第7章 災害、事故と警察活動

1 災害警備活動

(1) 災害警備対策の推進
ア 大規模地震対策の推進
 昭和58年、警察では、東海地震対策のほか南関東をはじめ過去に大規模な地震が発生した地域を中心に震災対策を推進した。
 5月の「昭和58年日本海中部地震」で、津波による死者が100人に上ったことから、警察庁では、関係省庁と沿岸地域における津波対策について協議を行うとともに、関係都道府県警察では、災害警備計画の見直しや津波警報の伝達、避難誘導訓練を行うなど、津波警備対策の強化を図った。
 9月1日に中央防災会議主催で行われた震災対策訓練には、警察庁、関係管区警察局、地震防災対策強化地域とその周辺の10部県警察から、警察職員約10万人、ヘリコプター22機、地域住民約1,005万人が参加し、地震予知情報等の受理、伝達、情報の収集、社会的混乱防止、交通規制、緊急輸送、救出、救護等の各種訓練を行った。特に、静岡県警察の訓練状況をヘリコプターから空中撮影したテレビ画像等を、通信衛星さくら2号(CS-2)を使って警察庁に送信する訓練や、警戒宣言が発せられた後混乱が予想される主要ターミナル駅等(国鉄池袋駅、横浜駅等21箇所)でのパニック防止対策訓練と交通対策訓練に力点を置いて行った。
 その他の地域の道府県警察でも、関係機関と協力して、地震とそれに伴う津波を想定した訓練を行った。これらの訓練には、警察職員延べ約3万人、地域住民延べ約219万人が参加した。
イ 特殊災害対策の推進
 1月、ソ連の原子炉衛星コスモス1402号が地上に落下するおそれがあると発表されたため、万が一我が国に落下した場合に備えて、警察では、国民を放射線による被害から守るため必要な体制の整備、応急措置等の検討を行った。
 また、58年は、全国都道府県警察の災害警備担当幹部に対し、地下街、石油コンビナート、原子力施設等における特殊災害対策に関する専科教養を行ったほか、関係県警察の幹部2人をアメリカ、カナダに派遣し、核災害対策の調査、研究を行った。
 このほか、関係都道府県警察では、関係機関と協力して、地下街、石油コンビナート等における災害を想定した訓練を行った。これらの訓練には、警察職員延べ約3,600人、地域住民延べ約3万8,000人が参加した。

(2) 主な自然災害と警察活動
 昭和58年における主な自然災害は、「昭和58年日本海中部地震」による災害(5月)、島根県西部地方を中心とした「昭和58年7月豪雨」等による災害(7月)、台風第5号、6号、10号による災害(8、9月)、「昭和58年三宅島噴火」による災害(10月)であった。また、これらによる被害を含め、58年の自然災害による被害は、表7-1のとおりである。

表7-1 自然災害による被害状況(昭和58年)

 これらの災害に際して、全国で警察官延べ約10万人が出動し、被災者の救出、救護、避難誘導、交通規制等の災害警備活動を行い、被害の未然防止と拡大防止に努めた。
ア 「昭和58年日本海中部地震」による災害
 5月26日午後0時0分ごろ、秋田、青森県沖の深さ約14キロメートルの海底で、マグニチュード7.7の地震が発生し、秋田、むつ、深浦で震度5の強震を記録したほか、地震発生後間もなく、津波が日本海沿岸の各地に来襲した。
 この地震による被害は、8道府県に及び、死者104人、負傷者163人(このうち、津波による死者は100人、負傷者は104人)、住家全(半)壊・流失3,101棟、住家浸水1,060棟に上った。
 この地震に対して、関係道府県警察では、警察官延べ約1万7,000人を動員して災害警備活動に当たった。
 特に、秋田県地方は大きな被害に見舞われたため、秋田県警察では、地震発生後の午後0時10分、警察本部に災害警備本部を設置するとともに、県下全警察署でも警備体制をとり、津波にさらわれた者や倒壊家屋、流木等の下敷きとなった者を救助したのをはじめ、津波の被害が予想された沿岸地域等9市町に及ぶ危険地域の住民等約6,000人を安全な場所に避難させたほか、1箇月余にわたり警察官延べ約7,000人を動員して、行方不明者の捜索、交通の確保、被災地の警戒等の諸活動を行い、被害の拡大防止と住民生活の安全確保に努めた。
 なかでも、津波によって多くの犠牲者が出た加茂青砂や能代港等における行方不明者の捜索活動には、警視庁水難救助隊の応援を受けるなど、警察官延べ約4,000人を動員して、悪条件の下、関係機関等と協力して全員を遺体で収容し、身元確認の上遺族に引き渡した。

イ 島根県西部地方を中心とした「昭和58年7月豪雨」等による災害
 7月中旬から下旬にかけて、日本付近に停滞していた梅雨前線は低気圧に刺激され活動が活発となり、各地に大雨を降らせ、特に、島根県西部地方は、7月22日夜から23日午前中にかけて300ミリを超える豪雨に見舞われた。
 この豪雨による被害は、20県に及び、死者・行方不明者117人、負傷者171人、住家全(半)壊・流失3,096棟、住家浸水1万7,223棟に上った。
 この豪雨に対して、関係県警察では、警察官延べ約2万1,000人を動員して災害警備活動に当たった。
 なかでも、島根県地方は、死者・行方不明者が107人に上るなど、大きな被害に見舞われた。このため、島根県警察では、鳥取、岡山、広島、山口、福岡県警察から機動隊、ヘリコプターの応援を受けるなど、警察官延べ約1万8,000人を動員し、危険地域住民の早期避難誘導に努めたほか、河川のはん濫により孤立して救助を求めている者、土砂崩れにより家屋の下敷きとなっている者等526人を悪条件下で救助するなど、被害の拡大防止に当たった。
 さらに、島根県下各警察署に「災害相談所」を設置し、住民からの各種相談に応じたほか、運転免許業務の現地処理、被災地の特別警戒等の諸活動を行い、被災後における住民の不安感の除去に努めた。
ウ 台風による災害
○ 台風第5、6号の影響により、8月15日から18日にかけて、関東、中部地方は、大雨に見舞われ、その被害は、21都道府県に及び、死者3人、負傷者30人、住家全(半)壊88棟、住家浸水5,906棟に上った。
○ 台風第10号の影響により、9月25日から29日にかけて、ほぼ全国的に大雨に見舞われ、その被害は、38府県に及び、死者・行方不明者44人、負傷者114人、住家全(半)壊・流失291棟、住家浸水4万9,953棟に上った。
 これらの災害に対して、関係都道府県警察では、警察官延べ約4万4,000人を動員して災害警備活動に当たった。
 特に、徳島県警察では、台風第10号の影響により、道路が寸断され、三好郡山城町が孤立したため、警察官を山越えで現地に向かわせたほか、愛媛県警察からヘリコプターの応援を受け、上空から被害実態の把握に努めるとともに、救援物資の搬送等を行い、孤立の解消に努めた。
エ 「昭和58年三宅島噴火」による災害
 10月3日午後3時23分ごろ、21年ぶりに三宅島(東京都)が大規模な噴火をした。幸いにも人的被害はなかったが、溶岩流により阿古地区で394棟の住家等が埋没、焼失したほか、電気、道路、農林水産物等にも大きな被害が及んだ。
 この噴火に対し、警視庁三宅島警察署では、火山性地震が続発したため、噴火発生前の10月3日午後3時20分に現場警備本部を設置するなど、適切な事前警戒措置をとり、噴火後は、関係機関と協力し、噴火地点近くの危険の予想された阿古、坪田地区等の住民に対し、避難の指示、誘導を行い、住民を島内の安全と認められる地域にある小、中学校、福祉会館等に避難させた。また、本部機動隊等(190人、多目的災害活動車、給水車、ショベル車、ジープ等帯同車両11台)の応援を受けるなど、警察官延べ約1,600人を動員して、避難後の防犯措置、交通規制、降灰除去作業等の諸活動を行い、人的被害の防止と住.民生活の安定確保に努めた。
〔事例〕 溶岩流に襲われた阿古地区に急行した三宅島警察署員7人は、溶岩流が迫り来るなかで、パトカー、オートバイ、徒歩により住民に早期避難を呼び掛け、バス、漁船等で地区住民約1,100人を避難させた後、パトカーを阿古漁港ふ頭に残したまま、最後の漁船で脱出した(警視庁)。

2 雑踏警備活動

(1) 一般雑踏警備活動
 昭和58年に警察官が出動して雑踏整理に当たった行楽地や催物への人出は、延べ約6億2,580万人に上り、警察では、延べ約68万人の警察官を出動させて、雑踏事故の防止に努めた。正月三が日の初詣には、約8,160万人の人出があり、前年を約290万人(3.7%)上回る史上最高を記録したが、一方、ゴールデンウィークの人出は、全国的な天候不順と完全飛び石型の連休であったため、約4,710万人で、前年より約220万人(4.5%)減少した。最近5年間の雑踏警備実施状況は、表7-2のとおりである。

表7-2 雑踏警備実施状況(昭和54~58年)

 58年の雑踏による事故は、祭礼やコンサート等の行事の際に7件が発生し、死者3人、負傷者68人を数えた。警察では、興行場、ホールの管理者や行事の主催者等と緊密な連絡を取り、自主警備体制の強化、危険予防措置、施設の改善等を具体的に要請するとともに、混雑する場所等に警察官を配置して、雑踏事故の未然防止に努めたほか、すりや小暴力事犯の取締り、迷い子や急病人の保護等にも当たっている。
(2) 公営競技をめぐる紛争事案と警備活動
 競輪、競馬等の公営競技場は、全国に117箇所あり、昭和58年の総入場者は、約1億918万人であった。警察では、公営競技をめぐる紛争事案や雑踏事故防止のため、延べ約17万人の警察官を出動させて警備に当たった。最近5年間の公営競技場の警備実施状況は、表7-3のとおりである。

表7-3 公営競技場警備実施状況(昭和54~58年)

 58年の公営競技をめぐる紛争事案は、前年と同数の7件であった。原因の多くは、レースの判定に対する不満であるため、警察では、関係機関、団体と協力して、競技の適正な運営、自主警備体制の確立、施設、設備の改善等を促進させるほか、競技開催の都度、警察官を派遣して紛争事案の未然防止に努めている。

3 水上警察活動

 近年のレジャー活動は海上や水上にも広がり、それに伴い釣船、ヨット、モーターボート、ウィンドサーフィン等の転覆、漂流等の事故が多発する傾向にある。他方、高速艇を利用しての夜間における養殖魚介類の大量窃取事犯も依然として後を絶たない。
 警察では、海上や水上における警察事象に対処するため、水上警察署9署、臨港警察署2署をはじめ、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する137警察署等に警察船舶201隻を配備して、海上パトロール等による警戒、警備活動や各種事件、事故の検挙、取締りに当たるとともに、訪船等による安全指導を積極的に行っている。また、各県における「水上安全条例」の制定を促進し、河川、湖沼等における水上交通の安全確保に努めている。水上警察体制を更に充実強化するため、今後は、警察船舶の大型化、高速化及び無線設備の整備を図る必要がある。
 昭和58年の水上警察活動の状況は、犯罪検挙が1,431人、水難救助等の保護が359人、遭難船舶救助が191隻、変死人取扱いが510体であった。
〔事例1〕 1月23日、小樽港外へ、いそ舟でまがも猟に出たハンター7人が、途中で船外機を海中に落としたため漂流し、小型トランシーバーで助けを求めたところ、アマチュア無線家がこれを受信し、警察に110番した。小樽警察署では、直ちに海陸両面からの捜索活動を実施し、約1時間後に警備艇「いしかり」が、沖合約1キロメートルの海上で漂流し

ていたいそ舟を発見し、全員を救助した(北海道)。
〔事例2〕 7月22日、静岡県清水市三保真崎海岸において、ウィンドサーファー2人が強風のため沖に押し流されて漂流する事故が発生した。パトロール中の静岡県警察のヘリコプター「スカイふじ」と清水警察署警備艇「あさかぜ」は、三保真崎警備派出所からの連絡を受け、協力して捜索、救助に向かい、沖合約2キロメートルの海上で漂流していた2人を発見し、救助した(静岡)。

4 各種事故と警察活動

(1) 水難事故
ア 水難事故の発生状況
 昭和58年の水難事故は、発生件数は3,385件、死者・行方不明者数は2,117人、警察官等に救助された者の数は1,863人であった。これを前年と比べると、発生件数が305件(8.3%)、死者・行方不明者数が158人(6.9%)それぞれ減少した。最近5年間の水難事故発生状況は、表7-4のとおりである。

表7-4 水難事故発生状況(昭和54~58年)

 水死者を年齢層別にみると、表7-5のとおりで、全体的に減少しているなかで、特に、幼児の減少が目立った。
 水死者を、場所別にみると、図7-1のとおりで、依然として海と河川で約7割を占めている。また、行為別にみると、図7-2のとおりで、魚釣り(魚取りを含む。)中や水泳中の水死者が多い。特に、無謀ないそ釣りによって高波にさらわれたり、釣船が転覆する事案等が目立った。

表7-5 年齢層別水死者の状況(昭和57、58年)

図7-1 水死者の発生場所別構成比(昭和58年)

図7-2 水死者の行為別構成比(昭和58年)

イ 水難事故の防止活動
 警察では、水難事故を防止するため、都道府県、市町村、教育委員会等と連携して、事故の発生しやすい危険な場所の実態を調査し、その所有者、管理者や関係機関、団体に対し、危険区域の設定、標識の設置、安全施設の補修、整備等を促進するよう働き掛けている。特に、人出や水難事故の多い海水浴場には臨時警察官派出所を設置し、海浜パトロールを行うほか、警備艇による海上パトロールやヘリコプターによる空からの監視を強化し、海水浴客に対する事故防止の呼び掛け、遭難者の早期発見、救出、救護に努めている。また、関係機関、団体と協力して母親や児童を対象とした人工呼吸法の講習会及び各種の救助訓練を実施している。
(2) 山岳遭難事故
ア 遭難事故の発生状況
 昭和58年の山岳遭難事故の発生件数は471件、遭難者数は607人で、前年に比べ、発生件数が22件(4.5%)、遭難者数が80人(11.6%)それぞれ減少した。最近5年間の山岳遭難事故の発生状況は、表7-6のとおりである。

表7-6 山岳遭難事故の発生状況(昭和54~58年)

 58年は、一度に多数の登山者が死亡又は行方不明となる遭難こそなかったが、北アルプスを中心とした登山困難な山岳での遭難や老人、主婦等の山菜採りによる遭難が目立ったほか、疲労、発病、道迷いによる遭難等事前の準備不足による遭難や登山に対する基本的な心構えを欠いたことによる遭難が依然として多発した。
 また、58年に遭難した471パーティーについて、山岳会等への加入状況と登山計画書の提出状況をみると、山岳会等に加入していないパーティーの数は311(66.0%)、登山計画書を提出していないパーティーの数は362(76.9%)に上っている。
イ 遭難者の捜索、救助活動
 警察では、迅速で的確な捜索、救助活動を推進するため、平素から救助隊員の実践的な訓練や研修会を実施して救助技術の向上を図るとともに、救助用装備資器材の点検整備等を行うなど、救助体制の充実強化に努めている。
 58年の遭難者の救助活動に出動した警察官は、延べ約4,700人で、民間救助隊員等との協力による活動を含め、遭難者427人を救助したほか、132遺体を収容した。
〔事例〕 7月24日、滋賀県の登山者2人は、長野県白馬村から北アルプスの白馬岳(標高2,933メートル)に登り、富山県側に下山する2泊3日の行程(登山計画書不提出)で入山したが、予定日を過ぎても帰宅しないため、7月29日の夕方、友人から富山県黒部警察署に捜索願があった。富山県警察では、直ちに「遭難対策本部」を設置し、霧と暴風雨による天候不良のなか、民間救助隊員の協力を得て、地上からの捜索を行うとともに、ヘリコプターによる上空からの捜索を実施し、8月4日、祖母谷(ばばたに)(標高1,100メートル)左岸の岩陰で行動不能のまま死亡寸前の状態でいた1人を発見し、ヘリコプターにより救出した。残る1人は、11日間にわたる空陸一体の捜索活動により遺留品7点を発見、収集したものの、未だに発見されていない(富山)。
ウ 遭難事故の防止活動
 警察では、山岳遭難事故の防止を図るため、毎年、遭難対策検討会を開催して、具体的な検討を行っている。また、登山者の集中する年末年始や春の連休時、夏休み時期には、山の情報や山登りに当たっての留意事項等について、テレホン・サービスを行い、また、登山者や関係機関、団体にちらし等を配布しているほか、新聞、テレビ、ラジオ、登山雑誌等を通じ広く国民に安全な登山を呼び掛けている。
 特に、主要山岳を管轄する警察では、救助隊を編成し、関係機関、団体と協力して山岳の実地踏査を行い、登山道標の点検、危険箇所の表示を行っているほか、登山計画書の提出を奨励し、提出者に対しては、詳細な登山注意事項を記載した「返信カード」を送付している。また、シーズン中には、登山口等に臨時警備派出所や指導センターを開設して、登山者に山の状態を知らせたり、安全な登山のため計画や装備等について指導を行うとともに、山岳のパトロールを通じて安全指導にも努めている。

(3) レジャー・スポーツに伴う事故
 近年のレジャー・スポーツの大衆化、多様化を反映して、レジャー・スポーツに伴う事故は後を絶たない。
 昭和58年のレジャー・スポーツに伴う事故の発生件数は228件、死傷者数は104人で、前年に比べ、発生件数が76件(25.0%)、死傷者数が26人(20.0%)それぞれ減少した。その発生状況は、表7-7のとおりである。
 死傷者は、シュノーケリング等水上(水中)スポーツに多い。また、58年は、特に、モーター・ハンググライダーの墜落事故が12件発生し、前年より大幅に増加したことが目立っている。
 警察では、このような事故の発生を防止するため、現場における指導取締りの強化を図るとともに、関係機関、団体に対する事故防止の呼び掛けを行っているほか、事故の発生に際しては、速やかな救出、救護等に当たっている。58年における警察官の出動人員は、約1,300人であった。

表7-7 レジャー・スポーツに伴う事故の発生状況(昭和58年)

(4) 航空機事故
 昭和58年に警察が取り扱った航空機事故の発生件数は32件、死傷者数は95人で、前年に比べ、発生件数は12件(60.0%)増加したものの、死傷者数は150人(61.2%)減少した。最近5年間の航空機事故の発生状況は、表7-8のとおりである。

表7-8 航空機事故の発生状況(昭和54~58年)

 このなかでは、航空写真等を撮影中のへりコプターの墜落事故や自家用の小型航空機の墜落事故が目立った。
(5) 船舶事故
 昭和58年に警察が取り扱った船舶事故の発生件数は92件、死傷者数は110人で、前年に比べ、発生件数は8件(9.5%)増加したものの、死傷者数は5人(4.3%)減少した。最近5年間の船舶事故の発生状況は、表7-9のとおりである。

表7-9 船舶事故の発生状況(昭和54~58年)

 事故の形態としては、漁船が強風にあおられ防波堤に激突、転覆した事故が目立った。警察では、これらの事故の未然防止を図るため、関係業者等に対する指導警告を行うとともに、警察船舶によるパトロールを実施し、事故の発生に際しては、迅速で的確な救助活動を行っている。
(6) 火災
 昭和58年に警察官が出動した火災の発生件数は2万4,936件、死傷者数は3,020人で、前年に比べ、発生件数は231件(0.9%)、死傷者数は120人(4.1%)それぞれ増加した。最近5年間の火災の発生状況は、表7-10のとおりである。

表7-10 火災の発生状況(昭和54~58年)

 火災の形態としては、多数の宿泊客が死傷した温泉街のホテル火災やフェーン現象下での山林火災等が目立った。
〔事例〕 4月27日昼ごろから29日にかけて、強風下の東北地方を中心として、たき火の不始末等による山林火災が次々に発生し、8人が負傷し、家屋159棟(うち住家54棟)、山林約8,400ヘクタール等が焼失するなどの被害が生じた。警察では、「災害警備本部」を設置して、被災者の救出、救護、避難誘導、広域交通規制等の措置をとったほか、関係機関と協力して被害の拡大防止等に当たった(岩手ほか5県)。
(7) 爆発事故
 昭和58年に警察官が出動した爆発事故の発生件数は350件、死傷者数は659人で、前年に比べ、発生件数は62件(15.0%)、死傷者数は196人(22.9%)それぞれ減少した。最近5年間の爆発事故の発生状況は、表7-11のとおりである。

表7-11 爆発事故の発生状況(昭和54~58年)

 事故の形態としては、航空機や船舶の修理作業中の爆発やレクリエーション施設、マンション、アパートでのプロパンガスの爆発が目立った。
 警察では、平素から、化学工場や爆発物の貯蔵所等の実態を把握して、事故の発生時における具体的な計画を立てるなど、迅速的確な対応に努めている。また、事故が発生した場合には、負傷者の救出、救護、避難誘導、周辺道路の交通規制等被害の拡大防止に当たっている。
(8) 大韓航空機撃墜事件
 9月1日未明、大韓航空機(ボーイング747、乗客240人、乗員29人)が、ソ連領空を侵犯したとして、ソ連の軍用機に撃墜される事件が発生した。墜落現場は、サハリン(樺太)沖の海上であったが、警察庁及び北海道警察では、直ちに対策本部を設置し、関係機関と緊密な連携の下に、遺体、遺品、機体片の捜索等に当たった。特に、北海道警察では、9月末までに約2万7,000人の警察官を動員し、警察船舶、ヘリコプター等を出動させ、海上における捜索を行うとともに、海岸線の徹底した捜索により、沿岸に漂着した遺体9体、遺品377点、機体片334点を回収した。このうち機体片は韓国政府に、遺品の一部29点は遺族に引き渡したほか、遺品の展示等の活動に従事した。


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