(1) 自動車交通の現況
ア 自動車輸送の増大
自動車による輸送は、年々増加の傾向にあり、昭和51年度においては、旅客輸送(人キロ)の51.2%、貨物輸送(トンキロ)の35.5%を自動車が担っている。旅客輸送については、図7-1のとおりで、過去10年間に鉄道の輸
図7-1 輸送機関別旅客輸送の推移(昭和42~51年度)
図7-2 輸送機関別貨物輸送の推移(昭和42~51年度)
送量は1.2倍増加したにすぎないのに対し、自動車の輸送量は2.2倍と急激に増大してきた。貨物輸送についても、図7-2のとおり同じ期間に鉄道の輸送量はやや減少傾向であるのに対し、自動車の輸送量は1.6倍と大幅に増大してきた。
しかし、モータリゼーションの伸展は、反面、交通事故、交通公害等種々の社会問題を引き起こすこととなった。52年の交通事故死者数は7年連続減少して8,945人となり、過去最高であった45年の交通事故死者数を55年までに半減させるという「第二次交通安全基本計画」の目標の達成は目前にあるものの、現在もなお年間9,000人近い人々が死亡し、交通事故負傷者も約60万人に上っており、交通事故の防止は依然として国民的課題である。更に、交通渋滞、自動車排出ガスによる大気汚染、自動車交通に起因する騒音、振動等による沿道住民の生活環境の悪化も解消されてはおらず、大きな課題として残されている。
イ 2.3人に1人が免許保有者
我が国の自動車保有台数は、図7-3のとおり年々増加を続けており、昭和52年末には約3,200万台に達した。このうち乗用自動車は1,700万台を超えており、2.1世帯に1台の割合で保有していることになる。このような自動車保有台数の増加に伴い、運転免許保有者数も急増し続け、52年末には3,700万人を超えた。この結果、免許適齢人口(16歳以上)に占める免許保有者の割合は、男性が1.5人に1人、女性が4.7人に1人、全体では2.3人に1人となった。
我が国は世界第2位の自動車保有国であるが、商業車の比率が高く、乗用車は人口約6,000万人の西ドイツとほぼ同じ台数であり、人口、世帯当たりの普及率は欧米各国に比べ著しく低く、乗用車の台数は今後とも増加することが予想され、それに伴い、運転免許の保有者数もなお一層多くなっていくものと思われる。
ウ 車利用に関する要求の多様化
国民皆免許時代といわれるように、自動車運転は一部特定の人たちだけの
図7-3 自動車台数、運転免許保有者数等の推移(昭和43~52年)
ものではなく、生活に一層密着したものとなり、くるま社会は様々な運転者や歩行者から成る国民生活の縮図となってきた。
自動車が国民生活とより密着したものとなるに従い、道路交通をめぐる国民の意識、要求は、それぞれの立場を反映し、多様化してきている。交通事故の防止はもとより、歩行者や自転車利用者は単に安全にとどまらず、便利で快適に利用できる道路を、自動車等の利用者は安全でかつ走りやすい交通環境をそれぞれ強く求めてきており、また、運転者に良識とより良い運転マナーを求める声も強まってきている。更に、自動車交通による騒音、振動等による生活環境の侵害に対して、沿道住民は快適な生活環境の維持を要求している。
このような交通情勢や国民の意識、要求の変化の中にあって、交通警察は、その活動をより多様化することを求められており、国民の共感を得つつ、これら諸要求の調整の上に、事態に的確に対応し、きめ細かな施策を強力に推進していかなければならない。
(2) 最近の交通事故の特徴
ア 交通事故の一般的特徴
(ア)概況
昭和52年に発生した交通事故は、46万649件で、これによる死者数は8,945人、負傷者数は、59万3,211人である。
これを前年と比べると、発生件数は1万392件(2.2%)、死者数は789人(8.1%)、負傷者数は2万746人(3.4%)とそれぞれ減少し、発生件数については、8年連続減少、死者数と負傷者数については、7年連続の減少となった。特に、死者数については、19年ぶりに9,000人を割った。
交通事故はこのように全体的には減少傾向を示しているものの、依然として都道府県間、都市間における死亡事故の事故率に較差が認められ、また、子供と老人の減少率が低下しているなど問題が残されている。
(イ) 危ないスピード違反、酒酔い運転
昭和52年の第一当事者(注1)の違反別死亡事故件数を、交通事故が過去の最高であった45年と対比してみると、表7-1のとおりで、総件数は7,314件(46.3%)減少しているにもかかわらず、最高速度違反が175件(12.7%)と逆に増加している。しかも、全違反中に占める構成率をみると、最高速度違反は2.1倍、酒酔い運転は1.3倍となっている。
また、致死率(注2)をみると、最高速度違反が平均の6.9倍、過労運転が5.9倍、酒酔い運転が3.5倍とそれぞれ高率である。
(注1) 第一当事者とは、事故の当事者のうち、過失の最も重い者又は過失が同程度である場合にあっては人身の損傷程度が最も軽い者をいう。
(注2) 致死率とは、交通事故発生件数に占める死亡事故件数の割合をいう。本節では、
とする。
(ウ) 事故の多発時期、多発時間
a 土曜日、日曜日に多発
曜日別の一日平均死者数についてみると、平均が24.5人であるのに対し、
表7-1 第一当事者の違反別死亡事故件数(昭和45、52年)
土曜日が28.3人、日曜日(祝祭日を含む。)が26.3人とレジャー交通が多くなる土曜日、日曜日に事故が多発している。これは気の緩み、地理不案内による不慣れな運転、長距離運転による無理なスケジュール等交通事故発生の原因となる事情が伴うことによるものと思われる。
b 夕方のラッシュ時に多発
時間別の交通事故発生状況は、図7-4のとおりで、全事故、死亡事故ともほぼ同様の傾向を示しており、午後の4時から6時の間が最も多くなっている。また、死亡事故については、下校、退社等のラッシュ時に当たる午後の4時から8時までの時間帯が多く、一日の約4分の1の死亡事故が発生している。
図7-4 時間別交通事故発生状況(昭和52年)
(エ) 依然として多い歩行者の横断事故
昭和52年の死亡事故を類型別にみる
表7-2 類型別死亡事故件数(昭和52年)
と、表7-2のとおりで、歩行者の道路横断中の死亡事故が全体の5分の1強を占めている。
なお、車両単独事故については、スピードの出し過ぎ等無謀運転によるものが多いことから致死率が高い。
イ 高い夜間の死亡事故率
最近5年間の交通事故の昼夜間別発生状況をみると、夜間の交通事故の発生件数が全体の27%前後であるのに対し、夜間の死亡事故の発生件数は約50%前後と高く、致死率は夜間が昼間の約3倍と極めて高い。また、車両単独による死亡事故は昼間の1.9倍と多発している。
更に、死亡事故の違反別では、酒酔い運転と最高速度違反は、夜間が昼間を上回り、特に、最高速度違反は、昼間の1.8倍と高く、両者で夜間死亡事故全体の4割強を占めている。
ウ 子供と老人の交通事故
(ア) 子供と老人の自転車事故
昭和45年以降の自転車利用者の死者数の推移は、図7-5のとおりで、おおむね減少傾向にあるが、子供の死者数は、ほぼ横ばいで、あまり減少していない。自転車利用者の死者数のうち、子供と老人を合わせた比率は、ここ数年50%台で推移してきたが、52年は61.3%と最近5年間で最高となった。
図7-5 自転車利用者の死者数の推移(昭和45~52年)
また、自転車利用者の死者数を人口比(注)でみると、全体では1.0人、子供は0.9人となっているのに対し、老人は3.0人と死亡率が極めて高い。
(注) 本章中、人口比とは、同年齢層の人口10万人当たりの数である。
(イ) 子供の交通事故
a 高い割合を占める子供の交通事故
図7-6 子供の交通事故の推移(昭和45~52年)
昭和45年以降の子供の交通事故の推移は、図7-6のとおりで、45年を100とした指数でみると、52年は死者59.1、負傷者83.2といずれも減少している。
しかし、全死者数に対する子供の死者数の構成比は、図7-7のとおりで、45年が11.9%であったのに対し、52年には13.2%とやや高くなっている。また、学齢層別にみると、幼児の構成比が最も高く、母親等の保護者が車道や危険な場所での遊びをさせないよう常日ごろから幼児に習慣付ける必要がある。
b 危ない夕方の時間帯
昭和52年の子供の交通事故の時間帯別発生状況は、図7-8のとおりで、多発時間帯は午後の4時から6時までの間であり、この時間帯で子供の死者数の25.6%、負傷者数の28.2%を占めている。
また、学齢層別の死者数では、幼児が午後の2時から4時、幼稚園児、小学生が午後の4時から6時までの時間帯にそれぞれ最も多い。
図7-7 交通事故死者数に占める子供の構成比(昭和45~52年)
図7-8 子供の時間帯別交通事故発生状況(昭和52年)
なお、子供の交通事故を曜日別にみると、土曜日が最も多く、日曜日、月曜日の順となっている。
c 危ない道路での遊び
歩行中の子供の死者、重傷者8,163人について通行目的別にみると、「遊び」が51.6%で最も高く、次いで「買い物、習いごと等」が36.2%、「通園、通学」が11.9%となっている。
また、自宅からの距離別にみると、自宅から50メートル未満のところが、
表7-3 歩行中の子供(第一当事者)の違反別、学齢層別交通事故発生件数(昭和52年)
3分の1強を占めており、特に、幼児、幼稚園児が自宅付近で多く事故に遭っている。
更に、交通事故の発生状況を違反別にみると、表7-3のとおりで、飛び出しに起因するものが全体の63.9%、車の直前直後の横断に起因するものが26.0%であり、この両者で約9割を占めている。学齢層別の構成比でみると、飛び出しが各学齢層とも最も高く、更に学齢層が低くなるにつれてその比率が高くなっているのに対し、信号無視、車の直前直後の横断では、学齢層が高くなるにしたがって、その比率は高くなっていることが注目される。
d 親の同伴中にも多い未就学児の事故
未就学児の死亡、重傷事故を同伴者別にみると、図7-9のとおりで、未就学児が単独でいて死亡、重傷事故に遭った者が、全体の52.9%を占めて最も多いが、母又は父が同伴中に全体の22.6%もの未就学児が死亡したり、重傷を負ったりしていることは注目に値する。
(ウ) 高い老人の事故率
昭和45年以降の老人の死亡事故の推移は、図7-10のとおりで、全事故の
図7-9 未就学児の死亡、重傷事故の同伴者別状況(昭和52年)
図7-10 人口比でみた老人の交通事故死者の推移(昭和45~52年)
表7-4 老人の年齢層別、男女別、交通事故死者数(昭和52年)
場合と同様に45年をピークに下降線をたどっているが、人口比でみた死者数は、全体が7.9人であるのに比べ、老人はその約2倍に当たる14.8人と極めて高い。
52年の老人の交通事故死者数を年齢層別にみると、表7-4のとおりで、人口比でみた死者数は、高年齢になるほど高くなっている。
(1) 交通環境改善の現状
都市交通問題を根本的に解決するためには、都市構造の改善、大量輸送機関の整備、充実等根源にさかのぼった対策が必要であることはいうまでもない。しかし、これらの対策は、事柄の性質上、早急な実現を期待できないものである。このような情勢から、警察の行う諸々の交通対策に大きな期待が寄せられている。そこで、警察は、道路利用の合理的配分、生活空間の確保等交通環境の改善を図るために積極的な交通管理を実施しているところである。
ア 都市総合交通規制の推進
都市における交通事故、交通渋滞、交通公害等の交通障害は、相互に複雑に関連して一体的現象をなしている。したがって、その対策も個別的なものでは十分でなく、交通規制についても各種の手段を組み合わせ、一体のものとして都市全体をカバーし、総合的、体系的に行う必要がある。都市総合交通規制は、このような観点に立脚し、地域の特性に応じた交通流の管理を行うことにより、交通の流れを安全、円滑で、交通公害の少ないものとし、交通環境の保全、改善を図るものである。この規制は、表7-5のとおり、昭和49年から人口10万人以上の都市を対象にしてきたが、52年からは対象を人口10万人未満の都市にも拡大して実施している。
〔事例〕 長野県岡谷市の都市総合交通規制
岡谷市は、人口6万人余りの都市であるが、道路網の整備、都市再開発等は立ち後れており、昔ながらの屈曲の多い狭あいな道路が複雑に入り組んだ地域である。この市街地を貫通している国道20号線、県道下諏訪辰野線、及び岡谷茅野線等では交通渋滞が著しいため、生活道路への進入車両も多く、各種の交通障害が発生していた。そこで、市の主要部を生活ゾーンとしてとらえた都市総合交通規制を実施し、通過交通を幹
表7-5 人口10万人以上の168都市の主要交通規制実施状況(昭和48、52年)
線道路に導き、生活道路での入り組んだ交通を整理し、安全静穏な交通環境を確保するため、歩行者用道路の設置、一方通行規制、速度規制、駐車禁止規制等を組み合わせて行った。規制の結果、国道20号線等の幹線、準幹線道路の交通量は増加したが、生活道路の交通量は減少し、歩行者等にとっては危険が少なくなった。また、規制実施後における交通事故件数も減少傾向をみせている。
イ 交通安全施設の整備、拡充
第2次交通安全施設等整備事業五箇年計画の第2年度に当たる昭和52年度における事業予算額は、表7-6のとおり特定事業約251億円、地方単独事業約284億円、総額約535億円で、その主な事業内容は次のとおりである。
表7-6 交通安全施設等整備事業実施状況(昭和52年度)
(ア) 交通管制センター
交通管制センターは、都市交通の流れを安全かつ効率的に誘導し、既存道路を最も有効に利用するため、コンピューターによって信号機や道路標識を広域的かつ有機的に操作する交通管制システムの中枢となるものである。
52年度には、秋田、成田、豊橋、大津及び長崎の5都市に新設され、同年度末現在でその設置都市は39都市となった。
(イ) 信号機
交通上の危険性の高い交差点を中心に7,109基の信号機を新設し、交差点における交通事故の防止と円滑化を図った。また、既設の信号機についても系統化、感応化、管制センターによる広域制御化等機能の向上を図り、交通渋滞等から生ずる大気汚染、騒音等の減少に努めた。
(ウ) 道路標識、道路標示
道路標識については約75万本を設置した。特に、自動車の走行速度が高
図7-11 大型可変式道路標識の運用事例
く、大型車両の交通量も多い主要幹線道路を中心に、運転者から見やすいオーバーヘッド式、オーバーハング式の大型道路標識の設置に力を注ぐとともに、夜間における交通事故の比重が高くなっているので、灯火式道路標識を設置することにより、視認性の向上を図った。また、大型車両の通行区分指定等時間を限定して行う複雑な規制等については、大型可変式道路標識を設置して規制内容の明確化に努めた。なお、大型可変式道路標識については、図7-11のとおり交通渋滞等の交通情報の提供にも使用している。
道路標示については、横断歩道、進行方向別通行区分等の各種図示標示を設置し、歩行者の安全の確保と車両通行の円滑に努めたほか、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制を実施している道路について、夜間における視線誘導効果が期待できる車線分離鋲(チャッターバー)を設置し、正面衝突事故の防止等に努めた。
このほか、朝、夕のラッシュ時にみられるように、上、下線の交通量の著しい差によって偏った渋滞が発生している道路においては、道路容量の有効利用を図るため中央線変移システムを実施した。
ウ 交通環境改善のための指導取締り
交通の安全と快適な交通環境を確保するため、各種の交通規制と有機的に関連づけた交通指導取締りを推進している。
最近5年間におけるこの種の指導取締り状況は、図7-12のとおりで、取締り件数はいずれも年々増加している。
図7-12 交通環境保全関係違反取締り状況(昭和48~52年)
交通環境改善のための生活ゾーン対策等の各種規制は、交通情勢に対応して拡大や見直しが必要とされる。これら施策の定着化を図り実効を上げるため、交通実態と整合性のとれた交通指導取締りを一層推進する必要がある。
エ 交通総量削減計画の実施
交通事故、交通渋滞、交通公害等の道路交通に起因する障害を抑制するため、都市総合交通規制の一環として交通総量削減対策を行うこととし、東京、大阪等の10大都市において、昭和49年度の交通総量の約1割を削減することを目標に掲げ、都心部の駐車禁止、バス優先通行、生活ゾーン設定、自転車対策、タクシー空車走行抑制、物流合理化等の諸対策を推進し、マイカー通勤等の自主的抑制と輸送効率の高い大量輸送機関への振替を図った。
52年10月現在における各都市別の総量削減対策事業の実施状況は表7-7のとおりで、全体として、おおむね当初計画のとおりの事業を実現することができた。この事業量による交通量の換算削減量は、1日当たり約1,712万台キロと算定される。
(2) 交通環境改善の方向
今日の複雑な社会情勢の変化を反映して、交通対策に関する社会の要望
表7-7 10大都市における交通総量削減対策実施状況
は、交通事故防止だけでなく、生活環境の保全、都市交通機能の回復等と多様化している。警察は、これらの多様な要望の調和を図りつつ、歩行者等が安心して快適に利用でき、運転者が安全で走りやすく、地域住民が静穏な暮らしができるような交通環境を確保すべく努力していくこととしている。
○ 「歩行者、自転車利用者等には安全を」
歩行者が事故に遭わないというだけでなく、安心して快適に歩けるスペースを確保するという観点から、路側帯、歩行者用道路の設置を推進するとともに、歩行者の実態に対応した横断歩道の設置を図っていく。
自転車については、自転車走行の安全と秩序付けを図る見地から、交差点における自転車通行方法の指導標示設置等所要の安全対策を講じていく。
○ 「住民には静穏を」
交通に起因する騒音、振動等の防止対策については、道路、沿道等の状況
や交通実態を十分に勘案して、対策を実施した場合に派生する影響にも配意しながら実施していく。学校周辺、住宅街、商店街等の地域では、人々が静穏な暮らしができるよう生活ゾーン規制を行い、通過交通が進入しないよう配意する。更に、通過交通の用に供すべき道路については、交通効率の向上を図るため、交通流の単純化、導流化や信号機の系統化等を図っていく。
○ 「運転者には走りやすさを」
運転者にとって安全で運転しやすい交通環境をつくるため、道路標識については大型化、高度化により視認性の向上を図り、道路標示についても積極的に整備し、交通流の分離、整序等に役立てていく。信号機については、その設置により交通の円滑化を阻害するおそれのないように、系統化、感応化等の高度化を図っていく。
また、道路交通情報体制の強化を図り、情報を運転者に積極的に提供することにより、交通の適切な誘導を図っていく。
(1) 交通指導取締りの概況
昭和52年は、交通事故に直結する危険性の高い違反行為や著しく交通秩序を乱す行為等を重点に指導取締りを強化し、交通違反の検挙件数は1,200万件余りとこれまでの最高を記録した。最近5年間の交通違反の検挙状況は図7-13のとおりで、交通事故原因の上位を占める最高速度違反、酒酔い・酒気帯び運転違反の検挙件数はいずれも年々増加しており、特に、52年において、この傾向が顕著に表れている。また、少年の検挙件数も増加の傾向にあり、52年は、約118万件で全体の9.5%となった。
図7-13 交通違反検挙件数の推移(昭和48~52年)
交通指導取締り活動は、幅広い国民の支持と共感に支えられることによって、その実効が期せられるものである。このため、今後更に、事故、違反実態等を多角的に分析し、これに対応した街頭指導取締りを推進するとともに、過積載等のいわゆる構造的違反については、背後責任の追及を徹底するなど適切な取締り管理を推進し、その効果の拡大を図る必要がある。
(2) 交通秩序を乱す危険な違反
ア 飲酒運転
最近5年間における飲酒運転による死亡事故の状況は、表7-8のとおり
表7-8 飲酒運転による死亡事故状況(昭和48~52年)
で、件数においては年々減少しているものの、車両等の運転者が第一当事者となった事故総数に占める割合はむしろ高くなっている。飲酒運転取締りは、死亡事故の抑止に貢献度が極めて高い。例えば表7-9は沖縄県における昭和52年の交通取締りと死亡事故についてそれぞれ前年と対比したものであるが、52年において特に飲酒運転取締りを強化した結果(取締り件数対前年比63.8%増)、飲酒運転による死亡者が前年の29人から9人へ大幅に減少した。
飲酒運転を防止するためには、取締りや運転免許の行政処分を更に強化するとともに、広報活動を徹底し、社会全体に飲酒運転追放の気運を定着させ
表7-9 飲酒運転の取締り、事故死者の状況(沖縄県)(昭和51、52年)
る必要がある。
イ スピード違反
速度違反は、交通事故に直結する場合が極めて多い。昭和52年においても、車両等の運転者が第一当事者となった死亡事故のうち、速度違反によるものは全体の21.9%(1,556件)で首位を占めている。
また、速度違反は、正常な交通の流れを乱すほか、騒音、振動等交通公害の発生要因ともなっている。
最近5年間における速度違反の取締り状況は図7-13のとおりで、総件数の伸びよりもかなり高い率で、年々増加している。速度違反取締りは、特に、交通規制、交通量、沿道環境等を考慮して取締り効果の上がるよう努める必要がある。このため、実態分析を徹底するほか、道路の構造上又は夜間等の場合で警察官の配置上支障がある場合等については、速度違反自動監視取締り装置を導入するなど取締り手法の改善に努めている。
(3) 背後責任の追及
ア 雇用主等の責任の徹底追及
交通違反の中でも、特に、雇用運転者の過積載運転、過労運転、改造車両運転及び無免許運転等にあっては雇用主、荷主、車両整備業者らが違反行為者の背後にあって、その違反行為を行うように仕向けるなど影響力を及ぼしている場合が少なくない。この種の背後責任については、徹底した追及捜査を行い、違反のメカニズムを解明し、運転者を取り巻く環境を改善させ違反の防止を図ることが取締り効果を拡大する上で極めて重要である。取り分け過積載については、いわゆる企業ぐるみの違法事犯の潜在が予想されることから、昭和52年においては、特に影響の大きい大型貨物自動車を対象に「過積載全国いっせい集中取締り」の実施(6月)、「過積載及び背後責任追及強化月間」の設置(11月)等により取締りを強化した。
〔事例1〕 大手運送会社の出張所の所長(49)が、系列下の下請運送会社の赤字経営を過積載運行により解消しようと企て、下請運送会社社長(29)と共謀し、運転者12人に対し、反則金を会社で負担することを条
件に約1年間にわたり大型トラックに制限の2倍以上の過積載を行わせていた(愛知)。
〔事例2〕 関西以西の鋳物製造工場に原料用の砂を販売している荷主である大手の山砂加工業者(45)が利潤を上げるため、出入りの運送業者らに過積載を行うよう仕向け、10台の大型トラックが約1箇月間にわたって過積載を行っていた(岡山)。
52年11月実施した特別取締りにおける大型貨物自動車の過積載に係る背後責任の追及状況は表7-10のとおりで、大型貨物自動車の過積載にあっては下命、容認違反等背後責任事犯の多いことを表わしている。
表7-10 大型貨物自動車の過積載に係る背後責任追及件数(昭和52年11月取締り強化月間)
イ 関係行政機関等との連携の強化
交通事故の防止、交通秩序の維持は、警察の活動のみでは達成できるものではなく、企業それぞれの自主的な努力、更には、それぞれの分野で権限を持つ行政機関の各種施策により大きな成果を得ることができるものである。
昭和52年において道路交通法等に基づき関係行政機関等へ通報(知)を行った件数は8万3,894件である。このほか、無免許営業の「白トラ」、「白バス」事案等の道路運送法違反、車検に関連する不法事犯等の道路運送車両法違反等については検挙の都度関係行政機関等へ所要事項の連絡を行い、指導、処分等が行われているが、今後とも関係行政機関等における適切な措置が望まれる。
〔事例〕 タクシー運転者の無免許運転を検挙し捜査したところ、タクシー会社の運行管理者の無免許運転下命が発覚したので検挙するとともに陸運局に通報した。陸運局においては、この事案に関し使用車両の運行停止の処分が行われた(山形)。
(4) 交通関係法令違反への積極的な取組
交通の安全の確保、交通秩序の維持、更には道路交通に起因する各種の不安感の除去等は、道路交通法の運用のみによって果たされるものではない。
道路交通の場には危険性のある車検切れ車両、保険切れ車両等が少なからず運行されており、これらを規制する道路運送車両法、自動車損害賠償保障法等の交通関係法令を積極的に適用してこそ、その目的が十分に達せられるものである。
昭和52年におけるこの種の交通関係法令違反の検挙件数は表7-11のとおり自動車の保管場所の確保等に関する法律違反が93.3%と最も多いが、道路運送車両法、自賠法違反もかなりの数であり、注目される。
表7-11 交通関係法令(道路交通法を除く)違反検挙状況(昭和52年)
また、暴走族や一部職業運転者らの間で、麻薬、覚せい剤、シンナー等を常用して自動車を運転する傾向がみられ、道路交通の場における危険、不安感を一層増大させている。このため、これら違反行為の取締りを一段と強化するほか、この種危険運転者を道路交通の場から排除するため、行政処分の強化等の措置が必要である。
(5) 交通捜査活動の推進
昭和52年の交通事故(人身)事件は表7-12のとおりで、45万5,661件、
表7-12 交通事故事件の罪種別送致状況(昭和48、52年)
49万4,774人を送致した。これはピークを示した44年の送致件数の約3分の2となった。しかし依然として年間50万件に近く、これが今後急激に減少することは考えられない。また、事故関係者の利害対立の深刻化、民事賠償の高額化等に伴い、捜査活動は困難なものとなってきている。更に、52年には、交通事故を隠れみのとした凶悪犯罪が目立ち、殺人、傷害を適用して送致したものが81件、86人あったのをはじめ、交通事故に絡む保険金詐欺事件で、前年に比べ、件数で3.1倍、人員で4.8倍(被害額では4.2倍の約5億5,000万円)の増加となった469件、344人を検挙するなどくるま社会の病理現象ともいうべき悪質かつ巧妙な犯罪が増加している。最近5年間のひき逃げ事件の発生検挙状況は、図7-14のとおりで、交通事故事件がおおむね減少傾向にあるのに対し、ひき逃げ事件はほぼ横ばい傾向で、52年は3万1,713件発生し、うち2万8,831件を検挙した。
図7-14 ひき逃げ事件の発生と検挙状況の推移(昭和48~52年)
52年のひき逃げ事件の検挙率は90.9%で、捜査手法の改善、国民の捜査協力等により高率を保っているが、自動車交通圏の拡大、幹線道路における交通量の増大、マイカーの普及等による捜査対象車両の増加と拡散、また、自動車の塗装、修理技術の発達等により、捜査を取り巻く環境は厳しさを加え、捜査活動は困難になりつつある。
(1) 国民皆免許時代の到来
ア 運転免許保有者の概況
我が国の運転免許保有者数は、図7-15のとおり昭和50年までは毎年約130万人から150万人ずつ増加してきたが、51年には約166万人、52年には約187万人と急増し、52年末現在の運転免許保有者数は3,702万2,922人となった。
また、最近は女性の免許取得者の増加が目立ち、過去2年間における女性の増加率(25.4%)は男性の増加率(6.4%)の4倍にも及び、増加数においても女性(187万6,564人)が男性(166万3,844人)を上回っている。
その結果、52年末現在における16歳以上の免許適齢人口に占める運転免許保有者数の割合は、43.6%(2.3人に1人)となっている。特に、社会活動の中核となっている20歳以上60歳未満の年齢層の者については、約半数に当たる52.0%、約2人に1人(男性では約4人に3人、女性では約4人に1人)が運転免許を保有しており、「国民皆免許時代」を迎えつつあるということができる。
イ 運転者に対する講習
図7-15 運転免許保有者数の推移(昭和45~52年)
運転免許証の更新者に対し交通法令や安全運転の知識等について教育を行う更新時講習の受講者数は、運転免許保有者数の増加に伴い年々増加しており、昭和52年には約961万人がこの講習を受けた。
更新時講習の受講者は、大量であり、運転経歴等が千差万別であるので、できるだけ対象に応じた個別的な安全運転についての指導を行い、講習効果を高める必要があり、52年4月から「安全運転自己診断」(注)の手法を導入し、12月末までに更新時講習を受講した約725万人に対して実施した。
この「安全運転自己診断」について行ったアンケート調査の結果によると、約90%の人が「参考になった」、「思い当たることがある」等と回答しており、運転者の安全意識を高揚していく上でその成果が期待されるところである。
(注) 「安全運転自己診断」とは、「車間距離が詰まると追い越したくなる」、「前に車がいると邪魔になる」等30問の質問について「はい」、「いいえ」で答えるべ
ーパーテスト方式によるもので、これらの回答から、受講者自身、平素は気付いていないと思われる運転上の心理的個癖を抽出、指摘して自己の運転行動について認識させるとともに、その性格に応じた運転上のアドバイスを行うものである。
処分者講習は、運転免許の効力の停止又は運転免許の保留の処分を受けた者に対し、自動車等の運転に関する知識、技能等について行われるもので、講習を終了した者については改善効果に応じて処分期間が短縮されることになっている。52年における受講者数は155万9,562人であった。
更新時講習や処分者講習のほか、都道府県警察は各県の実情に応じて各種の安全運転に関する講習を行っている。最近、原付免許の取得者や原付自転車の保有台数が著しく増加していることなどから、原付事故の防止対策として、特に、原付免許の新規取得者を対象に技能講習を実施している。
ウ 指定自動車教習所の役割
昭和52年末現在の全国の指定自動車教習所数は、1,348箇所で、52年の指定自動車教習所の卒業者数は197万9,971人である。52年の運転免許試験の合格者の中で、指定自動車教習所卒業者の割合は80.6%を占めており、初心運転者教育の中に占める指定自動車教習所の役割は極めて大きい。
51年7月、自動車教習所業が中小企業近代化促進法に基づく指定業種として指定されたので、同年12月から52年4月までに実態調査を行い、この結果に基づき57年を目途とした自動車教習所業の中小企業近代化計画(5箇年計画)を策定中である。
また、高速道路網の発達に伴い、道路交通に占める高速道路の比重は年々高まってきていることから、52年11月、高速道路等における初心運転者による交通事故の防止を図るため、指定自動車教習所において正規の教習とは別に、免許取得者等を対象に任意の学科教習や技能教習を行うこととするよう指導した。
(2) 運転免許行政の方向
ア くるま社会と行政の方向
国民皆免許時代を迎え、運転免許行政は、国民の大多数を対象とすること
となり、それだけに今後各種の施策を推進していく上で、運転者の一層の理解と協力を得ることが肝要である。
このような観点から、今後の運転免許行政においては、悪質危険な運転者を的確に排除する一方で、多くの善良な運転者に焦点を合わせた施策を推進していくことが必要である。
また、従来の運転免許行政は、運転免許のみに着目して、各種の施策が行われてきたきらいがある。今後、更に効果的な対策を推進していくためには、個々の運転者と車との結び付きをはじめ運転者のニーズ等を考慮したきめ細かな運転免許行政を展開していく必要がある。
更に、交通事故の多くが運転者に起因するものであることから、その防止を図るためには、運転者は正しい交通ルールと運転技能を身に付けていることはもちろん、くるま社会にふさわしい適格性を備えていなければならない。このような観点から行政の上でもこれに対応した施策を推進していく必要がある。
イ 運転免許試験
昭和52年9月、運転免許試験の一部である技能試験の採点基準を全面的に改正した。これは、交通事故の多くが運転者の安全意識や遵法意識の欠如によるものであることにかんがみ、技能試験の採点基準を従来のやや運転操作重視の傾向にあったものから安全運転の能力、習慣性を重視したものに改める必要があったためである。
また、身体障害者の自動車等を運転したいという欲求は、今後も更に高まるものと思われる。そのため、免許事務を行う施設等においてこれらの人の利便を考慮するとともに、運転免許を与える対象と範囲についても交通安全上の見地から慎重に検討を行っている。
ウ 危険な運転者の排除と優良運転者の処遇
(ア) 危険な運転者の排除
昭和52年には、大阪で元暴力団員がライトバンを運転中、後続車が警音器を鳴らしたことに激こうし、その運転者をけん銃で殺害したのをはじめ各地
で暴力ドライバーによる殺傷事件が発生した。この種事案は、道路交通に障害を及ぼすだけでなく、善良な一般運転者にも不安を与えるなど極めて悪質な事案である。
暴力ドライバーに限らず、くるま社会の秩序を乱し、歩行者や一般住民に対してはもちろん他の運転者に対しても危険や迷惑を及ぼす暴走族、覚せい剤使用運転者等の危険な運転者を的確に排除し、善良な運転者による安全で快適なくるま社会をつくっていく必要がある。
自動車等の運転上危険性があると判断された運転者については、運転免許の取消し、停止等の処分を行い、また、運転免許試験に合格した場合であっても、その運転免許を拒否し、又は保留することとしており、52年におけるこれらの処分件数は、185万件(うち、運転免許の取消し件数は6万8,072件)に上っている。
(イ) 優良運転者の処遇
国民皆免許時代を迎えて世論を形成する国民の約半数が運転者となり、それらの人々の意見を交通行政の上に十分反映させるとともに、無事故、無違反の善良な運転者については社会的にも適正に評価される方策を推進する必要がある。
自動車安全運転センターでは、警察庁の運転者管理センターに保管されている免許関係記録に基づき、無事故、無違反証明書や運転記録証明書を交付する業務を行っているが、無事故、無違反の期間が一年以上の運転者に対しては、これらの証明書と併せて、安全運転者(Safe Driver)であることを表す「SDカード」を交付し、安全運転の励行と会社、事業所等における優良運転者賞揚資料として広く活用を呼び掛けている。
なお、一部の府県の運転免許試験場等において、ビデオ再生装置を利用して安全教育映画等を放映し、事務手続の待ち時間がある来訪者の視聴に供したり、うっかりして免許証の更新を忘れた人に対してその旨の通報をしたりしてサービスの改善に努めている。
(3) 安全運転管理対策
ア 安全運転管理者制度の現状
安全運転管理者制度は、安全運転についての企業の社会的責任を明らかにしたものであり、企業に対して、自動車の安全な運転に必要な業務を行う安全運転管理者を選任させるとともに、安全運転管理者を通じて事業所等における自動車の安全な運転を確保させるためのものである。道路交通法では、乗車定員が11人以上の自動車にあっては1台、その他の自動車にあっては5台以上の使用者(自動車運送事業者及び通運事業者を除く。)に対し、安全運転管理者を選任することが義務付けられており、昭和52年度末現在、全国で安全運転管理者は20万7,734人で、その管理下にある自動車運転者は約291万人、自動車台数は約233万台である。
イ 安全運転管理者に対する講習の実施
都道府県公安委員会は、安全運転管理者の資質を向上させ、事業所等における交通事故防止対策を強化するため、自動車及び道路の交通に関する知識、自動車の安全な運転に必要な知識、安全運転管理に必要な知識等を内容とした安全運転管理者講習を毎年1回実施している。
昭和52年度における安全運転管理者に対する講習は、延べ1,361回行われ、全受講対象者の96.3%に当たる19万3,022人の安全運転管理者が受講した。
ウ 安全運転管理者制度の効果
安全運転管理者は、安全運転管理規定の制定、自動車運行計画や運転日誌の作成、就業時における仕業点検、朝礼時における安全講話、その他運転者らに対する安全運転指導等を行っているが、経営者の安全管理意識が高く、専従の安全運転管理者や補助者等を配置して、マイカーによる交通事故防止対策等を含めた安全運転管理のための諸対策を積極的に推進している事業所等では、交通違反や交通事故が減少するなど大きな効果が認められる。例えば、福島県警察の調査によると、表7-13のとおりで、安全運転管理の徹底しているところとそうではないところでは交通違反や交通事故の発生率とそれに伴う損害額に大きな差が現れている。
表7-13 交通違反、交通事故の発生状況と損害額等(福島県)(昭和52年1月)
エ 安全運転管理者制度の充実
企業内における安全運転管理の徹底を期すため、安全運転管理者を選任していない事業所等の一掃月間や安全運転管理者講習の未受講事業所、事故多発事業所等に対する交通安全診断を実施するなど指導の強化に努めてきたが、なお、改善すべき多くの問題点が残されている。
昭和52年7月に、神奈川県警察が安全運転管理者制度の運用状況についてサンプル調査を行ったところによると、役職に就いていない一般従業員を安全運転管理者として選任している事業所が約12%あったのをはじめ、安全運
転管理規定の制定、運転日誌の備付け、運行計画の作成、仕業点検等基本的な事項が実施されていない事業所がかなりあることが明らかにされている。
このような傾向は、特に、企業規模の小さな事業所にみられるので、今後は、これらの中小の事業所等を中心として、雇用主等の安全管理意識の高揚と安全管理業務への積極的参加、安全運転管理者の企業内における地位の向上と権限付与の増大、職場単位の安全運転指導員その他自動車の使用台数に応じた補助者の配置、マイカークラブの結成や優良運転者表彰制度の確立等自主的な安全管理対策の推進について指導を強化していく必要がある。
(1) 交通安全運動
昭和52年の春と秋の全国交通安全運動は、歩行者と自転車利用者、特に、子供と老人の事故防止、シートベルト着用の推進、夜間における交通事故の防止を重点とし、幅広い国民運動として展開された。
運動期間中、警察では、学校周辺、住宅街、商店街等の生活ゾーンにおける交通安全対策をはじめ、飲酒運転追放を中心とした夜間における交通事故の防止、シートベルト着用の指導に力を注ぎ、また、関係機関、団体等と力を合わせ、自転車や自動二輪車等の安全な乗り方講習会、老人家庭の巡回指導、夜間における反射材の活用指導、交通安全フェア等各種の行事を積極的に実施した。
交通安全運動が今後一層その効果を発揮するためには、国民一人一人が事故防止を自らの問題としてとらえ、日常の身近な活動を通じて交通安全に対する意識を高めていく必要がある。
(2) 交通弱者に対する交通安全教育
交通事故で死亡した歩行者や自転車利用者の約3分の2は、子供と老人であり、子供、老人あるいは自転車利用者を対象とした交通安全教育を重点的
に推進している。
ア 子供と老人
幼児については、地域や幼稚園、保育所等を単位とした母親ぐるみの幼児交通安全クラブの結成を推進し、その活動の活発化に努めた。
小、中学生については、学校、町内会、交通安全協会等と協力して、交通少年団の結成とその育成に努め、特に、交通安全学習会等交通少年団の各種活動を積極的に推進し、自ら交通安全について学び、正しい交通ルールを実践するように指導した。
昭和52年9月末現在、全国で約1万5,000の幼児交通安全クラブが組織され、幼児約158万人、その保護者約148万人が加入している。また、全国に4,422の交通少年団が結成されており、小学生約73万人、中学生約7万人が加入している。
子供の交通事故を防止するには、遊び場の確保、交通安全施設の整備等による安全な交通環境の確保、子供の行動特性や子供の交通事故の特徴に応じた運転者や母親に対する交通安全教育、幼児交通安全クラブ、交通少年団等を中心とした子供に対する交通安全教育等の交通安全対策を推進する必要がある。
老人に対しては、交通事故の被害者となるおそれの強い者を対象に、その家庭に対する個別的な巡回指導を強化するとともに、老人クラブ、老人ホーム等に交通安全部会や交通安全指導員制度の設置を働き掛けるなど、老人の自主的かつ組織的な交通安全活動の促進に努めた。
52年9月末現在、交通安全部会は1万229団体、交通安全指導員制度は1万7,973団体に設置され、それぞれ約85万人、約137万人の老人がその指導を受けている。
イ 自転車利用者
昭和52年12月末の自転車保有台数は、約4,679万台に達し、自転車は幼児から老人まで幅広く利用されている。
自転車利用者に対しては、交通安全協会の自転車安全教育推進委員会、学
校等と協力して、特に、母親と幼児、小、中学生や老人を重点とした自転車安全教室、自転車の安全な乗り方コンテスト等の開催や街頭における個別指導を通じて、自転車の正しい安全な乗り方が常に実践できるような指導を強力に実施した。
自転車の保有台数及び自転車利用者の交通事故が多発している実情を踏まえ、更に、自転車安全教室を中心とした交通安全教育を強力に推進する必要がある。
(3) 夜間事故防止に関する知識の普及
昭和52年は、夜間事故の防止に積極的に取り組み、交通安全教育の面からも、特に、関係機関、団体等と協力して、飲酒運転追放のための啓もう指導や歩行者、自転車利用者、二輪運転者等に対して明るい衣服の着用や反射材等の活用その他夜間事故防止に関する知識の普及とその実践の促進に努めた。
52年における交通事故死者のうち、夜間事故死者の占める比率が50.1%と昼間を上回っている実情を踏まえ、今後も夜間における安全運転の励行、飲酒運転追放のための啓もう指導や歩行者、自転車利用者等に対する夜間事故
防止のための交通安全教育を更に強化していく必要がある。
(4) シートベルトの着用指導
シートベルト着用の推進については、昭和52年8月の「シートベルト着用推進運動」をはじめ、春秋の全国交通安全運動等において、各種キャンペーンを展開し、運転者や同乗者を中心に、安全運転管理者、雇用者、家族に対し、シートベルトの着用について強力に指導した。
シートベルトの着用率は、表7-14のとおり、高速道路及び一般道路とも年々上昇しているが、まだ十分とはいえず、また、諸外国における着用率と比べても極めて低調であるので、今後とも、運転者講習会等の機会を通じて、
表7-14 シートベルトの着用状況
我が国におけるシートベルトの着用状況(昭和49~52年)シートベルトの着用の効果や正しい着用方法について更に啓もう指導する必要がある。
(1) 概況
警察が、は握した暴走族のグループ数及びその人員等の最近3年間の状況をみると表7-15のとおりで、グループ数は減少傾向にあるものの総人員
表7-15 暴走族グループの構成状況(昭和50~52年)
は、グループに加入していない者が増加したこともあってほぼ横ばいの状態で推移している。
学職別構成は、図7-16のとおりで、学生・生徒24.5%、有職者等75.5%となっており、なかでも高校生が20.7%と最も多く、次いで工員、店員、会社員の順となっている。少年、成人別では少年が74.9%、成人が25.1%となっている。
図7-16 暴走族の学職別構成員状況(昭和52年)
また、使用車両は二輪車35.1%、四輪車64.9%となっており、昭和51年11月末調査による二輪車33.3%、四輪車66.7%に比べ二輪車の割合が高くなっている。なかでも、いわゆる小型二輪ブームを反映して二輪車のうち55cc以下の原付車は26.9%を占め、前年の14.8%を大きく上回っている。
最近3年間の暴走族のい集、走行状況は表7-16のとおりで、参加延べ人員、車両数とも年々著しく増加しており、その動きが依然として活発であることを物語っている。
表7-16 暴走族のい集状況(昭和50~52年)
表7-17 対立抗争事案の発生状況(昭和50~52年)
なお、最近3年間における暴走族の対立抗争事犯の発生状況は表7-17のとおりで、その関与人員は年々著しく増加しており、1件当たりの事件規模が大型化していることを示している。
(2) 特徴的傾向
ア 低年齢化の傾向
最近3年間における暴走族の年齢別構成の推移は、警視庁及び神奈川県警察の調査によれば図7-17のとおりで、昭和52年においては、少年の総数に占める割合は91.5%となった。なかでも17歳以下の者が全体の64%と過半数を占めるに至り、暴走族対策を少年問題としての観点から取り組む必要性が一段と高まっている。
イ 覚せい剤等の乱用事犯の増加
昭和51年までは、暴走族による覚せい剤、麻薬事犯はほとんどみられなか
ったが、52年夏頃から関東を中心に全国でシンナー、トルエンのほか、覚せい剤等を施用して暴走運転するケースがみられるようになり、暴走による危険と併せて覚せい剤等の薬理作用に起因する事故等の危険性が高まってきた。
52年には、暴走族9グループの構成員42人を覚せい剤、麻薬事犯で検挙した。
また、最近、暴走族構成員が覚せい剤等の入手をきっかけとして暴力団との結び付きを深めているなど危険な兆候がみられる。
図7-17 暴走族の年齢別構成(東京、神奈川)(昭和50~52年)
〔事例〕 暴走族「協友会」グループが、暴力団上州共和一家幹部らから覚せい剤を譲り受け、夜間、これを注射した上オートバイ等を乗り回していた事犯で暴力団員6人、暴走族10人を含む関連被疑者44人を検挙した(群馬)。
(3) 総合対策の推進
暴走族の暴走行為等に対しては、街頭における指導取締り、運転免許の行政処分のみでは実効が期せられないので、刑事、保安、交通各部門が密接な連携を取りつつ、車両の不法改造等暴走行為を側面的に助長した者の責任の追及、グループの解体、家庭、職場、学校等との連携の緊密化等暴走族事犯の発生の根源を突く対策を総合的に進めている。
ア 集団暴走行為に対する取締りの強化
昭和52年には集団暴走行為に対する警戒取締りを延べ5,265回にわたり、延べ63万2,000人の警察官を動員して行った。暴走族事案の法令別検挙状況は表7-18のとおりで、その検挙件数は年々増加しており、悪質な暴走族事犯に対する取締りが強化されたことを示している。しかし、道路いっぱいの広がり行為、一般車両の巻き込み進行等集団暴走行為はますますエスカレートして、著しく交通に危険を及ぼし、迷惑を与えたりしていることから、今後は法的措置も含め更にきめ細く対処する必要がある。
表7-18 暴走族事案の法令別検挙状況(昭和50~52年)
イ 対立抗争事犯の未然防止
暴走族の動きの活発化に伴い、凶器を使用したグループ相互間の悪質な対立抗争事犯が増加したが、警察では厳しい検問取締りにより事前に凶器準備集合で検挙するなど、大規模対立抗争事犯の未然防止に努めた。
〔事例〕 東京都内に本拠を持つ暴走族「ルート20」が、対立中のグループを襲う目的で、3台の車両に模造銃1丁、ナイフ2丁、鉄棒30本等を隠し持ってい集しているところを、車両検問により、凶器準備集合で69人全員を検挙した。
ウ 運転免許の行政処分の強化
暴走族に対しては、再び危険な行為を繰り返させないために、運転免許の行政処分の早期執行を図るとともに、昭和50年6月から、その処分を強化したほか、同乗者、その他の関与者についても処分を行っている。52年における暴走族に対する運転免許の行政処分の状況は、表7-19のとおりで、その処分件数は前年に比べ著しく増加している。
また、52年夏以降、大規模な集団暴走行為が目立って多くなったことから、警察では、暴走行為指揮者等に対して、道路交通法の危険性帯有者の規定
表7-19 暴走族に対する運転免許の行政処分状況(昭和51、52年)
を適用し行政処分の強化を図った。
エ グループの解体と補導活動の強化
警察では、暴走族グループの解体、暴走族グループからの離脱等の指導を強化するなど、事後補導活動を推進した。
暴走族グループの解体状況は表7-20のとおりで、52年には、解体グループ総数は427に及んだ。しかし、解体グループが再度新たなグループを結成するケースも多いので、今後は、解体グループ員に対しては指導を継続するなど、この成果を定着させる必要がある。
表7-20 暴走族グループの解体状況(昭和52年)
高速道路(注)は、昭和38年7月、中央自動車道西宮線(名神高速道路)の供用開始以来、年々供用路線が延伸され、52年末現在では、1都1道2府28県、総延長2,610キロメートルに及ぶ自動車専用の主要幹線道路として広く国民に利用されている。
しかし、高速道路は、山岳地帯、豪雪、寒冷地域等、交通障害の多発する区間で供用路線が増加しているのをはじめ、交通事故の発生状況をみても、一般道路の減少傾向に反し、増加ないし横ばいの傾向を示しており、高速道
路における交通管理活動の強化がますます重要となってきている。
(注) 高速道路とは、高速自動車国道及び道路交通法施行令第42条第1項の自動車専用道路をいう。
(1) 交通事故の概況
昭和52年の高速道路における交通事故の発生件数は、物損事故を含めると1万9,778件で、うち高速自動車国道では1万1,337件となっており、高速自動車国道の延長が1,000キロメートルを超えた48年からの交通事故の発生状況は図7-18のとおりである。
図7-18 高速自動車国道における交通事故発生状況(昭和48~52年)
52年の死亡事故143件(死者164人)についてみると、時間別発生状況では、午前1時から午前5時をピークとした夜間事故が84件(58.7%)と多く、事故類型別では、ガードレール、中央分離帯等に衝突した車両単独事故が47件(32.9%)となっており、また、駐停車中の車両へ追突した事故が38件、走行中の車両に追突した事故が35件と、追突死亡事故が全死亡事故の過半数を占めている。
(2) 交通管理活動
ア 交通規制
高速道路における交通規制は、その道路構造、交通実態、関連する一般道路の交通状況等を勘案し、関係機関との緊密な連携の下に実施している。
〔事例〕 12月、供用延伸された中央自動車道西宮線と同富士吉田線では、季節、天候、曜日、時間帯による交通量の変化が著しいことから、分岐点である大月ジャンクションを中心に可変式速度規制標識を設置し、交通混雑時、異常気象時には毎時50~60キロメートル、その他の場合には毎時70キロメートルの交通実態に即応した速度規制を実施した(山梨)。
高速道路上での交通事故、積雪、凍結その他の交通障害発生時における通行車両の安全確保と交通障害の迅速な排除等のため、その交通障害の実態に応じた速度規制、車線規制、インターチェンジにおける車両の流入制限、道路閉鎖等臨時的交通規制を実施している。
しかし、高速道路において、都道府県公安委員会が設置、管理している交通規制・管制に必要な交通安全施設は、国の主要幹線道路としての機能を維持し、交通安全を確保するためには必ずしも十分とはいえず、今後、高速道
路交通警察隊の交通規制・管制体制の充実と交通安全施設の整備の促進を更に推進する必要がある。
イ 交通の指導取締り
高速道路は、限られたインターチェンジ以外からは出入りできず、かつ、中央分離帯で上下線が完全分離されているなど、道路構造が閉鎖的であることや走行の高速性に起因して、交通事故、車両故障あるいは積荷の落下、飛散等の交通障害が一たび発生すると連続交通事故を誘発するほか、広範囲にわたる交通混乱を来すことが多い。
そこで、高速道路のおおむね50キロメートルごとに、高速道路交通警察隊、分駐隊を設置し、パトカーによる機動警ら、交通監視を行うとともに、交通検問等によるいっせい取締り等交通実態に応じた指導取締りを行っている。
特に、交通事故多発区間、時間帯においては、機動警らを強化して交通流の整序を図るとともに、交通事故の原因となりやすい速度超過、積載重量違反、無免許、飲酒運転、駐停車違反等についての取締りを行っている。
また、シートベルトの着用率は、年々徐々に上昇しているものの、依然低調であるため、あらゆる機会をとらえて、着用の指導を強力に推進している。
昭和52年の交通違反取締り件数は、表7-21のとおりである。
高速道路における速度超過は、重大交通事故に直結するばかりでなく、他の通行車両へも多大の脅威を与えるなど、交通の流れ、秩序を著しく乱すものであり、その取締りに当たっては、従来からの取締り手法と併せて、高速道路にふさわしい速度違反自動監視取締り装置等の整備を図る必要があり、積載重量違反については、違反運転者やこれを下命、容認する背後関係者の責任追及を更に強力に推進しなければならない。また、駐停車違反についても、これが死亡事故の大きな原因となっていることから、指導取締りを一層強化するとともに、故障等による駐停車であっても、その旨の明確な表示を義務付けるなどの施策の推進が必要である。
ウ 交通事故事件の捜査
高速道路での交通事故事件の捜査及び処理は、大量の車両が高速走行をし
表7-21 高速自動車国道における交通違反取締り状況(昭和51、52年)
ている極めて危険な状況下で、連続事故の防止、負傷者等の救護、事故の事実関係の究明、交通の早期回復等を同時かつ並行的に実施している。
また、高速道路においては、運転操作のわずかなミスや車両欠陥等が重大な交通事故事件を引き起こすことが多く、綿密かつ多角的な捜査を推進する必要がある。
〔事例〕 8月末、中央自動車道西宮線上で普通乗用車の接触物損事故を受理した高速道路交通警察隊は、本件交通事故の原因究明のため当該車両のタイヤを見分したところ、欠陥タイヤであるとの疑いを抱き捜査に着手した。タイヤメーカーは、このこともあって、それまで秘匿していたタイヤの欠陥を公表するに至り、タイヤ業界、関係行政庁や一般利用者等に大きな反響を呼んだ(滋賀)。
(3) 高速道路管理体制の強化
昭和52年4月に設置された警察庁交通局高速道路管理官は、中央において高速道路の広域的、一体的、総合的交通管理を推進している。
更に、関係管区警察局の8室の高速道路管理官は、警察庁交通局高速道路管理官の指揮の下、関係府県警察への指示、連絡、調整等全国的、斉一的
な高速道路交通管理を実施しているところであるが、今後、逐年、供用区間が延伸されるに伴い、ますます管理体制を充実させる必要がある。
52年は、東北縦貫自動車道、北陸自動車道、九州縦貫自動車道の延伸に伴い、これらの関係警察に、新たに高速道路交通警察隊を設置するなど体制の整備を図り、現在、32都道府県警察に64隊、隊員約2,200人を配置している。