第4章 犯罪情勢と捜査活動

1 犯罪の発生と検挙状況

(1) 全刑法犯の発生状況
ア 犯罪発生は6年ぶりに減少
 昭和54年の全刑法犯の認知件数は、128万9,405件で、前年に比べ4万7,517件(3.6%)減少したものの依然として高い水準にある。
 過去10年間の全刑法犯認知件数と犯罪率(注)の推移をみると、図4-1のとおりで、48年に120万件を割り戦後の最低を示した全刑法犯認知件数は、49年以降増加を続けていたが、54年には6年ぶりに減少した。また、犯罪率も49年以降上昇を続けていたが、54年には低下した。

図4-1 刑法犯認知件数と犯罪率の推移(昭和45~54年)

 54年の刑法犯認知件数の包括罪種別構成比は、図4-2のとおりで、窃盗犯が85.9%を占めており、次いで知能犯(6.2%)、粗暴犯(4.1%)、凶悪犯(0.7%)の順となっている。
 これまでの包括罪種別構成比の推移をみると、窃盗犯以外の認知件数が全体として年々減少ないしは横ばい傾向にあるのに対し、窃盗犯の認知件数はおおむね増加傾向にあるため、その構成比は増大している。

図4-2 刑法犯包括罪種別構成比(昭和54年)

(注) 本章において犯罪率とは、人口10万人当たりの認知件数をいう。
イ 主な罪種の発生状況
(ア) 凶悪犯
 昭和54年の凶悪犯の認知件数は、8,833件で、前年に比べ138件(1.6%)増加した。罪種別にみると、殺人は9件(0.5%)、強姦は87件(3.0%)それぞれ減少したが、強盗及び放火がそれぞれ111件(5.7%)、123件(6.1%)増加し、強盗のなかでも強盗殺人は14件(34.1%)と大幅な増加を示した。

図4-3 凶悪犯認知件数の推移(昭和45~54年)

 過去10年間の罪種別認知件数の推移をみると、図4-3のとおりで、強姦は減少の一途をたどっているが、殺人は横ばい状態にあり、強盗も48年以降横ばい状態を示している。一方、放火は、51年から急激に増加して52年には戦後の最高を記録し、53年に一たん減少したが、54年には再び増加している。
(イ) 粗暴犯
 昭和54年の粗暴犯認知件数は、5万2,639件で、前年に比べ6,416件(10.9%)減少した。罪種別にみると、凶器準備集合を除き、いずれも8%以上の減少であった。
 過去10年間における粗暴犯の罪種別認知件数の推移は、図4-4のとおり各罪種とも減少傾向にあり、いずれもこの10年間でほぼ半減している。

図4-4 粗暴犯認知件数の推移(昭和45~54年)

(ウ) 窃盗犯
 昭和54年の窃盗犯の認知件数は、110万7,477件で、前年に比べ2万9,171件(2.6%)減少した。
 手口別にみると、侵入盗は、「空き巣ねらい」、「忍込み」等の減少により2万3,632件(7.5%)減少し、非侵入盗も、「車上ねらい」、「自動販売機荒らし」等が増加した反面、「万引き」、「店舗荒らし」等が減少したことにより、全体として9,042件(1.9%)の減少を示した。乗物盗は、「自動車盗」及び「自転車盗」が減少したのに対して、「オートバイ盗」が1万7,491件(24.4%)の大幅な増加を示したため、全体として3,503件(1.0%)の増加となっている。
 過去10年間の窃盗犯認知件数の推移は、図4-5のとおりで、54年に減少を示したとはいえ、49年以降増加傾向をみせている。これは、乗物盗の増加によるものであって、54年には乗物盗は45年の1.8倍に達している。これに対して、侵入盗は減少傾向にあり、非侵入盗は、過去10年間ほぼ横ばい状態で推移している。

図4-5 窃盗犯認知件数の推移(昭和45~54年)

(エ) 知能犯
 昭和54年の知能犯認知件数は、8万313件で、前年に比べ1万1,266件(12.3%)減少した。罪種別にみても、横領を除きいずれも減少している。
 過去10年間の知能犯認知件数の推移は、図4-6のとおりで、詐欺、涜(とく)職

図4-6 知能犯認知件数の推移(昭和45~54年)

及び背任は横ばいないしは減少傾向にあるのに対して、横領は50年以降増加の一途をたどっており、偽造は54年には減少したというものの増加の傾向にある。
(オ) 風俗犯
 昭和54年の風俗犯の認知件数は、7,427件で、前年に比べ838件(10.1%)

図4-7 風俗犯認知件数の推移(昭和45~54年)

減少した。罪種別にみても、賭博、猥褻(わいせつ)ともに前年に比べ減少している。
 過去10年間の風俗犯認知件数の推移をみると、図4-7のとおり減少傾向にあり、罪種別にみても、猥褻(わいせつ)は減少の一途をたどっており、賭博も50年から減少を続けている。
(2) 全刑法犯の検挙状況
ア 検挙件数は増加傾向
 昭和54年の全刑法犯の検挙件数は76万5,945件、検挙人員は36万8,126人、検挙率は59.4%で、前年に比べ検挙件数及び検挙人員は、それぞれ1万3,752件(1.8%)、1万3,616人(3.6%)減少したが、検挙率は1.1%上昇した。
 過去10年間の全刑法犯の検挙状況の推移は、図4-8のとおりで、検挙人員及び検挙率は、おおむね横ばい状態にあるが、検挙件数は、54年には減少を示したとはいうものの増加の傾向にある。

図4-8 刑法犯検挙件数、検挙人員及び検挙率の推移(昭和45~54年)

イ 主な罪種の検挙状況
(ア) 凶悪犯
 昭和54年の凶悪犯の検挙件数は7,739件、検挙人員は7,350人、検挙率は87.6%で、前年に比べ検挙件数は61件(0.8%)増加したが、検挙人員は61人(0.8%)減少し、検挙率は0.7%低下した。罪種別の検挙率は、殺人97.5%、強姦89.3%、放火87.7%、強盗76.3%である。
 過去10年間の凶悪犯検挙状況の推移は、図4-9のとおりで、検挙件数は減少傾向にあるが、検挙率は90%前後の高率を維持している。

図4-9 凶悪犯検挙状況の推移(昭和45~54年)

図4-10 粗暴犯検挙状況の推移(昭和45~54年)

(イ) 粗暴犯
 昭和54年の粗暴犯の検挙件数は、4万8,424件で、前年に比べ6,488件(11.8%)減少し、検挙率は1.0%低下して92.0%となった。
 過去10年間の粗暴犯検挙状況の推移をみると、図4-10のとおりで、検挙件数は大幅に減少しているが、検挙率は、54年にやや低下したというもののおおむね上昇傾向にある。
(ウ) 窃盗犯
 昭和54年の窃盗犯の検挙件数は6。万5,913件、検挙人員は23万3,872人、検挙率は54.7%で、前年に比べ検挙件数、検挙人員は、それぞれ6,604件(1.1%)、2,469人(1.1%)増加し、検挙率は2.0%上昇した。
 過去10年間の検挙件数の推移は、図4-11のとおりおおむね増加傾向にあり、手口別にみると、特に乗物盗の増加が著しく、54年は45年の2.2倍に達している。
 また、検挙人員の推移も、図4-12のとおり増加傾向にある。手口別にみると、侵入盗はおおむね横ばい状態であるが、乗物盗及び非侵入盗は増加傾

図4-11 窃盗犯検挙件数の推移(昭和45~54年)

図4-12 窃盗犯検挙人員の推移(昭和45~54年)

図4-13 窃盗犯検挙率の推移(昭和45~54年)

向にあり、特に、乗物盗の増加が著しく、54年は45年の2.2倍に達している。
 検挙率の推移は、図4-13のとおり緩やかではあるが上昇傾向を続けており、54年は54.7%となっている。これを手口別にみると、いずれもおおむね上昇傾向をたどっており、54年は、侵入盗66.4%、非侵入盗59.4%、乗物盗

図4-14 検挙人員年齢層別構成比の推移(昭和45~54年)

図4-15 年齢層別犯罪者率の推移(昭和45~54年)

39.2%となっている。
ウ 年齢層別の検挙人員
 昭和54年の全刑法犯検挙人員(注1)36万8,126人の年齢層別構成比をみると、14~19歳の者が39.0%と3分の1以上を占めて最も多く、20代の者が21.6%でこれに次いでいる。年齢層別構成比の推移をみると、図4-14のとおりで、14~19歳の構成比が増大しているほか、40歳以上の中、高年齢層も増大の傾向がうかがわれる。
 過去10年間の年齢層別の犯罪者率(注2)の推移は、図4-15のとおり20代が低下傾向にあるのに対し、14~19歳は著しい上昇傾向を示している。
(注1) 14歳未満の者による行為は刑罰の対象とならないため、14歳未満の少年で 刑罰法令に触れる行為をして警察に補導されたものの数は、検挙人員に含まれない。
(注2) 犯罪者率とは、人口10万人当たりの全刑法犯検挙人員をいう。

2 昭和54年の犯罪の特徴

(1) 多発した保険金目的の犯罪
 昭和40年代以降の大幅な国民所得の増大、産業の発展による各種の新しい危険の増加、モータリゼーションの著しい発達等と保険思想の普及により、保険制度は国民生活のなかに定着した。我が国は、52年末には生命保険契約高でアメリカに次いで世界第2位を占めるに至るなど、世界でも有数の保険国となっている。
 このような保険制度の発達に伴い保険に絡む犯罪が発生するようになり、54年には愛知県における保険金目的連続殺人事件にみられるような計画的で、悪質かつ残忍な事件が続発し、にわかに社会の注目を集めるところとなった。
 保険金を目的とした各種犯罪のうち、最近5年間の殺人事件及び放火事件の検挙件数をみると、表4-1のとおりで、54年はいずれも著しく増加して過去最高となった。
ア 多い交通事故偽装

表4-1 保険金を目的とした殺人、放火事件の検挙件数の推移(昭和50~54年)

 昭和53年及び54年に検挙した保険金目的の殺人事件について、その犯行の手段、方法をみると、図4-16のとおりで、交通事故を偽装したものが圧倒的に多く55.6%を占めている。また、その偽装の方法も、暴力団員を殺し屋に雇ったり、自己の交通事故死を装うため身代りを殺したりするなど、直接手を下すことを避けたり、自分が疑われないように工作しており、この種の犯罪が巧妙な犯罪であることを示している。

図4-16 保険金目的殺人事件における犯行の手段、方法(昭和53、54年)

イ 大半は事業資金欲しさの犯行
 保険金を目的とした殺人事件及び放火事件の犯行の動機は、いずれも負債の弁済や事業の運転資金欲しさのためのものが圧倒的に多く、大部分が当初から多額の保険に加入した上での一獲千金をねらった悪質かつ計画的犯行である。
〔事例〕 会社社長(40)らは、事業の業績悪化から約2億円の赤字を出すに至り、この穴埋めを図るため地元暴力団と共謀の上、会社ぐるみ、家族ぐるみで多額の保険金を目的とした連続殺人事件を企図し、昭和52年9月から53年12月までの間に従業員等4人を殺害して保険金約2億円をだまし取った(愛知、警視庁)。
(2) 多発したCDシステム利用犯罪
 昭和44年に、顧客サービスの向上や省力化の促進を図る目的で導入された現金自動支払機(Cash Dispenser、以下「CD」という。)は、各金融機関の間に急激に広まりつつある。これに伴いそのシステムを利用した犯罪(以下「CD犯罪」という。)が増加してきている。
ア 激増したCD犯罪
 CD犯罪の発生件数は、表4-2のとおりで、昭和53年以降急増しており、54年は187件と前年に比べ56件(42.7%)増加し、これまでの最高となった。その内訳をみると、他人のCDカードを利用したものが184件と98.4%を占めている。

表4-2 CD犯罪発生件数の推移(昭和53~54年)

 また、54年は、身の代金目的誘かい事件で、自己口座に現金を振り込ませた後CDカードで引き出すなど、他の犯罪の手段にCDの特性を利用した事犯が目立った。
〔事例〕 セールスマン(36)は、事業資金に窮したことから札幌市内の小学生(10)を誘かいし、被害者宅に現金600万円の身の代金を要求して、架空名義でA銀行札幌支店に設けた口座に振り込ませた後、翌日2回にわたって新宿西口支店の屋外CDから合計20万円を引き出した(警視庁、北海道)。
イ 簡単にわかる暗証番号
 昭和53年及び54年に検挙したCD犯罪のうち、CD使用の際必要な暗証番号を被疑者が認知した方法を、判明した事件についてみると、図4-17のとおりで、CDカードと同時に入手したものが34.1%と最も多い。これは、被害者がCDカードに暗証番号を記入していたり、暗証番号を記入したメモ用紙をCD力ードと一緒に置いていることによるものである。次いで面識があり以前から暗証番号を聞いて知っていたものが29.3%、CD力ードと身分証明書等を入手し、あるいはCD力ード入手後電話番号等を調査して暗証番号を推測したものが20.4%の順となっている。これは、CDカードの暗証番号を被害者の生年月日、電話番号あるいは自家用車のナンバー等にしているものが多いことによるためである。
 なお、銀行員、警察官を装って被害者に電話して、直接聞き出したものが10.2%と少なくない。

図4-17 暗証番号の認知方法(昭和53、54年)

(3) 続発した金融機関対象強盗事件
 金融機関を対象とした強盗事件は、異常な増加傾向にある。過去10年間の金融機関対象強盗事件の発生件数の推移をみると、図4-18のとおりで、昭和54年は前年に比べ53件(77.9%)の大幅な増加をみた。
 また、事件の内容をみても、銃器使用事件が8件、人質的犯行事件が27件

と凶悪化の傾向を強めていることが注目される。
〔事例〕 1月26日、大阪市住吉区内の三菱銀行北畠支店に、散弾銃を所持した男(30)が押し入り、現金5,000万円を要求、行員2人、急報で現場に到着した警察官2人を射殺し、更に行員3人に重軽傷を負わせた上、行員及び客43人を人質に取り、現金801万円を強取して店内にたてこもったが、警察官の強行突入により犯人を逮捕し、人質を救出した(大阪)。
 最近5年間の金融機関対象強盗事件を金融機関別にみると、表4-3のと

図4-18 金融機関対象強盗事件発生件数の推移(昭和45~54年)

表4-3 金融機関別強盗事件発生状況(昭和50~54年)

おりで、54年は、53年以前に比べ郵便局を対象とする強盗事件が多発した。
(4) 依然として多い公共事業に絡む贈収賄事件
 昭和54年の贈収賄事件の検挙事件数、検挙件数、検挙人員は、図4-19のとおりで、73事件、507件、477人であり、前年に比べいずれも減少した。
 その特徴としては、ここ数年来、景気浮揚策の一環として公共事業投資が活発に行われたこともあって、各種公共事業に絡む贈収賄事件が、73事件中

図4-19 贈収賄事件の検挙事件数、検挙件数、検挙人員の推移(昭和50~54年)

37事件(50.7%)と検挙事件総数の約半数を占めている。
〔事例1〕 松浦市長(66)は自己の後援会事務局長と共謀し、同市発注の市庁舎建設等公共工事の入札、指名に関し、業者から現金3,612万円を受け取っていた(長崎)。
〔事例2〕 尾道市長(52)ら同市幹部職員は、同市発注に係る各種公共工事の業者選定、入札、監督、検査、工事代金の支払等に関し業者から、また、職員の採用をめぐり受験者の親から、現金等4,652万円相当の賄賂を受け取っていた(広島)。
(5) 大型化、巧妙化する知能犯罪
 昭和54年は、上半期には景気は順調に回復したものの、原油価格の高騰やインフレ抑制のための金融引締めにより、下半期には再び厳しい様相を呈した。
 こうしたなかで知能犯罪(贈収賄を除く。)の検挙状況は、前年に比べ件数的には減少したが、その内容をみると、金融機関、特に、銀行役職員による知能犯罪の被害額の増加が目立ったほか、職業的常習者による商品取引を装った多額取り込み詐欺事件、不動産取引をめぐる詐欺事件等の悪質事件の検挙が目立った。なかでも、大光相互銀行社長らが、関連企業グループに対して確実な担保も取らず、手形貸付け又は支払保証の方法で、債務負担を繰り返し、同相互銀行に総額約166億1,600万円の損害を与えた特別背任事件は、近年まれな大型金融犯罪として社会的な反響を呼んだ。
ア 大型化する取り込み詐欺事件
 昭和54年の取り込み詐欺事件は、表4-4のとおりで、前年に比べ検挙事件数、検挙人員とも大幅に減少しているが、被害総額については約1.6倍に

表4-4 取り込み詐欺事件の検挙状況(昭和53、54年)

増加し、1事件当たりの平均被害額も約3.8倍と、事件の大型化を示している。
〔事例1〕 詐欺常習者の兄弟が、他の常習者らとグループを組み、融資を口実に経営不振の老舗会社等15社の経営陣に入り込み、老舗ののれんを利用して5都県下の中小企業48社から家庭電化製品、日用雑貨品等総額21億7,000万円相当をだまし取った(警視庁)。
〔事例2〕 山口組系暴力団の相談役である家具会社社長らが、計画的に会社を設立しては、次々と倒産させ、13道府県の26業者から家具、建設資材等総額5億7,263万円相当をだまし取った(大阪)。
イ 巧妙化する不動産取引をめぐる知能犯罪
 最近3年間における不動産取引をめぐる知能犯罪の検挙状況は、図4-20のとおりである。
 昭和54年は、検挙事件数がやや減少したものの、検挙人員、被害額とも年々増加の傾向を示している。また、犯行手口も真正のものと寸分違わぬ不動産権利証、印鑑等を偽造したり、登記所保管の不動産登記簿を改ざんするなど巧妙化してきている。

図4-20 不動産取引をめぐる知能犯罪の検挙状況(昭和52~54年)

3 暴力団の取締り

(1) 暴力団の現況
ア 団体数及び構成員数
 警察では握している暴力団の団体数と構成員数は、昭和54年末現在において2,517団体、10万6,754人で、前年に比べ団体数において8団体(0.3%)、構成員数において1,946人(1.8%)減少している。
 36年以降の全暴力団及び2都道府県以上にわたって組織を有するいわゆる広域暴力団の団体数、構成員数の推移は、図4-21のとおりで、全暴力団の団体数、構成員数は、38年をピークに減少を続けたが、最近数年間は、ほぼ横ばい状態にある。
 全暴力団の中に占める広域暴力団の比率は、団体数で80.1%、構成員数で59.3%とたっており、また、指定7団体の勢力状況は、表4-5のとおり54年末現在で1,035団体、3万3,731人で、この7団体だけで全暴力団中、団体数で41.1%、構成員数で31.6%(広域暴力団のなかでは団体数で51.4%、構成員数で53.3%)を占めている。

図4-21暴力団団体数、構成員数の推移(昭和36~54年)

イ 検挙状況
 昭和54年における暴力団員による犯罪の検挙状況は、検挙件数で6万2,305件、検挙人員で5万1,462人であり、前年に比べ件数で7,718件(11.1%)、人員で7,288人(12.4%)減少した。
 また、山口組、稲川会、住吉連合等の警察庁指定7団体の検挙人員は、2万352人で前年に比べ2,534人(11.1%)減少した。
 罪種別では、傷害、覚せい剤取締法違反、賭博、暴行恐喝が前年同様上位を占めている。ほとんどの罪種が前年に比べ減少しているなかで、覚せい

表4-5 指定7団体勢力状況(昭和54年)

剤取締法違反だけは173人(1.9%)増加し、全暴力団犯罪に占める割合は、検挙件数で27.1%、検挙人員で18.3%の高率となっているのが目立っている。
(2) 暴力団の動向
ア 組織の動向
(ア) 主要暴力団の組織温存姿勢
 昭和53年後半から54年にかけて、全国的規模で実施した山口組及び稲川会に対する特別集中取締りは、主要幹部を含む多数の構成員を検挙してそれぞれの組織に大きな打撃を与えた。そのため54年においては、暴力団は、より以上の打撃を受けることを避けて組織の温存を図るため、できるだけ警察の取締りを回避しようとする動きがみられた。
 なかでも山口組では、長い間対立関係にあった西日本の反山口組組織である関西二十日会との対決姿勢を一変させて、にわかに組織温存路線をとりはじめた。また、友好関係にある関東及び在阪有力組織との交遊をますます深め、さん下の各組織に対しては事あるごとに、他団体とのあつれき、紛争を起こさず行動を自重するよう指示を繰り返すなど、一時的なものとはみられるが、柔軟、自粛の姿勢をとった。
 山口組のこのような姿勢は、暴力団社会全般の動向に多大の影響を及ぼし、各地において対立抗争事件を早期に収拾しようとする傾向をもたらすに至った。
(イ) 対立抗争事件の早期和解
 対立抗争事件の発生状況は、図4-22のとおり昭和54年は19件29回で、前年に比べ件数では1件(5.6%)増加したが、回数では16回(35.6%)減少し、1件当たりの抗争回数も前年の2.5回から1.5回と大幅な減少が目立っている。これは、前述のとおり対立抗争事件が発生しても早期に和解収拾されているためである。

図4-22 対立抗争事件の発生件数の推移(昭和45~54年)

イ 資金獲得活動の傾向
(ア) 多角化、知能化する資金獲得活動
 現在の暴力団を支え、動かしているものは、様々な形で暴力団員とその組織が獲得する「金」である。最近の暴力団は、従来からの伝統的資金源である覚せい剤の密売、ノミ行為、賭博、売春等に加えて、企業恐喝、債権取立て、手形詐欺、暴力金融、倒産整理等暴力団組織を背景に広く企業社会や経済取引に寄生、介入するいわゆる知能暴力事犯に資金源を求める傾向を強めている。これに伴い、その活動区域も広域化の傾向を示している。
 また、インべーダーゲームが爆発的に流行した昭和54年初めには、すかさずなわ張り権を主張して、場所代を要求する恐喝事件を起こしたほか、各種保険制度の盲点を巧みについた巧妙な詐欺事件を引き起こすなど、金になるものなら何にでも手を出すというその利ざとい体質をあらわにしている。
(イ) 倒産整理屋の暗躍
 株式会社等の合法企業形態を装い、これを表看板にしながら中小企業の倒産整理に介入するいわゆる倒産整理屋は、従来、関西方面での活動が活発であったが、昭和48年ころから東京を中心とする関東方面への進出が著しく、特に最近は、公証人、司法書士、弁護士、ブローカー等を仲間に抱き込んで、暴力団の威嚇力を背景に詐欺、横領等の犯罪を犯す悪質なものが目立っている。
〔事例〕 山口組系章友会幹部(51)らは、倒産会社の整理に介入し、東京都中央区銀座のビルを乗っ取り、不動産(時価約2億円)を侵奪したほか、東京都北区の会社から倒産整理に名を借り約8,000万円相当の残資産をだまし取った(警視庁)。
ウ 武装強化の傾向
(ア) 銃器隠匿の巧妙化
 過去10年間に警察が暴力団犯罪の捜査を通じて押収したけん銃数の推移は、図4-23のとおりで、昭和51年の1,350丁をピークに以後減少を続けており、54年の押収数は、907丁と前年に比べ114丁減少している。これは、最近の警察の厳しい銃器取締りにより多数のけん銃が摘発されたことから、その隠匿方法がますます巧妙化し、けん銃の発見、押収が一段と難しくなった

図4-23 押収けん銃数の推移(昭和45~54年)

ためとみられる。
 また、押収けん銃に占める真正けん銃の比率は、54年には、前年の38.8%から50.9%に急上昇しているが、これは52年の銃砲刀剣類所持等取締法の改正以来、改造するためのモデルガンの入手が困難となったことから、各組織が密輸入等によって真正けん銃の入手に力を入れている結果とみられる。これに伴い、暴力団のけん銃密輸入が年々増加するとともに、その方法も巧妙になってきており、今後この傾向はますます強まるものと思われる。
〔事例〕 山口組系加茂田組の相談役をしている貿易商(44)は、昭和53年7月から同年12月までの間、一般の日本人主婦を使い、フィリピンから木彫りの置物等に隠匿してけん銃117丁を運び込み、山口組系の暴力団に売りさばいていた(大阪)。
(イ) 後を絶たない銃器発砲事件
 暴力団員による銃器発砲事件は、昭和50年の179件をピークとして以後年々減少しているものの、54年は69件と前年に比べ2件減少したにとどまり、依然として後を絶たない。また、その使用態様も、飲酒中ささいなことから口論となった、通行中肩が触れた、借金の申し込みを断わられたなどを理由にいきなり発砲するといった事例にみられるように、安易にけん銃を使用する傾向が目立っている。
(3) 暴力団対策の推進
ア 総合的な資金源封圧作戦の展開
 昭和53年、警察では、1年間に暴力団社会全体へ流入する資金量の全体像について二種類の方法による推計を行い、その総額は約1兆円であるという結果を得た。
 この結果を踏まえた上で、暴力団に対し実質的打撃を与えるため、暴力団の資金源を封圧、しゃ断する資金源封圧作戦を展開することとし、まず54年5月から7月までの間「暴力団の首領等に係る資金源封圧作戦」を実施した。また、秋からは「総合的資金源封圧作戦」を強力に推進し、11月には同作戦の一環として「暴力団犯罪集中取締り」を実施し、相当の成果を上げた。
イ 民事介入暴力への積極的対応
 最近の暴力団の活動のなかには、一般市民の社会生活や経済取引の場面で、組織の威嚇力を背景に、民事上の権利者や一方の当事者、関係者の形をとって介入、関与してくるケースがますます多くなってきている。
 こうした場合にこそ、一般市民は暴力団の恐怖を最も強く、直接に感じ、警察による実際的救済や保護を求めるのであり、警察がいかに暴力団員を検挙し、暴力団排除を市民に呼び掛けようとも、このような民事介入暴力に対し的確に対応できないならば、市民保護の責務を全うすることはできない。
 警察では、このような市民の期待にこたえるため、民事介入暴力事案で刑事事件を構成するものを多数発掘、検挙するとともに、事件にならないものについても積極的に対応し、助言、指導、保護等を行っていくこととした。このため、昭和54年12月1日に警察庁に「民事介入暴力対策センター」を設置し、専門的指導システムの確立を図るとともに、各都道府県警察にこの種の問題に積極的に対応するための専門担当官を置き、弁護士会とも連携した相談受理体制を強化し、市民保護を徹底していくこととした。
ウ 総会屋対策の推進
 総会屋のなかに占める組織暴力団員の数は年々増加の傾向を示し、昭和53年には約1,000人であったものが、54年には約1,200人に増加し、総会屋約5人に1人は組織暴力団員となり、総会屋世界における組織暴力団の支配化傾向はますます強まっている。
(ア) 総会屋の特徴的傾向
 最近における総会屋の特徴的傾向としては、第1に、株主総会における与党化傾向が強まったことである。総会屋は、警察の取締り強化と企業の締め出し強化等の情勢を敏感に受け止め、活動を自粛する傾向にあり、株主総会での活動も従来の攻撃的発言が影を潜め、議事を進行し企業の業績をたたえるいわゆる与党的発言が多数を占めるに至っている。これは、総会屋の本質が変わったのではなく、企業のより以上の締め出し強化等を避けるための延命策とみられる。しかし、若手グループのなかには、こうした動きに批判的な声も聞かれ、両者の間に対立が生じている。
 第2は、ますます地方進出傾向が強まっていることである。数年前から総会屋の地方都市進出傾向がみられたが、最近では、大都市における警察の取締り強化、大企業の賛助打切りの増加等によりその傾向を一段と強め、地方都市へ活動の場を広げている状況にある。
 第3は、活動の多様化傾向である。総会屋の活動は、従来は株主総会中心の活動で収入を得るものが多数を占めていたが、数年前から、これに加えて新聞、雑誌等の刊行物を発刊し、購読料、広告料に名を借りて企業から賛助金を得るもの、あるいはゴルフコンペ、各種パーティー等への参加を求め、会費、祝儀等の名目で収入の増大を図るものが増加している。特に最近では、右翼を標ぼうして賛助金を要求するものが目立つなど、ますます総会屋の活動領域は多様化しつつある。
(イ) 総会屋対策
 警察では、企業パトロ‐ル等を強化して総会屋の違法行為の発掘に努めているところであるが、昭和54年は、総会屋191人を検挙した。
〔事例〕 総会屋小川グループ代表(42)らは、東京都内A社の取締役が約束手形偽造事件に関与していたとする情報を業界紙に暴露すると言って、同記事買取りに名を借りるなどしてA社から500万円を脅し取った(警視庁)。
 また、総会屋対策を実効あらしめるためには、総会屋の違法行為の徹底検挙と、これに併せて企業自らが、総会屋に対し厳しい姿勢をもって締め出しを図ることが不可欠である。警察庁及び全国都道府県警察が企業に対して総会屋締め出しについての指導、要請を行った結果、54年だけでも長野、熊本、沖縄等11都府県に13の自主防衛団体(約460社加盟)が結成され、54年末現在では、全国33都道府県で合計57団体(約2,640社加盟)が結成されている。これらの自主防衛団体では、それぞれ総会屋締め出し基準を設け、徐々に総会屋締め出しの効果を上げてきている。
〔事例〕 東京都内の全自主防衛団体(約1,000社加盟)は、総会屋小川グループに対して、賛助金の全面打切りを決議した。また、大阪のA社は出入りのあった総会屋101人全員に対して、賛助金の全面打切りを実施した。
エ 国際協力の推進
 覚せい剤やけん銃を密輸入したり、海外への賭博ツアーを組むなど暴力団の海外進出傾向が強まるとともに、諸外国捜査機関との連携も重要になってきている。このようななかで、7月に東京で開催された「国際捜査セミナー」では、各国の犯罪者組織が主議題となり、我が国の暴力団についても活発な議論が交換された。また、昭和55年1月には、米国捜査機関との間で、日米暴力団対策会議を開催することとしている。今後とも、諸外国とも連携した暴力団対策を推進するため、国際協力を更に進めていく必要がある。
オ 暴力排除活動の推進
 警察では、暴力団の存立基盤である人(構成員)、金(資金源)、物(武器)のすべてに対して徹底した攻撃を加える直接制圧作戦を強力に進めてきたところであるが、一方、暴力団がよって立つ社会的基盤を、社会の幅広い力を結集して崩壊させていくための孤立化作戦の推進は極めて重要な課題となっている。このため警察では、暴力排除活動の実質的推進役となって、地方公共団体や地域、職域団体等と協力してこれを強力に推し進めた結果、「義理かけ」の規制、公共施設からの暴力団の締め出し、暴力団事務所の立ち退き要求等市民の暴力排除運動の盛り上がりが各地に見られた。
力 広域暴力団対策の展望
 我が国の暴力団の約8割は広域暴力団であり、暴力団対策を講じていく上でも、活動的で悪性の強い広域暴力団の対策が最も重要な課題となっている。
 このため、従来から広域暴力団等情報センターを関係都道府県に設置し、山口組をはじめとする広域暴力団の情報を集中、管理してその取締りに実効を上げてきたが、6月、広島県警察に「関西二十日会情報センター」が新設され、関西二十日会に関する情報が一元的に集中管理されることになり、この体制が一層拡充、強化された。更に今後は、広域暴力団を重点的に取り締まっていくための情報交換ネットワークを整備するとともに、広域暴力団ごとに壊滅方策を策定するなどして集中取締りを実施していくこととしている。

4 選挙違反の取締り

 昭和54年は、4年ごとに行われる統一地方選挙が春に、また、秋には3年ぶりに衆議院議員総選挙が施行され、正に80年代の政治動向を占う選挙の年となった。
 警察では、選挙の公正を確保すべく、「事前運動取締本部」及び「選挙違反取締本部」を設置し、不偏不党、厳正公平な取締りを実施した。
(1) 第9回統一地方選挙の違反取締り
 第9回統一地方選挙は、昭和54年3月14日に知事選挙の告示が行われたのを皮切りに、4月8日に15都道府県知事選挙、2指定市長選挙、44道府県議会議員選挙及び8指定市議会議員選挙、4月22日には153市長選挙、385市議会議員選挙、749町村長選挙、1,304町村議会議員選挙及び東京都の22区長選挙、23区議会議員選挙、計2,705の選挙が施行された。

表4-6 統一地方選挙における違反検挙状況(第8回:昭和50年9月1日現在 第9回:昭和54年9月1日現在)

 今回の統一地方選挙は、かつてない地方財政危機のなかで行われたが、知事選挙にみられたように、いわゆる中道政党を軸とした政党間の共闘関係が複雑化したのが最大の特徴となった。また、無投票当選が、市長選挙で50の市に上るなど、各選挙において大幅に増加した。
ア 検挙状況
 検挙状況(投票日後90日現在)は、表4-6のとおり検挙件数で1万4,241件、検挙人員で2万3。7人であり、前回(昭和50年)に比べ件数で4,194件(12.8%)、人員で4,107人(16.8%)の減少となっている。
 検挙状況を罪種別にみると、買収が件数で全体の92.8%、人員で全体の91.7%を占めている。
イ 警告状況
 警告の実施状況は、表4-7のとおり3万8,529件で、前回に比べ4,745件(11.0%)減少した。

表4-7 統一地方選挙における違反警告状況(第8回:昭和50年5月27日現在 第9回:昭和54年5月22日現在)

(2) 第35回衆議院議員総選挙の違反取締り
 昭和54年9月7日、第88回臨時国会で衆議院が解散され、第35回衆議院議員総選挙が9月17日に公示され、10月7日に施行された。
 この総選挙は、財政危機、エネルギー問題、航空機疑惑等が問題となるなかで、国民の関心も高く、少数激戦の選挙が展開された。
ア 検挙状況
 検挙状況(投票日後90日現在)は、表4-8のとおり検挙件数で8,528件、検挙人員で1万4,412人であり、前回(昭和51年)に比べ件数で1,781件(26.4%)、人員で3,200人(28.5%)の増加となっている。
 罪種別にみると、買収が件数で全体の90.6%、人員で全体の90.4%を占めている。
イ 警告状況
 警告の実施状況は、表4-9のとおり2万2,704件で、前回に比べ2,799件(11.0%)減少した。

表4-8 衆議院議員総選挙における違反検挙状況(第34回:昭和52年3月5日現在 第35回:昭和55年1月5日現在)

表4-9 衆議院議員総選挙における警告状況(第34回:昭和52年1月5日現在 第35回:昭和54年11月7日現在)

5 国際犯罪と捜査

 国際間の人的交流の増大に伴い、国内における外国人による犯罪、国外における日本人の犯罪、国内で犯罪を犯した被疑者の国外逃亡事案等いわゆる国際犯罪は著しく増加し、その内容も近年とみに複雑かつ多様化するとともに、ますます悪質化する傾向が見られる。
 このような国際犯罪に的確に対処し、犯罪の未然防止と早期検挙を図るためには、ICPO-インターポール-(国際刑事警察機構)ルート又は外交ルートを通じて、外国捜査機関との緊密な連携を図ることが重要となる。
(1) 国内における外国人の犯罪
 日本国内における来日外国人の刑法犯による検挙人員は図4-24のとおり増加傾向を示し、昭和54年は403人となっており、45年と比べ約1.5倍の増加となっている。

図4-24 日本国内における外国人犯罪(昭和45~54年)

 これらの犯罪の特色をみると、国際常習犯罪者が偽造旅券を使って我が国に入国し、短期間に偽造小切手や偽造紙幣を行使したり、全国各地で買物盗やひったくり事件を繰り返すなど悪質なものが増加していることが挙げられる。
 国内において外国人を被疑者として検挙した場合には、本人の身元確認や犯歴照会のため、ICPOルート又は外交ルートを通じて外国捜査機関に協力を依頼したり、また、我が国の捜査結果や裁判結果等を外国捜査機関に通知するなど、相互の捜査機関の協力関係を通じて、この種の国際犯罪の解明に当たっている。
〔事例〕 アメリカの捜査機関からの通知に基づき捜査した結果、フィリピン人ら3人が、偽造の旅券を使って我が国に入国し、アメリカ財務省振出し名義の偽造小切手を行使し、総額212万円を詐取していた事実を解明し、逃亡しようとしていた被疑者を逮捕した(沖縄)。
(2) 国外における日本人の犯罪
 国外において犯罪者として検挙された日本人で、ICPOルート又は外交ルートを通じて警察庁に通報されたものの数は、昭和54年は図4-25のとおり177人と45年に比べ約6.6倍に達している。これは、旅行ブームによって海外に旅行する日本人が、45年に比べ約6.1倍の約404万人に達していることとほぼ比例している。最近、特に暴力団員あるいはその周辺の者が、けん銃、覚せい剤等の不法所持、密輸出等で検挙される事例が多い。
 これらの犯罪が、国外犯に当たる場合に、法制度や国情の違いなどのため

図4-25 日本人の国外における犯罪(昭和45~54年)

に当該外国において全く処罰されずに国外退去となるなど、社会正義の立場からも放置できない場合もある。また、当該外国が自らの捜査権を行使せずに、我が国に日本人の身柄を引き渡し、その捜査を委ねる場合もある。
 このようなときには、ICPOルート等を通じて外国捜査機関から捜査資料等を入手し、あるいは、捜査員を外国に派遣して、外国捜査機関の協力の下に証拠等を収集し、国外犯捜査を進めることが必要となってくる。
〔事例1〕 昭和53年7月、仙台の暴力団員3人が、香港のホテルにおいて、債権取立てに名を借りて被害者を脅迫し、傷害を与えるとともに、被害者の実家に国際電話をかけさせて、現金563万円を暴力団事務所に届けさせるなど総計653万円を脅し取った。ICPOルートを通じて被害事実の確認を香港警察に依頼し、その資料を基に54年3月、被疑者を逮捕した(宮城)。
〔事例2〕 5月、ハワイのホノルル市内の路上で発生した日本人同志の傷害事件の処理に際し、アメリカの捜査当局は我が国の処置に委ねたため、被疑者の帰国後、外交ルートを通じて入手した捜査資料に基づき、12月、傷害罪で検挙した(静岡)。
(3) 目立った被疑者の国外逃亡事案
 近年、国内で犯罪を犯した被疑者が、計画的に国外に逃亡する事案が増加しており、全国に指名手配されている被疑者で、国外に逃亡したとみられるものは、約100人に上っている。
 被疑者が国外に逃亡した場合には、ICPOルート等を通じて外国捜査機関にその者の発見を依頼することになるが、これらの逃亡被疑者が発見されたときには、逃亡犯罪人引渡条約、外交交渉に基づく外国の国内法の手続、被疑者所在国の国外退去処分等によって身柄の引き取りを行っている。
 昭和54年は、保険金目的連続殺人事件の被疑者2人が、台湾からブラジルまで逃亡した事案や、殺人未遂事件の被疑者を日米逃亡犯罪人引渡条約に基づいて引き取った事案等、国外逃亡事案の目立った年であったが、フィリピン、アメリカ等から、けん銃の密輸事件被疑者や殺人事件の被疑者等7件7人の重要事件被疑者の身柄を引き取っている。
〔事例1〕 3月、保険金目的連続殺人事件の被疑者2人は、台湾に逃亡し、4月、南米のパラグアイを経てブラジルに逃げ込んだが、我が国からのICPOルート等を通じた国際手配によりブラジル警察の追及を受けるところとなり、5月、更にブラジルのアマゾン川流域の奥地に逃走したが、ブラジル警察に発見され、銃撃戦の末、死亡した(愛知、警視庁)。
〔事例2〕 5月、東京高裁前路上で発生した東京地裁書記官殺人未遂事件の被疑者は、犯行後計画的に逃亡し、沖縄、香港、フィリピン、ニュージーランドを経て、8月、ハワイ空港に到着したところ、我が国からのICPOルート等を通じた国際手配により、アメリカ当局によって逮捕された。その後、日米逃亡犯罪人引渡条約に基づき、警察では外務省を通じてアメリカ政府に被疑者の身柄引渡しを請求し、12月、身柄の引渡しを受けた。なお、本件は、日米間の条約に基づいて我が国がアメリカから身柄の引渡しを受けた例としては、戦後3回目である(警視庁)。

図4-26 国外逃亡事例

(4) 外国警察との捜査協力
ア ICPOの積極的活用
 ICPOは、国際犯罪に関する情報交換、犯人の逮捕及び引渡しに関する円滑な協力の確保等、国際間の捜査協力を迅速、的確に行う上での実務上の必要から生まれた機関で、大正12年に設立された国際刑事警察委員会が、昭和31年に発展的に改組して設立された刑事警察の国際的共助機関であり、54年末現在、加盟国は127箇国に達している。

 我が国は、27年に加盟して以来、国際捜査協力の活動を強化し今日に至っているが、その間、42年にはアジア地域で最初の総会が京都で開かれ、50年以来パリのICPO事務総局に日本の捜査官が常駐するようになった。54年には、東京で、2月に第2回アジア地域無線会議、7月に第3回国際捜査セミナーを開催したほか、9月のICPO総会で、警察庁の代表がアジア地区代表の執行委員として選出されるなど、ICPOにおける我が国の役割は年々高まっている。また、警察庁は、事務総局及び加盟国相互間の連絡の窓口となる国家中央事務局(NCB、National Central Bureau)であるとともに、アジア地域中央無線局として、ICPO事務総局に設置されている中央無線局とアジア地域の各国無線局との中継局としての指導的役割を果たしている。日本NCBの情報交換数をみると、54年は5,247件であった。
イ 外交ルートによる捜査協力
 外国捜査機関との捜査上の協力を進める上で重要なものの一つに、外交ルートによる協力が挙げられる。逃亡犯罪人の引渡しの請求を行う場合や、国外犯捜査のため捜査官を外国に派遣する場合、あるいは、ICPO未加盟国の警察との間で捜査協力を行う場合などは、外交ルートを通じて行われている。
ウ 国際捜査共助等の推進
 我が国が、国際犯罪の捜査に関し外国捜査機関の協力を得るためには、国際間の協力が相互主義の立場に立つ以上、外国捜査機関からICPOルート等を通じて犯罪の捜査に関する共助、協力の要請があった場合、これに十分こたえていくことが必要となっている。これらを実施するための法律上の整備が緊急の課題となっており、このため、「国際捜査共助法案」を第91回国会に提出することとしている。
 また、外国捜査機関からの外交ルートを通じての協力要請に基づき、我が国に外国捜査官が来日した場合には、我が国の捜査官が積極的にこれに協力している。昭和54年には、3件の事件に関連して5人の外国捜査官が来日した。
〔事例〕 9月、トリニダッド・トバゴから輸入税及び関税法違反の捜査のため、捜査官2人が来日し、警視庁及び岩手県警察の協力により、関係人等からの事情聴取、関係資料の収集を行った。10月、同国からの要請により、関係人の調べに立ち会った我が国の警察官を証人として同国の裁判所に出廷させた。

6 科学捜査の推進

(1) 現場鑑識活動の強化
 犯罪捜査活動が長期化、困難化する情勢の下で、犯罪の早期解決を図るためには、捜査の出発点である現場鑑識活動を迅速、的確に実施することが必要である。
 このため、最近、一部の道府県において機動鑑識隊の名の下に、新鋭鑑識資器材をとう載した鑑識車を備え、高度な鑑識技術を身に付けた鑑識係員が市部の犯罪多発地域の拠点に常時待機し、一定地域内に事件が発生したと

きは、機動力を駆使して迅速に現場に臨場し、科学技術を活用して証拠資料の収集を行い、犯罪の早期解決に当たっている。
 今後は、より優れた新鋭鑑識資器材を装備した機動鑑識隊を犯罪多発地域を中心に整備して、現場鑑識活動の充実、強化を図る必要がある。
(2) 指紋自動読み取りシステムの導入
 犯罪現場に遺留された指紋や逮捕した被疑者の指紋は、警察庁や都道府県警察で保管している指紋資料と対照して、犯人の割り出し、余罪の発見あるいは被疑者の身元、犯罪経歴の確認に威力を発揮している。
 昭和54年の現場指紋採取事件数は約25万件で、指紋による被疑者の確認数は約3万件に上っている。
 このような指紋の利用効果をより向上させるために、警察庁では遺留指紋の対照にコンピューターを導入しているが、更に大量の指紋を迅速、広範かつ正確に処理できる「指紋自動読み取りシステム」の導入作業を進めている。このシステムは、コンピュー夕ーが指紋の特徴を自動的に読み取り、記憶、照合することができるものであり、犯罪捜査の迅速化に大きく寄与するものと期待されている。
(3) 鑑定業務の充実、強化
 犯罪の巧妙化、複雑化に伴い法医、理化学分野の鑑定資料は図4-27のとおり年々増加するとともに質的にも複雑、多様化し、鑑定には従来にもまして高度な知識、技術が要求されてきている。
 また、微量な対象物の鑑定を行うため、ガスクロマトグラフ質量分析装置、X線回析装置等の高性能分析機器の整備を図っている。
 昭和54年の都道府県警察における鑑定件数は38万9,478件で、法医、理化学担当の技術職員等によって行われている。

図4-27法医、理化学資料鑑定状況(昭和50~54年)

(4) 警察犬の活用
 犬のきゅう覚は人間の3,000~1万倍といわれている。このような犬の特性を利用した警察犬は、「生きた鑑識器材」、「鼻の捜査官」として重要な役割りを果たしている。
 警察犬は、鋭いきゅう覚に加えて勇敢さ、機敏性、人間への柔順性等が必要である。警察においては、こうした要件を備えた犬のなかでも、特に優れた能力を有しているドイツ・シェパード等のなかから優秀な犬を選び、警察犬として必要な厳しい訓練を施している。全国の警察犬は、都道府県警察で直接飼育している直轄警察犬と、民間の優秀な犬を警察犬として委託する嘱託警察犬とを合わせて約1,000頭であり、犯人の追跡、遺留品の捜索、物品選別等の犯罪捜査活動のほか、警戒活動、人命救助、行方不明者の捜索活動等に目ざましい活躍をしている。
〔事例〕 深夜、包丁を持った男が小料理店に押し入り、現金を強奪して逃走した。直ちに警察犬を出動させ、現場に遺留された包丁の柄に付いて

いた犯人のにおいを原臭にして追跡し、現場から約1km離れた公園の茂みに潜んでいた犯人を発見、事件発生後2時間でスピード解決した(神奈川)。

7 犯罪被害者に対する給付制度の創設

(1) 制度創設の趣旨
 殺人、傷害等の故意の犯罪行為によって死亡し又は重大な障害を受けた場合、被害者やその遺族は、大きな精神的、経済的打撃を被るが、加害者が無資力であるなどのため、民法上の不法行為による損害賠償の制度では、救済されない場合が通例である。
 特に、近年、自動車事故等他の原因により人身被害を受けた場合の救済方策が充実してきていること及び刑事政策思想の変化に伴って犯罪者の処遇の改善が行われてきていることと比べて、犯罪行為の被害者又はその遺族は、配慮がなされないままに取り残されてきており、社会全体としても、このような状態をそのまま放置しておくことはできなくなってきている。このような観点から、国がこれらの気の毒な立場にある遺族等の精神的、経済的安定に資するため、一定の給付金の支給を行おうとするものである。
(2) 犯罪被害の概要
ア 被害の実態
 昭和54年における故意の犯罪による被害についてみると、死傷者数は3万5,521人で、45年の6万5,190人に比べ大幅に減少しているが、死者数の推移をみると、表4-10のとおりで、過去10年間はほぼ横ばいの状態で推移しており、今後もこの傾向は続くものと思われる。
 54年に認知した殺人事件についてその被害者を職業別にみると、乳幼児、未就学児童307件、土木建築関係労務者122件、主婦115件、工員84件の順となっており、年齢層別では表4-11のとおりで、働き盛りの30~39歳が26.9%、40~49歳が16.8%で、この年齢層だけで全体の43.7%を占めている。このように、主婦や働き盛りの年齢層の被害者が多いことにより、これらの者

表4-10 故意の犯罪による死者数の推移(昭和45~54年)

表4-11 殺人被害者の年齢層別認知件数(昭和54年)

の死亡がその遺族に与える影響も大きいものと思われる。
イ 被害者の落ち度の有無
 昭和54年の身体犯被害者(注1)について、被害を受けた際に被害者側に何らかの挑発的言動(注2)があったかどうかをみると、表4-12のとおりで、何らの挑発的言動がないのに被害に遭った者が全被害者の半数以上を占めている。
(注1) 身体犯被害者とは、殺人、傷害及び暴行の各犯罪の被害者をいう。
(注2) 挑発的言動とは、犯人を侮辱したり、犯人又はその身近の者に危害を加える意図のあることを告げたり、犯人に攻撃を加えたり、凶器を示すなど犯行を誘発する原因となるような言動をいう。
ウ 生命保険の加入状況
 死亡被害者の生命保険加入状況を、殺人、強盗殺人、傷害致死についてみ

表4-12 身体犯被害者の挑発的言動の有無別認知件数(昭和54年)

表4-13 死亡被害者の生命保険加入状況(昭和54年)

ると、表4-13のとおりで、保険加入率は15.0%と低い率を示しており、保険により遺族の経済的安定が図られている場合は比較的少ないものとなっている。
(3) 諸外国における給付制度の実施状況
 諸外国における制度実施の状況をみると、イギリスにおいて最も早く制度創設のための動きが現れている。犯罪による被害者は、裁判所が犯人に対して損害賠償を命じても、実際に救済されていないことから、昭和29年ころ、刑罰改良家フライ女史によって、被害者補償の制度化が提唱され、これを契機としてイギリス国内で活発な論議がなされたが、34年にイギリス内務省によって制度化のための研究が行われるようになった。
 38年10月、ニュー・ジーランドにおいてイギリスでの議論を踏まえ世界に先駆け「刑事被害者補償法」が制定され、39年1月から暴力犯罪の被害者に対する補償制度が実施され、次いでイギリスにおいて同年8月から実施されるようになった。
 その後、表4-14のとおりアメリカ、オーストラリア、カナダ等9箇国34

表4-14 諸外国における制度の実施状況

州においても、この制度が実施されることとなり、それぞれの国情に合った内容を持つ制度が実施されるようになった。
(4) 制度創設の経緯
 我が国においては、昭和40年代の初めに、通り魔殺人事件の遺族による救済制度創設の運動が始められていたが、特に、49年8月の三菱重工ビル爆破事件以来、その必要性が国会、マスコミ等で大きく論議されてきた。
 このため、政府としては、我が国の実情に適した制度を創設するため、犯罪被害の実態、諸外国の制度、他の公的給付制度等について調査研究を進め、この制度を実施するための「犯罪被害者等給付金支給法案」を第91回国会に提出することとなった。
(5) 制度の骨子
ア 制度の趣旨
 人の生命又は身体を害する犯罪行為により、不慮の死を遂げた者の遺族又は重障害を受けた者に対し、国が犯罪被害者等給付金(以下「給付金」という。)を支給することについて規定するものである。
イ 給付金の支給対象
 給付金の支給対象は次のとおりである。
 給付金は、殺人、傷害等一定の故意の犯罪行為によって、死亡及びこれと同程度と評価される身体上の障害を受けた者に対して支給する。ただし、次のような場合には全部又は一部が支給されないことがある。
○ 親族間の犯罪による被害の場合、被害者にも責任がある場合など不適切な場合
○ 他の公的救済制度の適用がある場合又は損害賠償が現実に行われている場合
ウ 給付金の種類等
 給付金の種類は、遺族給付金、障害給付金の二種類とし、給付額は、被害者の収入、扶養の有無及び被害者の責めに帰すべき事由を基にして定められる。
 この制度での、給付金の最高額、最低額は、次のとおりである。

(遺族給付金の場合) 最高額 約800万円 最低額 220万円
(障害給付金の場合) 最高額 約950万円 最低額 約260万円

遺族給付金の支給を受けることができる遺族の範囲及び順位は、配偶者及び被害者に扶養されていた子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹並びにその他の子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹である。
エ 給付金の支給の裁定等
 給付金の支給の裁定は、都道府県公安委員会が行い、この裁定に関する不服の審査は、国家公安委員会が行う。
オ 適用期日
 この制度は、昭和56年1月1日以後に行われた犯罪行為による被害について適用される。

8 留置業務の管理運営

(1) 留置業務の現状と課題
 昭和54年末現在、全国の留置場の数は1,224場であり、ここに収容する年間延べ留置人員は約250万人に上っている。この留置(勾留を含む。)に伴う業務は、犯罪捜査とは根本的に性格を異にするものであり、その内容は、
○ 留置人の動静監視、留置場内の点検等による留置場の保安及び身柄の確保
○ 弁護人等との接見、物品の差し入れ等に伴う業務
○ 留置人の食事、洗面、入浴、運動等日常生活に伴う業務等で多岐にわたっている。また、留置業務は、留置人の身柄の保全を図りつつ、その人権を尊重し、適正な処遇を期さなければならないという極めて重要なものである。
 近年、被拘禁者の処遇改善をめぐる国際的な動きが活発化し、我が国においても、法制審議会で監獄法改正についての審議が進められている。
 このような情勢の下で、留置人の処遇についても、従来以上に適正な取扱いが要請され、警察庁に「留置場問題検討委員会」を設置するなど、警察では、留置場問題について総合的な検討を進めている。
(2) 留置業務管理体制の改善、整備
ア 管理組織の移管
 法制審議会における監獄法改正部会の審議過程において、警察の留置場を今後も代用監獄として存続させていく必要があるとの結論が得られた。
 警察が適正な捜査を確保しつつ迅速な捜査を行うためには、現状では被疑者の留置場所として、警察の留置場が最も適したものであるが、捜査を行う警察が同時に被疑者の身柄を拘束することは、好ましくないとの議論が一部にあることを考慮し、管理組織の移管を行うこととした。
 このため、昭和55年4月から、これまで刑事部門が所掌してきた留置業務を、捜査を担当しない総務、警務部門に移管することとした。
イ 留置場施設の改善整備
 留置場の構造、設備については、従来から改善整備に努めてきたところである。警察では、このたびの法制審議会における監獄法改正作業の経緯等を踏まえつつ、留置人処遇の一層の向上を図るため、今後とも、留置場施設の改善整備を行うこととしている。
ウ 看守職員の増員と教養訓練の充実
 留置業務の適正な管理運営を図るため、昭和54年4月、警察庁に留置管理官を新設したほか、都道府県警察においては、看守職員を増員し、看守体制の強化を図った。
 また、看守職員に対しては、適正な留置業務を行うための教養訓練の一層の充実を図っていくこととしている。

9 捜査活動の長期化、困難化と刑事警察当面の課題

(1) 長期化、困難化する捜査活動
 犯人の早期検挙は、地域住民の不安の解消や捜査効率の観点から極めて重要であるばかりでなく、確実な証拠に基づく捜査の推進という刑事警察の要請にもかなうものであるが、犯罪情勢や捜査環境の変化に伴い、事件の発生から解決までの期間は次第に長期化している。
ア 長期化する捜査活動
 全刑法犯及び包括罪種の即日検挙率(注1)の推移をみると、全刑法犯では、昭和45年の12.7%が54年には12.3%に低下しており、また、凶悪犯、粗暴犯でも45年と比べ大幅に低下している。特に、国民に大きな不安を与える殺人は、66.1%から47.8%へと著しく低下している。
 次に、全刑法犯及び凶悪犯、粗暴犯の検挙比率(注2)の推移をみると、即日検挙比率では、全刑法犯が45年の23.2%から54年の21.2%、凶悪犯が41.6%から36.8%、粗暴犯が48.4%から39.1%へと大幅に低下している。また、発生から30日未満の検挙比率でも、全刑法犯が45年の50.2%から54年の42.9%、凶悪犯が75.6%から70.1%、粗暴犯が75.8%から70.3%へと低下している。
(注1) 即日検挙率とは、犯罪の認知件数に対する即日検挙件数の比率をいう。
(注2) 検挙比率とは、犯罪の発生から被疑者検挙までの期間別検挙件数の総検挙件数に対する比率をいう。
イ 長期化する捜査本部事件の解決
 殺人等の重要特異事件で社会的に重大な影響を及ぼすものについては、特に捜査本部を設け、警察の組織機能を統一的かつ強力に発揮して事件の解決に当たっている。しかしながら、過去10年間における殺人、強盗殺人事件の

表4-15 殺人、強盗殺人事件捜査本部の設置状況(昭和45~54年)

捜査本部設置状況をみると、表4-15のとおりで、設置数がほぼ横ばいであるにもかかわらず、各年末現在の捜査本部数は増加傾向にあり、事件の発生から解決までの期間は長期化する傾向にある。
 また、昭和54年中に解散した殺人、強盗殺人事件の捜査本部について、その設置から被疑者の検挙までの期間を45年と比べると、検挙までの期間が30日を超える事件は、45年は22.2%であったのに対し、54年は26.1%となっており、捜査は長期化している。
ウ 広域化する捜査活動
 最近の交通網の発達、充実等による生活圏の拡大により、犯罪者の行動範囲は広域化しそれに伴い捜査活動の範囲も広がっている。
 昭和54年に設置されていた殺人、強盗殺人に係る捜査本部事件のうち、犯行が他県に及んでいないものについてみた場合でも、捜査活動の範囲は、図4-28のとおりで、133事件中97事件(72.9%)が2県以上にわたって捜査活動を行っており、その内容も被疑者の身辺捜査、追跡捜査、遺留品やそう品捜査、参考人からの情報収集等となっている。

図4-28 殺人、強盗殺人捜査本部事件の捜査地域

エ 困難化する聞込み捜査、そう品捜査
 都市化の進展等により、犯罪捜査を取り巻く環境は変化しつつあり、基本的捜査活動である聞込み捜査はますます困難になっている。
 最近5年間の総検挙事件に占める聞込みを主たる端緒とする検挙の構成比を罪種別にみると、表4-16のとおりで、殺人以外はいずれも漸減傾向を続けている。

表4-16 聞込み、ぞう品を主たる端緒とする検挙の構成比の推移(昭和50~54年)

 さらに、窃盗、詐欺等の財産犯の有力な捜査方法であるぞう品捜査も、流通機構の変化や大量生産、大量消費時代を背景とした被害品特定の困難化、ぞう品の処分方法の巧妙化等により次第に困難化している。
(2) 犯罪情勢の変化に対応する捜査活動の推進
ア 初動捜査体制の強化
 犯罪の質的変化、犯罪を取り巻く環境の悪化に対処するためには、犯罪の発生実態に即応した捜査体制を整備し、いったん犯罪が発生すれば、早期に捜査活動を展開し、犯人の早期検挙、証拠の確保を行わなければならない。特に、高速道路網の充実や航空機利用の一般化等により、犯人の行動も広域化、スピード化してきた現在、初動捜査力の強化は、ますます重要な課題となってきている。このため、機動力を有し24時間活動する機動捜査隊の拡充、整備及び緊急配備体制の効果的運用、緊急配備用資器材等の整備が急がれている。
イ 全国ネット捜査体制の確立
 犯罪の広域化に対処するために、数警察署にまたがる犯行に対してブロック捜査を、数都道府県にまたがる犯行に対しては、都道府県警察間の捜査共助を推進してきたが、今後もこれを一層強化するとともに、CD犯罪等全国にまたがる犯罪に対しては、警察庁、管区警察局を中心に全都道府県警察が一体となった全国ネット体制の確立を図る必要がある。そのためには、犯罪の広域化に対応して制定された広域緊急配備制度のより効果的な運用を図るための大規模な広域緊急配備訓練の実施が急がれるとともに、いわゆる逃げ得を許さないという広域追跡捜査体制の制度的、組織的確立の必要性が高まっている。
ウ 特殊事件捜査体制の強化
 爆破事件、列車事故等大規模な業務上過失事件、ハイジャック等の人質事件、誘かい事件あるいはコンピューター利用犯罪等の特殊な事件の捜査には、高度な科学的、専門的知識や技術が必要とされるが、この種の事件に対処するため、捜査方法の研究開発を更に進めていくほか、あらゆる事態に対応できる特殊事件即応体制の充実整備を図っていく必要がある。
エ 知能犯捜査体制の強化
 近年、大型の企業犯罪や悪質な公務員の汚職が多発していることから、いわゆる企業犯罪や汚職に対する捜査力を強化する必要がある。このため、特捜班体制を一層強化し、告訴、告発処理体制を充実するとともに、人材の育成を図る必要がある。
オ 国民協力の確保
 最近の厳しい犯罪情勢のなかにあって、限りある警察力で国民の期待にこたえる捜査活動を推進していくためには、捜査に対する国民の深い理解と協力が不可欠である。
 捜査に国民の協力を求める方法の一つに公開捜査があり、新聞、テレビ等の報道機関に協力を依頼するほか、ポスター、ちらしを人の出入りの多い飲食店、公衆浴場等で掲示、配布している。警察では、11月に「指名手配被疑者捜査強化月間」を実施し、警察庁指定被疑者10人、都道府県警察指定被疑者17人を公開捜査に付し、警察庁指定被疑者2人、都道府県警察指定被疑者5人をはじめ、同月中に指名手配被疑者3,579人を検挙した。


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