第4章 生活の安全の確保と環境の浄化

1 薬物事犯の取締り

(1) 依然として高水準を続ける覚せい剤事犯
 昭和58年の覚せい剤事犯の検挙件数は3万7,033件、検挙人員は2万3,301人で、前年に比べ、検挙件数は706件(1.9%)、検挙人員は64人(0.3%)それぞれ減少した。過去10年間の覚せい剤事犯の検挙状況は、図4-1のとおりである。

図4-1 覚せい剤事犯の検挙状況(昭和49~58年)

ア 台湾からの密輸の増加と巧妙化する密輸手口
 58年の覚せい剤粉末の押収量は約99キログラムで、前年に比べ7.4%減少した。覚せい剤1キログラム以上を一度に押収した25事例(約67キログラム)のうち、供給地の判明した21事例の内訳をみると、韓国からのものが17事例(約47キログラム)と依然として主流を占めているが、前年摘発のなかった台湾からのものが4事例(約16キログラム)と大幅に増加した。密輸手口については、日本と韓国を結ぶ米軍の軍事郵便を利用した新たな手口のほか、洋酒瓶に覚せい剤を入れて持ち込もうとしたり、結婚祝用のびょうぶに覚せい剤を隠匿して持ち込もうとするなど、一層の巧妙化が目立った。

〔事例〕 資金繰りに窮した貿易会社社長(44)らが台湾の卸元グループと結託し、6月11日、台湾から大阪港へ覚せい剤を密輸入したところを摘発し、関連被疑者3人を逮捕するとともに、覚せい剤約7キログラムを押収した(大阪)。
イ 悪質化、広域化する密売事犯
 密売事犯は、無線電話を積載した車両や電話の自動転送装置を利用したり、警察の捜索に備えて覚せい剤であることを知らない知人に委託して保管させたり、架空名義の預貯金ロ座を利用して代金を決済するなど、ますます悪質化、巧妙化している。また、東京と北海道の暴力団が手を組み、航空便を利用して取引したり、関西の暴力団が郵便小包や宅配便を利用して西日本一帯の暴力団と取引するなど、密売事犯の広域化が一層進んでいる。
ウ 覚せい剤への執着の度を強める山口綱系暴力団
 58年の暴力団員による覚せい剤事犯の検挙件数は1万7,799件、検挙人員は1万668人で、前年に比べ、検挙件数は965件(5.1%)、検挙人員は428人(3.9%)それぞれ減少した。過去10年間の暴力団員による覚せい剤事犯の検挙状況は、図4-2のとおりであるが、55年以降覚せい剤犯罪が暴力団犯罪の中での第1位を占め、その比率も年々増加している。

図4-2 暴力団員による覚せい剤事犯の検挙状況(昭和49~58年)

 また、所属団体別では、山口組系をトップに警察庁指定7団体で、覚せい剤事犯で検挙された暴力団員の50.4%(5,378人)を占め、広域暴力団が覚せい剤を資金源として介入の度を強めている状況がうかがわれる。特に、最大組織の山口組系暴力団員は、その16.8%(1,794人)を占め、年々その比率が高まっている。
〔事例〕 暴力団山口組系山広組内黒龍会が韓国から密輸入した約15キログラムの覚せい剤を西日本を中心とする全国各地の暴力団に密売した事犯を摘発し、同会会長ら幹部7人を含む関連被疑者160人を検挙するとともに、覚せい剤約1.6キログラム、注射器145本等を押収し、同会を壊滅状態に追い込んだ(大阪)。
エ 乱用の拡大
(ア) 女性、特に女子少年の増加
 58年の覚せい剤事犯の男女別検挙人員は、男性が1万9,327人(82.9%)、女性が3,974人(17.1%)で、前年に比べ、男性は270人(1.4%)減少したが、女性は206人(5.5%)増加した。また、検挙された女性を成人と少年に区分してみると、少年が987人と全体の4分の1を占めているほか、前年に比べ少年が10.5%増加し、成人の増加率(3.9%)を大きく上回っており、覚せい剤の乱用が女子少年を中心に女性層へ浸透していることがうかがわれる。最近2年間の覚せい剤事犯の男女別検挙人員は、表4-1のとおりである。

表4-1 覚せい剤事犯の男女別検挙人員(昭和57、58年)

(イ) 少年の乱用事犯の低年齢化
 58年に覚せい剤事犯で検挙された少年は、全検挙者の11.4%に当たる2,667人で、前年に比べ83人(3.0%)減少した。しかし、学職別にみると、中学生が22.4%増加しており、年齢別でも、前年に比べ、14歳が22.9%、15歳が、6.1%それぞれ増加し、さらに、14歳未満の少年による乱用事例もみられるなど、覚せい剤の乱用が少年の低年齢層へ浸透していることがうかがわれる。
〔事例〕 家出中の女子中学生らが暴力団員や暴走族に誘われてアパート等で覚せい剤、シンナーを乱用し、みだらな性行為等の非行を繰り返していた事犯を解明し、暴力団員ら5人を検挙するとともに、覚せい剤の幻覚症状が現れていた13歳の女子中学生ら女子中学生10人(13歳4人、14歳6人)を含む少年32人を補導した(神奈川)。
(ウ) 覚せい剤乱用者による事件、事故状況
 覚せい剤は、一たび乱用を始めるとやめられなくなり、その薬理作用から幻覚や妄想等の精神障害が現れ、それが原因で殺人や放火等の凶悪な犯罪や交通事故を引き起こすことも多い。また、最近は、夫婦で乱用したり、購入資金を得るため借金を重ねたり、その結果、家庭の崩壊を来すことも多く、さらには、購入資金に尽きて強盗、窃盗等の犯罪を引き起こすことも少なくない。
 58年に発生した覚せい剤に係る事件、事故の発生状況は、表4-2のとお

表4-2 覚せい剤に係る事件、事故の発生状況(昭和58年)

りである。
〔事例1〕 覚せい剤乱用者(33)は、「だれかに追われている」との妄想から帰宅途中の女性を人質にとり、けん銃を突き付けて車を運転させ、すきをみて脱出した同女にけん銃を乱射して重傷を負わせ、さらに、逮捕に向かった警察官にも乱射した。4月29日現行犯逮捕(警視庁)
〔事例2〕 夫(53)と共に印刷工場を経営する主婦(50)は、行きつけのスナックで知り合った暴力団員に「やせるのに良い」と覚せい剤を勧められて使用したことから病み付きとなり、覚せい剤欲しさに借金を重ね、返済に窮して倒産した上、夫にも覚せい剤を勧め、さらに、長男(27)、次男(23)も加わり、家族ぐるみで乱用を繰り返していた。10月8日家族4人を逮捕(群馬)
(2) 増加傾向にある麻薬事犯
 昭和58年の麻薬事犯の検挙人員は1,484人で、前年に比べ84人(6.0%)増加した。これを法令別にみると、大麻取締法違反が全体の69.7%を占めて最も多く、次いであへん法違反の25.8%、麻薬取締法違反の4.5%となっている。過去10年間の麻薬事犯の検挙人員の推移は、図4-3のとおりである。

図4-3 麻薬事犯の検挙人員の推移(昭和49~58年)

 また、最近5年間の麻薬の種類別押収状況は表4-3のとおりであるが、58年にヘロイン、コカイン、乾燥大麻及び大麻草の押収量が前年に比べ大幅に増加したことが目立つ。このヘロイン及びコカインの押収量の増加は、日本人によるタイからのヘロイン密輸入事犯やコロンビア人によるコカインの所持事犯の検挙によるものである。また、乾燥大麻や大麻草の押収量の増加は、海外からの乾燥大麻密輸入事犯や国内に野生する大麻草を採取した事犯を多数検挙したためである。

表4-3 麻薬の種類別押収状況(昭和54~58年)

〔事例〕 会社役員らがタイで飲食店を経営している日本人から乾燥大麻を調達し、それを航空貨物内に隠匿して日本へ密輸入した事犯を摘発し、乾燥大麻49キログラムを押収するとともに、関連被疑者4人を逮捕した(千葉)。
(3) その他の薬物事犯
 シンナー等の有機溶剤乱用事犯は、少年を中心として依然増加している。昭和58年のシンナー等乱用者の検挙、補導人員は5万8,251人で、前年に比べ971人(1.7%)増加した。これを成人、少年別にみると、少年が全体の88.2%(5万1,383人)を占め、前年に比べ1,745人(3.5%)増加した。
 乱用される有機溶剤は、シンナーが全体の67.9%を占めて最も多く、次いで接着剤、トルエン、塗料、充てん料と続いている。
〔事例〕 女子高校生(17)ら4人が、貸ガレージ内にとめてあった乗用車の中で、シンナーをビニール袋に入れて吸引していたところ、4人とも急性中毒に陥り、このうち3人が死亡し、1人が重症となった(奈良)。
(4) 総合的な薬物乱用防止対策の推進
ア 国際捜査協力の推進
 警察では、覚せい剤の需要と供給を絶つために、密輸入事犯の水際検挙、暴力団を中心とした密売組織の壊滅、末端乱用者の検挙を重点とした取締りを強力に推進している。特に、大規模密輸、密売事犯については、「覚せい剤・麻薬事犯広域捜査要綱」に基づき、都道府県警察相互の情報交換を積極的に行うなど、全国一体となった広域捜査を推進している。
 また、覚せい剤等はその生産、流通が国際的に行われているところから、警察庁では、昭和58年9月、23箇国の参加を得て「第22回麻薬犯罪取締りセミナー」(東京)を開催したほか、11月には「国連極東麻薬取締機関長会議」(ニューデリー)に参加するなど、関係各国の捜査機関との情報交換等に努め、捜査協力の緊密化を図っている。
イ 乱用防止対策の強化
 覚せい剤取締法違反で検挙された者のうち再犯者の占める割合は、表4-4のとおり年々高くなってきており、中毒者の増加がうかがわれる。

表4-4 覚せい剤取締法違反者の再犯状況(昭和54~58年)

 警察では、覚せい剤の慢性中毒のため自傷他害のおそれがある者について、精神衛生法に基づき都道府県知事に通報することにより、本人に対する必要な医療及び保護が加えられ、あわせて、他人に対する危害の防止が図られるよう努めており、58年の通報数は338人であった。
 また、覚せい剤の乱用を防止するため、新聞、テレビ等の報道機関と連携して「覚せい剤追放キャンペーン」等を実施しているほか、広報映画、ミニ広報紙等を活用した啓発活動を推進し、乱用を拒絶する社会環境づくりに努めている。

2 銃砲、火薬類の適正管理と取締り

(1) 銃砲、火薬類の適正管理
ア 5年連続減少した猟銃等の所持許可数
 昭和58年12月末現在、銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)により都道府県公安委員会が所持を許可している銃砲は、66万7,884丁で、そのうち猟銃が57万1,317丁、空気銃が4万9,826丁である。前年に比べ、猟銃は3万8,570丁(6.3%)、空気銃は8,705丁(14.9%)それぞれ減少した。最近5年間の許可を受けた猟銃及び空気銃(以下「猟銃等」という。)の数の推移は、表4-5のとおりで、54年以降5年連続減少傾向にある。

表4-5 許可を受けた猟銃等の数の推移(昭和54~58年)

 これは、猟銃等の所持許可申請に対して厳正な審査を行い、欠格事由に該当する者を排除するとともに、許可の用途に供していない眠り銃等の譲渡、廃棄の指導を積極的に行ってきたためである。
イ 減少を続ける猟銃等による事故
 58年の猟銃等による事故の発生件数は118件、死傷者数は126人で、前年に比べ、発生件数で26件(18.1%)、死傷者数で25人(16.6%)の減少となった。最近5年間の猟銃等による事故の発生状況は、表4-6のとおりで、発生件数、死傷者数ともに3年連続して減少した。

表4-6 猟銃等による事故の発生状況(昭和54~58年)

 また、58年の猟銃等の盗難被害は19丁で、前年に比べ15丁(44.1%)減少し、最近5年間で最低となった。これは、許可猟銃等が適正に所持されているかについて、定期的に全国一斉検査を行い保管方法等を指導するとともに、全日本指定クレー射撃場協会等の関係団体を通じて、各種の事故防止対策を推進している効果が現れているものとみられる。
 しかし、その被害状況をみると、全体の52.6%に当たる10丁は、銃刀法の保管義務違反となる自宅居室内や自動車の座席、トランク等に不用意に放置していたものであり、なかには、盗難銃が犯罪に使用されたものもあった。
 一方、58年の許可猟銃等を使用した犯罪の検挙件数は42件で、前年に比べ若干増加したものの、54年以降横ばい傾向にある。このうち散弾銃を使用したものが35件と全体の83.3%を占め、罪種別にみると、殺人が12件、脅迫が6件等となっている。
 なお、これらの事件、事故を起こした者や銃刀法違反者292人について、58年は、猟銃等588丁の所持許可を取り消した。
〔事例〕 猟銃の許可所持者(50)は、自宅内の保管庫に散弾銃と同実包を一緒に収納し、しかも、無旋錠のまま放置していたため、2月5日、空き巣に入られ、散弾銃と同実包を盗まれた。空き巣に入った無職者(25)は、自分の情婦の前夫を殺害するため、その足で前夫宅へ赴き、同人に向けて発砲した。この無職者を即日検挙するとともに、猟銃の許可所持者を銃刀法の保管義務違反で検挙し、その所持許可を取り消した(鳥取)。
ウ 経験者講習会の充実
 猟銃等許可所持者を対象として経験者講習会を56年から実施しているが、58年の受講者は8万1,598人で、この3年間で全所持者の91.0%が受講したことになる。59年には、受講者が一巡することから、視聴覚教材の改訂等により更に講習内容を充実して事件、事故の防止のための指導を行うこととしている。
エ 減少する猟銃用火薬類等の許可件数
 58年の猟銃用火薬類等(実包、銃用雷管、無煙火薬等であって、猟銃等に専ら使用されるもの)の譲渡、譲受等の許可件数は、10万4,508件で、前年に比べ1万796件(9.4%)減少した。
 また、猟銃用火薬類等に係る違反の検挙件数は1,443件で、前年に比べ22件(1.5%)減少した。これを違反態様別にみると、実包の不法所持926件、無許可消費134件、貯蔵の技術上の基準違反81件等となっている。
(2) けん銃等の取締り
ア 暴力団によるけん銃使用犯罪の増加
 昭和58年のけん銃等の銃砲を使用した犯罪の検挙件数は291件で、前年に比べ97件(50.0%)と大幅に増加した。過去10年間の銃砲使用犯罪の検挙件数の推移は、図4-4のとおりである。
 このうち、暴力団関係者による銃砲使用犯罪の検挙件教は232件で、全体の79.7%を占めている。

図4-4 銃砲使用犯罪の検挙件数の推移(昭和49~58年)

 また、けん銃を使用した犯罪についてみると、全体の93.2%に当たる205件が暴力団関係者によるもので、これは前年に比べ81件(65.3%)増加している。暴力団関係者によるけん銃使用犯罪は、55年以降増加傾向にあり、58年は、過去10年間で最高を記録した50年と同程度の高い検挙件数となっている。
イ 悪質化、巧妙化するけん銃密輸入事犯
 58年のけん銃の押収丁数は1,112丁で、前年に比べ133丁(10.7%)の減少となった。最近5年間のけん銃の押収数の推移は、表4-7のとおりである。

表4-7 けん銃の押収数の推移(昭和54~58年)

 押収したけん銃を銃種別にみると、前年に比べ、真正けん銃は157丁(18.9%)の減少、改造けん銃は24丁(5.8%)の増加となった。
 58年のけん銃密輸入事犯の検挙状況は14件、17人で、けん銃25丁を押収した。最近5年間のけん銃密輸入事犯の検挙状況は、表4-8のとおりである。

表4-8 けん銃密輸入事犯の検挙状況(昭和54~58年)

 58年のけん銃密輸入事犯の傾向をみると、フィリピン及びアメリカからの密輸入が大半を占め、その手段、方法も、引っ越し荷物や木彫りの置物の中に隠匿したもの、あるいは、けん銃の部品を電気製品表示のダンポール箱在中の発泡スチロールの中に収めた上で航空便で郵送し、何回も転送させたものなど悪質化、巧妙化している。警察では、けん銃の国内流入を阻止するため関係機関との連携を強化し、関係国の取締り当局との捜査協力を進めるなど、水際検挙に努めるとともに、不法所持事犯等で押収したけん銃の密輸ルートを解明するなど、暴力団を中心とする密輸、密売組織の壊滅に向けて強力な取締りを推進している。

3 危険物対策の推進

(1) 火薬類対策の推進
 昭和58年の火薬類の盗難事件の発生件数は18件で、前年に比べ13件減少した。また、実包以外の火薬類(ダイナマイト、無煙火薬等)を使用した犯罪は15件発生し、前年に比べ6件増加した。
 警察では、火薬類の販売所、消費場所、火薬庫等火薬類取扱場所に対して、58年は延べ約15万8,000箇所について立入検査を実施し、保管管理の基準違反、帳簿の備付け義務違反等により1,027件の違反を検挙するとともに、悪質な事犯については都道府県知事に対して火薬類の消費許可の取消処分等の措置を要請した。
(2) 放射性物質等の安全輸送対策の推進等
 昭和58年に都道府県公安委員会が受理した放射性物質等の運搬届出件数は核燃料物質等が402件、放射性同位元素等が242件で、前年に比べ、核燃料物質等は35件(9.5%)、放射性同位元素等は5件(2.1%)それぞれ増加した。これらの運搬届を受理した都道府県公安委員会は、運搬の日時、経路等について必要な指導を行うなど放射性物質等の安全輸送対策を推進した。
 また、国内の一部に出回っていた米国製磁気コンパスについては、法令の基準を超える放射性物質が含まれていることが判明したことから、その回収に努めた結果、30都道府県から900個を回収し、米軍に引き渡した。
(3) 高圧ガス、消防危険物等による事故の防止
 昭和58年の事業所や一般家庭における高圧ガス、消防危険物等による事故の発生件数は1,553件、死者数は691人で、前年に比べ、発生件数は172件(10.0%)、死者数は125人(15.3%)それぞれ減少した。
 警察では、高圧ガス、石油等の消費及び輸送量の増加に伴う事故防止のため、関係行政機関等との連携の下に、高圧ガス取締法、消防法等危険物関係法令違反の取締りを行って1,418件、1,462人を検挙した。特に、輸送中の危険物の安全を確保するため、11月に危険物運搬車両の全国一斉の集中指導取締りを行い、警察官等約1万6,000人が1,180箇所において約1万9,000台の車両を検査し、悪質な違反604件(前年同期の集中指導取締りに比べ76件(14.4%)増)を検挙した。

4 悪化を紡げる風俗環境への対応

(1) 風俗営業等の現状
ア 料飲関係営業
 風俗営業等取締法(以下「風営法」という。)によって都道府県公安委員会の許可を受けているキャバレー、バー、料理店等の料飲関係営業の営業所数は、昭和58年12月末現在10万937軒で、前年に比べ3,400軒(3.3%)減少した。最近5年間の料飲関係営業の営業所数の推移は、表4-9のとおりで、漸減傾向にある。

表4-9 風俗営業(料飲関係営業)の営業所数の推移(昭和54~58年)

 風俗営業は、公安委員会の許可対象業種として善良な風俗等の観点から、より健全な営業に育成すべくその業務の適正化を促進する必要があるが、一部にはその営業内容にいわゆるピンクサービスと称する行為や、年少者を使用するなどの悪質な違反が目立っており、58年の検挙件数は、4,580件となっている。違反態様別検挙状況は、図4-5のとおりである。
 都道府県公安委員会は、このような違反に対して、許可の取消し又は6月を超えない期間の営業停止処分を行っているが、58年は取消し27件を含む2,259件の行政処分を行った。

図4-5 風俗営業(料飲関係営業)の違反態様別検挙状況(昭和58年)

イ 深夜飲食店営業
 スナック、サパークラブ等の名称で午後11時以降も営業を行っている深夜飲食店の58年の営業所数は35万736軒で、前年に比べ5,421軒(1.6%)増加した。最近5年間の深夜飲食店の営業所数の推移は、表4-10のとおりで、増加の一途をたどっている。業態別では、風俗営業に類似した営業の増加が目立っている。また、一部にはその営業内容に、照明を暗くしてのダンスやバンド演奏、年少者や外国人女性を雇用しての接待等無許可風俗営業やテレビゲーム機等を設置しての賭博(とばく)行為等が目立っている。

表4-10 深夜飲食店の営業所数の推移(昭和54~58年)

 58年の深夜飲食店営業の検挙件数は7,373件で、前年に比べ191件(2.7%)増加した。違反態様別検挙状況は、図4-6のとおりである。
 都道府県公安委員会は、このような違反に対して、営業停止等の処分を行っているが、58年の処分件数は2,495件となっている。

図4-6 深夜飲食店営業の違反態様別検挙状況(昭和58年)

ウ 遊技場営業
 ぱちんこ屋は、56年以降増加を続け、58年12月末現在の営業所数は1万2,725軒で、前年に比べ1,676軒(15.2%)増加し、過去最高となっている。これは、55年に出現した「超特電(フィーバー)型」ぱちんこ遊技機が全国的に流行し、開店ラッシュを招いたことがその原因と考えられる。このような傾向は、一部の業者の間に店舗の大型化、郊外への進出等営業所間の過当競争を引き起こし、不適正な営業が行われるなどの問題が生じている。また、まあじゃん屋は、54年以降減少を続け、58年12月末現在の営業所数は3万1,547軒で、前年に比べ1,577軒(4.8%)の減少となっている。最近5年間の遊技場営業の営業所数の推移は、表4-11のとおりである。

表4-11 風俗営業(遊技場営業)の営業所数の推移(昭和54~58年)

 58年の遊技場営業の検挙件数は940件で、前年に比べ123件(15.1%)増加したが、特に、ぱちんこ屋の構造設備の変更違反が目立った。このような違反に対する営業停止等の処分件数は、58年は584件となっている。
エ ゲームセンター等
 遊技機を設置し、客に遊技をさせる営業のうち、風営法の規制を受けないものにゲームセンター等がある。これらの店舗においては、ポーカーゲーム等のテレビゲーム機等を使用した賭博(とばく)事犯が56年後半から急激に増加し、強力な取締りの結果、一応の鎮静化傾向をみせてはいるが、58年のゲームセンター等における賭博(とばく)事犯の検挙件数は1,671件、検挙人員は8,482人、これらの検挙に伴い押収した遊技機及び押収賭(と)金は1万3,002台、約7億6,000万円に上っており、更に継続した対策が必要である。なお、58年10月現在で、テレビゲーム機等の遊技機を設置している営業所数及び設置台数は3万6,618軒、17万87台である。
(2) 売春、猥褻(わいせつ)に移行しやすい風俗関連営業等
ア 売春を誘発するおそれの強い営業形態の広がり
 営業内容が極めて売春に移行しやすいものとしては、風営法によって規制対象となっている個室付浴場(ソープランド)があるが、このほか、最近、法規制の対象となっていない「個室付きファッションヘルス」、「デートクラブ」、「愛人バンク」等の業態が次々と出現し、全国に急激に広がっている。また、短期間に多額の金銭を稼ぐために日本に観光ビザ等で入国し、風俗営業所等において接待行為をし、また、売春、猥褻事犯等に関与する出稼ぎ外国人女性が目立っており、その数も年々増加している。昭和58年に風俗関係事犯で検挙した外国人女性は571人であったが、そのうち売春事犯で検挙された者は213人(37.3%)で最も多く、前年に比べ133人(166%)増加した。また、国籍別では台湾、フィリピン、タイの順に多い。
 58年の売春防止法違反の検挙件数は6,856件、検挙人員は2,298人で、最近5年間の売春防止法違反の検挙状況は、表4-12のとおりである。

表4-12 売春防止法違反の検挙状況(昭和54~58年)

(ア) 個室付浴場(ソープランド)
 個室付浴場の営業所数は58年12月末現在、1,701軒で、前年に比べ32軒(1.9%)増加している。58年の個室付浴場における売春関係事犯の検挙件数は972件、検挙人員は326人で、前年に比べ、件数は133件(15.9%)増加し、人員は45人(12.1%)減少した。
(イ) 「個室付きファッションヘルス」等
 個室において異性の客に接触する役務を提供する営業としては、個室付浴場のほか、マンション等の個室においてなされる「個室付きファッションヘルス」等、マッサージ業を仮装し個室において客を相手に主として性的サービス行為を行う「個室マッサージ」等の業態が出現しており、58年12月末現在の営業所数は、それぞれ247軒、372軒で、前年に比べ総数で313軒(102%)増加している。58年は、売春防止法違反等で147軒を摘発し、960件、410人を検挙した。
(ウ) 「デートクラブ」等
 デート名目で異性を派遣する営業としては、「デートクラブ」等があり、その態様により、「デ-ト喫茶」、「デートスナック」等と呼ばれている。これらの営業は、57年から急速に目立ち始め、58年12月末現在の営業所数は630軒で、前年に比べ総数で387軒増加している。58年は、売春防止法違反等で147軒を摘発し、2,254件、417人を検挙した。
(エ) 「愛人バンク」
 「サラリーマンでも愛人がもてる」をキャッチフレーズに58年初めに出現した「愛人バンク」は急速に広がり、58年12月末現在の営業所数は、109軒となっている。「愛人バンク」は、売春のあっせんを行っているのがその実態であるため、警察では先制的な取締りを行い、58年は、売春防止法違反等により14軒を摘発し、595件、68人を検挙した。
〔事例〕 テレビ、雑誌等のマスコミにも登場し、愛人バンクの第1号で最大手といわれる「夕ぐれ族」は、男女会員約5,000人を全国規模で集め、10箇月間に約1億2,000万円の暴利を得ていた。この事件で経営者らを売春防止法(周旋)違反で検挙した(警視庁)。
イ 女性の裸体を見せる営業等の多様化と猥褻(わいせつ)事犯の増加
 女性の裸体を見せる営業としては、風営法によって規制対象となっているストリップ劇場、ヌードスタジオがその典型であるが、最近では「のぞき劇場」、「個室ヌード」等の業態が出現した。また、ポルノビデオテープ販売店等も新たに登場した。
 58年の猥褻(わいせつ)事犯の検挙件数は3,346件、検挙人員は3,688人で、前年に比べ、74件(2.3%)、213人(6.1%)それぞれ増加した。最近5年間の猥褻(わいせつ)事犯の検挙状況は、表4-13のとおりである。

表4-13 猥褻(わいせつ)事犯の検挙状況(昭和54~58年)

(ア) ストリップ劇場等
 58年12月末現在のストリップ劇場、ヌードスタジオの営業所数は386軒で、58年のストリップ劇場等における公然猥褻(わいせつ)事犯等の検挙件数は106件、検挙人員は562人で、前年に比べ、17件(19.1%)、104人(22.7%)それぞれ増加した。
 最近では、客を舞台に上げて性交するいわゆる本番ショーが常態化するとともに、観光ピザで来日した外国人女性が踊り子として出演する事例も目立っている。
(イ) 「のぞき劇場」等
 舞台の周りに複数の個室を設け、それぞれの個室から女性の裸体ショー等を見せる「のぞき劇場」や、個室においてモデル嬢を撮影させたり、身体に触れさせる「個室ヌード」等の営業形態が目立っているが、58年12月末現在のこれらの営業所数は150軒で、58年は、公然猥褻(わいせつ)等により34件、88人を検挙した。
(ウ) ビニール本販売店
 55年初めに出現した「ビニール本」は、継続的な取締りにより急速に廃れ、58年10月末現在の「ビニール本」の販売店等の数は3,577店で、前年に比べ486店(12.0%)減少した。58年は猥褻(わいせつ)物頒布等により1,248件を検挙し、100万4,032冊を押収した。これは、前年に比べ、件数で433件(25.8%)、冊数で53万7,484冊(34.9%)それぞれ減少している。
(エ) ポルノビデオテープ販売店
 ビニール本に代わるものとして、57年後半から男女の性行為等を露骨に表現したポルノビデオテープが出現し、急速に広がっている。58年10月末現在のポルノビデオテープの販売店数は1,343店である。58年は猥褻(わいせつ)物頒布等により804件を検挙し、4万5,561巻を押収したが、これは、前年に比べ約6倍となっている。
〔事例〕 ビデオテープブームに目を付けたゲームセンターの経営者(34)は、新聞、週刊誌等に広告を出し、全国からの申込者約800人に対し、複製したポルノビデオテープを通信販売により1巻当たり1万5,000円から2万円で約1,100巻を販売し、9箇月間で1,650万円の暴利を得ていた(神奈川)。
(3) 潜行するノミ行為事犯
 公営競技(競馬、競輪、競艇、オートレース)をめぐるノミ行為事犯の昭和58年の検挙件数は1,517件、検挙人員は5,521人で、最近5年間のノミ行為の検挙状況は、表4-14のとおりである。最近のノミ行為の方法は、電話の自動転送装置や自動車電話等を利用してノミ受け場所を隠ぺいするなど悪質化、巧妙化している。また、検挙人員に占める暴力団関係者の比率は50.4%と依然として高く、ノミ行為が暴力団の有力な資金源となっていることうかがわれる。

表4-14 ノミ行為の検挙状況(昭和54~58年)

(4) 今後の課題
 最近の風俗環境の悪化は、少年の健全育成、地域の善良な風俗環境の保全等の観点から、もはや、看過できない状況にある。特に、売春、猥褻(わいせつ)等に移行しやすい風俗関連営業所の増加が著しい。
 警察では、悪質事犯や新たな業態の違法行為等について強力な取締りを更に推進するほか、盛り場等における地域ぐるみの環境浄化活動に一層の支援と協力を行い、関係機関、団体との連携を強める一方、現行の風営法を見直し、許可対象である風俗営業については、より健全な営業としてその業務の適正化を推進するとともに、現在その多くが野放しとなっている風俗関連営業については、少年の健全育成、風俗環境の浄化等を図るため、必要な規制を行うこととしている。

5 質屋、古物営業の現状

 質屋営業法又は古物営業法により、都道府県公安委員会から許可を受けた質屋、古物商等の数の推移は、表4-15のとおりで、質屋は漸減し、古物商等は漸増している。

表4-15 許可を受けた質屋、古物商等の数の推移(昭和54~58年)

 質屋、古物商等が盗品等を発見するなどにより被害者に返還できた件数は、昭和58年は、質屋については1万736件、古物商等については1,905件であった。また、これらの業者の協力によって犯人を検挙した事例も数多くみられた。

6 経済事犯の取締り

 昭和58年には、第1章で述べたように、サラ金をめぐる不法取立て事犯、高金利事犯、訪問販売事犯等市民生活に直結した経済事犯が目立ったほか、次に述べるような経済事犯も多発した。
(1) 悪質化する不動産事犯
 昭和58年の不動産事犯の検挙件数は2,896件、検挙人員は2,813人で、前年に比べ、検、挙件数は272件(10.4%)、検挙人員は336人(13.6%)それぞれ増加した。最近5年間の不動産事犯の法令別検挙状況は、表4-16のとおり

表4-16 不動産事犯の法令別検挙状況(昭和54~58年)

である。
 不動産事犯のなかで最も検挙の多い宅地建物取引業法違反の態様別検挙状況は、図4-7のとおりで、法令の規制により住宅の建築が制限されている土地である事実を告げずに売り付ける重要事項不告知等の業務上禁止事項違反が依然として多い。

図4-7 宅地建物取引業法違反の態様別検挙状況(昭和58年)

 また、広域的に活動する不動産ブローカーらの無免許営業事犯が多発するとともに、業者の依頼により全国を渡り歩き、歩合制で不良物件を売り付ける「売り屋」が暗躍する事犯が目立った。
〔事例〕 市街化調整区域の山林を安く仕入れ、立木を伐採して分譲販売しようと考えた不動産業者が、「売り屋」を雇い入れ、不動産に関する知識の乏しい消費者を対象に、市街化調整区域の見直し予定がないのに「この土地は、現在家は建てられないが、大学が近々移転してくるし、2、3年すれば家が建てられる」と不実のことを告げて、約3万3,000平方メートルの土地を約7億6,000万円で販売し、4億円余の不法な利益を得ていた事犯を宅地建物取引業法違反で検挙した(広島)。
(2) 大型化する国際経済事犯
 昭和58年の国際経済事犯(注)の検挙件数は833件、検挙人員は277人で、前年に比べ、件数で45件(5.1%)、人員で68人(19.7%)の減少となっている。しかし、計画的、組織的事犯が目立ち、その手口も信用状決済システムの悪用、輸入規制物資の品名詐称及び差額関税制度の悪用等悪質化、大型化の傾向がみられた。最近5年間の国際経済事犯の検挙状況は、表4-17のとおりである。
(注) 国際経済事犯とは、外国為替及び外国貿易管理法、関税法違反をいう。

表4-17 国際経済事犯の検挙状況(昭和54~58年)

〔事例〕 国内の大手絹糸輸入卸売会社は、外国産絹糸等の輸入規制に伴う国内絹糸相場の高騰及び中国産絹糸に対する根強い需要に目を付け、香港の絹糸等輸出商社と結託し、さらに、国内の通関業者を抱き込んで、香港から中国産絹糸等約22万9,000キログラムをナイロン糸と偽って不正に輸入し、約1億6,000万円の関税をほ脱した上、これを国内の織物業者等に販売して、約7億5,000万円の暴利を得ていた。この事件で、4法人10人を関税法等違反で検挙した(京都)。
(3) その他の経済事犯
 昭和58年には、香港等の海外商品市場における大豆等の先物取引や国内のプラチナ私設市場の先物取引に一般消費者を誘い込み、多大の損失を与える事犯が多発し、被害者は488人、被害金額は約10億円に上った。これに対し、3都道県警察で3業者(55人)を詐欺等で検挙した。
 また、北海道、東北地方を中心として「幸福のランナー」、「幸わせの輪の会」等の名称で、支出金の受渡しは会員相互間で行うといういわゆる会員主導型のネズミ講が、短期間で全国的に広がった。警察は、被害拡大防止のための啓発に努めるとともに、13都道県警察で673人を無限連鎖講の防止に関する法律違反で検挙した。
 さらに、有名ブランド商品の模造品を製造、販売する商標法、不正競争防止法違反事件も依然として絶えず、58年には、商標法違反で112件、135人を、不正競争防止法違反で65件、27人をそれぞれ検挙した。

7 公害車犯の取締り

(1) 過去最高となった公害事犯の検挙
 昭和58年の公害事犯の検挙件数は5,983件で、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)違反が5,353件、水質汚濁防止法違反が331件等となっている。過去10年間の公害事犯の法令別検挙状況は、図4-8のとおりで、これまで最も多かった54年を上回る過去最高の検挙件数となった。
(2) 大幅に増加した委託基準違反事犯
 昭和58年の廃棄物処理法違反の検挙件数は5,353件で、過去最高となった。その態様別検挙状況は、表4-18のとおりで、不法投棄事犯が全体の79.6%を占めたが、近年減少傾向にあった排出源事業者による委託基準違反(注)が前年に比べ107件(19.2%)増加した。
(注)委託基準違反とは、排出源事業者が産業廃棄物の処理を他人に委託するときは、その産業廃棄物の処理を適法に行うことができる者に委託しなければならないと定められているのに、これに違反して委託する行為をいう。

図4-8 公害事犯の法令別検挙状況(昭和49~58年)

表4-18 廃棄物処理法違反の態様別検挙状況(昭和58年)

 不法投棄等(不法投棄のほか、無許可の埋立て等の廃棄物の処分を含む。)された産業廃棄物の総量は、約31万6,000トンであった。その種別、場所別状況は、図4-9のとおりで、種別では建設廃材と汚泥で全体の95.0%を占め、また、場所別では埋立地、宅造地が最も多く全体の42.7%を占めている。

図4-9 不法投棄等された産業廃棄物の種別、場所別状況(昭和58年)

 不法投棄等された産業廃棄物の排出源を業種別にみると、建設業から排出されたものが最も多く約28万3,000トンで全体の約90%を占めた。また、投棄者別にみると、産業廃棄物の不法投棄の82.6%は排出源事業者によって行われており、さらに、原因、動機別では「処理経費節減のため」、「最初から営利目的をもって」という経済的理由によるものが全体の63.9%を占めた。
 警察では、国民の快適な生活環境を保全するため、廃棄物の不法投棄等の取締りを強化するとともに、不法投棄等された場所の原状回復の指導に努めているが、多量の産業廃棄物が不法投棄等された場所で原状回復を必要とする226箇所のうち82.7%について回復措置が採られた。
〔事例〕 廃棄物処理法違反で有罪判決を受け執行猶予中の解体業者は、産業廃棄物の不法処理がかなりの利益になることに目を付け、産業廃棄物処理許可証を偽造するなどして無許可で建設廃材等約1万トンの処理委託を受け、これを休耕田等で埋立処分していた。9月7日、廃棄物処理法違反で逮捕するとともに、処理を委託した大手建設会社等を委託基準違反で検挙した(静岡)。
(3) 悪質化する水質汚濁事犯
 警察は、閉鎖性水域のため水質上の問題を抱えている内海、内湾、湖沼及び特に汚染の著しい河川等の水質汚濁事犯を重点として計画的な取締りを行っており、河川等の公共用水域等を直接汚染する排水(排除)基準違反(注)の昭和58年の検挙件数は232件であった。
 排水(排除)基準違反の内容をみると、取締りや行政指導を免れるために未処理汚水を隠し排水口から排出するものや人目の少ない夜間、早朝に排出するものが目立ち、また、違反原因別にみても表4-19のとおりで、処理施設を設置又は使用せずに未処理汚水を排出していたものが36.6%を占め、なかでも、処理施設を設置していないものは、前年に比べ15件(55.6%)増加するなど悪質化の傾向がみられた。
(注) 排水(排除)基準違反とは、水質汚濁防止法、下水道法、鉱山保安法、公書防止条例に定められた排水(排除)基準に違反して汚水を排出する行為をいう。

表4-19 排水(排除)基準違反の原因別検挙状況(昭和58年)

〔事例〕 市営の食肉処理場では、汚水処理施設の機能が低下したにもかか わらず増産を図ったことから、汚水処理ができなくなった。当然、処理施設を補修するなどして排水基準を遵守しなければならないのであるが、これを怠ったのみならず、隠し排水口5本を設置して、夕方から早朝にかけて、排水基準の約300倍の大腸菌群数等を含む未処理汚水を河川に排出していた。9月30日、水質汚濁防止法違反で書類送致(長崎)

8 保健衛生事犯の取締り

 昭和58年の保健衛生事犯の取締り状況をみると、医事関係事犯の検挙件数は122件で、前年に比べ4件(3.2%)減少した。内容的には、他人の医師免許証の写しを悪用して病院の副院長として勤務し、虫垂炎の手術等多数の患者の診療を行っていた無免許医業事犯、じん臟機能障害者の人工じん臟透析の診療行為を医事関係免許を有しない無資格者に行わせていた保健婦助産婦看護婦法違反事件等悪質事犯が目立った。
 薬事、食品衛生関係事犯の検挙件数は956件で、前年に比べ194件(25.5%)増加し、最近5年間で最高となった。内容的には、いわゆる健康食品等を医薬品として販売していた偽薬事犯が相変わらず目立つとともに、製薬会社から輸出用と偽り未検定医薬品を低価格で購入し、検定の必要な国内で販売していた特異な事犯もみられた。
〔事例〕 化粧品会社を経営する元暴力団組長は、健康食品ブームに目を付け、鉱泉旅館の裏山から採石した岩石の浸出液と粉ミルク状のものを原料に健康食品を装った偽薬「パナール紀源素」を製造し、「癌、その他万病に効果がある」と大々的に宣伝し、全国の販売店等を通じて1個50 グラム入りの製品約22万個を販売し、約3億7,000万円の暴利を得ていた。5月10日、薬事法違反で8法人24人を検挙した(警視庁)。


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