第10章 警察活動のささえ

1 警察職員

(1) 定員
 昭和54年12月現在、我が国の警察に勤務する職員は、合計24万5,900人である。このうち、国の機関に勤務する者は約7,700人で、警察官は約1,100人、皇官護衛官は約900人、その他一般職員約5,700人(うち、約4,100人は通信関係の職員)である。都道府県警察に勤務する者は、約23万8,200人で、うち警察官は約20万7,900人、一般職員(交通巡視員を含む。)約3万300人である。
 54年度には、3,300人の地方警察官(うち、200人は新東京国際空港警備隊)が増員されたが、53年4月から54年3月までの間に、全国の人口が約101万人増加したため、警察官1人当たりの負担人口は、全国平均で555人にとどまった。これを欧米諸国と比較すると、図10-1のとおりで、我が国はこれらの諸国に比べ依然として著しく負担が重い。のみならず、社会情勢の変化に伴って、警察事象は量的に増大するとともに、ますます複雑化、多様化しつつあり、治安上、種々の新しい問題を引き起こしているので、今後とも、そのための的確な対策を推進していく必要がある。

図10-1 警察官1人当たりの負担人口(昭和54年)

(2) 婦人警察官
 昭和54年10月現在、都道府県警察には、婦人警察官約3,800人、婦人交通巡視員約2,900人、婦人補導員約800人が勤務しており、主に交通整理、駐車違反の取締り、少年補導等の業務に従事している。このほかに、交通安全教育、110番受付、要人警護、犯罪捜査、警察広報等の職種へも女性の進出がみられる。また、これらのほかに一般職員として、約9,500人の女性が勤務している。
 婦人警察官については、労働基準法による深夜勤務の制限があり、これが婦人警察官の職種の多様化にとっての支障となっているので、これに対する検討を現在進めている。
(3) 採用
 昭和54年度に、都道府県警察の警察官採用試験に応募した者は約7万1,000人で、合格した者は約1万2,000人(うち、大学卒は約6,000人)となっており、競争率は約6倍であった。
 警察官は、治安維持のために、犯罪捜査、即時強制、武器使用等の大きな権限を与えられ、しかも、個々の警察官が自らの判断と責任においてこれらの権限を行使しなければならない。特に、最近は、職務内容の高度化、専門化及び職務執行の困難化が進んでいるので、採用方法の改善等により、警察官にふさわしい能力と適性を有する優秀な人材の確保に努めている。

2 警察職員の勤務

(1) 勤務制度
 警察官の勤務には、一般の公務員にはみられない特殊な形態を採るものが多い。外勤警察のように24時間警戒態勢を確保する必要がある部門では、通常、3交替又は2交替で3日又は2日に1度の深夜勤務があり、このような勤務を行っている者は、全警察官の4割以上を占めている。また、この交替制勤務者以外でも警察署に勤務する警察官の多くは6日に1度の割合で当直勤務に従事している。加えて、事件の捜査、事故の処理等のため、長期にわたって深夜勤務をしたり、勤務時間外に自宅待機を余儀なくされたり、仕事に呼び出される警察官が少なくない。
 このように警察官の勤務は不規則であり、しかも、しばしば危険を伴うことから、2交替制勤務の解消、拘束時間の短縮、複数駐在所の増設等の勤務制度や勤務環境の改善を図ることが当面の課題になっている。
(2) 殉職、受傷及び協力援助者の殉難
 警察官は、国民の生命、身体、財産を保護し、公共の安全と秩序の維持に当たることを職務としているため、犯人逮捕等の職務の執行に際し、生命の危険を顧みず、身をていして職務遂行に当たらなければならない場合が多く、そのため不幸にしてその職に殉じ、あるいは受傷する者も少なくない。昭和54年中に職に殉じ、公務死亡の認定を受けた者は26人、受傷した者は7,273人に達し、最近の厳しい治安情勢を反映し前年に比べ全体で49人の増加となっている。
 また、現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して災害を受けた民間人も少なくなく、54年には死者12人、受傷者39人に達している。これらの方々に対しても、警察官の公務災害の場合とほぼ同様の給付及び援護を行っている。

3 警察教養

 警察の仕事は、国民の自由と権利に直接重大な関係を持つ場合が多く、警察職員がその責務を遂行するためには、執行務についての専門的な知識、技能や優れた気力、体力とともに、豊かな人間性と良識が必要とされる。このため警察では、警察職員に対する教育訓練に力を注いでおり、新しく採用した警察官に対する初任教養、幹部昇任者に対する幹部教養、専門分野に応じた各種の専科教養等の学校教養及び職場教養を実施している。
 学校教養のうちで最も力を注いでいるのは、新しく採用した警察官に対する初任教養である。この教養は、良識のかん養、健全な社会人としての人格形成、職責の自覚、気力、体力の練成、外勤警察活動に必要な知識、技能の養成等を目的として、1年間にわたり全寮制で行っており、教官と学生が一体となって授業や課外活動に取り組んでいる。授業は、普通の講義式のほか、演技式、事例研究、討議式等も取り入れ、さらに実践経験を積ませるための実務修習、社会見学等も併せて行っているほか、寮生活においては各種のクラブ活動を活発に行っている。
 また、職責の自覚、良識のかん養等人間教育の一層の充実を図るため、「青年警察官教養推進要綱」に基づき採用時教養制度の仕組み、内容等について検討を進めている。

4 予算

 警察予算は、警察庁予算と都道府県警察予算とから成り立っている。
 昭和54年度の警察庁予算は、「強じんな警察体制の確立」と「時代の要請

図10-2 警察庁予算(昭和54年度補正後)

図10-3 都道府県警察予算(昭和54年度補正後)

にこたえる警察活動の推進」を柱として、地方警察官3,300人の増員(うち200人は、千葉県警察新東京国際空港警備隊の要員である。)、全国的情報管理システムの拡充、第二次交通安全施設等整備事業5箇年計画の推進、警察機動力の整備拡充等の施策が盛り込まれ、前年度の1,272億円に比べ14.8%増の1,460億6,100万円となっており、国の一般会計予算総額の0.37%を占めている。警察庁予算の内容は図10-2のとおりである。
 また、54年度の都道府県警察予算は、警察庁予算と地方財政計画を受け、各都道府県の特殊事情を加味して各種の経費を計上しており、その総額は、前年度の1兆4,192億5,400万円に比べ9.8%増の1兆5,586億2,500万円となっており、都道府県予算総額の6.7%を占めている。都道府県警察予算の内容は図10-3のとおりである。

5 装備

(1) 車両
 警察用車両は、警察活動の機動力を高め、警察業務を迅速、的確に推進する上で不可欠の装備であり、警察事象の量的な増大あるいは質的な変化に対応して逐次計画的な整備充実を図っている。その主なものは、捜査用車、鑑識車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ、交通事故処理車等の交通警察活動用車両、パトカー、移動交番車、火薬類取締り用車等の外勤、保安警察活動用車両及び各種事案出動のための大型、小型輸送車等であるが、このほか、検問車、投光車、レスキュー車、爆発物処理車等の特殊用途車両も保有している。
 昭和54年度においては、機動捜査力を充実強化するための捜査用車、へき地駐在所の機動力強化のためのミニパトカー、高速道路延長に伴う指導取締り強化のための各種交通取締り用車等を中心にそれぞれ増強整備を行うとと

図10-4 警察用車両の用途別構成(昭和54年度)



もに、老朽車両のための減耗更新を行ったが、この結果、同年度末における警察用車両の保有台数は1万9,819台となっており、その構成は図10-4のとおりである。
 しかしながら、警察機動力を更に強化するため、各種車両の増強の必要性はなお高く、今後、継続的に拡充整備を図っていく必要がある。また、警察用車両は一般の車両に比べて使用ひん度が高く、損耗が著しいため、車両更新期間の短縮を図っていくことが今後の課題となっている。
(2) 船舶と航空機
 警察用船舶については、水上警察活動における機動力として、港湾、離島、河川、湖沼等に配備し、水上のパトロール、水難者の捜索、救助、麻薬犯罪や密貿易あるいは公害事犯の取締り等に運用している。
 これらの船舶には、全長8メートル級の小型船舶から20メートル級のものまであり、その整備に当たっては、使用水域や用途を考慮するとともに、老朽船の減耗更新の際には高速化を図るなど性能を高めることに努めている。
 昭和54年度末における警察用船舶数は193隻であり、その配備状況は、港湾129隻(66.8%)、河川38隻(19.7%)、離島15隻(7.8%)、湖沼11隻(5.7%)である。
 また、警察用航空機は、35年度から整備を進めてきているが、54年度においては、沖縄県警察に最新鋭の中型双発ヘリコプター1機を配備するとともに、38年度に購入した小型ヘリコプター1機について減耗更新を行った。
 この結果、警察用航空機は全国で29機となり、航空基地は19都道府県に置かれるに至っている。これらは、いずれも災害発生時の状況は握と救助活動山岳遭難者等の捜索と救助、道路交通情報の収集と交通指導取締り、逃走犯人の追跡と捜索、公害事犯の取締り等広範囲の活動に運用されている。

6 通信

 社会活動の広域化及びスピード化、社会の情報化の著しい進展等の情勢下にあって、量的に増大し、質的に変化する警察事象に対応して、より迅速、的確な警察活動を確保するために警察通信の果たす役割はますます大きくなっている。そのため、通信指令システムの充実、重要突発事案対策の強化、第一線警察活動の効率化を主な柱に、最新の科学技術を導入して、各種通信施設の拡充整備と機能の高度化を計画的に実施している。
(1) 110番通報に備える通信指令施設
 都道府県警察の通信指令室は、110番受理装置、パトカーへの無線指令装置、県内各警察署への電話及びファクシミリによる一せい指令装置等からなる通信指令システムを備えた通信指令の中枢である。
 これらのシステムについては、年々増加する110番通報に対応するため、設備の拡充、機能の高度化に努めており、昭和54年度は、香川ほか4県の警察本部の110番受理装置を更新した。また、警視庁では、110番通報があった場合に、事件の管轄警察署、事件種別、受理者が記録した通報の内容等の必要な情報を、コンピューターを利用してテレビ画面に表示することなどができるシステムを導入し、指令の迅速、正確化を図った。
 一方、指令により事件現場に急行する警察車両には、移動無線技術の先端をいく無線機を装備することとしており、54年度は、全国で273台の車両に無線機を増強し、無線機とう載の警察車両は計8,398台となった。
(2) 災害に対応できる通信施設
 災害時において、災害の状況に応じた警察活動を遂行するためには通信の確保が不可欠である。このため、平素からいかなる災害にも対応できる通信施設の整備と運用体制の強化に努めている。
 その一環として、大災害等による重要通信の途絶を防止するため、警察庁と管区警察局間の無線多重電話回線の2ルート化を昭和51年度から進めてきた。54年度は、警察庁~東北管区警察局間の

整備を行い、東北管区警察局~北海道警察間を残すのみとなった。
 一方、被災地等における大規模警察活動等で必要な大容量通信回線を確保できる非常用通信車を、これまで、関東、近畿、九州の各管区警察局に配備してきたが、54年度は、北海道警察に配備した。
 また、災害現場で使用する応急用無線電話機、高出力携帯無線機等の各種通信機器を整備するとともに、有事に際して、必要な現場通信機能を確保するため、通信技術職員による機動通信隊を編成し、その育成に努めるなど、即応体制の強化を行っている。さらに、災害や地理的障害に影響されずに、長距離のテレビ、電話等の通信を行うために衛星を利用する通信システムの導入を計画しており、55年6月から実験を開始することとしている。
(3) 犯罪の広域化、スピード化に対応する通信施設
 警察では、総合力、機動力を発揮した第一線活動を展開する場合の情報連絡の手段として、署活系、高速道路通信系、即時直通電話、移動警察電話、ファクシミリ等の整備を重点的に推進している。
 署活系は、街頭活動中の警察官が相互に、あるいは警察署との間で無線連絡を行うためのシステムで、各警察署ごとに個別の通信系を構成しており、急訴事件の処理、職務質問等に際しての照会等に活用している。昭和54年度は、全国の153警察署について整備を行い、これにより、大、中都市のほとんどの警察署で、このシステムを活用した効率的な警察活動ができることとなった。
 高速道路通信系は、高速道路上で活動するパトカーが高速道路管理官や沿道の都道府県警察と連絡するために使用する通信系である。54年度は、4通信系を整備し、東名、中央等の計8自動車道の供用区間について設定を完了した。また、高速道路に存在するトンネルの多くは無線不感地帯であるので、これらのトンネル内の警察活動を円滑に行うために必要な無線設備の整備を進めることとしており、54年度は、8箇所について整備し、これにより、不感解消の処置がとられたトンネルは計19となった。
 即時直通電話は、大規模の災害等の重要事案が発生した場合、その都道府県警察本部と警察庁、管区警察局、関係都道府県警察本部との間に、即時に自動ダイヤルで、ホットラインを開設したり、パトカー通信系等のモニターをすることのできるシステムである。54年度は、静岡ほか8県の警察本部に整備し、これにより、保有府県警察は計22となった。
 移動警察電話は、警察車両相互間及び警察本部等と警察車両の間でダイヤル即時通話のできる自動車電話である。54年度は、宮城ほか2県の警察に整備し、これにより、保有都道府県警察は計14となった。
 ファクシミリには、都道府県警察相互間で送受信される全国的な電送通信系と都道府県内の警察機関を結ぶ県内電送通信系とがある。県内電送通信系の機器の老朽化に伴い、高速処理機能を有する新機種への更新を進めており、54年度は105台を更新した。
(4) 警察組織を支える電話施設
 警察電話は、全国の警察機関の間を結ぶ専用の通信システムであり、警察活動の円滑な運営を支える重要な情報連絡手段である。このため、全国自動即時化の推進、電話交換機の機能の高度化、電話回線網の増強等に努めている。
 電話交換機については、昭和54年度で、千葉、和歌山両県の警察本部の旧型自動交換機の更新と、全国100警察署について手動交換機の自動交換機への取替えを実施した。これにより、警察署の自動化率は約82%となった。

7 警察活動科学化のための研究

(1) 科学警察研究所
 科学警察研究所では、科学捜査、非行少年、防犯、交通安全等に関する研究、実験やその研究成果を応用した鑑定、検査を行っている。
 昭和54年度の研究についてみると、件数では、前年度からの継続研究56件、新規研究37件の合わせて93件となっており、その内容の主なものは表10-1のとおりである。
〔研究例〕 塩素酸塩系火薬類の威力に関する研究
 爆破事件では、使用された火薬類の識別と同時にその威力が問題となるため、この種の事犯に使用されることの多い塩素酸塩系火薬類の威力に関する研究を進めてきた。
 まず、爆薬の威力を左右する爆ごう速度のイオンギャップ法による高精度測定技術の検討及び測定装置の開発を進め、多種類にわたる塩素酸塩系混合爆薬の爆速を実測するとともに、カスト猛度試験、破片試験、アルミ円筒拡大試験及び野外での爆発実験結果から、三号桐ダイナマイト等産業用爆薬の威力との比較対照を行った。その結果、白色爆薬、スプレングル爆薬、シェジット等代表的な塩素酸塩系火薬類の威力の程度を明らかにすることができた。

表10-1 科学警察研究所の主要な研究課題(昭和54年度)

 また、54年に開催された国際会議や学会で発表した研究としては、「走査電子顕微鏡による頭髪中の塩素と硫黄の定量的測定」(4月、第18回国際走査電子顕微鏡研究集会、アメリカ)、「日本で現在使用中の街頭、呼気中アルコール測定装置について」(7月、第64回国際鑑識協会年次総会、アメリカ)、「都市街路網を対象とする動的な交通配分モデルの開発」(8月、交通管制システムに関する国際シンポジュウム、アメリカ)等があり、国内においては、「依存性薬物の代謝研究における質量分析及びガスクロマトグラフィ質量分析の応用について」、「舌の二次曲線近似による調音モデル」、「社会的制裁の犯罪抑止力について」等の研究発表を行った。
 次に、科学警察研究所では、主に都道府県警察から、また、一部には検察庁や裁判所等から嘱託を受けて高度の技術を要する鑑定検査を行っており、54年には871件の鑑定、検査を行った。
 このほか都道府県における鑑識科学の向上、発展を目的とした鑑識科学研究発表会を毎年開催しており、54年には法医、化学、心理、機械の4部会を開催した。参加した鑑識技術職員は約400人、発表された研究は120件であった。
 なお、都道府県警察の鑑識技術職員を対象に、毎年講習会を実施して鑑識技術の向上を図っており、54年には、毛髪、血液型、文書、ポリグラフ、機器分析及び金属破断面の各講習会を行った。
(2) 警察通信学校研究部
 警察通信学校研究部では、第一線の警察活動をより効率的にするため、現場の要求に即した各種通信機器の開発、改良及び通信方式の研究を実施している。
 昭和54年度においては、パトカー等から各種データの送受信ができる移動無線用データ送受信装置の研究、遺留指紋も鮮明に伝送できる高分解能写真電送装置の実用化の研究、文字、図画の濃淡も伝送できる階調付模写電送装置の開発、新しい無線通信方式の研究等を行った。
(3) 都道府県警察における研究
 都道府県警察の本部には、犯罪鑑識の事務を担当する鑑識課のほか、法医学、理化学関係の鑑定、検査や研究を専門に行う機関として科学捜査研究所等が置かれている。これらの機関においては、犯罪現場等から採取される各種資料の鑑定、検査、実験を行って犯人を割り出し、あるいは犯罪を科学的に証明するなど科学捜査の中核的業務を行っている。このほか、日常業務を通じ、採証、鑑定及び検査のより高度な技術や手法の開発並びに資器材等の研究開発を積極的に推進している。昭和54年の都道府県警察における主要な研

表10-2 都道府県警察における主要な研究事例(昭和54年)

究事例は表10-2のとおりである。


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