第11章 警察活動のささえ

1 警察職員

(1) 定員
 昭和55年12月現在、我が国の警察に勤務する職員は、合計約24万8,400人である。このうち、国の機関に勤務する者は約7,600人で、警察官約1,100人、皇官護衛官約900人、その他一般職員約5,600人(うち、約4,100人は通信関係の職員)である。都道府県警察に勤務する者は、約24万800人で、うち警察官約21万600人、一般職員(交通巡視員を含む。)約3万200人である。
 55年度には、2,750人の地方警察官が増員され、警察官1人当たりの負担人ロは、全国平均で、54年度には555人であったものが552人となった。これを欧米諸国と比較すると、図11-1のとおりで、我が国はこれらの諸国に比べ依然として著しく負担が重い。のみならず、社会情勢の変化に伴って、警察事象は量的に増大するとともに、ますます複雑化、多様化しつつあり、治安上、種々の新しい問題を引き起こしているので、今後とも、それに対する必要な体制を整備していく必要がある。

図11-1 警察官1人当たりの負担人口(昭和55年)

(2) 採用
 警察官の採用については、それにふさわしい能力と適性を有する優秀な人材の確保に努めているところである。昭和55年度に都道府県警察の警察官採用試験に応募した者は約7万400人で、合格した者は約1万1,800人(うち、大学卒は約5,400人)となっており、競争率は約6倍であった。
(3) 婦人警察職員
 昭和55年12月現在、都道府県警察には、婦人警察官約3,600人、婦人交通巡視員約2,600人、婦人補導員約800人、その他婦人の一般職員約1万800人が勤務している。婦人警察職員は、交通安全教育、駐車違反の取締り、少年補導、通信指令、要人警護、犯罪捜査、警察広報等の業務に従事している。
 労働基準法による婦人の深夜勤務の制限は、婦人警察職員の職種の多様化にとって支障となっているので、特定の職種については、その適用除外の検討を進めている。

2 警察職員の勤務

(1) 勤務制度
 警察官の勤務には、一般の公務員にはみられない特殊な形態をとるものが多い。外勤警察のように24時間警戒体制を確保する必要がある部門では、通常、3交替又は2交替で3日又は2日に1度の深夜勤務があり、このような勤務を行っている者は、全警察官の4割以上を占めている。また、交替制勤務者以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは6日に1度程度の割合で当直勤務に従事している。加えて、事件の捜査、事故の処理等のため、長期にわたって深夜勤務をしたり、勤務時間外に自宅待機を余儀なくされたり仕事に呼び出される警察官が少なくない。
 このように警察官の勤務は不規則であり、しかも、しばしば危険を伴うことから、2交替制勤務の解消、拘束時間の短縮、複数駐在所の増設等の勤務制度や勤務環境の改善を図ることが当面の課題になっている。
(2) 殉職、受傷、協力援助者の殉難
 警察官は、生命の危険を顧みず、身をていして職務を遂行しなけれはならない場合が多く、昭和55年に職に殉じて公務死亡の認定を受けた者は27人(主な事例はP283を参照。)、公務により受傷した者は7,381人に上り、最近の厳しい治安情勢を反映し、前年に比べ全体として108人の増加となっている。これらの被災職員に対しては、公務災害補償制度による補償を始めとし、症状等に応じた各種の援護措置を行い、生活の安定等を図っている。
 また、昭和55年に現行犯逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して災害を受けた民間人の数は、死者7人、受傷者26人に上っている。これらの人に対しても、警察官の公務災害の場合とほぼ同様の給付や援護を行っている。

3 教養

 警察職員がその責務を遂行するためには、仕事そのものについての専門的な知識、技能や優れた気力、体力とともに、豊かな人間性と良識が必要とされる。このため警察では、警察職員に対する教育訓練に特に力を注いでおり、警察学校等においては、新しく採用した警察官に対する初任教養、幹部昇任者に対する幹部教養、専門分野に応じた各種の専科教養等の学校教養を、職場においては、能力や職種に応じたきめ細かな個別教養、講習会等の一般教養を実施している。
 学校教養のうちで最も力を注いでいるのは、新しく採用した警察官に対する初任教養である。この教養は、良識のかん養、健全な社会人としての人格形成、職責の自覚、気力、体力の練成、外勤警察活動に必要な知識、技能の養成等を目的として、1年間にわたり全寮制で行っており、教官と学生が一体となって授業や課外活動に取り組んでいる。
 また、職責の自覚、良識のかん養等人間教育の一層の充実を図るため、「青年警察官教養推進要綱」に基づき、従来の採用時教養制度を再編成して期間を延長することとし、昭和55年4月から施設等の条件の整備された県において、新しい採用時教養制度(初任科1年、職場実習3箇月、初任総合科 6箇月)による教養を開始した。

4 留置業務の管理運営

 昭和55年末現在、全国の留置場数は1,224場で、ここに年間延べ約250万人の留置人(被勾留者を含む。以下同じ。)が収容されている。
(1) 留置業務に関する改善措置
ア 留置業務の移管
 昭和55年4月、従来刑事部門が担当していた留置業務が、捜査を担当しない総(警)務部門に移管された。その結果、警察庁では長官官房が、都道府県警察本部では総(警)務部が、警察署では総(警)務課が、それぞれ留置業務を担当することとなった。
 なお、警察庁、管区警察局は、業務移管後における管理運営その他留置業務の全般にわたり、都道府県警察に対する特別の指導を行った。
イ 留置場の構造、設備の改善、整備
 昭和54年11月、留置場の構造の新設計基準を制定し、留置室や接見室の面積を拘置所並みに拡張し、留置人のプライバシー保護のために留置室の前面をしゃへいするなどの措置を執ることとし、55年度もかなりの改善、整備を行った。
ウ 留置業務担当者に対する教養訓練の充実
 留置業務は、その性質上、通常の警察実務とは異なる特殊性、専門性が要求されることから、警察大学校、都道府県警察学校等において、留置業務担当者に対し、留置人の処遇を中心に教養を行った。
(2) 監獄法改正作業と代用監獄制度
 昭和51年3月から監獄法改正の審議を行っていた法制審議会は、55年11月25日、「監獄法改正の骨子となる要綱」を法務大臣に答申した。この要綱は、新しい刑事施設と被収容者処遇のあり方を示したものである。いわゆる代用監獄制度については、上記の改善措置も評価され、ほぼ現行法どおり(ただし、受刑者は収容しない。)の形で存続されることが全会一致で決定された。

5 予算

 警察予算は、警察庁予算と都道府県警察予算とから成り立っている。
 昭和55年度の警察庁予算は、「強じんな警察体制の確立」と「時代の要望にこたえる警察活動の強化」を柱として、地方警察官2,750人の増員、犯罪被害給付制度の創設、大規模地震対策の推進、警察機動力の整備、拡充等の施策について重点的に措置している。その総額は、1,491億9,200万円で、前年度の1,460億6,100万円に比べ2.1%増加し、国の一般会計予算総額の0.34%を占めている。その内容は、図11-2のとおりである。
 また、昭和55年度の都道府県警察予算は、警察庁予算の方針と地方財政計画を受け、更に各都道府県の事情に応じ各種の経費を計上している。その総額は、1兆6,937億3,500万円で、前年度の1兆5,586億2,500万円に比べ8.7%増加し、都道府県予算総額の6.9%を占めている。その内容は、図11-3のとおりである。

図11-2 警察庁予算(昭和55年度補正後)

図11-3 都道府県警察予算(昭和55年度補正後)

6 装備

(1) 車両
 警察用車両は、警察活動を迅速、的確に推進するための機動力として有効に活用されており、警察事象の量的な増大あるいは質的な変化に対応して逐次計画的に整備、充実が図られている。その主なものは、パトカー、移動交番車のような外勤警察活動用車両、捜査用車、鑑識車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ、交通事故処理車等の交通警察活動用車両、各種の事案に出動する輸送車等であるが、このほか用途に応じ、検問車、投光車、レスキュー車、爆発物処理車等も保有している。
 昭和55年度は、大規模地震対策の一つとして、通常の車両では走行不可能な不整地を走行できる震災対策活動車をはじめ、通信途絶時に一警察署と同程度の通信能力を発揮する非常用通信車等の整備を重点的に行った。
 また、へき地駐在所の機動力強化のためのミニパトカー、機動捜査力を充実、強化するための捜査用車、高速道路における指導取締り強化のための各種交通取締り用車等をそれぞれ増強、整備し、併せて老朽車両の減耗更新を行った。この結果、同年度末における全国の警察用車両の保有台数は、図11-4のとおり2万152台となった。

図11-4 警察用車両の保有台数、用途別構成(昭和55年度)

 しかし、社会情勢の推移に伴い、ますます複雑、多様化する警察事象に対応して、警察活動を効率的に遂行していくためには、更に警察機動力の拡充、整備を行う必要がある。特に、地域に密着した活動を行うとともに、速やかな現場到着により犯罪検挙率を向上させるためのパトカー、凶悪化、広域化している各種犯罪に対処するための捜査用車、高速交通時代に対応する

ための交通取締り用車、災害等各種事案出動のための特殊車両等については、今後とも継続的に増強、整備を図っていく必要がある。また、警察用車両は使用ひん度が高く、損耗が著しいため、車両更新期間の短縮を図っていくことが今後の課題となっている。
(2) 船舶
 警察用船舶は、水上警察活動における機動力として、港湾、離島、河川、

湖沼等に配備され、水上のパトロール、水難者の捜索と救助、麻薬犯罪や密貿易あるいは公害事犯の取締り等に運用されており、全長8メートル級のものから20メートル級のものまである。
 昭和55年度には、16メートル級警備艇と特殊公害取締り専用艇を増強し、併せて老朽船舶の減耗更新を行った。この結果、同年度末の警察用船舶数は195隻となった。今後の整備に当たっては、使用水域や用途を考慮して、船舶の大型化、高速化を図るなど性能を高めていく必要がある。
(3) 航空機
 警察航空機は、昭和35年度に導入して以来、その特性である高速性、広視界性を活用して、災害発生時の状況は握と救助、山岳遭難者の捜索と救助、道路交通情報の収集と交通指導取締り、逃走犯人の追跡と捜索、公害事犯の取締り等の広範囲な警察活動に運用されている。
 昭和55年度には、大規模地震対策の一つとして、長野、静岡両県警察に最新鋭の中型双発ヘリコプター各1機を配備するとともに、愛知県警察に同型機1機を補充した。この結果、警察航空機は全国で31機となり、航空基地は20都道府県に置かれるに至った。警察用航空機の必要性はますます増大して

いるので、引き続き計画的に整備を推進する必要がある。

7 通信

(1) 新しい通信指令システムの始動
 年々増加する110番通報に対応して、コンピューターを利用するなど、110番通報受理装置や指令装置の機能の高度化に努めている。
 新装成った警視庁では、110番通報があった場合に、事件の管轄警察署、事件の種別、110番を受けた者が記録した通報の内容等必要な情報をコンピューターで処理し、テレビ画面に表示することができるシステムの使用を、昭和55年8月から開始した。兵庫、福岡両県警察本部においても、56年度か動をめざして、警視庁と同様のシステムの整備に着手した。
 また、警視庁では、パトカーの位置や活動状況を常時は握し、110番通報を受理した際には、事案発生地点周辺のパトカーに速やかに指令できるシステムの整備を図っている。新宿地区、千代田地区に続いて55年度は池袋地区に整備し、このような仕組みで指令できる区域は、都区部の約26%となっ

た。さらに、警視庁管内の警察署には、自然性を損なわずに送受信できる高性能のファクシミリを整備し、文書や手配写真の送受信に活用している。
 一方、指令により事件現場に急行する警察車両には、無線機の装備が不可欠である。現在、全パトカーに無線機がとう載されているが、パトカー以外の警察車両についてもとう載に努めている。55年度は、新たに全国で287台の車両に整備し、これにより警察車両の無線機とう載率は約44%になった。
 また、徒歩等で街頭活動中の警察官が相互に、あるいは警察署との間で指令、報告、情報交換等を行うための個人用の携帯無線機の整備を図っており、55年度は、全国で約2,300台を増強した。これにより、全国で約2万台が整備され、約72%の警察署で署を中心とした通信指令のシステムが導入された。
(2) 大規模地震等に備える通信施設の整備
 昭和55年度は、東海地区の大規模地震に備えるための施設、機器の整備に着手したほか、54年度に引き続いて幹線通信路の2ルート化、災害現場で使用する機器等の整備に力を注いだ。
 大規模地震対策としては、静岡県警察本部と警察署を結ぶ電話線の不通に備えて無線の電話回線を1区間整備した。また、パトカーが通話する通信系を増やして、災害が発生した場合の情報量増加に対応できるようにした。このほか、現場で持ち運べて電話機の代わりをする無線電話装置、高出力の携帯無線機、ヘリコプター用無線機等を整備した。
 幹線通信路の2ルート化は、東北管区警察局と北海道警察間について、2箇年計画の初年度分整備を完了し、青森と札幌の間を残すのみとなった。これにより、警察庁と管区警察局を結ぶ幹線通信路を二重化する整備は、56年度で完成する見通しとなった。
 また、災害現場で使用し、必要な通信回線を短時間で確保できる非常用通信車を中部管区警察局に配備した。このほか、衛星通信の実験用装置を整備し、警察庁と全国の主要地点とを結んで、テレビ、ファクシミリ、電話等の通信実験を行った。特に、大震災対策総合警備訓練(9月)では、実際に情 報の伝達手段として使用し、その有用性が確認された。
(3) 警察電話に初の電子交換機の導入
 警察電話については、全国自動即時化の推進、電話交換機の機能の高度化、電話回線網の増強等に努めている。
 電話交換機については、昭和55年度で警察庁に初めての電子交換機を導入し、さらに、九州管区警察局の交換機を電子交換機に更新するための整備に着手した。警察署の電話交換機の自動化は、全国60警察署について実施し、これにより警察署の自動化率は約87%になった。
 このほか、重要突発事案や大規模災害が発生した場合に、事案処理に当たる部署の間でホットラインを開設したり、パトカー通信等のモニターをすることができる即時直通電話を、新潟ほか8道県の警察本部に整備した。また、警察車両相互間、警察本部等と警察車両の間で即時に通話できる移動警察電話を、55年度は、茨城ほか2県の警察に整備した。

8 警察活動科学化のための研究

(1) 科学警察研究所
 科学警察研究所では、科学捜査、少年非行その他犯罪の予防及び交通事故の防止等に関する研究、実験とその研究成果を応用した鑑定、検査を行っている。
 昭和55年度の研究は、前年度からの継続研究64件、新規研究27件の併せて91件で、その内容の主なものは、表11-1のとおりである。
〔研究例〕 中学生による校内暴力事件の分析
 昭和54年9月から55年9月までの1年間における都内中学生の教師に対する校内暴力事件のうち、18件の事件経過と加害少年(63人)について分析したところ、[1]番長を中心とした集団によるものが多いこと。[2]少年と被害教師との間に信頼関係がなく、教師に対する敵対感情が強いこと。[3]事件には計画性が強いこと。[4]少年については、家庭のしつけ等に問題が多いこと。[5]暴力事件に発展する前に校内規律違

表11-1 科学警察研究所の主要な研究課題(昭和55年度)

反や非行を多く行っており、それに対する学校側の対応が遅れたり校内体制が弱いことなどがうかがわれた。
 また、55年に開催された国際会議や学会で発表した研究としては、「シュミレーションによる信号交差点交通容量の算出手法」(4月、ATEC第2回国際会議、フランス)、「マユミ種子に存在する血液型抗H活性並びに抗B活性を有する糖たん白の免疫化学」(7月、第10回国際糖類化学シンポジウム、オーストラリア)、「リンパ球抗原(SLA)の遺伝と出現ひん度について」(7月、第17回国際動物血液型学会、オランダ)、「走査型電子顕微鏡による自他殺判定のための銃残さの研究」(4月、国際走査型電子顕微鏡シンポジウム、アメリカ)等がある。国内では、「覚せい剤関連化合物の代謝について」、「スイッチ開閉時の接点火花によるプロパンガスの着火危険性」、「非行化過程の追跡研究-女子について-」、「地区交通管理に伴う交通実態変化の予測」等の研究発表を行った。
 次に、科学警察研究所では、主に都道府県警察から、また、一部には検察庁や裁判所等から嘱託を受けて高度の技術を要する鑑定、検査を行っており、55年には1,142件(法医学78件、理化学606件、文書・偽造通貨等458 件)の鑑定、検査を行った。
 このほか、都道府県警察における鑑識科学の向上発展のため、鑑識技術職員約400人の参加を得て、法医、化学、文書、火災・爆発の4部会からなる鑑識科学研究発表会を開催した。発表された研究は117件であった。また、都道府県警察の鑑識技術職員を対象に、毛髪、血液型、文書、ポリグラフ、機器分析、金属破断面の各講習会を行った。
(2) 警察通信学校研究部
 警察通信学校研究部では、第一線の要求に即した各種通信機器の開発や改良、通信方式の研究を実施している。昭和55年度においては、警察署用の小容量電子交換機の開発、遺留指紋も伝送できる高性能写真電送装置の実用化の研究、パトカー用の小型高性能ファクシミリの実用化の研究、移動無線に適合するデジタル通信方式の研究等を行った。
(3) 都道府県警察における研究
 都道府県警察の本部には、犯罪鑑識の事務を担当する鑑識課のほか、法医、理化学関係の鑑定、検査や研究を専門に行う機関として科学捜査研究所等が置かれている。
 これらの機関においては、犯罪現場等から採取された各種資料の鑑定、検査、実験を行って犯人を割り出し、あるいは犯罪を科学的に証明するなど、科学捜査の中心となる業務を行っている。このほか、日常業務を通じ、採証、鑑定、検査のより高度な技術や手法の開発、資器材等の研究開発を積極的に推進している。昭和55年の都道府県警察における主要な研究事例を挙げると、表11-2のとおりである。

表11-2 都道府県警察における主要な研究事例(昭和55年)


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