第7章 交通安全と警察活動

1 交通情勢

(1) 道路交通の現況
ア 自動車輸送量の伸び
 自動車による貨物輸送は、図7-1のとおりで、昭和48年の石油危機後減少傾向にあったが、51年度から再び増加に転じ、53年度は前年度に比べ9.1%増の1,561億トンキロとなり、国内貨物総輸送量の38.1%を占めてい

図7-1 輸送機関別貨物輸送の推移(昭和44~53年度)

図7-2 輸送機関別旅客輸送の推移(昭和44~53年度)

る。また、自動車による旅客輸送については、図7-2のとおりで、石油危機後輸送量が漸増傾向にあり、53年度も前年度に比べ輸送人キロが9.3%増となり、国内総輸送人キロの53.9%を担うようになった。過去10年間の貨物輸送の推移は、鉄道の輸送量は32.7%の減少をみせているのに対し、自動車の輸送量は30.2%の増加を示した。旅客輸送については、同じ期間で鉄道の輸送量が13.0%の増加にすぎないのに対し、自動車の輸送量は66.5%の大幅な増加をみせている。
イ 自動車保有台数の伸び
 我が国の自動車保有台数は、図7-3のとおり年々増加している。昭和54年には、燃料価格の大幅な上昇等にもかかわらず、自動車保有台数は、前年に比べ約219万台(6.3%)増加して約3,719万台に達し、国民約3.1人に1台の割合で自動車が保有されるようになった。我が国の自動車の保有状況は、

図7-3 自動車保有台数、運転免許保有者数等の推移(昭和45~54年)

50年度を境にして乗用車の保有台数が、貨物車等の保有台数を上回り、その割合は徐々に増加し、53年度末で全保有台数の54.5%となった。
ウ 4,000万人を超えたドライバー
 運転免許保有者は、図7-3のとおり着実に増加を続け、昭和48年からの6年間で1,000万人増加し、54年6月には4,000万人を超えるに至った。54年末に16歳以上の免許適齢人口に占める免許保有者の割合は、男性が約1.4人に1人、女性が約3.8人に1人、全体では約2.1人に1人となっている。
エ 自動車交通の問題点
 モータリゼーションの進展により、自動車は国民生活に多くの利便をもたらし、日常生活に密着したものとなっているが、反面において交通事故、交通渋滞、交通公害等種々の社会問題を引き起こしている。
 交通事故死者数は、過去最高であった昭和45年の1万6,765人を55年までに半減させるという「第二次交通安全基本計画」の目標に近づきつつある。しかし、54年の交通事故死者数は8,466人、負傷者数も約60万人に及んでおり、更に一層の減少を図る必要がある。
 また、都市部を中心として増大している交通渋滞や自動車交通に起因する大気汚染、騒音、振動等の問題についても、早急な解決が求められている。
オ 自動車交通と石油情勢
 昭和53年度に、自動車の消費したガソリンは約3,349万kl、軽油は約1,496万klで、それぞれ国内での消費量の約99%、約59%を占めている。自動車燃料消費量の推移は、表7-1のとおりで、53年度を49年度と比べると、ガソリン消費量は33.6%、軽油消費量は39.1%の増加となっている。
 54年には、中東産油国における大幅な石油供給削減に対処するため、総合エネルギー対策推進閣僚会議を中心として、石油消費節減への総合的な取り組みが展開された。その一環として警察においても、不要、不急のマイカー使用の自粛、休日におけるマイカーの高速道路への乗り入れ自粛、経済速度による走行の励行等について、更新時講習等の機会を利用して運転者への周知を図った。また、自動車走行の省エネルギー化を推進するため、交通管制

表7-1 自動車燃料消費量の推移(昭和49~53年度)

システムを拡充し、さらに、信号電球の改良等信号燈器の省電力化に努めている。
(2) 最近の交通事故発生状況
ア 概況
 昭和54年に発生した交通事故は、図7-4のとおり発生件数は47万1,573件で、これによる負傷者数は59万6.282人、死者数は8,466人である。前年に比べ発生件数では7,536件(1.6%)、負傷者数では2,166人(0.4%)とそれぞれわずかながら増加したが、死者数では317人(3.6%)減少し連続9年の減少となった。しかし、死亡事故の内容をみると、依然として都道府県間の死亡事故発生率格差が高い上、前年に比べ二輪車事故、歩行者事故及び老人の事故が若干増加したなどの問題がある。
イ 死亡事故の特徴
(ア) 増えた二輪車乗車中の死者
 昭和54年の交通事故による死者を状態別にみると表7-2のとおりで

図7-4 交通事故の推移(昭和45~54年)

表7-2 状態別にみた交通事故死者数(昭和54年)

る。前年に比べ自動車乗車中が244人(7.5%)減少しているが、原動機付自転車乗車中が26人(3.4%)、自動二輪車乗車中が10人(1.4%)とそれぞれ二輪車による死者が増加した。
a 16~18歳に多い二輪車事故
 昭和54年の二輪車乗車中の死者を年齢別にみると、16~18歳の者が多く、人口比(注)でも図7-5のとおり他の年齢に比べ圧倒的に高い死亡率を示している。
(注) 本章中、人口比とは人口10万人当たりの数である。

図7-5 人口比でみた年齢別二輪車乗車中の死者(昭和54年)

b 多い二輪車と貨物自動車の衝突事故
 昭和54年の交通死亡事故を類型別にみると、表7-3のとおりである。二輪車の場合単独の自損事故等を除けば、貨物自動車との事故が多く、第一当事者(注)となった事故の20.9%、第二当事者(注)となった事故の52.8%を占めている。
(注) 第一当事者とは、過失の最も重い者又は過失が同程度の場合にあっては人身の損傷程度の最も軽い者を、第二当事者とは、過失がより軽い者又は過失が同程度の場合にあっては人身の損傷程度の重い者をいう。

表7-3 当事者相関別死亡事故発生件数(昭和54年)

(イ) 大幅に減少した自転車事故
 自転車利用者と歩行者の死者の過去10年間の推移をみると、図7-6のとおりである。昭和53年の道路交通法改正以降、自転車横断帯の設置や自転車安全整備制度の発足等の各種安全対策が促進されたことにより、54年の自転車乗車中の死者は、前年に比べ108人(9.7%)の大幅な減少をみた。
 これに対し歩行中の死者は、17人(0.6%)増加した。歩行者の死亡事故原因をみると表7-4のとおり車の直前直後の横断や路上への飛び出しが多い。

図7-6 歩行者及び自転車利用者の死者数の推移(昭和45~54年)

表7-4 歩行者の違反別死亡事故発生件数(昭和53、54年)

(ウ) 増えた老人の死亡事故
 昭和54年の交通事故による死者を年齢層別にみると、前年に比べ15歳以下の者は12.4%、16~59歳の者は4.1%とそれぞれ減少したのに対し、60歳以上の老人層のみ3.0%増加した。過去10年間の老人の死者数の推移を人口比でみると、図7-7のとおり年々減少を続けていたが、52年からほぼ横ばい状

図7-7 人口比でみた交通事故死者数の推移(昭和45~54年)

図7-8 状態別にみた老人の交通事故死者数(昭和54年)

態にある。54年の人口比でみた老人の死者数は、全体の約2倍に当たる。また、老人の死者を状態別にみると、図7-8のとおりで、前年に比べ歩行中が26人(2.3%)、自転車乗車中が30人(7.2%)、原動機付自転車乗車中が12人(6.1%)それぞれ増加している。
ウ 著しい都道府県格差
 人口比でみた死者数の全国平均は7.3人であるが、最も高い高知の13.0人

図7-9 人口10万人当たり死者数及び自動車1万台当たり信号機基数(昭和54年)

に対し、最も低い東京は2.4人であり、依然として都道府県間に著しい死者率格差がある。このような著しい格差は、地域の交通安全施設整備状況、運転行動特性、道路状況等の相違に起因するものとみられる。信号機の整備状況と死者率の関係をみても、図7-9のとおりで、信号機密度の高いほど死者率が低いという関連のあることがうかがわれ、交通安全施設等の地域間格差を是正するとともに、引き続き安全施設の全国的な整備充実が望まれる。

2 改正道路交通法の施行状況

(1) 安全の確保のための総合的対策
ア 自転車対策
 自転車に関する事故の多発等に対処するため、自転車に関する総合的対策として、昭和53年の道路交通法の改正においては、道路交通の場における自転車の位置付けを明らかにし、自転車横断帯、普通自転車の交差点進入禁止、普通自転車の歩道通行等に関する規定を新設した。また、普通自転車等の基準に関する規定が整備されたことに伴い、普通自転車及び自転車用反射器の型式認定制度、自転車安全整備士を中心とする自転車安全整備制度が、それぞれ発足した。
 以上のような施策の結果、道路交通法改正後1年間(53.12~54.11)の自転車乗用中の交通事故死者数は、改正前1年間と比べて12.8%減少し、同期間の全交通事故死者数の減少率(6.3%)を大きく上回る成果を上げた。
イ 安全運転管理者
 道路交通法の改正においては、企業内で管理者的立場にある者を安全運転管理者として選任させることを目的として、安全運転管理者の選任要件を強化するとともに、副安全運転管理者に関する規定を新設した。
 この結果、昭和54年に安全運転管理者約5,200人の選任替えが行われるなど、地位の向上等が図られた。また、新設された副安全運転管理者については、54年に約2万6,000人が選任された。
(2)運転者の社会的責任の明確化
ア 酒酔い処罰の強化
 酒酔い運転は、道路交通に及ぼす危険性が極めて大きいため、行政処分の基準点数を引き上げ、1回の違反で運転免許が取り消されることとなった。
 その結果、道路交通法改正後1年間の取締り件数は2万5,247件で、改正前1年間と比べて2万8,178件(52.7%)減少したほか、酒酔い運転による死亡事故発生件数も改正後1年間は558件で、改正前1年間と比べて253件(31.2%)減少するなど、著しい成果がみられた。
イ 無車検、無保険車両の取締り
 無車検、無保険車両の運転については運転者の社会的責任の観点から、道路交通法上行政処分の対象とされることとなった。
 道路交通法改正後1年間の取締り件数は、改正前1年間と比べて無車検運行が1,158件(60.0%)、無保険運行が4,458件(254.3%)それぞれ増加した。
ウ 共同危険行為の取締り
 暴走族が、集団で暴走し、著しい交通の危険を生じさせ、又は著しく他人に迷惑をかけた場合などには、新たに処罰及び行政処分の対象とされることとなった。
 道路交通法改正後1年間の暴走族の動向は、い集回数が2,769回、参加延べ人員が29万8,322人と、改正前1年間と比べてそれぞれ888回(32.1%)、17万3,298人(58.1%)減少した。また、共同危険行為の検挙は109件、2,001人に及んでおり、その内訳は、集団信号無視47.5%、広がり走行22.0%、蛇行走行20.3%の順となっている。
エ 高速道路における安全対策
 高速道路においては、故障その他の理由によりやむを得ず駐停車した場合には、停止表示器材により駐停車していることを表示しなければならないこととされ、また、高速道路に入る前にガソリンやオイル、積荷等について点検し、必要ある場合は所要の措置をとらなければならないこととなった。
 この結果、道路交通法改正後1年間における駐停車車両への追突死亡事故による死者数は、改正前1年間と比べて12人(28.6%)減少した。
(3) 使用者責任の追及
 過積載等企業ぐるみで行われる違反行為については、自動車の使用制限に関する規定が設けられるなど、自動車の使用者責任が強化された。
 この結果、道路交通法改正後1年間における過積載の取締り件数は、改正前1年間と比べて5万9,163件(47.4%)減少し、また、過積載が絡んだ死亡事故件数も116件(55.5%)減少するなど、企業ぐるみの違反を抑止して著しい成果を上げた。

3 新しい運転者管理の展開

(1) 運転免許保有者の概況
 我が国の運転免許保有者数は、図7-10のとおり昭和54年末現在で4,104万2,876人となり、16歳以上の免許適齢人口に占める運転免許保有者数の割合は約2.1人に1人となった。
 社会活動の中核となっている20歳以上60歳未満の年齢層の者についてみる

図7-10 運転免許保有者数の推移(昭和45~54年)

と、男性では約1.2人に1人、女性では約3.0人に1人が運転免許を保有していることになる。また、最近は女性の免許取得者の増加が目立ち、過去3年間における増加率(40.3%)は、男性の増加率(9.6%)の4倍を超え、その間の増加数も女性が330万2,857人と男性の259万1,277万人を大きく上回っている。
(2) 運転者教育の充実
ア 自動車教習所における教習の充実
 昭和54年末現在で全国の指定自動車教習所数は、1,401箇所である。また、54年の指定自動車教習所の卒業者は218万9,639人であり、54年の運転免許試験合格者に占める指定自動車教習所の卒業者の割合は79.1%となっている。
 また、都道府県公安委員会の指定を受けていないいわゆる非指定の自動車教習所は全国で346箇所となっている。
(ア) 自動車教習所の近代化の促進
 自動車教習所の多くが中小企業であり、資力や人的な体制が必ずしも十分でないことなどから、自動車教習所における教習方法の開発及び指導員等の研修の充実、設備の近代化、事業経営の適正化等の一層の推進を図る必要がある。このため、前年に引き続き各都道府県の指定自動車教習所協会等を通じ、中小企業近代化促進法に基づき自動車教習所の中小企業近代化計画の促進、指導を行った結果、昭和54年9月末までに同法に基づく融資を受けて施設、資器材の整備、充実を図った自動車教習所は65箇所で、その総額は約11億4,000万円であった。
(イ) 非指定の自動車教習所に対する指導の積極化
 非指定の自動車教習所は、運転者の教育を行っているという点では指定自動車教習所と変わらず、その役割に着目して教習水準の向上を図っていく必要がある。このため、これらの自動車教習所についても、可能な範囲において指導員に対する講習の実施や資料の提供を行うなど適切な指導に努めた。
イ 講習の充実
(ア) 更新時講習の充実と合理化
 運転免許証の更新者を対象とした更新時講習の受講者数は、運転免許保有者の増大に伴い年々増加しており、昭和54年における受講者数は約1,223万人となっている。
 更新時講習は、すべての運転者に対する再教育の制度である。この講習を真に効果的なものにするため、ティーチングマシン等の設備、資器材の整備、充実と併せ、講習指導員の研修会を定期的に開催するなど指導員の資質の向上を図ってきたところであるが、さらに、対象となる運転者に応じた内容と方法の講習を行うため、性別、年齢、車種等に応じたグループごとの講習を実施することとしている。
 また、この機会に運転者に必要な情報や安全運転に必要な知識等を盛り込んだ安全運転ノートを配布し、運転者の利便を図ることとしている。
(イ) 処分者講習の充実
 運転免許の停止処分を受けた者を対象とした改善教育としての処分者講習の受講者数は、取締り件数の減少等を反映して、前年に比べ減少したものの昭和54年には約131万人が受講している。
 処分者講習についても、更新時講習と同様、対象となる運転者に適した内容と方法の講習を行うため、飲酒学級、再受講者学級、二輪学級、少年学級等の特別学級を設けるなどできるだけ対象に応じた講習を実施しており、54年には約46万人がこの特別学級で受講している。
(ウ) 原付免許取得者に対する安全運転講習の積極化
 最近、原付免許取得者が著しく増加する傾向にあることから、原動機付自転車による交通事故の防止を図るため、技能講習を中心とした安全運転講習を行っており、昭和54年には新規免許取得者の約77%がこの講習を受けている。今後、講習体制を整備し、実際にコースを走行させるなど効果的な講習を積極的に推進することとしている。
(3) ドライバー対策の推進
ア 優良運転者対策の推進
 昭和53年の道路交通法令の改正により、2年以上の間無事故、無違反であった者が、点数が1点又は2点の違反行為をした場合、その日から更に3箇月間無事故、無違反であったときは、特例として点数計算上その違反点数を含めないこととされたが、54年にこの時例が適用された者は約4万人に上るなど、無事故、無違反の運転者についての優遇策がとられた。
 また、運転者の自覚と責任ある行動を促し、その安全意識を高めるため、長期間無事故、無違反の運転者に対する賞揚制度を充実するなど積極的に優良運転者の賞揚を図っている。
 他方、自動車安全運転センターでは、無事故、無違反証明書や運転記録証明書を交付する業務を行っているが、無事故、無違反の期間が1年以上の運転者に対しては、これらの証明書と併せて安全運転者であることを表す「SDカード」を交付し、安全運転の励行、事業所における優良運転者賞揚資料としての活用等を呼び掛けている。
イ 危険運転者の排除
 自動車等の運転をすることが危険であると判断された運転者については、運転免許の取消し、停止等の処分を行っており、昭和54年における処分件数は、運転免許の取消し件数6万8,070件をはじめ約157万件に上っている。
ウ 運転者管理システムのリアルタイム化の推進
 危険運転者の排除、優良運転者の処遇、運転免許証の交付等の運転免許業務の迅速、適正化を図るために、運転者管理システムをリアルタイム化する計画を進めているが、昭和54年にはその開発が始められた。
(4) 企業等における安全運転管理対策
ア 安全運転管理者制度の運用
 企業等における使用車両の安全運転管理の徹底を期すため、一定規模の事業所に対しては、安全運転管理者及び副安全運転管理者を選任することが義務付けられているが、昭和54年末には約22万箇所の事業所において、安全運

表7-5 安全運転管理者等講習の実施状況(昭和54年度)

転管理者約22万人、副安全運転管理者約3万人が選任されている。
 これらの安全運転管理者等に対しては、その資質の向上と事業所における交通事故防止対策を強化するため、都道府県公安委員会が安全運転管理に必要な知識について講習を実施しているが、その状況は表7-5のとおりである。
 また、交通事故多発事業所、講習未受講事業所等に対しては、個別の巡回指導をはじめ、公安委員会に対する報告又は資料の提出を求めるなどして、安全運転管理の改善を図っている。さらに、「安全運転管理モデル事業所」を選定するなど、安全運転管理の充実強化に努めている。
イ 自動車の使用制限処分制度の運用
 企業ぐるみの組織的かつ計画的な無免許運転、積載制限違反等の道路交通法違反の防止を徹底するため、自動車の使用制限処分を行っているが、昭和54年には、無免許運転の下命、容認事案75件82台、積載制限違反の下命、容認事案22件39台、過労運転の下命、容認事案2件2台、計99件123台の処分を行った。

4 歩行者、自転車利用者の交通安全対策

 歩行者、自転車利用者は、交通弱者と呼ばれるように、全交通事故死者数の半数近くを占めており、また、歩行中交通事故に遭い死亡した人の約3分の2が子供と老人であることから、これらの者に対する交通安全対策を重点的に推進している。
(1) 歩行者等の安全確保のための環境整備活動
 歩行者、自転車利用者の安全な通行環境の整備を図るため、生活ゾーン規制を積極的に実施している。生活ゾーン規制は、日常生活の場である住宅地域、商店街、学校等を中心に一定の区域を生活ゾーンとして指定し、通学、通園、買物等のために設定される歩行者用道路、一方通行、指定方向外進行禁止、大型車通行止め、速度制限、駐車禁止等の規制を総合的に組み合わせて、通過交通を排除するとともに、安全で快適な歩行空間を確保しようとするものである。
 また、自転車利用者の安全を確保するため、自転車専用通行帯、路側帯の設定及び自転車歩道通行可等の規制を推進している。このほか、交差点においては、大型車による左折巻き込み事故等の防止を図るため、自転車横断帯、普通自転車の交差点進入禁止、大型車の左折禁止等の規制の実施のほか、自転車を含む二輪車と四輪車の停止位置を前後に分けた「二段停止線」を設置して相当の効果を上げている。
(2) 保護、誘導活動の推進
 歩行者、自転車利用者の安全な通行を確保するため、街頭における指導体制を強化し、横断歩道、自転車横断帯等における保護、誘導活動を重点的に推進した。昭和54年は、自転車利用者に対して、制動装置不備、交差点進入禁止違反等について約140万件の指導を行った。
(3) 交通安全教育の推進
ア 子供の交通安全教育
 幼児については、地域や幼稚園、保育所等を単位とした母親ぐるみの幼児交通安全クラブの結成を推進し、また、小・中学生については、学校、交通安全協会等と協力して交通少年団の結成の促進とその育成に努めるとともに、自主的な活動の推進について指導した。昭和54年9月末現在、全国で1万5,955の幼児交通安全クラブが組織され、幼児約166万人、保護者約160万人が加入し、また、交通少年団は3,970組織され、小学生約69万人、中学生約7万人が加入している。

 子供の交通事故を防止するため、映画、スライド、紙芝居、人形劇等子供の関心を呼ぶ手法を取り入れて、子供の行動特性を考慮、に入れた交通安全教育を積極的に行った。
イ 老人の交通安全教育
 老人に対しては、老人家庭に対する巡回指導を強化するとともに、老人クラブ、老人ホーム等に交通安全部会や交通安全指導員制度の設置を働き掛けるなど、交通安全指導に努めた。昭和54年9月末現在、全国で交通安全部会は1万6,061団体に、交通安全指導員制度は2万4,414団体に設けられている。
ウ 自転車利用者の交通安全教育
 自転車利用者に対しては、自転車保有台数が著しく増加し、自転車事故が多発していることから、交通安全協会、学校等と協力し、特に、母親、幼児、小・中学生を重点とした自転車安全教室を開催したほか、街頭における個別指導を強化した。
(4) 自転車安全整備制度の発足
 昭和53年の道路交通法令の改正に伴い、普通自転車等の型式認定制度が定められるとともに、また、自転車安全整備士による自転車の点検、整備を促進する制度が発足した。この制度は、自転車安全整備店等で自転車安全整備士が、点検、整備を行った普通自転車には、TSマークをはり付けてその旨を明示し、国民の利便に供するとともに、交通の安全に資するためのものである。54年末現在で、自転車安全整備士1万9,066人、自転車安全整備店1万5,437店が誕生した。

5 交通安全意識の高揚

(1) 交通安全運動
 昭和54年の春の全国交通安全運動は、歩行者及び自転車利用者、特に子供と老人の交通事故防止、自動二輪車及び原動機付自転車の交通事故防止、安全運転の確保とシートベルト着用の推進を重点とし、また、秋の全国交通安全運動は、子供と老人の交通事故防止、自転車及び原動機付自転車の安全利用の促進、安全運転の確保とシートベルト着用の推進を重点に、幅広い国民運動として展開された。
 運動期間中、警察では、学校周辺、住宅地域、商店街等の生活ゾーンを中心とした安全な生活環境の確保、自転車利用者のための交通環境の整備等の交通安全対策をはじめ、原動機付自転車の安全利用、シートベルト着用の指導、老人家庭に対する巡回指導等を積極的に進推した。
(2) シートベルト、ヘルメットの着用指導
 シートベルト着用の推進については、交通安全運動等において各種キャンペーンを展開し、運転者、同乗者をはじめ安全運転管理者、雇用者、運転者の家族に対しても指導を行った。
 シートベルトの着用率は、表7-6のとおり高速道路及び一般道路とも年

表7-6 シートベルトの着用状況(昭和50~54年)

々上昇しているが、まだ十分とはいえないので、今後とも関係機関、団体等の協力を得て、シートベルトの着用の効果等について啓もうし、着用率の向上を図っていく必要がある。
 また、ヘルメット着用の推進については、従来から積極的に指導しているところであるが、昭和54年9月に実施したヘルメット着用状況の調査では、自動二輪車乗車中は97.7%がヘルメットを着用していたのに対し、原動機付自転車乗車中は55.9%であった。
 このため、今後は、特に原動機付自転車利用者に対して、安全基準に適合した乗車用ヘルメットを着用するよう指導を強化していく要がある。

6 交通環境の改善

(1) 市総合交通規制等の推進
 交通事故の防止、交通混雑の緩和及び交通公害の防止を図るため、都市総合交通規制を中核とする交通規制を、昭和49年から人口0万人以上の都市を対象に計画的に推進してきた。54年からは、多様化する交通情勢に対応するため、その対象地域を拡大するとともに、交通規制の現状等を見直し、交通実態に即した交通管理の方針等を定めた交通規制基本計画を各都道府県警察において策定し、これに基づき次のとおり交通規制等を推進した。
ア 都市総合交通規制の拡充
 都市総合交通規制は、都市を全体としてとらえ、個々の交通規制を有機的に組み合わせ、交通流の適正な管理と自動車交通総量の削減により、安全で良好な交通環境の保全、改善を図るものである。昭和54年からは、交通規制基本計画に基づき、人口3万人以上の619都市を対象に、生活ゾーン規制を基盤とする都市総合交通規制の拡充を図った。
 人口10万人以上の都市の主要交通規制実施状況は表7-7のとおりである。

表7-7 人口10万人以上の都市の主要交通規制実施状況(昭和48、53、54年)

(ア) 生活ゾーン対策
 住宅地域、商店街等日常生活が営まれている地域において、歩行者及び自転車利用者の通行の安全と良好な生活環境を確保するため、人口集中地区及びこれに準ずる市街地域を網らするよう約1万箇所の生活ゾーンの区域割りを行った。このゾーン単位に歩行者用道路、大型車通行止め、一方通行等の規制を総合的に組み合わせた生活ゾーン規制を積極的に実施し、生活環境の改善を図った。
(イ) 路線バス優先対策
 大量公共輸送機関である路線バスの機能を向上させ、マイカー利用者の路線バスへの転換を図るため、中央線変移によるバス専用レーンの設定、バス感知式信号機の増設等路線バス優先対策を推進し、都市における交通渋滞、交通公害等の原因となっている過密交通の解消に努めている。
(ウ) 交通公害防止対策
 車両の大型化、大型車の夜間走行の増加等に起因する幹線道路沿いの交通騒音、振動等の交通公害防止を図るため、交通管制センターの信号制御による広域交通管制の実施、速度規制及び大型車を対象とした通行禁止規制、大型車の中央寄り車線通行(車両通行区分の指定)等の規制を実施している。
(エ) 駐車対策
 都市地域における交通混雑を緩和し、都心への自動車の流入を抑制するため駐車禁止規制を強化するとともに、業務上の駐車需要の多い地域については、パーキングメーターを設置し、短時間の駐車需要に応じている。
イ 都市間幹線道路の交通対策の推進
 都市間を結ぶ幹線道路については、安全対策、交通公害防止対策に併せて幹線機能の向上を図るため、交通流の整序、交差点における右左折制限、系統式信号機 への改良等の対策を実施しているところである。
 また、速度規制については、昭和54年、全国的に整合性のとれた合理的な速度規制を実施するため、各都道府県警察において、都市間幹線道路の速度規制の見直しを実施した。
ウ 小都市地域等の交通対策の推進
 人口3万人未満の小都市地域又は山間地の観光道路等特別の路線については、交通事故発生の危険性の高い地域、路線又は交差点を対象に、道路環境、交通安全施設及び交通規制の現状を再点検し、道路及び交通の実態に即した適切な交通規制を実施した。
 また、新興住宅地域等については、交通事情の変化を見越して、先行的に必要な交通規制を実施した。
(2) 交通安全施設の整備
ア 整備の現状
 第二次交通安全施設等整備事業5箇年計画の第4年度である昭和54年度における事業予算規模は、表7-8のとおり特定事業約338億円、地方単独事業約377億円、 総額約715億円となっており、歩行者と自転車の通行の安全確保を柱に、交通安全施設の整備に努めた。

表7-8 交通安全施設整備事業実施状況(昭和54年度)

(ア) 交通管制センター
 交通管制センターは、コンピューターによって信号機や道路標識等を広域的かつ有機的に操作するとともに、交通情報を運転者に提供し、都市交通の流れを安全かつ効率的に誘導するものであって、交通管理の中枢をなすものである。
 昭和54年度には、甲府、沼津、尼崎、松江及び佐賀の5都市に新設し、また、既設45都市の交通管制センターについては、管制区域の拡大を図った。54年度末現在で、交通管制センタ-の設置は50都市となり、全信号機の約20%に当たる約1万8,000基の信号機を集中制御している。
 また、日本道路交通情報センターを通じての道路交通情報の提供活動を積極的に行っている。
(イ) 信号機
 昭和54年度には、7,038基の信号機を新設したほか、既設の信号機についても交通実態に即するよう系統化、感応化、交通管制センターによる集中制御化等機能の向上を図った。その結果、系統式、感応式及び集中制御の信号機等交通状況に応じて制御される信号機は、54年度末現在で4万0,117基に及び、全信号機の42.7%となっている。
 なお、地震等の災害発生時において、幹線道路の主要交差点の信号機機能を確保するため、静岡県等の東海地震防災対策強化地域について、可搬式発動発電機の計画的な整備を始めた。
(ウ) 道路標識、道路標示
 車両通行の多い幹線道路については、視認性の高い燈火式標識、大型標識及び交通処理機能の高い可変式の標識を整備し、道路標示については、横断歩道、自転車横断帯、交差点における停止線及び導流標示を中心に整備した。
イ 信号機等の維持管理
 昭和41年度以降の計画的整備により、信号機等の交通安全施設の整備数が飛躍的に増大したことから、その合理的な運用及び維持管理が重要となっている。このため、信号機の運用改善月間の設定及び維持管理モデル県の指定等により運用の改善を図った。
ウ 省エネルギーのための信号機の運用改善
 大量のガソリン等を消費する自動車交通の効率化を図ることは、省エネルギー対策に大きく寄与することとなるので、交通管制センターの整備、充実、信号機の系統化、感応化等の高度化を計画的に推進し、また、夜間における信号機の点滅運用の実施等信号機の運用の改善を図った。
 信号機の電力節約を図るため、歩行者用燈器の電球については、100Wから6OWへの切替えを全国的に実施し、また、車両用燈器の電球については、100W相当の光度を持つ新型電球を開発して、昭和55年度から全国的に使用することとしている。
(3) 交通管理の技術開発
 道路交通状況に応じた信号制御に加えて運転者に対して目的地までの最適経路、所要時間等の交通情報の提供を行う高度な交通管制システムの研究開発を開始した。また、信号機動作監視システム、路側式可変標識、降雪地域における道路標示の耐久性、道路標識(路側標識)の耐久性等についての研究を行った。
(4) 主要国首脳会議における交通対策の実施
ア 交通対策の基本方針
 主要国首脳会議の開催及びこれに先立つアメリカ大統領の来日に際しては、各国首脳の車列の安全、円滑な通行を確保するとともに、交通規制に伴う一般交通の混雑防止等を図るため、広く国民の協力を得ながら、交通量削減等の総合交通対策を実施することとした。
 この基本方針に基づき、警察をはじめ関係省庁では、それぞれの対策を実施した。
イ 総合交通対策の実施
 総合交通対策は、政府広報をはじめとする広報活動を主体とし、各省庁では、関係団体等に対し、自動車利用の自粛、都内への自動車乗入れ抑制等について、指導、協力要請を実施した。
 都道府県警察では、交通規制、都内への自動車乗入れ抑制等に関する広報等を実施し、期間中(6月24日から30日まで)には、交通規制の計画内容を報道機関、道路交通情報センターに提供した。一般道路利用者からの照会は、警視庁に設けられた「サミット交通テレフォンサービス班」への照会だけでも、7万4,553件に上り、また日本道路交通情報センターで行ったテレビ、ラジオの放送回数は、全国で1,350回に及んだ。
 交通対策の現場措置としては、警視庁をはじめ隣接県警察等が一体となって、都内流入抑制のための高速道路ブース制限、う回誘導、信号調整等を実施した。
 このような総合交通対策を強力に推進した結果、走行の自粛等の国民の協力を得て、所期の目的を達成することができた。

7 交通秩序の確立

(1) 交通指導取締りの概況
 昭和54年における交通指導取締りは、歩行者、自転車利用者に対する保護誘導活動、交通事故に直結する悪質かつ危険な違反行為を重点とした街頭指導取締り、交通違反を助長する使用者の義務違反等の取締りの3点を重点に行った。
(2) 街頭指導活動の強化
ア 運転マナーの指導
 事故多発地点、登下校時等運転者の注意を喚起する必要のある場所、時間帯等における交通監視体制を強化し、信号無視、駐車違反等危険な行為の未然防止に努めているほか、歩行者、自転車利用者の通行を妨害する行為等悪質な違反の取締りを強化している。また、運転者の一人一人が「くるま社会」の担い手として安全運転に心掛け、他人に対する思、いやりのある運転を行うよう街頭指導活動に際してチラシを配布するなど運転マナーの向上に努めている。
イ ドライバーに対する援助措置
 交通機動隊等の街頭活動を通じ、車両故障、パンク、落輪等により路上で困惑している運転者に対し、車両の移動、引上げ等応急、的援助活動を積極的に推進している。
(3) 悪質、危険な違反を重点とする取締り
ア 重大事故の原因となる違反の取締り
 交通違反の取締りは、重大な交通事故に直結するおそれのある無免許運転、飲酒運転、著しい速度超過、過積載等悪質、危険な違反行為を重点に実施した。また、これらの取締りに当たっては、交通事故の発生状況、交通違反の状況等を的確に分析し、これに基づいた取締り場所、時間帯等を設定して実施するなど、適正かつ効果的な取締りに努めた。
イ 取締り広報の推進
 事故多発路線等においては、規制理由を示した標識、看板等を設けて安全運転を促す措置を講じる一方、違反取締り時には、当該路線の事故事例を示すなどして違反の防止と安全意識の高揚に努めている。

表7-9 飲酒運転及び速度違反の取締り等状況(昭和50~54年)

飲酒運転及び速度違反の取締り状況


飲酒運転及び速度違反による死亡事故状況

ウ 悪質、危険な違反の取締り
 最近5年間の飲酒運転及び速度違反取締りの状況は、表7-9のとおりで、昭和53年以降はいずれも減少している。
 また、車両等の運転者が第一当事者となった死亡事故のうち、飲酒運転については52年以降は減少している。特に54年については、酒酔い運転の行政処分が厳しくなったことなどから、違反件数及び酒酔い運転者が第一当事者となった死亡事故件数も大幅に減少した。
 今後も、夜間における体制等を強化して違反実態に対応、した取締りを行うとともに、更に広報活動を徹底し、飲酒運転自粛の気運を定着させていくこととしている。
 一方、速度違反については、追越し違反、信号無視、一時停止違反、徐行義務違反、車間距離保持義務違反等を伴う場合が多く、重大事故に結びつくほか、騒音、振動等交通公害の発生要因ともなっていることなどから、その取締りに当たっては、交通の流れを乱すなど危険な走行をする車両を重点とするとともに、取締り場所、時間帯についても違反実態に対応して設定することとしている。
(4) 背後責任の追及
ア 使用者等の責任追及
 過積載、過労運転(麻薬等運転を含む。)、無免許運転、整備不良車両運転、無車検、無保険運行等にあっては、使用者、荷主、整備業者等が違反行為の背後にあって、その違反行為を助長している場合が少なくない。このため、運転者の違反行為を取り締るだけでなく、その背後にある運行管理、労務管理、車両管理等の管理責任を追及するとともに、所要の行政措置を的確に講じるなど、根源的かつ総合的な対策の推進に努めている。
 昭和54年の使用者等の背後責任追及の状況は、表7-10のとおりで、その件数は前年に比べ1,857件減少している。また、積載違反に係る背後責任追及件数は4,893件で、全体の30.8%を占め、うち荷主等の責任追及件数は87件であった。

表7-10 背後責任追及件数(昭和53、54年)

〔事例〕 荷主の鉱さい販売会社が中心となり、系列運送会社、元請運送会社等と共謀し、輸送コストを下げるため、10トン積みのダンプカーに15トンを積むなど、「ボディ面(つら)積み」と称する輸送方針を決定し、保有ダンプカー及び出入りのダンプカーの運転手に過積載違反を下命し、13日間に延べ約1,200回にわたり過積載違反を行った事案について、荷主及び運送会社ら13業者、運転者60人を検挙した(愛知)。
 54年における過積載の違反件数は6万8,040件となり、前年に比べ5万765件(42.8%)減少している。また、内容についても、超過割合の高い違反の減少が目立っており、輸送業界に過積載自粛の浸透がうかがわれた。これは53年の道路交通法令の改正により、都道府県公安委員会が過積載等の下命容認事犯について、自動車の使用制限をすることができることとなったことによるものとみられる。
イ 関係行政機関等との連携の強化
 運行、労務、車両等の管理の適正を図るため、捜査の結果に基づき所要の事項を関係行政機関、団体に通報し、必要な行政措置、指導措置が講じられるよう積極的に働き掛けている。なお、過積載については、関係8省庁からなる過積載防止対策連絡会議が開催されるなど関係省庁との密接な連携の下に、諸施策の推進を図っている。
(5) 交通関係法令違反の取締りの強化
 交通の安全を確保し、交通秩序の維持を図るため、道路交通法だけでな

表7-11 交通関係法令(道路交通法を除く。)違反検挙状況(昭和53、54年)

く、道路運送車両法、自動車損害賠償保障法、道路運送法等の各種交通関係法令違反についても積極的な取締りを行っている。
 昭和54年の無車検、無保険運行、白タク行為等の検挙件数は、表7-11のとおりである。特に、無車検、無保険運行については、53年の道路交通法令の改正以後、指導取締りが強化されたことなどにより、前年に比べ違反の検挙件数は増加している。
 なお、この種の違反は、組織的に行われる場合が多いことから、車両の所有者、使用者等に対する責任の追及を徹底することとしている。
(6) 交通捜査活動の推進
 昭和54年の交通事故に係る業務上(重)過失致死傷事件の送致件数及び送致人員は、それぞれ45万6,778件、50万7,921人で、送致件数はここ数年横ばい傾向にある。
 最近5年間のひき逃げ事件の発生、検挙状況は、図7-11のとおりで、54年は2万9,053件発生し、うち2万7,065件を検挙し、検挙率は93.2%と過去10年間の最高を示した。最近の事犯の特徴として、犯行後、車の色を塗り替え、証拠をいん滅しようとするなど悪質、巧妙なものが目立っている。
 また、自動車を凶器として使用した殺傷事件、自動車保険金詐欺事件等交通特殊事件と呼ばれるくるま社会における新しい犯罪も年々増加し、54年

図7-11 ひき逃げ事件の発生、検挙状況の推移(昭和50~54年)

表7-12 交通特殊事件の検挙状況(昭和54年)

は、表7-12のとおりこの種の事件を3,077件、2,301人検挙した。

8 暴走族の動向と対策

(1) 暴走族の動き
 暴走族は、昭和54年11月末現在、全国で472グループ、2万5,183人で、前

表7-13 暴走族のい集走行状況(昭和50~54年)

年同期に比べ165グループ、2,741人増加している。最近5年間の暴走族のい集、走行状況は、表7-13のとおりで、54年は、参加延べ人員、車両数とも前年に比べ減少した。
 また、最近3年間の暴走族の対立抗争事案の発生状況は、表7-14のとおりで、54年は発生件数、関与人員とも増加している。
 暴走族は、53年の道路交通法の改正により共同危険行為等禁止規定が新設されたこと、取締りを強化したことなどにより、従来みられた大規模な集団走行から小グループによる走行へと変化したが、暴走行為や対立抗争事案に加えて一般市民に対する暴力行為、取締り警察官に対する公務執行妨害事犯等を引き起こすなど、悪質粗暴化の度合いを深めている。

表7-14 暴走族の対立抗争事案の発生状況(昭和52~54年)

(2) 総合的対策の推進
ア 暴走族に対する取締りの強化
 昭和54年は、暴走族に対する取締りを一段と強化し、警察官の出動回数は約1万回、延べ出動人員約100万3,000人に及んだ。
 最近5年間の暴走族事案の法令別検挙状況は、表7-15のとおりで、道路交通法違反は減少したものの、暴行、傷害、凶器準備集合等の刑法犯、暴力行為等処罰ニ関スル法律、銃砲刀剣類所持等取締法等特別法犯が増加している。
〔事例〕 神戸市の六甲山展望台駐車場において普通乗用車4台を止めて夜

表7-15 暴走族事案の法令別検挙状況(昭和50~54年)

景をながめていた少年ら11人に対し、通りかかった暴走族「昭和会」、「関西連合プレーボーイ」及び「悪妙」グループが、「車を当てた」と因縁をつけ、携帯していた鉄棒、木刀等で殴りかかり、4人に対して傷害を与え、更に2人から現金を強奪したほか、車両4台を破損させた事案で、少年を含む127人を検挙した(兵庫)。
イ 暴走させない環境作り
 暴走族問題の解決を図るために、不法行為に対する検挙活動を更に進めていくほか、家庭、学校及び職場において青少年に対する自動車等の健全使用についての指導が行われるよう働き掛けている。また、暴走族の集まりやすい駐車場、公園、港湾施設等から暴走族を締め出し、暴走行為につながる自動車の不法改造を防止するため、関係者等に協力を呼び掛けるなど、暴走行為をさせないための環境作りに努めている。さらに、府県議会、市町村議会等において暴走族追放決議がなされているほか、関係機関、団体等からなる暴走族対策会議が設置されるなどの諸対策が積極的に講じられており、今後も、こうした暴走族追放気運の盛り上がりを図ることとしている。
ウ 運転免許の行政処分の強化
 共同危険行為等暴走行為を行った運転者をはじめ、これらの暴走行為を教唆し又は幇助した悪質な同乗者についても、運転免許の行政処分を行い、再犯防止を図っている。
 昭和54年の共同危険行為等に係る行政処分の状況は、1,420件で、うち運転免許の取消しは430件であった。

9 ハイウェイ時代への対応

 高速道路(注)は、昭和54年末で供用延長距離が2,976kmとなり、ほぼ全国を縦断する幹線自動車道路網を形成するに至っており、国民生活のみならず全国的な産業、経済活動を支える基幹道路として広く利用されている。高速道路の機能を確保するため、警察庁、管区警察局及び都道府県警察が緊密な連携の下に高速道路における交通警察活動の一体的、総合的運営を図っている。
(注) 高速道路とは、高速自動車国道及び道路交通法施行令第42条第1項の自動車専用道路をいう。
(1) 東名日本坂トンネル内事故
ア 事故の概要
 昭和54年7月11日、東海自動車道(東名高速道路)日本坂トンネル(2,045メートル)内で、大型貨物自動車4台、普通乗用自動車2台が関連した追突

事故及びこれに伴う車両火災が発生し、後続車両に延焼した。この一連の事故により、死者7人、負傷者2人、焼失車両173台という大規模な被害が発生した。警察では関係機関と協力して、トンネル内にいた運転者等210人を速やかに避難誘導したほか、う回路の指定、広域交通規制等を迅速に実施し、引き続き事故原因究明のための捜査を行った。
 この事故は、高速道路で一たび交通事故が発生すると、第二次的事故を誘発するなど重大事故に結びつきやすいこと、また、長期間にわたる高速道路の通行止めは経済活動をはじめ国民生活に多大の影響を与えることなどを如実に示し、これを契機に、高速道路における交通安全確保への関心が一段と高まった。
イ 高速道路の安全走行確保のための緊急対策
 日本坂トンネル内事故後も多重追突事故が相次いで発生し(6件)、そのうち車両火災を伴うものが2件あった。このため、昭和54年9月1日から1箇月間、緊急対策としてヘリコプターを活用した空陸一体の交通指導取締りを実施するとともに、高速運転安全5則(注)を定めて運転マナーの向上を図るなど総合的な交通事故抑止対策を推進した。
(注) 高速運転安全5則とは、「安全速度を守る」、「十分な車間距離をとる」、「割り込みをしない」、「わき見運転をしない」及び「路肩走行をしない」の5則をいう。
ウ 長大トンネル安全対策の推進
 高速自動車国道には、恵那山トンネル(8,489メートル)、笹子トンネル(4,784メートル)をはじめ34の500メートル以上のトンネルがある。これらの長大トンネルの安全対策として、トンネル内走行時における安全運転の励行の指導、危険物運搬車両の指導取締り、交通安全施設の総点検等を実施したほか、必要に応じ、交通信号機の設置、進路変更禁止規制等の措置を強力に推進することとしている。
(2) 交通事故の発生状況
 最近5年間の高速自動車国道における交通事故の発生状況は、図7-12の

図7-12 高速自動車国道における交通事故発生状況(昭和50~54年)

とおりで、総数では供用距離の延長等もあり漸増の傾向にあるが、死亡事故及び負傷事故はおおむね横ばいである。昭和54年は、物損事故を含め1万2,985件で、自動車専用道路を加えた高速道路全体では2万3,758件となっている。
 死亡事故137件(死者162人)についてみると、時間帯別発生状況では、午前2時から3時までの間が最も多く、また、夜間に約6割が発生している。
 事故の原因別では、前方不注視(44件)、ハンドル操作、ブレーキ操作の不適当(35件)及び居眠り等の過労運転(34件)で約8割を占める。事故類型別では、ガードレール又は中央分離帯への衝突等の単独事故(53件)及び駐停車車両への追突等の事故(37件)で約7割を占めている。また、致死率(注)は一般道路に比べ約3倍に及んでいる。
(注) 致死率とは、人身事故件数に占める死亡事故件数の割合をいう。
(3) 交通管理活動
ア 交通規制
 昭和54年に新たに供用等された高速道路6路線116.5kmについて、既存路線との整合性を保持しながら関連一般道路の交通状況等との調和を図るため、速度規制等必要な交通規制を実施した。また、大規模事案の発生等により、高速道路が閉鎖された場合に備え、う回路の指定、円滑な交通処理方法等に関する広域的な交通規制計画等の整備充実を図った。
〔事例〕 3月8日から同時供用された九州縦貫自動車道(八幡I.C.~若宮I.C.)と北九州直方道路(自動車専用道路)の接続部分において、交通事故が集中的に発生したため、規制標識の視認性の向上対策をはじめ、道路管理者の協力を得て安全施設の整備、改良を図った(福岡)。
イ 交通指導取締り及び交通事故事件の捜査
 高速道路では、高速道路特有の交通事故につながる駐停車違反、車間距離不保持等を重点とした指導取締りを行っているが、昭和54年の高速自動車国道における交通違反の取締り状況は、表7-16のとおりである。

表7-16 高速自動車国道における交通違反取締り状況(昭和53、54年)

 また、高速道路における交通事故事件の捜査に当たっては、わずかな運転操作上のミスや車両欠陥が重大な事故の原因となることも多いため、綿密、多角的な捜査を推進している。


目次