第3章 地域住民とともにある警察活動

1 地域の安全と平穏を守る警察活動

 外勤警察官は、昼夜の別なく常に警戒体制をとり、街頭における警戒監視、パトロールや各家庭への巡回連絡を通じて犯罪の予防検挙、交通の指導取締り、各種事故防止に当たるほか、少年の補導、迷い子や酔っ払いの保護、困りごと相談等の幅広い活動を行い、地域住民の安全な日常生活を守っている。
(1)地域治安のかなめ、派出所、駐在所
ア 「赤い門灯」は安心感のよりどころ
 全国すべての地域は、いずれかの派出所、駐在所(以下「派出所等」という。)の管轄区域に属している。派出所は主として都市部に置かれ、交替制の警察官が昼夜を問わず警戒に当たり、駐在所は原則として1人の警察官が家族とともに住み込んで勤務している。これらの派出所等は全国に約1万5,000箇所設置されており、地域治安のかなめとして住民の安心感のよりどころとなっている。最近では、事件、事故の発生状況等地域の実態に応じて、都市部であっても団地等では地域住民とのふれあいを深めるため駐在所を設置し、また、郡部であっても事件、事故が多発する地域においては、警戒力を強化するため駐在所から派出所へ転換を図るなど、派出所等の充実強化に努めている。
 地域に根ざしたこれらの「交番制度」に着目したシンガポールが昭和58年6月に試験実施を開始し、59年12月に全国的な導入に踏み切ったのをはじめ、我が国独得の伝統ある「交番制度」は、治安問題の悩みを抱える諸外国から注目を浴びている。

イ きめ細かなパトロール活動
 派出所等の警察官は、無線機を携帯して常に警ら用無線自動車(以下「パトカー」という。)、警察署や通信指令室と密接な連携を取りながら、管内の事件、事故の発生状況の分析に基づき、犯罪の発生しやすい時間帯、多発する場所に重点を置いたパトロールや立番等の警戒活動を行っている。また、全国の警察本部や警察署に配置された約2,600台のパトカーは、昼夜を問わず、管内のパトロールや主要地点にとどまっての警戒活動を行っているが、事件等が発生した場合には、通信指令室や警察署の指令を受けて現場へ急行し、犯人の検挙や事故の処理に当たっている。これらのパトカーのほか、警察署から遠い地域にある駐在所には、約1,100台の小型のパトカーが配置され、地域の隅々までパトロールを行っている。
 この結果、59年には、外勤警察官は、警察が検挙した刑法犯検挙人員の72.8%に当たる約32万5,000人を検挙したほか、覚せい剤事犯や交通法犯等の特別法犯検挙人員についても全体の54.3%を検挙している。

〔事例〕 川口警察署管内では、4月ころから連続して事務所荒らし事件が発生していたことから、派出所勤務の警察官は検討会を開き、事件を詳細に分析して、犯行が予測される時間と事務所をリストアップした資料を作成し、連日、深夜の計画的な重点警らを実施していた。5月20日午前3時ころ、重点警ら中のA巡査長他1名は、路地裏から事務所入口に忍び寄る男を発見し職務質問した。取調べの結果、約570件、被害総額約1,745万円に上る事務所荒らし事件の犯人であることが判明した(埼玉)。
(2)酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等の保護活動
 最近5年間に酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等を保護した状況は、表3-1のとおりで、酔っ払いが半数近くを占めている。
 被保護者に対する措置の状況をみると、家族、知人に引き渡された者

表3-1 酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等の保護の状況(昭和55~59年)

が67.1%と最も多く、保護の必要がなくなって自ら帰宅している者が27.1%、医療機関、福祉施設等他機関に引き渡された者が5.8%となっている。
 なお、保護した精神錯乱者のうち、精神障害のために自身を傷つけ、又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めて知事に通報した者は3,600人、保護した酔っ払いのうち、アルコールの慢性中毒者又はその疑いのある者と認めて保健所長へ通報した者は1,464人である。
(3)家出人の発見、保護活動
ア 減少した家出人捜索願の受理件数
 警察では、家出人の生命、身体の安全確保を図り、家族等の期待にこたえるため、その早期発見、保護活動に努めている。昭和59年に警察が受理した家出人捜索願の受理件数は10万4,187件で、前年に比べ1万1,049件(9.6%)減少した。最近5年間の家出人捜索願の受理件数の推移は、表3-2のとおりである。
 また、犯罪に巻き込まれ、又は自殺するおそれがある家出人等については特異家出人として受理し、特に迅速な発見、保護活動に努めているが、その件数は全捜索願受理件数の約1割を占めている。

表3-2 家出人捜索願の受理件数の推移(昭和55~59年)

イ 家出の原因、動機に多い家庭関係、異性関係
 家出人捜索願が出された家出人の家出の原因、動機は、表3-3のとおりで、夫婦間の不和、父兄のしっ責等の家庭関係、結婚、恋愛等が絡んだ異性関係が多い。これを男女別にみると、男性では、事業不振等の職業関係が58年に引き続いて多く、女性では、家庭、異性関係が多い。また、10歳代では、家庭、異性関係のほか、学校嫌い、学業不振等の学業関係が多い。

表3-3 原因、動機別にみた家出人の状況(昭和59年)

ウ 多い職務質問等による発見
 最近5年間の家出人の発見数は毎年10万人を上回り、59年も10万5,767人に達した。このうち特異家出人の発見数は1万497人であった。家出人の発見方法は、表3-4のとおりで、自ら帰宅した家出人を除くと、警察官の職務質問等によるものが23.8%と最も多い。
 なお、家出人の大部分の者は、無事に帰宅し、あるいは発見されているが、家出中に犯罪を犯した者が2,490人(2.4%)、自殺した者が1,797人(1.7%)、犯罪の被害者となった者が570人(0.5%)いることが注目される。

表3-4 家出人の発見方法(昭和59年)

(4)自殺の実態
ア 老人に多い自殺
 昭和59年の自殺者数、自殺率(注)を男女別、年齢層別にみると、表3-5のとおりで、男性は女性の約2倍になっている。また、高年齢になるほど自殺率は高まっており、老人問題の深刻さを示している。
(注)自殺率とは、同年齢の人口10万人当たりの自殺者の数である。

表3-5 男女別、年齢層別自殺者数、自殺率の状況(昭和59年)

イ 自殺の原因、動機
 自殺の原因、動機は、表3-6のとおりで、病苦等が最も多く、次いで精神障害、アルコール症等、経済生活問題の順となっている。

表3-6 原因、動機別にみた自殺者の状況(昭和59年)

ウ 自殺の未然防止
 警察では、独居老人等に対する訪問や困りごと相談等を通じて、自殺のおそれのある者を早期に発見し、その悩み、困りごとの解消に努めるとともに、自殺が多発する場所に対しては、管理者に対し、自殺防止を呼び掛ける立看板やフェンスの設置を働き掛けるなどしてその未然防止に努めている。
(5)遺失物、拾得物の取扱い
 いわゆる落とし物は、主として派出所等の警察官が窓口となって取り扱っている。昭和59年に取り扱った遺失届は約223万件で、このうち通貨は約312億円、物品は約380万点、拾得届は約334万件で、このうち通貨は約125億円、物品は約677万点であった。拾得届のあった金品のうち、通貨については約63%、物品については約18%がそれぞれ落とし主に返還されている。最近5年間における遺失、拾得届の取扱状況は、図3-1のとおりである。

図3-1 落とし物の取扱状況(昭和55~59年)

2 ふれあいを深める活動

(1)身近な相談の機会、巡回連絡
 巡回連絡は、派出所等の警察官が、担当の区域内の家庭や事業所を戸別に訪問し、住民から要望や意見をくみ取り警察活動に反映させるとともに、警察からも犯罪や事故の防止等について必要な連絡を行う活動である。巡回連絡の際は、家族構成や非常の場合の連絡先等も尋ねており、災害や事故の際の緊急連絡や地理案内等に役立てている。
 最近は、核家族化や共稼ぎ等による昼間不在家庭の増加等により、派出所等の警察官が住民と面接して対話する機会が少なくなりつつあるため、休日や夕方に訪問するなど、ふれあいの機会を広げるように努めている。
(2)困りごと相談
 最近5年間の困りごと相談の受理件数の推移は、表3-7のとおりで、昭和58年まで増加の傾向にあったが、59年はやや減少している。また、その内容は、表3-8のとおりである。

表3-7 困りごと相談の受理件数の推移(昭和55~59年)

表3-8 困りごと相談の内容(昭和59年)

 警察では、これらの困りごと等についてできる限り助言を行い、その解決に努めているが、他の行政機関等にゆだねるべきものについては、その窓口の紹介や引継ぎを行うなど相手の立場に立った処理をしている。59年における困りごと相談の処理状況は、図3-2のとおりである。

図3-2 困りごと相談の処理状況(昭和59年)

(3)住民とともに活動する「派出所、駐在所連絡協議会」
 昭和57年から設置を始めた「派出所、駐在所連絡協議会」(以下「協議会」という。)は、受持ち管内の自治会役員やアパート、マンションの管理者、商店街の役員等から構成され、派出所等の警察官が受持ち管内の問題や警察に対する要望、意見を聞き、これに的確にこたえていくことを目的としている。また、警察からも防犯上必要な助言を行い、地域ぐるみで犯罪や事故のないまちづくりを進めていこうとするものである。協議会は、59年12月末現在2,283箇所設置され、効果的な活動を行っている。さらに、協議会が設置されていない派出所等では、その管轄区域ごとに、地域の抱える問題の中から重要なものを一つずつ順に取り上げ、警察官が地域の住民とともに解決していく「一所管区一事案解決運動」を推進している。
〔事例〕 A駐在所連絡協議会では、管内のB中学校生徒による非行事案が増加傾向にあり地域の問題となっていたことから、学校、PTAはもとより、地域住民に対し少年非行防止活動の強化を働き掛るとともに、街頭補導を強力に推進した。この結果、地域ぐるみの非行防止意識が盛り上がり、B中学校生徒による非行事案が半減するなど着実に成果が挙がった(岡山)。
(4)保護、奉仕活動
ア 老人等に対する保護、奉仕活動
 警察では、犯罪や事故の被害に遭いやすい老人等社会的弱者に対する保護、奉仕活動を行っている。特に、全国で約40万人の近隣に保護者のいない独り暮らしの老人に対して、受持ちの警察官は、巡回連絡や警ら等の際にできるだけその家に立ち寄って各種事故防止等の助言を行ったり、困りごとの相談に応じている。
〔事例〕 新潟中央警察署A巡査は、2月9日午前1時30分ころ、警ら中にアパートから煙が出ているのを発見した。同アパートの2階には足の不自由な独居老人(71)がいることを把握していたA巡査は、老人が逃げ遅れたのではないかと判断し、煙が充満している2階に駆け上がり、自室で動けなくなっている老人を発見、救助した(新潟)。
イ 青少年に対するスポーツ等の指導
 外勤警察官は、非行防止を図り健全な育成に役立とうと、地域の青少年に対し、余暇を利用して柔剣道をはじめとする各種スポーツ等の指導を行い、青少年と一緒に汗を流してのふれあい活動を行っている。
〔事例〕 豊平警察署B巡査部長は、管内の共稼ぎ家庭の小学生による万引き等の非行が多いことから、親や学校関係者に働き掛け、非行グループ8人に対し毎週2回、小学校の体育館で剣道の指導を始めた。その後、部員も25人となり、体育の日に行われた地区の剣道大会では小学校の部で3位に入賞するなど練習の成果も挙がり、非行グループも解体された(北海道)。
ウ パトロールカード、ミニレターの活用
 警らや巡回連絡の際には、戸締まりの不十分な家庭や無施錠の車両等に対して「パトロールカード」を配布して防犯上の注意を呼び掛けたり、落とし物を届け出た善行児童や子供の危険な遊びの実態を保護者に知らせるため「ミニレター」を活用するなど、きめ細かな気配りに努めている。
(5)身近な話題を伝える「交番新聞」
 全国の派出所等では、約1万4,100種類ものミニ広報紙を発行している。この広報紙は、外勤警察官の手作りのもので、管内の事件、事故の発生状況やその防止策、善行児童の紹介、住民の声等身近な出来事を伝える「交番新聞」として、地域の住民から発行を待たれるほどに親しまれている。
〔事例〕 加世田警察署A駐在所B巡査部長は、毎月ミニ広報紙を発行し、全戸に配布している。同駐在所管内に多い出稼ぎ家庭では、故郷を離れて働いている家族にふるさとの便りとしてこのミニ広報紙を手紙に同封して送っており、出稼ぎの人たちから「郷土のことが良く分かり、安心して働ける」と喜ばれている(鹿児島)。

(6)住民と警察を結ぶかけ橋、警察音楽隊
 警察音楽隊は、皇宮警察と都道府県警察に48隊が置かれており、ほとんどの隊が、婦人警察官や交通巡視員等女性隊員によるカラーガード隊を編成している。隊員数は約1,800人で、その多くは勤務の合間や非番日を利用して演奏技術やドリル演技の向上に努めている。警察音楽隊は、警察が主催する防犯運動、交通安全運動等の行事や県、市町村等が主催する公的催しに出演しているほか、小・中学校での音楽鑑賞会、福祉施設やへき地、島部での慰問演奏を行い、音楽を通して住民と警察とのふれあいを深め、親しまれる警察を目指して活発な活動を続けている。昭和59年には、全国各地で約8,500回の演奏活動を実施しており、聴衆の数は延べ約2,400万人に上っている。
 また、警察庁では、毎年、全国警察音楽隊演奏会を開催しているが、59年は、11月に京都市で24隊約1,000人が参加して市中パレード、ステージ・フロアードリルを行い、地元市民との交流を深めた。

3 水上警察活動

 近年のレジャー活動は水上(海上を含む。以下同じ。)にも広がり、それに伴い釣船、ヨット、モーターボート、ウインドサーフィン等の転覆、漂流等の事故が多発する傾向にある。また、高速艇を利用しての夜間における養殖魚介類の大量窃取事犯も依然として跡を絶たない現状にある。
 警察では、水上における警察事象に対処するため、水上警察署8署、臨港警察署3署をはじめ、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する137警察署等に警察船舶201隻を配備して、パトロール等による警戒、警備活動や各種事件、事故の検挙、取締りに当たるとともに、訪船等による安全指導を積極的に行っている。また、各県における「水上安全条例」の制定を促進し、海、河川、湖沼等における水上交通の安全確保に努めている。水上警察体制を更に充実、強化するため、今後は、警察船舶の大型化、高速化及び無線設備の整備を図る必要がある。

 昭和59年の水上警察活動の状況は、犯罪検挙が1,082人、水難救助等の保護が284人、遭難船舶救助が161隻、変死人取扱いが434体であった。最近5年間の水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移は、表3-9のとおりである。

表3-9 水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移(昭和55~59年)

〔事例〕 7月7日午後2時ころ、海上パトロール中の土庄警察署警備艇「おりーぶ」は、小豆島番川原海岸から南方約1キロメートルの沖合において、約4時間漂流していた5人乗りのヨットを発見し、全員救助した(香川)。

4 総合的防犯対策の推進

(1)地域における防犯対策
 都市化の進展やこれに伴う国民意識の変化は、我が国の地域社会が伝統的に有していた犯罪抑止機能を低下させている。地域社会の犯罪抑止機能を高めていくためには、地域住民の自主的な防犯活動を促進し、防犯意識の高揚を図るとともに、都市の物理的環境や空間構成について犯罪が行われにくいまちづくりを促進する必要がある。
ア 安全なまちづくり
 犯罪が行われにくいまちづくりのためには、都市部のビル街、地下街等においては、建造物による死角空間を減らすなどの工夫を、また、住居地域においては、住民の視線が常に道路に注がれるような工夫を進める必要がある。
 警察では、物理的に犯罪が行われにくいまちづくりについて、研究を進めるとともに、地域開発等の場において計画の施行者等に対して防犯的視点からの提言を行っている。
イ 民間防犯活動
 地域における防犯活動の担い手である防犯協会は、全国各地におおむね警察署単位で組織されており、警察と協力して地域における犯罪の予防、社会環境の浄化等犯罪のない安全なまちづくりのための活動を展開している。
 また、防犯協会の実践的な活動の中心である防犯連絡所は、昭和59年12月末現在全国で68万5,288箇所(55世帯に1箇所)設置されており、地域における防犯活動の拠点として、警察と住民とのパイプ役を果たしているほか、事件、事故の通報、警察や防犯協会からの資料の伝達、防犯座談会の開催等を行っている。また、青森県他13県においては、防犯協会の実施部隊として防犯指導隊が組織されており、警察と協力して防犯パトロール、防犯診断、雑踏整理等犯罪と事故の防止のために活躍している。
 さらに、警察では、民間防犯活動の高まりを一層促進し、総合的防犯対策に反映させるため、防犯協会の法人化等体制強化を促進している。
〔事例〕 森吉警察署では、9月、県北地区を中心に連続空き巣ねらい事件が発生したので、管内の防犯連絡所に注意を呼び掛けたところ、防犯連絡所員の協力により発生時間帯に不審な者を見掛けたという情報を得、モンタージュ写真を作成、聞き込み活動等に活用し、犯人を検挙した(秋田)。
ウ 盗犯防止重点地区活動
 住民に強い不安感を与える侵入盗の発生を防止するため、52年から侵入盗の発生が多い地域を中心に、盗犯防止重点地区を指定している。59年は、714地区(警察庁指定85地区、都道府県警察指定629地区)を「盗犯防止重点地区」に指定した。これらの地域においては、地区住民代表、民間防犯団体役員、警察署等から成る推進協議会が設置され、地域住民と警察とが一体となった盗犯防止重点地区活動を進めている。
事例〕 59年度警察庁指定盗犯防止重点地区の一つである横浜市戸塚区汲沢地区では、警察署長が町内会の役員等について特別防犯連絡所の委嘱をし、防犯パトロール等の活動の促進を図ったほか、住民、町内会組織、警察が一体となった活動を展開し、侵入盗の発生を約26%減少させた(神奈川)。
(2)職場、職域における防犯対策
 犯罪を防止していくためには、地域における防犯活動とともに、職場、職域における防犯活動の推進が重要である。警察では、犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪の場となり又は犯罪のために利用されやすい業種及び防犯活動や捜査活動に対する組織的な協力を求める必要のある業種等については、それぞれ職域防犯団体の結成を呼び掛け、これら組織による自主防犯活動の活発化を図っている。昭和59年12月末現在の職域防犯団体の結成状況は、表3-10のとおりである。 59年には、ゴルフ場暴力防犯協会が新たに6団体結成され、その活動が推進されている。
 警察では、これらの団体に対して、業種に応じた防犯施策等について、研究会の開催、資料の配布等を通じて必要な助言や協力を行い、活動の促進を図っている。

表3-10 職域防犯団体の結成状況(昭和59年12月)

ア 金融機関における防犯対策の推進
 金融機関対象強盗事件は依然として多発しており、犯行手段も店舗に居合わせた女性客を人質にしたりするなど悪質なものが多い。警察では、これらの犯罪の防止を図るため、金融機関との連絡会議のほか、防犯診断、防犯パトロール等の際「金融機関の防犯基準」に基づき指導を行い、防犯意識の高揚を図るとともに、管理体制、防犯設備の充実を促進している。
 これら指導の徹底と金融機関による自主的防犯努力の結果、事件発生時において被害金融機関が適切に対応し、き然とした態度により犯行を断念させた事例や犯人逮捕に重要な役割を果たした事例が増えてきている。
 金融機関の防犯設備の設置状況は、表3-11のとおりであり、逐年設置率が増加している。しかしながら、金融機関別にばらつきがみられ、依然として設置率が低いところもあり、その向上が今後の課題となっている。
〔事例〕 仙台市内の銀行に押し入った犯人は、窓口にいた女子行員に包丁を突き付け「金を出せ」と脅迫したが、同女があわてず合言葉により同僚に事件を知らせるとともに現金を交付せず時間の引き延ばしを図ったところ、通報で駆けつけた警察官に逮捕された(宮城)。

表3-11 金融機関の防犯設備の設置状況(昭和59年12月)

イ スーパー・マーケットにおける防犯対策の推進
 増加傾向にあったスーパー・マーケット等をねらう強盗事件は、59年は大幅な減少を示した。しかしながら、59年は、スーパー・マーケットにおけるセルフ販売方式を悪用した毒入り菓子による恐喝事件等(警察庁指定第114号事件)が発生し国民に強い不安を与えており、今後このような犯罪の増加が懸念される。
 このため、スーパー・マーケット等における防犯対策は、従来からの深夜における強盗事件対策、少年の万引き防止対策だけでは充分ではなく、毒入り食品対策を含め、総合的な犯罪防止対策を早急に策定する必要がある。警察では、スーパー・マーケット等における防犯体制、防犯設備のあり方の指針となる防犯基準を策定するための検討を進めている。
ウ 警備業の健全育成
 最近の警備業は、原子力関連施設等の重要施設から一般家庭に至る施設警備、工事現場、祭礼等の雑踏警備、現金等の輸送警備、ボディーガード等幅広い分野に及び、さらに、一般家庭等に侵入感知機等のセンサーを設置し、基地局において事故の発生を防止し、警戒するといったようにエレクトロニクスを取り入れた機械警備業が急速な発展を遂げており、安全産業として深く国民に定着してきている。59年12月末の警備業者数は3,757業者、警備員数は15万3,344人で、前年に比べ207業者、9,167人増加している。最近5年間の警備業者数、警備員数の推移は、表3-12のとおりで、一貫して増加傾向にある。

表3-12 警備業者数、警備員数の推移(昭和55~59年)

 警察では、機械警備の発展等に伴い、警備業が民間防犯システムの一環として地域防犯活動、職域防犯活動と並んで一層重要な役割を果たすことになることから、警備業法に基づき警備業者の指導監督を強化し、警備業協会等を通じた警備業の健全育成を進めている。
(3)防犯的諸制度の整備、充実
ア 優良防犯機器型式認定制度の推進
 優良防犯機器の普及を図るため、昭和55年4月から、防犯機器について警察庁長官が全国的に統一した基準を示し、それに当てはまった製品の型式を認定するという優良防犯機器型式認定制度を実施している。59年12月末までに住宅用開き扉錠を19機器認定し、その普及を図っている。
 さらに、発展の著しいホームセキュリティーを中心とした防犯警報機等についても、その普及を図るため、基準の策定等について関係業界と連携して検討を進めている。
イ 自転車防犯登録制度
 警察では、自転車の盗難防止と被害回復の迅速化を図るため、自転車防犯登録制度を推進している。59年12月末現在全保有台数の59.9%に当たる約3,373万台が登録されている。
 59年の盗難被害自転車の回復状況は、表3-13のとおりで、登録車の被害回復率は未登録車に比べ12.5ポイント高い。

表3-13 盗難被害自転車の回復状況(昭和59年)

(4)全国防犯運動
 昭和59年の全国防犯運動は、セックス産業の増加及び少年の福祉を害する犯罪の増加等少年に有害な影響を与える環境の悪化に対処するため、今回初めて「少年を取り巻く社会環境の浄化」を統一運動重点として、10月11日から20日までの10日間、全国一斉に実施された。
 この運動は、防犯協会その他各種団体の関係者を含め、約125万人の参加を得、有害環境の実態把握、巡回防犯広報、盛り場、ゲームセンター等のたまり場等における街頭補導等の実施により、地域、職域における防犯意識の高揚と有害環境浄化活動の推進に大きな役割を果たした。

5 犯罪被害者等に対する救援活動

(1)有効に機能している犯罪被害給付制度
 犯罪被害給付制度は、人の生命又は身体を害する犯罪行為により、不慮の死を遂げた者の遺族又は身体に重大な障害を受けた者に対し、社会の連帯共助の精神に基づき、国が給付金(遺族給付金、障害給付金をいう。以下同じ。)を支給し、その精神的、経済的打撃の緩和を図ろうとするものであり、昭和56年1月1日から実施されている。
 犯罪被害者又は遺族からの給付金の申請状況、それに対する各都道府県公安委員会の裁定状況は、表3-14のとおりで、制度創設以来4年間における給付金の支給裁定総額は約17億7,400万円、1事件当たりの平均裁定額は約354万円となっている。

表3-14 給付金の申請、裁定の状況(昭和56~59年)

 申請から裁定までの所要日数をみると、約78%までが6箇月以内で、遺族救済の措置が速やかになされており、犯罪被害給付制度は有効に機能している。
〔事例1〕 3月28日、大阪市内において、小学生(7)が、無職の男(36)に、身の代金を取得する目的で誘拐、やく殺された事件で、その遺族に対し、給付金220万円を支給した(大阪)。
〔事例2〕 9月9日、青森市内の旅館経営者(61)及び同旅館前の通行人(62)が、無職の男(56)に、金員を強奪する目的で次々に刺殺された事件で、それぞれの遺族に対し、合わせて給付金858万円を支給した(青森)。
(2)充実、拡大する犯罪被害救援基金の事業
 (財)犯罪被害救援基金は、犯罪被害給付制度を補完し、充実させることを目的として、昭和56年5月21日に設立された。同基金は、広く国民から寄せられた浄財を基本財産(58年度末決算で約31億円)として、犯罪被害遺児に対する奨学金等の給与、重障害を受けた犯罪被害者に対する障害見舞金の給付その他の救援事業を積極的に行っている。
 同基金では、59年12月末までに、小学校から大学までに在学する犯罪被害遺児の奨学生623人に対し、月額6,000円(小学生)から2万円(大学生)までの奨学金等を給与している。
 なお、奨学金等の月額については、これまで3回にわたり引き上げを行ったほか、59年4月からは、小学校及び大学に入学する奨学生に対し入学一時金(5~7万円)を給与している。
 また、電話相談コーナーの開設、機関誌の定期的発行、相談文庫の配本、文通相談等同基金が行う救援事業は充実、拡大している。


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