第4章 少年の非行防止と保護

1 少年問題の重要性

 日本の将来を担うものは青少年であり、その健全な成長は国民全体の願いである。しかし、昭和40年以後減少を続けていた少年非行は48年以降増勢に転じ、現在、戦後第3のピーク期を迎えるに至っている。また、内容的にも児童、生徒や女子の非行が目立ち、ごく普通の家庭の少年によるいわゆる遊び型非行が多発し、少年非行の一般化傾向が顕著にみられるとともに、暴走族グループによる悪質な非行、中、高校生の教師に対する暴行等のいわゆる校内暴力事犯、女子中、高校生による売春、不純異性交遊その他の性の逸脱行動、シンナー等の薬物乱用をはじめ新しい態様の非行が著しく増加するなど極めて憂慮すべき状況にある。
 それと並行して、最近において少年を取り巻く社会環境が著しく悪化しつつある。性的感情を著しく刺激し、あるいは残虐性を助長する低俗な出版物、広告物、映画、放送等がはん濫し、更には少年の転落や非行化の温床となりやすい享楽度の高いスナック、喫茶店、風俗営業等の諸営業が増加している。これらは、特に心身ともに未成熟な少年に有害な影響を与え、しばしば少年非行の誘因となり、少年の健全育成を阻害する要因となっている。また、こうした状況の中で、暴力団や悪質な風俗営業者等による少年をくいものにした福祉犯も増加しつつある。今や少年をめぐる環境浄化と少年の保護活動は、警察のみならず社会全体にとって極めて重要な課題となっているといえよう。
 警察では、これらの憂うべき状況に対処するため、昭和51年5月、警察庁に少年課を新設するなど少年警察体制を充実強化して、少年をめぐる環境浄化活動、福祉犯の取締り、非行少年や暴走族等の補導、シンナー等の乱用防止活動、家出少年の発見保護活動や少年相談活動等少年非行を防止し、少年の健全育成を図るための諸活動の推進に努めている。

2 少年の非行

(1) 少年非行の概況
 警察では、少年の非行を防止し、健全育成を図るため、非行少年等(注1)の発見に努め、発見した非行少年等について捜査や調査を行い、家庭裁判所、検察官、児童相談所等に送致、通告し、あるいは家庭、学校、職場等へ連絡、注意、助言するなどの補導活動を行っている。
 昭和51年に警察において補導した非行少年等の数は、表4-1のとおりである。

表4-1 非行少年等の補導数(昭和51年)

 警察が補導した非行少年の過去10年間の推移は、図4-1のとおりで、42年以降減少傾向にあった刑法犯(注2)で補導した少年(以下「刑法犯少年」という。)は、48年から再び増加を続けていたが、51年にはわずかに減少した。特別法違反で補導された少年は、47年以降増加傾向にある。また、触法少年とぐ犯少年はおおむね横ばい、交通事故に係る業務上(重)過失致死傷事件は、44年を頂点として減少の一途をたどっている。
(注1) 非行少年等とは、非行少年(犯罪少年、触法少年及びぐ犯少年)及び不良行為少年をいう。
(1) 犯罪少年…罪を犯した14歳以上20歳未満の者(少年法第3条第1項第1号)
(2) 触法少年…刑罰法令に触れる行為をした14歳未満の者(少年法第3条第1項第2号)
(3) ぐ犯少年…性格、行状等から判断して将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれのある20歳末満の者(少年法第3条第1項第3号)
(4) 不良行為少年…非行少年には該当しないが、飲酒、喫煙、けんかその他自己又は他人の徳性を害する行為をしている20歳末満の者(少年警察活動要綱第2条)
(注2)ここでいう刑法犯とは、第3章でいう刑法犯と同じである。

図4-1 警察が補導した非行少年の推移(昭和42~51年)

(2) 少年非行の特徴
ア 人口比は成人の4倍
 刑法犯少年と検挙した成人(以下「刑法犯成人」という。)の人員と人口比(注1)の最近5年間の推移をみると、図4-2のとおりで、刑法犯少年は、昭和51年には11万5,628人となり、また、その人口比は12.2人(注2)であって、49年以降横ばいの傾向にある。それに比べ、刑法犯成人の人口比は一貫して減少しており、その結果、51年の刑法犯少年の人口比は、刑法犯成人の人口比の約4倍にも達した。

図4-2 刑法犯少年及び刑法犯成人の人員と人口比の推移(昭和47~51年)

 なお、51年の成人を含めた全刑法犯検挙人員(35万9,360人)の中に占める少年の割合は32.2%に達している。
(注1) 本章中、人口比とは、同年齢層の人口1,000人当たりの数である。
(注2) 51年の14歳以上20歳末満の少年人口は約945万人である(51年11月厚生省人口問題研究所推計による。)。
イ 窃盗犯が4分の3
 昭和51年の刑法犯少年の罪種別構成は、図4-3のとおりで、窃盗犯が前年の73.5%を更に上回る75.5%を占めて最も多く、次いで粗暴犯の14.7%となっている。図4-4に示す刑法犯成人の罪種別構成と比べると、刑法犯少年のなかで窃盗犯の占める割合は著しく高くなっている。また少年による窃盗犯の手口別をみると、万引きや自転車盗、オートバイ盗等の乗り物盗が多い。

図4-3 刑法犯少年の罪種別構成比(昭和51年)

 罪種別に最近5年間の推移をみると、図4-5のとおり窃盗犯と知能犯が増加を続け、他は減少の傾向にある。

図4-4 刑法犯成人の罪種別構成比(昭和51年)

図4-5 刑法犯少年の罪種別補導人員の推移(昭和47~51年)

図4-6 少年による窃盗犯の手口別推移(昭和47~51年)

 窃盗犯の手口別の最近5年間の推移をみると、図4-6のとおりで、万引きや自転車盗、オートバイ盗その他の乗り物盗が増加を続け、51年には万引きと乗物盗で窃盗犯の71.0%を占めるに至っている。
 知能犯では放置された自転車等を対象とした遺失物横領の増加が目立っている。
 このように、刑法犯少年を罪種別にみた場合、万引き、乗物盗や遺失物横領等手段が容易で動機が単純な遊び的色彩の強い非行が増加を続けていることが注目される。
ウ 中、高校生が約7割
 刑法犯少年の学識別補導人員について、最近5年間の推移をみると、図4-7のとおりで、大学生、各種学校生、有職少年と無職少年は横ばいないし減少傾向にあるのに対し、中、高校生が増加傾向にあるのが注目される。
 昭和51年における刑法犯少年の学識別構成比は、図4-8のとおりで、高校生が全体の37.1%を占めて最も多く、次いで中学生の30.2%となっており、刑法犯少年の7割近くを中、高校生で占めている。
 学識別に罪種別構成比をみると、図4-9のとおり、中、高校生では窃盗犯の占める割合が高くなっているのに対し、有職、無職少年では凶悪犯、粗暴犯の占める割合が比較的高くなっている。

図4-7 刑法犯少年の学職別補導人員の推移(昭和47~51年)

図4-8 刑法犯少年の学職別構成比(昭和51年)

〔事例1〕 学校内で、万引きをした生徒からその成功談を聞かされ刺激された高校生40人のグループは、デパート、スーパーマーケット等から衣料品や電気器具その他を手当たり次第に万引きし、更に犯行がエスカレートして、夜間雑貨商の倉庫に侵入し電気製品を盗み出すなど166件、被害総額680万円相当の窃盗を犯していた(福島)。
〔事例2〕 シンナー等乱用常習少年をリーダーとする中学生18人のグループは、遊ぶ金やシンナー等の購入資金欲しさから、大阪をはじめとする5府県で、手当たり次第に車上ねらい、あき巣ねらい、学校荒らし、恐喝等70件にも上る犯行を重ねていた(大阪)。

図4-9 刑法犯少年の学職別罪種別構成比(昭和51年)

エ 増加を続ける女子少年の非行
 刑法犯少年の補導人員について、男女別に最近5年間の推移をみると、図4-10のとおりで、男子は昭和49年以降減少傾向にあるのに対し、女子は著しい増加の傾向を示している。
 51年の性別補導人員をみると、男子が9万3,254人と、前年に比べて4,501人(4.6%)減少しているのに対し、女子は2万2,374人と前年に比べ3,347人(17.6%)と大幅に増加している。

図4-10 刑法犯少年の男女別補導人員の推移(昭和47~51年)

図4-11 刑法犯少年総数中に占める女子少年の割合とその年齢別構成比の推移(昭和47~51年)

 刑法犯少年総数中に占める女子の割合いについて、最近5年間の推移をみると、図4-11のとおり毎年増加し、51年は2割近くを占めた。
 女子少年の罪種別補導人員について、最近5年間の推移をみると、図4-12のとおり窃盗犯は47年以降、知能犯は49年以降著しい増加を続けている。
 なお、近年著しい増加を続けていた粗暴犯は、51年には前年に比べ減少した。
 51年の男女別の罪種別構成比をみると、図4-13のとおり女子では窃盗犯が全体の92.7%とそのほとんどを占めており、男子のその割合に比べて著しく高くなっている。
〔事例1〕 女子高校生19人のグループは「男子の気を引くため身を飾りたい、化粧してきれいになりたい」との欲求から、デパート等でイヤリングやネックレスその他の装飾品を万引きしたのを手始めに、次第に犯行が大胆となり、約4箇月の間に婦人服等323点、総額130万円相当の万引きを続けていた(長野)。
〔事例2〕 男子の暴走族にあこがれていた女子中学生37人は、「女ばかりの暴走族をつくろう」と暴走族予備軍「ブラックレディ」グループを結成し、グループに加入しない者や、グループをひぼうする者に対し、次々に集団暴行を加え、また数人のグループに分かれて38件の万引きを続けていた(埼玉)。

図4-12 刑法犯女子少年の罪種別補導人員の推移(昭和47~51年)

図4-13 刑法犯少年男女別の罪種別構成比(昭和51年)

オ 性の逸脱行動のエスカレート
 最近における性解放の風潮に象徴される風俗環境の中で、女子中、高校生の売春や不純異性交遊等、少年の性の逸脱行動が目立っている。
 昭和51年に性非行で補導した女子中、高校生は、表4-2のとおり4,587人に上っている。このうち売春(売春防止法)、淫行(児童福祉法第34条第1項第6号)やみだらな性交(青少年保護育成条例)で補導した女子中学生は295人、女子高校生は800人で、これを前年と比べると、女子中学生で38人(14.8%)、女子高校生で189人(30.9%)とそれぞれ増加しており、女子中、高校生の性の逸脱行動が更にエスカレートしていることがうかがえる。
〔事例1〕 女子高校生2人は他校の男子生徒と肉体関係をもつようになったが、「ただでは馬鹿らしい、お金をもらって売春しよう」と相談し、50年春休みごろから互いに遊び客を紹介し合い、売春を続けていたが、51年3月ごろになって同人らの売春のうわさが学校内に流れたことから、2人は相談の上家出し、知り合いの暴力団員の周旋でモーテル等で売春を続けていた。
〔事例2〕 中、高校生ら男女80人は、学校において、自動販売機から購入したポルノ雑誌を回し読みしたり、性の体験談をしているうちに性に異常な関心をもち、男女数人のグループに分かれては、50年11月ごろから51年7月までの間、アパート、学校の体育館、モーテルその他で乱交パーティーや不純異性交遊を続けていた(岐阜)。

表4-2 女子中、高校生の性非行の補導人員(昭和50、51年)

 こうした、女子中、高校生の性非行の動機をみると、表4-3のとおり「自らすすんで」が全体の48.2%を占め、「誘われて」が48.4%となっている。その内訳は、「興味(好奇心)から」が84.7%を占めて最も多く、次いで「遊ぶ金が欲しくて」の7.7%、「特定の男が好きで」3.2%の順となっている。
 このように、女子中、高校生の性の逸脱行動がエスカレートし、単純な動機から安易に性行動に走る原因や背景としては、性解放の風潮、身体的早熟化に伴う性に対する意識や関心を持ち始める年齢の低下、あるいは家庭や学校における生活指導、しつけの欠如等に加え、一部の低俗雑誌や映画等誇張した興味本位の性情報のはん檻、性を商品化した営利主義の風潮等が挙げられ、これらが思春期にある少年に直接間接に影響を与えているものと思われる。
 警察としては、少年をめぐる環境浄化の一環として、少年に悪い影響を与える雑誌、広告物等をなくすため、関係機関、婦人会、少年補導員等と連絡をとり、業者等への自粛の申入れ、都道府県に設けられている青少年保護育成条例による取締り等に積極的に取り組んでいる。

表4-3 女子中、高校生の性非行の動機別(昭和51年)

カ 教師に対する暴力事件の増加
 ここ数年、中、高校生の教師に対する暴力事件や粗暴非行集団相互間の暴力事件等のいわゆる校内暴力事件が、年間を通じて多発している。
 昭和51年における校内暴力事件の状況は、表4-4のとおり発生件数は2,301件、被害者は3,602人(うち、教師234人)、補導人員は6,221人で、中学生が4,053人、高校生が2,168人と、中学生の多いのが目立っている。
 これらの暴力事件の実態をみると、
○ 生活指導や処遇措置等に対する報復として教師に対し暴行した事件
○ 自校内の粗暴非行集団や他校の粗暴非行集団との対立抗争事件
○ 「下級生狩り」、「生意気な者に対するリンチ」等下級生や特定の個人に対する集団暴行
等が多くなっている。

表4-4 校内暴力事件の発生状況(昭和51年)

 校内暴力事件のうち、教師に対する暴力事件の補導状況について、最近4年間の推移をみると、表4-5のとおり48年は71件発生し、補導人員は180人であったものが51年には161件、補導人員416人と著しく増加し、被害教師も234人に上っている。

表4-5 中、高校生による教師に対する暴力事件の補導状況(昭和48~51年)

〔事例1〕 市立中学校3年生の番長グループ24人は、学校内外で恐喝、暴行、飲酒、喫煙その他の非行を重ね、日ごろ担任教師等から厳しく注意指導されていた。この生活指導を逆恨みしたグループ員は、教師に集団暴行を加えることを計画し、鎮痛剤を乱用し、集団遅刻して登校、土足のまま廊下で騒ぎ、注意するために出て来た担任教師に暴行を加え、更に駆けつけた教師8人に対しても次々と暴行を加え、5人の教師に5~10日間の傷害を与えたほか、窓ガラス66枚等を損壊した(埼玉)。
〔事例2〕 市立中学校2年生ら男女26人のグループは、他校中学生グループとの対立抗争に備え、ヌンチャク、棒切れ等を準備し、学校近くの公園に集結していた。生徒の不穏な動向に気づいた担任教師らが同公園に駆けつけ解散するように説得したところ、生徒は逆に口々に反抗し、一せいに殴りかかり、足げにするなどの集団暴行を加え、教師6人に対し5日~2週間の傷害を与えたほか、学校に引き返し、教師等所有の自動車を横転させ、あるいは玄関ドアのガラス5枚等を損壊した(千葉)。
 こうした校内暴力事件の原因や背景には、様々な理由が考えられるが、高学歴社会が進む中で、厳しい進学競争、受験勉強についていけず、ドロップアウトする生徒が増加し、一方では、生徒の教師に対する信頼感の低下、教師と生徒間の意思疎通の不足等教師と生徒相互間における様々な問題が指摘できると思われる。
 警察としては、教育の場における事案であることを考慮して、学校の教育的立場を尊重し、教師による生活指導の強化を要請して、その効果を期待するとともに、学校との連携を緊密にして、粗暴非行集団による非行の解明と集団の解体に努めている。
キ 暴走族による悪質事犯の多発
 少年を主体とした暴走族は、車による暴走行為にとどまらず、その機動力を利用して、広域にわたって強盗、強姦等の悪質な犯罪を行っている。
 暴走族の少年に対する補導状況について、最近3年間の推移をみると、表4-6のとおりで、犯罪によって補導された少年は、昭和51年は2,309人で、前年に比べ減少したが、強盗、強姦、放火等の凶悪犯で補導された暴走族の少年は、51年には172人と著しい増加傾向にあり、暴走族の悪質化が一層浮き彫りにされた。
〔事例1〕 暴走族「生無魔道」グループは、暴力団山口組組員を相談役に置いて、同組を背景に入会金5,000円、月会費3,000円を徴集していたが、同グループの少年がグループから脱会しようとしたところ、落とし前と称して5万円を恐喝したほか、同様の方法で脱会者15人から総額53万円を恐喝していた(京都)。
〔事例2〕 暴走族「狼」グループの少年5人は、アベックを襲って強姦することを共謀し、深夜暴走中アベックを見つけては、その女性をグループのたまり場であるアパートに連行し、輪姦を続けていた(静岡)。

表4-6 暴走族の少年に対する補導状況(昭和49~51年)

 警察は、交通取締りのほか、暴走族のたまり場に対する街頭補導の強化、暴走族少年の保護者に手紙を出して家庭での指導を求める「レター作戦」の推進、グループのリーダーに対する注意の喚起等暴走族による非行の防止に努めているが、暴走族グループの非行集団化と悪質化に対処するため、暴走族に対するきめ細かい実態は握活動を行い、家庭、学校、職場等との緊密な連携の下に、暴走族少年の補導活動を従来以上に強力に推進する必要がある。
ク シンナー等の乱用のまん延
 シンナー等の乱用により補導された少年の最近5年間の推移は、図4-14のとおりで、昭和47年8月に制定されたいわゆるシンナー規制法(毒物及び劇物取締法の一部を改正する法律)に基づく乱用行為、販売行為の規制と、これに伴う取締りにより、48年には大幅に減少したが、その後は再び増加を続け、51年は3万7,046人に上り、最近5年間の最高を記録した。シンナー等乱用者の約8割は少年であるが、そのうち有職少年の乱用が724人(5.3%)増加したのが注目される。
 シンナー等の乱用による少年の死者数は、図4-15のとおり前年に比べ6人(9.4%)増加し70人となっており、特に、集団による乱用死が目立った。

図4-14 シンナー等の乱用によって補導された少年(昭和47~51年)

図4-15 シンナー等の乱用による死者数(昭和47~51年)

〔事例1〕 高校生2人と有職少年2人は、学校や就業をきらって50年12月30日に家出していたが、51年4月1日になって、出身地にある廃校になった元中学校のプールの更衣室に侵入し、内側から施錠して、トルエンを含んだ塗料を吸って死亡しているところを発見された(茨城)。
〔事例2〕 2月21日午後8時ごろ、男子中学生6人は横浜市内の空き屋で、以前ドラムかん洗浄会社から盗み出し、隠していたシンナーを吸引していたところ、うちA(14)の擦ったマッチの火がシンナーに引火して火災となり、逃げ遅れたAが死亡し、他の少年も重傷を負って病院に収容された。そのうちB(15)は2日後に収容先で死亡した(神奈川)。
 シンナー等の有機溶剤には興奮、幻覚、麻酔の作用があり、これを吸入すると場合によっては死亡する危険性もあり、繰り返し乱用すると成長障害や内臓障害を起こし、また病気に対する抵抗力が低下するなどの影響があるといわれており、心身の発育期にある少年がシンナー等を乱用することは極めて有害である。
 警察は、乱用の危険性と有害性を強く訴えて、国民の関心を高めるとともに、シンナー等の供給源となっている悪質な販売業者等に対する取締りや乱用少年の早期発見、補導を強化して、乱用防止に努めているが、シンナー等の乱用行為の増加傾向からみて、これらの乱用防止活動に、更に積極的に取り組む必要がある。
 51年には、乱用されることを知りながらシンナー等を販売していた塗料販売業者等に対する積極的な取締りを行い、悪質な者628人を検挙した。

3 少年の補導と保護

(1) 少年の補導
ア 非行の早期発見
 少年は、非行に走りやすい反面、たとえ非行を犯した場合でも、適切な教育や指導によって再び健全な姿に立ち戻る可能性も極めて高い。それが早ければ早いほどその矯正は容易である。
 警察では、非行を芽のうちに摘み取るために、少年係の警察官や婦人補導員による街頭補導等を行って、非行少年や不良行為少年を早期に発見するこ とに努めている。
 発見した非行少年については、家庭や学校等の関係者と連絡を取りながら、非行の内容を明らかにするとともに、その原因、動機、少年の性格、交友関係、保護者の状況その他を十分検討し、再び非行を繰り返させないためにはどのような処遇が最も適切であるかを判断し、警察としての意見を付けて少年法や児童福祉法の規定に従って、家庭裁判所その他の関係機関に送致、通告している。
 また、非行少年に至らない不良行為少年に対しては、注意、助言し、必要に応じて保護者に連絡することにしている。
 もとより、少年非行の防止活動は、独り警察のみならず関係のある機関、団体はもちろん、すべての人々の理解と協力がなければ十分な成果が期待できない。警察では、少年非行や少年警察活動の実態等を関係機関、団体をはじめ広く国民に訴えて、非行防止活動に対する理解と協力を求めることに努めている。

イ 少年相談
 警察では、さまざまな悩みや困りごとを抱きながら、親や教師等に打ち明けることができない少年や、子供の非行や不良行為の問題で悩んでいる保護者等から相談を受けて、経験豊かな少年係警察官、婦人補導員、少年心理の専門家等が助言や指導を行っている。少年相談は、問題の解決について保護者等の積極的協力が期待でき、しかも早期に必要な措置をとることができるので、非行少年等の早期発見と非行の未然防止に極めて有効である。
 昭和51年に受理した少年相談は、全国で8万2,309件に上っており、このうち警視庁をはじめ35都道府県警察で実施している電話による相談(いわゆるヤング・テレフォン・コーナー)は4万1,480件となっている。
 相談者の状況は、表4-7のとおりで、成人が全体の65.6%、少年が34.4%となっている。少年では、中、高校生が多く、また男子よりも女子が多い。電話による相談では、少年が全体の60.4%を占めており、いつでも、どこからでも、しかも面接することなく、気軽に相談できる電話相談の利点が少年に好まれているものと思われる。
 相談の内容は、図4-16のとおりで、非行問題に限らず、性、学業、健康、進路等さまざまな問題に及んでいる。少年の場合には、異性との交際等に関することが21.4%と最も多く、次いで性、交友関係、学業の順であり、成人の場合は、子供の家出に関することが23.2%と最も多く、次いで非行、しつけの順となっている。

表4-7 相談者の状況(昭和51年)

図4-16 少年相談の内容(昭和51年)

(2) 少年をめぐる環境の浄化
 最近における社会環境をみると、少年に対し、性的な感情を著しく刺激し、又は残虐性を助長するおそれのある出版物、映画、広告物、テレビ番組が目立ち、また転落や非行化の温床となりやすい享楽的な色彩の強いスナック、深夜飲食店等の諸営業が増加するなど少年を取り巻く社会環境の悪化は著しいものがある。
 ちなみに、昭和51年に少年の健全育成にとって有害と認められ、都道府県の青少年保護育成条例により有害指定を受けた雑誌類は約9,400冊に上り、この数は10年前の2.4倍となっている。また風俗営業、深夜飲食店、モーテル、ストリップ劇場等の営業の数も10年前の1.5倍となっている。
 心身ともに未熟な少年は、社会環境の影響を受けやすく、現に、このような環境の影響を受けたと認められる非行が数多くみられる。
〔事例〕 中学3年生の女子A(14)、B(15)ほか2人の中学生は、自動販売機から低俗雑誌数冊を買い求めて回し読みしているうちに、売春記事等に興味を持ち、その実験を試みようと、新宿の盛り場その他で8月から9月までの間売春を行っていた(警視庁)。
 内閣広報室が51年に行った、少年の非行防止についてのアンケートの結果をみると、図4-17のとおりテレビや雑誌等の出版物について、「性表現が多すぎる」と答えた人が83%、「残虐シーンが強すぎる」という人が75%と大多数を占めている。またその少年に対する影響については、「犯罪や非行を誘発させたり、テレビや雑誌等のまねをするようになるなど少年に対し悪い影響があると思う。」と答えた人が87%を占めている。更に、その対策につ

図4-17 テレビや雑誌等出版物の性表現や残虐性の表現に関する調査(昭和51年)

いては、「業界に対する取締りや指導」と答えた人が59%と最も多く、次いで「家庭、学校、団体等による対策」(26%)、「業界の自粛」(20%)、「環境浄化運動等」(12%)等となっており、多くの国民は少年を取り巻く社会環境の悪化を憂え、何らかの対策を望んでいることがうかがえる。
 こうした情勢から、少年の非行を防止し、少年の健全育成を図るため、少年非行の誘因となり、その健全育成を阻害するおそれのある有害環境を浄化することは、今や重要な課題となっている。
 警察においても、従来から少年警察活動の一環として有害環境の浄化活動に取り組んできたが、今後もこの活動を一段と強化し、低俗な出版物、享楽的な諸営業等の有害環境の実態は握、法令に基づく指導取締り等に積極的に取り組んでいくことにしている。
〔事例〕 7月、東京都の出版業者が、自動販売機によるわいせつ写真誌の販売に目をつけ、わいせつ写真誌「魅惑のセーラー服」約1万部を発行し、これを1都2府12県の自動販売機設置業者を通じ、約1,000箇所の自動販売機で販売していた事案で、同出版業者らを猥褻(わいせつ)図画販売罪で検挙した(宮城)。
 しかし、環境の浄化は、警察の活動だけでなしうるものではない。環境浄化活動には、その対象が多種多様であり、その数もぼう大であるなどの難しい問題があるため、関係機関、団体をはじめ幅広く地域住民の参加を得て、いわば国民運動として推進する必要がある。
 このため、警察は、関係機関、団体をはじめ広く国民全体に対し、この活動に対する理解と協力を得るため、少年非行や有害環境の実態等の資料の提供にも努めており、地域社会の人々による自主的な活動や民間団体による自主規制の措置が全国的に推進され、有害環境排除の上で成果を上げつつある。
〔事例1〕 東京都江東地区の区立中学校PTA、町会、商店会等は、低俗雑誌の自動販売機が、少年に対し有害であるとして、自動販売機の管理者に対し、自主規制の協力を要請した結果、7月から9月までの間に7台の自動販売機が自主的に撤去された。
〔事例2〕 岐阜市内の地域婦人会やPTA等は、同市内の5箇所のコインスナック店に設置してある有害雑誌や大人のおもちゃの自動販売機が、青少年に有害であるとして追放運動に立ち上がった。その結果、各コインスナック店主は、設置業者と契約更新時に契約を打ち切り、この種の自動販売機12台が撤去された。
(3) 家出少年の保護
ア 女子中、高校生の家出の増加
 警察が発見保護した家出少年の数は、図4-18のとおりで、ここ数年減少傾向にあったが、昭和49年から増加に転じ、なかでも女子少年が著しく増加している。

図4-18 家出少年保護人員の推移(昭和47~51年)

 この家出少年を学識別にみると表4-8のとおりで、女子少年のうち、過半数を占める中、高校生の家出の増加が目立っている。
 少年の家出は、一般に少年が心理的に動揺しやすい時期、すなわち、進学、就職前後の3月、4月と夏休み明けの9月に多い。
 警察では、この時期に合わせて、春季(3月1日から4月30日までのうち1箇月)と秋季(9月)に全国家出少年発見保護活動の強化月間を設け、この活動を強化している。

表4-8 家出少年の学職別発見保護状況(昭和49~51年)

 51年には、この月間中に1万4,462人(年間総数の26.5%)の家出少年を保護している。
イ 家出の原因、動機
 家出の原因、動機を昭和51年の春季及び秋季発見保護活動月間中に保護した少年についてみると、表4-9のとおりで、「遊び癖」が15.4%と最も多く、次いで「異性問題」、「学校がきらいで」、「父母等にしかられて」の順となっている。

表4-9 家出の原因、動機(昭和51年春季及び秋季強化月間)

ウ 家出少年の非行
 昭和51年春季及び秋季強化月間中に保護した家出少年1万4,462人について、その非行状況をみると、表4-10のとおり家出中に罪を犯した少年は、1,140人で、約13人に1人の割合で罪を犯していたことになる。これは、51年の犯罪少年が、14~19歳の少年の人口の約67人に1人の割合であるのに比べ、約5倍に当たり、家出少年が非行に走りやすいことを物語っている。
〔事例1〕 中学3年生(14)は、「素行が悪い」と親にしかられたことから同級生5人を誘って家出し、野宿をしながら転々としていたが、飲食費や遊興費に困って、車上ねらい、自動車盗、恐喝等21件、総額約68万円の犯行を重ねていた(兵庫)。
〔事例2〕 中学3年生の男子3人(15)は、勉強がきらいなことから「泥棒をして全国を遊び回ろう」と相談の上家出し、大阪府、名古屋市、伊勢原市その他において、車上ねらい、空き巣ねらい、オートバイ盗を重ねていた(兵庫)。

表4-10 家出少年の非行状況(昭和51年春季及び秋季強化月間)

エ 家出少年の被害
 昭和51年春季及び秋季強化月間中に保護された家出少年の被害状況をみると、表4-11のとおり679人が犯罪の被害者となっている。その85.7%に当たる582人が女子であり、家出した女子は、約12人に1人の割合で何らかの被害を受けたことになる。

表4-11 家出少年の被害状況(昭和51年春季及び秋季強化月間)

 また、51年に検挙した、いわゆる人身売買等少年の福祉を害する犯罪の被害少年1万6,708人中、3,631人(21.7%)が家出少年であった。
〔事例〕 中学2年生の女子A(14)は、父が酒乱で乱暴したり、家庭が複雑であることをきらって家出し、転々としているうちに旅回りの舞踊団員(32)に言葉巧みに誘惑され、同団員の愛人にされた上、売春をさせられていた(大阪)。
オ 家出少年の所持金
 家出少年の所持金について、昭和51年秋季強化月間中に保護した少年を対象に調査した結果は、図4-19のとおりで、約7人に1人は現金を持たないで家出しており、発見時には3人に1人が持っていなかった。
 このことからも現代っ子の無計画、安易な家出の傾向と、家出少年は転落する危険性が高いことがうかがわれる。

図4-19 家出少年の所持金の状況(昭和51年秋季強化月間)

(4) 福祉犯の取締り
 福祉犯(注)として検挙した被疑者数及び保護した被害者数について、最近5年間の推移をみると、図4-20のとおりで、昭和50年から大幅な増加に転じ、更に51年は前年に比べ被疑者数が37.4%と大幅に増加した。

図4-20 福祉犯の推移(昭和47~51年)

 この種の犯罪は、被害者が少年であるとともに、被害者自身が被害意識を持たない場合が多いこともあって、自ら訴え出ることが少なく、また犯罪の手段も巧妙化しているため、潜在性が強い。
 51年の福祉犯検挙の端緒をみると、その95.8%が警察による家出少年の捜索や聞込み等によるものであって、被害者からの訴え出によるものは全体の2%にも満たない状況であった。
(注) 福祉犯とは少年の福祉を害する犯罪をいう。
ア 福祉犯の法令別構成比
 昭和51年に検挙した福祉犯の被疑者は8,713人で、これを法令別にみると、図4-21のとおり青少年保護育成条例違反が33.4%で最も多く、次いで風俗営業等取締法違反、児童福祉法違反、労働基準法違反の順となっている。
イ 福祉犯の被害者
 昭和51年の福祉犯による被害者は1万6,708人で、うち女子が9,516人(57.0%)となっている。
 被害者を学識別にみると表4-12のとおりで、前年に比べ学生・生徒が45.3%、有職少年が33.2%、無職少年が15.3%といずれも大幅に増加しており、特に、女子の学生・生徒が54.6%と著しく増加しているのが目立つ。
ウ 暴力団による福祉犯
 昭和51年の福祉犯の被疑者総数に占める暴力団員数は640人(7.3%)であるが、福祉犯のうち、最も悪質な「いわゆる人身売買」、「中間搾取」、「売春をさせる行為」及び「いん行をさせる行為」の4種類についてみると、表4-13のとおりで、暴力団員の占める割合は26.2%と高くなっている。その手口も、高校生等を言葉巧みに誘惑し、肉体関係を結んだ後、売春をさせて資金源に充てるなどの巧妙、悪質なものが多い。

図4-21 福祉犯の法令別構成比(昭和51年)

表4-12 福祉犯の学職別被害者数(昭和50、51年)

表4-13 悪質福祉犯被疑者の中に占める暴力団員数(昭和51年)

〔事例1〕 暴力団員が、資金源とするため、街頭や喫茶店等において、中学3年生A(15)ほか8人の少女を言葉巧みに誘惑し、肉体関係を結んだ後、暴力団仲間や会社役員らを相手に売春をさせていたほか、覚せい剤を常用させていた(兵庫)。
〔事例2〕 暴力団員らが、遊興費に当てるため、当時親交のあった高校1年生の女子2人(16)に対し「売春をする高校生を世話してくれ」と依頼し、同女らは授業中に、売春勧誘メモを学友らに回し、希望者を募り、休憩時間に校内の公衆電話を利用して暴力団事務所へ連絡し、検挙されるまでに、18人の女子高校生らに会社社長や商店主等を相手に売春させていた(大阪)。


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