第9章 警察活動のささえ

1 警察職員

 我が国の警察組織は、都道府県を単位とし、都道府県公安委員会の管理の下に警察職務を直接執行する都道府県警察が置かれている。また、これら都道府県警察を国家的、全国的な立場から指導監督し、又は調整する国の警察機関として、国家公安委員会の管理の下に警察庁が置かれている。
 警察庁及び都道府県警察に勤務する警察職員は、警察官、皇宮護衛官、事務職員、技術職員等で構成され、これらの職員が一体となって警察職務の遂行に当たっている。
 また、婦人警察官、婦人交通巡視員、婦人補導員等の婦人職員は、交通安全教育、駐車違反の取締り、少年補導、要人警護、犯罪捜査等多方面の業務に従事している。
 警察が治安維持の責務を全うするためには、すべての警察職員が職責を自覚して職務に精励することが必要である。昭和59年においては、警察職員による銀行強盗事件(兵庫)や偽造運転免許証不正交付事件(秋田)が発生したが、この種の不祥事案の再発を防止するため、職業倫理の確立のための教養の徹底、職員に対する生活指導の充実、優れた人材の採用等を通じて、国民の期待にこたえ得る警察組織の確立に全力を挙げている。
(1)定員
 警察職員の定員は、昭和59年12月末現在総数25万3,625人で、その内訳は、表9-1のとおりである。

表9-1 警察職員の定員(昭和59年)

 59年度には、都道府県の警察官が560人増員され、警察官1人当たりの負担人口は、全国平均で553人となった。これを欧米諸国と比較すると、図9-1のとおりで、我が国の警察官の負担は著しく重いので、今後とも警察力の整備に努める必要がある。

図9-1 警察官1人当たりの負担人口の国際比較(昭和59年)

(2)採用
 警察官の採用については、それにふさわしい能力と適性を有する優秀な人材の確保に努めている。昭和59年度に都道府県警察の警察官採用試験に応募した者は約7万6,200人で、合格した者は約9,200人(うち、大学卒業者は約3,900人)となっており、競争率は約8.3倍であった。
(3)教養
 警察官は、逮捕、武器使用等の実力行使の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に事案を処理しなければならない場合も多いので、職務執行の適正を期するため一人一人の警察官に対して十分な教育訓練を行うことが必要である。このため、警察では、警察学校において、新しく採用した警察官に対する採用時教養、幹部昇任者に対する幹部教養、専門分野に応じた各種の専科教養等を実施しているほか、あらゆる機会を通じて各人の能力や職種に応じたきめ細かな教養を行っており、職責の自覚、社会人としての円満な良識のかん養と各種警察活動に必要な知識、技術の習得を図っている。また、職業倫理の基本を示すものとして「警察職員の信条」を制定するなどして、倫理教養の徹底を図り、職業倫理の確立と使命感の醸成に努めている。
 なかでも、採用時教養については、特に力を入れており、都道府県警察学校での全寮制による教養や警察署での職場実習を計画的に実施しているところである。昭和55年からは、人間教育を一層充実させることなどを目的として、従来の課程を再編成するとともに教養期間を延長した新しい採用時教養を導入し、59年12月末現在学校施設等の条件の整備された28県がこれに移行している。今後も、引き続き新しい採用時教養への移行を推進することとしている。
 また、警察官の体力、気力を養い、職務執行に必要な各種の技能を向上させるため、柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法等の術科訓練に力を入れるとともに、全国警察駅伝競走大会の実施等警察官の走力、持久力等の基礎体力を充実、向上させるための各種の施策を推進している。
(4)勤務
ア 制度
 警察の果たすべき治安維持の責務は、昼夜を分かたぬものであるので、24時間警戒態勢を確保するため、外勤警察官をはじめ、全警察官の4割以上は、通常、3交替制で3日に1度の夜間勤務を行っている。交替制勤務者以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは、6日に1度程度の割合で深夜勤務に従事している。また、突発事件、事故の捜査等のため勤務時間外に呼び出されることも少なくない。
 このため、警察官の勤務条件、給与、諸手当その他の待遇については、常に改善を検討しており、これまで、拘束時間の短縮、駐在所勤務員の複数化、派出所等の勤務環境の改善、階級別定数の是正、4週5休制の実施等が図られてきた。
イ 警察官の殉職、受傷及び協力援助者の殉難、受傷
 警察官は常に身の危険を顧みず職務遂行に当たっているので、職に殉じたり、公務により受傷したりすることが少なくない。昭和59年に、職に殉じて公務死亡の認定を受けた者は23人(前年比1人増)、公務により受傷した者は6,328人(前年比39人減)となっている。これらの被災職員又はその家族に対しては、公務災害補償制度による補償をはじめ各種の援護措置が採られている。
 また、59年に、民間人で現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して災害を受けた者は、死者11人(前年比5人減)、受傷者30人(前年比2人減)となっている。これらの被災者又はその家族に対しても警察官の公務災害の場合とほぼ同様の給付や援護措置が採られている。
〔事例1〕 7月10日、目白警察署のパトカー乗務員米良浩一警部補(28)は、「不審者逃走中」との急報を受理し、付近を検索中、手配の人相に酷似した男が逃走していくのを発見したので停止を求めたところ、抵抗され、男と格闘となり、男が隠し持っていた刃物で胸部等を刺され殉職した(警視庁)。
〔事例2〕 5月12日夜、帰宅途中の店員(28)は、東武鉄道春日部駅構内において、線路上に転落した男性を見つけ、線路に飛び降りて救出しようとしたが間に合わず、自らも電車にひかれて即死した。この殉難者の遺族に対しては、葬祭給付約38万円及び遺族給付一時金約591万円が給付された(埼玉)。

2 予算

 警察予算は、国の予算に計上される警察庁予算と各都道府県の予算に計上される都道府県警察予算とで構成される。警察庁予算の約7割は「国費」であり、残りは都道府県警察に対する「補助金」であるが、「国費」も警察庁、管区警察局等国の機関に必要な経費だけでなく、都道府県警察が使用する警察車両やヘリコプターの購入費、機動隊庁舎や警察学校の増改築費、特定の重要犯罪の捜査費等都道府県警察に要する経費を含んでいる。
 昭和59年度の国の予算編成においては、厳しい財政事情を反映して、「対前年度比、経常部門経費10パーセント減、投資部門経費5パーセント減」、「補助金等の一律10パーセント・カット」という2年連続のマイナス・シーリングが設定された。こうした状況にあっても、警察庁としては、治安水準の低下が生じないよう、警察力の充実(地方警察官、国家公務員の増員)、刑事警察体制の強化(刑事企画課の新設)、指紋業務のコンピュータ化の計画的推進、第一線警察装備の整備(ヘリコプターの増強等)等の施策について、重点的に措置している。59年度の国の一般会計予算は、増額補正が行われ、補正後の警察庁予算は総額1,566億4,800万円で、前年度に比べ2億7,000万円(0.17%)増加(国の一般会計予算総額は1.3%増加)し、国の一般会計予算総額の0.30%を占めている。その内容は、図9-2のとおりである。
 なお、59年度においては、全斗煥大韓民国大統領来日に伴う警備活動に必要な経費(7億8,800万円)及び警察通信の緊急整備に必要な経費(30億4,900万円)について予備費の使用が認められた。
 また、59年度の都道府県警察予算は、各都道府県の財政事情、犯罪情 勢等を勘案して作成されているが、その総額は1兆9,489億1,100万円で、前年度予算に比べ591億300万円(3.1%)増加し、都道府県予算総額の6.8%を占めている。その内容は、図9-3のとおりである。
 警察庁予算と都道府県警察予算の合計額(重複する補助金額を控除した額)を国の人口で割ると、国民1人当たり1万7,300円となる。

図9-2 警察庁予算(昭和59年度補正後)

図9-3 都道府県警察予算(昭和59年度最終補正後)

3 装備

(1)車両
 警察車両には、捜査用車、鑑識車、捜査本部用車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ、交通事故処理車等の交通警察活動用車両、警らパトカー、移動交番車等の外勤警察活動用車両、各種の事象に出動するための輸送用車両があり、これ以外にもそれぞれの用途に応じて使用する投光車、レスキュー車、災害対策活動用車、爆発物処理車等の特殊車両がある。現有警察車両の用途別構成は、図9-4のとおりである。

図9-4 警察車両の用途別構成(昭和59年度)


 昭和59年度は、前年度にも増して厳しい財政事情にあったことを考慮して、老朽車両の重点的減耗補充を図ることを主眼として整備することとし、新規車両の増強整備については、58年度中に供用が開始された高速道路用の交通指導取締り車両に限り行った。
 厳しい財政事情の下ではあるが、警察事象の量的増大や質的変化に対応して治安水準の維持向上を図るためには、今後とも警察機動力の中核である警察車両の整備、充実を進めることが不可欠である。当面、現有車両中の老朽車両について、引き続き計画的に更新整備を進めるとともに、凶悪化、広域化の度を増している各種の犯罪に対処するための捜査用車、高速交通時代に対応するための交通指導取締り用車、非行少年対策のための少年補導車、地域に密着した活動を行うためのパトカー、災害等各種の事案を処理するための特殊車両について、重点的に増強整備を図っていく必要がある。
(2)船舶
 警察船舶は、港湾、離島、河川、湖沼等に配備され、水上のパトロール、水難救助、覚せい剤等の密輸事犯や密漁あるいは公害事犯の取締り等の水上警察活動に運用されており、全長8メートルから20メートル級の警備艇及び5メートル級の公害取締り専用艇の合計201隻を保有している。
 昭和59年度は、厳しい財政事情を考慮し、老朽艇の減耗更新のみを行ったが、今後の整備に当たっては、水上警察事象の多様化に対応し、増強配備に努めるとともに、大型化、高速化を図る必要がある。
(3)航空機
 警察航空機(ヘリコプター)は、災害発生時の状況把握と被災者の救助、交通情報の収集伝達、犯人の追跡等の捜査活動、公害事犯の取締り、交通の指導取締り等広い分野で活動している。

 

昭和59年度は、各種警察活動用として三重県警察及び鹿児島県警察に小型ヘリコプター各1機を配備した。この結果、警察航空機は全国で39機となり、航空基地は27都道府県に置かれるに至った。
 警察航空機に対する国民の期待はますます高まっているところであるので、全国的な配備に向けて計画的に整備を推進する必要がある。

4 留置業務の管理運営

(1)留置業務の現況
 昭和59年12月末現在全国の留置場数は1,236場で、年間延べ約270万人の被逮捕者、被勾留者等が留置されている。
(2)留置業務に関する改善措置等
ア 総(警)務部門における業務の定着
 昭和55年4月、刑事部門から総(警)務部門に移管された留置業務は、警察本部や警察署における課の設置、専任幹部の配置等により、体制が整備され、その後、総(警)務部門における主要な業務として定着している。
イ 留置場施設の整備
 55年4月以降新改築された警察署の留置場は、留置人のプライバシー保護等の観点から54年11月に改正された留置場設計基準に基づいて改善されており、また、既設の留置場についてもこの基準に沿った改善整備が逐次進められている。
ウ 業務担当者に対する教養訓練の充実
 留置人の人権の尊重、処遇の適正及び事故防止の徹底を図るため、留置業務担当者に対して、警察大学校、都道府県警察学校等において専門的な教養訓練を行っている。
エ 留置場巡回視察の実施
 留置場の適正な管理運営及び留置人に対する適切な処遇について全国的斉一を図るため、59年8月から、警察庁及び管区警察局の担当官により、全国の留置場を計画的に巡回視察し、指導を強化している。
(3)留置施設法案の必要性
 警察の留置場については、その設置の根拠、留置される者の範囲、その処遇の内容等が法律上必ずしも明確ではないことから、留置場に関する現行の法律体系を整備するよう各方面から指摘されてきたところである。
 このため、監獄法の改正が行われるのを機会に、これらの点を明確にし、併せて法制審議会の答申の趣旨に沿って、留置人の人権を保障しつつ、留置人の適切な処遇と留置場の適正な管理運営を行うために、刑事施設法案(改正監獄法案)と一体のものとして留置施設法案を策定した。  この法案は、昭和57年4月、第96回国会に上程され、その後、継続審議案件とされたが、58年11月、衆議院の解散により審議未了となった。
 しかし、この法案は、留置人の人権保障を明確にするなど多くの改善点を持つものであり、国会に再上程する必要がある。


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