にたいと考えた者、いじめていた相手を殺してやりたいと考えた者がそれぞれ約1割を占めており、また、相手を殺すとまではいかないが、ひどい目に遭わせたいと考えたり、学校や職場を休みたいと考えた者がそれぞれ過半数を占めており、いじめられた少年は、心理的にかなり圧迫されて非行に走っていることが分かる。

表4-13 いじめられて仕返し等をした少年のいじめられていたときの感想(昭和60年6、7)

〔事例〕 中学1年生の男子(13)は、成績も上位でスポーツ万能であったことから、「いい子ぶっている」と言われ、同級生に持ち物を隠されたり、顔をたたかれるなど、約半年にわたっていじめられたため、心因症に陥った(徳島)。
(3) 暴力非行
ア 校内暴力
 警察が処理した校内暴力事件の状況は、表4-14のとおりで、昭和60年の処理件数は、1,492件と前年に比べ191件(11.3%)減少し、55年以降最も少ない件数となった。
 校内暴力事件のうち、特に問題の多い対教師暴力事件(教師に対する暴力事件をいう。以下同じ。)の推移は、表4-15のとおりで、58年をピークに減少傾向を示している。しかし、60年には初めて死亡事件が発生し、また、処理件数も53年の3.5倍と依然として多いことなどから、対教師暴力事件については、今後ともその推移に注意を払う必要がある。

表4-14 警察が処理した校内暴力事件の状況(昭和59、60年)

表4-15 対教師暴力事件の推移(昭和53~60年)

〔事例〕 中学3年生の男子(15)は、クラスメート3人とともに飲酒した上、授業を抜け出し、日ごろ生活指導を受けている教師(24)が授業をしている教室に入り、いやがらせをしようと机の上から足で同教師の頭部を強打し、死亡させた(青森)。
イ 家庭内暴力
 60年に少年相談等を通じて警察が把握した家庭内暴力を行った少年の数は、1,107人で、前年に比べ24人(2.1%)減少した。しかし、殺人事件が3件も発生するなど、内容的には凶悪の度を強めている。
 家庭内暴力の対象別状況は、表4-16のとおりで、母親が60.5%と最も多い。また、家庭内暴力の原因、動機別状況は、表4-17のとおりで、「しつけ等親の態度に反発して」が49.9%と最も多い。

表4-16 家庭内暴力の対象別状況(昭和60年)

表4-17 家庭内暴力の原因、動機別状況(昭和60年)

〔事例〕 中学を卒業してから職に就かないで遊んでいた少年(15)は、両親からたびたび就職するように言われたことなどに憤慨し、自宅にあったまさかりで両親を殺害した上、近くに居合わせた妹をも襲い、意識不明の重傷を負わせた(北海道)。
ウ 暴走族
 暴走族少年の補導状況は、表4-18のとおりで、60年に犯罪少年として補導された少年は、3,703人と前年に比べ331人(8.2%)減少した。これは、地域ぐるみの暴走族対策が効果を上げているためとみられる。

表4-18 暴走族少年の補導状況(昭和59、60年)

(4) その他の非行形態
ア 薬物乱用
(ア) シンナー等の乱用
 昭和60年にシンナー等の乱用で補導した少年の数は、4万3,713人で、前年に比べ2,923人減少した。シンナー等の乱用で補導した少年の学職別、男女別補導状況は、表4-19のとおりで、無職少年が増加したほかはすべて減少している。
(イ) 覚せい剤事犯
 60年に覚せい剤の乱用等で補導した少年の数は、2,062人で、前年に比べ490人(19.2%)減少した。覚せい剤の乱用等で補導した少年の学職別、男女別状況は、表4-20のとおりで、学職別にみると、無職少年 が1,319人(64.0%)と最も多く、次いで有職少年が618人(30.0%)、学生・生徒が125人(6.1%)となっている。また、男女別にみると、女子の割合が43.0%となっており、60年に刑法犯で補導した少年全体に占める女子の割合(17.8%)に比べ、極めて高いことが注目される。

表4-19 シンナー等の乱用で補導した少年の学職別、男女別状況(昭和59、60年)

表4-20 覚せい剤乱用少年の学職別、男女別状況(昭和59、60年)

イ 女子の性非行
 過去10年間の性非行で補導した女子(注)の数の推移は、表4-21のとおりで、52年以降59年までは毎年増加してきたが、60年は、9,402人と前年に比べ411人(4.2%)減少した。これは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営適正化法」という。)の施行(60年2月13日)を契機として、少年を取り巻く社会環境が少年に及ぼす影響について、国民の関心が高まったためであるとみられる。
(注) 性非行で補導した女子とは、売春防止法違反事件の売春をしていた女子少年、児童福祉法違反(淫(いん)行させる行為)事件、青少年保護育成条例違反(みだらな性行為)事件、刑法上の淫(いん)行勧誘事件の被害女子少年、ぐ犯少年のうち不純な性行為を行っていた女子少年及び不良行為少年のうち不純な性行為を反復していた女子少年をいう。

表4-21 性非行で補導した女子の数の推移(昭和51~60年)

表4-22 性非行で補導した女子の学職別状況(昭59、60年)

表4-23 女子の性非行のきっかけ、動機別状況(昭和59、60年)

 性非行で補導した女子の学職別状況は、表4-22のとおりで、無職少年が3,281人(34.9%)と最も多く、次いで中学生が2,402人(25.5%)、高校生が2,303人(24.5%)となっており、中学生と高校生で半数を占めている。これを前年と比べると、無職少年が増加したほかは、すべて減少している。
 女子の性非行のきっかけ、動機別状況は、表4-23のとおりで、きっかけについてみると、「自ら進んで」が全体の約6割を占めており、動機についてみると、「興味(好奇心)から」が4,241人(45.1%)と最も多く、次いで「遊ぶ金が欲しくて」が1,772人(18.8%)となっており、最近の社会一般の享楽的風潮や性の商品化傾向が悪影響を及ぼし、性にまつわる問題が深刻化していることがうかがえる。
〔事例〕 喫茶店をたまり場にしていた無職少女(17)ら5人は、店で知り合った暴力団員に「金が欲しかったら相手を紹介してやるぞ」と言われ、小遣い欲しさに売春し、それによって得た金を遊興費に充てていた(愛知)。
ウ 不良行為少年
 60年に警察が補導した不良行為少年の数は、147万7,134人で、前年に比べ3万5,643人(2.4%)減少した。その態様別状況は、図4-6のとおりで、喫煙が40.1%と最も多く、次いで深夜はいかい、暴走行為の順となっている。過去8年間の不良行為少年の数の推移は、表4-24のとおりで、8年間で約1.8倍と大幅に増加しており、内容的には、深夜はいかい、飲酒等そのまま放置すれば本格的な非行に発展したり、少年の福祉を害する犯罪の被害に遭う可能性の高いものの増加が目立っている。

図4-6 不良行為少年の態様別状況(昭和60年)

表4-24 不良行為少年の数の推移(昭和53~60年)

(5) 少年の家出、自殺
ア 家出
 昭和60年に警察が発見し、保護した家出少年は、5万584人で、前年に比べ449人(0.9%)減少した。家出少年の学職別、男女別状況は、表4-25のとおりで、学職別では、中学生が41.1%と最も多く、また、男女別では、女子が53.5%と過半数を占めており、ここ数年この傾向が続いている。

表4-25 家出少年の学職別、男女別状況(昭和59、60年)

 また、60年の春と秋の全国家出少年発見保護強化月間中に保護した家出少年のうち、9人に1人(男子の場合は6人に1人)が非行に走り、19人に1人(女子の場合は11人に1人)が犯罪の被害者となっている。
イ 自殺
 60年に警察が把握した少年の自殺者は、557人で、戦後最低を記録した前年を更に15人(2.6%)下回った。これを男女別にみると、男子が388人(69.7%)、女子が169人(30.3%)となっており、また、学職別にみると、高校生が155人(27.8%)と最も多い。自殺した少年の原因、動機別状況は、表4-26のとおりで、前年に比べ、学校問題で自殺した少年が増加したのが目立つ。

表4-26 自殺した少年の原因、動機別状況(昭和59、60年)

2 少年非行対策の推進

(1) 関係機関、関係団体、地域社会、民間ボランティアとの連携
 少年の健全な育成に資するための活動を効果的に推進していくためには、警察が、関係機関、関係団体、地域社会、民間ボランティアと密接に連携し、少年の健全な育成についての社会全体の気運を盛り上げることが必要である。
 児童、生徒の非行や校内暴力を防止するためには、学校と密接に連携する必要があるため、全国の小学校、中学校、高校の約9割に当たる約4万校の参加を得て、約2,300組織の学校警察連絡協議会が結成されている。また、警察と職場とが緊密に連携して、勤労少年の非行を防止し、その健全な育成に努めることを目的として、全国で約900組織の職場警察連絡協議会が結成されている。
 これらの関係機関、関係団体との連携のほか、地域社会と一体となった総合的な非行防止運動を展開するため、昭和54年から「青少年を非行からまもる全国強調月間」が行われ、定着した運動となっている。
 また、少年を善導するためには、地域ぐるみのきめ細かな対処が必要であり、少年指導委員、少年補導員等の地域の民間ボランティアによる適切な助言や指導が幅広く行われている。
 風営適正化法の施行により、民間ボランティアとして、全国で約1,900人の少年指導委員が都道府県公安委員会から委嘱されている。少年指導委員は、少年を有害な風俗環境の影響から守るために、少年補導活動、風俗営業等への協力要請活動等を行い、地域における少年の非行防止意識の高揚に努めている。このほか、警察の委嘱を受けて活動している民間ボランティアに

は、少年補導員、少年警察協助員がある。少年補導員は、全国で約5万7,500人が委嘱され、地域における一般的な非行防止活動に従事し、少年警察協助員は、全国で約1,100人が委嘱され、非行集団の解体補導活動に従事している。
(注) 少年補導員、少年警察協助員の人員、学校警察連絡協議会、職場警察連絡協議会の組織数は、60年4月15日現在のものであり、少年指導委員の人員は、60年6月15日現在のものである。
〔事例〕 ゲームセンターで喫煙する少年が目立ったことから、少年指導委員は、ゲームセンターの経営者に対し、少年の利用時間には灰皿を置かないように要請し、効果を上げている(京都)。
(2) 少年補導活動
 少年の非行は、芽のうちに摘み取り、再び非行に陥らせないようにすることが最も大切である。警察では、日ごろから、少年係の警察官、婦人補導員等を中心に、盛り場、公園等非行の行われやすい場所で街頭補導を実施している。特に、少年が非行に陥る可能性の高い春季、夏季、年末年始には、少年補導活動を強化している。
 非行少年を発見したときは、少年の特性に十分配慮し、保護者、教師等と連絡を取りながら、非行の原因、背景、少年の性格、交友関係、保護者の監護能力等を検討し、再非行防止のための少年の処遇についての意見を付して関係機関等に送致、通告するなどの措置を採っている。また、不良行為少年については、警察官等がその場で適切な注意や助言を与えたり、必要な場合には、保護者等に対し、適切な指導や助言を行っている。
(3) 少年相談活動
 警察では、少年の非行、家出、自殺等を未然に防止し、また、その兆候を早期に発見するために、少年相談の窓口を設けている。自分の悩みや困りごとを親や教師に打ち明けることができない少年や、子供の非行、不良行為の問題で悩む保護者等から相談を受けて、経験豊かな少年係の警察官、婦人補導員、心理学を履修した専門家が適切な指導や助言を行っている。また、国民がこの制度をより簡便に利用できるように、全国の都道府県警察では、ヤング・テレフォン・コーナー等の名称で電話による相談業務を行っている。
 昭和60年に警察が受理した少年相談の状況は、表4-27のとおりで、相談件数は、11万9,430件と前年に比べ9,611件(8.8%)増加した。これを相談者別にみると、保護者等からの相談が58.2%、少年からの相談が41.8%となっている。相談を寄せた少年を学職別にみると、中学生、高校生が多く、また、女子が男子を上回っている。

表4-27 警察が受理した少年相談の状況(昭和60年)

 少年相談の内容は、図4-7のとおりで、非行のほか、家庭、健康、交友等様々な問題に及んでいる。特に、いじめに関する相談は、5,825件と前年に比べ3,932件(107.7%)大幅に増加し、いじめに悩む少年の多いことがうかがえる。

図4-7 少年相談の内容(昭和60年)

(4) いじめに起因する事件、自殺の防止
 社会問題化しているいじめ問題に対応するため、警察では、ヤング・テレフォン・コーナー等の名称で行っている電話相談を活用するよう呼び掛けたり、新たにいじめ相談コーナーを開設するなど、少年相談の体制を強化し、いじめ事案の早期発見に努めている。こうした活動を通じて把握したいじめについては、事態が悪化しないうちに、学校や家庭にできるだけ早く連絡するなど、これらとの緊密な連携によって、いじめ事案の解消に努めている。
 また、事案の内容が悪質で看過できないものについては、刑事事件として措置している。
 さらに、いじめ防止パンフレット「いじめ みなさんのまわりでは」を作成し、これを活用して、学校警察連絡協議会、非行防止教室、非行防止座談会等を通じ、学校、家庭、地域社会におけるいじめを排除する気運の醸成に努めている。

〔事例〕 中学3年生(15)の母親は、顔をはらして帰宅した息子にその原因を問いただしたところ、高校進学を目指して勉強しているのをねたんだ突っ張りグループによってプールに突き落とされたり,殴られるなど、数箇月にわたっていじめられていたことが分かったので、警察に相談した。警察では、直ちに事情を調査し、いじめていた突っ張りグループの少年3人を補導したため、いじめは解消した(警視庁)。
(5) 少年の規範意識の啓発
 警察では、少年非行の解決に資するため、少年に社会や集団の一員としての自覚を持たせ、その規範意識を啓発する目的で、次のような活動を行っている。
ア 少年柔剣道活動
 少年の克己心や自立心をはぐくむとともに、少年に社会的ルールを身に付けさせるため、警察では、警察署の道場を開放して地域の少年たちに柔道や剣道の指導を行うなど、体育・スポーツ活動を幅広く推進している。昭和60年には、これらの活動は、1,000以上の警察署において、約12万人の少年を対象として実施された。
イ 少年の社会参加活動
 警察では、少年に主体的に社会とのかかわりを持たせることによって、社会を構成する一員としての自覚を促すため、関係機関、関係団体、地域社会と協力しながら、明るいまちづくり運動、社会奉仕活動、生産体験活動、文化伝承活動等の少年の社会参加活動を推進している。60年には、延べ約273万人の少年が、これらの活動に参加した。
ウ 少年を非行から守るパイロット地区活動
 警察では、少年を非行から守る必要性の高い地域を「少年を非行から守るパイロット地区」に指定している。60年度には、全国で200箇所の地域を指定し、家庭、学校、地域社会の協力の下に、主に小学校高学年と中学生を対象にして、非行防止ハンドブック等を利用し、非行防止のための教室や座談会を開催している。60年度には、延べ約197万人の少年の参加を得て、約1万1,000回の非行防止教室が開催された。
(6) 少年を取り巻く社会環境の整備
ア 地域ぐるみの環境浄化活動
 警察では、少年を取り巻く社会環境を浄化するため、環境浄化重点地区活動を実施している。昭和60年度には、全国で282地区を「少年を守る環境浄化重点地区」に指定した。これらの地区では、地域住民や民間ボランティアが中心となって、有害図書自動販売機の撤去運動、白ポスト運動、環境浄化住民大会、「少年を守る店」の設定等の環境浄化活動を推進している。
イ 関係業界への協力要請
 警察では、57年1月から「少年非行の総量抑制対策」を実施し、初発型非行を行いやすくしている環境を是正するよう関係業界に働き掛けている。デパート、スーパー・マーケット等に対しては、商品の陳列方法の改善や保安体制の強化、さらに監視ミラーや監視カメラ等の防犯施設の充実等による万引きを行いにくい環境の整備を要請し、また、自転車販売業者に対しては、自転車等の乗り逃げを防止するため、防犯登録や効果的な施錠の勧奨等について協力を要請し、自治体、駅等に対しては、自転車置場、駐車場等の整備とその適切な管理を要請している。
 さらに、最近効果を上げてきているシンナー等の取扱業者による自主規制について、警察では、一層の徹底を業者に対して要請している。
 また、出版関係業界との懇談会において、少年非行の実情と有害な図書等の影響を受けたと思われる非行事例を紹介するなど、少年に有害な図書等の出版、販売を自粛するよう要請している。
ウ 法令による取締り
(ア) 風俗を害する犯罪の取締り
 善良の風俗を害する犯罪は、少年の健全な育成に悪影響を与えている。警察では、刑法、風営適正化法、売春防止法等の法令により、積極的な取締りに努めている。
(イ) 少年の福祉を害する犯罪の取締り
 売春や人身売買等の少年の福祉を害する犯罪は、少年の健全な育成を著しく阻害している。警察では、その積極的な取締りと被害少年の早期発見、保護に努めているが、60年に少年の福祉を害する犯罪で被害を受 けた少年(以下「福祉犯被害少年」という。)は、2万1,592人で、前年に比べ32人(0.1%)増加した。過去10年間の福祉犯被害少年の数の推移は、表4-28のとおりで、60年は、過去10年間で最高を記録し、51年の1.3倍となっている。

表4-28 福祉犯被害少年の数の推移(昭和51~60年)

 一方、少年の福祉を害する犯罪の法令別検挙状況は、表4-29のとおりで、60年は、青少年保護育成条例違反(みだらな性行為の禁止、有害図書の販売の制限等)が49.7%と最も多く、次いで風営適正化法違反(年少者に対する禁止行為)、児童福祉法違反(児童に淫(いん)行させる行為の禁止等)の順になっており、前年に比べ、売春防止法違反と労働基準法違反

表4-29 少年の福祉を害する犯罪の法令別検挙状況(昭和59、60年)

が増加しているのが注目される。
 60年に少年の福祉を害する犯罪で検挙した暴力団員の数は、1,722人で、特に、「人身売買」、「中間搾取」、「売春をさせる行為」、「淫(いん)行をさせる行為」については、暴力団員の占める割合が高く、悪質な内容のものが多い。
〔事例〕 芸能プロダクションの社長(44)は、芸能界にあこがれ、同社を頼って家出した少女らを「芸能界で身を立てるには、社会の裏側まで知っておく必要があるし、金もかかる。ソープランドで働いてみないか」などと言葉巧みにだまし、ソープランドで働かせた上、少女らの賃金の一部を自己の遊興費に充てていた(茨城)。
(ウ) 有害図書等の取締り
 46都道府県で制定されている青少年保護育成条例は、青少年に有害なものとして知事が指定した興行、図書、広告物等を青少年(18歳未満の者)に観覧、閲覧させたり、販売、掲示したりすることを禁止している。60年の図書等の有害指定件数は、表4-30のとおりである。

表4-30 青少年保護育成条例による図書等の有害指定件数(昭和60年)


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