第9章 警察管理

1 警察職員

(1) 定員
 昭和49年4月現在、我が国の警察に勤務する職員は合計約22万5,500人である。このうち、国の機関に勤務する者は約7,700人で、警察官は約1,050人、皇宮護衛官約900人、その他一般職員約5,750人で、このうち約4,050人は通信関係の技官である。
 都道府県警察に勤務する者は約21万7,800人で、警察官は約19万800人、交通巡視員約3,000人、その他一般職員約2万4,000人である。この一般職員とは、会計、鑑識、統計、車両整備、文書等の専門分野に従事する職員である。警察官の階級別内訳と主なポストは表9-1のとおりである。

表9-1 都道府県警察に勤務する警察官の階級別内訳と主なポスト(昭和49年4月現在)

 警察官1人当たりの負担人口は、昭和48年度には全国平均で581人であったが、49年度には4,520人の増員があり、その結果、全国平均で574人となった。しかしながら欧米諸国と比較してみると、図9-1のとおりであり、我が国はこれら諸外国より著しく負担が重い状況にある。

図9-1 警察官1人当たりの負担人口

 都道府県別の警察官の政令定員は、表9-2のとおりである。
(2) 婦人警察職員
 最近、警察においても女性の特性を生かした活動を必要とする分野が、漸次増加してきている。昭和49年10月現在、都道府県警察には、婦人警察官約3,000人、婦人交通巡視員約2,800人、婦人補導員約700人が勤務しており、主として交通整理、駐車取締り、少年補導、地理案内等の業務に従事している。そのほか、交通安全教育、110番受付等の通信指令、女性被疑者等の取扱い、防犯相談、老人家庭の訪問、要人警護、すり係、街頭広報等女性を必要とする職務が拡大しつつある。これらのほかに一般職員として勤務する者が約8,600人いる。
 しかし、婦人職員については、深夜勤務に制限が多いこと、危険性の高い職務にはつけにくいことなどの制限があり、これらの問題が障壁となって、大幅進出が妨げられている。
(3) 採用
 警察官の採用に当たっては、その職務の特殊性から、単に本人の学力、知識、知能程度だけでなく、体力、社会性、遵法意識、人物性行等多角的に人物を評定して採否を決定している。そのため、各都道府県においては筆記試験(択一式と論文式)、面接試験、適性検査(心理テスト)、身体検査、人物調

表9-2 都道府県別の警察官の政令定員(昭和49年度)

査等を幅広く行っている。
 昭和49年度1年間に全国の警察官採用試験に応募した者は約5万4,000人で、合格した者は約1万3,800人となっており、競争率は平均3.9倍であった。

2 警察教養

(1) 学校教養
 警察官は、広く国民の日常生活に接する立場にあり、その職務の執行に当たっては、重い責任と強い権限が付与されている。その負託と信頼にこたえるために、警察では、警察官の教育に多大の力を注ぐとともに、警察活動を支える警察通信職員等についてもその教育に力を注いでいる。
 すなわち、警察教養を効果的に進めるため、都道府県警察学校、管区警察学校、警察大学校、同附属警察通信学校等の整備を行い、新しく採用した警察官や交通巡視員等の新任教養をはじめ、幹部昇任者に対する幹部教養、警察の専門分野に応じた各種の専科教養等を実施して、警察職員として必要な資質の育成と職務の遂行に必要な知識と技術の修得を図っている。
 更にこうした学校教養をはじめとする警察教養の全般について、一層の充実を図るため、昭和47年9月、部外の有識者の参加を得て「警察教養研究会」が発足し、多角的な研究と審議の結果、49年6月「警察学校教養の充実、整備に関する報告」が提出され、初任教養、幹部教養、専門教養、教官制度、教育方法等について充実、整備の方向が示された。
(2) 一般教養
 警察では、学校教養のほかに、職場教養を中心とした「一般教養」を行っている。
 これは、すべての警察職員がその対象となっており、幹部の職務を通じて行うマンツーマンによる指導のほか、講習会、研究会等の開催及び資料の発行等によって行われている。とりわけ初任科卒業後間のない青年警察官に対しては、その実務処理能力の向上を図るため、目標管理と自己啓発のシステムを導入し、「職務習得記録表による教養」を昭和49年4月から開始するとともに、職業倫理の確立の一方策として国立青年の家等における合宿研修を行った。
 また、昭和49年は警察法施行20周年記念に当たり、これを記念して、懸賞論文の募集を行ったほか、11月、皇太子同妃両殿下の御臨席の下に「青年警察職員意見発表会全国大会」(警察協会主催)を都内中野サンプラザにおいて開催した。
 なお、近年、民間企業では、週休2日制の導入とともに「余暇開発」の方法等が重視されているが、警察においても、この面における研究を進めるため、前記の「警察教養研究会」のテーマとして、警察官の「余暇と自己開発」を取り上げている。
(3) 術科教養
 警察官の職務には、犯人の逮捕、人命救助等強固な体力と精神力をもって当たらなければならないものが極めて多い。したがって、柔道、剣道等の訓練を通じてこれらの能力を錬成し、更に、これを基にして逮捕術やけん銃操法等の職務執行に必要な術科技能を習得しなければならない。しかも、常に相手方の基本的人権を尊重して必要最少限度の権限行使を行わなければならないので、各種の技能の練度を高める必要がある。柔道等の段級位取得の状況は、表9-3のとおりである。

表9-3 各種術科の段級位取得状況(昭和49年4月現在)

 昭和49年は、体力、技能の向上を目標として、「基礎体力の充実」、「職務遂行に直結する技術の向上」、「安全管理の推進」を術科教養の重点とした。

3 勤務制度と公務災害

(1) 勤務制度の改善
 明治以来、我が国の警察は、その職務の特殊性から駐在制等一般公務員とは異なった独自の勤務体制を確立してきた。しかし、最近、警察事象が複雑多様化するにつれ、過度に長い拘束時間、勤務時間の勤務では、適正な職務執行の困難な状況が生まれている。とりわけ、社会一般に週休2日制が普及し、労働に対する意識が変化するにつれ、この問題の解決は差し迫ったものとなってきている。
 現在、都道府県警察官約19万人のうち、日勤勤務者は約10万人、交替制勤務者は約8万人、駐在所勤務者は約1万人である。そして、警察署に勤務する日勤勤務者の多くは6日に1度の割合で当直勤務という夜間勤務を行い、また、交替制勤務者のほとんどは1週間平均60数時間の拘束を受け、おおむね3日に1度の割合で夜間勤務を行っている。駐在所勤務者については本人のみならず、実質的には家族の助力を得て職務を遂行しているという面がある。このような勤務は社会がまだ平穏であった時代はよいが、警察事象の変化とともに勤務密度が濃くなり、職務時の緊張が高まるにつれ、その在り方を再検討する必要性が高まっている。
 このような実態を踏まえ、より能率的かつ適切な職務執行を行うためにも、交替制勤務者を中心とする拘束時間の短縮をはじめ、勤務条件の改善が当面の課題となっている。
(2) 殉職と受傷事故
 警察官は国民の生命、身体、財産を保護し、犯罪の捜査、犯人の逮捕等に当たることを職務とするが、その職務の遂行中に、不幸にしてその職に殉じあるいは受傷する者は少なくない。このなかには、犯人の逮捕等に当たって相手側から激しい攻撃を受けながら、警察官として、おう盛な使命感と責任感から生命の危険を顧みず、敢然と身をていして職務を遂行し、治安のためにその生涯を閉じる者も少なくない。昭和49年中に職に殉じ、公務死亡の認定を受けた者は26人、受傷した者は7,465人に達している。この数は昭和45年以来最も少ない数ではあるが、このような不幸な事例が1件でも減るよう各種の受傷事故防止のための具体策を講じるとともに、第一線で活動する警察官に対しては、十分な注意と慎重な配慮の下に職務執行に当たるよう指導教養に努めている。また、受傷者のなかには、重度障害により、ほとんど社会復帰が難しいと思われる職員も少なくないので、昭和49年6月、これら重傷者に対し、手厚い治療と介護を行うための施設として東京都下に警察公傷者ホームを建設した。
 このほか、昭和49年度中に警察官の職務に協力援助して災害を受けた民間人の数は死者15人、負傷者53人に達し、これらの人に対しても公務災害の場合と同様の補償を行っている。

4 給与と福利厚生

(1) 給与
 警察官には、その職務の特殊性から、一般行政職の職員の俸給表とは、体系の異なった公安職俸給表が適用されており、その初任給は、職務の複雑困難性等が考慮され、一般行政職員よりも有利に定められている。
 また、警察官は、犯人の逮捕及び交通の取締り等職務執行に当たって著しい危険を伴うなど一般に比べて特殊な条件の勤務が多いので、職種によって刑事手当、白バイ手当、鑑識手当等の特殊勤務手当が支給され、宿日直手当等についても特別の措置がとられている。
 なお、警察庁では、昭和47年以来学識経験者等によって構成されている「警察官給与制度研究会」において警察官の給与制度の在り方について研究審議し、その報告に基づき関係機関に要望を行って給与改善を進めている。
 昭和49年度においては、民間給与水準の上昇等の経済事情が勘案され、公務員について約30%の大幅なベースアップが実施されたが、警察官の給与については、勧告に先立って警察官の職務の重要性及び特殊性を考慮した改善を強く要望した結果、特に初任給及び警部補以下の俸給月額等について改善がなされた。
(2) 福利厚生
ア 健康管理
 昭和48年度における警察職員の私傷病による休業者(連続6日以上)数は1万1,616人であり、これを原因別にみると、消化器系疾患、、呼吸器系疾患、リューマチ、事故、循環器系疾患の順となっている。
 また、同期間における死亡者の原因をみると、いわゆる成人病といわれるガン、心臓病、脳いっ血等が上位を占めている。
 このため、最近における健康管理は、従来の結核対策から成人病対策に重点を移しつつあり、一般定期健康診断のほか、特別健康診断等を実施し、その検査結果に基づき、療養の指導、職務の変更、勤務の軽減等の措置をとっている。
 また、職務に基因する疾病の調査を行い、その調査結果に基づき、勤務環境や勤務条件の改善策を講じている。
イ 住宅
 警察における住宅は、常時待機の体制、集団警備力の確保等職務上の要請から建設される待機宿舎(国庫補助対象事業)、都道府県費による宿舎等があり、警察職員の士気高揚と待遇改善にも資するという観点からその対策を重点的に推進している。
 また、個人の持ち家対策を推進するため、共済組合資金の貸付、銀行融資のあっ旋、宅地分譲等の施策を実施している。
ウ 宿泊保養施設等
 警察共済組合、都道府県警察互助会等が所有する宿泊保養施設は、全国で80箇所あり、その利用人員は、宿泊約40万人、会議、会食、グリル利用等約140万人となっており、大いに活用されている。
 また、保健施設としては、病院、山の家、各種運動場等の施設があり、警察職員の福利厚生に寄与している。

5 海外との交流

(1) 海外出張の状況
 警察事象の国際化傾向が強まるとともに、外国に出張する警察職員数は、毎年増加を続け、昭和49年度で約460人に達している。
 これらの出張の目的は、国際的な犯罪捜査、外国警察の制度と運用に関する調査・研究、留学、海外研修、国際会議への出席、外国警察機関等への技術指導、スポーツ交流等多岐にわたっている。
(2) 青年警察官海外研修
 昭和49年度は、警視庁、愛知県警察及び大阪府警察で10人の青年警察官を選抜して、FBI、サンフランシスコ市警察、シアトル市警察等に派遣して、約3箇月にわたり、外勤、交通警察を中心とする実務研修を行ったほか、各都道府県警察の青年警察官約80人を北アメリカ、ヨーロッパ、大洋州の各国に4週間派遣し、ロサンゼルス、ロンドン、パリ等の各都市で警察制度や警察活動の実際について研修を行った。また、ロンドン警視庁のへンドン警察運転学校での白バイ、交通パトカー乗務員の運転操法の訓練にも、約1箇月間、北海道警察、警視庁、神奈川県警察等の警察官8人が派遣された。
 このほか、警視庁では、青年警察官45人をイギリス、西ドイツ等の諸都市に15日間派遣し、グラスゴー市警察、ミュンヘン市警察等でそれぞれ警察制度や警察活動の実際について研修を行った。
(3) 柔道指導者の海外派遣
 近年、警察職員がアジア、アフリカ等の発展途上国の警察官に対する柔道訓練の指導者として海外に長期派遣される例が多くなってきた。柔道指導者の海外派遣には、特殊法人国際交流基金による専門家派遣や、特殊法人国際協力事業団青年海外協力隊事務局による青年海外協力隊員の派遣がある。昭和49年中に新規に派遣されたものは、国際交流基金によるものは5箇国5人、青年海外協力隊事務局によるものは7箇国11人であった。
 なお、このほか、国際交流基金から柔道又は剣道の巡回使節団員として、約40日間中南米の諸国等へ派遣された者は計3回6人である。
(4) 国際大会への参加
 昭和49年度中に、第7回アジア競技大会等国際試合に派遣された警察職員は計50人である。このなかには、柔道、レスリング、フェンシング、ウェイトリフティング、ピストル等の世界選手権大会に参加し、活躍した者が多い。わけても、ピストル射撃競技選手5人が戦後初めて中国を訪問したことや、婦人警察官3人がスイスで行われた第41回世界射撃競技選手権大会に初出場して入賞したことが注目された。
(5) 技術援助計画によるセミナーの開催
 我が国の行う海外技術協力事業の一環として、昭和49年には東京において麻薬取締りセミナーと交通警察研修コースの二つが行われた。
 麻薬取締りセミナーには20箇国22人の研修員が参加し、25日間にわたり各国の麻薬取締りの状況について討議した。交通警察研修コースには13箇国13人の研修員が参加し、36日間にわたり交通安全教育全般について研修、見学を行った。

6 予算

 警察予算は、国費(補助金を含む。)と都道府県費とに大別される。
 国費は、警察庁が所掌する事務を処理するために必要な人件費その他の経費と、都道府県警察に要する経費のうち、直接国庫が支弁する経費及び都道府県警察費に対する補助金を合わせて計上している。
 都道府県費は、都道府県警察の運営に必要な人件費、物件費等であるが、この経費の一部について国が補助することになっている。
 また、警察予算について、国の一般会計に占める国費(警察庁予算)の割合は、図9-2のとおり、おおむね0.4%であり、都道府県予算に占める都道府県警察費の割合は、図9-3のとおり、おおむね7.2%となっている。
 昭和49年度予算は、激動と変化の時代に対応する警察基盤の整備を中心として、地方警察官4,500人の増員、警察通信の拡充整備のほか、前年度に引き続き、全国情報システムの充実等の諸施策が計上され、警察庁予算におい

図9-2 国の一般会計に占める主な経費の割合(昭和49年度)

図9-3 都道府県予算に占める主な経費の割合(昭和49年度)

図9-4 警察庁の予算(昭和49年度)

図9-5 都道府県警察の予算(昭和49年度)

ては、図9-4のとおり、前年度の669億3,900万円に比べ、11.8%増の748億4,000万円、都道府県警察予算においては、図9-5のとおり、前年度の6,043億5,800万円に比べ、24.0%増の7,495億9,200万円となっている。

7 装備

(1)車両
 警察用車両は、刑事、保安、交通、警備の各部門における警察活動を機動化し、その迅速的確な運営を推進していくうえで不可欠の装備である。
 このため、図9-6のとおり、警察事象の量的な増大や質的な変化に対応して、計画的な拡充強化を図っている。

図9-6 主要車種の車両台数の推移

 警察用車両の主要なものは、捜査用車、パトカー、交通パトカー、白バイ、輸送車等であるが、捜査本部用車、緊急配備検問車、移動交番車、公害特科車、交通事故処理車、移動検問車、投光車、放水車等の特殊用途車両も保有している。
 昭和49年度においては、これらのうち所定の耐用年数を経過したものの更新のほか、特殊用途車両及び小型警ら車(ミニパトカー)を中心に増強整備を行い、同年度末における保有台数は、1万8,039台となっている。また、その車種別構成は、図9-7のとおりである。

図9-7 警察用車両の車種別構成(昭和49年度末現在)

(2) 舟艇
 警察用舟艇は、水上警察活動における機動力として、港湾、離島、河川、湖沼等に配備し、水上のパトロール、水難者の捜索救助、麻薬犯罪や密貿易あるいは公害事犯の取締り等に運用している。
 これらの舟艇には、5トン級の小型艇から50トン級のものまであり、その整備に当たっては、使用水域や用途を考慮し、老朽船の減耗更新の際に、高速化を図るなど性能を高めることに努めている。
 昭和49年度末における警察用舟艇数は180隻であり、その配備状況は図9-8のとおりである。

図9-8 警察用舟艇の配置状況(昭和49年度末現在)

(3) 航空機
 警察用航空機としては、表9-4のとおり昭和35年度からヘリコプターの整備を進め、昭和49年度末現在で17機を保有している。

表9-4 航空機の整備状況(昭和35~49年度)

 これらは、警視庁、大阪、愛知、福岡、北海道、広島、宮城、愛媛、千葉、神奈川の主要都道府県警察に順次配備して、広域的、多角的運用を図っている。
 ヘリコプターは、視界が広く、しかも、機動性に富むなど車両や舟艇にはない優れた特殊性能を有しており、迅速、能率的な警察活動に大きな貢献をしている。また、その用途は、災害発生時の状況は握と救援救助、山岳遭難者等の捜索救助、道路交通の視察・管制、逃走犯人の捜索追跡、大規模警備事案の状況は握、公害取締り等広範囲に及んでいる。

8 通信

(1) 迅速な初動活動と通信
ア 指令通信設備
 初動措置の速さは、事案の早期解決を図るうえでの重要な要素である。
 迅速な初動活動を展開するためには、事案の発生をいち早く知り、パトカーや最寄りの派出所、駐在所勤務員の現場派遣、緊急配備等の指令を迅速、適切に実施しなければならない。
 都道府県警察本部の通信指令室には、このような指令通信活動を円滑にかつ能率的に行うため、110番受付台をはじめ、全派出所指令装置等の各種の有線、無線指令装置、広域緊急配備の実施の場合等において隣接都道府県相互間の情報連絡を行う会議電話や無線モニター装置等を集中整備している。
 最近における緊急配備事案の多発傾向等に対して、通信指令室の機能を更に強化するため、昭和49年度には、110番受付台、全派出所指令装置の整備増強を行った。また、事案発生の認知からパトカーの現場到着までの時間を短縮させ、パトカー等の効果的な運用を図るため、警視庁では、パトカーの位置や活動状況が自動的には握できる自動動態表示装置の整備を前年度の新宿地区に引き続き、昭和49年度は千代田地区を対象として実施した。本装置の運用効果を新宿地区について調査した結果、事案認知からパトカー現場到着までの平均時間が48秒短縮され、4分9秒になった。
イ 車載用無線機、携帯無線機及び受令機
 パトカーや外勤、捜査等の第一線の警察官が、警ら、交通取締り、犯罪捜査等の日常警察活動や事案発生時における現場急行や緊急配備等の各種警察活動を効率的に遂行するためには、通信指令室との間における指揮報告の送受や警察官相互の情報連絡を行うことのできる通信手段を装備することが不可欠である。
 したがって、従来から車載用無線機及び各種携帯無線機等の整備に努めており、昭和49年度末現在で、車載用無線機(白バイ用を含む。)は約7,000台となり、携帯無線機は約1万5,000台で警察官12人に1台、また、受令機については約6万台で警察官3人に1台となっている。
 しかし、車載用無線機の装備率は、全警察車両台数に対して約40%であるにすぎず、今後なお増強整備に努めていくことが必要である。
 携帯無線機については、これまで主として突発重大事案や災害等の警察活動用として整備してきたが、昭和49年度においては、地域住民と密着した日常警察活動の効率化を図ることを主眼として、警察署と警察官及び警察官相互間の通信連絡を確保するための第一線警察活動用携帯無線機を、大都市の警察署用に整備した。
ウ 無線通話可能区域の拡大
 警察活動を機動的にかつ効果的に遂行して行くうえで、通信連絡の確保とりわけ無線通信の確保は重要である。
 我が国は、その地勢上、無線通話の不能な地域、すなわち超短波不感地帯が多いが、これが警察活動の大きな支障となっているので、できる限り無線通話可能区域の拡大に努める必要がある。
 このため、超短波無線中継所の増設を進めてきた結果、昭和49年度末には、特に重要度の高い国道及び主要地方道上で、総延長約20万2,000キロメートルのうち、約78%の区域において無線通話が可能となった。
(2) 重要、突発事案と通信
 警察はいかなる事態が発生しても、敏速に対応しなければならないが、このため、指揮命令と情報連絡が迅速確実に行えるよう、機動性に富んだ通信手段を確保することが必要である。
 現在、警察本部と現地を結ぶ通信手段として、移動多重無線電話車、応急用無線電話機、可搬型超短波臨時中継機、可搬型写真電送装置あるいはヘリコプターテレビ等が、また、現場における通信連絡手段として、パトカー無線機、携帯無線機や応急架設電話等が活用されている。
 最近における重要、突発事案の多発傾向に対処して、これらの通信手段を強化するため、昭和49年度には、移動多重無線電話車、応急用無線電話機及び可搬型超短波臨時中継機を整備、強化した。
 応急用無線電話機は、昭和49年度から新たに開発整備した機器であって、持ち運びが容易であるため、山岳遭難等の場合のように移動多重無線電話車の活動が困難なとき、交通不便な現場と警察本部や警察署との間を無線電話で結び、現場における複雑な事案処理を迅速かつ能率的に行うことができる。

 また、重要、突発事案の発生時には、機動隊等とともに通信職員が現場に出動し、各種通信施設の架設や機器の調整、応急修理等通信確保のための機動通信活動を行っている。
 昭和49年には、移動多重無線電話車約1,700回の出動をはじめ、テレビ約270箇所、応急電話約2,500箇所の架設等を行い、これらのために出動した通信職員は、延べ7万人に及んでいる。
〔事例〕 小豆島風水害における機動通信活動
 昭和49年7月6日夜半、台風8号による集中豪雨のため、香川県小豆島において山崩れが発生したが、四国管区警察局香川県通信部はいち早く機動通信班(第1次6人)を編成し、各種通信機材を携行して警察本部機動隊とともに出動した。
 通信職員は、山崩れのため通行不能な道路が多く、落石、土砂崩れ等のおそれが大きいなかを臨時中継所や移動多重無線電話の開設、有線電話の応急架設、携帯無線機の部隊配置等を行った。
 更に、各種通信機器の点検、修理、電池交換のほか、活動部隊の転進に伴う通信実施計画の変更、通信施設の移転、資材の補給等警察活動に先行しての通信手段の確保に活躍した。
 これらの機動通信活動のため現地に出動した通信職員は、延べ80人に及んだ。
(3) 広域化、スピード化する犯罪と通信
ア 警察電話及びファクシミリ
 モータリゼーションの進展に伴って、最近における警察事案の広域化、スピード化の傾向はますます著しくなっており、都道府県間の緊密な連携協力による警察活動の展開や全国的な規模での情報交換の必要性が一層高まってきている。
 警察電話は全国すべての警察機関に設置されており、また、文書や写真等の原稿をそのまま電送できるファクシミリも、都道府県警察本部をはじめ全警察署に設置されて、全国にまたがる通信網を形成している。
 警察電話については、情報交換が更に迅速かつ便利に行えるよう、従前から自動交換機の設置による警察電話の自動即時化を推進してきたところであって、警察庁、管区警察局及び都道府県警察本部間については、既にすべて自動即時化されている。
 しかし、警察署交換機については、昭和49年度の整備分を含めても、なお全国警察署のうち約44%の署の自動化を完了しているにすぎない状況である。
 また、ファクシミリは、文書、図画、指紋等の情報を迅速、確実に伝達できるため、従前から、警察活動に適した通信手段として、極めて有効に活用されており、全国の警察相互間におけるファクシミリの利用状況をみても、図9-9のとおり、年々大幅な増加を示し、昭和49年中の取扱枚数は約1,100万枚、前年比18.5%の増となっている。
 このような大量に上る情報の円滑な疎通を図るため、在来の機種に比べて約4倍の処理機能を持つ高速度模写電送装置の開発、整備を進めてきたが、昭和49年度をもって全国の管区警察局及び警察本部への整備を完了した。

図9-9 全国警察間ファクシミリ利用状況の推移(昭和40~49年)

イ 移動無線通信系の改善
 広域的な警察活動を円滑、適切に実施するためには、パトカーや携帯無線機で隣接都道府県の無線周波数に合わせて通信連絡を行うことができるようにするなどの措置を講ずることも必要になる。従来使用していた30メガヘルツ帯の周波数では、無線機に周波数切替え機能を持たせることが困難であり、また、電気雑音の増加等によって通話範囲が限定されているところから、周波数の切替えが容易でかつ雑音に強い150メガヘルツ帯の周波数への移行を進めるとともに、2波以上の周波数が受信可能な無線機の整備を行ってきた。
 昭和49年度においても、6府県について移動無線通信系の150メガヘルツ帯への移行及びこれに伴う移動無線局の改善を実施し、この結果、49年度末には、26都府県が150メガヘルツ帯への移行を完了した。
ウ 高速道路通信系の整備
 高速道路上における警察活動は、都道府県の境界を越えた活動を要請される要素が多いので、それだけに通信の面においても、高速道路については、専用の通信系を設定することが有効である。
 このため、東名、名神の各高速道路に引き続き、昭和49年度においては、中央高速道路の一部区間に対する専用通信系の整備を行った。
エ データ通信施設
 第一線警察活動がより効率的に行われるよう、全国の犯罪情報をコンピューターで集中処理する警察情報管理システムの整備が進められ、そのうち、指名手配被疑者について第一線警察官からの照会に対し、即時に回答するシステムが昭和49年10月1日から運用開始された。
 通信関係においては、このための照会用端末装置を都道府県警察本部及び方面本部の照会センターに設置したほか、所要の通信回線の整備を行った。
(4) 国際化する犯罪と通信
 最近における国際交流の増大に伴って、多発傾向にある国際犯罪に対処するため、ICPO(国際刑事警察機構)無線網が整備され、加盟各国の緊密な連携の下に情報の提供、交換等を行い、犯罪の予防、解決に当たっている。
 ICPO東京無線局は、霞ヶ関通信所、中野及び小牧送信所等から成り、ICPO無線網における東南アジア地域中央無線局として、ソウル、マニラ、ジャカルタ、バンコク、ニューデリー等の東南アジア地域の各国家無線局やパリの国際中央無線局との間で交信を行っており、その取扱電報の増加状況は、図9-10のとおりである。

図9-10 ICPO東京無線局における電報取扱通数の推移(昭和42~49年)

 近年における犯罪の国際化の傾向は年を追って強まり、これに伴う情報量の増大に対処するため、国際商用テレックスの導入及び写真、指紋等を送受するファクシミリの採用等が検討されているほか、近くオーストラリアがこの無線網への加入を検討しているなど、ICPO無線網も更に充実、拡大が図られつつある。
 特に、昭和49年4月には、初のICPOアジア地域通信会議が東京で開催され、東南アジア地域加盟国間の連携協力を一層推進することを確認するなど多くの成果を収めた。

9 警察とコンピューター

(1) リアルタイムシステム
 オンライン・リアルタイムシステムの新規導入を中心とする全国警察情報管理システムは、警察庁情報管理センターを中心に逐年整備が進められているが、昭和49年は同システムの一部が実用の段階に入った年であった。
 すなわち、リアルタイムシステムの一部である指名手配照会業務が、1月からの同センターと東京、静岡、大阪の3都府県警察間の一部実施を経て、10月1日から同センターと都道府県間の24時間運用による全国実施が開始された。
 これは、全国の指名手配者を記録した警察庁情報管理センターのコンピューターと各都道府県警察照会センターのディスプレイ端末装置をデータ通信網で結び、第一線警察官からの照会に対し、指名手配の有無を即時に回答するものであるが、その実施効果は、犯罪捜査をはじめ諸般の警察活動の上に及んでいる。
 なお、リアルタイムシステムは、この指名手配照会業務に続いて、昭和50年10月から自動車ナンバー照会業務が実施される予定であり、都道府県警察照会センターに置かれるディスプレイ端末装置も、逐次増設される予定となっている。

(2) バッチ処理システム
 現在、警察庁がバッチ処理システムで行っている業務及びデータ取扱量等は、表9-5のとおりであるが、このうち、データ取扱量は毎年約6%の増加を示している。このため、コンピューターの容量のレベルアップを行うことになったが、これに伴い、現在実施中の各業務についても一段とスピードアップが図られるとともに、新たに、1指指紋照会業務が実施される予定である。これは、犯罪捜査資料として重要な役割を果たしている1指指紋をコンピューターに分類記録し、犯罪現場に残された遺留指紋等との照合を行おうとするもので、犯人の割り出し、余罪の発見等に大きな役割を果たすものと思われる。

表9-5 バッチ処理業務及びデータ取扱量(昭和49年)

10 研究体制

(1) 科学警察研究所
 科学警察研究所では、科学捜査、非行少年、防犯、交通安全等に関する研究、実験及びその研究を応用した鑑定・検査を行っている。
 昭和49年度の研究件数についてみると、前年度からの継続研究53件、新規46件合わせて99件(最近5年間の平均93件)となっており、その主なものは表9-6のとおりである。
 昭和49年中に開催された国際会議や外国の学会に招請されて発表した研究としては、「少量アルコールの運転時の注視行動に及ぼす影響について(昭和49年9月、第6回アルコール・薬物と交通安全に関する国際会議、カナ

表9-6 科学警察研究所の主要な研究例(昭和49年度)

ダ)」等があり、国内においても「青少年の薬物乱用の実態と今後の動向について」、「電算機を用いる交通制御システムのソフトウェアの改善に関する研究」等の論文を発表している。
 こうした研究の成果により、赤血球酵素型による個人の識別、種々の機器分析手法を利用した薬毒物の分析、オートラジオグラフィーによる塗りつぶされた文字の解読等が可能となった。
〔研究例〕 体温変化の数式化による死後経過時間の推定法の研究
 死亡とともに体温は徐々に下がるが、温度変化が少なく計測しやすい直腸温度の下降状況と、死体のあった場所の状況を全国各地における多数のデータを基に解析して数式化し、コンピューターモデルを作成した。この方法によれば、死後15~16時間までの経過時間をほぼ正確に推定できるが、更に精度を高めるため、気温その他の死体の置かれていた外的条件の影響についての詳細を研究中である。
 次に、鑑定・検査についてみると、科学警察研究所では、都道府県警察及び地方の鑑識センター(札幌、大阪、福岡)で行えない高度の技術を要する鑑定・検査を行っており、その状況は図9-11のとおりである。

図9-11 科学警察研究所の鑑定・検査件数(昭和40~49年)

 また、科学警察研究所では上述のほか、都道府県警察の鑑識技術向上を目的とする各種講習会の開催や、都道府県警察職員に対する研修も行っている。講習会は、各技術部門別に5人ないし10人を選考し、1週間から4週間の日程で実施されるが、例えば警察のポリグラフ検査資格者はここでの講習会修了者に限られており、ポリグラフ講習受講者は大学の心理学修習経歴者の中から選考される。なお、昭和49年には、毛髪、静電気及び銃器の3部門の講習会を実施した。
 更に、科学警察研究所では、都道府県警察の鑑識技術職員が検査業務の遂行に必要である鑑識科学関係検査法の体系化のため、検査法集の逐年刊行を図り、昭和49年にはその第1集として「血清学的物体検査法」を刊行した。
(2) 警察通信学校研究部
 警察通信学校研究部では、第一線の警察活動に密着した各種通信機器や通信方式等の研究活動を行っている。
 昭和49年度においては、警察署用模写電送装置に関する開発研究をはじめ、電子交換方式等の新技術に関する調査研究、データ通信用各種端末装置及び総合試験システムの調査研究等を実施した。
 最近の研究活動においては、エレクトロニクス技術の著しい進歩による情報化時代に対応するため、個々の目的別機器の開発研究のほかに、各種機器を総合して有効、適切に活用できる「システム」に関する研究が大きな比重を占めつつある。


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