第9章 警察活動のささえ

1 警察職員

(1) 定員
 昭和53年10月現在、我が国の警察に勤務する職員は、合計約24万2,500人である。このうち、国の機関に勤務する者は約7,600人で、警察官は約1,100人、皇宮護衛官は約900人、その他一般職員約5,600人(うち、約4,100人は通信関係の職員)である。都道府県警察に勤務する者は、約23万4,900人で、うち警察官は約20万4,600人、一般職員(交通巡視員を含む。)約3万300人である。
 53年度には、4,700人の地方警察官(うち、1,300人は新東京国際空港警備隊)が増員されたが、52年3月から53年3月までの間に、全国の人口が約105万人増加したため、警察官1人当たりの負担人口は、全国平均で559人にとどまった。しかし、これを欧米諸国と比較すると、図9-1のとおりで、我が国はこれらの諸国に比べ依然として著しく負担が重い。のみならず、警察事象は量的に増大するとともに、ますます複雑化、多様化しつつあり、治安上、種々の新しい問題を引き起こしているので、今後とも、そのための適切な対策を推進していく必要がある。

図9-1 警察官1人当たりの負担人口(昭和53年)

(2) 婦人警察職員
 昭和53年10月現在、都道府県警察には、婦人警察官約3,900人、婦人交通巡視員約2,900人、婦人補導員約800人が勤務しており、主に交通整理、駐車違反の取締り、少年補導等の業務に従事している。このほかに、交通安全教育、110番受付、要人警護、犯罪捜査、警察広報等の職種へも女性の進出がみられる。また、これらのほかに一般職員として、約9,500人の女性が勤務している。
 婦人警察官については、労働基準法による深夜勤務の制限があり、これが婦人警察官の職種の多様化にとっての支障となっているので、現在検討を進めている。
(3) 採用
 昭和53年度に、都道府県警察の警察官採用試験に応募した者は約7万4,500人で、合格した者は約1万2,600人(うち、大学卒は約6,400人)となっており、競争率は約6倍であった。また、7月に千葉県警察に新東京国際空港警備隊が設置されたことに伴い、沖縄県を除く45都道府県警察から約500人が千葉県に出向して、同隊の中核となって活躍している。
 警察官は、治安維持のために、犯罪捜査、即時強制、武器使用等の大きな権限を与えられ、しかも、個々の警察官が自らの判断と責任においてこれらの権限を行使しなければならない。それだけに、不適切な職務執行や国民の信頼を裏切るようなことは、絶対にあってはならない。警察では、53年の年頭に発生した制服警察官による女子大生殺人事件(警視庁)という不祥事にかんがみ、採用方法の改善をはじめ初任教養の充実、幹部の指導監督能力の強化等の施策を盛り込んだ「青年警察官教養推進要綱」(注)を制定して、警察官にふさわしい能力、適性を有する人材を確保し、真に国民の期待にこたえる警察官として育てるべく努力を払っている。
(注) 本要綱には、部外有識者によるカウンセリング制度の充実、職場内コミュニケーションの確立、独身寮の居住環境の整備等も盛り込まれている。

2 警察職員の勤務

(1) 勤務制度
 警察官の勤務には、一般の公務員にはみられない特殊な形態を採るものが多い。派出所のように24時間警戒態勢を確保する必要がある部門では、通常3交替又は2交替で3日又は2日に1度の深夜勤務があり、このような勤務を行っている者は、全警察官の40%強を占めている。また、この交替制勤務者以外でも警察署に勤務する警察官の多くは6日に1度の割合で当直勤務に従事している。加えて、事件、事故のため、長期にわたって深夜勤務をしたり、勤務時間外に自宅待機を余儀なくされたり、仕事に呼び出される警察官が少なくない。
 このように警察官の勤務は不規則であり、しかも、しばしば危険を伴うことから、2交替制勤務の解消、複数駐在所の増設等の勤務制度や勤務環境の改善を図ることが当面の課題になっている。
(2) 殉職、受傷及び協力援助者の殉難
 警察官は、国民の生命、身体、財産を保護し、公共の安全と秩序の維持に当たることを職務としているため、職務遂行中に不幸にして職に殉じ、あるいは受傷する者も少なくない。昭和53年に職に殉じ、公務死亡の認定を受けた者は25人、受傷した者は7,225人に達し、この数は前年より殉職で6人、受傷で596人増加した。
 また、現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して災害を受けた民間人も少なくなく、53年には死者20人、受傷者41人に達している。これらの方々に対しても、公務災害の場合とほぼ同様の給付及び援護を行っている。
〔事例〕 3月26日未明、小山警察署の植木房志警部(29)は、侵入窃盗事件捜査のために同僚と張込中、通りかかった無灯火自転車の不審者を職務質問しようと呼び止めた。ところか男が逃走したため、これを追跡し たところ、相手と格闘となり、ナイフで胸、腹等を刺されて殉職した(栃木)。

3 警察教養

 警察の仕事は、国民の自由と権利に直接重大な関係を持つ場合か多く、警察職員がその責務を遂行するためには、執行務についての専門的な知識、技能や優れた気力、体力とともに、豊かな人間性と良識が必要とされる。このため警察では、警察職員に対する教育訓練に力を注いでおり、都道府県警察の警察学校、管区警察学校、警察大学校等を設置し、新しく採用した警察官に対する初任教養、幹部昇任者に対する幹部教養、専門分野に応じた各種の専科教養等の学校教養及び職場教養を実施している。
 学校教養のうちで最も力を注いでいるのは、新しく採用した警察官に対して行う初任教養である。この教養は、良識のかん養、健全な社会人としての人格形成、職責の自覚、気力、体力の練成、外勤警察活動に必要な知識、技能の養成等を目的として、1年間にわたり全寮制で行っており、教官と学生

が一体となって授業や課外活動に取り組んでいる。授業は普通の講義式のほか、演技式、事例研究、討議式等も取り入れ、さらに、実践経験を積ませるための実務修習、社会見学等も併せ行い、寮生活においては各種のクラブ活動を活発に行っている。昭和53年には、「青年警察官教養推進要綱」を定めて、これらの教養がより充実したものになるよう努力した。

4 予算

 警察予算は、警察庁予算と都道府県警察予算とから成り立っている。
 昭和53年度の警察庁予算は、「社会の複雑化に対応する警察体制の確立」と「犯罪や事故に対決し、国民とともにある警察活動の強化」を柱として、地方警察官4,700人の増員(うち1,300人は、千葉県警察新東京国際空港警備隊の要員である。)、全国的情報管理システムの整備、第二次交通安全施設等整備事業5箇年計画の推進、沖縄県交通方法変更の実施、警視庁本部庁舎等の新築等の施策を盛り込み、前年度の1,127億6,200万円に比べ、12.8%増の1,272億円となっており、国の予算総額の0.37%を占めている。警察庁予算の

図9-2 警察庁予算(昭和53年度補正後)

図9-3 都道府県警察予算(昭和53年度補正後)

内容は図9-2のとおりである。
 また、53年度の都道府県警察予算は、警察庁予算と地方財政計画を受け、各都道府県の特殊事情を加味して各種の経費を計上しており、その総額は前年度の1兆3,093億2,900万円に比べ、8.4%増の1兆4,192億5,400万円となっており、都道府県予算総額の5.9%を占めている。都道府県警察予算の内容は図9-3のとおりである。

5 装備

(1) 車両
 警察用車両は、捜査、防犯、警ら、交通、警備等各部門における警察活動を機動化し、迅速、的確に警察業務を推進していく上で不可欠であり、警察事象の量的な増大あるいは質的な変化に対応して逐次計画的な拡充強化を図っているが、その主要なものは、捜査用車、パトカー、交通パトカー、白

バイ、輸送車等である。そのほか、捜査本部用車、検問車、移動交番車、交通事故処理車、投光車、爆発物処理車等の特殊用途車両も保有している。
 昭和53年度は、老朽車両の減耗更新を行うとともに、ミニパトカー、捜査用車、火薬類取締り用車、輸送車、高速道路用交通パトカー等を中心に増強整備を行ったほか、新東京国際空港警備隊の発足に伴い、これに必要な車両の増強整備を行った。その結果、同年度末における警察用車両の保有台数は、1万9,480台となっており、その構成は、図9-4のとおりである。

図9-4 警察用車両の車種別構成(昭和53年度)

 しかしながら、警察機動力を強化するために各種車両の増強の必要性はなお高く、今後、継続的に拡充整備を図っていく必要がある。また、警察用車両は、一般の車両に比べて使用ひん度が高く、損耗が著しいため、車両更新期間の短縮を図っていくことが今後の課題となっている。
(2) 船舶と航空機
 警察用船船については、水上警察活動における機動力として、港湾、離島、河川、湖沼等に配備し、水上のパトロール、水難者の捜索、救助、麻薬犯罪や密貿易あるいは公害事犯の取締り等に運用している。
 これらの船舶には、全長8メートル級の小型船舶から20メートル級のものまであり、その整備に当たっては、使用水域や用途を考慮するとともに、老朽船の減耗更新の際には高速化を図るなど性能を高めることに努めている。
 昭和53年度末における警察用船舶数は191隻であり、その配備状況は、図9-5のとおりである。

図9-5 警察用船舶の配備状況(昭和53年度)

 また、警察用航空機は、35年度から整備を進めてきているが、53年度においては、秋田、茨城、埼玉、千葉、静岡、長崎の各県警察に小型ヘリコプター各1機計6機を増強配備するとともに、37年度に購入した小型ヘリコプター1機について減耗更新を行った。
 この結果、警察用航空機は全国で28機となり、航空基地は18都道府県に置かれるに至っている。これらは、いずれも災害発生時の状況は握と救助活

動、山岳遭難者等の捜索と救助、道路交通情報の収集と交通指導取締り、逃走犯人の捜索検挙、公害事犯の取締り等広範囲の活動に多角的に運用されている。

6 通信

(1) 警察活動と通信
 警察通信は、指揮命令の伝達、各種照会、手配、報告等の情報連絡手段として警察業務の遂行上重要な役割を果たしており、その種類も全国の警察機関相互間を結ぶ警察電話網をはじめ、文書や写真等の電送を行うファクシミリ通信、第一線活動警察官が使用する各種の警察無線通信等、多種多様にわたっている。
 社会活動の広域化、スピード化、社会の情報化の著しい進展等の情勢の下にあって、ますます複雑多様化している警察活動をより効率的に遂行するためには、各種の警察通信施設、機器の拡充とその技術的高度化を推進するとともに、これらを有機的、総合的に運用する体制の確立を図ることが緊急な課題となっている。
(2) 警察電話及びファクシミリ
 警察電話は、全国の警察機関相互間を結ぶ重要な情報連絡手段であるところから、電話回線網の増強、電話交換機の機能の高度化に努めているほか、即時直通電話装置、移動警察電話等の整備を進めるなど機能の拡充強化を図っている。
 電話回線網については、大災害等による重要通信の途絶を防止するため、現在、各管区警察局相互間を結ぶ自営の無線多重電話回線の2ルート化を推進中であり、昭和53年度は、広島、福岡間に新ルートによる無線多重電話回線を開設した。この結果、東京、名古屋、大阪、高松、広島、福岡の相互間は無線多重電話回線が2ルート化された。
 電話交換機については、警察本部の老朽化した旧型自動交換機の更新や警 察署に設置している手動交換機の自動交換機への取替えを推進している。53年度は、神奈川、三重、島根の各県警察本部の交換機の更新と、全国100警察署について自動交換機への取替えを実施した。
 即時直通電話装置は、大規模な災害その他の重要事案が発生した都道府県警察の本部と、警察庁、管区警察局、関連都道府県警察の本部との間に、直通の電話回線を即時に自動接続するための装置で、53年度には、三重県ほか8県の警察本部に設置した。
 移動警察電話は、警察本部等と警察車両相互間においてダイヤル即時で通話できる電話回線網で、既に8都府県警察に設置されている。53年度には、更に北海道、広島、福岡の各道県警察に設置した。
 ファクシミリには、都道府県警察相互間で送受信される全国的な電送通信系と都道府県内の警察機関を結ぶ県内電送通信系とがある。県内電送通信系は、機器が老朽化してきたため、高速処理機能を有する新機種への更新を進めており、53年度は、京都府及び兵庫県警察の機器を更新した。
(3) 警察無線
 警察無線は、機動的な警察活動を展開する場合における情報連絡手段として、第一線警察活動上欠くことのできないものである。
 このため、警察では、移動無線通信用の各種通信施設、機器の強化充実に努めており、なかでも第一線警察活動用通信系、高速道路通信系、車載無線通信系等の整備を重点的に推進中である。
 第一線警察活動用通信系は、街頭活動中の警察官相互間あるいは警察署との通信連絡を行うための通信系で、各警察署ごとにそれぞれの通信系を構成している。昭和53年度には、全国の115警察署について整備した。

 

高速道路通信系は、高速道路上のパトカーが高速道路管理室や沿道の都府県警察と連絡するため、都府県の境界を越えて使用できる通信系である。53年度は、東北、中央、名神、中国の各自動車道の供用区間についてそれぞれ整備した。
 車載無線機については、第一線で活動する警察車両の無線機とう載率の向上を図っており、53年度は、292台の車両に無線機を整備した。
 無線通信を行う場合、山岳等で電波がさえぎられ通信ができない地域が存在することは、警察活動上の大きな支障となるため、警察では無線中継所の設置その他の対応策を進めている。53年度には、無線中継所19箇所と大規模な地下街及び高層ビル街の無線中継施設6箇所の新設を行った。
(4) 重要、突発事案と通信
 警察は、どのような事案が発生しても、時間、場所のいかんにかかわらず直ちにこれに対処しなければならないが、その際における情報連絡手段の確保は、警察活動上極めて重要な問題となる。このため、警察では、重要、突発事案発生時には、通信職員による機動通信隊を編成し、応急用通信機器による通信系の早期確保と維持活動を行っている。
 警察事案の広域化、多様化に伴って、こうした通信職員の出動回数は増加の一途をたどっている。事案発生時に所要の通信系を迅速に開設し、維持するためには、訓練された要員の確保、各種通信機器の機能を有機的、効果的に結合して運用するための機動通信体制の確立及び応急用通信機器の量的、質的な向上が緊急の課題となっている。
 なお、応急用通信機器については、年々整備拡充を図っているが、昭和53年度は、災害時等に警察署の通信施設と同等の機能を発揮できる各種通信機器をとう載した非常用通信車1台を増強したほか、災害時に他の防災関係機関との通信連絡ができる防災相互通信用無線機51台、応急用無線電話機13台を整備した。

7 警察活動科学化のための研究

(1) 科学警察研究所
 科学警察研究所では、科学捜査、非行少年、防犯、交通安全等に関する研究、実験やその研究成果を応用した鑑定、検査を行っている。
 昭和53年度の研究についてみると、件数では、前年度からの継続件数54件、新規研究26件の合わせて80件となっており、その内容の主なものは表9-1のとおりである。
〔研究例〕 イムノアッセイによる尿中覚せい剤の微量分析法
 近年、覚せい剤事犯の増加に伴って、その施用者を発見するため、尿中覚せい剤の簡易、迅速な検出法として、イムノアッセイ(免疫学的測定法)を応用した分析法を検討した。その結果、覚せい剤フェニルメチルアミノプロパンに特異性の高い抗血清を作製することができ、これを用いたラジオイムノアツセイ及び赤血球凝集阻止反応によって尿中10~200ナノグラム/ミリリットル(1ナノグラムは10億分の1グラム)の濃度で検出が可能であった。この分析法は、特異性が高く、検出感度も優

表9-1 科学警察研究所の主要な研究課題(昭和53年度)

れており、また、尿中から目的物を分離する前処理の必要がないため、尿中覚せい剤の鑑別法として適していることが明らかになった。
 また、53年に開催された国際会議や学会で発表した研究としては、「ヒト毛髪のA型物質の免疫化学的研究」(5月、国際法科学連合第8回国際会議、アメリカ)、「ヒト毛髪からのH及びB型物質の免疫化学的研究」(5月、犯罪及び市民問題に関する国際会議、アメリカ)、「抗Rh-LOR抗体のイディオタイプ特異性とその変化」(7月、第17回国際血液学会及び第15回輸血学会総会、フランス)等があり、国内においては、「画像解析システムを用いた筆跡の測定」、「呼気圧を変えた場合のササヤキ声」、「暴力団犯罪の特質と対策とに関する研究」等の研究発表を行った。
 次に、鑑定、検査についてみると、科学警察研究所では、主に都道府県警察や地方の鑑識センター(大阪、福岡)から、また、一部には検察庁や裁判所等から嘱託を受けて高度の技術を要する鑑定、検査を行っており、その状況は図9-6のとおりである。
 このほか科学警察研究所では、都道府県警察における鑑識科学の向上、発展を目的とした鑑識科学研究発表会を毎年開催しており、53年には法医、化学、文書、火災の4部会を開催した。参加した鑑識技術職員は約400人、

図9-6 科学警察研究所の鑑定、検査件数(昭和49~53年)

発表された研究は107件であった。
 なお、科学警察研究所では、都道府県警察の鑑識技術職員が検査業務の遂行に必要な鑑識科学関係の検査法を体系化するため、検査法集の刊行を逐年行っており、53年には、「工学的検査法Ⅰ」を刊行した。
(2) 警察通信学校研究部
 警察通信学校研究部では、第一線の警察活動をより効率化するための各種通信機器の開発、改良、通信方式の調査研究等を行っている。
 昭和53年度においては、各種電話端末装置、ファクシミリの機能向上、110番受理及び指令業務に電子計算機を導入した場合の入力装置、無線通信系に対する新技術の応用等に関する調査研究を行った。

表9-2 都道府県警察における主要な研究事例(昭和53年)

(3) 都道府県警察における研究
 都道府県警察の本部には、犯罪鑑識の事務を担当する鑑識課のほか法医学、理化学関係の鑑定、検査や研究を専門に行う機関として科学捜査研究所等が置かれている。これらの機関においては、犯罪現場等から採取される各種資料の鑑定、検査、実験を行って犯人を割り出し、あるいは犯罪を科学的に証明するなど科学捜査の中核的業務を行っている。このほか、日常業務を通じ採証、鑑定及び検査のより高度な技術や手法の開発並びに資器材等の研究開発を積極的に推進している。
 昭和53年の都道府県警察における主要な研究事例は表9-2のとおりである。


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