第3節 安全で住みよい地域社会を目指して

 近年、警察に寄せられる国民の困りごとは、既にみたように、量的に増加しているだけでなく、内容的にも多種多様にわたっており、しかも、なかには、悩みぬいた末、凶悪犯罪を犯したり、自ら生命を断ったり、それに至らないまでも、家出、離婚等の家庭崩壊、家庭不和といった不幸な事態に立ち至るケースが増大している。このような深刻な事態をもたらす国民の困りごとは、都市化の進展等に伴う地域の人と人とのつながりの希薄化、あるいは、核家族化、独居老人の増加等家庭の機能の変化が進むなかで、今後ともますます増加していくものと思われる。
 しかし、最近においては、都市機能の分散、多様化に伴う定住指向が強まり、高齢者、主婦等を中心として、住みよい地域社会をつくるため、地域の問題を自らで解決しようとする自主的社会参加活動が活発に行われるようになってきている。
 このため、警察では、今後とも、地域社会の抱える問題、住民の困りごとをより迅速、的確にくみ取り、その解決に努めるとともに、家庭で解決すべき問題は家庭で、地域社会で解決し得る問題は地域社会で、それぞれ解決されるよう住民の自主的社会参加活動を支援するなどして、安全で住みよい地域社会を目指していくこととしている。

1 派出所、駐在所の機能の強化

 地域に密着した活動を行っている派出所、駐在所の警察官には、住民から様々な困りごとが寄せられている。このような住民の期待にこたえるため、地域の実態の変化に即応して派出所、駐在所の機能の強化に努めていく必要がある。
(1) 地域実態に即した派出所、駐在所の体制の強化
 従来、都市部に派出所が、郡部に駐在所が設置されてきたが、事件、事故の発生状況等、地域の実態に即して、都市部であっても団地等では、地域住民とのふれあいを深めるため駐在所を設置するとともに、郡部であっても、事件、事故が多発する地域においては、警戒力を強化するため駐在所から派出所への転換に努めている。
 また、地域住民との密着性を更に高めるため、一つの駐在所に複数の警察官が家族とともに居住する「複数駐在所」の設置を促進するとともに、団地等の新興住宅地域においては、住民の困りごと等をきめ細かく把握するため、専用の移動交番車による「移動交番」を積極的に開設している。
(2) 住民とともに活動する「派出所・駐在所連絡協議会」
 警察では、昭和57年度から、派出所、駐在所の管内でアパート、マンション、高層住宅等入居者の流動が激しい地域や、事件、事故が多発している歓楽街等に「派出所・駐在所連絡協議会」の設置を進めている。この協議会は、受持ち区内の自治会役員やアパート等の管理者、商店会の役員等から構成され、派出所、駐在所の勤務員が受持ち区内の問題や警察に対する要望、意見を聞き、これに的確にこたえていくことを目的としている。また、警察からも防犯上必要な助言を行い、地域ぐるみで犯罪や事故のないまちづくりを進めていこうとするものである。58年12月末における協議会の設置数は、46都道府県で1,735箇所となっており、前年より781箇所増えている。
 これらの協議会の活動が効果的に推進されていることから、警察では、今後とも必要な地域での協議会の設置を促進していくこととしている。
(3) 地域のシンボル、ふれあいの場としての派出所、駐在所
 派出所、駐在所は、警察組織の最先端として地域住民のふれあいの場となり、困りごと相談等に気軽に立ち寄ることができるように、新、改築の場合には考慮している。また、外観が地域環境にマッチするようデザインにも工夫を凝らしている。

2 困りごと相談体制の整備、充実

 警察では、早くから困りごと相談業務に取り組んできたところであるが、増加する多様な困りごとに対処するため、相談者が利用しやすいよう体制の整備を図るとともに、相談内容を分析し、社会の変化に伴う国民の困りごとを解決するための総合的な諸施策を推進することとしている。
(1) 利用しやすい体制の整備
 気軽に利用できる相談専用電話の増設を図るほか、警察署、警察本部において相談窓口を分かりやすく表示するなどの工夫を凝らすとともに、相談の実態に合わせて、専門の窓口を開設し、又は出張相談を行うなど困っている人が利用しやすいよう体制の整備を進めていく必要がある。
(2) 相談担当者の専門知識の向上
 多種多様な相談にきめ細かく対応できるよう、相談担当者に専門知識、経験の豊富な者を配置し、その問題解決能力の向上に努める必要がある。警察庁では、早くから困りごと相談一般を担当する職員の研修を行ってきたが、昭和55年からは民事介入暴力相談の担当者の研修を行うなど、相談担当者の専門的な相談能力の向上に努めている。また、少年相談において、児童心理、教育学等の素養のある者の任用、配置を進めているが、さらに、相談の内容に応じた専門家の活用を進めるとともに、民間ボランティアの協力を得るなど体制の強化を図る必要がある。
(3) 困りごとを解決するための総合的な対策の樹立
 困りごと相談のなかには、犯罪の新しい特徴、又は新しい社会問題の前兆とみられるような事案等も多く含まれており、警察としては、これら社会情勢の変化に伴う問題点をいち早くくみ取り、それを根本的に解決するための総合的な対策を樹立することが必要である。そのため、派出所、駐在所、警察署、警察本部に寄せられる地域住民の悩み、困りごとを警察庁において分析し、警察業務に反映させる必要がある。

3 コミュニティ活動への支援

 安全で住みよい地域社会をつくるためには、警察における諸施策の推進と相まって、地域社会の抱える問題を住民が自らの問題として取り組む必要がある。最近、住民の間でも、少年の健全育成活動、自主防犯活動、交通安全活動等、より良い地域社会をつくろうとする様々な活動が、以前にも増して活発に行われるようになってきている。
 警察では、ミニ広報紙等を利用してこのようなコミュニティ活動を紹介し、活動する意欲のある人々の参加を促進するとともに、その活動に資するための施設や警察の有する技術、素材等を提供することにより、このような住民の活動の支援と協力に努めている。
 今後とも、民間ボランティアが相互に啓発しあい一体となって活動するための社団法人等各種団体の組織化を支援し、その活動に積極的に協力するとともに、住民の浄財が財団法人、公益信託等の形態によりコミュニティ活動に有効な活用が図られるよう支援するなど、地域住民の活力と連携して、安全で住みよい地域社会をつくりあげていくこととしている。


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