第6章 交通安全と警察活動

1 交通情勢

(1) 沖縄県の交通方法変更
 昭和47年5月に沖縄県が本土に復帰して以来の懸案事項であった沖縄県の交通方法変更が、53年7月30日、円滑に実施された。これは、沖縄県における従来の「車は右、人は左」の通行方法を、本土と同一の「車は左、人は右」に変更したものである。この交通方法変更により、国内の交通方法が統一されることになり、沖縄と本土の一体化が一層促進されることとなった。
(2) 自動車交通の現況
ア 自動車台数、運転免許保有者数の増加
 我が国の自動車保有台数は、図6-1のとおり年々増加しており、昭和53年末には前年比6.5%増の約3,500万台に達し、この結果、国民3.3人に1台の割合で自動車を保有することとなった。現在、我が国はアメリカに次ぐ世界第2位の自動車保有国となっているが、商業車の比率が高く、乗用自動車の人口、世帯当たりの普及率は欧米各国に比べまだ低い水準にあり、今後、乗用自動車の台数は増加を続けることが予想される。
 一方、自動車保有台数の増加に伴い、図6-1のとおり増え続けてきた運転免許保有者数は、53年も前年比5.8%の増加をみせ、53年末には、3,917万人に達した。この結果、免許適齢人口(16歳以上)に占める免許保有者の割合は、男性が1.4人に1人、女性が4.2人に1人、全体では2.2人に1人となっている。また、53年においては、女性の免許保有者数が前年比12.8%増と大幅な増加をみせた。運転免許保有音数は、乗用自動車保有台数の伸びに伴い、今後も一層増加していくことが予想される。

図6-1 自動車保有台数、運転免許保有者数等の推移(昭和44~53年)

イ 自動車輸送の増大
 石油危機により一時停滞していた自動車による輸送は、昭和51年度より再び増勢に転じ、52年度においては、前年度に比べ、旅客輸送(人キロ)については1.5%増、貨物輸送(トンキロ)については7.9%増で、それぞれ全旅客輸送の51.9%、全貨物輸送の37.0%を自動車が担うところとなっている。輸送機関別の旅客輸送の推移は、図6-2のとおりで、過去10年間に鉄道の輸送量は14.1%の増加にとどまっているのに対し、自動車の輸送量は85.3%の大幅な増加を示している。また、貨物輸送については、図6-3のとおりで、同期間に鉄道の輸送量は31.0%の減少をみせているのに対し、自動車の輸送量は41.0%の増加をみせている。
ウ 自動車交通の問題点
 モータリゼーションの進展は、他面において、交通事故、交通公害等様々

図6-2 輸送機関別旅客輸送の推移(昭和43~52年)

図6-3 輸送機関別貨物輸送の推移(昭和43~52年)

な社会問題を引き起こしている。昭和53年の交通事故死者数は、46年以降8年連続減少して8,783人となり、過去最高であった45年の交通事故死者数(1万6,765人)を55年までに半減させるという「第二次交通安全基本計画」の目標の達成は目前にある。しかし、現在もなお年間9,000人近い人が死亡し、約60万人が負傷しており、交通事故の防止は、依然として国民的課題であるといわねばならない。また、交通渋滞、自動車排出ガスによる大気汚染、自動車交通に起因する騒音、振動等による沿道住民の生活環境の悪化も解消されておらず、重要課題として残されている。
(3) 最近の交通事故の特徴
ア 交通事故の一般的特徴
(ア) 概況
 昭和53年に発生した交通事故は、46万4,037件で、これによる死者数は8,783人、負傷者数は59万4,116人である。これを前年と比べると、発生件数は3,388件(0.7%)増、死者数は162人(1.8%)減、負傷者数は905人(0.2%)増となっており、死者数については8年連続減少となった。
 このように交通事故死者数は、全般的には減少傾向を示しているものの、依然として都道府県間、都市間における死亡事故の事故率に較差が認められ、また、子供と老人の事故の減少率が低下しているなど問題が残されている。
(イ) 危ないスピード違反、酒酔い運転
 昭和53年の第一当事者(注1)の違反別死亡事故件数を、交通事故が過去最高であった45年と比べると、表6-1のとおりで、総件数は7,490件(47.4%)減少しているにもかかわらず、最高速度違反が493件(35.7%)増と大幅に増加している。しかも、全違反中に占める構成率をみると、最高速度違反は2.5倍、酒酔い運転は1.2倍に増加している。
 また、致死率(注2)をみると、最高速度違反が平均の6.7倍、酒酔い運転が4.0倍とそれぞれ高率である。
(注1) 第一当事者とは、事故の当事者のうち、過失の最も重いもの又は過失が同程度である場合にあっては、人身の損傷程度が最も軽いものをいう。
(注2) 致死率とは、交通事故発生件数に占める死亡事故件数の割合をいう。本節では

とする。
(ウ) 事故の多発時期、多発時間
a 土曜日、日曜日に多発
 曜日別の一日平均死者数についてみると、平均が24.1人であるのに対し、土曜日が28.0人、日曜日(祝日を含む。)が26.6人としジャー交通が多くなる土曜日、日曜日に事故が多発している。これは、気の緩み、地理不案内によ

表6-1 第一当事者の違反別死亡事故件数(昭和45、53年)

る不慣れな運転、無理なスケジュールによる長距離運転等交通事故発生の原因となる事情が伴うことによるものと思われる。
b 夕方のラッシュ時に多発
 時間帯別の交通事故発生状況は、図6-4のとおりで、全事故、死亡事故ともほぼ同様の傾向を示しており、午後の4時から6時の間が最も多くなっている。また、死亡事故については、下校、退社等のラッシュ時に当たる午後の4時から8時までの時間帯が多く、1日の約4分の1の死亡事故が発生している。

図6-4 時間帯別交通事故発生状況(昭和53年)

(エ) 依然として多い歩行者の横断事故
 昭和53年の死亡事故を類型別にみると、表6-2のとおりで、歩行者の道路横断中の死亡事故が全体の5分の1強を占めている。
 なお、車両単独事故については、スピードの出し過ぎ等無謀運転によるものが多いことから致死率が高い。
イ 原動機付自転車の交通事故
(ア) 増加傾向にある原付事故
 昭和49年以降の原動機付自転車利用者の死者数の推移をみると、図6-5のとおりで、全死者数は減少傾向を示しているにもかかわらず、原動機付自転車利用者の死者数は、横ばいないし増加傾向を示している。また、全死者数に占める構成比でも、49年の6.1%に対し、53年は8.7%と増加している。

図6-5 原動機付自転車利用者の死者数の推移(昭和49~53年)

(イ) 大幅に増加した女性の事故
 昭和53年の原動機付自転車利用者の死者数は765人で、男女別にみると、表6-3のとおり男性が656人、女性が109人となっている。これを前年と比べると、男性が2.1%減少しているのに対し、女性は28.2%の大幅な増加をみせている。

表6-2 類型別死亡事故件数(昭和53年)

 また、男女についてそれぞれ年齢層別の状況をみると、男性では20歳未満の者が全体の26.2%を占めて最も高いのに対し、女性では30歳代及び40歳代が、それぞれ28.4%を占め、この両者で全体の6割弱を占めている。
ウ 子供と老人の交通事故
(ア) 子供の交通事故
a 高い割合を占める子供の交通事故
 昭和45年以降の子供の交通事故

表6-3 性別、年齢別原付乗車中の死者数(昭和52、53年)

の推移は、図6-6のとおりで、45年を100とする指数でみると、53年は死者59.1,負傷者80.1といずれも減少している。

図6-6 子供の交通事故の推移(昭和45~53年)

 しかし、全死者数に対する子供の死者数の構成比は、図6-7のとおりで、45年が11.9%であったのに対し、53年には13.4%とやや高くなってい

図6-7 交通事故死者数に占める子供の構成比(昭和45~53年)

る。また、学齢層別にみると、幼児の構成比が最も高いため、常日ごろから幼児が車道や危険な場所で遊ばない習慣を付けさせるよう、母親等の保護者を指導する必要かある。
b 危ない夕方の時間帯
 昭和53年の子供の交通事故の時間帯別発生状況は、図6-8のとおりで、多発時間帯は午後4時から6時までの間であり、この時間帯で子供の死者数の25.2%、負傷者数の28.6%を占めている。
 なお、子供の交通事故を曜日別にみると、土曜日が最も多く、日曜日、金曜日の順となっている。
c 危ない道路での遊び
 歩行中の子供の死者、重傷者7,463人について通行目的別にみると、「遊び」が51.2%で最も高く、次いで「買い物、習いごと等」が35.0%、「通園、通学」が13.5%となっている。

図6-8 子供の時間帯別交通事故発生状況(昭和53年)

 また、自宅からの距離別にみると、自宅から50メートル未満の場所での事故が約3分の1を占めており、特に、幼児、幼稚園児が自宅付近で事故に遭うことが多い。
 さらに、交通事故の発生状況を違反別にみると、表6-4のとおりで、「飛び出し」に起因するものが全体の64.7%、「車の直前直後の横断」に起因するものが24.7%であり、この両者で約9割を占めている。学齢層別の構成比でみると、「飛び出し」が各学齢層とも最も高いが、学齢層が低くなるにつれてその比率が高くなっているのに対し、「信号無視」、「車の直前直後の横断」は、高い学齢層に多くなっている。

表6-4 歩行中の子供(第一当事者)の違反別、学齢層別交通事故発生件数(昭和53年)

d 親の同伴中にも多い未就学児の事故
 未就学児の死亡、重傷事故を同伴者別にみると、図6-9のとおりで、単独でいて死亡、重傷事故に遭ったものが、全体の52.2%を占めて最も高いが、母又は父が同伴中にも全体の約4分の1の未就学児が死亡したり、重傷を負ったりしていることは注目される。

図6-9 未就学児の死亡重傷事故の同伴者別状況(昭和53年)

(イ) 高い老人の事故率
 昭和45年以降の人口比(注)でみた老人の交通事故死者数の推移は、図6-10のとおりで、全死者数の場合と同様に45年をピークに下降線をたどっているが、全体の人口比が7.6人であるのに比べ、老人はその約2倍に当たる14.2人と極めて高い。
 53年の老人の交通事故死者を年齢層別にみると、表6-5のとおりで、人口比でみた死者数は、高年齢になるほど高くなっている。
(注) 本章中、人口比とは、同年齢層の人口10万人当たりの数である。

図6-10 人口比でみた老人の交通事故死者数の推移(昭和45~53年)

表6-5 老人の年齢層別、男女別、交通事故死者数(昭和53年)

(ウ) 子供と老人の自転車事故
 昭和45年以降の自転車利用者の死者数の推移は、図6-11のとおりで、減少傾向にあるが、子供の死者数はあまり減少していない。自転車利用者の死者数のうち、子供と老人を合わせた比率は、6割近くを占めている。
 また、自転車利用者の死者数を人口比でみると、全体では1.0人、子供は0.9人となっているのに対し、老人は2.9人と死亡率が極めて高い。

図6-11 自転車利用者の死者数の推移(昭和45~53年)

2 道路交通法令の改正と今後の交通警察

 道路交通法は、昭和35年の制定以来、数次にわたる改正が行われてきたが、53年5月に7年ぶりに大改正が行われ、これに併せて関係法令もそれぞれ改正され、53年12月1日から施行された。
(1) 改正の背景
 国民皆免許時代といわれるように、自動車運転は一部特定の人たちだけのものではなく、国民生活とより密着したものとなってきた。それに伴い、道路交通をめぐる国民の意識、要求は、それぞれの立場を反映し、多様化してきており、いまやくるま社会は様々な運転者や歩行者から成る国民生活の縮図となってきた。毎年9,000人近い交通事故死者が出ているところから、道路利用者はそれぞれの立場から交通事故の一層の防止を強く望んでいるが、歩行者や自転車利用者は、単に安全にとどまらず便利で快適に利用できる道路を、自動車等の利用者は安全かつ走りやすい交通環境をそれぞれ強く求めてきている。また、運転者に良識と道路利用者としての責任の自覚を求める声も強まってきており、さらには、運転者の背後にある者の交通安全に果たすべき役割も指摘されるところとなっている。
 このような交通情勢や国民の意識、要求の変化のなかにあって、交通警察は、その活動をより多様化することを求められており、国民の共感を得つつ、これら諸要求の調整の上に、事態に的確に対応し、きめ細かな施策を推進していくことが必要になっていた。
(2) 改正のねらい
 道路交通法令の改正に際しては、特に次の点に配慮した。
ア 交通の安全の確保のための根源的かつ総合的対策
 これまで以上に交通事故の防止の実を上げ、平穏、快適な生活環境を求める国民の要求にこたえるには、これまで事故防止上のあい路とされてきた多くの問題について、根源的かつ総合的な解決を図るための新しい施策の推進が必要となる。例えば、自転車については、これまで道路交通の場において一貫した政策が行われないままに昭和52年末までに4,700万台を数えるに至っているが、今回の改正では、自転車横断帯の設置、普通自転車の交差点進入禁止等その通行方法について規定を整備する一方、普通自転車、反射器材、制動装置について基準を明定し、前二者について国家公安委員会の型式認定に係らしめることとした。

 また、事業活動に伴って使用される自動車がますます増加するなかで、企業における安全運転管理の強化を図るため、自動車の使用者の責任を明確化し、自動車の使用制限という新たな行政処分制度を設けたのも、違反、事故の責任を単に運転者にのみ求めることなく、むしろそうした違反、事故を誘発させることとなる環境自体にさかのぼって、これを正していこうとする考え方の表れである。
イ 運転者の社会的責任の明確化
 道路交通法の目指す運転者は、単に車を運転する知識と技能を持つ人間というだけではなく、運転者としての自覚と責任ある行動のできる運転者であり、一道路利用者として他の道路利用者や沿道住民に対する譲り合い、思いやりの気持ちを持つ運転者である。今回の改正で、高速道路における運転者の遵守事項を定め、暴走族の暴走行為を禁止し、無車検、無保険の自動車を運行の用に供した者に違反点数を付し、また、いわゆる青空駐車を行った者にも違反点数を付したことなどはこうした考え方に基づくものである。
(3) 広報活動の推進
 今回の改正は極めて多様な内容を含むものであったことから、12月1日からの施行を円滑に行うため、10月、11月の重点広報月間を中心に、各種広報資料の配付、講習会の開催、各新聞への広告掲載、テレビ、ラジオの特別番組及びスポット放送、交通安全協会等関係団体の広報誌への登載等により、広範かつ積極的な広報活動を推進した。
 なお、今回の改正を機会に、「交通の方法に関する教則」を全面改定し、一層利用しやすいものとした。
(4) 改正後の交通状況
 改正道路交通法の施行は、事前の広報活動の徹底、街頭における指導活動等により、円滑に行われた。
 施行後の12月中における事故件数は3万8,785件(前月比5.9%減)、死者数は660人(前月比20.3%減)でそれぞれ大きく減少した。なかでも、酒酔い運転が直ちに免許取消しとされたため、酒酔い運転による死亡事故は前年同月比57.1%減と大幅な減少をみせた。また、暴走族についても、暴走行為の禁止規定が新設されたため、い集走行台数は前月比97.0%減と大幅な減少をみせた。このほか、企業における安全運転管理の強化を目指して新設された自動車の使用制限処分制度についても適用事案が現れている。
(5) 今後の交通警察の運営
 今後の交通警察運営の適正化については、交通安全施設の管理と交通規制の合理化、交通指導取締りの適正な運用、運転者対策の推進等を図る必要があるが、このほかに次のことについても配意する必要がある。
ア 交通警察懇談会の開催等
 今回の道路交通法令の改正に当たっては、改正試案の発表とともに、住民、ドライバー、学識経験者等から成る交通警察懇談会を開催し、意見を聴いた。これは、交通対策の進め方、交通警察の在り方は全国民にとって重要な関心事であるところから、交通警察運営の基本について国民の意見や要望等を反映させる目的のものである。今後は、中央及び地方を通じ、広くこうした懇談会を開催するなど、交通警察運営における民意の反映のための方策を一層推進する必要がある。
イ 交通警察の科学的運営
 今後予想されるモータリゼーションの一層の進展に適切に対応していくためには、交通警察の科学的な運営が要求される。このために、交通管理技術の向上並びに施設、機器等の近代化及び高度化を図るとともに、交通事故、交通違反、交通実態等を科学的に分析し、それを広く交通対策に反映していく必要がある。また、昭和53年3月には、財団法人日本交通管理技術協会が設立され、科学的な交通管理技術の確立を目指して活動が開始された。

3 新しい運転者管理の推進

 我が国の運転免許保有者数は、図6-12のとおり昭和52年までは年間約130~180万人ずつ増加してきたが、53年には約215万人の増加を示し、53年末現在の運転免許保有者数は、3,917万4,099人となった。
 また、最近は女性の運転免許取得者の増加が目立ち、最近3年間における

図6-12 運転免許保有者数の推移(昭和45~53年)

女性の増加率(41.6%)は、男性の増加率(10.1%)をはるかに上回り、また、増加数においても女性(306万7,595人)が男性(262万3,990人)を上回っている。なかでも女性の原付免許及び普通免許取得者の増加は著しい。
 53年末現在における運転免許保有者は、16歳以上の免許適齢人口2.2人に1人の割合となっている。特に、社会活動の中核となっている20歳以上60歳未満の年齢層の者については、1.8人に1人(男性では1.3に1人、女性では3.3人に1人)が運転免許を保有している。
 このような国民皆免許時代において、交通事故を防止し、道路交通の秩序を維持していくためには、道路交通の場で主役ともいうべき運転者の役割が極めて大きい。すなわち、運転者は、単に車両等を運転するために必要な知識や技能を備えているだけでなく、他の交通や沿道の住民に対しても配慮するなど、社会に対する責任を十分に果たすことが必要である。
(1) 運転者教育の充実
ア 指定自動車教習所における教習
 昭和53年末現在での全国の指定自動車教習所数は、1,371箇所で、53年の指定自動車教習所の卒業者は、206万4,833人である。53年の運転免許試験合格者中に占める指定自動車教習所の卒業者の割合は、80.6%となっており、初心運転者教育の中に占める指定自動車教習所の役割は極めて大きい。
(ア) 自動車教習所業の近代化
 指定自動車教習所の多くが中小企業であり、資力や人的な体制が必ずしも十分でないことなどから、その近代化を図っていく必要がある。そのため、昭和51年7月に自動車教習所業を中小企業近代化促進法に基づく指定業種とし、53年3月に自動車教習所業の中小企業近代化計画が策定された。この計画は、57年度末を目途に自動車教習所業を近代化して、教習水準の向上を図ることを目的としている。この計画の推進に当たっては、業界の積極的な努力が要請されるところである。
(イ) 学科教習課程の改正
 昭和53年の道路交通法令及び交通の方法に関する教則の改正に伴い、指定自動車教習所における学科教習課程を新しい教則に準拠したものに改めるとともに、教習項目、教習内容等を教習生に理解しやすいものに改めた。
 また、運転者に社会的な責任を自覚させ、運転マナーの向上を図るため、新たに学科教習課程に「くるま社会の一員としてのモラルと責任」、「譲り合いと思いやり」、「他人に迷惑をかけない運転」、「交通公害の防止」、「地震発生時の運転」、「交通事故発生時における負傷者の応急手当の要領」等を盛り込んだ。
イ 運転者に対する講習
 運転免許証の更新者を対象としたいわゆる更新時講習の受講者数は、運転免許保有者の増大に伴い、年々増加しており、昭和53年には約1,078万人がこの講習を受けている。
 この制度は、いわば運転者に対する再教育の制度であり、また、対象者が大量であることから、今後この講習を一層効果的なものにしていくためには、対象となる運転者の年齢、運転経験、運転車両等受講者の態様に応じた内容の講習を行うほか、講習用の施設、資器材等を充実していく必要がある。
 運転免許の停止処分等を受けた者を対象とした改善教育としての処分者講習の受講者数も年々増加しており、53年には約159万人が受講した。
 処分者講習についても、更新時講習と同様、飲酒学級、再受講者学級、二輪学級、少年学級等の特殊学級を設けるなどできるだけ対象に応じた講習を実施することとしている。
 さらに、最近、原付免許取得者が著しい増加傾向にあることから、原動機付自転車による交通事故の防止を図るため、今後は、原動機付自転車の運転者に対する乗車用ヘルメットの着用指導と併せ、原村免許取得者に対する技能講習を中心とした安全運転講習を積極的に推進する必要がある。
(2) 企業における安全運転管理の強化
ア 安全運転管理者制度
 安全運転管理者制度は、安全運転についての企業の社会的責任を明らかにしたものであり、企業に対して、自動車の安全な運転に必要な業務を行う安全運転管理者を選任させるとともに、安全運転管理者を通じて事業所等における自動車の安全な運転を確保させるためのものである。道路交通法では、乗車定員が11人以上の自動車にあっては1台、その他の自動車にあっては5台以上の使用者(自動車運送事業者及び通運事業者を除く。)に対し、安全運転管理者を選任することを義務付けている。昭和53年度末現在の安全運転管理者選任状況は、事業所数21万7,684箇所、安全運転管理者21万7,889人、その管理下にある運転者約306万人、自動車台数約248万台である。
イ 副安全運転管理者の選任
 従来、安全運転管理者の数は、その使用する自動車の台数の多少にかかわらず1人でよいことになっていたが、今回の改正では、安全運転管理の徹底を目的として、使用される自動車の台数が20台以上である事業所においては、安全運転管理者の業務を補助させるため、所定の数の副安全運転管理者を選任しなければならないこととされた。なお、昭和53年度末現在の副安全運転管理者選任状況は、事業所数2万4,065箇所、副安全運転管理者1万9,262人となっている。
ウ 安全運転管理者に対する講習の実施
 都道府県公安委員会は、安全運転管理者等の資質を向上させ、事業所等における交通事故防止対策を強化するため、自動車及び道路の交通に関する知識、自動車の安全な運転に必要な知識、安全運転管理に必要な知識等を内容とした安全運転管理者等講習を毎年実施しているが、昭和53年度における講習は延べ1,428回行われ、全受講対象者の96.6%に当たる20万2,651人の安全運転管理者等が受講した。
エ 安全運転管理者制度の充実
 企業内における安全運転管理の徹底を期すため、安全運転管理者を選任していない事業所等の一掃月間や安全運転管理者講習の未受講事業所、事故多発事業所等に対する交通安全診断を実施するなど、指導の強化に努めてきたが、なお改善すべき多くの問題点が残っている。
 7月に福島、岐阜、岡山の各県警察が、それぞれモデル地区を選定して安全運転管理者制度の運用状況について実態調査を行ったところによると、管理能力のない者を安全運転管理者として選任している事業所が約22%あったのをはじめ、安全運転管理規定の制定、運転日誌の備付け、運行計画の作成、仕業点検等基本的な事項が実施されていない事業所がかなりあることが明らかになった。
 このような傾向は、特に、規模の小さな事業所にみられるので、今後は、これらの中小の事業所等を中心として、雇用主等の安全運転管理意識の高揚と安全運転管理業務への積極的参加、安全運転管理者等の企業内における地位の向上と付与権限の増大、職場単位の安全運転指導員等の配置、マイカークラブの結成や優良運転者表彰制度の確立等自主的な安全運転管理対策の推進について指導を強化していく必要がある。
オ 自動車の使用制限処分制度の創設
 今回の改正では、自動車の使用者等がその業務に関し、自動車の運転者に対して、酒酔い運転、無免許運転、最高速度制限違反、積載制限違反等の違反行為をすることを下命又は容認し、それにより運転者がこれらの違反行為を行った場合には、都道府県公安委員会は、その自動車の使用者に対し、6箇月を超えない範囲内の期間を定めて、その違反行為に使用した自動車の使用を制限することができることとされた。
(3) 運転免許行政の改善
ア 優良運転者の処遇の改善
 昭和53年の道路交通法令の改正により、長期間無事故、無違反の運転者について処遇の改善を図るため、点数制度上の特例措置か設けられた。従来、1年以上の間無事故、無違反であった者について点数計算上特例が認められていたが、新たに2年以上の間無事故、無違反であった者についても、点数が1点又は2点の違反行為をした場合、その日から更に3箇月間無事故、無違反であったときは、点数計算上その違反点数を含めないこととされた。
 このような特例措置が設けられたのは、長期間無事故、無違反であった運転者については、あえて処分を行わなくても自らの改善努力によって再び安全な運転者になれるという考え方によるもので、これによって運転者の安全意識が一層高まるものと期待されている。
 一方、自動車安全運転センターでは、警察庁の運転者管理センターに保管されている免許関係記録に基づき、無事故、無違反証明書や運転記録証明書を交付する業務を行っているが、無事故、無違反の期間が一年以上の運転者に対しては、これらの証明書と併せて、安全運転者(Safe Driver)であることを表す「SDカード」を交付し、安全運転の励行と会社、事業所等における優良運転者賞揚資料としての広い活用を呼び掛けている。
イ 運転免許の「うっかり失効者」の救済
 今回の改正によって、うっかりして免許証の更新を忘れたいわゆるうっかり失効者が運転免許試験の一部免除を受けることのできる期間が、従来の3箇月から6箇月に延長された。
 このほか、一部の府県では、免許証の更新時期が近づいている者に対して事前の通知をし、運転者から好評を得ている。
ウ 旧軽免許等の保有者に対する限定解除審査の促進
 昭和51年1月に軽自動車の規格が改定されたことから、旧規格による軽自動車は一部の貨物車を除いて生産されなくなり、そのため、現在旧軽免許等の保有者は、運転免許を受けていても現実に運転する自動車が無くなりつつあるというのが実情である。そのため、対象者に対しては、免許証の更新申請時等に「審査の手びき」の配布や事前の講習日の指定など、限定解除の審査に関する必要な教示、指導を行う一方、53年9月から関係機関、団体等を通じて積極的に広報を行うことにより、限定解除審査の促進を図った。

4 交通安全意識の高揚

(1) 交通安全運動
 昭和53年の春の全国交通安全運動は、歩行者及び自転車利用者、特に子供と老人の交通事故防止、夜間における交通事故の防止、シートベルト着用の推進を重点とし、また、秋の全国交通安全運動は、歩行者及び自転車利用者、特に子供と老人の交通事故防止、安全運転管理の充実と安全運動の促進を重点とし、幅広い国民運動として展開された。また、53年は、7月30日を期して実施される沖縄県の交通方法変更と軌を一にして、7月28日から8月1日までの5日間、夏休み中の子供の交通事故防止等を重点とする夏の全国交通安全運動が特別に実施された。
 運動期間中、警察では、学校周辺、住宅街、商店街等の生活ゾーンを中心とした安全な生活環境の確保、自転車利用者のための交通環境の整備等の交通安全対策をはじめ、飲酒運転追放を中心とした夜間における交通事故防止、シートベルト着用の指導を重点的に行うとともに、関係機関、団体等との連携の下に、各種講習会、老人家庭に対する巡回指導、交通安全フェア等各種の行事を積極的に実施した。特に、秋の運動期間中においては、事業所等における組織ぐるみの安全運転対策等を積極的に推進するよう指導した。
(2) 歩行者の交通安全
ア 子供と老人の交通安全教育
 交通事故で死亡した歩行者の約3分の2は、子供と老人であるので、子供と老人を対象とした交通安全教育を重点的に推進している。
(ア) 子供
 幼児については、地域や幼稚園、保育所等を単位とした母親ぐるみの幼児交通安全クラブの結成を推進し、その活動の活発化に努めた。また、小・中学生については、学校、町内会、交通安全協会等と協力して交通少年団の結成の促進とその育成に努め、特に、交通安全学習会等交通少年団の自主的な活動の推進について指導した。昭和53年9月末現在、全国で1万5,440の幼児交通安全クラブが組織され、幼児約164万人、保護者約154万人が加入し、また、5,332の交通少年団が組織され、小学生約62万人、中学生約7万人が加入している。
 子供の交通事故を防止するには、子供に対する教育のみならず、子供の行動特性や子供の交通事故の特徴に応じた運転者や母親に対する交通安全教育が必要とされるほか、遊び場の確保、交通安全施設の整備等による安全な交通環境の確保が望まれるところである。
(イ) 老人
 老人に対しては、老人家庭に対する巡回指導を強化するとともに、老人クラブ、老人ホーム等に、交通安全部会や交通安全指導員制度の設置を働き掛けるなど、交通安全指導に努めた。昭和53年9月末現在、全国で交通安全部会は1万6,105団体、交通安全指導員制度は2万514団体に設けられており、 それぞれ約133万人、約170万人の老人が指導を受けている。
イ 身体障害者の通行の保護
 昭和53年の道路交通法令の改正により、目が見えない者が盲導犬を連れて通行する場合には、白色又は黄色のつえを携えなくてもよいことになった。また、身体障害者用の車いすが通行しているとき、又は目が見えない者が盲導犬を連れて通行しているときは、車両等の運転者は、一時停止するか徐行して、その通行を妨げてはならないこととされた。
(3) 自転車利用者の交通安全
ア 自転車通行の安全確保のための規定の整備
 自転車の増加傾向に伴い、交差点における左折巻き込み事故等自転車利用者の交通事故が多発し、また歩道上において無秩序な通行をする自転車もみられることから、自転車の通行の安全を確保し、正しい通行方法を明らかにするため、今回の改正では、自転車の定義付け、自転車横断帯による横断、普通自転車(注)の交差点への進入禁止、普通自転車の歩道通行、制動装置、反射器材不備の自転車の運転禁止等に関する規定が整備された。
(注) 普通自転車とは、他の車両を牽(けん)引していない二輪又は三輪の自転車で、長さ190センチメートル以下、幅60センチメートル以下、鋭利な突出部がないこと等の構造のものをいう。
イ 自転車の型式認定
 今回の改正により、普通自転車の大きさ及び構造並びに自転車の制動装置等に関する基準が定められたことに伴い、普通自転車等の型式認定が制度化された。この型式認定は、自転車等が定められた基準に適合しているかどうかを国家公安委員会が型式について判定することによって行う。また、個々の製品についても、それが認定どおりの安全な自転車等であることを確認し、その旨をTSマークにより表示し、自転車利用者の利便に資するものである。



ウ 交通安全教育の実施状況
 自転車利用者に対しては、自転車保有台数の著しい増加と自転車事故の多発にかんがみ、交通安全協会の自転車安全教育推進委員会、学校等に協力して、特に、母親と幼児、小・中学生や老人を重点とした自転車安全教室、自転車の安全な乗り方コンテスト等の開催や街頭における個別指導を通じて、自転車の正しい安全な乗り方が常に実践できるような指導を強力に実施した。
(4) 大型車による事故防止対策
 昭和53年に発生した大型自動車による左折時の死亡事故は、発生件数208件、死者数216人で、それぞれ前年に比べ大幅に増加した。このため、安全運転管理者や運転者に対する各種講習会において、大型車の視界、内輪差に伴う危険性を指摘するとともに、左折時における安全確認の励行について指導を徹底した。歩行者、自転車利用者に対しては、交通安全教室や自転車の安全な乗り方教室等において、車の視界、内輪差に関する知識や交差点における安全な通行方法等について、実験を交えた安全教育及び広報に努めた。また、交通規制の面でも、生活道路や狭い道路における大型車の進入禁止、狭い交差点における大型車の右左折禁止などの措置を講じた。
(5) シートベルト、ヘルメットの着用指導
 シートベルト着用の推進については、交通安全運動等において各種キャンペーンを展開し、運転者、同乗者をはじめ、安全運転管理者、雇用者、運転者の家族に対しても指導を行った。
 シートベルトの着用率は、表6-6のとおり高速道路及び一般道路とも年々上昇しているが、まだ十分とはいえないので、今後とも、運転者講習会等の機会を通じて、シートベルトの着用の効果について啓もうし、着用の励行を指導する必要がある。

表6-6 シートベルトの着用状況(昭和49~53年)

 また、ヘルメット着用の推進については、従来から積極的に実施しているところであるが、特に、今回の改正により、自動二輪車の運転者及び同乗者は、すべての道路において乗車用ヘルメットの着用が義務付けられ、原動機付自転車の運転者も着用するように努めなければならないこととされたので、安全基準に適合した乗車用ヘルメットを着用するよう指導を強化した。

5 交通秩序の確立

(1) 交通指導取締りの概況
 昭和53年は、歩行者等の保護、交通事故に直結する悪質違反の取締りを重点に街頭指導取締り活動を展開した。また、交通違反の根源を断つため、これらの違反を助長する使用者の義務違反等の取締りを強化することにより、取締り効果の拡大を図った。
 最近5年間の交通違反の検挙状況は、図6-13のとおりで、52年をピークに減少に転じ、53年は約1,200万件となった。これは、街頭指導活動の強化と道路交通法令の改正に伴う国民の交通安全意識の高揚によるものである。

図6-13 交通違反検挙(告知)件数の推移(昭和49~53年)

 交通指導取締り活動は、幅広い国民の支持と共感に支えられ、また、国民の交通安全への自発的参加を促すものでなければならない。
 このため、今後さらに、歩行者、自転車利用者に対する保護誘導の徹底、交通実態に対応した街頭指導取締り活動の推進等に努めるとともに、過積載等のいわゆる構造的違反の排除を図るため、背後責任の追求を徹底していく。
(2) 街頭指導活動の強化
ア 歩行者、自転車利用者に対する保護、誘導活動
 歩行者、自転車利用者の交通事故は、依然として交通事故全体の中で高い割合を占めている。このため、街頭指導体制を強化し、横断歩道、自転車横断帯等における老人、子供、自転車利用者等に対する保護、誘導活動を徹底し、これらの通行の安全確保に努めた。特に、12月中は、自転車利用者に対し改正道路交通法令の施行に伴う内容を重点とした指導を行ったが、その指導件数は約24万件にも及んだ。
イ 違反の未然防止
 運転者の注意を喚起する必要のある場所、登下校時間帯、買物時間帯等における交通監視体制を強化し、信号無視、駐車違反等危険な行為の未然防止に努めていろはか、歩行者、自転者利用者の通行を妨害する行為等悪質な違反の取締りを強化している。
ウ ドライバーに対する援助活動
 交通機動隊等の街頭活動を通じ、車両故障、パンク、落輪等により路上で困惑している運転者に対し、車両の移動、引上げ、助言等応急的援助活動を積極的に推進している。
(3) 重点指向の取締り
ア 交通事故に直結する違反の取締り
 交通違反の取締りは、重大な交通事故に直結するおそれのある無免許運転、飲酒運転、著しい速度超過、過積載等悪質かつ危険な違反行為を重点に実施した。また、これらの取締りに当たっては、交通事故の発生状況、交通違反の状況等を的確に分析し、これに基づいた取締り場所、時間帯等を設定し実施するなど、取締り管理を徹底し、適正かつ効果的な取締りに努めた。
イ 取締り広報の推進
 事故多発路線等においては、規制理由を示した標識、看板等を設けて安全運転を促す措置を講ずる一方、違反取締り時には、当該路線の事故事例を示すなどして違反の再発防止と安全意識の高揚に努めている。
ウ 悪質違反の取締り
(ア) 飲酒運転
 最近5年間における飲酒運転による死亡事故の状況は、表6-7のとおり件数は年々減少している。また、車両等の運転者が第一当事者となった事故総数のうち飲酒運転の占める割合は、昭和51年をピークに減少傾向に転じている。特に、今回の改正により酒酔い運転に対する行政処分が強化されたことに伴い、12月中における酒酔い運転者が第一当事者となった死亡事故件数は、33件で前年同月比44件(57.1%)減と大幅に減少した。
 しかしながら、依然として死亡事故総数に占める飲酒運転事故の割合は高

表6-7 飲酒運転による死亡事故状況(昭和49~53年)

く、飲酒運転の取締りが死亡事故の抑止に貢献するところは極めて大きい。このため、夜間における体制等を強化して違反実態に即応した取締りを行うとともに、なお一層広報活動を徹底し、国民全体に飲酒運転追放の気運を定着させる必要がある。
(イ) スピード違反
 速度違反は、重大事故に直結するのみでなく、騒音、振動等交通公害の発生要因ともなっている。
 最近5年間における速度違反の取締り状況は、表6-8のとおりで、総件数の伸びより高い率で年々増加していたが、昭和53年においては減少に転じている。

表6-8 速度違反の取締り状況(昭和49~53年)

 速度違反の取締りは、車両の流れを乱して走行する車両等危険な走行をする車両を重点とするとともに、取締り場所、時間帯についても交通実態に対応して設定するなどしている。
(4) 背後責任の究明
ア 使用者等の責任の徹底究明
 過積載、過労運転(麻薬等運転を含む。)、無免許運転及び整備不良車両運転並びに無車検、無保険運行等にあっては、使用者、荷主、整備業者等が違反行為の背後にあって、その違反行為を助長している場合が少なくない。このため、運転者の違反行為を取り締まるだけではなく、その背後にある運行管理、労務管理、車両管理、荷主の運送委託等に係るこの種の違法状態を排除するとともに、所要の行政措置を的確に講じるなど、根源的かつ総合的対策の推進に努めている。
 昭和53年における使用者等の背後責任追及の状況は、表6-9のとおりで、追及件数は前年に比べ1,566件増加している。また、積載違反に係る背後責任追及件数は6,735件で全体の38.0%を占め、うち荷主等の責任追及件数は123件であった。

表6-9 背後責任追及件数(昭和52、53年)

〔事例〕 大型貨物自動車15台を使用して石灰の運搬を主業務とする運送会社の社長(34)が、会社の利潤の増大を図るため、運転者の給料を荷積歩合制として過積載を事実上奨励し、運転者19人に対し約2箇月にわたり延べ約300回に及ぶ過積載を行わせていた(岡山)。
 過積載等の下命、容認事犯については、今回の改正により、都道府県公安委員会は自動車の使用制限をすることができることとなった。このような行政処分の強化により、特に過積載については、12月中に実施した取締り結果からみると、重量測定を行った車両のうち違反をしている車両の割合は7.4%(52年11月実施時は21.4%)、違反車両のうち10割以上の過積載をした車両の割合は8.7%(52年11月実施時は18.6%)となっており、輸送業界等に過積載自粛についての浸透がうかがわれる。しかしながら、同時に使用者等による過積載の下命、容認事犯の検挙も65件あったことから、今後ともこの種の違反を防止するため、なお一層対策を講じていく必要がある。
イ 関係行政機関等との連携の強化
 取締り及び背後責任追及の実効を期すため、捜査の結果に基づき所要の事項を関係行政機関、団体に通報し、必要な行政措置、指導措置が講じられるよう積極的に働き掛けている。なかでも、過積載については、業者の自主的な過積載抑制措置の促進及び定着化が図られるよう関係機関等との連携の強化に努めている。
(5) 交通関係法令違反の取締りの強化
 交通の安全の確保、交通秩序の維持や道路交通に起因する各種の不安感の除去は、道路交通法の運用のみによって果たされるものではない。このため、道路運送車両法、自動車損害賠償保障法、道路運送法等の各種交通関係法令違反の取締りにも積極的に取り組んだ。
 昭和53年における無車検、無保険運行、白タク行為等の検挙件数は、表6-10のとおりで、前年に比べ道路運送車両法、自動車損害賠償保障法、道路運送法違反の検挙件数が著しく増加した。
 今回の改正により、無車検、無保険運行等についても運転免許の行政処分に

表6-10 交通関係法令(道路交通法を除く。)違反検挙状況(昭和52、53年)

係る基礎点数が付されることになったほか、この種の違反は組織的に行われる場合が多いところから、車両の所有者、使用者等に対する責任の追及を徹底している。
(6) 交通捜査活動の推進
 昭和53年の交通事故(人身)事件の送致件数、人員は45万6,976件、49万7,091人で、ここ数年横ばい傾向にある。内容的には、自動車交通の長距離広域化や自動車、タイヤ等の欠陥問題等に対応し、捜査が広域化、複雑化する傾向にあり、また、賠償の高額化や処罰の厳しさから、事故当事者が無過失を主張したり、証拠をいん滅するなどの事件が増加し、捜査活動は困難になってきている。
 最近5年間のひき逃げ事件の発生、検挙状況は、図6-14のとおりで、53年は3万2,223件発生し、うち2万8,952件を検挙した。

図6-14 ひき逃げ事件の発生、検挙状況の推移(昭和49~53年)

 53年のひき逃げ事件の検挙率は89.8%と高率を保っているが、事犯の特徴として、犯行後、巧妙に証拠いん減したり、ひん死の負傷者を連れ去り遺棄するなど悪質、巧妙なものが目立っている。
 自動車を凶器として使用した殺傷事件、自動車保険金詐欺事件等交通事故を偽装し、又は自動車を手段とした犯罪や運転免許証等交通関係文書の偽変造事件、自動車の継続検査をめぐる不正事件等は、くるま社会における新しい型の犯罪であり、最近、増加傾向にある。53年は、この種の事件を3,516件、2,961人検挙した。特に、保険金詐欺事件は、前年に比べ件数で2.6倍、人員で2.5倍の1,202件、856人を検挙し、被害額も10億円を超えるなど急増した。
〔事例〕 不良タクシー運転手らのグループ約70人は、借金の返済とギャンプル資金獲得のため、貸金業者と共謀し、50年5月から52年10月までの間に、延べ36件の偽装交通事故を起こし、情を知った病院医師の幇助も得て、入院給付金、休業補償等名下で総額約3億4,000万円の保険金を詐取していた(大阪)。

6 暴走族の動向と対策

(1) 概説
 暴走族は、昭和53年11月末現在、全国で307グループ、2万2,442人で、52年11月の調査に比べ58グループ、1,880人減少している。特に、53年の道路交通法令の改正で、「共同危険行為等禁止規定」が新設されたことにより、11月中にグループを解散したものが数多くみられた。
 最近3年間の暴走族のい集、走行状況は、表6-11のとおりで、参加延べ人員、車両数とも年々増加しており、その動きが依然として活発であることを示しているが、12月中は1,330人、車両515台にとどまり、53年11月と比べそれぞれ3万7,556人(96.6%)減、1万6,790台(97.0%)減と激減したほ

表6-11 暴走族のい集走行状況(昭和51~53年)

か、それまでみられた大規模な集団走行は影を潜めた。
 なお、最近3年間における暴走族の対立抗争事案の発生状況は、表6-12のとおりで、53年は、関与人員が著しく減少しており、対立抗争事案の発生も小規模なものにとどまった。

表6-12 暴走族の対立抗争事案の発生状況(昭和51~53年)

(2) 特徴的傾向
 暴走族は、従来から夏季に活発な動きをみせていたが、昭和53年には、7~8月のい集、走行、参加人員がともに前年同期に比べ約40%増と激増したほか、一般市民に対する投石事犯、ガソリンスタンド等における集団窃盗事件、シンナー乱用事犯等悪質な不正事案が多発した。
〔事例〕 暴走族「予科練」グループ約50人は、かねてから対立関係にあった暴走族「飛車角」グループ16人を発見し、やにわに木刀、棒切れ等を振るって殴り掛かり、これらの者に傷害を負わせた上、1人を車内に監禁するなどし、更に傷害を与えたほか、シンナーの乱用、密売、窃盗等を重ねていた。この事件で129人を検挙した(埼玉)。
 また、暴力団構成員と関係を持つ暴走族グループが多く認められるようになり、なかには暴力団構成員自らが暴走族のリーダーとなってグループを指揮し、不法事案を起こす例もみられた。
(3) 総合対策の推進
 暴走族の暴走行為等に対しては、街頭における指導取締り、運転免許の行政処分のほか、車両の不法改造等暴走行為を側面的に助長した者の責任の追及、グループの解体、家庭、職場、学校等との連携の緊密化等暴走族事案の発生の根源を突く対策を総合的に進めている。
ア 集団暴走行為に対する取締りの強化
 昭和53年は、暴走族に対する取締りを一段と強化した結果、出動回数約6,000回、延べ出動警察官数約81万6,000人に及び、前年に比べ大幅に増加した。
 暴走族事案の法令別検挙状況は、表6-13のとおりで、その検挙件数は年々増加している。

表6-13 暴走族事案の法令別検挙状況(昭和51~53年)

 暴走族は、12月に入ると、徒歩で集合したり、い集後警告に従って解散したり、走行に際しても一般交通の流れに従って個々に走行するなど、それまでみられた集団暴走行為等の動きは影を潜めている。しかしながら、暴走族は、警察の対応をうかがっている節がみられるなど予断を許さない状況にあるので、引き続き強力な取締り体制をもって臨むこととしている。
イ 共同危険行為等の禁止規定の適正な運用
 今回の改正で、暴走族の集団走行という形態に着目し、その行為を集団の犯罪として規制する目的から「共同危険行為等の禁止規定」が新設されたことと併せて、暴走族の取締りを更に強化した。12月中の警察官等の延べ動員数及び車両台数は、約11万人、約2万4,000台に及び、前年同月に比べそれぞれ146%増、135%増という過去に例をみない大規模なもので、暴走族のしゅん動をほぼ完全に封圧した。その結果、「共同危険行為等の禁止規定」の適用は1件にとどまった。
〔事例〕 暴走族川崎連盟さん下「メデューサー遊園」、「武蔵」等のグループ約100人は、解散を口実に集合し、特攻隊員8人(二輪車8台)を先頭に集団走行を開始し、走行中のバス等の直前に特攻隊員が割り込み、これを停止させ、その間を一団となってだ行運転した事犯に「共同危険行為等の禁止規定」を適用し、44人を検挙した(神奈川)。
ウ 運転免許の行政処分の強化
 暴走族に対しては、危険な行為を再び繰り返させないため、今回の改正により、「共同危険行為等の禁止規定」違反に9点の違反点数を付すこととしたほか、暴走行為の指揮者等共同危険行為を教唆し又は幇助した者に対しても、道路交通の危険性帯有者として運転免許停止処分を行うなど、行政処分の強化を図った。
 昭和53年における暴走族に対する運転免許の行政処分の状況は、表6-14のとおりで、その処分件数は年々著しく増加している。

表6-14 暴走族に対する運転免許の行政処分状況(昭和51~53年)

7 交通環境の改善

(1) 都市総合交通規制の現状
ア 都市総合交通規制の拡大
 都市における交通事故、交通渋滞等の交通障害は、相互に複雑に関連して発生しているものである。したがって、交通規制も各種の手段を組み合わせ、一体のものとして都市全体にかぶせる総合的、体系的なものとして行う必要がある。都市総合交通規制は、このような観点から、地域の特性に応じた適正な交通規制を実施し、交通の流れを安全、円滑で、交通公害の少ないものとし、交通環境の保全、改善を図るものである。昭和49年から人口10万人以上の都市においてこの規制を実施してきたが、中小の都市においても交通障害が深刻化してきたので、52年から人口10万人未満の都市に拡大し、その結果、53年末には、人口10万人以上の179都市と人口10万人未満の127都市で実施するに至っている。
イ 都市総合交通規制の実施状況
 現在、都市総合交通規制として実施している主な対策は、次のとおりであり、人口10万人以上の都市の主要交通規制実施状況は、表6-15のとおりである。

表6-15 人口10万人以上の都市の主要交通規制実施状況(昭和48、52、53年)

(ア) 生活ゾーン規制
 住宅地域、商店街等日常生活が営まれている地域で、歩行者及び自転車利用者の通行の安全と良好な生活環境を確保する必要性の高い地域を生活ゾーンとし、区画されたゾーン単位に歩行者用道路、大型車通行止め、一方通行等の規制を総合的に実施しているところである。特に、人口10万人以上の都市における歩行者用道路は、昭和53年末で7,469キロメートルとなっている。
(イ) 自転車安全利用のための規制
 自転車事故を防止し、安全な通行を確保するため、自転車専用通行帯、普通自転車の歩道通行可、路側帯等の規制を積極的に進めている。特に、人口10万人以上の都市における普通自転車の歩道通行可については、昭和53年末で8,737キロメートルに及んでいる。
(ウ) 路線バス優先対策
 大量公共輸送機関である路線バスの機能を向上させ、マイカー利用者の輸送効率の高い路線バスへの転換を図るため、バス優先、専用レーンの設定等路線バス優先対策を推進し、都市における交通渋滞、交通公害等の交通障害の原因となっている過密交通の解消に努めている。
(エ) 交通公害防止対策
 トラック輸送の大幅な伸び、車両の大型化、夜間走行の増加により、幹線道路沿いで、騒音、振動等の交通公害が深刻化している。これに対処するために、最高速度制限、通行区分の指定、走行車線の削減等の対策を実施している。東京では、土曜日の夜10時から日曜日の朝7時までの間、環状7号線以内の都心全域の一般道路、首都高速道路の一部及び環状8号線の一部の区間について、大型貨物自動車等通行止めの規制を実施している。
(オ) その他
 駐車規制は、交通の円滑を図り、都心への自動車の流入を抑制する上で極めて重要な意義を有するとともに、交通事故、交通公害の防止上効果的であるので、積極的に実施しているところである。同時に、商店街等比較的駐車需要の多い業務地区では、パーキングメーターを設置して、駐車需要にこたえている。
 また、都市内におけるトラックの通行についても、特に交通流を乱し、騒音、振動等の交通公害をもたらすものについては、規制を強化しているところである。さらに、関係機関に働き掛け、空車走行、地域間の交錯輸送、不定時輸送等を改善するなど物流の合理化を促進している。
〔事例〕 福岡市の商業中心地である天神地区は、最近の交通量の増大に加えて地下鉄工事のために、交通渋滞が激化した。警察は、この地区のトラック輸送を改善することにより、交通渋滞の解消を図るべく、荷主、運送業者等関係団体等に働き掛けたところ、共同集配システムの導入が実現した。その結果、地区内の集荷量も増加し、物流の合理化が図られ、地区内のトラックの総走行距離も半減した(福岡)。
(2) 都市総合交通規制の方向
ア 都市総合交通規制の拡充
 都市総合交通規制は、全体としては順調に拡大されているが、規制計画の必要な都市及び地域を網らするには至っていない。今後は、多様化する交通情勢の変化を見通し、ますます深刻化する交通障害に対処し、生活環境の保全、都市交通機能の維持のために、従来の計画や施策の進行状況を見直し、都市総合交通規制を人口3万人以上の都市を対象として拡充することとしている。
イ 生活環境の改善
 生活ゾーン規制は、本来人の生活するどの地域でも実施されるべき規制であり、その地域における交通対策の基盤となるものであるが、まだその全般を網らするには至っていない。このため、当面は、人口集中地区及びその周辺における市街地形成区域のすべてについて生活ゾーンの区域割りを行い、生活ゾーン規制を積極的に実施していくとともに、交通安全施設の整備、生活環境の改善を図っていく。また、これらの規制を実効あらしめるため、交通指導取締りを実施し、規制を担保していく必要がある。
 また、自転車利用者の増加に対応し、その安全利用を図るため、自転車専用通行帯、普通自転車の歩道通行可等の規制を更に行うとともに、昭和53年の道路交通法令の改正により新設された自転車横断帯、普通自転車の交差点進入禁止等の規制についても積極的に実施していく必要がある。
ウ 都市交通機能の回復
 路線バス優先対策については、バス優先、専用レーンの伸びも、近年は道路条件等の制約から鈍化の傾向にある。警察としては、都市における路線バスの位置付けを明確にし、関連施策の推進を関係機関に積極的に働き掛けていくとともに、バス感知信号機の増設、中央線変移システムの導入、夕方のバス専用レーン等の設定等により、今後も路線バス優先対策を推進していく。
 都市間を結ぶ幹線道路については、安全対策、交通公害防止対策と併せて幹線機能を向上させる対策を講ずる必要がある。このため、交差点における右左折制限、信号機の系統化等の対策を実施していく。
 駐車対策の推進については、都市における経済活動等を円滑に営むために必要最小限の駐車需要にこたえていく必要もある。今後は、都市全体、又は一定の地域における駐車需要を調査し、路外の駐車スペースの確保のための施策の推進を関係機関に働き掛けるなど総合的な対策を実施していく必要がある。
(3) 交通安全施設の整備
ア 整備の現状
 第二次交通安全施設等整備事業五箇年計画の第3年度である昭和53年度における事業予算規模は、表6-16のとおり特定事業約294億円、地方単独事業約338億円、総額約633億円となっており、歩行者と自転車の通行の安全確保を柱に、交通安全施設の整備に努めた。
(ア) 交通管制センター
 交通管制センターは、コンピューターによって信号機や道路標識等を広域的かつ有機的に操作して、都市交通の流れを安全かつ効率的に誘導するものであって、交通管理の中枢をなすものである。
 昭和53年度には、旭川、青森、藤沢、徳島、鳥取及び宮崎の6都市に新設し、同年度末現在で45都市となり、その管制エリア内の信号機約1万3,000基を広域自動制御し、さらに、日本道路交通情報センターを通じての道路交通情報の提供活動を行っている。
 なお、新東京国際空港の開港に伴い東京都と千葉県との間の交通流を合理

表6-16 交通安全施設等整備事業実施状況(昭和53年)

的に調整するために、相互の交通情報を的確には握する県間交通情報システムの運用を開始した。その運用事例は、図6-15のとおりである。
(イ) 信号機、道路標識、道路標示
 交通上の危険性の高い交差点を中心に7,301基の信号機を新設したほか、既設の信号機についても系統化、感応化等の改良を行い、交通管制センターの機能向上を図った。
 道路標識、道路標示については、主要幹線道路、生活道路を中心に整備を図ったほか、今回の道路交通法令の改正に伴い自転車横断帯を約3,000箇所に設置した。
イ 施設の運用等の改善
 信号機等の交通安全施設は、昭和41年度以降計画的に整備した結果、その整備数は飛躍的に増大し、これら施設の合理的な運用及び保全管理が重要な課題となってきており、今後は、このための点検、改善体制の整備、強化に努

図6-15 県間交通情報システムの運用事例

める必要がある。
 信号機については、9月に運用改善月間を実施し、交通の実態に即応した信号の表示の調整に努めたほか、道路標識、道路標示については、大型標識、可変標識等を設置して通行者に分かりやすいものにした。また、交通安全施設の定期点検及び迅速な補修を実施するため、保全管理のための体制を整備し、技術水準の向上を図っている。
(4) 交通管理の技術開発
 今後の交通情勢に対応して、効果的な交通管理を展開していくためには、科学技術の成果を積極的に導入し、交通管理技術の向上を図っていく必要がある。
 現在、全国的に整備されつつある交通管制センターについては、交通監視機能及び交通情報提供機能を更に強化し、その高度化を図っていく必要がある。そのほか、路側式可変標識の開発、降雪地の道路標示等の耐久性の研究を推進している。また、高速道路時代に向けて、高速教習シミュレーション等運転者教育システムの開発、あるいは、暴走族等の悪質違反者の取締り技術、資器材の開発を行っている。

8 高速道路における交通管理

 高速道路(注)は、昭和38年7月、中央自動車道西宮線(名神高速道路)の供用開始以来年々供用路線が延伸され、53年には9路線250キロメートルが新たに供用等され、総延長距離が2,860キロメートルとなった。53年の道路交通法令の改正では、高速道路走行が安全快適に行われるよう、高速道路で自動車を運転しようとする者に対し、事前に燃料、冷却水、オイルの量や貨物の積載の状況を点検し、必要な措置をとる義務を課し、大きな事故の原因となる燃料等の量の不足による本線車道等での停止や、積荷を高速道路に飛散、落下させることなどの防止を図った。さらに、駐停車車両への追突事故を防止するため、停止していることの表示を運転者に義務付けた。表示の方法としては、停止表示器材(写真参照)を用いることとし、国家公安委員会が法令の基準に適合していると認定した製品については、TSマークをはり付けることができることとした。
(注) 高速道路とは、高速自動車国道及び道路交通法施行令第42条第1項の自動車専用道路をいう。

(1) 高速道路管理体制
 警察庁においては交通局高速道路管理官が、関係管区警察局においては高速道路管理官が、34都道府県高速道路交通警察隊の活動について、指示、連絡、調整等をして、高速道路における交通警察活動の一体的、総合的運営を図っている。
 昭和53年には、中国縦貫自動車道及び北陸自動車道の供用距離の延長に伴い、新たに中国管区警察局に三次高速道路連絡室、広島、新潟両県警察に高速道路交通警察隊を設置し、体制の増強を図った。
(2) 交通事故の概況
 昭和53年の高速道路における交通事故の発生件数は、物損事故を含めると2万2,513件で、うち高速自動車国道では1万2,791件となっている。最近5年間の高速自動車国道における交通事故の発生状況は、図6-16のとおりであるが、供用延長が伸びているにもかかわらず、死亡事故は52年からは減少傾向を示している。死亡事故類型別では駐停車車両への追突事故35件、走行車両への追突事故25件と追突死亡事故が全死亡事故の半数近くを占めている。

図6-16 高速自動車国道における交通事故発生状況(昭和49~53年)

(3) 交通管理活動
ア 交通規制
 高速道路における交通規制は、高速道路の交通実態、関連する一般道路の交通状況等を勘案し、関係機関との緊密な連携の下に実施している。
 特に山岳、寒冷地域における高速道路については、気候的、地域的特殊性と規制の統一性について十分考慮し、効果的な交通規制を実施している。
〔事例〕 10月、中国縦貫自動車道が100.2キロメートル供用されたが、海抜200~500メートルの中国山地の積雪、凍結、濃霧等の交通障害の多発地域を貫通していることから、全区間にわたり可変式速度規制標識により最高速度の規制をするなどして交通事故防止を図った(岡山、広島)。
 高速道路において、都道府県公安委員会が設置、管理している交通規制、管制に必要な交通安全施設は、交通安全を確保し、かつ、国の主要幹線道路としての機能を維持するためには必ずしも十分とはいえない現状にあるため、今後は、交通安全施設の整備を促進するとともに、高速道路交通警察隊の交通規制、管制体制を充実する必要がある。
イ 交通指導取締り
 高速道路においては、一たび交通事故等が発生すると、車両の走行速度が高速であることや、道路構造の閉鎖性から連続交通事故を誘発するほか、広範囲にわたる交通混乱を来すことになる。
 高速道路交通警察隊は、パトカーによる機動警ら、交通監視を行うとともに、交通検問等のいっせい取締りを計画的に実施し、交通事故に直結する最高速度違反、飲酒運転、過積載、駐停車違反等を重点的に取り締まる一方、シートベルトの着用指導を推進している。
 また、これらの取締り手法と併せ、東海自動車道(東名高速道路)等に速度違反監視取締り装置を設置し、速度超過の抑止に著しくその効果を上げているので、更に整備を促進していく必要がある。
 昭和53年の高速自動車国道における交通違反の取締り状況は、表6-17のとおりであるが、最高速度違反が14万1,918件で最も多くなっている。
ウ 交通事故事件の捜査
 高速道路での交通事故事件の処理及び捜査は、極めて危険な状況下で、連続事故の防止、負傷者の救護、交通の早期回復、事故の事実関係の究明等を同時かつ並行的に実施している。また、運転操作のわずかなミスや車両欠陥等が重大な事故を引き起こすことが多いため、綿密かつ多角的な捜査を推進している。

表6-17 高速自動車国道における交通違反取締り状況(昭和52、53年)

9 沖縄県の交通方法変更

(1) 交通方法変更の意義
 沖縄県の交通方法が、昭和53年7月30日を期して、従来の「車は右、人は左」から本土と同一の「車は左、人は右」に変更された。この沖縄県における交通方法変更は、国際的には、我が国が加盟している、一国内一通行方法の原則を規定した道路交通に関する条約(昭和39年条約第17号)を遵守する立場から、また、国内的には、沖縄と本土との人的交流が今後ますます増大していくなかで、交通方法の違いによって生ずる交通事故の危険を解消する立場から必要とされていたものである。今回の交通方法変更により、国内の交通方法が統一されることとなったが、これにより沖縄と本土との一体化は一層促進されるものと期待されている。
(2) 交通方法変更対策実施状況
 交通方法変更には、沖縄県交通方法変更対策本部で決定された「沖縄県交通方法変更対策要綱」に基づき、関係省庁が総合的に取り組んだが、警察としては、沖縄県警察を中心として次のとおり変更対策事業を行った。
ア 交通安全教育、広報
 交通方法変更に係る交通安全教育、広報については、実施時期を変更前(52.11.1~53.7.15)、変更直前(53.7.16~53.7.29)、変更後(53.7.30~53.9.16)に区分し、それぞれ交通方法変更の仕組み、特別交通規制、変更後における歩行者、運転者、自転車利用者の安全確保の留意点の3点を中心に実施した。実施方法としては、新聞、テレビ、ラジオ、有線放送等の利用及びポスター、パンフレット等印刷物の配布、その他警察官や約1,000人の交通安全員等による街頭指導、巡回指導を通じてその徹底を図った。

イ 交通安全施設の整備
 信号機、道路標識、道路標示については、交通方法変更に対応し得るよう、あらかじめ左側通行用に整備し、変更当日いっせいに切り替えた。また、変更後における通行方法の誤りを防止するために、注意喚起標識や注意喚起標示を設置した。交通方法変更により整備を図った交通安全施設等は、信号機501基、道路標識3万154本、道路標示604キロメートル、注意喚起標識7,431本、注意喚起標示1万1,805本に及んでいる。
ウ 特別交通規制
 交通方法変更実施を円滑に行うため、変更前日の7月29日午後10時から変更当日の7月30日午前6時までの間は、緊急自動車、バス、タクシー等指定車両を除く全車両について通行禁止及び駐車禁止とし、この間に信号機、標識のカバーの掛け替え、標識のテープ、カバーのはぎ取りを行い、午前6時に特別交通規制を解除し、新しい「車は左、人は右」の交通方法に移行した。特別交通規制については、県民の協力を得るため、事前に新聞、テレビ等で周知を図ったほか、当日には、更にラジオ放送、サイレン吹鳴等によりその徹底を図った。
エ 街頭指導活動
 交通方法変更に伴う県民の不安や戸惑いを解消するため、警察官等による街頭指導には大きな役割が期待されたが、変更前日の7月29日から9月5日までの間を重点に、31都府県から応援に駆けつけた約2,800名の警察官、82台のパトカー、100台の白バイ、2機のヘリコプター、さらには、県内の約4,000人の交通指導員が、交通方法の不慣れから生じやすい通行区分、右左折方法等の誤りを街頭で指導した。
オ 関係施設の整備
 交通方法の変更に伴い、運転免許試験場の諸施設、自動車教習所の諸施設、教習用車両等についても適切な変更措置を実施した。
(3) 交通方法変更後の状況
 変更後から昭和53年末までの交通事故の発生状況をみると、発生件数565件、死者29人、負傷者157人である。これは、前年の同期と比較すると発生件数で29.4%減、死者数で29.3%減、負傷者数で31.3%減となっており、また、38日間連続死亡事故ゼロの記録を14年ぶりに記録するなど、一般に懸念された事故の増加は全くみられず、かえって県内の交通安全水準は著しく向上することとなった。
 交通の流れについては、変更直後の約1週間、不慣れや気象条件の悪さなどから一部で渋滞現象がみられたが、信号の時間調整、右左折誘導標示、バス専用レーンの新設、交通情報の提供等の対策を講じたことにより、その後は、円滑な交通流が確保されることとなった。


目次