第6章 交通安全と警察活動

1 道路交通の概況

(1) 自動車交通の現況  自動車による輸送は年々増大してきており、昭和48年度においては、旅客輸送(人キロ)の50.1%、貨物輸送(トンキロ)の41.7%を自動車が分担している。旅客輸送については、図6-1のとおりで、昭和39年度から昭和48年度までの10年間に、鉄道の旅客輸送量は、わずか1.3倍に増加したにすぎないのに対し、自動車の旅客輸送量は3.1倍と急激に増大してきた。貨物輸送についても、図6-2のとおり同じ期間に、鉄道の輸送量はほぼ横ばいであるのに対し、自動車の輸送量は3倍と飛躍的に増大してきた。
 このように、自動車輸送はその「戸口から戸口へ」といった利便性、経済性等によって着実に輸送分担率を伸ばしてきたが、他面において、交通事故、交通公害等の社会問題を引き起こすこととなった。
 交通事故による死者数をみると、昭和49年には著しい減少を示したものの、なお1万1,432人の多数に上り、また、交通渋滞による輸送効率の低下や、交通騒音、排出ガスによる環境悪化も依然として大きな都市問題の一つである。また、昭和48年末から49年にかけて発生した石油危機を契機として、新たに燃料の一層効率的な使用が求められることとなり、エネルギー効率の高い大量輸送機関を中心とした省資源型の交通体系の整備が、長期的な課題として見直されることとなった。
ア 2.2世帯に1台の乗用自動車
 我が国の自動車保有台数は、昭和49年中に276万台増加して、年末には、2,771万台に達した。このうち、乗用自動車は、図6-3のとおり、1,292万台を数えており、2.2世帯に1台の割合となった。

図6-1 輸送機関別旅客輸送の推移(昭和39~48年度)

図6-2 輸送機関別貨物輸送の推移(昭和39~48年度)

図6-3 自動車保有台数の推移(昭和45~49年)

イ 保有台数の伸び率の鈍化
 我が国の自動車保有台数は、図6-4のとおり、ほぼ国民総生産の増大と並行して増えてきているが、特に、乗用自動車の保有台数は、急激な伸びを示している。しかし、昭和49年においては、乗用自動車、貨物自動車とも伸び率が、従前に比べ若干鈍化している。なお、運転免許所持者数は、昭和49年末に3,214万人に達し、16歳(運転免許を与えることのできる最下限の年齢)以上の人口中に占める割合は39.6%(2.5人に1人の割合)となっている。

図6-4 自動車保有台数、運転免許所持者数等の推移(昭和40~49年)

ウ 燃料消費量の増大
 昭和48年中に自動車が消費した燃料は、全燃料油の69.1%(ガソリンの95.4%、軽油の59.9%)を占めている。自動車燃料消費量の推移をみると、図6-5のとおりであり、昭和48年度におけるガソリン、軽油、LPGの消費量は44年度に比べると、それぞれガソリンは42.0%、軽油は19.8%、LGPは27.0%増加している。

図6-5 自動車燃料消費量の推移(昭和44~48年度)

 しかし、トラック1台当たり、乗用車1台当たりのガソリン消費量は、図6-6のとおり、低下してきており、1台当たりの走行キロが減少している様子がうかがわれる。
(2) 石油危機と自動車交通
 昭和48年末のアラブ石油国輸出機構(OAPEC)による石油供給削減措置は、石油消費量の99.7%を輸入に依存している我が国に深刻な影響を及ぼした。この緊急事態に対処するための石油節減対策の一環として、休日のマイカーの高速道路への乗り入れを自粛する運動や、毎時40キロメートルの経済

図6-6 自動車一台当たりのガソリン消費量の推移(昭和44~48年度)

速度を励行する運動等が展開され、また、石油供給が緩和された後も、これら自動車の燃料節約の呼び掛けが引き続き政府の「資源とエネルギーを大切にする運動」の一環として進められている。
 このような国民運動を背景として、また、ガソリン価格の上昇や景気の後退等ともあいまって、交通量の減少、走行速度の安定化という現象が全般的にみられることとなった。
ア 月別ガソリン消費量の推移
 昭和48年と49年における月別のガソリン消費量の推移は、図6-7のとおりであり、49年のガソリン消費量は、前年に比べ5.4%減少している。
イ 減少した自動車交通量
 昭和47年から49年までの首都高速道路における自動車交通量の推移は、図6-8のとおりで、48年末に交通量が急激に減少し、49年中の交通量は、前年を1.7%下回る結果となっている。しかし、都市間交通が圧倒的に多い東名高速道路と名神高速道路では、図6-9のとおり、昭和48年末から49年の

図6-7 自動車のガソリン消費量の月別推移(昭和48、49年)

図6-8 首都高速道路の交通量の推移(昭和47~49年)

図6-9 東名・名神高速道路の交通量の推移(全線日平均交通量)(昭和47~49年)

初めにかけて交通量の減少が観測されたが、それ以降はほぼ前年なみの推移を示している。
ウ 走行速度の安定化
 昭和48年と49年における月別の25キロメートル以上の速度超過の違反取締件数の推移は、表6-1のとおりであり、49年においてはその件数、割合ともに低下してきているが、このことは、走行速度のばらつきが少なくなり、交通の流れが全体として安定化してきた状況を物語っている。また、高速運転中の交通事故も昭和48年末に激減したが、表6-2のとおり、49年中も概して減少しており、自動車の最高速度が全般的に低下したことを示している。

表6-1 速度違反(25km/h以上超過)取締件数の推移(昭和48、49年)

表6-2 第一当時者(主原因者)となった自動車(原付以上)の事故直前の速度(昭和49年)

エ 交通渋滞時間の推移
 昭和47~49年について、大阪府内の主要交差点143箇所における渋滞発生回数及び時間の推移を月別に示したものが、図6-10であるが、昭和49年中の交通渋滞(注)の発生は、約1万5,700回、延べ約2万2,600時間で、前年に比べ回数(約1,700回、6.9%)、時間(約760時間、3.2%)とも減少し、おおむね昭和47年の水準になった。
(注) ここでいう交通渋滞とは、500m以上の車列が30分以上継続した状態をいう。

図6-10 月別交通渋滞発生状況(昭和47~49年)

オ 交通事故の推移
 昭和47~49年の月別交通事故の発生件数と致死率とを示したものが、図6-11、図6-12である。交通事故の月別発生件数(注1)は、昭和48年末に大幅な減少を示し、49年中も減少傾向が定着した。致死率(注2)については、昭和49年5月から10月にかけての6箇月間において、前年に比べて大幅な低下が見られることが注目される。

図6-11 交通事故発生件数の推移(昭和44年~49年)

図6-12 致死率の推移(昭和47~49年)



(注1) 交通事故の発生件数には人身事故のみを計上している。
(注2) 致死率とは、交通人身事故件数中に占める死亡事故件数の割合である。

(3) 交通事故の発生状況
 交通事故は、昭和45年に年間死者数1万6,765人という史上最高を記録したが、翌年以降4年連続して、死者数、負傷者数ともに減少してきた。
 昭和49年中の死者数は、図6-13のとおり、1万1,432人で、前年に比べて3,142人(21.6%)減と、顕著な減少を示したが、この死者数は、昭和37年並の水準である。負傷者数は65万1,420人で、前年に比べて13万8,528人(17.5%)減であり、死者数、負傷者数ともその減少数(率)はそれぞれ史上最高であった。発生件数も49万452件で、前年に比べて16.4%減と大きな減少を示し、昭和45年以来、5年連続して減少してきた。
 ちなみに、この死傷者数の減少によって、配偶者を失わずにすんだであろう人は約1,300人、父又は母を失わずにすんだであろう子供は約1,500人と推

図6-13 交通事故死者数の推移(昭和40~49年)

計され、経済効果を保険金額で推計すると、約574億円に達するなど、多大の好影響を社会に及ぼしたことになる。
 しかしながら、昭和49年中は一日平均で、なお、

死者数 31.3人 (対前年比8.6人減)
負傷者数 1,784.7人 (〃379.5人減)
発生件数 1,343.7件 (〃263.7件減)

という多数の事故と死傷者が発生したことになり、交通事故防止は依然として大きな社会的課題となっている。
ア 全国的特徴
(ア) 都道府県別の事故発生状況
 昭和49年中の交通事故による死者数を都道府県別にみると、前年比較では47都道府県中46都道府県が減少し、増加したのは1県のみであった。図6-14のとおり、5年連続減少しているのが5都県、4年連続減少しているのが4県もあり、この9都県には、大都市を有する東京、愛知、兵庫及び神奈川が含まれている。
 昭和49年の死者数が過去最高の年間死者数に比べてほぼ半減している都府県をみると、東京がピークであった昭和35年1,179人の36.8%(434人)、大阪が36年1,098人の46.8%(514人)、となっており、他の道府県においても、近

図6-14 都道府県別死者数連続減少状況(昭和49年)

図6-15 都道府県別人口10万人当たり死者数(昭和49年)

い将来交通事故死者数を半減させ得ることを示している。
 死者数を人口10万人当たりでみると、図6-15のとおり、死者については全国平均10.4人で、最高は茨城県の21.0人、最低は東京都の3.8人となっている。負傷者については、全国平均519.2人で、最高は福岡県の983.8人、最低は沖縄県の280.7人となっている。それぞれの最高と最低を比べると、死者数については5.5倍、負傷者数については3.5倍となり、地域によってかなりの格差がみられる。
(イ) 死者のほぼ半数は歩行者と自転車利用者
 交通事故による死者数を状態別にみると、図6-16のとおりで、歩行中の死者が4,140人(全死者中の36.2%)、自転車乗車中の死者が1,299人(同11.4%)となっており、依然として全死者の半数近くが両者で占められている。

図6-16 状態別交通事故死者数の構成率(昭和49年)

 状態別の対前年比死者数をみると、表6-3のとおりで、自転車乗車中が23.6%減、歩行中が23.0%減、自動車乗車中が21.0%減、二輪車乗車中が18.1%減であって、二輪車乗車中の減少率が最も低くなっている。
(ウ) 目立つ中学生層の死者増
 昭和49年中の人口10万人当たりの交通事故による男子死者数を、年齢別にみると、図6-17のとおりで、70歳以上の老人層、16~18歳のハイティーン、

図6-17 状態別、年齢別人口10万人当たりの交通事故死者数(男)(昭和49年)

表6-3 状態別交通事故死者数(昭和48、49年)

3~5歳の幼児の犠牲者が比較的多いことが注目される。
 更に、人口10万人当たりの自動二輪車運転中の死者数を年齢別にみると、16歳が30.0人、17歳が26.9人、18歳が7.0人と多数を占め、また、自動車運転中では20歳が15.7人、19歳が15.5人となっている。
 年齢層別に対前年比の減少率を比べてみると、表6-4のとおり、他の年齢層がいずれも20%を上回る高い減少率を示しているのに対し、中学生層(13歳以上15歳以下)の年代だけが前年比6.9%の増加を示しているのが特徴的である。

表6-4 年齢層別の死者数(昭和48、49年)

(エ) 減少率が低い二輪車による事故
 昭和49年中の事故を第一原因者別にみると、表6-5のとおり、昭和48年に比べて各原因者とも減少しているが、その中でも二輪車による事故の減少率が15.3%と減少率において最も低くなっている。
 なお、前年と同様に自家用自動車による事故が、全事故の70%近くを占めている。

表6-5 第一原因者別死亡事故件数(昭和48、49年)

(オ) 特に危険な最高速度違反、酒酔い運転の事故
 昭和49年中の死亡事故の主原因となった道路交通法違反別の構成率をみると、表6-6のとおりで、最高速度違反が12.8%と最も多く、わき見運転10.5%、酒酔いが9.7%と大どころを占め、追越し違反4.9%、交差点の徐行・一時停止違反3.0%等がこれに次いでいる。
 特に目立つのは、死亡事故構成率の高い最高速度違反及び酒酔い運転が、件数においては横ばい状態から減少に転じながら、減少率が他の原因に比べて低いため、構成率が連続して増加し、22%余を占めていることである。
(カ) 死亡事故の類型別特徴
 昭和49年中の死亡事故件数1万845件について類型別にみると、表6-7のとおりで、人対車の事故が全事故の36.2%を占めている。自転車対車は

表6-6 原因別死亡事故の推移(昭和47~49年)

11.1%、車対車は27.1%、車単独事故は20.5%であった。
 昭和48年に対する増減率でみると、人対車が23.3%の減少、自転車対車が23.9%の減少、車対車が25.1%の減少といずれも減少率がかなり高いのに、車単独は13.3%の減少にとどまっている。
 特に目立つのは踏切事故で、原付の踏切事故が10件、自動車の踏切事故が8件増えたこともあって、対前年比でわずか1.1%減にとどまった。

表6-7 類型別死亡事故件数の対前年比較(昭和48、49年)

(キ) 市街地で多い交差点の事故
 昭和49年中の全交通事故件数を道路の形態別、形状別にみると、図6-18のとおりで、市街地では全事故の約40%が交差点において発生しており、都市部においては交差点やその付近が特に危険であることを示している。
イ 高速道路の交通事故
(ア) 低い事故率、高い致死率
 高速道路(高速自動車国道をいう)は、昭和49年に239.2kmが新たに供用開始され、同年末における総延長は1,453kmとなった。
高速道路における交通事故の推移は、表6‐8、図6‐19のとおりで、昭和49年には人身事故2,212件、物損事故7,041件の発生をみたが、前年比では、供用延長が伸びたにもかかわらず総件数で13.3%減少した。
 高速道路と一般道路の人身事故率を比較すると、表6‐9のとおりで、高速道路は、立体交差であること、自動車専用の分離交通であることなどのため、事故は一般道路の約10分の1にすぎないが、高速走行のため、一たび事故が発生すれば大事故となり、死者の発生する率は一般道路の2倍に近い。また、続発事故の危険があるなど、一般道路より危険性の高い面もある。

図6-18 道路形態別、形状別交通事故発生状況(昭和49年)

図6-19 高速道路における交通事故の構成率(昭和49年)

表6-8 高速道路における交通事故の発生状況(昭和45~49年)

表6-9 高速道路と一般道路における事故率(昭和49年)

(イ) 4割余が車両単独事故
 高速道路における交通事故を類型的にみると、図6-20のとおりで、車両相互事故54.6%、車両単独事故43.7%、その他1.7%の割合であり、車両単独事故の割合は一般道路での割合に比べ4倍強と著しく高い。このように、車両単独事故が多いのは、高速走行の不慣れ、速度の出し過ぎ、居眠り等が原因していると思われる。

図6-20 高速道路交通事故の類型別発生状況(昭和49年)

 車両相互事故について、その類型をみると、走行車に追突31.6%、本線上停止車に追突17.2%、ゲート停止車に追突7.0%で、いわゆる追突事故が全体の58.8%を占めており、高速道路においては、車間距離不保持、わき見運転等が直ちに事故につながることを示している。
ウ 交通事故の減少要因と今後の展望
(ア) 交通事故の減少要因
 昭和49年中の交通事故は、発生件数で16.4%、死者数で21.6%、負傷者数で17.5%と、前年に比べそれぞれ減少したが、その減少理由は、まず長期的要因として、多年にわたる交通安全施設の整備等をはじめとする総合的な交通安全対策の積み重ねが、ようやくその効果をあげてきたことが考えられる。10数年前の安全対策は、警察官のいわば人海戦術による交通取締活動が中心であったが、その後、
○ 信号機、歩道、道路、道路標識等の交通安全施設の整備
○ 交通規制の強化
○ 交通警察官、交通巡視員等の増強による街頭監視活動の強化
○ 運転免許制度の改善、点数制度の採用等の運転者対策の充実
○ 国民総ぐるみの交通安全教育とそれによる国民の安全意識の高揚
等幅広く各分野の対策を充実させてきたことが、交通事故の減少に大きく貢献したものと考えられる。
 また、短期的要因として、昭和48年末の石油危機とその後の総需要抑制策に伴う経済活動の鈍化という情勢をとらえて集中的に展開したスピードダウン対策(事故多発区間の速度規制、経済速度による走行の呼び掛け等)が浸透し、交通事故の減少に好ましい影響を及ぼしたものと考えられる。
(イ) 今後の課題
 このように交通事故が激減したのは、各種の交通安全対策の総合的な成果に負うところが大きいが、今後、自動車交通が更に伸展して交通情勢が広域的に悪化していくことが予想されること、また、過去においても、一時的に死者数が減少してもその後再び増勢に転じていることなどから、現時点において交通事故防止の諸対策をいささかでも手控えることがあれば再び交通事故の増加を招来する可能性が多分にある。最近における交通事故の減少傾向を長期にわたって持続させていくためには、引き続き交通安全施設の整備、交通規制の強化、効果的な交通指導取締りの実施、運転者の資質の向上のための施策、交通安全教育等の諸対策を強力に推し進める必要がある。
 特に都市については、都市化の進展に伴い、旅客と貨物の輸送需要が増加、集中したことなどから、道路交通の異常なまでの過密化もみられ、その結果、 全国的には死亡事故は、昭和46年以降連続して減少し、49年には前年に比べて21.6%も減少しているにもかかわらず、都市の中には逆に増加しているところもあり、交通事故防止対策を進める上で大きな問題となっている。なお、交通事故とは別に、交通渋滞は恒常化し、更に大気汚染、騒音等により生活環境も悪化している。このような状況から、都市の道路交通の在り方について、これを問い直すとともに、現在進めている都市総合交通規制を軸とする諸対策の一層の推進が必要である。

2 都市環境と交通

(1) 都市の交通問題
 自動車交通のもたらす弊害は、人口が集中し、移動の機会が多い都市部に集約的に現れている。大量の自動車交通は、交通渋滞の慢性化を引き起こすばかりでなく、歩行者、自転車用の空間を狭め、道路環境等施設の未整備ともあいまって、交通事故や交通公害の発生、増大をもたらしている。
ア 都市の交通事故
(ア) 人口10万人以上の都市の事故の状況
 全国の人口10万人以上の都市168市における昭和49年中の死者数は4,326人に上り、全国交通事故死者数の37.8%に当たっている。これら各都市の人口10万人当たりの死者数の平均は7.4人であり、全国平均の10.5人に比べてかなり下回っている。これら168市(注)の死者数を昭和48年のそれに比べてみると、減少している都市が127市、増減なしが12市、増加が29市となっており、減少している都市の数が前年の98市から大幅に増加している。
 人口10万人当たりの死者数の多い都市は、表6-10のとおり、山口市28.4人、熊谷市21.9人、鈴鹿市21.6人等となっているが、他方、死者数の少ない都市は、表6-11のとおり、東村山市0人、武蔵野市0.7人、府中市1.1人等となっているようにその都市の間には大きな格差がある。
(注) 東京23区は1市と数える。

表6-10 人口10万人以上の都市で人口10万人当たり死者数の多い10市(昭和49年)

表6-11 人口10万人以上の都市で人口10万人当たり死者数の少ない10市(昭和49年)

(イ) 人口10万人未満の都市の事故の状況
 人口10万人未満の都市475市についてみると、昭和49年中にこれらの都市で2,839人の交通事故死者があり、これは全国の交通事故死者数の24.8%に当たっている。これらの都市における対前年比の死者減少率は21.8%で、全国平均の減少率21.6%とほぼ同率であるが、各都市平均の人口10万人当たり死者数は12.0人で、全国平均の10.5人、また人口10万人以上の都市における7.4人を上回っていることに問題がある。
 これら475都市の対前年比の死者の増減をみると、増加している都市が129市あり、増減なしが47市、減少が299市である。増加している市が、475市中の30%近くあることは、今後の交通事故防止対策上検討を要する課題といえよう。
 人口10万人当たりの死者数の特に多い都市をあげると、表6-12のとおり、宿毛市及び黒磯市が50.6人と最も多くなっている。他方、死者数の少ないところは、表6-13のとおりで、田無市、福生市、岩倉市、天竜市、両津市、山田市の6市において死者数が0人となっており、このように人口10万人当たりの死者数の多い都市と少ない都市の間における格差は極めて大きい。

表6-12 人口10万人未満の都市で人口10万人当たりの死者数の多い10市(昭和49年)

表6-13 人口10万人未満の都市で死者数の少ない市(昭和49年)

(ウ) 都市の交通流の特徴と事故分布
 都市における人口10万人当たりの死者数の格差が大きいことに着目して、昭和49年に、死者数の多い中小都市42市を対象として、都市の道路網、交通流等の状況を調査した。一般に、都市交通の流れはおおむね次の4つの基本的パターンに分類されるが、調査した42市の交通流パターンは表6-14に掲げるとおりであった。
(I) 貫流型 主要な交通の流れが都市の中心部を貫流しており、通過交通と域内交通(1都市内等単一生活圏を移動する交通)が交錯しているもの。都市の規模としては一般的に小都市型である。
(II) 分離型 主要な交通の流れが都市の中心部から離れた地域を通過しており、通過交通の大部分が城内交通と分離されているもの。都市の規模としては中小都市型である。
(III) 放射型 都市間道路とともに都市内部の道路網もかなり発達しており、通過交通、域内交通及び都市内に起・終点のいずれかをもつ交通が混在しているもの。都市の規模としては中都市型である。
(IV) 網目型 市街地域が広域で道路網が縦横に発達し、交通の動きが市の区域全体に及んでおり、交通の内容としては域内交通の比重が大きく、また、通過交通の影響を受けにくいもの。都市の規模としては大都市型である。
 次に、42市の調査結果から都市における交通死亡事故の発生形態についてみると、各都市の性格に応じて微妙な相違があるが、貫流型の都市においては、特定の路線に集中して発生する「路線集中型」が多い。分離型及び放射型の都市においては、死亡事故の大部分が幹線道路で発生しているが、幹線道路全体に分散して発生している「路線分散型」の場合もあり、また、特定の道路、区域に集中せず、市の区域全体に分散して発生する「面分散型」の場

表6-14 調査42都市の都市交通形態と死亡事故形態

図6-21 貫流型、「路線集中型」の例(熊谷市)

合もある。図6-21は、貫流型、「路線集中型」の一例を示したものである。
イ 都市の交通公害
 自動車の通行に起因する大気の汚染、騒音、振動による被害は、市街地や幹線道路の沿道ばかりでなく、住宅地域においても問題化しているが、昭和49年中に警察が受理した交通公害に関する住民からの苦情や陳情は、大気汚染に関するもの174件、騒音に関するもの7,179件、振動に関するもの1,383件となっており、昭和48年の受理件数と比べて大気汚染に関するものが減少し、騒音、振動に関するものが増加している。
 騒音の発生源としては、自動車のほか工場、建設工事等があるが、東京都区部においては、騒音の発生源別寄与率は、自動車44.9%、工場6.9%、一般音(人の声、冷暖房等設備音、鉄道軌道音等)36.7%、不特定音11.5%となっており(昭和48年東京都公害研究所「東京都区部における環境騒音の調査」)、環境騒音の発生源として自動車の占める割合が大きい。
 大気汚染については、自動車排出ガスの許容限度の規制の強化が図られてきたことにより、大気中における一酸化炭素濃度は減少する傾向にある。自動車の排出ガスもその一因である二酸化窒素及びオキシダントについては、表6-15、表6-16のとおり、横ばい又は若干増加の傾向にある。

表6-15 二酸化窒素の経年変化(昭和44~48年度)

表6-16 オキシダントの経年変化(昭和44~48年度)

 オキシダント注意報発令回数は表6-17のとおりで、前年に比べて減少している。オキシダント濃度については、昭和48年、49年中において、オキシダント濃度1時間値が0.30ppm以上を記録した例は表6-18のとおりで、大都市周辺部において高濃度汚染が発生している。

表6-17 オキシダント注意報発令回数の推移(昭和47~49年)

表6-18 0.30ppm以上のオキシダントの発生(昭和48、49年)

(2) 都市総合交通規制の展開
ア 交通規制の実施状況
 都市交通問題を根本的に解決するためには、都市構造の改善、大量輸送機関の整備充実等根源にさかのぼった対策が必要であることはいうまでもないが、これらの対策は、事柄の性質上、早急な実現を期待できないため、当面の解決策として、交通規制に対する期待が高まっている。
 最近、都市においては、道路交通事情の悪化が都市全域に広がっており、従来の個別的な地点、路線を対象とした個々の規制のみによっては、安全で円滑でかつ公害のない道路交通環境の実現が困難になってきている。都市総合交通規制は、このような都市の交通事情に着目して、自動車交通総量の削減、道路利用の合理的配分及び交通流のパターンの改善を目的とした各種の規制を組み合わせ、システム的な交通規制を都市全域にまで拡大実施しようとするものであり、当面は、人口10万人以上の168都市を対象として推進している。
〔事例1〕 東京都総合交通規制
 都民の安全で快適な生活環境を確保することを目的として、通過交通を住宅区域から排除するためのいわゆるTU規制(規制の形がTの字やUの字となる袋小路作戦)、繁華街地域を中心として家族連れで楽しめる街とするため、一定地域から車を締め出す規制(ファミリータウン規制)、自動車走行による交通騒音、振動及び有害排出ガスを規制するための都内幹線道路の最高速度の40キロメートル指定等を有機的に組み合わせて実施した。また、都下中小都市における総合交通規制の皮切りとして、昭島市全域(17.2平方キロメートル)を対象に、大型トラックの通行制限、住宅団地等における車の締め出し規制、夜間における騒音防止のための貨物自動車の通行禁止、夜間における幹線道路の通行区分の指定、小学校、幼稚園を中心とするスクール・ゾーンの指定等の交通規制を実施した(警視庁)。

図6-22 昭島マイタウン化交通規制図

〔事例2〕 大阪市総合交通規制
 住宅区域からの車の締め出しを図る住区対策、大阪市北新地、南地等の盛り場7地域における車の締め出し規制、市中心部全面駐車禁止をはじめとする総合交通規制を実施した(大阪)。
 昭和49年12月末現在における人口10万人以上の168都市の交通規制の実施状況は、図6-19のとおりであり、この1年間に路線バス等専用通行帯(以下バス専用レーンという。)、バス等以外の車両通行止めは2倍以上に伸びている。
 また、都市総合交通規制を含めた全国における主要交通規制の年別推移は、表6-20のとおりであり、昭和47年3月末に比べて駐停車禁止路側帯が14倍、パーキングメーターによる駐車時間制限が10倍、路線バス等専用通行帯が8倍と、各種の規制は著しい増加を示している。

表6-19 人口10万人以上の168市の交通規制実施状況(昭和48、49年)

イ 交通総量の削減
 都市における自動車交通量がその適正交通容量を超えている場合には、現実の交通需要を満たしつつ、全体として自動車の走行キロを抑制するため、より輸送効率の高い交通手段に転換させることが必要である。その対策の一環として、当面、警察は都心部を中心とする面的駐車規制、バス優先対策、物資輸送の合理化促進等により、都市の自動車交通総量の削減を図っている。
 駐車規制については、従前の路線単位から地域単位の面的規制に移行しつつあり、パーキング・メーターの設置等により短時間の駐車需要にこたえながら面的駐車禁止区域を拡大している。
 昭和49年12月末現在における大都市の駐車規制率及びパーキング・メーターの設置数は、表6-21のとおりである。
 東京都の場合、駐車禁止区域は、都心3区を含む135平方キロメートルの区域まで拡大されているが、その駐車禁止区域拡大による効果は、表6-22のとおりである。
 バス優先対策としては、バス優先レーン、バス専用レーン、バス等以外の車両通行止め等の交通規制があるが、交通総量の削減を図る見地から特にバ

表6-20 交通規制の推移(全国)(昭和47~49年)

表6-21 大都市の駐車規制率及びパーキング・メーター設置数(昭和49年12月末)

表6-22 駐車実態調査結果(東京)(昭和48、49年)

ス専用レーン、バス等以外の車両の通行止めに重点をおいて実施している。
 昭和49年12月末現在における路線バス等の優先対策としての全国の交通規制は、表6-23のとおりであり、48年2月末現在と比べて、バス専用レーン、バス等以外の車両通行止めは2倍以上の増加を示している。
 また、バス優先対策の実施に当たっては、自家用乗用車からバスへの転換が容易になるように、バスの増発、終バス時間の延長、乗降方法の改善等バス運行サービスの改善を関係方面に要請するなど、関係諸対策が総合的に推

表6-23 路線バス等の優先対策としての交通規制(昭和48、49年)

進されるよう配慮している。
 なお、物資輸送の合理化としては、特に当面、問屋街、デパート、スーパーマーケット等に対して、集配送の共同化、一元化、商品の集約化、代行納品制度の採用、配送(流通)センターの設置等、物資輸送の合理化の促進を要請しているが、これについては物流施設の再配置等の関連施策を同時に推進する必要がある。
〔事例1〕 3S作戦
 大量輸送機関としてのバスの機能を回復し、バスを利用する都民の利便を図るため、昭和49年12月20日から船堀街道等6路線26.3キロメートルにおいて、バスをより円滑に(スムーズ)、よりゆったりと(スペーシャス)、より安全に(セーフ)運行させる施策として、バス専用レーン、優先レーンの設定、バス停留所付近のアクセス標示等の設置を行った結果、他の関連施策ともあいまって表6-24のような顕著な効果がみられ

表6-24 船堀街道における3S作戦の実施効果(昭和49年)



た(警視庁)。
〔事例2〕 ゾーンバス・システムの導入によるバス優先対策
 バスの優先通行を図るため、昭和49年11月28日から大阪市平野区及び東住吉区において、バス専用レーン、バス等以外の車両通行止め等各種の交通規制を実施したが、大阪市もこれに応じてゾーンバス・システムによるバス系統の再編成を行った。
 ゾーンバス・システムとは、おおむね1キロメートル四方のゾーンを巡回する「支線バス」と利用者の集中する都心部又は鉄道駅を結ぶ「幹線バス」を設け、両者を一区料金で乗り継ぐことを認める新しいシステムであり、各種交通規制とあいまって利用者の待ち時間の減少や、運行系統を異にする路線の重複区間におけるいわゆるダンゴ運転等の非効率的運行の解消を図るものである(大阪)。
〔事例3〕 バス等以外の車両通行止めによるバス優先対策
 那覇市内中心部の幹線道路(片側1車線)3.4キロメートルの区間について、朝の7時から9時までの間、バス、タクシー以外の車両の通行禁止の交通規制を昭和49年8月1日から実施したが、この結果、次のよ

図6-23 ゾーンバス優先対策交通規制略図

うな効果がみられた。
○ 同区間におけるバスの所要時間は、規制前の52分から規制後は10分にまで減少した。
○ 同区間におけるバスの運行回数が34.0%(規制前109回が規制後146回に)増加し、バス利用者も37.4%増加した。
○ 市内中心部への流入自動車が15.2%減少した。
○ マイカーからバスへ切替えた者は、朝の7時から9時までの2時間で推定約1,300人の多数に達した。
○ 規制道路以外の道路においても交通渋滞が緩和され、路線バスの定時運行が確保された(沖縄)。
〔事例4〕 「電車方式」による路線バスの優先対策
 盛岡市内のバス運行路線で交通渋滞の最も著しい区間2.6キロメートルにおいて、昭和49年10月1日から路線バス優先対策として、朝の7時50分から8時10分までの20分間、バス以外の車両の通行禁止の規制を実施するとともに、その時間帯に路線バスを集中的に増発させ、2台を1組とした路線バス3組を5分間隔で運行させるいわゆる「電車方式」を導入し、地域住民から高く評価された(岩手)。
〔事例5〕 バス専用レーンとバス専用信号機の併設によるバス優先対策
 バス専用レーンの設定と、バスの接近を感知して優先的に通行させるバス優先信号機とを組み合わせたバス優先対策を、昭和49年12月1日から長岡市内において、12月20日から神戸市内においてそれぞれ実施して、バスの運行を円滑化した(新潟、兵庫)。
ウ 道路利用の合理的配分と交通流のパターンの改善
 都市における交通事情の悪化は、通過交通と域内交通の混在や速度差のある交通の混在等により、交通流が不安定な状態になっているところに主たる原因がある。
 したがって、都市内の道路を通過交通用、地域交通用、地域の日常生活用等機能別に分類し、これに応じて、指定方向外進行禁止、一方通行、通行禁止等の規制(アクセスコントロール)を行い、道路の機能に応じて交通量を配分するとともに、速度規制、信号機の系統化等の対策を実施し、併せて流れのパターンの最適化を図ることが必要である。これを目指した総合的な交通規制は、ほとんどの都市で計画されており、交通事故、交通渋滞、交通公害等の障害の多い地区から逐次実施に移されている。
 昭和49年中に、各都道府県警察で実施した都市総合交通規制のうち、道路交通量の再配分を目指した規制の事例としては、次のようなものがある。
〔事例1〕 日立市においては、国道が市の中心部を貫通しているため、国道沿線を中心とした商店街及び住宅地域での住民の生活環境が著しく脅かされていることから、これらの地域の歩行者の通行の安全、生活環境の改善を目的として、昭和49年12月20日から都心部1平方キロメートルを対象として、全面終日駐車禁止、指定方向外進行禁止、信号機のコントロール等により、国道から通過交通を締め出し、国道よりも道路交通条件のよい市道に通過交通用道路としての機能を持たせ、その通過性を高めるための交通規制及び信号制御を行った。これは、地域交通と通過交通を、道路の名目上の種別による分離でなく、道路交通の状況に応じて分離したものである。更に低速度規制による車の流れの安定化、歩行者用道路、一方通行、指定方向外進行禁止規制の組合せによる生活道路への車の流入防止対策を実施し、成果をあげた(茨城)。

図6-24 日立市交通規制図

〔事例2〕 甲府市の中心部である商業地域0.7平方キロメートルを対象に、昭和49年11月25日から同地域における徹底した歩行者の通行の安全、生活環境の改善を図ることを目的として、一方通行と歩行者用道路の組合せ規制による生活ゾーン対策、毎時20~30キロメートルの低速度規制による走行の安定化、駐車禁止区域の拡大による不要不急車両の乗入れ規制を中心とした総合交通規制を実施し、中心部の交通総量規制、交通事故の防止、騒音の減少等に効果をあげた(山梨)。
〔事例3〕 石巻市においては、市街部19.9平方キロメートルを対象に、排出ガス等の交通公害と交通渋滞を防止するとともに産業道路と生活道路を分離することを目的として、昭和49年6月1日から大幅な一方通行規制による交通の円滑化、指定方向外進行禁止による交通の流れのパターンの改善、歩行者用道路の設定による生活道路からの車の締め出しを行った結果、都心部の交通量や自動車排出ガスの発生を減少させ、規制区域内の交通事故数も規制後3箇月で前年同期の半数以下に減少させた(宮城)。

表6-25 石巻市における規制の内容

〔事例4〕 山形市においては、大型車による脅威から市民を守るとともに交通騒音の防止を図ることを目的として、昭和49年10月15日から人家の密集する山形旧市内のほぼ全域(13.6平方キロメートル)について、大型貨物自動車の終日通行禁止の交通規制を実施した結果、朝・夕の騒音を10.3~18.3%減少させた(山形)。
〔事例5〕 米沢市においては、自転車の安全利用を促進するとともに、既存道路のスペースを自動車、自転車及び歩行者にそれぞれ適正に配分することによって自動車交通総量の抑制に資することを目的として、昭和49年10月20日から市内幹線道路を含む13路線について、道路の両側に自転車専用通行帯、歩行者や自転車の安全確保のための駐停車禁止路側帯を優先的に確保することとし、残余のスペースを自動車1車線の一方通行とし、併せて自転車駐車場の設置、駐車禁止規制、速度規制、右(左)折禁止等の関連規制を実施した(山形)。

図6-25 米沢市交通規制図

(3) 環境保全のための交通規制
 都市における大気汚染を防止するための交通規制としては、特に自動車の交通総量の削減を重点とした総合的な都市交通規制を推進している。汚染度の高い個々の地点や路線については、信号調整、速度規制等の個別対策を実施するほか、自動車専用道路等については、通行車線の指定等により騒音、振動の防止に努めている。なお、自然環境保全のためには交通規制の役割が大きいところから、公園、観光地等自然環境保全を必要とする地域についても、通行禁止を含む積極的な交通規制に取り組んでいる。
〔事例1〕 幹線道路における騒音、振動防止対策
 東京都内でも特に貨物自動車の通行が多い第一京浜国道、第二京浜国道、明治通り等8路線の約48キロメートルの区間において、昭和49年5月9日から、23時~6時までの間、次のような車両通行区分の指定をして大型車を中心部に寄せるとともに、信号の系統化により自動車の交差点通過を円滑にさせた。その結果、その路線沿線では騒音が4ホン程度減少した(警視庁)。

図6-26 車両通行区分の指定

〔事例2〕 阪神高速道路大阪堺線における騒音防止対策
 阪神高速道路大阪堺線の沿線住民からの要望にこたえ、昭和49年12月15日から特に騒音の激しい区間11.8キロメートルについて、最高速度の50キロ規制及び右のような車両通行区分の指定を実施し、騒音の減少を図った(大阪)。
〔事例3〕 東京における自動二輪車通行禁止規制
 東京都内において、自動二輪車の暴走に伴う騒音を防止して静かな環境を保持するため、都心地区の計20.7平方キロメートルの区域において、昭和49年11月30日から23時~6時の間につき自動二輪車通行禁止規制を実施した(警視庁)。
〔事例4〕 中部山岳国立公園上高地地区における交通規制
 中部山岳国立公園の上高地地区においては、行楽シーズンにマイカーを利用した行楽客が激増し、交通混雑、自然環境の破壊がみられるため、県道上高地公園線の釜トンネルの前後1キロメートルにわたり、昭和49年7月13日から10月13日までの間の土、日曜日及び祝日(ただし8月1日から18日までは毎日)の8時~18時まで、信号機による交互一方通行の規制を実施した(長野)。

3 交通安全施設の整備

 交通事故が昭和46年以降連続して減少したのは、各種の総合的な交通安全対策の成果であり、そのうち特に交通安全施設について、46年度を初年度とする交通安全施設等整備事業五箇年計画に基づいて事業規模を飛躍的に増大させ、交通安全施設の整備を促進したことが大きく寄与したものと思われる。
 最近の道路交通情勢に対処するため、都市総合交通規制の推進を軸にした交通規制を強力に実施して、交通の安全と円滑、交通公害の防止を図っているが、これらの交通規制は、信号機、道路標識、道路標示等、公安委員会と、道路管理者の設置する安全諸施設の整備をもってはじめて効果の生ずるものであり、これらの整備充実が強く要請されているところである。
 交通安全施設の現況は次のとおりである(公安委員会分)。
(1) 五箇年計画
 昭和46年度を初年度とする総合交通安全施設等整備事業五箇年計画は表6-26のとおりであり、これに基づき、交通安全施設の整備が進められている。
 昭和49年度における交通管制センター、信号機等国が補助する特定事業の実施計画は、表6-27のとおりであり、事業費は178億4,000万円で、昭和48年度に比べて約11%増加している。なお、このほか、地方財政計画上予定された道路標識や道路標示についての地方単独の整備事業が実施されている。
(2) 交通管制センター
 交通管制センターは、都市交通の流れを安全かつ効率的に誘導し、既存道路を最も有効に利用するため、コンピューターによって信号機や道路標識を広域的かつ有機的に操作する交通管制システムの中枢となるものである。

表6-26 総合交通安全施設等整備事業五箇年計画(昭和46~50年度)

表6-27 交通安全施設等整備事業実施計画(特定事業)(昭和49年度)



 交通管制システムの事務の流れは図6-27のとおりで、その主な機能は、次のとおりである。
○ 道路上に設置した車両感知器からの情報をコンピューターを用いて自動的に集積、解析する。
○ 有線・無線電話により交通情報を収集する。
○ テレビカメラで現場の状況をは握する。
○ コンピューターにより、時々刻々変化する交通の状況に応じて信号機をシステム的に自動制御し、安全で円滑な交通の流れを作る。
○ 交通事故、火災等異常事態発生に際して、警察官、パトカー、白バイ等に対し、交通規制、交通整理等に関する指令を行い、交通の渋滞、危険を防止する。
○ 運転者に対して、ラジオ放送、案内電話、道路に設置した可変標識により交通情報を提供し、運転者の自主的な判断によるう回を促し、また場合によっては、可変式規制標識の操作によって交通の流れのバランスを図る。

図6-27 交通管制システム

 昭和49年度には、川崎、静岡、高松の3都市に新たに設置され、この結果、表6-28のとおり、昭和49年度末現在25都市に交通管制センターが置かれている。

表6-28 交通管制センター所在都市(昭和49年度末)

(3) 信号機、道路標識、道路標示
 全国の信号機、道路標識及び道路標示の整備状況は、図6-28のとおりであり、昭和49年度末で、信号機は5万5,199基、道路標識は433万4,653本、道路標示は横断歩道31万3,691本、実線表示4万8,837キロメートル、図示標示140万6,516個となっている。
 これによって、五箇年計画開始前の昭和45年度に比べて、信号機は2.4倍、道路標識は2.7倍、横断歩道は2.3倍、実線標示は3.6倍、図示標示は5.9倍の伸びとなった。

図6-28 信号機、道路標識、道路標示の整備状況の推移(昭和45~49年度)

 道路標識については、視認性を確保するため、原則として全面反射式のものを採用するとともに、交通量の多い主要幹線道路を中心に、燈火式、大型路上式、可変式等道路環境及び交通規制の実態に適応したものを積極的に導入している。
 道路標示については、歩行者の安全上必要な場所に横断歩道、路側帯を設置するほか、交差点における右左折の方法、進行方向別通行区分、停止線等の標示を増設し、常に鮮明さを保つように努めている。

4 交通指導取締活動

(1) 交通指導取締りの現況
ア 交通指導取締りの事故抑止効果
 昭和49年においては、交通事故死者を前年に引続き大幅に減少させることを目標に交通指導取締活動を推進した。その結果、交通違反検挙(告知、送致)件数は、894万6,747件で、前年に比べて9.7%増加し、他の施策とあいまって交通事故死者を大幅に減少させることができた。
 交通指導取締りは、交通事故の抑止に大きな効果をもっており、その重点は、交通事故の原因となる可能性の高い無免許運転、酒酔い・酒気帯び運転、最高速度違反等に置かれている。昭和49年における罪種別交通違反の取締状況は表6-29のとおりであるが、交通死亡事故の原因となる可能性の高い最高速度違反の構成比は全体の37.9%で最も多く、これに次いで駐停車違反が19.0%、通行禁止違反が7.2%となっている。取締状況を前年に比べると、整備不良車両運転、一時停止違反、通行禁止違反、迫越い通行区分違反、歩行者通行妨害等、死亡事故の原因となる違反や住み良い生活環境の保全のために行われる各種の規制の違反の増加が目立っている。
 なお、昭和30年以降における交通違反の検挙件数と交通事故の発生状況の推移は、図6-29のとおりで、交通指導取締りの事故抑止効果がうかがわれる。

表6-29 罪種別交通違反取締状況(昭和48、49年)

イ 環境保全のための交通取締り
 交通の指導取締りは、交通事故を防止し、交通の安全と円滑を図るほか、自動車交通によって派生する騒音、振動、大気汚染等生活環境阻害要因を抑制するとともに、いわゆる交通弱者である歩行者、自転車利用者等を「くるま」の脅威から守り、住みよい生活環境を保全するために重要な機能を果たしている。買物道路、歩行者天国等各種の生活ゾーン規制や、住宅地城、盛

図6-29 交通違反検挙件数と交通事故発生状況の推移(昭和30~49年)

り場地区から通過交通を締め出すための交通規制等の実施も、それを担保する交通取締活動が伴わなければ実効を期し難い。
 昭和49年における生活環境保全関係の道路交通法違反取締状況は、表6-30のとおりで、検挙(告知、送致)件数は、前年に比べ9.6%増加している。なかでも、排出ガス規制に違反した整備不良車両運転、裏通り等における通行禁止、一時停止違反の検挙件数の増加が目立っている。
 自動車の排出ガスは、道路運送車両の保安基準に適合しなければならないが、これに違反したときは、整備不良車両運転として取締りの対象となる。昭和49年における取締状況は表6-31のとおりで、一酸化炭素(CO)に係る違反は6万3,633件を、排出ガス減少装置(炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx))に係る違反は2万6,888件をそれぞれ検挙(告知、送致)したほか、2万8,757台に対し整備通告を行い車両の整備を促した。
ウ 主な違反の取締り
(ア) スピード違反
 交通事故を抑止するためには、自動車を適正な速度で走行させることが効果的であるので、白バイやパトカーによる取締りのほか、レーダースピードメーター等新しい器材を活用した取締りを強化することにより、適正な速度の確保を図っている。

表6-30 生活環境保全関係道路交通法違反の検挙件数(昭和48、49年)

表6-31 自動車排出ガスの取締状況(昭和49年)

 最高速度違反検挙件数の最近5年間の状況は、表6-32のとおりであり、検挙(告知、送致)件数は年々増加している。しかしながら、著しい超過速度違反(25km/h以上の超過)件数の速度違反全体に占める割合は、最近年

表6-32 最高速度違反取締件数の推移(昭和45~49年)

々低下してきている。これは、経済速度の浸透や指導取締りの強化等により、著しい超過速度で走行する車両が少なくなったからとみられる。
 また、最高速度違反の内容は、表6-33のとおりであり、指定速度(道路標識で指定された速度)違反の検挙が増加しているのは、都市部を中心とした速度規制の強化と並行して、取締りを強化したことによるものである。

表6-33 最高速度違反の取締状況(昭和48、49年)

(イ) 駐車違反
 都市交通の効率化と事故防止のため、駐停車違反の指導取締りを進めているが、その取締状況は表6-34のとおりである。また、駐車違反車両のうち、著しく交通の障害となっていものについては、検挙するとともに、レッカー車による移動措置を行うなど強い取締りを行っている。

表6-34 駐停車違反の取締状況(昭和47~49年)

(2) 交通事故事件の捜査
 昭和49年中の交通事故事件は、表6-35のとおりで、46万1,067件、48万7,173人を送致した。また、罪種別の送致状況は、業務上過失致死傷が圧倒的に多いが、交通事故を故意に起したものや、衝突後の引きずり行為に未必の

表6-35 交通事故事件の罪種別送致件数(昭和49年)

故意が認められたものもあり、殺人、傷害で107件、110人を送致した。
 交通事故事件の捜査は、その現場となった道路上において行うことから多くの危険を伴い、また、特殊な交通事故事件については、高度の捜査技術を要するものもある。昭和49年11月、大分県において、交通事故を装って3億円の保険金をだまし取ろうとした殺人事件が発生したが、最近は、このような特殊な交通事故事件が多くみられるようになり、捜査の難しさが加わっている。
ア ステレオカメラで迅速処理
 交通事故の実況見分は、交通ひん繁な道路において行われることが多いことなどから、迅速な処理が要求されるが、警察官が現場で巻尺を使って距離を測定する方法では迅速かつ的確な実況見分を行うことができない。そのため、現場写真から現場再現ができる性能をもったステレオカメラを使って実況見分を行うことにし、昭和42年にこのカメラを導入して交通事故事件捜査の適正迅速化を図っている。
イ ひき逃げ事件
 ひき逃げ事件の発生と検挙状況は、表6-36、表6-37のとおりで、交通事故全体の発生件数が大幅に減少しているにもかかわらず、ひき逃げ事件は

表6-36 ひき逃げ事件の発生、検挙状況(昭和48、49年)

表6-37 ひき逃げ事件の事件区分別発生、検挙状況(昭和49年)

わずか2%減少したにとどまっている。ひき逃げ事件を装った保険金目当ての殺人(同未遂)事件(昭和49年11月大分、12月北海道)、ひん死の重傷者を現場から人目につかないところへ運び遺棄した事件(昭和49年5月神奈川、兵庫)等残忍、悪質な犯行や、巧妙な擬装工作を行う事件が目立っている。
 ひき逃げ事件の昭和49年の検挙率は全体で89.8%であったが、死亡ひき逃げ事件では96.1%となっている。
(3) 交通取締りの体制と活動
ア 交通機動隊
 各部道府県警察ごとに置かれている交通機動隊は、白バイ、パトカーにより、都市内、都市間幹線道路を広域にわたってパトロールし、交通の流れを監視するとともに、機動力を駆使した連携活動を強化し、暴走運転、無謀な追越し、酒酔い運転等の悪質違反を最重点とした取締活動を行っている。
 交通機動隊の体制は、昭和49年末現在、全国で隊員数約1万人、白バイ約5,100台、パトカー約2,300台となっている。また、交通違反の検挙(告知、送致)件数は表6-38のとおりであり、違反種別では、最高速度違反が全体の56.3%と過半数を占めている。

表6-38 交通機動隊の交通違反検挙状況(昭和49年)

イ 高速道路交通警察隊
 高速道路を管轄する都道府県警察では、高速道路交通警察隊、同分駐隊を設け、高速道路における交通指導取締活動を行っている。また、関係府県警察の高速道路交通警察隊に対する連絡、調整、指示に当たらせるため、管区警察局に高速道路管理室を設けている。昭和49年末現在では、29都道府県警察に55高速道路交通警察隊・同分駐隊が設けられ、東名川崎)、名神(一宮、吹田)等には8管理室が設置されている。
 昭和49年中の高速道路における交通違反の取締状況は、表6-39のとおりであり、違反種別では、最高速度違反が32.3%、積載違反が19.7%とこの二

表6-39 高速道路における交通違反検挙件数(昭和49年)

つの違反で全体の52.%を占めている。
 高速道路において交通事故が発生した場合は、事故車両に次々と後続車が追突する多重事故や、事故処理中に発生する第2次的事故につながる危険性が高いので、誘導標識車等を用いて、事故現場の数百メートル手前から必要な交通規制を講じ、ときにはインターチェンジの閉鎖を行うなどにより交通事故の適正処理を図っている。
 また、高速道路上では衝突車両からの負傷者の救出が困難な事故がしばしば発生しているので、レスキューセット(油圧ジャッキ、大型カッター、中型消火器等)を高速道路交通警察隊に配備して負傷者の迅速な救出に当たっている。
(4) 暴走族の実態と対策
ア 実態と特徴的傾向
 昭和38年ごろから、スピードとスリルを求めて二輪車を乗り回す若者たちが現れ、「カミナリ族」と呼ばれた。当時は、消音器を改造した二輪車で騒音を発して暴走するものが中心であり、警察としては、暴走行為の多発地域への二輪車の乗入れ規制を行うほか整備不良車両運転の取締り等で対処してきたが、47年ごろからは、二輪車のほか四輪車を使用するものが現れ、その態様もスピード違反、信号無視、通行区分違反等と多様化し、更に見物の群衆と結びついて、異様な騒ぎを起こすようになり、「暴走族」と呼ばれるようになった。また、暴走族がグループを形成して集団として非行に走るようになり、最近では組織の対立抗争にまで事態がエスカレートしている。(190ページ参照)
(ア) 年間を通じて発生
 昭和49年の暴走族による暴走事案は、年間を通じて発生し、その状況は表6-40のとおりで、発生回数、参加人員、参加車両とも前年よりわずかに減少したが、地域的には、前年までほとんどみられなかった北海道、東北地方においてもみられるようになった。

表6-40 暴走族と暴走事案の発生状況(昭和48、49年)

(イ) グループ化と対立抗争の増加
 昭和48年ごろから、これら暴走族は、グループ化の傾向を示した。昭和49年に警察のは握した暴走族グループの結成状況は、表6-41のとおりであり、前年に比べて、グループ数、構成員数とも大幅に増加している。また、これら暴走族グループは、勢力争いのため大規模な対立抗争事案を引き起こしており、この種事案の発生は、昭和49年中に86回に及び、その態様においても、火炎びん、こん棒等の凶器を使用してわたり合うなど悪質凶悪化している。

表6-41 暴走族グループ構成状況(昭和48、49年)

(ウ) 少年暴走族の増加
 暴走族の構成員の年齢をみると、ほぼ16歳から24歳までで占められており、その中でも高校生、有職少年が多い。警視庁、神奈川県警察の調査によると、表6-42のとおりであり、少年、なかでも高校生の参加が目立って増加している。
(エ) 暴走族の二輪車使用状況
 神奈川県警察の調査による暴走族の二輪車の使用状況をみると、表6-43

表6-42 暴走族年齢、職業調べ(昭和48、49年)

表6-43 暴走族年齢別、排気量別二輪車使用状況調べ(神奈川県)(昭和49年9月)

に示すとおり、排気量500cc以上の二輪車を使用している者が多く、特に国産二輪車の最大車種である排気量750ccの二輪車を使用している者が36.0%にも達している。
イ 総合対策の推進
 暴走族に対しては総合的な見地から諸般の対策を講ずる必要があり、警察においては、違反の取締り、安全教育、悪質グループの解体、職場・学校等に対する働きかけ等の対策を推進している。
○ 暴走族の取締り強化
 暴走族に対しては、各都道府県警察に暴走族総合対策本部を設置して総力を挙げた強力な取締りを推進した。
○ 行政処分の早期執行
 暴走族に対しては、再び危険行為を繰り返させないために、運転免許の効力の停止等の行政処分の執行についても、特に迅速に行うように努めた。
○ 安全教育の推進
 暴走族となった者又は暴走族になるおそれのある者に対して、単なる暴走行為から運転テクニックの向上へと興味を転換させて、交通道徳の向上を図るために、自動車運転訓練施設等を開放し、交通機動隊員等による交通教室を開設するなどの安全教育を実施した。
○ グループの解体
 暴走族グループのうち、集団で強姦、窃盗、覚せい剤使用等の犯罪や非行を行うもの、暴力団の構成員と認められる者が加入しているもの、交通事故につながる危険性の高い暴走行為を常習的に行うものなど悪質なグループについては、継続的な取締りにより、グループを解体させるようにした。
○ 各家庭、学校等に対する働きかけ
 各家庭、学校、職場その他関係機関を通じて、青少年が暴走行為に走らないよう指導するとともに、暴走行為に代わる健全な楽しみをつくるよう呼び掛けた。

5 運転者の資質の向上

(1) 運転免許の概況
 昭和49年末の運転免許所持者数は、48年末に比べ136万4,914人(4.4%)増加して3,214万3,688人になった。このうち普通第一種免許の所持者が圧倒的に多く、全体の71.2%(2,289万5,644人)を占めている。
 運転免許所持者を男女別にみると、表6-44のとおりであり、男性が昭和48年に比べ86万1,529人(3.5%)増加したのに対し、女性は50万3,381人(8.0%)増加しており、女性の増加率の方が高くなっている。
 このため、男女の割合は、前年より女性の比率が増え、昭和49年末で男性が78.8%、女性が21.2%となっている。
 運転免許所持者を16歳以上の年齢層別にみると図6-30のとおりで、男女とも25歳~29歳の者が最も多く、男性では85.0%(約1.2人に1人の割合)、

表6-44 男女別運転免許所持者数(昭和48、49年)

図6-30 年齢層別人口に対する運転免許所持者の割合(昭和49年)

表6-45 運転免許所持者数の推移(昭和45~49年)

表6-46 運転免許種別ごとの受験者数と合格者数(昭和48、49年)

女性では31.9%(約3.1人に1人の割合)が運転免許を持っている。
 運転免許所持者数は、表6-45のとおりで、昭和45年に比べると、全体で約1.2倍(男性約1.2倍、女性約1.4倍)、となっているが、運転免許所持者の増加率は全般的に鈍化しつつある。
(2) 運転免許試験の状況
 昭和49年中の運転免許種別ごとの受験者数と合格者数は、表6-46のとおりで、普通第一種免許が最も多く、二輪免許、原付免許がこれに次いでいる。昭和48年に比べると、受験者数では、仮免許、けん引第一種免許、けん引第二種免許、大型第二種免許がそれぞれ若干増加しているが、その他はいずれも減少し、合計で約71万人(7.4%)減少している。合格者数、合格率では、おおむね前年を上回っている状況である。
 各都道府県警察においては、身体障害者に対して適性相談の窓口を設けて相談業務を積極的に実施し、予備適性検査を行うなどの便宜を図っている。
 なお、難聴者に対しては、聴力試験に補聴器の使用を認めており、昭和49年中に難聴者1,532人が新たに運転免許を取得した。その結果、昭和49年12月末現在で、難聴者の運転免許取得者数の累計は2,456人となった。
(3) 運転者管理の強化
ア 指定自動車教習所の教習
 指定自動車教習所では、運転免許を取得しようとする者に対し系統的な入門教育を担当している。
 現行の指定自動車教習所制度が昭和35年に創設されてから、指定自動車教習所の数は年々増加し、昭和49年12月末現在、1,309箇所に達し、その卒業者の数も年間約175万人に上っている。昭和49年中の運転免許試験合格者に占める指定自動車教習所の卒業者の割合は71.6%であり、なかでも、普通第一種免許については、卒業者が78.6%を占めており、指定自動車教習所の運転者教育において果たしている役割は、極めて大きいものがある。
 このため、各都道府県警察では、指定自動車教習所について業務運営の実態をは握するとともに、立合い検査、抽出検査等を行って、適正な教習及び検定が確保されるよう指導監督を行っている。
 また、指定自動車教習所の教習水準を高めるため、指導員に対する講習内容を充実したほか、各種視聴覚設備の備え付け、運転適性検査の実施等を指導している。
 なお、昭和45年以降の指定自動車教習所の状況は、表6-47のとおりである。

表6-47 指定自動車教習所の状況(昭和45~49年)

イ 運転者の再教育
 一般運転者に対する再教育としては、3年ごとの免許証の更新に際して実施する更新時講習と、交通違反や交通事故により免許の停止等の処分を行う際に実施する処分者講習とがある。これらの講習では、交通事故の実態、安全運転の知識等についての教育が、更新時講習にあっては2時間程度、処分者講習にあっては6時間ないし12時間行われている。
 また、講習効果を高めるため視聴覚教材を活用しているが、特に処分者講習では、模擬運転装置、反応分析装置その他の科学的機械を増強し、技能講習等、実践的な講習課目の充実を図っている。

表6-48 更新時講習及び処分者講習の受講者(昭和45~49年)

 更新時講習と処分者講習の実施状況は、表6-48のとおりであり、受講率も増加している。
ウ 二輪運転者の安全教育
 昭和49年中の二輪車運転中・同乗中の死者数は、表6-49のとおり、前年に比べ大幅に減少した。1万台当たりの死者数では排気量125ccを超える車による死者が、125cc以下の車による死者よりもはるかに多い。
 昭和49年中に、特に二輪車事故を防止することを目的として、高校生を主体とした二輪運転者188万5,396人に対して交通安全運転教育が行われた。なお、この講習の指導には、各都道府県の二輪車安全運転推進委員会の指導員や白バイ隊員が当っている。

表6-49 二輪車運転中・同乗中の死者数(昭和48、49年)

表6-50 行政処分の実施状況(昭和47~49年)

エ 行政処分
 昭和49年中の行政処分の実施状況は、表6-50のとおりで、処分件数は、前年より1.6%増加している。これを、昭和49年末の運転免許所持者数(3,214万2,688人)と対比した場合、平均21.6人に1人が何らかの処分を受けたことになる。
 また、運転免許所持者及び行政処分を受けた者の年齢別構成比は、表6-51のとおりで、20~24歳代が取消処分(29.7%)、停止処分(28.8%)とも高い率を示している。

表6-51 運転免許所持者及び被行政処分者の年齢別構成比(昭和49年)

6 交通安全意識の高揚

(1) 全国交通安全運動の展開
 昭和49年の春と秋の全国交通安全運動は、歩行者と自転車利用者特に子供と老人の事故防止を重点とし、幅広い国民運動として展開された。
 運動期間中、警察では街頭における交通の指導取締りを行うとともに、関係機関、団体と協力して、自転車の安全な乗り方教室、二輪車安全運転講習会、明治青年交通大学等の講習会、座談会等を開催したほか、各種の行事を行い、交通安全意識の高揚に努めた。
 特に、自転車利用者の事故防止については、バイコロジーの目覚ましい伸展に伴い、事故の多発が憂慮されたので、その安全な通行を確保するために道路交通環境を整備するとともに、その安全な乗り方についての安全教育を、自転車安全利用モデル都市64市をはじめ全国各地において、強力に推進した。
(2) 交通安全教育の推進
 幼児から老人まで、各年齢層に応じて、恒常的に、また、組織的に、交通安全教育を積極的に推進した。

 幼児については、地域や幼稚園、保育所等を単位として、母親ぐるみの幼児交通安全クラブの結成の促進とその活動の活発化を推進した。昭和49年9月末現在で、全国に9,359の幼児交通安全クラブが組織され、幼児約99万人、同保護者約95万人が加入している。おおむね月1回開かれるクラブの集団実地訓練には、婦人警察官交通巡視員等を派遣し、クラブリーダーとともに、幼児と母親に対して、歌やゲーム等の遊びを通じて、基本的な交通ルールや正しい交通マナーを体得させるよう指導を行った。
 小、中学生については、学校や団地自治会等と協力して、自転車の安全な乗り方教室を開催するほか、交通少年団の結成の促進と活動の活発化を推進した。昭和49年9月末現在で、全国に1,569の交通少年団が結成され、小学生約25万人、中学生約2万8,000人が加入している。
 交通少年団は、自ら交通安全を学び、実践するばかりでなく、交通安全推進のための少年のリーダーとして、同級生や下級生の模範となり、更に、一般運転者や家族に対する交通安全のアピールを行うなど期待されるところが大きいため、今後もその結成の促進と育成に努めることとしている。
 老人については、交通事故の被害者とならないよう、対象者を選んで積極的に個別指導に努めるほか、老人クラブ、老人ホーム等に働きかけて交通安全部会や交通安全指導員を設置させるなど、組織的な交通安全指導の強化に努めた。
 更に、一般運転者に対しては、各種講習会をはじめ、あらゆる機会を通じて歩行者や自転車利用者等の交通弱者の保護、座席ベルト、ヘルメットの着用、経済速度による走行等を中心とした安全運転の励行を、強力に呼び掛けた。


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