第6章 生活の安全の確保と環境の浄化

1 覚せい剤、麻薬事犯等の取締り

(1) 拡大する密輸入ルートと供給の増大
 昭和29年以降の覚せい剤事犯の検挙人員の状況は、図6-1のとおりで、48年の法改正による罰則の引上げや強力な取締りの実施等により、49年には若干減少したものの、50年から再び増加に転じ、52年には前年に比べて30%以上増加し、20年代後半の「ヒロポン」時代に続く戦後第2の覚せい剤乱用時代となりつつある。

図6-1 覚せい剤事犯検挙人員の状況(昭和29~52年)

 これは韓国、香港、台湾、タイ等からの大規模な密輸入により供給が増大するとともに、暴力団が最大の資金源として新たな需要を一般市民に求め、組織的密売を続けているためである。
 図6-2のとおり44年ごろまでは一部の地域に限られていた覚せい剤事犯は、48年からは全国の都道府県で検挙をみるに至り、51年以降は国内航空便による運搬、偽名口座への振込み送金による決済等の広域、迅速な密売形態が現れ、密売事犯の広域化が進んだ。

図6-2 覚せい剤汚染の拡大状況(昭和44、52年)

ア 密輸入ルートの拡大
 覚せい剤の供給源は昭和44年ごろまでは国内における密造が中心であった

図6-3 覚せい剤、同原料の押収状況(昭和48~52年)



が、45年ごろから韓国ルートの密輸入が増加し、更に、タイ、マカオ、台湾ルートが加わり、覚せい剤の供給源は海外に移った。52年にはヨーロッパ(西ドイツ)産の多量の覚せい剤が押収された。52年における覚せい剤の押収量は、図6-3のとおりで、前年に比べ倍増している。
 なお、密造事犯については、トルエンから覚せい剤を製造するなど、将来に問題を残す新たな事犯が現れた。
〔事例1〕 香港に本拠を置く中国人(38)を首領とする「香港チャイニーズコネクション」のグループが、51年6月から52年2月の間に前後41回にわたり、合計76.2キログラムのヨーロッパ産覚せい剤を、マカオ、香港から空路密輸入し、暴力団住吉連合、大日本平和会、元極東愛桜連合会、稲川会、松葉会等の組織を通じて、全国に密売していた事犯を解明、準主犯格の香港系中国人(27)ら中国人18人を含む関連被疑者237人を

図6-4 香港チャイニーズと日本暴力団が結合した密輸、密売事例

検挙し、覚せい剤13.7キログラム、けん銃5丁等を押収した。その状況は図6-4のとおりである(警視庁)。
〔事例2〕 在日韓国人(51)らのグループが、51年10月以来、3回にわたり、覚せい剤13キログラムを航空機又は関釜フェリーを利用して密輸入し、東北、関東、中部地区の山口組系暴力団、元極東愛桜連合会、住吉連合等の組織を通じて広域に密売していた事犯を解明、関連被疑者29人を検挙し、覚せい剤8.8キログラム、けん銃3丁等を押収した(岐阜)。
イ 海外密輸基地の壊滅捜査
 覚せい剤事犯は、密輸入ルートの拡大によりますます国際化の傾向を強めている。昭和52年に覚せい剤、麻薬事犯により我が国で検挙した外国人被疑者は868人(覚せい剤関係631人)に上った。また、密輸入等で指名手配中の被疑者のうち、20数人が国外に逃亡しているものとみられ、この中には現地人と共謀して密輸、密造を続けている者もある。
 このように国際協力の必要性が強まっているため、東南アジア、中近東、アメリカ等19箇国から第一線捜査官を招いて第16回国際麻薬セミナーを9月26日から10月20日まで開催したほか、捜査官をアジア近隣諸国に数次にわたって派遣し、情報の交換を行うとともに捜査協力の強化に努めた。関係各国においても日本に対する協力気運が高まり、香港において覚せい剤取締法令の罰則強化が行われたほか、日本向けの覚せい剤密造工場が韓国、台湾、香港等で多数摘発されるなどの成果を挙げた。今後とも国内での捜査にとどまることなく、海外の密輸、密造基地まで突き上げる捜査の徹底を図り、あわせて捜査官の海外派遣を活発化して、関係国との緊密な連携強化によりこれら基地の壊滅を図るとともに、逃亡日本人被疑者らの国外での跳りょうを許さないよう努力する必要がある。
(2) 市民生活に浸透する覚せい剤
ア タクシー運転者、少年、主婦らと覚せい剤
 覚せい剤の使用者は、暴力団関係者から社会の一般市民層にまで及び、その浸透が進んでいる。例えば、北海道で暴力団組員宅の捜索により発見した

表6-1 タクシー運転者等車両運転者の覚せい剤事犯検挙状況(昭和52年)

密売メモから漁民15人、行商人12人、大工、土工8人等計71人の一般人使用者が明らかになった事犯や、京都で暴力団員の情婦らがマンションの郵便受けを利用して一晩に主婦ら60~70人の客に密売し、100万円前後の売上げを得ていた事犯の検挙事例等によってもその浸透ぶりをうかがうことができる。なかでもタクシー運転者、少年、主婦らの事犯が目立ってきている。
 昭和52年におけるタクシー等車両運転者の覚せい剤事犯の検挙状況は、表6-1のとおりで、密売人から「深夜運転、長距離運転の疲労回復や眠気ざましによく効く」等と言葉巧みに誘われ、覚せい剤を乱用する運転者が増加しており、交通事故や家庭崩壊を招く例も多い。
〔事例〕 タクシー運転者(41)は覚せい剤を常用していたが、突然「追われている」というもう想に陥り、包丁を持ち出し手当たり次第に部屋のガラスをぶち破り、更に、自分のタクシーを運転して鉄柱に2度にわたり衝突させた(警視庁)。
 52年における少年の覚せい剤事犯の検挙状況は表6-2のとおり総検挙人員は816人で、前年に比べ362人増加している。特に、暴力団員とつながりのある暴走族グループにおいて覚せい剤乱用の広がりがみられる点が注目される。

表6-2 少年の覚せい剤事犯検挙状況(昭和52年)

 また、女子中、高校生の事犯についてみると、暴力団員らによりモーテル等で半ば強制的に注射され、その代金目的に売春をするなどの被害者的形態のものが多い。
 52年における主婦の覚せい剤事犯の検挙人員は、前年に比べて262人増加し、426人に上った。その使用動機は表6-3のとおりで、総検挙人員の46.5%が、好奇心、セックス、遊びのために用いており、自ら求めて乱用の深みに落ち込む事例が目立っていることを示している。
〔事例〕 団地に住む主婦(22)は、訪問販売員(34)に「お得意さんだけにサービスする栄養剤みたいなもんや」と言葉巧みに覚せい剤を注射され、更に犯されるに至った(滋賀)。

表6-3 主婦の覚せい剤使用動機(昭和52年)

イ 薬理作用による犯罪等の多発
 覚せい剤乱用の弊害は、中毒者自身の精神的、身体的破壊にとどまらず、その薬理作用による幻覚、もう想等から発作的に殺人、放火、傷害等の犯罪を犯したり、覚せい剤の売買等に絡む殺人、強盗、窃盗等の犯罪を引き起こしている。
 覚せい剤の薬理作用等による刑法犯の検挙状況は表6-4のとおりで、昭和52年は696件、429人を検挙したが、前年に比べ233件(50.3%)、46人(12.0%)増加した。
 また、52年において覚せい剤取締法違反被疑者のうち、覚せい剤事犯の前科を有する者は26.5%と再犯率が高く、警察等による取締りだけでなく、関係機関による覚せい剤中毒者に対する行政面での対策の必要性を示している。
〔事例〕 覚せい剤常用者である主婦(41)は覚せい剤を毎日3回ずつ注射

表6-4 覚せい剤の薬理作用等による刑法犯の検挙状況(昭和52年)

 していたが、薬が切れて精神錯乱を起こし、傍らで泣いていた長男(1年10月)をいきなりつかんで畳にたたきつけて殺害した(埼玉)。
ウ 広報活動の強化
 国民に覚せい剤の有害性を啓もうするため、昭和52年には「覚せい剤中毒者等の声」を総理府等関係機関と協力して発行し、要約版を含め約20万部を全国に配布し、大きな反響を呼んだ。更に、千葉県では覚せい剤中毒を扱った映画を製作して一般映画館で放映し、また、広島県警察本部等では「覚せい剤相談電話」を設置するなど、全国で広報活動を強化し国民の理解を深めている。
(3) 増加する大麻、ヘロイン事犯
 最近5年間における麻薬事犯検挙人員の状況は、図6-5のとおりで、ここ数年ほぼ横ばいの傾向にあったが、昭和52年には、大麻、ヘロイン事犯を中心に増加し、前年に比べ18.8%増の1,163人を検挙した。
 特に、大麻事犯は、40年代後半から増加傾向を示しており、52年には、検挙件数、人員、押収量とも戦後最高となった。
 また、最近5年間における麻薬別の押収状況は、表6-5のとおりで、52年には、特に、ヘロインの押収量が大幅に増加した。
ア 青少年層を中心に広がるマリファナパーティー

図6-5 麻薬事犯検挙人員の状況(昭和48~52年)

表6-5 麻薬の種類別にみた押収量の状況(昭和48~52年)

 大麻事犯の増加の結果、全麻薬事犯検挙人員の76.7%が大麻関係となっている。大麻は、青少年層を中心にいわゆるマリファナパーティーの形態で乱用されており、大麻事犯検挙人員の61%に当たる544人が25歳未満である。
 このように、大麻の乱用事犯が増加する背景としては、アメリカを中心とする国際的な麻薬乱用の風潮、青少年の海外旅行の増加等のため暴走族や芸能関係者らを中心に麻薬に対する好奇心が強まったこと及び外国人旅行者、外国人船員らが大量の大麻を日本に持ち込むケースが増えたことなどが挙げられる。
 大麻の密輸出国としては、タイを中心に香港、インド、ネパール、フィリピン、アメリカ等があり、貨物船、航空機、航空郵便等によって密輸入されている。
 警察としては、アメリカやヨーロッパにみられるようなヘロイン、大麻等の大流行の発生を事前に阻止するため、麻薬捜索犬の活用等によって今後とも取締りの徹底を図ることとしている。
〔事例〕 芸能プロダクション社長(30)らが、前後3回にわたり、タイから貨物便を利用して、乾燥大麻約71キログラムを横浜港から密輸入して、芸能関係者、青少年らに密売し、これがマリファナパーティー等で用いられていた一連の事犯を摘発し、関係被疑者100余人を検挙、乾燥大麻約60キログラム等を押収した(警視庁、長崎)。
イ ヘロイン再登場
 ヘロイン事犯は、昭和30年代後半に流行したが、罰則の強化、措置入院制度の整備等によって、40年代に入り急減した。しかし、52年に再び増加の兆しを見せ、前年に比べ検挙件数で2倍の130件、検挙人員で32.7%増の73人を検挙した。特に、暴力団員が検挙人員中47%を占めているのが注目される。また、押収量は、前年に比べ4.6倍の4キログラムに上った。
 このようにヘロイン事犯が再登場の兆しを見せた背景としては、日本における麻薬等の密売価格が世界で一番高いといわれているため、国際的なヘロイン密輸、密売組織が日本に注目し、運び屋等を使って持ち込むケースが増えはじめてきたこと、国内においても、暴力団関係者らが覚せい剤中毒者らに覚せい剤を密売するに際して、覚せい剤の興奮作用と逆の鎮静作用のあるヘロインを併用すると中毒にならないなどと言って、ヘロインを併せ密売するケースが出てきたことなどが挙げられる。
 なお、ヘロインの密輸出国としては、タイ、香港等が目立っている。
〔事例1〕 タイに本拠を置く国際的な麻薬密輸、密売組織が一方でヨーロッパ産覚せい剤10キログラムを暴力団稲川会系組員(37)らに流すとともに、日本人夫婦の運び屋を使って3キログラムのヘロインをタイから密輸入し、密売しようとした事犯を摘発し、関係被疑者26人を検挙、覚せい剤1.6キログラム、ヘロイン3キログラムを押収した(神奈川)。
〔事例2〕 名門学校法人K学園の理事長(44)らが、約5キログラムのヘロイン及び1,523錠の合成麻薬を香港から前後46回にわたって密輸入、施用していた事犯並びに麻薬購入資金として約6,500万円に上る学園の運営費を費消していた業務上横領事犯を摘発し、関係被疑者7人を検挙、ヘロイン88グラム、合成麻薬321錠を押収した(群馬)。
(4) 健康侵害事犯の取締りの強化
 国民の生命や健康に直接影響を与える健康侵害事犯の検挙件数は、逐年増加の傾向にあったが、昭和52年には初めて減少して4%減の1万8,508件となった。これは、強力な乱用防止対策により、シンナー等の有機溶剤の吸入禁止違反が減少したためである。
 健康侵害事犯を法令別にみると、毒物及び劇物取締法違反が大半を占め、次いで薬事法違反、食品衛生法違反、医師法違反の順となっている。
 健康侵害事犯の特徴的な傾向としては、健康食品ブームに便乗して健康食品を医薬品として販売した薬事法違反が急増するとともに、事犯が大型化、悪質化したこと、及び大規模な集団食中毒事件が発生したことが挙げられる。
 健康侵害事犯は、国民の関心が高く、かつ、国民生活の多様化に伴い新たな事犯の発生も予想されるので、今後とも、効果的な取締りを推進することとしている。
 また、52年は青酸コーラによる連続殺人事件等の凶悪事件や、シアン化ナトリウムの盗難事件及び放置事案が発生し社会的な問題となったため、警察は、厚生省に対しシアン化合物の管理の適正化について要望したほか、5月にはシアン化ナトリウム等の取扱場所3万4,506箇所に対して全国いっせいの防犯指導を実施し、この種事案の未然防止に努力している。
〔事例1〕 暴力団員、大学講師らが医薬品販売業者と共謀し、乳糖やでん粉で解毒剤グルタチオン錠、血圧降下剤リポクレイン錠を偽造して、全国の病院、医院に大量に販売して不法利益約3億3,000万円を得ていた(岐阜)。
〔事例2〕 製材会社が、樹皮や木くずを原料とした「ニセ薬」を製造し、これを「霊原素アトム」と称して、ガン、糖尿病等万病に効くと宣伝し、全国的に販売して不法利益約17億6,600万円を得ていた(警視庁)。

2 銃砲の取締りと対策

(1) けん銃取締りの強化
ア 銃砲使用犯罪の6割がけん銃使用犯罪
 銃砲使用犯罪の状況は図6-6のとおりで、昭和52年は352件に上り最近5年間の最高となっている。52年の銃砲使用犯罪の60.2%がけん銃使用犯罪であるが、このうち95.2%が暴力団員によるものである。

図6-6 銃砲使用犯罪の状況(昭和48~52年)

 最近、住宅街、繁華街あるいは喫茶店内等市民の身近な日常生活の場での暴力団による銃砲使用犯罪が特に目立ち、市民生活に恐怖と不安を与えている。
〔事例〕 10月、上京していた広島の暴力団共政会の組員は、中央区銀座の通りで、銀行員と肩が触れたことに因縁をつけ、隠し持っていたけん銃を銀行員の腹部目掛けて発砲し、重傷を負わせた(警視庁)。
イ 押収けん銃の6割が改造けん銃
 最近5年間におけるけん銃の押収状況は、図6-7のとおりで、昭和48年以降増加し続けていた押収数は52年に減少し、特に、改造けん銃は197丁(19.3%)減と大幅な減少をみせた。
 しかし、改造けん銃は依然として押収けん銃の約6割を占めており、主な改造例からその特徴的傾向をみると、改造に関する知識の普及、改造に必要な器材の性能の向上等により改造が特定の技術屋の犯行でなくなる一方、組織的、大規模な改造例も後を絶たないことが挙げられる。密輸入事犯の検挙

図6-7 けん銃の押収状況(昭和48~52年)

により押収した状況は図6-8のとおりで、前年に比べ大幅に減少している。しかし、最近、暴力団が外国船員を抱き込んで大量のけん銃を密輸入するという大掛かりな密輸入事犯もみられ、警察では、税関等の関係機関と情報交換を密にするなどして水際検挙に努めている。

図6-8 押収した真正けん銃と密輸入事犯(昭和48~52年)

ウ 金属製モデルガンの規制
 暴力団等によるけん銃使用犯罪が依然として多発していることから、警察では、昭和52年に銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)の一部改正を行い、改造容易な金属製モデルガン(模擬銃器(注))の販売目的の所持を禁止するとともに、けん銃関係事犯に対する罰則の強化を図った。
(注) 模擬銃器とは、銃刀法第22条の3に定めるとおり、[1]金属で作られ、[2]けん銃、小銃、機関銃又は猟銃に類似する形態を有し、[3]撃発装置に相当する装置を有するもので、[4]改造防止の措置を講じていない改造容易なものをいう。
(2) 猟銃に対する指導取締りの強化
ア 所在不明銃の取締り
 所持の許可をした猟銃及び空気銃については、所持者及び銃番号を警察庁のコンピューターに登録してその異動状況をは握しているが、所持者の管理の不徹底等によって盗難、粉失し、行方が分からない銃がある。
 これら所在不明銃の状況は、図6-9のとおりで、保管管理の指導の徹底と追及捜査による発見、解明によって、昭和52年は前年に比べ181丁減の1,812丁となった。しかし、なお相当数の所在不明銃があり、これが暴力団等の手に渡り犯罪に利用されるおそれがあるので、今後とも都道府県警察の緊密な連携による追及捜査を全国的に実施していく必要がある。
〔事例〕 5月、東京・新宿の総合食品会社「二幸」に猟銃を所持した男

図6-9 所在不明銃の状況(昭和48~52年)

(33)が強盗の目的で忍び込み、店主らを脅迫する事件が発生したが、このときに使用された猟銃は、1月、大阪の会社員方で無施錠のままガンロッカーに保管されていたところを実包5個と共に盗まれたものであった。
イ 猟銃事故の防止
 銃砲による事故の状況は、表6-6のとおりで、依然として多数の死傷者を出している。
 昭和52年の人身事故の状況をみると、発生場所の7割が「猟場」での事故であり、その事故原因の6割が猟銃の「取扱い不慣れ」あるいは「矢先(銃口の方向)の不確認」による初歩的ミスに起因する事故である。こうした事

表6-6 銃砲による人身事故の状況(昭和48~52年)

故を未然に防止するため、警察では、新たに猟銃を所持しようとする者に対する技能検定や射撃教習等の制度を検討している。
〔事例〕 12月、狩猟中の製粉業者(30、銃砲所持歴1年未満)は、矢先の確認をせず散弾銃を発砲したため、約7メートル先で農作業中の農夫に1箇月半の重傷を与えた(和歌山)。
ウ 猟用火薬類の保管管理の徹底
 猟用火薬類には実包、雷管、原材料としての無煙火薬等があるが、火薬類取締法違反事件中に占める猟用火薬類に関する事件の割合は、表6-7のと

表6-7 猟用火薬類の取締り状況(昭和48~52年)

おり年々高くなってきている。
 警察では、実包が銃砲使用犯罪に利用されるおそれがあることから、その密造されたり不正に流出した実包の入手先の追及捜査に努める一方、許可を受けて所持されている猟用火薬類の保管管理の徹底を図ることとしている。

3 悪化を続ける風俗環境への対応

(1) 風俗営業等の取締り
ア 悪質な違反が目立つ風俗営業
 キャバレー、バー、料理店、マージャン屋、パチンコ屋等風俗営業等取締法によって、都道府県公安委員会が営業の許可を与えている風俗営業の営業所数の推移は、表6-8のとおりで、キャバレー、料理店等のいわゆる料飲関係営業等は漸減、マージャン屋等の遊技場営業は漸増の傾向にある。
 これを業種別にみると、料飲関係営業等では、キャバレー、ナイトクラブ

表6-8 風俗営業の営業所の状況(昭和48~52年)

がわずかに増加しているほかは全体的に減少しており、遊技場営業の中では、マージャン屋が増加し、パチンコ屋は逆に減少している。
 このように風俗営業は、一部の業種を除いては横ばい若しくは漸減の傾向にあるが、営業内容においては、全体的に「より享楽的なもの」、「より射幸的なもの」への指向が認められ、いわゆるピンクサービスと称する「卑わいな接待」を経営方針とする営業の増加や年少者を使用する悪質な違反が目立っている。
〔事例〕 ピンクサービスを経営方針として県下に多数のチェーン店を有する営業者(44)が、各店長に、「ホステスには、全員にピンクサービスをさせろ。性交させても構わない。」と指示し、派手な客引きを行わせるとともに、店内でホステス全員にピンクサービスを行わせていた。また、この中には、17歳の少女をホステスとして雇い、同じようなサービスをさせ、警察の取締りを受けた際には年齢を偽るように強要していた店もあった(大分)。
 最近5年間の風俗営業における違反の検挙状況は、表6-9のとおりである。
 昭和52年の風俗営業における法令違反を態様別にみると、図6-10のとお

表6-9 風俗営業における違反の検挙状況(昭和48~52年)

図6-10 風俗営業における法令違反の態様別比較(昭和52年)

りである。
 都道府県公安委員会では、このような違反を犯した風俗営業者に対しては、許可を取消し又は6箇月以内の営業停止処分等を行っているが、52年における処分件数は、取消し18件を含む2,910件となっている。
イ 風俗営業まがいの深夜飲食店の増加
 午後11時以降営業している深夜飲食店は、風俗犯罪や少年非行の温床となるおそれがあるところから、風俗営業等取締法によって、営業場所、営業時間、営業行為等の制限を受けている。
 昭和52年末における深夜飲食店の数は、表6-10のとおりで、風俗営業等取締法によって深夜飲食店に対する規制が強化された39年(約6万軒)に比べ約4倍となっている。

表6-10 深夜飲食店営業の状況(昭和48~52年)

 また、これを業態別にみると、酒類を提供すると思われるものが全体の半数以上を占め、なかでも、スナック、サパークラブ等風俗営業まがいの営業が年々増加している。
 このような深夜飲食店の増加、とりわけ、風俗営業に類似した営業の増加は、風俗営業にも大きな影響を与えており、風俗営業が減少する原因の一つともなっているほか、深夜飲食店相互の間にも過当競争をもたらしており、その営業内容も次第にエスカレートしている。特に、無許可の風俗営業を常態として行っているもの、年少者を雇い入れて深夜まで客の接待等に使用しているもの、警察の取締りを免れるため、店外に見張りを立てたり、出入口に施錠し透視鏡を設けて営業しているものなどの悪質な事犯が目立ってきている。
 警察としては、このような情勢に対応して、52年9月、全国いっせいの「深夜飲食店等における無許可風俗営業の取締り」を行い、960件を検挙したのをはじめ、強力な取締りを行っている。
〔事例〕 風俗営業(キャバレー)の許可を受けていわゆるディスコ営業を営んでいた者(42)が、ディスコブームが下火になり、経営不振に陥ったことから、風俗営業の許可を返上して午後11時から早朝の4時まで営業の深夜飲食店に衣替えし、派手な宣伝をして年少者の客を集め、これらの客に、連日酒類を提供してダンスをさせる一方、警察の取締りに備えて多数の従業員を見張りに立て、更に、店舗出入口に通報用のブザーを設けて警戒していた(警視庁)。
 最近5年間の深夜飲食店における違反の検挙状況は、表6-11のとおりである。

表6-11 深夜飲食店営業における違反の検挙状況(昭和48~52年)

 都道府県公安委員会では、このような違反を犯した者に対しては、6箇月以内の営業停止処分等を行っているが、52年における処分件数は、2,901件となっている。
(2) エスカレートする性の商品化傾向
ア 多様化する売春
 最近5年間における売春防止法違反の検挙状況は、表6-12のとおりである。

表6-12 売春防止法違反検挙状況(昭和48~52年)

 昭和52年における売春事犯の内容をみると、従来からみられる暴力団関係者による管理売春、ソープランドにおける売春、いわゆるパンマ売春等に加え、国民の性に対する意識の変化を反映してますます多様化しており、年少者や主婦らによる売春も目立っている。
〔事例〕 金融業者(51)が結婚相談所を隠れみのとした売春でひともうけしようと企て、週刊誌等に、「男女の交際、結婚の仲介、エリート専門の集い」等の広告を掲載して男女の会員を募集し、応募した女子の中から売春に応ずる者のみを会員とした上、男子会員に売春婦としてあっ旋して両者から仲介料を得ていた事犯、及び、同会の会員であった主婦3人が、それぞれ独自にデートクラブ、SMクラブ、レジャーセンター等の名称で売春グループを作り売春を周旋していた事犯で、関係被疑者8人を検挙するとともに、主婦21人を含む売春婦30人を保護した(神奈川)。
 最近5年間に警察が保護した売春婦の年齢層別の推移は、表6-13のとおりで、20歳代、30歳代が、漸減あるいは横ばいであるのに対し、20歳未満なかでも18歳未満の年少者が著しく増加している。
 このことは、警察が年少者保護の観点から、年少者を被害者とする売春関

表6-13 売春婦の年齢層別状況(昭和48~52年)

係事犯の取締りを積極的に行っていることとも関係があろうが、年少者による売春が増加していることは否定できないと思われる。
 年少者の売春事犯の内容をみると、暴力団関係者や悪質な風俗営業者らによるものが多い反面、小遣い銭欲しさや単なる好奇心から安易に売春を行っていた事犯も数多くみられる。
 52年に売春防止法違反で検挙した被疑者の職業別状況は、図6-11のとおりである。
 また、悪質な売春関係事犯の多くに暴力団の介入がみられること、更に、相当数の暴力団員が売春婦のヒモとなっていると推測されることなどから売春と暴力団との関係は、極めて密接なものであると思われる。

図6-11 売春防止法違反被疑者の職業別状況(昭和52年)

イ 後を絶たないソープランド売春
 その営業内容から、半ば公然と売春が行われていると批判を受けているソープランド営業所及びソープランド従業員の推移は、表6-14のとおりである。
 昭和52年に売春関係事犯によって検挙したソープランド営業所の数は、73軒

表6-14 ソープランド営業所及びソープランド従業員の推移(昭和48~52年)

であるが、この種事犯は、客の協力を得ることが難しいこと、営業者、ソープランド従業員とも取締り対策には腐心しており、その手口も悪質巧妙化していることなどから、取締りはますます難しくなってきている。
〔事例〕 ソープランドを経営する暴力団幹部(35)が、偽装のためソープランド従業員に売春をしない旨の誓約書を書かせ、警察の取調べを受けたときには自分の意思で売春をしたと主張するように指示した上、営業時間中は外出禁止、無断欠勤の場合は解雇、更に、月に15人の指名客を取ることを義務付けて未達成の者には高額な制裁金を課するというか酷な条件で売春をさせていた(兵庫)。
ウ わいせつ犯罪の取締り
 近年我が国においては、性に関する意識がますます多様化し、一部における法無視、法軽視の傾向、行き過ぎた商業主義とも相まって、性の商品化傾向がますますエスカレートしている。
 その結果、次のような実情を呈している。
○ 映画、公刊出版物等の中に「性」を取り扱うものが増加し、その内容においても、猥褻(わいせつ)に該当するものや青少年保護育成条例によって少年に有害であるとして指定されるものが少なくない。
○ ストリップ劇場等におけるショーは、ますます露骨になっており、観客を舞台に上げてこれと性交するなど、もはやショーとはいえないものがまん延している。
○ 密輸入わいせつ物及び暴力団等によって国内で密造されたわいせつ物が相当数販売され、暴力団の大きな資金源ともなっている。
 警察としては、このような行き過ぎた性の商品化傾向が、社会の善良な風

表6-15 わいせつ犯罪検挙状況(昭和48~52年)

俗を害し、青少年に大きな影響を与えている現状に歯止めを掛けるため、性風俗に関する複雑な社会実態を注視しながら、悪質なものに対しては更にその取締りの徹底を期することとしている。
 最近5年間におけるわいせつ犯罪の検挙状況は、表6-15のとおりである。
 昭和52年にわいせつ犯罪で検挙した暴力団関係者は、公然猥褻(わいせつ)では43人(公然猥褻(わいせつ)総検挙人員の2.2%)であり、猥褻(わいせつ)物販売等では294人(猥褻(わいせつ)物販売等総検挙人員の29.6%)となっている。
〔事例〕 山口組系暴力団の幹部(46)が、ブルーフィルムの密造販売によって組の活動資金を得ようと企て、最新式の自動プリンター、自動現像装置その他の製作資機材一式を購入し、配下組員らを使って約5年の間に35万巻(末端価格で約49億2,800万円)に上るブルーフィルムを密造し、4系列33団体の暴力団を通じて全国各地に販売していた事犯で、暴力団員51人を含む被疑者96人を検挙するとともにブルーフィルム、製作資機材等トラック3台分を押収した(愛知)。
 52年に猥褻(わいせつ)物販売等で検挙した公刊出版物は89誌で、その内訳は月刊誌10誌、写真誌79誌であった。
(3) まん延するギャンブル犯罪
ア 増加を続けるギャンブルマシン
 スロットマシン、ビンゴ等のいわゆるギャンブルマシンは、全国的に増加の一途をたどっている。
 昭和52年10月末の調査によると、全国で設置されているギャンブルマシンの総数は、5万1,455台で前年に比べ1万2,141台(31.0%)の増加となっており、専業の「メダルゲーム場」は、1,544軒で270軒(21.1%)の増加、副業としてこれを設置している営業所は、6,117軒で590軒(10.7%)の増加となっている。
 ギャンブルマシンは、遊技機そのものに偶然性が極めて高く、風俗営業等取締法による遊技場(7号営業)の遊技機としては許可しておらず、そのため遊技の結果に対して賞品等は提供しない建前で使用されているものである。
 しかし、営業者の中には、メダルの代わりに100円硬貨が投入できるように改造して直接現金をかけさせたり、客が遊技の結果得たメダル等を換金したりするものが少なくなく、また、これらの営業やこれらの営業に遊技機を貸し付けるいわゆるリース業者には、相当数の暴力団が介入している。
 警察においては、このような実情に対処するため、52年2月、全国いっせいにギャンブルマシンを使用する賭博事犯の取締りを行ったのをはじめ強力な取締りを推進している。
 最近5年間におけるギャンブルマシンを使用した賭博事犯の検挙状況は、表6-16のとおりで、50年以降全賭博事犯の約3分の1がギャンブルマシンを使用するものであった。
〔事例〕 100円硬貨が投入できるよう改造したギャンブルマシンを店内に設置し、ばく大な利益を得たことに味をしめた喫茶店の経営者(36)

表6-16 ギャンブルマシンによる賭博事犯検挙状況(昭和48~52年)

が、大阪等の業者からギャンブルマシン37台を購入してゲーム場3店を開店し、各店にそれぞれ責任者を置き、なじみ客に限り換金することを厳命して賭博を行わせるとともに他店が検挙された場合には、一時的に休業して遊技機を隠匿するなどの手段で取締りを免がれ、約1年9箇月の間に多額の不法な利益を得ていた(岡山)。
 52年にギャンブルマシンを使用した賭博事犯で検挙した営業所数は899軒で、前年に比べ155軒(17.2%)増加しており、その内訳は図6-12のとおりである。
 また、賭博の証拠品として押収したギャンブルマシンは、1,841台、押収したかけ金は、約7,600万円であった。

図6-12 ギャンブルマシンを使用した賭博事犯で検挙した営業所数(昭和52年)

イ 公営競技をめぐる犯罪
 公営競技(競馬、競輪、競艇及びオートレース)に伴うノミ行為の最近5年間の検挙状況は、図6-13のとおりである。
 ノミ行為は、暴力団の格好の資金源となっており、検挙人員に占める暴力団関係者の比率は、依然として高い。
 警察では、暴力団の経済的基盤を崩壊させるため資金源のしゃ断、封圧に重点を置き、特別取締り班の編成、集中的取締りの反復実施等ノミ行為の取締りに努めている。
〔事例〕 愛知県警察本部においては、公営競技場内外で暴力団によるノミ行為が公然と行われ、暴力団の有力な資金源となっていることから、プ

図6-13 ノミ行為検挙状況(昭和48~52年)

ロジェクトチームによる特別取締り本部を設置してノミ行為壊滅作戦を実施し、被疑者505人(うち暴力団関係者341人)を検挙するなどの成果を上げた。

4 経済事犯の取締り

(1) 不況と経済事犯
 昭和52年の我が国経済は、景気浮揚のための幾つかの財政金融政策が講じられたものの、景気の先行き不安から個人消費は伸び悩み、民間設備投資も目立った動きがみられないまま推移し、企業倒産(負債総額1,000万円以上)は月間1,200~1,700件台、失業者は月間100万人台の高水準を記録した。
 また、国際収支の不均衡と円相場の急騰等により、輸出産業は圧迫されるなど景況は停滞のまま推移した。
 このような経済不況は、さまざまな角度から経済取引をめぐる犯罪に反映することも懸念されるので、警察としては、金融関係事犯、不動産関係事犯、国際金融事犯及びその他の商取引をめぐる事犯について、今後とも重点的な取締りを推進することとしている。
(2) 多発する金融事犯
ア 取締り状況
 最近5年間の金融事犯の検挙状況は、図6-14のとおりで、昭和52年は1,272件、1,272人と前年に比べてわずかに減少したものの依然として多発している。

図6-14 金融関係事犯検挙状況(昭和48~52年)

 金融事犯を態様別にみると、高金利事犯が860件と最も多く、全体の67.6%を占めており、次いで、無届貸金業事犯307件(24.1%)、預り金事犯39件(3.1%)等となっている。
イ 悪質、巧妙化する高金利事犯
 金融事犯の大部分を占める高金利事犯は、表6-17のとおりで、昭和52年

表6-17 高金利事犯検挙件数と貸金業者数の推移(昭和48~52年)

は48年に比べると2.4倍となっており依然として多い。なかには、厳しい取立てにより、返済に窮した借受人が自殺や一家離散に追い込まれたり、中小零細企業等が倒産に追い込まれたりするなどの悲惨な事例がみられた。
 また、最近は、貸金業者が地方都市へ進出し、組織的、計画的に高金利事犯を行う傾向がみられ、更に、その手口は、ますます悪質巧妙化している。主な高金利貸付の手口としては次のようなものがみられた。
○ 貸金の利息は、法定利率(1日0.3%以下)以内とするが、貸付利息のほか、書類代、印紙代、担保物件保管料等のみなし利息を徴収し、実質月1割、10日1割等の高金利を取るもの
○ 貸金の条件として、時計、衣料品等の商品を時価の数倍で買い取らせるいわゆる商品抱き合わせ金融等の脱法行為により高金利を取るもの
○ 割賦返済を貸付けの条件とし、1回当たりの割賦償還額のみを示して貸し付け、返済途中で新たに増額貸付けを行い、その際、前契約分の残期間の利息の割りもどしをしないで、残金の元利合計金額を一括天引して高金利を取るもの
○ 貸金業者がグループを組織し、高金利貸付けを行い、返済に窮した客を相互にあっ旋し、次々に高金利を取るもの
〔事例1〕 京都に本拠を持ち、全国に数十店を有する貸金業者(28)が、短期間で暴利を上げるため検挙覚悟で、主として主婦、サラリーマンを対象に、貸付けの都度、法定利息のほか、書類代、公正証書作成料等のみなし利息を徴収し、更に、返済途中で複利計算による増額貸付けをするなどの方法により、数億円の荒かせぎをしていた(秋田、広島、鹿児島)。
〔事例2〕 会社員の妻が夫に内緒で生活費のため数人の貸金業者から法定利率の2、3倍の高金利で借り、借金返済のため借金を重ねるなどしていたため、1年後には数百万円の借金となり、貸金業者からの厳しい取立てに耐え切れず将来を悲観して、次女(1年11月)を絞殺し、自分も自殺を図った(愛知)。
ウ 「ねずみ講」及び無尽講の取締り
 昭和52年には11の「ねずみ講」による預り金事犯を検挙した。これらの事犯による被害をみると、約1万7,000人から約84億8,000万円の預り金をし、そのうち約27億4,000万円を焦げ付かせ、関係者に大きな被害を与えた。
 ねずみ講のなかには、既存法令で規制できない組織があり、これについても規制を行うべきではないかという世論もあり、関係省庁による検討がなさ

図6-15 高金利事犯の被害者の実態(昭和52年11月)

れている。また、相互銀行法に違反した頼母子講も依然として後を絶たず、52年には16件、16人を検挙した。
〔事例1〕 「ねずみ講」による預り金違反の前歴を有する者(31)ら7人が共謀し、横浜市に「日本福祉経済連合会互輪倶楽部」の看板を掲げ「10万円を払い込めば2週間後に16万円が手に入る」と宣伝し、約4,000人から約14億円の預り金をし、約1,500人に5億円の損害を与えた(神奈川、北海道)。
〔事例2〕 貸金業者(45)が、地域の中小企業者、商店主らを相手に自ら講元となり「寿無尽講」を興し、約90人から掛金総額約4億6,500万円を受け入れ約1,340万円の利益を得ていた。高額落札者の中には、高い掛金を支払えない者も多く、自殺や商店閉鎖に追い込まれる者が続出した(三重)。
エ 高金利被害者の実態
 昭和52年11月に実施した「金融関係事犯取締り強化月間」に検挙した高金利事犯の被害者4,468人について、実態を調査した結果は図6-15のとおりである。警察では、悪質貸金業者による高金利事犯等の取締りの強化に努めているが、現在、関係6省庁(総理府、警察庁、経済企画庁、法務省、大蔵省、自治省)で法改正の可否を含め貸金業制度について検討が行われている。
(3) 増加傾向を示す不動産事犯
ア 取締り状況

表6-18 不動産事犯検挙件数の状況(昭和48~52年)

 最近5年間の不動産事犯検挙状況は、表6-18のとおりで、昭和52年には2,197件、1,966人を検挙し、前年に比べると218件(11.0%)、267人(15.7%)増加した。法令別にみると、宅建業法(宅地建物取引業法)違反では無免許営業及び名義貸しが、また、建築基準法違反では、建築物等に関する申請及び確認違反が、それぞれ大幅に増加している。
 宅建業法違反の態様別検挙状況は、図6-16のとおりで、無免許営業が最も多いが、不動産業者が粗悪な宅地や建物を詐欺的手段を用いて売り付けたとみられる重要事項不告知事犯や誇大広告事犯も多発した。

図6-16 宅建業法違反態様別検挙状況(昭和52年)

イ 被害の実態
 昭和52年4月に実施した「不動産関係事犯取締り強化月間」中に検挙した宅建業法違反693件のうち、詐欺的な要素のある重要事項不告知事犯123件と誇大広告事犯41件について実態を調査した結果は、図6-17のとおりである。
 重要事項不告知事犯では、都市計画法、農地法等の法令による規制があり、宅地としては利用できないのにこれを告知することなく売り付けたものが43件(35.0%)と最も多く、次いで抵当権等所有権以外の権利が設定されている事実を告知しなかったものの順になっている。また、誇大広告事犯では、宅地建物の周囲の状況、周辺の都市施設の整備状況等環境、設備について偽ったものが19件(46.4%)と最も多く、次いで宅地建物の所在地までの距離を偽ったものの順になっている。
 警察は、今後とも、強力な取締りを実施するとともに、物件の権利関係、法令に基づく規制の有無の確認等被害予防上の配意事項について広報を行う

図6-17 被害の実態(昭和52年4月)

こととしている。
〔事例〕 無免許の不動産ブローカー(31)らが、休業状態の会社から借用した免許証、架空の表彰状等を掲示し、正規の不動産会社を装い、粗悪な中古住宅を合計約2億4,000万円で売り付けた事犯を摘発し、無免許営業、名義貸しで1法人11人を検挙した(埼玉)。
(4) その他の商取引をめぐる事犯
ア 訪問販売等の取締り
 経済活動の多様化を背景に、訪問販売、通信販売、連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)等が普及しており、消費者保護上問題となっていた。昭和51年12月にこれらを規制する訪問販売法(訪問販売等に関する法律)が施行されたのに伴い、連鎖販売取引等の強力な取締りを行った結果、7連鎖販売業者の違反をはじめ訪問販売法違反302件、303人を検挙した。被害者の多くは主婦、OL等で占められており、警察では、今後とも取締りを強化するとともに被害の未然防止に努めることとしている。
〔事例〕 連鎖販売業者(43)が高級ホテル等に会員勧誘説明会場を設け、会場にムード音楽を流すなどの方法で豪華なふんい気を作り、参加者を握手ぜめにするほか、加盟すれば誰でも高収入が上げられ人生はバラ色に輝くなどと成功談を誇大に披ろうするなどにより、会場のふんい気を異常な状態とし、商取引に無知な婦女子、会社員らを加盟させ、多額の取引料を出させて多数人に損害を与えた(愛知、長野、広島)。
イ 詐欺的商法の取締り
 庶民の利殖欲、投機心を利用した業者が、甘言を用いて市民の零細な資金を吸い上げ被害を与えていた預り金の禁止違反、有名な商標を盗用して暴利を上げていた商標法違反等の詐欺的商法を70件検挙した。
〔事例〕 繁華街のビルに商品委託販売展示場を開設した業者(41)が、ドリーム商法と称し、主婦らに対し「会社に現金を預ければ会社が商品を仕入れて販売し、毎月配当金を支払う。」等と大々的に宣伝して多数人から数億円の預り金をしたが、会社経営が行き詰まって多数人に損害を与えた(警視庁)。
(5) 円高、不況下の国際金融事犯

図6-18 関税法及び外為法違反の検挙状況(昭和48~52年)

ア ヤミ決済と相手国
 対外取引に伴い発生する関税法及び外為法(外国為替及び外国貿易管理法)違反等の検挙状況の推移は図6-18のとおりで、貿易の自由化等に伴い関税法違反が減少しているのに対し、外為法違反は大幅に増加している。
 外為法違反に係る不正決済額は、約64億4,618万円で最近3年間の最高となった。支払、受領別の不正決済額及び原因は図6-19のとおりで、近年における円高、不況を反映して不正輸出入や海外投資に関連した事犯が多い。なお、前年まで多発していた海外旅行関係費用の不正決済事犯は、外貨持出しわくの拡大等の改正や業界に対する指導により減少した。

図6-19 不正支払、受領の原因別状況(昭和52年)

 また、ヤミ決済の相手国は、支払については香港が全体の62.4%を占め、次いで台湾(28.1%)、韓国(7.7%)の順となっており、また、受領については、韓国(39.8%)、台湾(36.2%)、香港(24.0%)の順になっている。
イ 国際的不況下の輸出競争と外為法違反
 いわゆる石油ショック以後における我が国を含む世界的な不況、更には、円高等不利な輸出環境のなかで、外国の輸入規制を免れるため、一部の輸出業者は、外国業者と共謀し輸出貨物の価格等を虚偽に低価にして輸出手続きを行い、実価格との差額を日本国内に外国人が裏資金としてプールしてある資金等をもって決済するなどの不正な貿易を行っている。
 また、我が国の高度成長期に競って海外へ進出し合弁会社等を設立した企業の中には、不況のため現地で操業不振に陥り、追加資金の送金のために不正決済を行うもの、あるいは、海外での利益を脱税等の目的でひそかに国内に持ち込むもの、一獲千金をねらってひそかに海外投機を行うものなど海外投資に関連した事犯もみられた。
〔事例1〕 船舶ブローカー(49)が漁船を韓国へ輸出するに際し、韓国からの水産物輸入の利権やリべートを得るため、韓国業者が自国における外貨の割当て規制や高率関税を回避するために行う不正な指図に従い、200海里問題に苦しむ日本の船舶所有者に低価な裏契約書を作成させ、自ら虚偽の輸出手続を行うとともに、当該韓国業者が日本に不正に蓄積した裏資金をもって差額金を支払うなどの方法で約10億円の不正決済をしていた(福岡)。
〔事例2〕 大手製菓会社が台湾に設立した合弁企業の操業資金として、他の大手貿易業者が不正貿易(高価申告輸入)により台湾にプールしてあった裏資金から現地で融資を受け、その借金を国内において支払うなど約2億円の不正決済をしていた(兵庫)。
ウ 地下に流れる「円」
 諸外国における「円」の需要が増し、特に、東南アジア諸国を中心に、「円」は、身近な国際通貨としての性格を強めてきている。我が国からひそかに不正貿易の差額金や投資金として、あるいは、覚せい剤、麻薬、けん銃、その他密輸入物の代金として外国に流れた「円」が、現地の地下銀行組織等を経て、再び、ひそかに我が国に持ち込まれ、外国人が市中銀行に設定している日本人名の口座に入金された後、日本からの金地金、医薬品等密輸出物の買い付け代金や不正取引の決済代金として使用されるなど、安定通貨である「円」を裏資金として対外不正決済を行う事犯が多い。
 このように「円」は、正規の国際流通ルートとは別に地下ルートを経て国際取引に使用されている。その金額は、近年急増している覚せい剤の密輸入代金のみでも数十億円に上るとみられる。
〔事例1〕 韓国へ覚せい剤の代金と認められる資金約1億5,000万円の自己宛小切手が密輸出されたが、同小切手は韓国船員により、我が国から密輸出された金地金の買い付け資金として、あるいは、その他の不正貿易の差額金決済金として国内に還流していた(神奈川)。
〔事例2〕 紡績機製造メーカーが部品を台湾に輸出するに際し、台湾の輸入業者Aが割当て外貨不足の状態にあったため、密輸出の方法をとることにより便宜を図り、その不正取引に伴う差額金約1億円をAらが日本国内に蓄積していた裏資金から受領するなどの不正決済を行っていた(大阪)。
エ 特別措置法を利用した悪質な外為法違反等
 沖縄復帰に伴う特別措置の一つとして、沖縄県民が安い牛肉を消費できるよう牛肉の輸入割当てに関して同県内消費を条件として執られている特別措置を不正に利用して、この安価な輸入牛肉をひそかに福岡県等に持ち込み高価で販売した事犯や、外資系連鎖販売(マルチ商法)業者が会員を食いものにして得た利益金等約32億円を脱税のため、外国為替公認銀行の行員らと結託して本国に不正送金した事犯等悪質な事犯を検挙した。
 また、関税法違反に関しては、国際空港に勤務する航空会社の職員が、その立場を悪用して大量の腕時計や覚せい剤を密輸入して利を図ったり、香港製造の粗悪な腕時計を密輸入し高級外国製品と偽って高価に密売するなどの悪質巧妙な事犯を検挙した。
 警察は、ますます国際化、多様化する違法な対外取引事犯等に対し内外の関係機関と連携を取りつつ悪質な事犯を重点に今後とも取締りを強化していくこととしている。

5 公害事犯の取締り

(1) 不況下の公害事犯の実態
ア 増加を続ける公害事犯
 公害事犯の検挙は、図6-20のとおり逐年増加を続けており、昭和52年の総検挙件数は4,827件で、前年に比べ130件(2.8%)の増加となった。

図6-20 公害事犯年次別検挙状況(昭和48~52年)

 これを態様別にみると、廃棄物に関するものが2,498件(51.7%)と過半数を占め、次いで水質汚濁、悪臭の順となっており、この3態様で公害事犯全体の9割を占めている。その推移をみると、廃棄物に関するものの伸びが特に著しい。
 また、適用法令別にみると、廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)が3,877件と約8割を占め、以下、水質汚濁防止法、河川法の順となっている。
イ 環境を汚染する廃棄物の不法投棄
 昭和52年における廃棄物の不法投棄事犯の検挙は、3,274件で、この種事犯は依然として後を絶たず、環境汚染の大きな原因の一つとなっている。そのほとんどが産業廃棄物の不法投棄であって、その不法投棄総量は、約40万7,000トンとなっている。
 これを種類別にみると、図6-21のとおりで、環境を汚染するおそれの特に強い廃油、廃酸、廃アルカリ、有害物質を含む汚でい等については約6,200トンとなっている。これらの産業廃棄物を排出した事業場を業種別にみると、建設業と製造業とでその大部分を占め、特に、建設業が全体の63.4%と大きな割合を占めている。

図6-21 不法に投棄された産業廃棄物(昭和52年)

 産業廃棄物の場所別投棄量は、図6-22のとおりで、埋立地や宅造地への投棄が特に多い。

図6-22 産業廃棄物の不法投棄場所(昭和52年)

 不法投棄事犯の主な傾向としては、産業廃棄物の最終処分地の不足と処理費用の高騰を反映して、無許可の業者による大規模な不法投棄事犯が目立ち、また、住民苦情や行政機関の警告指導を無視したり、あるいは取締りの手薄な夜間、休日をねらって不法投棄し、犯跡を巧みに隠ペいするなど悪質な事
犯が多くなったほか、資金源を求めて暴力団が介入する例もみられた。
〔事例〕 製紙会社の工場長(50)が、高騰する廃棄物処理代金の節減を図り、許可業者との契約を解除し、その3分の1の料金で処理しているもぐり業者に製紙汚でいの処理を委託し、その業者が約100トンを山林に不法投棄した(愛媛)。
ウ 悪質化する水質汚濁事犯
 水質汚濁関係事犯は、水質汚濁防止法のほか、廃棄物処理法、河川法、消防法等を適用して検挙しているが、最も重要な水質汚濁防止法違反については317件検挙しており、なかでも水質汚濁に直接影響を与える排水基準違反は217件で前年に比べ41件(23.3%)と大幅な増加を示している。検挙された企業の88%は資本金5,000万円未満の中小企業であるが、違反原因の調査

図6-23 業種別排水基準違反検挙状況(昭和52年)

結果によると、「不況の影響を受けて経営が苦しく、汚水処理に手抜きをした」と述べる者がかなりの部分を占めている。これらの企業を業種別にみると、図6-23のとおりである。
 また、違反項目の面からみると、図6-24のとおり環境項目に係る違反が84%とその大部分を占め、健康項目に係る違反の割合は年々低下してきている。

図6-24 排出基準違反の項目別状況(昭和52年)

 違反項目と排出源の業種関係をみると、環境項目に係る違反は、食料品製造業と金属製品製造業に多くみられ、健康項目に係る違反は、金属製品製造業に多い。
 水質汚濁事犯の傾向としては、不況の影響を受けて経費の節減を図るため、処理施設の未設置、整備不良、故障の放置等に起因する事犯が増加したこと、警察の取締りや行政の監視を免れるために隠し排出口を設け、あるいは夜間、早朝、休日等人目のない時をねらってたれ流す悪質巧妙な事犯が増加していることなどが挙げられる。
〔事例〕 金属製品のメッキ加工業者が、経営不振から資金繰りに窮し、老朽化した廃水処理施設の改修費や処理薬品代を節減するため、操業中生じた汚水の大部分を貯留そうにため込み、夜間人目に付かないときを見計らい、基準の420倍のシアンを含有する未処理汚水を直接公共用水域にたれ流し、魚介類に多大の損害を与えた(大阪)。
エ 増える公害苦情
 警察における公害苦情の受理件数は、昭和48年をピークに以後漸減傾向を示していたが、52年には3万3,350件と前年に比べ3,169件(10.5%)の増加となった。受理した苦情を態様別にみると、図6-25のとおりで、近隣騒音等騒音に関する苦情が大部分を占めている。
 これらの苦情の処理状況は、図6-26のとおりで、違反の認められるものについては、検挙又は警告を行うとともに、行政措置を必要とするものにつ

図6-25 苦情の態様別受理状況(昭和52年)

図6-26 苦情の処理状況(昭和52年)

いては市役所、保健所等に引き継ぐなど適正な処理をしている。
(2) 公害事犯との取組
 警察は、依然として厳しい公害情勢に対処するため、産業廃棄物の不法投棄事犯及び重大又は悪質な水質汚濁事犯を重点とする計画的、集中的取締りを推進するとともに、6月、9月には全国いっせいの取締りを実施するなど積極的な取組を行っている。
ア 計画的取締りの推進
 全国規模での計画的取締りとしては、前年に引き続き「瀬戸内ブルーシー作戦」、「清流作戦」、「広域産廃作戦」の三大作戦を強力に実施した。
 「瀬戸内ブルーシー作戦」については、関係11府県警察が共同して、瀬戸内海に流入する河川の浄化のため、排水基準違反等の水質汚濁関係事犯の取締りを積極的に推進した結果、全国の43.2%に当たる540件を検挙した。
 「清流作戦」については、瀬戸内海関係以外の全国36都道府県警察が「ふるさと山河浄化作戦」、「河川クリーン作戦」等の名称でそれぞれ計画的な取締りを推進した。
 「広域産廃作戦」については、産業廃棄物の不法投棄事犯の特に多い首都圏、中部圏、近畿圏を中心として、関係都道府県警察が緊密な連携を保ちながら取締りを進め、この3地域で全国の58.3%に当たる2,259件を検挙した。
 警察では、今後とも捜査体制、装備資器材等の充実に努め、地域の実情に即した効果的な取締りを積極的に推進することとしている。
イ 企業責任の徹底追及
 公害事犯は、企業の事業活動に伴って行われる犯罪であって、その取締りに当たっては、単に行為者のみならず企業自体の責任を徹底的に追及しているところである。
 特に、廃棄物処理法の一部改正により事業者の産業廃棄物処理委託基準の規定が新設されたのに伴い、無許可の業者に産業廃棄物の処理を委託した排出源事業者の責任追及を徹底することとし、従来不法投棄の根源と目されながら有効な検挙措置を執り得なかったこの種事業者に係る違反131件を検挙した。
 また、水質汚濁防止法の排水基準違反についても両罰規定を積極的に適用して企業責任を追及しており、昭和52年には199法人を検挙した。更に、有毒ガス等を流出し健康に被害を与えた公害事犯については、業務上過失致死傷のみならず、積極的に「公害罪法」(人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律)を適用し、企業責任を追及することとしている。

6 危険物対策の推進

(1) 火薬類の取締り
ア 増加した火薬類使用犯罪
 最近5年間に発生した火薬類使用犯罪は、図6-27のとおりで、極左暴力集団等による一連の企業爆破事件が多発した昭和49年をピークに逐年減少の傾向にあったが、52年は再び増勢に転じ、一挙に前年の3倍強に当たる44件が発生した。その内容をみると、極左暴力集団や暴力団によるものが目立っており、その活動の悪質化をうかがうことができる。

図6-27 火薬類使用犯罪の発生状況(昭和48~52年)

〔事例〕 かねてから対立抗争を続けていた松山市内の暴力団の組員(32)が、相手方の組事務所を爆破する目的で投げつけたコーヒー缶入り爆薬が、隣家の一般住宅に当たり、その一部が爆破された(愛媛)。
イ 立入検査等の推進
 警察においては、火薬類使用犯罪に直結する火薬類の不正流出を未然に防止することを火薬類対策の中心とし、特に、大量の火薬類を貯蔵する火薬庫の盗難防止対策については、立入検査等を通じ、関係行政機関とも協力して強力にその対策を推進してきた。その結果最近5年間における火薬類の盗難事件の発生は、表6-19のとおり逐年減少してきている。
 最近5年間における火薬類取締法違反の検挙状況は表6-20のとおり昭和50年をピークに若干減少傾向にあるものの、なお年間3,000件を超す違反を検挙している。それらの違反の態様別では不法所持が最も多く、52年には1,632件(48.8%)となっている。これら不法に所持される火薬類の大部分は正規に取り扱うことのできる者からの不正流出によるものであり、また、

表6-19 火薬類盗難事件の発生状況(昭和48~52年)

表6-20 火薬類取締法違反検挙状況(昭和48~52年)

火薬類の管理が不適切な事業所が依然として多いことが指摘されるなど、なお火薬類対策を強力に推進していかなければならない状況にある。
 このため警察においては、今後とも立入検査等の機会を捕らえ、不正流出防止のための取締りを継続していくこととしている。
(2) 核物質対策の強化
 原子力の平和利用の拡大に伴い、核物質の使用、運搬量も増加してきており、また、国際的な要請から核物質防護制度を早急に確立する必要に迫られている。このため、原子力委員会に設置された核物質防護専門部会において審議が進められ、昭和52年9月に、我が国の核物質防護の在り方についての第一次報告書が原子力委員会に提出された。更に、今後の具体的な方策の審議と関係省庁による対応策の実施のため、同月に核物質防護調査団をアメリカ、イギリス、西ドイツに派遣し、核物質防護の実態調査を行った。今後、これらの結果を参考にして、具体的な対応策が審議、検討されることになっている。このほか、10月に国際原子力機関(IAEA)の主催によりオーストリアのウィーンで「核物質等防護に関する条約(通称、核ジャック防止条約)起草政府代表者会議」が開催された。
 また、原子力委員会核燃料安全専門審査会において、核物質の輸送中における事故防止等について検討がなされた。
 なお、警察は、核物質の輸送について事故防止の観察から、関係業者を指導するとともに、必要に応じてパトカーの配備等の措置を講じている。
(3) 塩素酸塩類等対策の推進
 塩素酸塩類等が過激派集団等により爆発物の原料として使用されているため、警察は、5月と10月に全国いっせいの防犯指導を実施し、3万7,537箇所の製造業者、販売業者、大量消費者に対し、盗難防止のための保管管理の徹底、法定手続の厳格な励行、不審購入者の警察への通報等この種事犯の未然防止を図った。
(4) 高圧ガス、消防危険物等の事故防止
 産業の発展と技術革新によって、石油コンビナート等の大規模施設が増加し、また、国民生活の向上に伴って、高圧ガス、石油類等の流通、消費量は増大している。これらの危険物は、産業活動や国民生活に寄与するところが大きい反面、爆発、火災等の事故が発生した場合には、その被害はじん大かつ悲惨である。
 昭和52年の危険物事故の発生件数は1,481件で、依然として多発しており、警察では、これらの危険物による事故の未然防止を図るため、関係行政機関と緊密な連絡を取り、業界に対する指導監督の強化を図るとともに、事故につながる危険物運搬車両の取締りや、危険物関係法令違反に対する指導取締りを積極的に推進した。52年は、高圧ガス取締法、液化石油ガス法、消防法等の危険物関係法令違反を742件検挙するとともに、11月には、タンクローリー等の危険物運搬車両の全国いっせいの指導取締りを実施して1万4,731台の車両を検査し、280件の違反を検挙した。


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