第3章 地域に密着した警察活動

1 地域住民を守る外勤警察活動

 外勤警察は、昼夜の別なく常に警戒体制をとって、街頭における警戒監視、パトロールや各家庭への巡回連絡を通じて、犯罪の予防検挙、交通の指導取締り、各種事故防止に当たるほか、少年補導、迷い子や酔っ払いの保護等を行い、地域住民の安全な日常生活を守っている。また、「親切な警察」を指針として、住民との触れ合いを深める諸活動、各種コミュニティー活動への参画、独居老人等の社会的弱者に対する保護、奉仕活動等を行って地域との結び付きを強める幅広い活動を推進している。
(1) 安心感のよりどころ派出所、駐在所
 外勤警察官の活動拠点である派出所、駐在所は、我が国独特の制度で、全国で約1万5,000箇所設置されている。そして、パトカーや通信指令室等と密接な連携を保ちながら活動している。
-団地駐在所勤務員の活動-
 団地に代表される新興住宅地域では、住民間の交流が少なく、連帯意識も薄い。また、住民の移動が頻繁に行われることなどから各種の防犯組織も発達しにくい。このため、地域住民は犯罪に対し不安感を抱いていることが多く、パトロールの強化を求める声が強い。警察では、このような地域に対しては、派出所、駐在所を新増設したり、移動交番車を配置したりして体制の強化を図り、住民の要望にこたえようと努めている。
 ここで紹介する警察官は、千葉県船橋警察署緑台団地の駐在所勤務員である。同駐在所は、千葉県の北東部に位置し、管内は、人口約1万1,000人、面積は約4.5平方キロメートルで、付近には大型団地が建ち並んでいる。昭和56年12月の活動状況をその日記から拾ってみた。
 12月○日 月曜日 晴れ
 (午前9時)事務処理中、近くの団地に住む5歳の男児と4歳の女児が、鉛筆とゴムまりが落ちていたといって届けてくれた。近ごろでは、子供たちが気軽に立ち寄ってくれるようになった。
 (午前10時)相勤者Aが来た。この駐在所は、管内人口が多く、また、事件、事故も多発するため、2人で勤務する複数駐在制をとっている。この地域の犯罪は、自転車やオートバイ等の乗物盗が多く、全刑法犯の約80%を占めている。2人で簡単な打合せをした後、Aはパトロールに出発した。私は、団地中央にある自転車置場に行き、盗難注意を呼び掛ける札を約200台の自転車とオートバイに取り付けた。
 (午後0時)駐在所で食事中に「子供がいなくなってしまった。」と若い母親から届出があった。本署に連絡後、付近を30分くらい捜し回り、約500メートル離れた道路をよちよち歩いていたのを発見し、すぐ母親に連絡した。走って来た母親は子供をしかりつけていた。今後子供に目を離さないように母親に注意して駐在所に戻った。
 (午後2時)パトロールに出発した。盗難の多い地域を重点に警戒したが、目についたのは子供たちのローラースケート遊びである。危険な車道で遊ばないように注意した。団地の一番奥にある公園に差し掛かったとき、公衆便所の裏側で中学生風の少年2人が居るのが目についた。1人はかがみ込んでいたが、他の1人は周りをきょろきょろと見回していた。どうやら自転車の部品を取り外していたらしい。声を掛けると少年たちは、警察官の不意の出現にびっくりしたらしく逃げ出した。約200メートル追い掛けて停止させ話を聞くと、近くの自転車置場から自転車を盗み出し、部品を取り外して自分の好みの自転車に組み立てるのだという。
 少年たちの話から、団地近くの山林内に何台もの自転車が隠されているのを発見した。少年たちを本署に同行して少年係に引き続いだが、大して罪の意識はないようであった。両親は共働きで夜が遅いのだという。
 (午後5時)付近の主婦から自転車の盗難届があった。買物をしていたす きに、通勤に使っていた自転車を盗まれたのだという。すぐに携帯無線機で本署に盗難の手配をしてから付近を捜したが、残念ながら発見できなかった。
 (午後10時)家族と団らん中に「スナックで酔っ払いが寝込んで困っている。」という電話が入った。勤務時間外は、本署のパトカーが処理することになっているが、私の受持ち区なので制服に着替えて出発した。現場は団地の一階に開いた店であり、店内には中年の男が「大の字」になって寝込んでいた。揺すって起こそうとしたがなかなか目を覚まそうとしなかった。
 しばらくしてようやく気付いた男は、ぶつぶつと訳の分からないようなことを言いながら立ち上がろうとしたが、よろよろと座り込んでしまった。間もなくパトカーが到着した。

 火曜日 曇り
 (午前9時)駐在所で事務処理中に電話が入った。「田んぼが埋められてしまう。すぐ来てほしい。」という内容であった。現場に急行すると、男が3人、ブルドーザーを挾んで口論していた。中に入り、事情を聞くと、不動産屋から埋立てを請け負った業者が、場所を間違えて届出人の田んぼを埋めていたことが分かった。請負業者が陳謝し、原状回復を約束した。急激な宅地開発が進む土地柄なのでしばしば起こる事案である。
 (午前11時)パトロールから帰ると妻からのメモが机の上に置いてあった。団地の主婦から「駐車場内に他人の車がとめてあり、困っている。」との電話があったということであった。無断でとめていた者を探し出し、車を移動させた。
 (午後2時)パトロールを兼ねて巡回連絡に出発した。受持ち世帯数が多いため、できるだけ巡回連絡の時間は多くとっている。今日訪問したアパートでは、隣室に対する騒音苦情、団地周辺の防犯灯の設置の必要性、暴走族の話等参考となる意見、要望が多かった。
 (午後8時)団地の主婦から電話が入った。「いつもの時間に帰ってくる夫がまだ帰らない。交通事故の発生はないか。」との問い合わせであった。今のところ発生していない旨答えると、ややヒステリックに「うちの人どこへ行ってしまったのかしら。」と独り言を言って、ガチャンと電話を切ってしまった。
 (午後9時)事務処理中、近くの団地の住民から「エンジンをかけっぱなしの車があり、うるさいので何とかしてほしい。」との電話があった。現場へ急行すると、暴走族風に車体を低くした乗用車がエンジンをふかしながらとまっていた。車の中には若い男女5人が乗っており、たばこの煙がもうもうとしていた。私の姿に気付いて急発進しようとしたが、なかなか思うようにいかなかったらしい。車内はシンナーの臭いが強く、息が詰まりそうであった。間もなくパトカーが到着したので本署に同行し、少年係に引き継いだ。
 私は、駐在所に勤務して約10年になるが、今まで勤務した農、漁村の駐在所と異なり、団地駐在所ではいろいろな事件や事故が発生し、多忙な毎日である。当初は、団地住民が駐在所になじんでくれるかどうか少し心配したが、最近では喜んで警察に協力してくれる人が多くなった。大変うれしいことだ。これからもがんばりたい。
ア きめ細かなパトロール、巡回連絡
 警察活動に対する世論調査等においては、パトロールの強化、空き巣等の侵入盗犯の予防検挙等の身近な警察活動の強化を望む声が強い。このような要望にこたえるため、警察では、派出所等の新設や駐在所に対するミニパトカーの配置を進めるとともに、所内事務を合理化したり、事件、事故の処理を早めて、できる限りパトロールの時間を確保するよう努めている。
 徒歩によるパトロールのときは、無線機を携帯して常に警察署やパトカーと連絡を取りながら街頭活動を行っている。また、戸締まりが不十分な家庭に対しては、「パトロールカード」によって防犯上の注意を呼び掛けたり、子供の危険な遊びの実態を「お知らせカード」で知らせるなどきめ細かな活動も行っている。

(ア) 犯罪検挙の65%は外勤警察官
 外勤警察官は、常時、パトロール等の街頭活動を行っているので、昭和56年には、全刑法犯検挙人員の約65%に当たる27万人を検挙している。また、覚せい剤事犯、交通法犯等特別法犯の約55%を検挙するとともに、酔っ払い や家出人等の保護、救護の約88%を取り扱っている。外勤警察官による刑法犯検挙件数のうち約47%は職務質問によるものであるが、このなかには、広域侵入窃盗事犯や大規模な覚せい剤密売事犯等社会的反響の大きい重要事件の犯人も多く含まれている。
〔事例〕 兵庫県長田警察署管内では、1月以降、忍び込み等の侵入盗が連続して発生していた。4月25日午前3時50分ごろ、同署K派出所勤務の警察官A、Bが被害多発地域をパトロール中に、運動靴を履き、周囲を気にしている男を発見した。職務質問を行おうとしたところ、逃走したので約100メートル追い掛けて停止させた。当初、男は、一切黙秘し、所持品を見せようとしなかったが、A、Bの粘り強い説得により、所持品を見せた。所持品は、ドライバーと手袋であり、これを使って盗みに入るところであったことを認めた。その後の取調べで、前科7犯で、数府県にまたがる忍び込みの犯人であることが分かった。
(イ) 住民との触れ合いを深める巡回連絡
 巡回連絡は、外勤警察官が受持ち区域内の家庭や事業所等を戸別に訪問して、犯罪の予防、交通事故の防止等について必要な連絡を行うとともに、住民の警察に対する要望や意見を聞いて地域の問題点等を把握し、警察の活動に反映させることを目的に行われている。しかし、新興住宅地域や歓楽街などでは、平日や普通の時間帯では、このような巡回連絡を十分に行うことが困難な場合が多い。このため、その地域の実情に応じて、巡回連絡に専従する警察官を配置してこれに当たらせたり、あるいは、日曜日や休日に重点的に巡回連絡を行うようにしている。また、巡回連絡に際しては、地域の出来事を素材にしたミニ広報紙やパンフレット等を活用している。
イ 子供や老人に対する保護、奉仕活動
 各種事件、事故の被害に遭うおそれが強い老人や子供に対して、外勤警察は、各種の保護、奉仕活動を行っている。独り住まい老人については、家庭訪問を行い、事件、事故の被害に遭わないための心得の指導、困りごとの相談等の活動を行っている。また、子供については、登下校の通学路における 安全確保のための活動や、柔剣道をはじめとする各種スポーツ指導を通じて触れ合い活動を深めている。
〔事例〕 兵庫県杜(やしろ)警察署M駐在所勤務警察官Yが、7月29日午前10時ころ、受持ち区をパトロール中、独り住まいの老人F(73)方に差し掛かった際、病気で入院しているはずの同老人宅に洗濯物が干してあるのに気付き、立ち寄ったところ、同老人が病気のため布団の上で苦しんでいた。直ちに救急車を要請して病院に収容し、救護したが、急性肺炎の悪化で一刻を争う状態であった。
ウ 地域性に富んだミニ広報紙
 全国約1万5,000箇所の派出所、駐在所のうち、約1万3,000箇所でミニ広報紙を発行し、地域の身近な情報の提供に努めている。その内容は、受持ち区域内で発生した犯罪や事故の状況とその具体的防止策、郷土の歴史、住民の要望や意見等地域性の強い素材が盛り込まれている。
 ミニ広報紙の発行については、多くの住民から取り上げてほしい記事の要望や発行回数の増加を望む声が寄せられている。そこで、警察庁では、毎年1回ミニ広報紙全国コンクールを実施して、その質の向上に努めている。

(2) 通信指令室とパトカーの活動
ア 初動警察活動の中枢、通信指令室
 通信指令室は、110番等の受理とパトカー等に対する指令を担当するセンターとして、全国の警察本部に置かれており、初動警察活動のかなめとして重要な役割を果たしている。
 通信指令室では、110番で殺人、強盗等犯罪の発生の通報を受けた場合は、直ちにパトカー、警察署、派出所、駐在所、パトロール中の警察官等に緊急配備を指令するほか、必要によっては、隣接府県又は全国の警察本部にも通報し、警察力を緊急かつ組織的に動員して犯人の早期検挙に努めている。
 警察では、通信指令室を中心とした初動警察活動を更に効率的に行うため、その組織体制の強化とコンピュータの導入等新鋭機器の整備を推進している。

イ 年々増加する110番通報
(ア) 10.4秒に1回、国民39人に1人が利用
 昭和56年に全国の警察で受理した110番の件数は、約303万件で、前年に 比べ約13万件(4.5%)増加した。過去10年間の110番受理件数の推移は、図3-1のとおりで、56年は47年の約1.5倍となっている。これは、10.4秒に1回、国民39人に1人の割合で利用されたことになる。
 これを地域別にみると、最も多い東京都と沖縄県が19人に1人、最も少ない富山県が95人に1人の割合で利用されたことになる。

図3-1 110番受理件数の推移(昭和47~56年)

(イ) ピークは夜間
 110番を受理時間帯別にみると、図3-2のとおり夜間が多く、特に午後8時から午前0時までがピークとなっている。

図3-2 時間帯別110番受理件数(昭和56年)

(ウ) 多い交通関係の通報
 110番の受理件数を内容別にみると、図3-3のとおり交通事故、交通違反等の通報が約85万件(28%)と最も多く、刑法犯被害の届出は約29万件(9.7%)、泥酔者保護要請は約20万件(6.6%)となっている。

図3-3 内容別110番受理件数(昭和56年)

ウ パトカーの活動
 パトカーは、全国に約2,600台あり、警察本部と警察署に配置されている。通常は、地域のパトロールを行っているが、事件や事故が発生した場合には、通信指令室や警察署の指揮を受けて現場に急行し、犯人の検挙や事故の処理に当たっている。また、必要がある場合には、住宅地域等に行って住民からの意見や要望を聴いたり、必要な連絡を行うなど「動く交番」としての活動を行うことも多い。
 110番通報に基づき、より早くパトカーが現場へ到着すれば、それだけパトカーが現場で犯人を捕そくできる確率は高くなる。昭和56年の全国の110番集中地域(注1)におけるリスポンス・タイム(注2)の平均は5分55秒である。110番集中地域におけるリスポンス・タイムと現場における刑法犯の検挙との関係をみると、表3-1のとおり3分未満で現場に到着した場合 は33.7%を検挙している。このため、パトカー勤務員は、管内地理に精通し、犯罪発生予測に基づく先制的な駐留、警戒等を行い、リスポンス・タイムの短縮化に努めている。
(注1)110番集中地域とは、その地域のどこから110番しても自動的に警察本部の通信指令室につながる地域のことで、全国警察の73%に当たる890警察署管内の110番回線が通信指令室に集中されている。
 なお、110番集中地域外では、110番すると管轄の警察署につながることになっている。
(注2)リスポンス・タイムとは、通信指令室で110番を受理してから、パトカーが目的地に到着するまでの所要時間をいう。

表3-1 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと検挙状況(昭和56年)

2 身近な警察活動

(1) 地域住民との対話
ア 住民の声を警察活動に
 都道府県警察の本部や警察署では、警察活動の実態について住民にパンフレットを配布したり、各種会合における説明等を行って、必要なことを正確に伝えるよう努めている。また、「住民コーナー」等の窓口を通じ住民の声を聴いているほか、「本部長と語る会」、「市民と警察が話す会」等の名称で広聴会を開催したり、世論調査やアンケートを実施して、警察に対する要望や意見を聴き取り、各種施策や日常の警察活動に反映させている。
イ 住民と警察を結ぶかけ橋、警察音楽隊
 警察音楽隊は、皇官警察と各都道府県警察に48隊が置かれており、約1,750人の隊員により構成されている。また、過半数の隊が、婦人警察官や交通巡視員でカラーガード隊を編成している。

 隊員の多くは、勤務の合間や、非番日を利用して、演奏技術の向上に努めながら、防犯運動、交通安全運動等の警察が主催する各種行事、県、市町村 等が主催する公共的催し、小・中学校等における音楽教室等で演奏活動を行うとともに、福祉施設やへき地、島部において慰問のための演奏活動を行い、住民と警察を結ぶかけ橋となるよう努めている。56年には、全国で約8,100回の演奏活動を実施し、聴衆は約2,400万人に上り、聴衆の層も広がりつつある。全国警察では、毎年、全国警察音楽隊演奏会を催しているが、56年は、10月に名古屋市で開催し、30隊、約1,200人が参加して演奏を行い、市民との交流を深めた。
(2) 困りごと相談
 最近5年間に警察が受理した困りごと相談の受理件数の推移は、表3-2のとおり年々増加しており、その内容は、表3-3のとおりである。警察では、住民の悩みごとや困りごとに対して積極的に相談に乗り、助言、指導を行っている。

表3-2 困りごと相談受理件数の推移(昭和52~56年)

表3-3 困りごと相談の内容(昭和56年)

(3) 遺失物、拾得物の取扱い
 遺失物や拾得物は、主として派出所、駐在所の外勤警察官が窓口となって取り扱っている。
 昭和56年に取り扱った遺失届は約185万件で、前年に比べ約10万4,700件増加し、拾得届は約344万7,600件で、前年に比べ約12万6,500件増加した。
 このうち、通貨は、遺失金が約25億円で、前年に比べ約15億円増加し、拾得金が約115億円で、前年に比べ約5億円増加した。また、物品は、遺失物品が約300万点で、前年に比べ約18万点増加し、拾得物品が約703万点で前年に比べ約42万点増加した。
 拾得届のあった金品の遺失者に対する返還状況は、通貨については約6割が、物品については約1割がそれぞれ返還された。最近5年間の遺失届、拾得届の取扱状況は、図3-4のとおりである。

図3-4 遺失届、拾得届の取扱状況(昭和52~56年)

(4) 酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等の保護
 最近5年間に、警察官職務執行法、酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律、精神衛生法に基づいて保護した者の推移は、表3-4のとおりで、保護原因別にみると、酔っ払いが半数近くを占めている。
(5) 家出人の捜索願と発見活動
ア 10代に多い家出人

表3-4 酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等の保護原因別保護数の推移(昭和52~56年)

 警察では、家出人の生命、身体の安全確保を図るため、その早期発見に努めている。昭和56年に警察に捜索願が出された件数は、約10万件で、前年に比べ3.3%増加している。最近5年間の家出人捜索願出数の推移は、表3-5のとおりで、毎年女性が男性を上回っており、年齢層別では10歳から19歳までが全体の44.6%を占めている。

表3-5 家出人捜索願出数の推移(昭和52~56年)

イ 家出原因に多い家庭関係、男女関係
 捜索願が出された家出人の家出の原因、動機は、表3-6のとおりで、家庭関係、男女関係が全体の41.6%を占めている。また、家出人の最も多くを占める10代では、家庭関係、男女関係のほか、学校嫌い、学業不振等の学業関係が目立っている。
ウ 家出人の発見状況
 最近5年間の家出人の発見数は、毎年10万人を上回り、56年も10万6,711

表3-6 家出の原因、動機(昭和56年)

人に達し、前年に比べわずかながら増加している。家出人が発見されるまでの期間をみると、表3-7のとおり7日以内に発見された者が全体の60.1%と最も多く、時間の経過とともに発見数は減少している。

表3-7 家出人が発見されるまでの期間(昭和56年)

 家出人の発見方法は、表3-8のとおりとなっている。発見時の状態は、大部分の者が無事に発見されているが、犯罪を犯した者が2,746人(2.6%)、自殺した者が1,729人(1.6%)、犯罪の被害者となった者が699人(0.7%)いることが注目される。
(6) 自殺の実態
ア 老人に多い自殺

表3-8 家出人の発見方法(昭和56年)

 昭和56年の男女別、年齢層別自殺者数、自殺率の状況は、表3-9のとおりである。男女別にみると、男性は女性の約2倍近くになっている。また、年齢層別にみると、高年齢になるほど自殺率(注)は高く、特に65歳以上では43.7となっており、老人問題の深刻さを示している。
(注)自殺率とは、同年齢の人口10万人当たりの自殺者の数である。

表3-9 男女別、年齢層別自殺者数、自殺率の状況(昭和56年)

イ 最も多い自殺原因は病苦等
 自殺の原因、動機は、表3-10のとおりであり、病苦等が最も多く、次い

表3-10 自殺の原因、動機(昭和56年)

で精神障害、アルコール症等、家庭問題の順となっている。
ウ 自殺の未然防止
 警察では、独居老人等に対する訪問や困りごと相談等を通じて自殺のおそれのある者を早期に発見し、その解消に努めるとともに、自殺が多発する場所に対しては、管理者等に対し自殺防止を呼び掛ける立て看板やフェンスの設置を働き掛けるなどしてその未然防止に努めている。

3 総合的な防犯対策の推進

(1) 地域における防犯対策
ア 安全な都市作り
 最近における都市化の進展は、住民相互の連帯感を弱め、匿名性を一層増大させつつある。また、高層ビル、大規模集合住宅、地下街、地下道等人の目の及びにくい新たな空間も増加し、犯罪発生の危険性が高まっている。
 このため、警察では、都市犯罪の現状、犯罪の発生要因、防犯対策の在り方等について、都市工学などの科学的視点からも再検討し、安全な都市作りのための研究を行っている。昭和56年3月には、全国の552都市、約7,000人の住民を対象に調査した「都市における防犯基準策定のための基礎調査報告書」を作成し、住民相互に「わがまち」意識が育ちやすく、犯罪の発生が目 につきやすいように工夫された安全性の高い都市作りを進める必要性のあることを提言した。この報告書を受けて、愛知県警察は、10月、名古屋市守山区内の6路線、約2キロメートルを「防犯モデル道路」に指定した。この道路には、約70メートルごとに防犯連絡所が設置され、地域住民が防犯情報の交換や自主パトロール等に当たっている。また、この道路の要所には、「防犯モデル道路」の標示板、非常ベル、電話ボックス、防犯灯等を設置し、いつでも、だれでも安心して通行できるようその整備に努めている。
イ 地域に根ざした民間防犯活動
 全国各地に、おおむね警察署単位で防犯協会が組織されており、住民の手による各種の防犯活動を推進するとともに、住民の防犯意識の高揚に努めるなど地域における防犯活動の担い手として活動している。
 また、防犯協会の実践的な活動の中心である防犯連絡所は、56年12月末現在、全国で約68万9,000箇所(53世帯に1箇所)設置されており、地域における防犯活動の拠点として、付近で発生する事件、事故の警察への通報、警察からの防犯情報の伝達、地域の防犯対策についての意見、要望の警察への伝達等を行っている。
 警察では、防犯協会、防犯連絡所に対し、地域に即した犯罪情報や防犯資料を提供するとともに、防犯連絡所責任者研修会等を開催している。
ウ 盗犯防止を日指した重点地区対策
 警察では、52年4月から都道府県ごとに侵入盗の発生率が特に高い地域について「盗犯防止重点地区」を設定し、これによって全国の侵入盗多発地域を解消していくこととしている。56年には、503地区(警察庁指定85地区、都道府県警察指定418地区)を指定した。これらの地区においては、地区住民、民間防犯団体、関係団体の代表者等により推進協議会が組織され、盗犯防止対策についての協議、検討を行い、自主パトロールや自主防犯診断を実施しているほか、警察活動も強化され、住民と警察が一体となった防犯対策が推進されている。
(2) 職場における防犯対策
ア 職域防犯団体活動の推進
 現代社会においては、地域社会での生活と並んで職場、職域等における活動の比重が高まっており、それぞれの防犯体制が確立され、かつ、相互に連携し合うことが重要である。
 警察では、犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪に利用されやすい業種、防犯活動や捜査活動に対し組織的な協力を求める必要のある業種を対象として、職域防犯組織の結成について助言、指導を行い、自主防犯活動の促進を図っている。昭和56年12月末現在の職域防犯団体の結成状況は、表3-11のとおりである。

表3-11 職域防犯団体の結成状況(昭和56年12月末現在)

イ 金融機関における防犯対策の推進
 最近の金融機関に対する強盗事件の増加は著しく、犯行手段も銃器を使用したり、盗難車を利用するなど凶悪化、巧妙化の傾向を深めている。
 警察では、こうした事件の未然防止を図るため、金融機関との連絡会議、研修会等を約5,000回開催し、実戦的模擬訓練を約7,000回実施するなどして、金融機関の防犯意識の高揚、管理体制、防犯体制の強化を促進している。
 なお、金融機関の防犯設備の設置状況は表3-12のとおりで、全体的には「安全な店舗」への転換が着実に進められているが、農協、漁協、郵便局等の小規模店舗においては、依然として普及率が低く、その向上が今後の課題となっている。
〔事例〕 6月30日、高知市内の銀行に覆面をし、サングラスをかけた男(28)が押し入り、ガソリンをカウンターにふりかけ、火をつけて脅迫し、現金約55万円を奪い、盗難車で逃走したが、約8時間後に知人宅で 緊急逮捕された。
 この銀行では、毎月、定期的に行員に対し、非常時における任務分担を付与するなどの教養訓練を実施していた。事件発生に際しては、適切に任務分担が遂行され、逃走車両のナンバーの確認、犯人の人相着衣等の確実な把握、迅速な通報等により犯人を早期に検挙したものである(高知)。

表3-12 金融機関の防犯設備の設置状況(昭和56年10月末現在)

ウ 警備業の役割と問題点
 56年12月末現在の警備業者数は3,210業者、警備員数は12万4,286人で、47年11月の警備業法施行当時に比べそれぞれ約4倍、約3倍となっている。
 最近5年間の警備業者数、警備員数の推移は表3-13のとおりで、一貫して増加傾向にある。
 業務内容も、社会の複雑化に伴い拡大、多様化し、原子力関連施設、空港、金融機関等重要施設の警備や核燃料物質、現金等の輸送警備から一般の

表3-13 警備業者数、警備員数の推移(昭和52~56年)

ビル、工事現場の警備等に至るまで、社会の幅広い分野にわたっており、現代社会における民間防犯システムの一環として重要な地位を占めている。特に、最近では、各種警報機器やコンピュータを利用した防犯、防災システムの発達により機械警備が急速に発展するなど、警備業の実態は大きく変化し、その役割は、一段と拡大してきている。
 最近5年間の警備員の警察活動に対する協力件数の推移は、表3-14のとおりで、最近の警備業の発展に伴い増加傾向にある。しかし、一方では、警備員に対する教育を怠るなどの警備業者による警備業法違反や警備員による犯罪が目立っているほか、不適切な警備による事故の発生も相次いでおり、警備業者や警備員の質は、国民の期待に十分こたえるには至っていない。
 警察では、警備業者に対する指導監督体制を更に強化していくとともに、警察活動と警備業者が行う警備業務との間の有機的連携の確保に努めることとしている。

表3-14 警備員の警察活動に対する協力件数の推移(昭和52~56年)

(3) 防犯的諸制度の整備、充実
ア 優良防犯機器型式認定制度の推進
 国民の安全な生活を確保することを目的として、昭和55年4月、防犯機器について警察庁長官が全国的に統一した基準を示し、それに当てはまった製品の型式を認定するという優良防犯機器型式認定制度が発足した。本制度は、まず代表的な防犯機器である住宅用開き扉錠について基準を示したもので、56年には9機器を認定した。
 なお、型式認定を受けた製品には、CPマーク(CPは、Crime Preventionの略称)をはり付けることとなっている。
イ 自転車防犯登録制度
 都道府県警察では、自転車盗の防止と被害回復の迅速化等を図るため、自転車防犯登録制度を推進している。56年末現在では、全保有台数の約61%に当たる2,919万台が登録している。
 56年の自転車盗の認知件数は26万802件で、10年間で倍増しているが、5月には、本制度を規定した「自転車の安全利用の促進及び自転車駐車場の整備に関する法律」が施行されたことから、警察としては関係団体との連携を更に緊密にして、この登録制度の普及活動を推進し、自転車販売業者に対して積極的な実施を働き掛け、防犯登録の整備、充実に努めている。
(4) 全国防犯運動の推進
 昭和56年の全国防犯運動は、「侵入盗の防止」を統一の運動重点として、10月11日から20日までの間、全国一斉に実施された。この運動には、防犯協会その他各種団体の関係者を含め延べ約131万人が参加し、各地で県民大会、防犯パレード、防犯研修会等多彩な行事が繰り広げられ、地域、職域における防犯意識の高揚と自主防犯活動の推進に大きな役割を果たした。

4 犯罪被害者に対する給付等の現状

(1) 犯罪被害給付制度の運用状況
 通り魔事件等の故意の犯罪行為により殺された者の遺族や、身体に重大な障害を負わされた被害者に対して、国が給付金(遺族給付金、障害給付金をいう。以下同じ。)を支給する犯罪被害給付制度は、昭和56年1月1日から実施されている。
ア 申請、裁定等の状況
 給付金の申請、裁定等の状況は、表3-15のとおりである。
イ 給付金等の額
 給付金の裁定額は、総額約2億830万円であり、裁定に係る犯罪被害者1人当たりの平均裁定額は、約340万円となっている。また、犯人が不明であるなどのため、速やかに裁定ができない場合に支給される仮給付金の決定額

表3-15 給付金の申請、裁定等の状況(昭和56年)

は、総額約640万円であった。
ウ 裁定までの日数
 申請後裁定までの平均日数は、約90日である。
エ 給付金の減額が行われた状況
 給付金の支給に係る裁定が行われた事件のうち、給付金の全部又は一部を支給しないこととされたものは、16件で、その状況は、表3-16のとおりである。
オ 他の法令による給付や損害賠償との調整
 被害者又はその遺族に対し、犯罪被害を原因として、遺族補償年金等他の法令による給付が行われるべき場合には、原則として給付金は支給されないこととなるが、このような例はなかった。
 また、被害者又はその遺族が、犯罪被害を原因として損害賠償を受けたときは、給付金の支給額との間で調整が行われることとなるが、56年中において、この調整が行われたのは2件である。
カ 不服申立て等の状況
 申請、裁定等の事務処理をめぐり、不服申立てや訴訟の提起はなかった。
(2) 財団法人犯罪被害救援基金の救援事業
ア 設立
 犯罪被害者等に対する総合的な救済施策を推進するとともに、犯罪被害者等給付金支給法の制定に際して付された衆、参両議院の付帯決議の趣旨に沿

表3-16 給付金の減額が行われた状況(昭和56年)

うため、昭和56年5月21日、財団法人犯罪被害救援基金が設立された。
イ 奨学金等の給与事業
 同基金は、56年10月から、犯罪被害者等に対する救援事業を開始した。
 この救援事業は、小学校から大学までに在学する犯罪被害遺児等の奨学生に対し、月額3,000円から1万円までの奨学金又は学用品費を給与するものであるが、同基金では、奨学生301人の採用を決定し、56年10月分からの奨学金等を支給した。
 同基金では、今後も引き続き奨学生の募集を行うこととしている。

5 水上警察活動

 近年、水上は、海運交通や港湾開発等の著しい進展に加えて、レジャーやスポーツの側面においても活発に利用されるなど、ますます陸上とのかかわりを深め、警察事象も多発の傾向にある。

表3-17 水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の状況(昭和52~56年)

 昭和56年の水上警察活動の状況は、犯罪検挙人員が1,616人、水難救助等の保護が340人、遭難船舶救助が136隻、変死人取扱いが448体であった。最近5年間の水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の状況は、表3-17のとおりである。
 警察では、水上における警察事象に対処するため、水上警察署8署、臨港警察署3署をはじめ、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する警察署に警察船舶198隻を配備して、水上パトロール、訪船等による警戒警備活動や、各種事件事故の検挙、取締りに当たっている。海に囲まれた我が国においては、水上ルートによる悪質重大事案が継続して発生し、その手口も巧妙化しており、これらの事犯の防圧、検挙を図るため、水上における警戒取締り活動を強力に推進するとともに、陸上においても、水上警察との緊密な連携の下に、常時、綿密な捜査活動を実施している。
〔事例〕 7月ころから、深夜無人の横浜港高島埠(ふ)頭において、倉庫荒らしが多発し、船舶を利用していることも予想されることから、横浜水上警察署では、警備艇による海上からの張り込みを実施し、8月19日夜、倉庫に侵入してすずの延べ棒35本(1.2トン、400万円相当)を窃取した男を逮捕した(神奈川)。


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