(1) 「交番」勤務のありのまま
ア 3日に1回は1昼夜勤務
一般に「交番」又は「交番所」と呼ばれている警察官派出所は、駐在所とともに、国民生活に密着した警察活動の拠点として、重要な機能を果たしている。
交番は、主として市街地に設置されており、昭和49年3月末現在、全国で5,858箇所あり、8大都道府県に全体の過半数が設置されている。
交番には、通常、複数の外勤警察官が、2交替制又は3交替制で勤務している。2交替制とは、当番日、非番日の繰り返しの間に、7日に1日の割合で週休日がある形態で、3交替制とは、日勤日、当番日、非番日の繰り返しの間に、7日に1日の割合で週休日がある形態である。かつては2交替制が外勤勤務の通例であったが、隔日の泊まり勤務では精神的、肉体的な疲労度が高いので、現在は3交替制が交番勤務の通例となっている。
交番勤務の勤務時間は、平均1週間に44時間となっている。日勤日は朝8時30分から夕方5時まで、当番日は朝8時30分から翌朝8時30分までを、それぞれ基本としているが、交替の準備に要する時間等で当番日の拘束時間は、25~26時間に及ぶこともある。
イ ある交番勤務員の日誌から
交番勤務の実情は、事件、事故の発生等によって、しばしば勤務計画を変更することがあり、盗難被害の発見、交通事故、酔っぱらいのけんか等は時間的に集中して通報されることが多いので、食事や休憩が不規則になりがちであり、いわば体が幾つあっても足りないというのが実感である。
~名古屋市内の中心部、甲派出所勤務、A巡査の1日~
○月○日(当番日)
9時
本署に出勤(注1)。幹部から指示教養を受ける。
9時45分
相勤者3人とともに派出所に到着し、前日の当番勤務員と交替、引継ぎを行う。
10時
受持区(注2)内の巡回連絡に赴き、7世帯実施して正午に帰所。
12時
在所警戒中、地理案内5件と困りごと相談1件を処理。
13時
警らに出発。職務質問2件、検索(注3)3箇所実施。
14時
昼食、休憩 。
14時30分
所前警戒30分。
15時
警らに出発。17時までの2時間に、検索2箇所、職務質問3件実施。少年補導1件。迷い子1人を保護。
17時
報告書作成30分。
17時30分
所前警戒30分。
18時
警らに出発。 19時までに職務質問1件実施。少年補導1件。
19時
20時までの間、休憩、夕食をとる。
20時
警らに出発。検索2箇所実施。少年補導2件、駐車車両に対する注意2件実施。
21時
空き巣の被害申告に基づき、臨場して指紋採取等の鑑識活動を行い、関係書類作成。
22時
「酔っぱらいがいる」旨の110番通報に基づき、現場に急行して処理、保護の必要がなかったため帰宅させた 。
22時30分
ナイトクラブで客と従業員とのもめごとがある旨110番通報があり、B巡査、C巡査と現場に急行。飲食代金の不満から口論となり、双方かなり興奮し険悪な空気であったが、個別に話をして落ち着かせたところ、折り合いがつき解決した。この処理に要した時間は1時間半。
0時
タクシー運転手と客のもめごとについて110番通報があり、ナイトクラブからB、C両巡査とともに回る。乗車拒否ではなく、客が酔っぱらっていて行き先が明らかでないためのもめごとと判明、客の住所が分かったので運転手も納得して解決。
1時
上記もめごと処理中、けんかの急報で、B巡査と現場に急行。暴力団員による傷害事件であり、被疑者を逮捕するとともに、パトカー乗務員と協力して参考人の確保等に努め本署に同行して事件処理に当たる。午前5時帰所。
5時
休憩。B巡査とともに仮眠、7時過ぎまで。7時からC巡査が警らに出発、8時からD巡査長が警らに出発するため在所警戒。清掃、交替準備。
9時45分
交替。本署においてけん銃等を格納後、更衣。退署。
(注1) 名古屋市内の交番勤務は、時差出勤のため、朝9時の出勤となっている。
(注2) 受持区とは、交番や駐在所に配置されている個々の警察官が分担している区域で、担当の警察官がこの区域について巡回連絡の第一次責任を負っているところから巡連区とも呼ばれている。
(注3) 検索とは、要注意箇所において不審な人や物の発見に努めることをいう。
(2) 家族ぐるみの「駐在所」勤務
ア 地域にとけ込んでいる駐在所
「駐在所」は、外勤警察官が家族とともに居住して、管内の住民にとけ込んだ形態で受持責任を全うする制度で、交番とともに、我が国の警察組織の特徴とされている。主として市街地以外の地域に設置されていて、昭和49年3月末現在、全国で1万239箇所ある。
一般に駐在所は本署から遠く離れていて、駐在所勤務員が本署と電話連絡をとりながら、管内における警察業務のほとんどを1人で処理しなければならないので、とりわけ管内住民の理解と協力は欠くことができない。
このためにも、駐在所勤務員は、管内住民を犯罪や事故あるいは自然災害から守るばかりでなく、管内住民の困りごと相談にも親身になって応じており、頼れる隣人として、就職、進学、結婚等の相談や夫婦げんかの仲裁を持ち込まれることも多い。
イ 欠かせない家族の協力
駐在所勤務員は、通常日勤制で、管内の警戒、警ら等の活動を行っている。
しかし、夕方から翌朝にかけての時間や日曜日、祝日にも勤務から全く解放されるものではない。事件、事故の発生もさることながら、管内住民から持ちかけられる相談ごとや地域住民の1人としての近隣者との交際も仕事を終わったあとの夜間に多い。駐在所勤務員がパトロールや巡回連絡等で駐在所を留守にするときは、勤務員の家族、主として夫人が急訴や諸願届の応特、本署との連絡等を行わなければならない。特に、最近山間部にも自動車が入り込むようになって、駐在所に地理案内を求める人も増えたほか、交通事故処理業務や緊急配備業務の増加に伴い勤務員が駐在所を留守にする機会も増えているので、家族の役割はますます重要なものとなっている。
このような実情から、駐在所勤務員とその家族は、管内住民の信頼にこたえ、常時待機の生活を送っており、いったん事が起これば家族全員が協力して処理に当たっているため、週休日にも通常の勤務日と異なることなく、努めて駐在所にいることが多い。
ウ 格差の大きい駐在所の業務負担
駐在所の多くは農山漁村等に設置されているところから、一般に、派出所に比較して、管内面積は広大であり、逆に世帯数や人口は少なく、また、事件、事故の発生も少ない。しかし、近年著しい地域開発の結果、地域によっては人口の急増がみられ、駐在所間における負担の格差が大きくなってきている。
全国1万239箇所の駐在所について、管内の面積、世帯数や人口、年間の犯罪(刑法犯)や交通事故の発生件数の平均と、それぞれの最高を示す駐在所をみると、表3-1のとおりである。
頼城駐在所の管内の面積は、ほぼ大阪府の5分の1に当たる。このような広大な面積の中には、パトロールが不可能あるいは不必要な深山幽谷等も含まれているが、それだけに人家に到達することが容易でなく、仮に事件、事故の発生件数が少ないとしても、1件の処理に要する時間と労力が大きく、機動力の強化が必要である。
世帯数や事件、事故の発生件数が過度に多い駐在所は、巡回連絡等による管内実態は握や事件、事故の処理に支障をきたすため、派出所への転換を要
表3-1 最高負担の駐在所の状況(昭和48年)
するところも少なくなく、当面、勤務員の複数配置等を行って、警察業務の円滑な処理に努めている。
(3) 機動力のシンボル、“パトカー”
ア 活躍する「警らパト」
警ら用無線自動車は警らパトと呼ばれ、交通警察の白バイとともに、警察の機動力のシンボルとされている。
警らパトは、警察本部又は警察署に配置されており、通常、外勤警察官2人が乗務し、運転と無線通話の勤務を交替で担当している。
警らパトには、それぞれ警ら区域が定められており、派出所や駐在所の勤務員のパトロールと連携し、常時警戒網を張りめぐらしている。
警らパトは、緊急事態が発生した場合に現場に急行して状況を的確には握し、必要な警察職員や装備資器材を輸送したり、被疑者・参考人や保護対象者の輸送にも当たっているが、このほか、積載している超短波無線電話を使って、事件、事故現場と通信指令室との情報連絡、不審者あるいは不審車両等を発見した際の各種照会に努めており、また、通信設備の不十分な地域においては、無線通信の臨時中継局として、携帯無線機を携行している警察官からの情報連絡を本署や通信指令室に伝達する役目も果たしている。
警らパトは、パトロール中に要警戒地域の適当な地点に停車して犯罪の未然防止のための警戒監視を行ったり、必要に応じ、乗務員が検索に従事することも多い。
このように活躍している警らパトの年間の走行距離は、全国平均約3万5,000キロメートルであり、管内の広大な岩手県では5万1,000キロメートルを超えている。
イ 110番と直結している警らパト
警らパトの具体的な勤務ぶりをみるために、警視庁の新宿警察署に配置されているパトカー6台のうち“新宿1号”の勤務日誌から、平均的な1日の取扱状況を抜すいした。
○月○日(当番日)
〔勤務計画〕
警ら | 14時間30分 |
待機 | 2時間30分 |
整備 | 1時間 |
休憩 | 6時間 |
計 | 24時間(午前9時から翌日午前9時まで) |
〔取扱状況〕
9:53~10:20 | 110番通報。駐車の苦情、現場処理。 |
11:15~11:30 | 本署からの指示。派出所から被疑者を同行。 |
13:20~13:40 | 110番通報。駐車の苦情、現場処理。 |
13:47~14:00 | 本署からの指示。火災(ぼや)現場の警戒。 |
15:10~15:40 | 本署からの指示。特命捜査に従事。 |
16:46~17:06 | 下校時の高校生による学校間の対立紛争事案の警戒。 |
17:06~18:45 | 110番通報。暴行事件の被疑者検挙。本署へ同行して刑事課に引き継ぎ、関係書類作成。 |
19:38~20:50 | 110番通報。恐喝事件の被疑者検挙。本署へ同行して刑事課に引き継ぎ、関係書類作成。 |
20:51~21:00 | 派出所からの要請。本署へ精神障害者を同行。 |
21:10~21:20 | 110番通報。でい酔者を保護、本署へ同行。 |
21:58~22:30 | 110番通報。駐車の苦情、現場処理。 |
23:35~23:45 | 本署からの指示。派出所から被疑者を同行。 |
0:12~0:20 | 110番通報。酔っぱらいのけんか、現場処理。 |
1:52~2:05 | 110番通報。騒音の苦情、現場処理。 |
以上14件の取扱事案のうち、110番通報が8件あるが、このように警らパトは本部の通信指令室の指示によって活動することが多い。
なお、新宿1号の乗務員は、昼食を正午ごろ、夕食を午後7時ごろにとっており、午前3時から休憩、仮眠をとっている。
ウ リスポンス・タイムの短縮
パトカーが通信指令室の指示を受けてから目的地へ到着するまでに要する時間(リスポンス・タイム)が短いほど、事案の解決も早く、住民の信頼が
表3-2 主要都市におけるパトカーのリスポンス・タイム(昭和44~48年)
高まることも明らかであり、警察はリスポンス・タイムの短縮に一層の努力を傾けている。
最近5年間における主要都市でのリスポンス・タイムの推移は、表3-2のとおりである。
リスポンス・タイムを短縮するためには、まず、パトカーの高速走行が必要であるが、このための運転技能の向上を図るため、テストドライバー等の専門家からコーチを受けている県もある。しかし、都市における交通混雑や地方における管内の広さ等にかんがみ、パトカーの配置を密にすることが基本的な対策といえる。
(1) 110番のピークは深夜
昭和48年中に全国の警察で受理した110番電話は、222万3,603件で、この受理件数を時間帯別にみると、図3-1のとおり、ピークは深夜となっている。
(2) 通信指令室の昼と夜
110番を受理する都道府県警察本部の通信指令室は、情報の受理と初動措置の指令という二つの機能を持っている。
情報の受理については、110番通報の受理のほかに、警察署や他府県警察からの事件発生等の情報の受理、金融機関その他の特殊な施設からの緊急通報の受理を行っている。
また、初動措置の指令については、指令台を基地として、各警察署、パトカー、警ら中の警察官等に対し、迅速的確な指令を発している。
通信指令室は、発足当初のパトカーの無線通話の統制を主たる任務としていた状態から大きく脱皮して、今や、警察力の総合運用の中枢機能を担当するものとなっている。これに伴い、勤務体制も逐次整備強化され、昭和48年末で、8都道府県において通信指令課等の名称の独立の課ができている。
110番電話の夜間の受理件数が多いことから、夜間の勤務体制についても、
図3-1 時間帯別110番電話受理件数(昭和48年)
上級幹部が通信指令室の管理指揮に当たっている昼間と同様に、その充実が特に重要な課題となっている。全国的には、通信指令室の当直責任者に警部の階級にある者を充てている府県が多いが、警視庁や大阪府警察等では警視の階級にある上級幹部が当直勤務について、業務の遂行に当たっている。
(3) 信頼される110番
昭和48年中に受理した110番電話は、前年に比べ、13万9,450件(6.7%)の増加を示しており、内容別にみると、図3-2のとおり、交通事故や交通
図3-2 内容別110番受理件数(昭和48年)
違反等の交通関係の通報が第1位を占めており、そのほか、刑法犯関係の被害の届出、照会・連絡、でい酔者保護要請等が相変わらず多い。
(1) 盗難に備える
市民の日常生活にとって、身近なありふれた犯罪は、窃盗である。昭和48年中に発生した窃盗事件は97万3,876件で、全刑法犯(交通業過を除く。)総数119万549件の約81%を占め、毎日、平均して2,668件もの被害が発生しており、年間の被害も金額にして485億円にも及んでいる。
このような窃盗の被害を防止するためには、警察官のパトロールなどによる抑止活動とあわせて市民の側からの防備が必要である。
ア 市民の防犯意識
昭和48年中に発生した窃盗事件の中に占める侵入盗の割合をみると図3-3のとおりであり、警察では、特に、市民に強い不安を与えることが多い侵入盗の防止に重点を置いて防犯活動を進めている。
図3-3 窃盗中に占める侵入盗の割合(昭和48年)
警察においては、警察活動による盗難防止活動を強化するとともに、市民の自発的な防備を促すために「かぎ掛け」を呼びかける広報や、防犯診断、防犯指導などを実施してきた。
施錠設備さえない無防備家屋、「うっかり型」の施錠忘れ、気休めにしかすぎない不完全な施錠など、ドロボーにつけ入るスキを与えるような弱点は随所にみられる。
警視庁では、昭和48年2月、都心、山手、京浜、江東、多摩の各地区で、一般住宅、アパート(主に木造の民間アパートをいう。)、マンション、団地の約2,000世帯について、その防犯意識と行動を調査したところ、次のような結果であった。
(ア) 3分の1が盗難に対する不安感を
自分の家が盗難に遭うかもしれないという不安感を持っている者は、全体の32%となっており、これを住居形態別にみると図3-4のとおり、一般住宅、アパート居住者にその割合が高くなっている。これは住居構造、防犯設備などの差異を反映したものとみられる。
図3-4 住居形態別の盗難不安意識(昭和48年)
ちなみに、これらの調査対象のうち、一般住宅居住者の22.2%、アパート居住者の12.9%、マンション居住者の3.4%、団地居住者の2.4%が、現住居で盗難被害を経験している。
(イ) 不完全な施錠設備が多い一般住宅、アパート
戸締まりの安全度に対する自己診断結果では、「だいたい安全」と考えている者は、マンション居住者と団地居住者の場合、それぞれ61%、58%と高いのに比べて、木造建築の多い一般住宅居住者とアパート居住者の場合は、それぞれ48%、46%と半数以下になっている。
一方、防犯設備の実情を、玄関の施錠設備についてみると、表3-3のとおり、簡単にこじあけられない「安心できる錠」を付けているのは、一般住宅12.9%、アパート13.9%にすぎず、その不備が目立つ。
したがって、侵入窃盗の侵入口となる例が最も多い玄関の施錠設備が不完全であることを知らないままに安心感を持っている人が一般住宅、アパートの居住者に多いということになる。
表3-3 玄関の施錠設備状況(昭和48年)
(ウ) 「行うは難し」確実な施錠
玄関のかぎ掛け励行は防犯心得の第1条であるが、この調査実施の際、確認できた範囲では、調査対象の約32%が無施錠になっていた。このような不用心なケースは、一般住宅(55.7%)、アパート(40.8%)に多いが、いわゆる密室の犯罪を誘発しかねないマンションや団地でも、それぞれ16%、18.5%の世帯についてみられた。
また、調査対象の77%は「訪問者に対して、ドアを開く前に相手を確認するよう心がけている。」と答えているが、この調査実施の際、実際にチェックをしたのは67%の世帯であった。防犯心得第1条も“言うは易く、行うは難し”の例にもれないようである。
イ 防犯指導班の活動
警察では、侵入窃盗を防止するために、市民に対する被害防止の広報活動を行っているが、更に、より実効のある施策の一つとして、警察では、各家庭を巡回して戸締まり状況を診断する「防犯診断」を実施している。6大都府県警察だけでも、昭和48年中に約390万の家庭や事業所に対し防犯診断を実施して、種々のアドバイスを行っている。
これらの防犯診断で、欠陥を指摘された家庭などでは、性能の良い錠の取付けや戸締まりの補修を希望する者が多いが、この要望に応じて市民の盗難防止のコンサルタントとして登場したのが「防犯指導班」である。
防犯指導班は、神奈川、愛知、広島、山口などの各県警察において編成されているが神奈川県警察本部では、防犯指導などの経験豊かな警察官4名(巡査部長1名、婦警3名)で「防犯指導班」を編成し、犯罪の多発地域に出向いて防犯診断、防犯相談、防犯座談会を行うなど具体的なきめ細い活動をしている。昭和48年中には、約3,000世帯に対して防犯診断を実施し、性能の良い主錠や補助錠約4,000個の購入をあっせんしている。また、防犯座談会、防犯講習会などを約1,000回(対象者数約4万2,000人)開催し、有効な戸締まり方法や護身術など防犯テクニックを指導している。
また、福岡県警察では、福岡市、北九州市などの主要都市の20警察署管内で、地元防犯協会と協力して、錠の取付け技術を有する者8名に委嘱し、昭和48年中に警察で行った防犯診断(新興住宅地の9万8,000世帯)のカルテに基づいて、その際戸締まりの欠陥を指摘された家庭のうち、特に、主錠の取替えなどを希望した約4,700世帯に対し、約9,000個の主錠などの実費取付けを行って、市民から感謝されている。
このように、市民の具体的な要望に応じて活動している「防犯指導班」は新しい防犯活動のより実践的な方向を示唆するものとして、今後、その活動の伸長に大きな期待が寄せられている。
(2) 社会の変化と防犯
犯罪は、社会、経済、文化等の諸情勢の変化を反映して、その質量の面で時代とともに変化しており、これに対応した効果的な犯罪抑止活動を行うことが必要とされている。
例えば、地域開発に対応する防犯対策、不法目的に使用されやすいコインロッカーについての防犯措置、自動販売機の増加に伴って急増している自動販売機荒らしの防止策などが要請されている。
ア 地域開発と防犯
大規模な地域開発が行われている地域では、一般的には、急速な人口集中に伴って窃盗をはじめ暴行、傷害等の粗暴犯、更には風俗上の問題等の発生する機会が増加する。
例えば、茨城県では、鹿島臨海工業地域の開発の際に、人口増加などの社会変動から犯罪が多発した現象(昭和38年中の刑法犯発生件数は321件であったが、犯罪発生がピークに達した昭和46年には1,498件と4.7倍に増加)がみられた。この経験にかんがみ、茨城県警察においては、昭和43年度から建設が進められている筑波学園都市の開発に際して、同学園都市の建設計画に即した総合的な「保安対策計画」を関係機関と協力して策定し、その推進を図っている。具体的な施策としては、学園都市連絡派出所の設置、高密度パトロールの実施、防犯連絡所制度の拡充(30世帯に1箇所の割合を15世帯に1箇所に)、職域防犯組織の強化等が挙げられる。
これらの施策を実施した結果、昭和48年中の同地域における刑法犯の発生件数は491件であり、前年に比べ、わずかではあるが10数件減少しており、また、地域住民に大きな不安感を与えるような事件も発生していない。
イ コインロッカーをめぐる不法事犯と防犯措置
昭和48年1月17日、国鉄三宮駅構内のコインロッカーから、えい児死体が発見されたが、これを皮切りに死体、とりわけえい児死体の遺棄場所として、コインロッカーを使用する事案は、昭和48年中には、表3-4のとおり、45件発生している。
表3-4 コインロッカーにおける死体などの発見件数(昭和47、48年)
このように死体の「遺棄場所」として使用されるケースばかりでなくコインロッカーは、ドロボーの七ツ道具、凶器、盗品などの隠匿場所として使用されるケースも多い。コインロッカーは、昭和40年ごろから登場したといわれるが、年を追って全国的に国鉄や私鉄の駅構内、バスなどのターミナル、空港、デパートなどに普及し、その設置個数も増加している(注)。これに伴って不法目的での使用の増加が懸念され、防犯対策の面での配慮が要請されている。
防犯的観点からは、預け入れ物件の内容がチェックされず、心理的な抑止要因も少ないシステムであること、いったん預け入れるとその使用制限期間(その期間は、業者によって異なるが、最短1日から最長15日まで、まちまちである。)中、不法物品などの発見が阻まれることなどが問題となる。
不法目的の使用を抑止するための管理措置の改善策としては、監視員の増強、防犯テレビの設置、人目につきやすい場所への移設などが考えられる。また、不法事犯の早期発見、検挙のためには、使用期間をできるだけ短くすること(できれば、2日以内)が必要であり、また、使用期間満了後の残置物件については、内容物を点検すること、警察との連絡を緊密にすることなども効果的である。
警察では、不法目的の使用を防止するために、警察官のパトロールを通じて監視を強化すると同時に、コインロッカー管理者に対し、次のような改善措置を要請している。例えば、警察庁においては、昭和48年5月以降、大手のコインロッカー管理者である国鉄と鉄道弘済会に対し要請を行った。その結果、昭和48年末の管理状況は、図3-5のとおりとなっており、4月の調査では、国鉄関係のコインロッカーの使用制限日数は4~5日であったことと比較すると、ある程度、管理改善措置がとられているといえる。
(注) 昭和48年末現在、全国で駅などに1,870箇所、約26万個のコインロッカーが設置されているが、そのうち東京が29%、大阪が11%、神奈川が6%、北海道が6%、愛知が5%をそれぞれ占めている。
図3-5 使用制限日数及び監視員有無別コインロッカー管理状況(国鉄関係)(昭和48年)
ウ 自動販売機をめぐる防犯措置
最近、自動販売機の増加に伴って、通貨類似のメダルを使用する「自動販売機荒らし」が多発している。
自動販売機は、この数年間毎年20~30%ぐらいの率で増加しており、昭和48年末現在、全国で約220万台になっている(日本自動販売機工業会調べ)。
自動販売機荒らしは、昭和48年には9,387件(前年対比11%増)発生しており、警察では、事犯の防止のために販売機メーカーに対して、偽コインの完全な選別を可能にするような技術的改良を要請したり、設置者に対して、管理体制の強化、警察への通報の緊密化などの防犯指導を行っている。
一方、遊技機用メダルが偽コインとして使用される危険性が大きいことから、遊技機メーカーに対しても、メダルが悪用されないようその大きさや材質について指導を行っている。
(3) 市民参加による防犯
ア 強化された地域防犯体制~54万箇所の防犯連絡所~
犯罪防止を主な目的とした民間組織として、防犯協会や職域防犯組合が結成されているが、警察では、これらの組織による防犯活動に協力して、その効率的な活動を推進するために必要な指導、助言を行っている。
防犯協会では、犯罪防止のために、「防犯の日」を設定(昭和48年末現在20都府県が設定)したり、警察と共催して季節防犯運動を展開するなどして犯罪の発生を防止するために自主的なパトロール活動や犯罪防止の呼びかけ運動を行っているほか、青少年を対象とした柔剣道大会、野球大会、弁論大会などを開催して、青少年の非行化防止、健全育成にも寄与している。
暴力排除思想の高揚も防犯協会による自主防犯活動の主要なテーマの一つである。例えば、映画「山口組三代目」の上映をめぐって、この映画が実在の暴力団組長の伝記で、暴力礼賛につながるものであるとして、姫路市防犯協会が上映中止の働きかけを決議したのを皮切りに、全国各地の防犯協会が、上映予定の映画館に上映中止あるいは青少年の入場規制の申入れを行い、暴力排除を呼びかける市民運動を展開した。この結果、予定されていた同映画の第2部の制作は中止されることとなった。
防犯協会の第一線であり、実践的な活動体である防犯連絡所は、昭和48年12月末日現在で、約54万箇所、前年末に比べ約2万箇所増加している。
これらの防犯連絡所は、その付近の地域で発生する事件、事故の警察への通報、警察からの防犯情報の伝達、警察の行う防犯診断活動への協力、地域の防犯対策についての意見、要望の警察への伝達などを通じて、明るい街づくりに寄与しているが、その活動は年々活発になりつつある。昭和48年中における犯罪や事故の発生等についての警察への通報件数は18万1,213件で、前年の16万2,430件に比べて13%増加している。これらの通報を内容別に大別すると次のとおりである。
交通違反、交通事故 | 30,336件 | (17%) |
少年非行 | 20,779〃 | (11〃) |
犯罪発生 | 20,029〃 | (11〃) |
保護事案 | 19,236〃 | (11〃) |
防犯に関する意見、要望 | 16,529〃 | (9〃) |
押売、不審者 | 16,004〃 | (9〃) |
事故(交通関係を除く) | 3,911〃 | (2〃) |
苦情、参考情報等 | 54,389〃 | (30〃) |
これらの通報のうち7,402件(4%)が、事件検挙の端緒となっている。
また、各種の事業所ごとに防犯グループをつくり、職域における犯罪の防止に努めている職域防犯組織は、昭和48年末現在、全国で約1万団体が結成されている。
これらの職域防犯組織では、事業所相互間の防犯情報の交換、有効な防犯体制、防犯施設等についての研究、改善などを行っている。例えば、アパート防犯組合では「今月のアパート犯罪」などのチラシの作成配付によるアパート管理者の注意喚起、ビル防犯組合では警報装置の有効な取付け方法の研究会の開催、金融機関では防犯責任者による連絡会の開催を行うなど、それぞれの職域の特殊性に応じた犯罪予防活動を推進している。
イ 防犯モデル地区
理想的な地域防犯活動の試金石として、犯罪のないモデル的街づくりのために「防犯モデル地区」活動が推進されている。
防犯モデル地区活動は、警察と防犯協会が協力して実施しているもので、犯罪が多発している地域にモデル地区を設定し、地域内の住民の参加を促しながら、地域ぐるみで犯罪を防止するために各種防犯資器材の組織的活用などによる防犯活動を行うものである。全国防犯協会連合会が、昭和48年に、さん下の都道府県防犯協会と警察の協力のもとに設定した防犯モデル地区は表3-5のとおり、繁華街地区4箇所、住宅街地区6箇所である。
その活動状況をみると、繁華街地区では、街頭での犯罪防止を主眼として防犯テレビを設置して犯罪の発生を監視したり、放送設備を設置して通行者などへ被害防止を呼びかけたりしている。
また、住宅街地区では、侵入盗犯の被害防止や押売の撃退策として、近隣相互で連絡し合う通報用防犯ベルを設置したり、住民への防犯広報の徹底を図るなど、地域住民の手で犯罪を防止するために努力している。
ちなみに、これらの防犯モデル地区活動の効果を、活動開始の前後における犯罪発生件数の変化でみると、表3-5のとおりである。防犯施設の整備完了の日から昭和48年12月末日の間のこれらのモデル地区での刑法犯発生件
表3-5 全国防犯協会連合会指定の防犯モデル地区実施状況(昭和48年)
数(交通業過を除く。)は523件で、前年同期の674件に比べ22%減少しており、昭和48年中の全国における刑法犯発生件数の前年対比の減少率2.9%と比較して高い減少率を示している。
ウ 増加する警備業
デパート、商店、会社、事務所、工場、工事現場などの委託に基づいて、防犯、防災の警備業務あるいは現金、貴金属などの護送業務を行う警備業は、昭和37年に誕生して以来、年々増加を続けている。
昭和44年以降5年間における警備業者及び警備員の数の推移は、図3-6のとおりである。
警備方式は、最近では機械による監視、警戒方式が普及しつつある。これは、警備対象の施設に異常警報装置を設けてこれを集中管理し、非常事態に対処するシステムであって、今後も、この方式の増加が予想される。
図3-6 警備業者と警備員数の推移(昭和44~48年)
警備業は、犯罪の未然防止はもとより、犯人を逮捕して警察に協力したり、火災を早期に発見し通報するなど、防犯、防災面に少なからぬ寄与をしているが、このような協力事例の件数は、表3-6のとおりである。
表3-6 勤務中の警備員の犯人検挙等協力状況(昭和48年)
表3-7 勤務中の警備員による犯罪件数(昭和48年)
しかし、その反面、勤務中の警備員による犯罪も表3-7のとおり発生しており、また、無届営業、年少者の使用、職業安定法(労働者供給事業の禁止)違反などにより、営業停止処分を受けるなど、警備業法に基づく行政処分を受けた警備業者も警備業法施行時(昭和47年11月1日)から1年の間に43社にのぼっている。
警察としては、このような事犯の絶無を図り、適正な警備業務の運営について、今後とも警備業者に対し指導を強めていく必要がある。
(1) 家出人を捜して
ア 家出人率の高い未成年者
家出人については、警察では、発見保護活動を通じてその生命身体の安全確保に努めているが、昭和48年中に警察に捜索願が出された家出人の数は表3-8のとおり、9万447人で、前年とほぼ同数となっている。
これらの家出人の実態をみると、次のとおりである。
表3-8 家出人捜索願出状況(昭和44~48年)
男女の割合では、男性4万3,939人(48.6%)、女性4万6,508人(51.4%)で女性が多い。年齢層別にみると、表3-9のとおり、17歳以下と60歳以上では男性が多く、その他の年齢層では女性が多くなっている。
表3-9 家出人の男女別年齢層別比較(昭和48年)
学生、生徒の家出については表3-10のとおり、中学生の家出が、特に増加していることが注目される。
表3-10 学生、生徒別家出人数(昭和44~48年)
年齢層別にみた昭和48年の家出人率(人口1万人当たりの家出人の数で、人口は、厚生省人口問題研究所推計による。)は次のとおりで、未成年者の家出人率が成人に比較して極めて高い。
17歳以下の家出人率(注) | 20.8 |
18~19歳の 〃 | 30.3 |
20~59歳の家出人率 | 8.2 |
60歳以上の 〃 | 2.9 |
(注) 17歳以下の家出人率は、10歳以上17歳以下の人口によって算出した。
家出を原因、動機別にみると図3-7のとおり、家庭不和、恋愛や結婚問題のもつれによるものが多いが、「蒸発」といわれる動機原因不明のものが約9,000人もある。
都道府県別にみた家出人率は、表3-11のとおりであり、家出人率の低い県としては、島根、秋田、鹿児島などが挙げられる。ちなみに東京は31番目である。
図3-7 家出の原因(昭和48年)
表3-11 府県別家出人率(昭和48年)
一方、家出人の発見状況をみると、表3-12のとおりで、発見数は昭和45年以降減少傾向にある(発見数とは、捜索願の有無にかかわらず、家出人として発見された者の数であり、捜索願が出されていて自分から帰宅した者を含む。)。
表3-12 家出人発見数(昭和44~48年)
警察では、家出人の家族等から捜索願を受理すると、家出人の立ち回る可能性の多い場所を管轄する警察署あてに「立ち回り先手配」を行って、家出人の捜索を行い、あるいは立ち回り先の不明確なものに対しては、立ち回りの予想される都道府県警察に「一般手配」を行っている。このほか、家出人のうち、特に、犯罪の被害者などとなって生命身体に危険が及んでいる可能性のある家出人に対しては、「家出人等重要手配」を行って、徹底した捜索や捜査を実施している。
昭和48年中に発見された家出人9万902人のうち4万1,275人は、自ら帰宅した者であるが、残りの家出人がどのようにして発見されたかをみると表3-13のとおりであり、警察官の職務質問によって発見された者が最も多い。
表3-13 家出人の発見方法(昭和47、48年)
イ 意外に狭い行動範囲
科学警察研究所では、昭和48年中に家出人として発見された成人のうちから、無作為抽出した577人について追跡調査を行った。この調査が浮き彫りにした家出の実態の概要は次のとおりである。
家出人を学歴別にみると、義務教育のみの修了者56.5%、高等学校(旧制中学校を含む。)卒業者32.7%、大学(旧制専門学校を含む。)卒業者6.0%、不就学・不明等4.8%となっており、教育歴の短い者が多い。
また、家出当時の職業別分布は、表3-14のとおりであり、専門的、技術的職業や管理的職業などのいわゆるホワイト・カラーはごくわずかであるが、ブルー・カラーや主婦の家出が目立っている。
次に、家出中の行動をみると、表3-15のとおりであり、家出先は、家出前の居住地を中心として比較的狭い範囲に限定される傾向にある。
表3-14 家出当時の職業(昭和48年)
表3-15 家出先と家族居住地との関係(昭和48年)
家出直後の滞在先をみると、図3-8のとおり、友人、知人の家やアパートなどが多い。
図3-8 家出直後の滞在先(昭和48年)
また、携行した金額は図3-9のとおり、5万円未満が71%となっている。
家出人の家出中の職業については、家出前に従事していた職業と同じ、あるいは類似の職業に携わっていた者はわずか9%にすぎない。その他の者は友人や知人等の紹介で、全く新しい職業に就いたり、徒食していたりしている。
図3-9 家出時の携行金額(昭和48年)
(2) 老人への奉仕
核家族化現象等に伴い、老人世帯、なかでも一人暮しの老人が多くなっているが、これらの老人が孤独な生活の果てにだれにも見とられず死亡したり、自殺したり、あるいは事故に遭遇したりする悲惨な事案が目立ち、大きな社会問題となっている。
警察においても、昭和48年末現在、65歳以上の「独居老人」を約20万人は握しているが、これらの独居老人に対する奉仕活動として、各都道府県警察では、「愛の訪問日」を設定し努めて多くの老人を訪問したり、「一声運動」を展開したりしている。例えば、愛知県警察においては、9月15日の「老人の日」を中心に、10日間に1万1,237人に対し訪問活動を実施し、2,103件の相談に応じたが、そのうち333人の老人について、福祉機関や医療機関に対して措置要請を行った。また、訪問先で、76歳の老女が衰弱死寸前の状態で玄関にうずくまっているのを発見し、直ちに入院措置をとり感謝された事例もある(兵庫県警察)。
このほか、独居老人を犯罪や事故の被害から守るために、防犯診断を実施して携帯用の防犯ブザーを無償で配付したり(岡山、愛媛県警察等)、また、警察音楽隊による老人ホームの慰安活動、老人世帯に対する「電話パトロール」の実施(島根県警察)、署員手製のつえの配布(群馬県警察)など、いろいろな方法で老人に対する奉仕の手を差し伸べている。
(3) 手を焼く酔っぱらい
昭和48年中に、でい酔あるいはめいてい状態で、自己又は他人の生命身体に危害を及ぼすおそれがあったり、粗野乱暴な言動で公衆に迷惑をかけるなどの理由で警察に保護された者は、表3-16のとおり14万6,988人であった。このような酔っぱらいの保護事案は大都市に多く、表3-17のとおり、その70%は東京をはじめ8大都道府県に集中している。
昭和48年中に警視庁が保護した3万3,774人について、酔っぱらい保護の
表3-16 酔っぱらい保護数(昭和44~48年)
表3-17 昭和48年中の8大都道府県の酔っぱらい保護数
実態を調査した結果についてみると、酔っぱらい保護の端緒は、市民からの通報によるものが最も多く総数の66.6%を占め、次いで警察官の発見によるもの32.9%、本人の保護願出によるものが0.5%となっている。
また、発見の場所は、図3-10のとおり、道路、公園が圧倒的に多い。
図3-10 酔っぱらいの発見場所(昭和48年)
次にこれらの者が保護された時間帯をみると、図3-11のとおり、夕方から深夜にかけて保護される者が約72%と多い反面、約9,000人もの酔っぱらいが、早朝や昼間に保護されている。
保護された酔っぱらいの大部分は、警察署の保護室か都内3箇所の「酔っぱらいセンター」に収容されているが、酔いがさめて保護が解除されるまでの保護継続時間は、6時間未満79.8%、6時間以上12時間未満19.1%、12時間以上24時間未満1.1%となっている。
また、保護が解除された後の措置は図3-12のとおり、単身で帰宅する者が多い。
これらの酔っぱらいの保護は、危険や不快感の伴う大変苦労する業務の一つである。でい酔者には、通常、失禁、おう吐などによる身体汚染が随伴するケースが多く、保護に伴ってその衣類の洗濯、乾燥から保温のための湯タンポの手当までが必要な場合も少なくない。また、頭部裂傷、出血多量の状
図3-11 酔っぱらいの発見時間(昭和48年)
図3-12 保護解除後の状況(昭和48年)
態にありながら、精神錯乱状態で、暴れる酔っぱらいをなだめすかして、病院まで保護同行した事例、電車到着間際のホームから線路に飛び降りたでい酔者を居合せた警察官が、ホームに連れ戻し危難を免れた事例など、酔っぱらい保護には、屈強の若い警察官でもてこずる例が多い。
なお、このように保護の対象となる酔っぱらいのほかに、昭和48年中に、公衆に迷惑をかけるなど著しい粗野又は乱暴な言動により「めいてい者規制法」違反で検挙され、送致された者が1,412人あった。
(1) お巡りさんの地理案内
ア 入れ替わり立ち替わりの派出所
昭和48年中の地理案内について、警視庁と大阪府警察における1日平均の
表3-18 地理案内件数の多い派出所(東京・大阪)対比(昭和48年)
地理案内件数の多い派出所3箇所ずつをみると、表3-18のとおりである。
渋谷駅前派出所は、地理案内件数の多いことでは日本一で、入れ替わり立ち替わり、道を尋ねる人が訪れている。
警視庁の3箇所の場合は、おおむね、昼間が3分の2,夜間が3分の1の割合であるが、大阪府警察の3箇所の場合は必ずしも一様でなく、道頓堀派出所では昼夜半々、大阪駅警備派出所では夜間に約55%もある。
このほか、全国主要都市の駅前派出所等では、1日平均100件を超えるところも多く、一般に地理案内の集中する昼間の時間帯には、少なくとも1人が地理案内に専従しなければならない実情にある。
イ 深夜の地理案内も多い駐在所
駐在所における地理案内は、その立地条件によって多少の差異はあるが、1年を通して地理案内の多いところ、観光地のように観光シーズンの一定の時間帯に同一場所の地理案内の多いところ、あるいは主要道路の沿線のため昼夜にかかわらず交通路の案内の多いところなどでは、駐在所の勤務員やその家族に相当の負担がかかっている。全国的にみて、1日平均の地理案内件数の多い駐在所を拾うと、表3-19のとおりである。
駐在所の多くは主要道路沿線に設置されているので、深夜に起こされて地理案内を求められることも多く、前掲のほか、夜間の地理案内が1日平均20件近くに及ぶものとしては、調布警察署宮の上駐在所(東京都)、八王子警察署諏訪駐在所(東京都)、浜松中央警察署富塚駐在所(静岡県)、福光警察署大鋸屋(おがや)駐在所(富山県)、八尾警察署北高安駐在所(大阪府)等がある。
このような実情に対処するため、地理案内の多い駐在所等では、従来から案内図等を掲示しているが、特に、夜間の地理案内が多い主要道路沿線の駐在所の前に照明付き案内図を設置するよう努力している。
例えば、宮城県警察では、昭和48年末に、国道4号線、6号線、45号線等の沿線にある駐在所8箇所に地理案内図を設置したところ、設置前の1箇月に8箇所の合計で965件(昼間702件、夜間263件)あった地理案内が、設置後の1箇月に500件(昼間409件、夜間91件)となり、465件(48.2%)も大
表3-19 地理案内件数の多い駐在所(昭和48年)
幅に減少した。
これらの案内図は、設置場所、大きさ、高さ、案内内容等、自動車運転者が車内から見やすいように工夫してあり、ドライバーへのサービスと職員の勤務負担の軽減に大きな成果を収めている。
(2) 遺失物、拾得物
昭和48年中の遺失届は151万9,093件、拾得届は272万6,030件であり、それらの届出状況は、図3-13のとおりである。
拾得届出件数は遺失届出件数の倍近い数字を示している。通貨と通貨以外の物品に分けてみると、物品については、総件数と同様に、拾得届出件数が
図3-13 遺失届・拾得届取扱状況(昭和46~48年)
遺失届出件数の倍以上になっているが、通貨については逆になっていて、拾得届出金額は遺失届出金額の半分もない。つまり、落とした現金は出にくいこと、また、雨具や腕時計など持ち主が見れば識別できるような物品については、逆に遺失者が回復をあきらめたり、遺失場所等を錯覚して警察への届出をしていない場合が多いことを示している。
最近3年間の拾得物の措置状況は、表3-20のとおりである。
拾得物は、遺失者が判明すれば返還されることとなり、拾得者に対し、5分ないし2割の報労金が遺失者から交付される。拾得届出から6箇月と14日を経過しても遺失者が判明しなければ拾得者の所有権が認められることになるが、その後2箇月以内に拾得者が引き取らないと、拾得者の権利は消滅して、所有権は都道府県に帰属する。
表3-20 拾得物措置状況(昭46~48年)
(3) 困りごと相談
警察に持ち込まれる相談ごとは、最近、その内容が広範かつ複雑になるとともに量的にも増え、昭和48年中には約27万件で、前年より約20%増加している。
これらの相談ごとのうち、交通相談を除いた困りごと相談は、昭和48年中には、約12万5,000件であった。(交通相談については第7章参照)
その主な内容は、図3-14のとおり、離婚、相続等の身上の相談ごとや金銭貸借等の債務不履行の相談ごとが多い。
最近の特徴としては、市民のマイホームへの欲求が強まっている実情を背景に、不動産取引にまつわる“いざこざ”が多くなっていることが挙げられるが、これらの事案には深刻なものが多く、問題解決をめぐって警察に寄せられる期待も切実なものとなっている。
これらの困りごと相談の処理結果は、表3-21のとおりで、解決と助言を合わせると11万3,419件で、総数の91%に及んでいる。
図3-14 困りごと相談の内容(昭和48年)
表3-21 困りごと相談処理状況(昭和48年)
(1) 巡回連絡
巡回連絡は、派出所や駐在所に勤務する外勤警察官が、受持区域内の各家庭や事業所等を訪問して、地域住民が犯罪や事故の被害にかからないよう必要な連絡指導を行うとともに、警察に対する要望や意見を求めるなど、警察と住民との連絡の能動的な窓口の機能を果たす活動である。
巡回連絡では、管内実態を的確には握するために、訪問先の住民にその趣旨目的をよく説明したうえで、カード式の用紙に必要な事項の記入を求め、これを回収して案内簿等を作成している。これによって、地理案内を求められた場合に住居への道順や電話番号を案内できるほか、不慮の事故が発生した場合の緊急連絡や盗難被害が発生した場合の被害品の特定・手配などを迅速的確に行うことができる。
巡回連絡が防犯活動に果たしている役割は極めて大きい。警察官は訪問先付近一帯の犯罪や事故の発生状況に応じて必要な連絡指導や防犯診断を行っており、その際、巡回連絡用写真帳を活用したり、派出所、駐在所だより等のチラシやパンフレットなど警察の広報資料を作成配付している。
巡回連絡の際には、受持警察官の自己紹介を兼ねた連絡用名刺を差し出して警察への連絡に役立つよう、見やすい所にはることを依頼している。
(2) 一所管区一事案解決運動
一所管区一事案解決運動は、派出所や駐在所の所管区(注)単位に、管内住民から警察に寄せられる要望や困りごとを、一つずつ、実現させ、解決していこうとして、現在、外勤警察が特に力を入れて推進している運動である。都道府県によって、運動の名称や内容に多少の差異があるが、全国的に相当の成果を収めている。
(注) 所管区とは、警察署の管轄地域を細分化して派出所・駐在所に分担させた区域で、各派出所・駐在所の勤務員は、それぞれの派出所・駐在所の所管区における警戒・警らや実態は握の第一次責任を負っている。
この運動で取り上げている事案としては、派出所の設置、パトロールの強化、交通規制等警察活動の分野に属する事項はもとより、防犯燈やカーブミラーの設置、子供の安全な遊び場の確保、一人暮らしの老人の世話のように関係行政機関の活動を促して実現を図るべき事項等がある。
昭和48年中に全国で解決した事案は、5万4,995件あり、その内容は図3-15のとおりである。
図3-15 内容別事案解決状況(昭和48年)
(3) 意見、要望等のは握
ア 懇談会等の開催
警察本部では、管内の住民代表の参集を求めて、各種の懇談会を開催し、警察活動についての意見や要望を聞き、警察幹部が直接これに回答するなどして、住民の警察に対する理解と協力を得るよう努力している。
また、警察署でも、管内の住民との座談会を開催したり、地域の自治会の会合等に積極的に出席して、住民の意見や要望のは握に努めるとともに、警察に対する理解と協力を求めている。
昭和48年中に警察本部が開催した懇談会等で、住民から寄せられた要望とそれに対する警察措置のうち、主なものは次のとおりである。
○ 徳島県「民警懇談会」(2月7日)
要望 石井警察署管内で庭石の不法採取が跡を絶たず、水害や山崩れが心配なので強力に取締まってほしい。
措置 所轄署で入手していた情報をもとに捜査を進め、4月と5月に集中取締りを実施して、暴力団員等による大がかりな不法採石グループを検挙した。
○ 長野県「県民の声を聞く会」(7月12日)
要望 岡谷警察署管内の塩嶺峠は国道20号線の難所で、カーブが多いうえ
に霧が発生しやすいので、夜間でもよく見える標識がほしい。
措置 直ちに現地調査を行い、建設省の出先機関に働きかけた結果、特別な道路標識が整備され、事故防止に効果をあげている。
○ 神奈川県「市民と警察の話す会」(8月24日)
要望 厚木警察署管内の本厚木駅周辺には、通勤者の自転車等が終日放置してあって、住民が迷惑しているから、何とかしてもらいたい。
措置 早速実情を調査し、駅周辺の市有地を自転車置場に確保させるなどの措置をとり、通勤者と住民から感謝された。
イ モニターの委嘱
警察本部や警察署では、事件や事故の防止等について、広く管内住民の協力を求めて、各種のモニター制度を設けており、これらのモニターからの意見や要望を警察活動に反映させている。
モニターの人員が多いものとしては、交通安全モニターと暴力追放モニターがあり、ほかに防犯モニター等がある。
例えば、神奈川県警察では、交通モニター317人を委嘱し、日常、道路交通状況の観察を依頼したところ、昭和48年中に、6,641件の通報があった。また、北海道警察旭川方面本部では、暴力追放モニター278人を委嘱し、昭和48年中に67件の通報を受けて内偵捜査を続け、16件について検挙した。
(4) ミニ広報紙
警察署や派出所、駐在所では、広報紙(誌)を発行して、警察活動の紹介等を行っている。
昭和48年末現在で、警察署1,209署のうち879署(72.7%)、派出所5,858箇所のうち1,596箇所(27.2%)、駐在所1万239箇所のうち3,468箇所(34.0%)が広報紙(誌)を発行している。
このうち派出所、駐在所で発行しているミニ広報紙は、地域住民の生活に密着している事件、事故のニュースを素材にしており、住民の関心も高く、効果をあげている。
警察庁では、ミニ広報紙の内容の向上を図るため、毎年1回、全国コンク
ールを開催するほか、各都道府県警察でも、その充実、拡充に努めている。
(5) 警察音楽隊
警察音楽隊は、“住民に親しまれ、愛される警察”をめざす警察の有力な広報媒体であり、昭和48年末現在、44都道府県に設置されていて、隊員は1,300人を超えている。
警察音楽隊員の多くは、他に本務を有する兼務隊員であり、隊員は厳しい勤務環境の中にあって技術の練磨に努め、音楽を通じて、警察に対する地域
住民の理解と協力の確保に大きな貢献をしている。
警察音楽隊は、防犯や交通安全運動の一環としての諸行事の際ばかりでなく、市町村等が主催する各種行事、小中高校等での音楽教室、福祉施設やへき地等の慰問等にも幅広く活躍しており、昭和48年中の演奏回数は全国で約4,500回、聴衆の数は約1,050万人を数えた。
これらの音楽隊の中で技量の優秀な隊を集め、毎年1回、全国警察音楽隊演奏会を開催しているが、開催地は全国の主要都市が順次引き継いでいるため、開催地周辺の住民や一般の愛好者の好感を呼んでいる。昭和48年には、第18回大会が福岡市で開催され、多数の市民の耳と目を大いに楽しませた。