第9章 災害、事故と警察活動

1 災害警備活動

(1) 災害警備対策の推進
 我が国は、地理的、気象的条件から風水害が多く、同時に世界有数の地震国でもある。昭和54年も、大型の台風が二度にわたって日本を縦断し、全国各地に大きな被害を出したほか、熊本県阿蘇山の噴火による観光客の死亡や長野県御岳山の有史以来といわれる突然の噴火等様々な災害が発生するなど、依然として自然災害の多いことが痛感された。
 地震については、大きな被害の発生はみられなかったが、東海地震対策として、大規模地震対策特別措置法(以下「地震法」という。)に基づく地震防災対策強化地域の指定と地震防災基本計画が示されたことにより、各方面で地震防災対策の強化が図られた。
 また、3月、アメリカのスリーマイル・アイランド原子力発電所で発生した事故を契機に我が国においても、原子力発電所等の防災対策について新たな問題が提起された。
 こうした情勢のなかで、警察は、特に東海地震対策のほか風水害、地震災害等を想定した大災害警備訓練を実施し、災害警備対策を推進した。
ア 東海地震対策
 東海地震対策については、昭和53年に制定された地震法に基づき、8月には地震防災対策強化地域として、神奈川、山梨、長野、静岡、岐阜及び愛知の6県170市町村が指定され、9月には警察庁をはじめとする防災関係機関の検討を経て、東海地震に対する国の基本方針を示した「東海地震の地震防災対策強化地域に係る地震防災基本計画」が作成された。
 これを受けて警察庁においては、「国家公安委員会・警察庁防災業務計画」の修正を行い、警戒宣言が発せられた後実際に地震が発生するまでの間、国家公安委員会、警察庁及び関係都道府県警察がそれぞれ執るべき措置を、平素の諸対策と併せて新たに業務計画中に盛り込んだ。
(注) 「国家公安委員会・警察庁防災業務計画」は、昭和55年2月に発表された。
 すなわち、平素の対策としては、地震防災対策強化地域を中心とした警察施設の耐震性の強化、通信機器、ヘリコプター、車両等災害警備用装備資器材の整備充実、地震予知情報等の発表時に予想される事態に関する調査研究、具体的な警備計画の策定等のほか、災害警備訓練、住民に対する広報活動の実施等に努めることとしている。
 また、警戒宣言時等における対応としては、住民の避難等に伴う混乱を未然に防止して、災害警備活動の迅速、的確な推進を確保する見地から、警察としては、判定会招集決定の連絡を受けた段階で、直ちにいっせい通信により全国の警察に対してその旨伝達するとともに、警察庁をはじめ強化地域を管轄する県警察とその周辺の都県警察においては、所要の警戒警備本部を設置して体制の確立を図るものとし、その後警戒宣言が発令されると同時に関係機関との緊密な連携の下に、あらかじめ定められた地震防災応急対策の実施を図ることとしている。
 地震防災応急対策の内容は、住民の不安をなくし流言飛語等によるパニックを防止するための各種情報の収集、伝達及び広報、窃盗犯、経済事犯等の予防取締りや重要施設の警戒、緊急輸送路や避難路を確保し交通混乱を防止するための交通諸対策等が中心となっている。
 このうち、特に、交通対策については、
○ 強化地域内での一般車両の走行は、極力抑制するものとする。
○ 強化地域への一般車両の流入は、極力制限するものとする。
○ 強化地域外への一般車両の流出は、交通の混乱が生じない限り原則として制限しないものとする。
○ 避難路及び緊急輸送路については、優先的にその機能の確保を図るものとする。
○ 高速自動車国道及び緊急輸送路に指定されている自動車専用道路については、一般車両の強化地域への流入を制限するとともに、強化地域内におけるインターチェンジ等からの流入を制限するものとする。
を基本方針にして、あらかじめ定める「広域交通規制対象道路」及び「広域交通検問所」によって、広域的な観点からの交通規制、誘導等を実施することとしている。
 また、強化地域内の自動車運転者の執るべき措置としては、
○ 警戒宣言が発せられたことを知ったときは、地震の発生に備えて低速走行に移行するとともに、カーラジオ等により継続して地震情報及び交通情報を聴取し、その情報に応じて行動すること。
○ 車両を置いて避難するときは、できる限り路外に停車させること。やむを得ず道路上に置いて避難するときは、道路の左側に寄せて停車させ、エンジンを切り、エンジンキーはつけたままとし、窓を閉め、ドアはロックしないこと。
○ 避難のために車両を使用しないこと。
を定めた。
イ 特殊災害対策
 自然災害以外の特殊災害については、アメリカのスリーマイル・アイランドの原子力発電所事故を教訓に、災害対策関係機関が検討を行い、7月に中央防災会議決定として「原子力発電所等に係る防災対策上当面とるべき措置について」を取りまとめた。
 警察ではこの決定を踏まえ、直ちに原子力発電所等と警察を結ぶホットラインの設定等緊急時における連絡体制の整備、既存の防災計画の再点検等当面する原子力発電所等の防災対策の推進を図った。
ウ 大災害警備訓練
 地震法に基づく地震防災の諸対策が具体的に進められるなかで、11月16日、初の東海地震総合防災訓練が行われた。
 警察は、同日午前9時内閣総理大臣から警戒宣言が発せられたという想定の下に、警察庁、関東、中部の両管区警察局、神奈川、山梨、長野、静岡、

岐阜及び愛知の各県警察が、それぞれ地震災害警戒警備本部を設置して訓練を行った。
 この訓練には、警察職員約3万5,000人、ヘリコプター5機、車両1,151台を動員して、地震予知情報の受理、有線、無線通信活用による情報収集、緊急輸送路及び避難路を確保するための交通対策、津波危険地域等における住民の避難誘導訓練等を実施した。
 このほか、全国の都道府県警察は、関係機関と協力して地震、台風、石油コンビナート災害等を想定した大災害警備訓練を積極的に行った。
 これら、大災害警備訓練に参加した警察職員は延べ約8万人、地域住民等は静岡県の約24万人を最高に延べ約80万人に上った。
(2) 自然災害と警察活動
 昭和54年における主な自然災害は、梅雨前線豪雨による災害(6月)、阿蘇山噴火による災害(9月)、台風第16号による災害(9月)、台風第20号による災害(10月)であった。これらによる被害を含め、1年間に発生した主な被害は、

死者・行方不明者 202人
負傷者 890人
家屋全(半)壊、流失 1,475むね
床上浸水 2万5,847むね
床下浸水 17万5,293むね

で、合計2万9,329世帯、10万2,221人が被災した。
 これらの災害に際して、全国で警察官延べ約11万人が出動して、災害警備活動に当たった。
ア 梅雨前線豪雨による災害
 6月下旬に入って梅雨前線の活動が活発となり、断続的に大雨が降り続き、6月26日から30日までの間、熊本県鹿北町で延べ824ミリの降雨を記録したのをはじめ、九州地方を中心に西日本で記録的な大雨をもたらした。
 この大雨により、25府県で死者・行方不明者28人、負傷者52人、家屋全(半)壊148むね、家屋浸水4万9,138むね等の被害が発生した。
 この豪雨禍に対して、関係府県警察では、警察官延べ約2万2,000人を動員して各種災害警備活動を行い、被害の拡大防止に努めた。
 特に、福岡県警察では、行橋市において長峡川の堤防が決壊し同市の約80パーセントの家屋が浸水したため、警察官約300人を危険地域に配備して避難誘導、堤防決壊箇所の補強工事等に当たった。
 なかでも、機動隊のレインジャー部隊は、舟艇、ロープ等の資器材を活用し、濁流の中で、水中に孤立した家屋で救助を求めている被災者の救出を行った。
イ 阿蘇山噴火による災害
 9月6日午後1時6分ごろ、熊本県阿蘇山中岳(1,321メートル)の第1火口が大音響とともに爆発し、約500メートル上空まで噴煙を噴き上げ、重さ20キロ近い噴石が落下した。このため、楢尾岳付近にいた観光客32人のうち、噴石の直撃を受けるなどして3人が死亡、11人が負傷する被害が発生した。
 この災害に際し、熊本県警察では、噴火直後、県警察本部に災害警備本部を、現地に現地災害警備本部をそれぞれ設置して指揮体制を確立し、機動隊、隣接警察署の警察官、ヘリコプターを動員して負傷者の救出、観光客等の避難誘導、登山規制措置等所要の警備活動を行った。
 特に、死傷者が多数に上ったことから自衛隊ヘリコプターとの緊密な連携活動により、迅速な救助活動に努めた。
ウ 台風第16号による災害
 台風第16号は、9月30日夕刻、中心気圧955ミリバール、中心付近の最大風速35メートルと中型で強い勢力を保って高知県室戸市付近に上陸し、本州を縦断して10月1日午後根室市付近で温帯低気圧となった。
 この間、足摺岬で最大瞬間風速60メートルを記録したのをはじめ各地で強風が吹き荒れ、前線を刺激したこともあって全国的に大雨を降らせた。
 この台風による被害は、全国34都道府県で死者・行方不明者11人、負傷者56人、家屋全(半)壊59むね等に上った。
 警察では、関係都道府県警察が災害警備本部等を設置したほか、警察官延べ約2万人を動員し、関係機関と緊密に連絡しながら被害の早期は握、危険地域住民の事前避難、被災者の救出、行方不明者の捜索等の活動を行った。
エ 台風第20号による災害
 気象庁観測史上最低の気圧870ミリバールを記録した台風第20号は、10月19日午後和歌山県白浜付近に上陸し、本州から北海道東部を縦断した後千島列島付近で温帯低気圧となった。台風の通過に伴う17日から20日までの総雨量は、三重県八幡峠の967ミリをはじめ、関東以西の太平洋側で400ミリから600ミリ、その他の地方でも100ミリから300ミリに達した。
 この台風による被害は、全国46都道府県で死者・行方不明者115人、負傷者473人、家屋全(半)壊、流失462むね、家屋浸水12万9,089むねに上った。
 このため、各都道府県警察では台風の接近に応じ災害警備体制を確立し、警察官延べ約4万5,000人を動員して被災者の救出、救護、避難誘導、情報収集、危険地域の警戒、雑踏整理等の活動に当たり被害拡大防止に努めた。
 なかでも、13年ぶりに大型台風の直撃を受けた東京では、最大瞬間風速38.2メートルを記録したのをはじめ、18日から19日にかけて青梅市で214ミリを記録するなど山間部を中心に豪雨に見舞われ、死者4人、負傷者101人、家屋全(半)壊38むねの被害が発生した。
 このため、警視庁では、警戒体制を発令するとともに警備本部を設置し、警察官延べ約2万人を動員して、増水により危険となった住民の避難誘導、レスキュー部隊による被災者の救助等に当たった。

 特に、19日午後に入って、台風の影響から都内の交通機関が全面的にストップしたことから、夕刻のラッシュ時を迎えた主要駅では、上野駅の約7,000人を最高に多数の乗客が滞留したため、機動隊等を出動させて、これらの駅の雑踏整理、広報活動等を行い、混乱の発生を未然に防止した。
 また、台風は東北地方を過ぎてから速度を増し、北海道東部を直撃したため、北海道東部海岸では、避難の遅れ等から日本漁船や中国船、韓国船等37隻が相次いで衝突、転覆等の海難事故に遭遇し、道内全体で死者・行方不明者71人の被害が発生した。
 北海道警察では、事案認知と同時に機動隊等を動員し、ヘリコプターによる被災船における生存者の確認、海上保安庁との連携による被災者の救助、病院への収容、海岸に打ち上げられた被災者の発見、救護等の警備活動を行い、人命の救助に努めた。

2 雑踏警備活動

(1) 一般雑踏警備活動の現状
 昭和54年に警察官が出動して雑踏整理に当たった行楽地や催物への人出は、延べ約6億2,070万人に上った。なかでも、正月三が日における著名な神社、寺院953箇所への参拝者は、約6,880万人に達し、また、春のゴールデンウィークにおける主要な行楽地や催物等への人出は、約6,150万人と、いずれもこれまでの最高を記録した。これらの雑踏警備に出動した警察官の数は、この1年間で延べ約75万人に及んだ。最近5年間の雑踏警備実施状況は、表9-1のとおりである。

表9-1 雑踏警備実施状況(昭和50~54年)

 行事や行楽地に集まる群集は、不特定、多数人の集合であることから、無秩序で、自己本位の行動に走りやすく、ささいなことがきっかけとなって大きな事故が発生するおそれがある。
 警察では、行事の主催者等と緊密な連絡を取り、施設の状況、危険箇所の有無を確認し、主催者に必要な措置をとらせるとともに、要所に警察官を配置するなど実態に即した事故の防止に努めている。また、混雑する場所でのスリや小暴力事犯等の取締りのほか、迷い子や急病人に備えて救護場所等の設置にも配意している。
〔事例〕 3月、甲子園球場で開催された第51回選抜高校野球大会で、観衆約5,000人が入場券を求めて発売窓口付近に殺到したため、約20人が次々と将棋倒しとなり、下敷きになった小学生2人が死亡、女子高校生1人が負傷した(兵庫)。
(2) 公営競技をめぐる紛争事案と警備活動
 全国の公営競技場は、競輪場50箇所、競馬場37箇所、競艇場24箇所、オートレース場6箇所の合計117箇所であるが、昭和54年の入場者数は約1億3,100万人であった。警察では、公営競技をめぐる紛争事案や雑踏事故の防止のため、延べ約19万人の警察官を出動させて警備に当たった。
 最近5年間の公営競技場警備実施状況は、表9-2のとおりである。

表9-2 公営競技場警備実施状況(昭和50~54年)

 54年の公営競技をめぐる紛争事案は、前年に比べ1件増の9件であり、競輪場で5件、競艇場で4件発生した。紛争の原因をみると、着順の発表ミスや広報の不徹底等主催者の不手際によるものが多い。
 警察では、それぞれの監督官庁を通じ、又は直接各競技関係者に対して、競技の適正な運営、自主警備の強化、施設の改善等を強く申し入れるとともに、競技開催の都度、警察官を配置して紛争事案の未然防止に努めている。
〔事例〕 2月、広島競輪場において、主催者が着順を誤って発表したことから、観客約1,500人が「当たり券を捨てた」などと騒ぎだし、場内の窓ガラスを壊したり、車や投票所等に火を放つなどの不法行為を行った。警察では、警察官640人を出動させ不法行為の鎮圧に当たるとともに、放火、器物毀棄、窃盗等で13人を検挙した(広島)。

3 各種事故と警察活動

(1) 水難
ア 事故発生の概況
 昭和54年の水難事故は、発生件数3,948件、死者・行方不明者2,644人であり、前年に比べ発生件数で226件、死者・行方不明者で204人それぞれ減少し、死者・行方不明者は過去10年間の最低となった。
 最近5年間の水難事故発生状況は、表9-3のとおりである。

表9-3 水難事故発生状況(昭和50~54年)

(ア) 3分の2が海、川で水死
 水の犠牲者が多い場所は、図9-1のとおりで、海と河川が全体の約3分の2と高い比率を占めている。
(イ) 多い無謀遊泳による事故
 水の犠牲者を行為別にみると、図9-2のとおりで、水泳中が最も多く、飲酒や疲労のまま遊泳するなど無謀な行為によるものが多い。
(ウ) 減少した夏季の水の犠牲者
 例年6~8月の夏季に水難事故が集中しているが、最近5年間のこの時期における水の犠牲者についてみると、表9-4のとおりで、昭和54年の死者・行方不明者は1,237人と前年同期より193人減少した。これは、全国的に梅雨明けが遅く、天候が不順であったことが影響したものと思われる。
(エ) 幼児は大幅減少
 水の犠牲者を年齢層別にみると、表9-5のとおりで、小学生を除いて全般的に減少し、特に、幼児の犠牲者が大幅に減少しているのが目立った。

図9-1 発生場所別水死者数(昭和54年)

図9-2 行為別水死者数(昭和54年)

表9-4 夏季の水の犠牲者(昭和50~54年)

表9-5 年齢層別水死者の状況(昭和53、54年)

イ 水難事故防止活動
 警察では、水難事故を防止するため、事故が発生しやすい危険な場所を調べ、管理者や関係機関、団体に対し、安全施設の整備や危険区域の指定、標識の設置等を促進するよう働き掛けている。また、巡回連絡、座談会、ミニ広報紙による広報等の警察活動や報道機関の協力により幅広い広報活動を行い、地域住民に事故防止に対する注意を呼び掛けるとともに、小学校や幼稚園に対しても、児童、園児の事故防止についての指導を強化するよう申し入れている。
 さらに、水難事故が多発する夏季には、主要な海水浴場に臨時の警察官派出所を設置し、海浜パトロールを行うほか、警備艇による海上パトロールやヘリコプターによる空からの監視を行うなど、陸、海、空の連携による活動を推進している。
 なお、警察では、海水浴場等の管理者に対して、常時監視体制を確立させるとともに、警察官の救助技術の向上と救助用資器材の整備に努めているほか、地域住民に対し、人工呼吸法講習会等を行っている。
(2) 山岳遭難
ア 遭難事故の発生状況
 最近5年間の山岳遭難事故の発生状況は、表9-6のとおりで、昭和54年は前年に比べ発生件数で12件、死傷者数で47人それぞれ増加した。

表9-6 山岳遭難事故発生状況(昭和50~54年)

 54年の遭難事故の特徴としては、死者(行方不明者を含む。)を伴う重大事故が大幅に増加したことが挙げられる。これら重大事故の多発は、山岳における気象の急変や雪崩など自然現象によることが多いが、特に最近における登山の大衆化が、無謀な登山や山に対する知識、技術に乏しい登山者の増加を招き、これが悲惨な遭難事故を引き起こす主な要因となっていることがうかがわれる。
イ 遭難事故防止活動
 警察では、毎年、年末年始や春の連休時、夏休み時期等遭難事故が多発する各登山シーズンの前に山岳情報、登山上の留意事項、登山計画書提出の呼び掛け等各種の広報資料を作成して、山岳関係団体や登山者等に配布し、事故防止についての注意を喚起しているほか、テレビやラジオを通じて悲惨な遭難事故の現状を訴え、国民に協力を求めるなど山岳遭難事故防止対策の推進に努めている。
 また、主要山岳を管轄する警察では、関係機関、団体と協力して救助体制の確立を図るとともに、一般登山道における危険箇所の調査や道標、警告板の設置等を行うほか、登山指導センターや臨時警備派出所を開設して登山者の相談に応じたり、山岳情報の提供、山岳パトロールによる実地指導等現場活動を積極的に推進して遭難事故防止に努めている。
ウ 遭難者の救助活動
 昭和54年に山岳遭難救助のために出動した警察官の数は、延べ約5,500人に及び、民間救助隊員等との協力によるものを含め、遭難者516人を救助したほか、遺体186体を収容した。

〔事例1〕 1月中旬、阿蘇山高岳(標高1,592メートル)において、地元中学校の運動部員5人がトレーニングを兼ねて登山したところ猛吹雪に遭遇し、2人が凍死、3人が重い凍傷を負った。
 この事故は、少年らが冬山を軽視して十分な装備もせず、また、家族や学校にも連絡しなかったなど、安易に登山したことが遭難を招いたものである(熊本)。
〔事例2〕 11月下旬、富士山の5合目付近で冬山訓練中の大学山岳部員等が、目前の景観に魅了されて計画を変更し頂上踏破を図ったが、冬富士特有の突風等により、相次いで9件の遭難事故を引き起こし、5人が死亡したほか、7人の重軽傷者を出した(山梨)。
(3) 火災
 昭和54年の火災の発生状況は、表9-7のとおりで、年々増加の傾向を示していた火災も54年は大幅に減少した。しかし、死者数は前年と同数の1,105人で、前年と並んで最近5年間の最高であった。

表9-7 火災発生状況(昭和50~54年)

(4) 爆発事故
 昭和54年のガスや火薬類等による爆発事故は、表9-8のとおりで、前年に比べ発生件数、死傷者数とも増加した。
 54年の爆発事故の特徴は、都市ガスやプロパンガス等の漏出によるものが多発したことである。これは、都市ガス等の全国的な普及により事故を誘発する対象が増えたこと、建築様式がサッシ戸使用等密閉度の高いものに変わってきたことなどが要因とみられている。

表9-8 爆発事故発生状況(昭和50~54年)

 警察では、爆発事故が発生した場合、速やかに警察官を現場に出動させ、負傷者の救出、二次災害の防止、交通規制、群集整理等に当たっている。
 また、一部の都道府県警察では、レスキュー部隊等の人命救助専門部隊を編成して特別訓練を実施し、救助活動等に役立てている。
〔事例1〕 5月、福岡市の県立高等学校の中庭で、模型による火山噴火の実験中、薬品が爆発し、高校生17人が重軽傷を負った(福岡)。
〔事例2〕 7月、幕張町において、鉄筋2階建てアパートでプロパンガスが爆発し、5人が死亡、8人が重軽傷を負ったほか、同アパート及び隣接の薬局店等約330平方メートルを全焼し、また、爆風により周囲の建物、自動車がガラス破損等の被害を受けた(千葉)。
(5) 船舶事故
 最近5年間の船舶事故発生状況は、表9-9のとおりで、発生件数は年々減少の傾向を示しているものの、前年に引き続いてモーターボートやヨット等レジャ-活動に伴う事故が目立った。

表9-9 船舶事故発生状況(昭和50~54年)

〔事例1〕 7月、熱海港沖合で開催されたモーターポートレースにおいて、出場艇39隻中2隻が転覆し、1人が死亡、1人が重傷を負った(静岡)。
〔事例2〕 9月、釧路川下流において、自動車エンジンを利用した手製エアーボート(プロペラ船)の試運転中、バランスを失って転覆し、同乗していた家族6人中、4人が水死した(北海道)。
(6) その他の事故
 以上のほか、工事場、作業場等における労務災害事故をはじめ、ガス等による中毒事故、幼児のエスカレーター事故、飼育動物による事故等日常生活に密着した領域における様々な態様の事故が発生して、社会的に大きな反響を呼んだ。
 また、ハンググライダーや熱気球の墜落事故等レジャーに伴う新しい形態の事故が多発する傾向がみられる。特に、54年はハンググライダーの墜落事故が7件発生(死者5人、重傷者2人)し、前年に比べ倍増した。今後もこの種のレジャー愛好者はますます増加するものとみられ、事故の多発が懸念される。
 警察では、これらの事故の誘因となるレジャー等の実態を的確には握するとともに、関係機関、団体等との緊密な連携の下に関係者に対する指導警告を徹底するなど事故の未然防止に努めている。
〔事例1〕 9月、中野区のブロードウエイセンターで、ゴム長ぐつをはいた幼児が下りエスカレターに足先を巻き込まれ、足指2本切断の重傷を負った(警視庁)。
〔事例2〕 8月、木更津市の鹿野山神野寺で飼育していたとら2頭が山中に脱走した。警察では地元猟友会等の協力を得て、1頭を2日後に射殺し、残りの1頭を脱走以来25日目に現場から約4km離れた山中で発見し射殺した。人的被害はなかったが、地元民が抱いた不安は大きく、社会的にも大きな反響を呼んだ(千葉)。


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